ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】   作:ぬくぬく布団

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布団「投稿だよー」
深月「全く!意味深回を二つも投稿するなんて何を考えているんですか!」
布団「筆が進んでしまったんだっ!」
深月「お気に入り件数が1400を超えていますよ作者さん!」
布団「(゚Д゚)エッ・・・イツノマニ」
深月「これは記念回を書きましょうと私に言っている様な物ですよ!」
布団「えぇ・・・。ま、まぁ?1500に行けばだけどぉ?期待しないでね♪」
深月「へぇ・・・・・そう言えば、アンケートの結果を言っていませんよね?」
布団「原作通りになったのさ・・・」
深月「作者さんの本音はどちらですか?」
布団「ケモナーメイドだったよ!」
深月「ザマァ無いですね!私とお嬢様のイチャイチャ回を出さなかったツケが回ってきたと思って下さい!」
布団「あ、あれはっ!読者達のアンケート結果なんだよぉ!」
深月「これもですよね?」
布団「ウワァアアアアアアアアアアアアアン!」
深月「作者さんはまた放置しまして、読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」










メイドは観察するつもりです

~皐月side~

 

「さて、お前等には戦闘訓練を受けてもらおうと思う」

 

ハジメの言葉を理解出来無かったのか、ハウリア達はポカンとした表情を浮かべている

 

「え、えっと・・・ハジメさん。戦闘訓練というのは・・・」

 

「そのままの意味だ。どうせ、これから十日間は大樹へはたどり着けないんだろ?ならその間の時間を有効活用して、軟弱で脆弱で負け犬根性が染み付いたお前等を一端の戦闘技能者に育て上げようと思ってな」

 

「な、何故、そのような事を・・・」

 

うわぁ・・・この残念ウサギ達は全然理解していないわ。危機感を感じていないなんて本当に頭大丈夫かしら?

 

「何故?何故と聞いたか?残念ウサギ」

 

「あぅ、まだ名前で呼んでもらえない・・・」

 

「いいか、俺がお前達と交わした約束は、案内が終わるまで守るというものだ。じゃあ、案内が終わった後はどうするのか、それをお前等は考えているのか?」

 

ハジメの言葉にハウリア族達が互いに顔を見合わせ、ふるふると首を振っているわね。・・・不安から逃げる様に頭の隅へと追いやったのね。まぁ、温厚な種族って知ってたからこうなる事は予測済みね。・・・でも、現実逃避ばかりしていたら何も変らないし、変えられない。

 

「まぁ、考えていないだろうな。考えた所で答えなど無いしな。お前達は弱く、悪意や害意に対しては逃げるか隠れる事しか出来ない。そんなお前等は、遂にフェアベルゲンという隠れ家すら失った。つまり、俺の庇護を失った瞬間、再び窮地に陥るというわけだ」

 

『・・・』

 

ハジメのド正論の言葉に、ハウリア達は暗い表情で俯く

 

「お前等に逃げ場はない。隠れ家も庇護も無い。だが、魔物も人も容赦なく弱いお前達を狙って来る。このままではどちらにしろ全滅は必定だ・・・それでいいのか?弱さを理由に淘汰される事を許容するか?幸運にも拾った命を無駄に散らすか?どうなんだ?」

 

「そんなものいいわけがない」

 

「そうだ。いいわけがない。ならば、どうするか。答えは簡単だ。強くなれば良い。襲い来るあらゆる障碍を打ち破り、自らの手で生存の権利を獲得すれば良い」

 

「・・・ですが、私達は兎人族です。虎人族や熊人族の様な強靭な肉体も翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていません・・・とても、そのような・・・」

 

兎人族は弱いという常識が彼等を支配している。どうやっても勝てないと思い込んでいるのだ

 

「はぁ・・・見てられないわね。良い?私達だって最初からこんなに強かったわけじゃ無いのよ?」

 

「俺達二人はかつての仲間から"無能"と呼ばれていたぞ?」

 

「え?」

 

「"無能"って言ったのよ"無能"って。ステータスも技能も平凡極まりない一般人で私はハジメよりも弱かったわ。仲間内の最弱。戦闘では足でまとい以外の何者でもない。故に、かつての仲間達からは"無能""深月無しでは何も出来ない"と呼ばれていたのよ。実際、その通りだったし・・・」

 

皐月の告白にハウリア族は例外なく驚愕する。ライセン大峡谷の凶悪な魔物を苦もなく一蹴したハジメと皐月の二人が"無能"で"最弱"など誰が信じられるというのか

 

「因みに私も最初から強かったわけではありませんよ?子供の時から死に物狂いで獲得した強さですから」

 

「「深月はこの世界に来てからはチートだろ(でしょ)」」

 

