ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】   作:ぬくぬく布団

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布団「お待ちどぅ!」
深月「今回は早いですね?どうかされたのですか?」
布団「ちょっと忙しくなるかもだから早めの投稿だよ!」
深月「不定期投稿ですね」
布団「不定期じゃ無いよ!?一週間に一話位のペースだよ!?」
深月「なら、私とお嬢様のイチャイチャアンケートを早くして下さい」
布団「まだ駄目だぁ!」
深月「ならば作者さんのキーボードを占拠します!」
布団「布団から占拠だと?笑わせる!PCを布団の隣に置けば不可能だああああ!」
深月「・・・まぁ、冗談はこの辺りに致しましょう」
布団「(・ω・)セヤナ」
深月「度々寄せられる誤字報告にとても感謝しています。有り難う御座います」
布団「誤字脱字の多い作者さんなんです(。・ω・。)ユルシテ」
深月「この様な茶番もお仕舞いにして次へ行きましょう。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」


メイドの料理は全てが美味しい訳では無い

~ハジメside~

 

俺は変わったな。深月の手で帝国兵全てが蹂躙された時に何も感じなかった。ただ、目の前で人が死んでいる光景はその程度としか感じられなかった。オルクスでの出来事は、俺にとてつもない変化をもたらしたのだと改めて実感させられた

 

「ハジメ。気が付いた?」

 

「あぁ、皐月もそうだろう?」

 

「えぇ。・・・価値観がもの凄く変化したと言えば良いのかしら。多分だと思うけど、人を殺しても何も感じないと思うわ」

 

「だな」

 

オルクス迷宮で変ったと自覚があったが、ここまでの変化しているとは思ってもいなかった二人。深月による殺戮を目の前にしても、「人が死んだ」唯それだけしか感じなかったのだ。変る以前のハジメ達であれば確実に吐いていただろう

 

「まぁ、この世界は弱肉強食だ。弱い奴は死ぬ―――――それだけだ」

 

「そうね。少なくとも、こっちの世界ではそれが常識。人を殺したとしても後悔なんてしないわよ」

 

「弱かった事を恨め―――――ってな」

 

「でも、無関係の人を巻き込みたくないわ」

 

俺達はオルクス迷宮で価値観がガラリと一変したが、それはあくまでも殺意を向けてきた相手に対してだ。全くの無関係な奴らまで殺すのは狂人の類・・・獣と同じだ

因みに、人殺しを躊躇わないかどうかの確認と人間相手にドンナーで撃つと周囲被害がどうなるのかを確認したかったのが一番の本音だけどな。まぁ、人殺しを直に見ても何も感じなかったから躊躇いなく撃てるがな

 

心配そうにハジメと皐月を見るユエの視線に気付く

 

「・・・二人共・・・大丈夫?」

 

「大丈夫よ。以前と価値観が変った事に驚いただけよ」

 

「人殺しとは無縁の世界で生きてたからな。帝国兵の殺戮を見ても何も感じなかったから自分が殺してもどうも思わねえよ」

 

「・・・そう」

 

少しだけ沈黙して重い空気となるが、残念な人物は何時だって居る

 

「あの、あの!ハジメさん達の事、教えてくれませんか?」

 

「俺達の事は説明しただろう?」

 

「いえ、能力とかそういうことではなくて、何故、奈落?という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、お二人自身の事が知りたいです」

 

「一応聞いておくが、どうするつもりだ?」

 

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。・・・私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で・・・もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが・・・それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして・・・だから、私―――――」

 

「あぁ、同族みたいで嬉しいって事ね。浮いた存在で、周りに迷惑を掛けた~、という事でしょう?」

 

「うぅ・・・そうです。皐月さんの言う通りですぅ」

 

「別に話しても良いぞ。特段隠す事でも無いからな」

 

ハジメ達が召喚までに体験した経緯とユエがどうして封印されていたのか、全てを語り始めた結果――――――

 

「うぇ、ぐすっ・・・ひどい、ひどすぎまずぅ~、ハジメさんも皐月さんもユエさんもがわいぞうでぶぎゃぁ!?あ、はい・・・深月さんも含みますです。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて・・・うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

深月は強いので可哀想では無いと判断したシアだが、深月が後ろを振り向かずに投擲した小石を顔面に直撃して付け加える事で追撃は来なかった。だが、滂沱の涙を流して濡れた顔をハジメの外套で拭うのは如何な物かと。・・・しばらくメソメソしていたシアだが、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言

