空隙の町の物語   作:越季

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2-4「対峙:蒼穹」

「よーし、それじゃあ班分けのくじ引きだ! 同じ色のやつが同じ班な。一振り一本ずつ、引き直しはするなよ!」

 

 厚は紐がたくさん飛び出している箱を手に、そう叫んだ。箱の周りに、続々と男士たちが集まってくる。

 

「ボク、いち兄と同じ班がいいなぁ、やっぱり怖いもん。いち兄、一緒の班になったら手をつなごうね!」

「乱、これぐらいで怖がるタマじゃないだろ。いち兄の前だからって、猫かぶってんのか?」

「今更かわい子ぶったって本性はバレバレなのにねー」

「薬研、信濃、どうしても手入部屋に行きたいんだね。ボクが直々に送ってあげるよ、表に出な!」

「ちょ、勘弁! 乱、短刀では前田の次に練度高いじゃん!」

「おーおー、血が滾るなぁ。いいぜ、先攻は譲ってやる」

「薬研も煽らないで!」

「兄さんたち、見苦しいですよ。ただでさえ夜中だから響くのに、城下町中に響き渡ってると思っちゃうじゃないですか」

「いち兄、暗いですが、辺りは見えていますか? 短刀が一緒になったら、先導していただくのもいい案だと思いますよ」

「うぅ……暗い……あっ、虎くんたち待って!」

「いやー、久々の夜戦だ! 今のうちに準備をしっかりとしておかないと」

「兄弟、その大量の懐中電灯は何のために……」

「うーむ、太刀以上よりは有利とはいえ、夜戦は打刀、脇差は短刀より不利でありますからなぁ。鯰尾殿の慧眼に、このお供のキツネ、感服のしきりでございます!」

 

 人数が多いため後の方に回された粟田口派は、ワイワイと喋りながら順番を待っている。一期は兄弟や親戚のやり取りに顔をほころばせた(さすがに乱たちの喧嘩は止めたが)。

 

「よーし、最後はオレたちだ! 皆、どんな結果になっても不平は言いっこなしだぜ」

 

 そうしているうちに、粟田口派の順番が回ってきた。一期も、箱からくじを引く。先端の色は、紫色だった。

 

「あー残念、いち兄とは別れちゃった」

「乱は、白か」

「俺っちは青だ。決着が今すぐつけられないのは残念だが――」

「薬研?」

 

 睨みを利かせた長兄に、薬研は慌てて口をふさぐ。その一方で、厚が箱を眺めて首をかしげた。

 

「あれ、まだ引いてない奴いるか? 一本くじ余ってるんだけど」

「え、ボクらはひいたよ?」

「俺も」

「私もですね」

 

 次々にくじを掲げ、または引いたと宣告する声が相次いだ。厚は「作りすぎたのかな」と自らを納得させ、箱を脇に置いた。

 

「よし、じゃあ同じ色の奴は集まってくれ。班ごとに捜索する場所を決めるぞ!」

 

 厚の声に、男士たちは同じ色同士のくじを持つ刀を探し始めた。一期もそれに倣う。

 

 ――隅に置き去りにされた箱に、()()()()が伸びる。その手の持ち主は、くじの紫色を確認した後、一期のいる班に向かった。

 

 

「……何も大人数で行く必要はなかったんじゃないか? 兄弟のノリに合わせて、ついてきてしまったが」

「私もそう思います……」

 

 紫色の班は、城下町の南西に向かっている。一期は、歩きながら山姥切と雑談をしていた。

 

「なんかもう、ノリが肝試しのそれになっているような気が……」

「ああ、厚たち以外の方はそうかもしれませんね。なんせ、城下町に降りるのは普通ならそう頻繁にないと言いますから」

「そうなんだよな。もう遊園地のお化け屋敷に訪れた観光客のような感じになっている。……普段は本丸が建てられている山にある万屋で事足りるからな……」

 

 そうしたら、氷雨の鶴丸をはじめとした会のメンバーは変わり者ぞろいなのだろうか。一期はそんなことを考えた。

 先行して路地裏を覗いていた燭台切光忠が、こちらに戻ってきた。

 

「こっちもだめだ、何の気配もない。……厚くんの言葉を疑うわけじゃないけど、本当に幽霊ってまだいるの? 実はもう退治されました、みたいな可能性はないのかな」

「ああ、専門家を呼んで、さくっと消滅させました、という可能性も否めないな」

「そうしたら我々は時間まで何をしたらいいんでしょう……」

 

 集合時間は午前二時半。現在の時刻は二時である。あと三十分、どう暇をつぶそうか。途方に暮れる一期と山姥切に、燭台切は手を叩いて提案した。

 

「あ、じゃあ世間話でもしようか。昔外国で、それは恐ろしい政策が打ち立てられたことがあったみたいなんだ」

「いきなりですね。……それはどんな?」

「なんでも、その国は人口を増やすために人工中絶と離婚の禁止を国民に強いたらしい。人口は増えたけど、育児放棄も増えて、孤児院に引き取られる子供も増えた。孤児院の職員は子供を死なせた場合、給与が減らされるから、無理な病気治療の一つとして、大人の血を子供に与えた。結果、血から感染する病気にかかる子供が激増した」

「……燭台切、あんたなんでそんな恐ろしいことを知っているんだ」

「まさか、そういう残虐趣味がおありで……?」

 

 引いた目で見つめる二振りに、燭台切は慌てて否定する。

 

「いや、違うよ! たまたま書庫から飛び出していた本が、外国の歴史に関する本だったんだ。整理しようと手に取ったら、思いのほか面白くて……全部を理解することはできなかったけれど、どれも興味深いものばかりだったよ」

「……まあ、この国にも正気を疑う出来事があるけどな」

「あんまり外つ国のことを言えませんよねえ……」

 

 外国の歴史の話で盛り上がる三振り。それを見向きもせずに、その()()()は別の方向を見ていた。視線の先にあったものに、少し驚きを隠せないでいる。しかし、『それ』の存在を伝えることはしなかった。――絶対に、自分の言葉に耳を傾けることはないと、分かっていたから。

 

 彼らが『それ』に気づいたのは、少し後になってからのことだった。

 

 談笑途中の三振りはぞわり、と背筋を凍らせる。まるで、背中に冷たい氷をいきなり入れられたような感覚。さっとあたりを見回すと、十メートルほど先に『それ』はいた。

 暗闇の中なのに、それすらを明るいと思わせるほどの漆黒のヒトガタ。その手には刀を持っていが、影に覆われていて太刀だということしか分からない。ゆらゆらと、その姿を揺らめかせながら『それ』はゆっくりと近づいてくる。

 一期は思わず、抜刀態勢に入っていた。山姥切と燭台切も、すぐ抜刀できる状態になっている。

 

「山姥切殿、燭台切殿、これは――」

「うん。……僕たち、アタリを引いちゃったみたいだね」

「くそ、なんだこの気配は!? やっぱり来なけりゃよかった……!」

「応援は!?」

「もう呼んだ! でも、やっぱり少し時間かかるって!」

「……それまで我々だけで持ちこたえるしかないですね……!」

 

 三振りが、同時に抜刀する。そして黒い影が、その腕を振りかぶった。

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