「酷いですよお嬢様、ハジメさん!八歳の時に戦闘訓練、九歳からは未知の生物たちが蔓延る人工島に着の身着のままで放り出された結果なのですよ!?」

 

「「それで生きていた深月がおかしいんだよ(のよ)」」

 

「・・・深月は化け物」

 

「私はメイドです!」

 

「・・・ん"んっ!ま、まぁこの様に、最初は誰しもが弱いという事は変わりないわ。深月を除いて。追い込みに追い込んだ結果が私達―――――死に物狂いでやれば大抵の事は出来る筈よ」

 

「皐月の言う通りだ。奈落の底に落ちて俺達は強くなる為に行動した。出来るか出来ないか何て頭に無かった。出来なければ死ぬ、その瀬戸際で自分の全てを賭けて戦った。・・・気がつけばこの有様さ」

 

ハジメ達から淡々と語られる内容は壮絶、その内容にハウリア族達の全身を悪寒が走る。ハウリア達よりも低スペックな一般人ステータスで、ライセン大峡谷の魔物より遥かに強力な化物達を相手にして来たというのだ。追い込みに追い込んだ結果、最弱であろうとも、生き残る為に強者へと挑む精神の異様さにハウリア達は戦慄した。もしも、自分達なら―――――と想像すると、絶望して諦め諦観と共に死を受け入れただろう

 

「お前達の状況は、かつての俺達と似ている。約束の内にある今なら、絶望を打ち砕く手助けくらいはしよう。自分達には無理だと言うのなら、それでも構わない。その時は今度こそ全滅するだけだ。約束が果たされた後は助けるつもりは毛頭無いからな。残り僅かな生を負け犬同士で傷を舐め合って過ごせばいいさ」

 

自分達の視線の先には真っ暗闇の場所へと入り込む様な物だ。ハジメ達の様な特殊な状況にでも陥らない限り、心のあり方を変えるのは至難である。黙り込み顔を見合わせるハウリア族だが、そんな彼等を尻目に、先程からずっと決然とした表情を浮かべていたシアが立ち上がった

 

「やります。私に戦い方を教えてください!もう、弱いままは嫌です!」

 

一族を窮地に追い込んだのは紛れもなく自分が原因で、何も出来ずに唯朽ち果てるのはゴメンだ――――そんな運命は嫌だと、シアは兎人族としての本質に逆らってでも強くなりたかった。シアの覚悟は決まった。優しい心を持ったシアの様子を唖然として見ていたカム達ハウリア達は、また一人、また一人と、地面から立ち上がった。男だけで無く、女子供も含めた全てのハウリア達が立ち上がってカムが代表として一歩前へ進み出た

 

「ハジメ殿・・・宜しく頼みます」

 

言葉は少なく小さいが、言葉には確かに意志が宿っていた

 

「分かった。覚悟しろよ?あくまでお前等自身の意志で強くなるんだ。俺は唯の手伝い。途中で投げ出した奴を優しく諭してやるなんて事はしないからな。おまけに期間は僅か十日だ・・・死に物狂いになれ。待っているのは生か死の二択なんだから」

 

「どれ程の覚悟か見させて貰うわよ」

 

ハジメと皐月はハウリア達に錬成の練習用に作った装備を彼等に渡して、その武器を持たせた上で基本的な動きを教える。奈落の底で数多の魔物と戦い磨き上げた"合理的な動き"を叩き込みながら、実戦を積ませれば大丈夫だと思っていたのだ。奇襲と集団戦―――――ハウリア達の強みを活かした索敵能力と隠密能力ならばと

だが、現実はそう上手くはいかない。訓練開始から二日目。ハジメと皐月の額には青筋が幾つも浮き出ており、ヒクヒクと頬を痙攣させている。何故か?

魔物の一体に、ハジメ特製の小太刀が突き刺さり絶命させる。それまでは良いのだが・・・

 

「ああ、どうか罪深い私を許してくれぇ~」

 

「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!それでも私はやるしかないのぉ!」

 

瀕死の魔物が、最後の力で己を殺した相手に一矢報いる。体当たりによって吹き飛ばされたカムが、倒れながら自嘲気味に呟く

 

「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか・・・当然の結果だな・・・」

 

「族長!そんな事言わないで下さい!罪深いのは皆一緒です!」

 

「そうです!いつか裁かれるとき来るとしても、それは今じゃない!立って下さい!族長!」

 

「僕達は、もう戻れぬ道に踏み込んでしまったんだ。族長、行けるところまで一緒に逝きましょうよ」

 

「お、お前達・・・そうだな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。死んでしまった彼(小さなネズミっぽい魔物)の為にも、この死を乗り越えて私達は進もう!」

 

「「「「「「「「族長!」」」」」」」」

 