 

「ハジメさん!皐月さん!深月さん!ユエさん!私、決めました!四人の旅に同行していきます!これからは、このシア・ハウリアが陰に日向に皆様を助けて差し上げます!遠慮なんて必要ありませんよ。私達は五人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

「「えっ・・・要らない」」

 

「・・・邪魔」

 

「残念な結果ですね」

 

「酷すぎますぅ!」

 

「現在進行形で守られている脆弱ウサギが何言ってんだ?完全に足手纏いだろうが」

 

「・・・さり気なく『仲間みたい』から『仲間』に格上げしている・・・厚皮ウサギ」

 

「な、何て冷たい目で見るんですか・・・心にヒビが入りそう・・・というかいい加減、ちゃんと名前を呼んで下さいよぉ」

 

「旅の仲間が欲しいだけでしょ。寂しがり屋の兎じゃあるまいし・・・」

 

「そもそも、俺達の目的は七大迷宮の攻略なんだ。恐らく、奈落と同じで本当の迷宮の奥は化物揃いだ。お前じゃ瞬殺されて終わりだよ。だから、同行を許すつもりは毛頭ない」

 

無情な宣告を告げてしばらくすると、一行はハルツィナ樹海と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい

 

「それでは、ハジメ殿、皐月殿、深月殿、ユエ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。皆様を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

 

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

ハジメ達はこのハルツィナ樹海そのものが迷宮ではないか?と考えていたのだが、冷静になって考えれば違う事に気が付いた。もしそうであるならば、奈落の底の魔物と同レベルの魔物が彷徨いている魔境ということになり、とても亜人達が住める場所ではなくなってしまうからだ。そしてオルクス迷宮と同様に、真の入り口が有るのではないか?もしそうであるなら、カムから聞いた"大樹"が怪しいと踏んだ

カムは、ハジメの言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をしてハジメ達の周りを固めた

 

「ハジメ殿、出来る限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

 

「ああ、承知している。俺達もある程度なら、隠密行動はできるから大丈夫だ」

 

「深月みたいに気配を隠す事は出来無いけどね?」

 

「・・・ん。・・・深月は暗殺者」

 

「もう何もツッコミませんよ」

 

ハジメと皐月は気配遮断スキルを、ユエは奈落で培った方法で気配を薄く、深月は何時も通り溶け込ませた

 

「ッ!?これは、また・・・ハジメ殿、皐月殿、出来ればユエ殿くらいにしてもらえますかな?そして深月殿は何処に?」

 

「ん?・・・こんなもんか?」

 

「完全では無くって事ね」

 

「いつもの癖で溶け込ませてしまい申し訳御座いません」

 

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

 

身体スペックが低い代わりに聴力等の索敵関連に秀でているが、ハジメや皐月のレベルは達人級。深月に関しては、影が薄いクラスメイトの遠藤よりも上である。カムは、人間族でありながら自分達の唯一の強みを凌駕され、もはや苦笑い。隣では、何故かユエが自慢げに胸を張っている。シアは、どこか複雑そうだった。ハジメの言う実力差を改めて示されたせいだろう

 

「それでは、行きましょうか」

 

カムの号令と共に準備を整えた一行は、カムとシアを先頭に樹海へと踏み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

ふむ、森に入って直ぐに濃い霧が発生し視界を塞ぎましたね。カムさんの足取りを見るに、迷いは全くありませんか。・・・これは亜人族限定の何か・・・渡り鳥の様な方位磁針を搭載しているといった所ですね。これは視界を頼りにせず、音の反響から場所を特定した方が早そうです。おや、魔物ですか・・・今回はハジメさんが動かれますか。ならば私は緊急時以外は特に動かない様に致しましょう

 

順調に進んでいたが、カム達が立ち止まり周囲を警戒し始めた。深月は三人の様子を観察していると気が付いていおり、ハジメが左手を素早く水平に振る。微かに、パシュという射出音が連続で響き―――――

 

「「「キィイイイ!?」」」

 

三つの何かが倒れる音と、悲鳴が聞こえた。そして、慌てたように霧をかき分けて、腕を四本生やした体長六十センチ程の猿が三匹踊り掛かるも

 

「"風刃"」

 

魔法名と共に風の刃が高速で飛び出し、空中にある猿を何の抵抗も許さずに上下に分断する。その猿は悲鳴も上げられずにドシャと音を立てて地に落ちた。残り二匹は別れて別々の獲物として襲うが、再びハジメが左腕を振う事で二体の魔物の頭部に十センチ程の針が無数に突き刺り絶命させた

因みに、これはハジメの義手に仕込まれたギミックの一つ―――――ニードルガンである。ドンナー・シュラークの威力には全く及ばず、射程が十メートル程しか無いものの、静音性に優れ、針の種類・・・状態異常系の切り替えも出来る超便利な暗器の一種である

 

「あ、ありがとうございます、ハジメさん」

 

「お兄ちゃん、ありがと!」

 

ハジメは気にするなと手をひらひらと振り、カムを促して先へと急がせる。その後もちょくちょく現れる魔物もハジメと皐月とユエの三人で静かに片付ける。その様子をしっかりと観察する深月

 

やはりこの辺り一帯の魔物は、オルクス迷宮の魔物よりも弱いですね。迷宮にも難易度があるのでしょうか?次の迷宮を攻略しなければ何も分かりませんね。・・・あちらから獣の匂いがしますね。しかも複数。亜人種の可能性が大。と、なれば此処は静観する他無いですね

 

深月が複数の気配を感じ取った少し後、今までにない無数の気配に囲まれてハジメ達は歩みを止める。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。ガサガサと草を掻き分けて出て来た者達

 

「お前達・・・何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。しかも周囲に数十人配置しており、殺気を滾らせながら包囲している

 

包囲されていますね。・・・お嬢様とハジメさんがどの様に行動するのかしっかりと見させて頂きます。そして、度が過ぎたならば注意するだけです。ですが、念には念を入れて行動に移りましょう

 

深月は誰にも気付かれない様に気配を溶け込ませて目の前に居る虎の亜人の後ろに立つ

 

「あ、あの私達は・・・」

 

「白い髪の兎人族だと?・・・貴様ら・・・報告のあったハウリア族か・・亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ!もはや弁明など聞く必要もない!全員この場で処刑する!総員かッ!?」

 

ドパンッ!!

 

攻撃の命令を出そうとした直後にハジメのドンナーが火を噴き、一条の閃光が虎の亜人の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばした。今まで体験した事の無い出来事に硬直し、気負った様子もないのに途轍もない圧力を伴ったハジメと皐月を前にして足が後退った

 

「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。それに、周囲を囲んでいるヤツらも全て把握している。お前等がいる場所は、既に俺達のキルゾーンだ」

 

「な、なっ・・・詠唱がっ・・・」

 

詠唱の声も無く攻撃された事実に驚愕を露わにする者達。不意に皐月は木の上へとドンナーの銃口を向けた。その先に居るのは隠れた亜人族、虎の亜人の腹心の部下がいる場所だった

 

「殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺が保障しているからな・・・ただの一人でも生き残れるなどと思うなよ」

 

(冗談だろ!こんな、こんなものが人間だというのか!まるっきり化物じゃないか!)

 

威圧感の他にハジメと皐月が殺意を放ち始める。あまりに濃厚なそれを真正面から叩きつけられている虎の亜人は冷や汗を大量に流しながら、ヘタをすれば恐慌に陥って意味もなく喚いてしまいそうな自分を必死に押さえ込む。だがここで、制止の声が掛かる

 

「お嬢様、ハジメさん。これ以上この方達に威圧と殺意を向けるのを止めて下さい。迂闊に話す事が出来無くなっている状態です」

 

虎の亜人の背後から聞こえた声に、この場に居た亜人族全員が驚愕した。背後から声が聞こえた等の本人はゆっくりと後ろに振り向き、深月の姿を視認して身体を震わせながら大量の冷や汗を流している

 

(・・・あり得ない。一体何時から其処に居た!隠密に特化した者であろうと匂いで分かる!だが、この人間はいきなり其処に現れた!何をどうすればそれ程までに極まる!?)