これにはもう、ハジメも皐月もイライラが爆発した

 

「だぁーーー!やかましいわ、ボケッ!魔物一体殺すたびに、一々大げさなんだよ!何なの?ホント何なんですか?その三文芝居!何でドラマチックな感じになってんの?黙って殺れよ!即殺しろよ!魔物に向かって"彼"とか言うな!キモイわ!」

 

「敵は即殺しなさいよ!何?何なの!?そんなに他者の命が大切なの!?自分の命と相手の命とどちらが大切か位分かりなさいよ!しかも相手は魔物でしょ!害獣でしょ!」

 

ハジメと皐月の怒りを多分に含んだ声にビクッと体を震わせながらも、「そうは言っても・・・」とか「だっていくら魔物でも可哀想で・・・」とかブツブツと呟くハウリア達。二人の額に青筋が更に増える。二人の様子を心配したのだろうか、ハイベリアに喰われそうになっていたところを間一髪皐月に助けられた男の子が近づく。しかし、進み出た少年はハジメに何か言おうとして、突如、その場を飛び退いた

 

「?どうした?」

 

「刃物でも落ちてたの?」

 

だが、心配は無意味だった

 

「あ、うん。このお花さんを踏みそうになって・・・良かった。気がつかなかったら、潰しちゃう所だったよ。こんなに綺麗なのに、踏んじゃったら可愛そうだもんね」

 

「お、お花さん?」

 

「  」(絶句

 

「うん!ハジメ兄ちゃん、皐月姉ちゃん!僕、お花さんが大好きなんだ!この辺は、綺麗なお花さんが多いから訓練中も潰さない様にするのが大変なんだ~」

 

ニコニコと微笑むウサミミ少年。周囲のハウリア族達も微笑ましそうに少年を見つめている中、ハジメがポツリと囁く様な声で質問をする

 

「・・・時々、お前等が妙なタイミングで跳ねたり移動したりするのは・・・その"お花さん"とやらが原因か?」

 

時偶、妙なタイミングで歩幅や立ち位置を変えたりとしていたハウリア達。二人は次の動作の為の行動だと思っていたのだ

 

「いえいえ、まさか。そんな事ありませんよ」

 

「はは、そうだよな?」

 

「ええ、花だけでなく、虫達にも気を遣いますな。突然出てきたときは焦りますよ。何とか踏まない様に避けますがね」

 

その言葉と同時に二人の表情が抜け落ちた。ハジメはゆら~りゆら~りと揺れ始めながらゆっくり少年のもとに歩み寄ってニッコリと笑う。少年もニッコリと笑みを返した。そしてハジメは、笑顔のまま眼前の花を踏み潰した。踏んだ後もグリグリと踏みにじる

 

「お、お花さぁーん!」

 

「は、ハジメど『ドパンッ!』ッ!?」

 

カムが仰け反る様に吹き飛び、少しの間だけ宙を舞った。そして、ポトリと落ちる非致死性のゴム弾――――皐月は、気絶して白目を向いて倒れるカムに近寄り、今度はその腹を目掛けてゴム弾を撃ち込む

 

ドパンッ!

 

「はうぅ!」

 

ウサミミおっさんが地面にへたり込んでいるシュールな光景を無視してハジメは宣言した

 

「貴様らは薄汚い"ピッー"共だ。この先、"ピッー"されたくなかったら死に物狂いで魔物を殺せ!今後、花だの虫だのに僅かでも気を逸らしてみろ!貴様ら全員"ピッー"してやる!分かったら、さっさと魔物を狩りに行け!この"ピッー"共が!」

 

ハジメに合わせる様に皐月は、ハウリア達に向けて発砲を開始。ハジメも懐からドンナーを取り出す

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

蜘蛛の子を散らす様に森へと逃げて行くハウリア達を追いかける皐月。足元で震える少年は、ハジメに必死で縋り付く

 

「ハジメ兄ちゃん!一体どうしたの!?何でこんな事するの!?」

 

ハジメは周囲に咲いている花に発砲して、全てを散らして行く

 

「何だよぉ~、何すんだよぉ~、止めろよぉハジメ兄ちゃん!」

 

「黙れ、クソガキ。いいか? お前が無駄口を叩く度に周囲の花を散らしていく。花に気を遣っても、花を愛でても散らしてく。何もしなくても散らしていく。嫌なら、一体でも多くの魔物を殺してこい!」

 

再び花を撃ち抜いてくハジメ。少年は「うわ~ん」と泣きながら樹海へと消えて行き、それ以降、樹海の中に"ピッー"なる単語と、笑いと、悲鳴が入り交じった声が鳴り響く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