 

殺気を発していない深月だが、虎の亜人は本能で理解した。飛び掛かれば細切れにされて死ぬと錯覚させる程だ。深月が手をパンッと叩くとビクッと身体を震わせたが、何も起こらない。ただ目の前に立っており、頭を下げた

 

「驚かせて申し訳御座いません。私達は樹海の深部、大樹の下へ行く為にこのハウリア達に道案内を報酬に命を助けました。貴方方に迷惑を掛けるつもりは無かったのですが、改めて謝罪致します」

 

「あ、あぁ・・・そうか。しかし、大樹の下へ・・・だと?何の為に?」

 

今まで見てきた人間に比べると謙虚で、誠実な者だと認識した虎の亜人。てっきり亜人を奴隷にするため等という自分達を害する目的なのかと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない"大樹"が目的と言われ若干困惑する。"大樹"は、亜人達にしてみれば樹海の名所のような場所に過ぎないのだ

 

「私達四人―――――あちらに居る白髪の男性と女性の二人と、金髪の女性と最後に私。七大迷宮の攻略を目指して旅をしております。本当の大迷宮への入口は大樹だと想定して動いております」

 

「本当の迷宮?何を言っている?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進む事も帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

 

「それはおかしいわ」

 

「あぁ、この樹海にいる魔物達は酷く弱いからだ」

 

「弱い?」

 

「そうよ。大迷宮の魔物は、どいつもこいつも化物揃いだったの。少なくともオルクス大迷宮の奈落はそうだったのよ」

 

「大迷宮というのは、"解放者"達が残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ?それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだよ」

 

「・・・」

 

虎の亜人は深月の謝罪から冷静さを取り戻しており、ハジメと皐月の言っている事を冷静に聞いている。普段ならば戯れ言と言って切り捨てているが、今まで出会った人間よりも違う事から真面目に考えている。この場で追い返そうものなら、この人間達は自分達を排除する可能性が少なからず有る。目的を果たさせれば無意味に命を散らす事も無いだろうと理解

ささと目的を果たして立ち去って貰いたいが、自分の一存で野放しにするわけにも行かない。この問題は完全に手に余ると判断し、リーダーであろうハジメでは無く、一番異質である深月に提案した

 

「・・・お前達が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

その言葉に、動揺する気配に気付く深月。樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろうと直ぐに理解出来た

 

「周りが動揺しておりますが、本当に宜しいのですか?」

 

「一警備隊長の私如きが独断で下していい判断では無い。だが、本国に指示を仰ぐ。お前達の話も、長老方なら知っている方もがおられるかもしれない。お前達に、本当に含む所が無いというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 

深月はハジメと皐月をチラリと一目見て頷く

 

「さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?」

 

「無論だ。ザム!聞こえていたな!長老方に余さず伝えろ!」

 

「了解!」

 

ハジメと皐月はドンナーをホルスターに納めて待機する。深月は虎の亜人の背後から皐月の側に移動、戦闘態勢を解かれた状態を好機と判断した亜人が居たが、それは止められる

 

「奴らに攻撃はするな!こちらが何もしなければ向こうも何もしない!・・・もしも攻撃したら俺達は全滅すると思え!」

 

「俺達は向かってくる敵には一切容赦しないからよ~く理解しろよ?」

 

「・・・お前達が強いのは理解している。そして、一番異質な強さを持っているのはそこの白銀髪の女だろう。確実にお前達二人よりも強いと断言出来る」

 

「お褒め頂き有り難う御座います」

 

「褒めていない。恐怖しているだけだ」

 

「深月は私達三人が束になっても勝てないからね?」

 

皐月の強調された言葉に呆然とする亜人達。待っている時間は退屈で、皐月がハジメとイチャついてとても甘~い空気になっている。ユエが少しだけ不機嫌になるが、皐月に招かれて一緒にイチャつき始めた。シアも「私もかまってください~」と良いながら突撃するが深月の容赦無い捕縛技術によって拘束、正座させて足の上に何時準備したのか分からない石板を積み重ねられていた

 

「ハジメさんに甘えて良いのは、お嬢様とユエさんだけですよ。貴女は万年発情兎ですか?」

 

「ち、ちがいますぅ~!構って欲しいだけです!お二人だけずるいじゃ無いですか!・・・・・ちょっと待って下さい深月さん。その巨大な石板を乗せるつもりなんですか!?乗せたら足が死んじゃいます!た、助けて下さい皐月さん!」

 

「ギルティ―――――やっちゃいなさい深月。発情兎にはお灸が必要よ」

 

「では遠慮無く乗せましょう」

 

「や、止め―――――――にぎゃあああああああああ!!」

 

周囲の亜人達は呆れを半分含ませた生暖かな視線で見つめていると、何かが近づいている気配がした。場に緊張が漂うも、深月によって追加された石板によって悲鳴を上げるシアの声が全てを台無しにさせていると、霧の奥から数人の新しい亜人族――――森人族(エルフ)が居たのだ

 

(は、ハジメ!エルフ!エルフが居る!!生エルフ!!)

 

(落ち着け皐月。エルフを見て感動するのは良いが、今はそれどころじゃないだろ)

 

(・・・皐月・・・落ち着く)

 

(・・・はい。落ち着きました)

 

様子を見ていたハジメと深月は、彼が亜人達の中心に立っていた事から"長老"と呼ばれる存在であると推測した

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね?名は何という?」

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。あんたは?」

 

ハジメの言葉遣いに憤りを見せるも、それを片手で制止させて彼も名乗り返す

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが・・・その前に聞かせてもらいたい。"解放者"とは何処で知った?」

 

「うん?オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 

「ふむ、奈落の底か・・・聞いたことがないがな・・・証明出来るか?」

 

「証明か・・・俺自身の強さじゃ駄目だからなぁ」

 

咄嗟に何も思い付かないハジメだが、皐月が素材やオルクスが身に着けていた指輪をと提案。ハジメはポンと手を叩き、"宝物庫"から地上の魔物では有り得ない質を誇る魔石をいくつか取り出して指輪と一緒に渡す

 

「こ、これは・・・こんな純度の魔石、見た事がないぞ・・・」

 

アルフレリックは少々驚いていたが、隣に居た虎の亜人は驚愕の余り声が漏れ出ていた

 

「なるほど・・・確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが・・・よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

前例に無い結論に、虎の亜人を筆頭に異を唱えて猛反対する亜人族。先程言った通り前例が無いのだ。今までフェアベルゲンに人間族が招かれた事など無かったのだから

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

アルフレリックが厳しい表情で周囲の亜人達を宥めが、今度はハジメ達の方が抗議の声を上げた

 

「待て。何勝手に俺の予定を決めてるんだ? 俺は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」

 

「私達はさっさと迷宮を攻略したいのよ」

 

「いや、お前達。それは無理だ」

 

「なんだと?」

 

「え?」

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。・・・亜人族なら誰でも知っているはずだが・・・」

 

「何?」

 

「・・・なるほどねぇ~」

 

アルフレリックを初めとし、ハジメと皐月の二人がカムの方へと視線を向ける。そのカム本人はというと、「あっ」と声を漏らした。今まで気付かなかったのだろう・・・深月は空気を読んで準備を開始する

ハジメはというと、額に青筋を浮かべながらジト目で見る

 

「カム?」

 

「あっ、いや、その何といいますか・・・ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか・・・私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか・・・」

 

「忘れてたと言いたいのね?」

 

「ええい、シア、それにお前達も!なぜ、途中で教えてくれなかったのだ!お前達も周期のことは知っているだろ!」

 

「なっ、父様、逆ギレですかっ!私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って・・・つまり、父様が悪いですぅ!」

 

「そうですよ、僕たちも、あれ?おかしいな?とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって・・・」

 

「族長、何かやたら張り切ってたから・・・」

 

責任の擦り付けが始まった

 

「お、お前達!それでも家族か!これは、あれだ、そう!連帯責任だ!連帯責任!ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

 

「あっ、汚い!お父様汚いですよぉ!一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

 

「族長!私達まで巻き込まないで下さい!」

 

「バカモン!道中の、ハジメ殿の容赦のなさを見ていただろう!一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」

 

「あんた、それでも族長ですか!」

 

兎人族の情の深さは随一といわれているが、見ていられない・・・段々とハジメと皐月の苛立ちが増していく。そして、ハジメと皐月は一言呟く

 

「・・・ユエ」

 

「・・・深月」

 

「ん」

 

「土に埋める準備は出来ていますよ?」

 

ハジメの言葉に一歩前に出たユエがスっと右手を掲げ、皐月の錬成で掘られた穴の側に深月が居る。それに気がついたハウリア達の表情が引き攣る

 

「まっ、待ってください、深月さんユエさん!やるなら父様だけを!」

 

「はっはっは、何時までも皆一緒だ!」

 

「何が一緒だぁ!」

 

「深月殿、ユエ殿、族長だけにして下さい!」

 

「僕は悪くない、僕は悪くない、悪いのは族長なんだ!」

 

ギャアギャアと喚くハウリア達に薄く笑い、ユエは静かに呟く

 

「"嵐帝"」

 

『――――アッーーーー!!!』

 

天高く舞い上がるウサミミ達の声が、樹海に彼等の悲鳴が木霊する。同胞が攻撃を受けたはずなのに、アルフレリックを含む周囲の亜人達の表情に敵意は無かった。むしろ、呆れた表情で天を仰いでいる。彼等の表情が、何より雄弁にハウリア族の残念さを示していた

高ーく舞い上がり、皐月が掘った穴の中へと墜落。一人一人首だけが出る様に深月が支えて地面を埋める。全員の処理が完成した今、最大級のお仕置きが彼等を待っていた。深月が手に持っているのは、見るからにヤバそうな麻婆豆腐擬き。赤を通り越した真っ赤・・・マグマの様なそれは周囲に居た鼻の良い亜人達を全員ノックアウトさせていたのだ

 

「麻婆・・・うっ頭が・・・」

 

「食べるのは嫌だけど・・・この残念ウサギ達にはお似合いよ」

 

「・・・あれは毒物」

 

因みに三人はオルクスの拠点にて一口だけ食べた事があった。・・・いや、食べさせられたと言っても過言では無い。深月が美味しい美味しいと何事も無く食べていたので、興味を持った三人が一口食べてぶっ倒れてしまったのだった。毒耐性を貫いて襲い掛かる刺激だった為、深月が作る麻婆系は食べない事を決意したのであった

まぁ、そんな代物を手に持っているのだ。最早言うまでも無いだろう

 

「さぁ口を開けて下さい。大丈夫です。美味しいですよ?」

 

安心させる為に深月が一口食べて何事も無いと見せる。それに安心したカムは、先陣を切って深月が差し出すスプーンに乗せられた麻婆を一口―――――――――

 

「ッーーーーーーー!?」

 

「吐き出しては駄目ですよ?食材に感謝を込めて食べるのです。飲み込めないというのであれば手助けを致しましょう!」

 

カムの口を手で塞ぎ、顔を上に上げて鼻を塞いで強制的に飲み込ませた。そこからは、ガクガクガクと身体を震わせ「ゴアーーー!」や「グエエエーーーー!」等の奇声を発して、燃え尽きたかの様に沈黙する。少しの間の沈黙から回復して奇声を発して沈黙を繰り返す

 

「では、お次はシアさんですよ。口を開けて下さい。メイドのあ~んは希少価値がありますよ?」

 

「い、嫌です!死にたくない!死にたくなぶるえああーーーーーーー!!」

 

機械の様にせっせとハウリア達の口へ麻婆を放り込んで行く深月。全員に食べさせた後はお決まりの

 

「皆さんも食べますか?美味しいですよ?」

 

『要らんわっ!!』

 

「・・・そうですか。残念です・・・」

 

残っていた分は全て深月のお腹の中へと処理されました。こうして、ハウリア達の制裁は成されたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「あれ?メイドさんが食べている物体Xって・・・」
深月「有名処の飲食店料理を食べている時に出会った衝撃の一品です」
布団「・・・お店の名前は?」
深月「そこまでは覚えていないのですが――――」
布団(思い過ごしか)ホッ
深月「店内ポスターにて"泰山の麻婆神父直伝"と書かれていたのは印象に残っています」
布団「あっ・・・」
深月「神父が何故麻婆を伝えているのか理解出来ませんでしたが、食べてみれば別の景色が見えたのです!」
布団(違う景色でも地獄しか見えなさそうなんですけど・・・)
深月「辛いだけでは無いのです!もう一口、もう一口――――と欲求を沸かせるあの旨さを未だ再現出来ていないのです!!あ、作者さんも一口如何ですか?」
布団「ニゲルンダァ」
深月「逃がしませんよ!」
布団「フザケルナ!フザケルナ!バカヤロオオオオオオオ!  ヴェアアアアアアアアアアアアア!」
深月「どうですか?美味しいですよね?」
布団「  」チーン
深月「ゴホン。・・・感想、評価どうぞ宜しくお願い致します。投票の方は・・・・・よしっ!!」

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