お嬢様達の方からは色んな声が聞こえてきますね。ズガンッ!ドギャッ! 悲鳴と笑いや・・・"ピー"用語・・・ガキッバキッバキッ! ハー〇マン方式で心を一から鍛え直すつもりですか。ドグシャア! 因みに、私は今ユエさんとシアさんの戦いの様子を見ています

 

「でぇやぁああ!!」

 

「・・・"緋槍"」

 

砲弾に見立てた大木は燃やされてじり貧状態ですね。

 

「まだです!」

 

「ッ!"城炎"」

 

今までと同じ攻撃パターンに変化を入れて意表を突く。それに見事に引っ掛かったユエさん・・・後程二人纏めて相手取りましょうか

 

ユエは背後から深月の視線を浴びながら戦っているが、ちょっとした油断を見せれば背筋に悪寒が感じられる。とてもやりにくいし、緊張するのだ

丸太を蹴って粉砕した事で、散弾と化した攻撃を炎の壁で防がれシアの攻撃はユエには届かなかった。しかし

 

「もらいましたぁ!」

 

「ッ!」

 

気配を断って背後に移動したシアの手には、超重量級の大槌が握られており、豪風を伴って振り下ろされた

 

「"風壁"」

 

砕かれた大地の破片や風圧を風の壁で防ぎ、攻撃直後の隙を見逃さずに追撃を掛ける

 

「"凍柩"」

 

「ふぇ!ちょっ、まっ!」

 

シアが待ったを掛けるが、問答無用に発動された魔法は頭だけを残して全身氷付けにされたのだった

 

「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん」

 

「・・・私の勝ち」

 

「うぅ~、そんな~、って、それ!ユエさんの頬っぺ!キズです!キズ!私の攻撃当たってますよ!あはは~、やりましたぁ!私の勝ちですぅ!」

 

「・・・傷なんて無い」

 

「んなっ!?卑怯ですよ!確かに傷が・・・いや、今は無いですけどぉ!確かにあったでしょう!誤魔化すなんて酷いですよぉ!ていうか、いい加減魔法解いて下さいよぉ~。さっきから寒くて寒くな・・・あれっ、何か眠くなってきたような・・・」

 

「ユエさんの負けで、シアさんの勝利です」

 

全身氷付けのままで言われてもちっとも嬉しく無いのだが、深月の熱量操作であっという間に氷は溶かされて元通りとなった

 

「ユエさん。私、勝ちました」

 

「・・・・・ん」

 

「約束しましたよね?」

 

「・・・・・ん」

 

「もし、十日以内に一度でも勝てたら・・・ハジメさんとユエさんの旅に連れて行ってくれるって。そうですよね?」

 

「・・・・・ん」

 

「少なくとも、ハジメさんに頼むとき味方してくれるんですよね?」

 

「・・・・・・・今日のごはん何だっけ?」

 

「ちょっとぉ!何いきなり誤魔化してるんですかぁ!しかも、誤魔化し方が微妙ですよ!ユエさん、ハジメさんの血さえあればいいじゃないですか!何、ごはん気にしているんですか!ちゃんと味方して下さいよぉ!ユエさんが味方なら、七割方OK貰えるんですからぁ!」

 

シアはユエと約束していた。それは、シアがユエに何かしらの一撃を加えればハジメ達の旅に同行の説得をするという事

 

「・・・はぁ。わかった。約束は守る・・・」

 

「ホントですか!?やっぱり、や~めたぁとかなしですよぉ!ちゃんと援護して下さいよ!」

 

「・・・・・ん」

 

「何だか、その異様に長い間が気になりますが……ホント、お願いしますよ?」

 

「・・・しつこい」

 

渋々ではあるが、シアに勝ちを認めるユエ。シアは大層喜んでおり、ユエはハァとため息を吐いた所で肩に手が乗せられた。これから起こる事を全て察してのため息なのは言うまでも無い

 

「それでは、シアさんには訓練を含めユエさんとペアになって私と模擬戦をしましょう」

 

「え?」

 

「・・・シア。・・・本気でやる」

 

「えっ?えっ??」

 

「・・・早く。・・・二人で深月と戦う!」

 

「では、参ります」

 

「ひ、ひえぇえええええええーーーーー!こ、こうなったらやってやりすよおおーーー!」

 

無手での戦闘を開始する深月に対して、シアは大槌で迎撃してユエは魔法で狙撃。圧倒的な力を持っているシアは直撃は避けるだろうと想定していたのだろう。だが、思い出していただきたい。熊の亜人を吹き飛ばしたあのカウンターを

大槌を片手を突き出して受け止めようとする深月を見て、チャンスと思っていたのだろう

 

「ユエさん今ですぅうう!」

 

「・・・シア駄目!」

 

だが遅い。深月が大槌に触れた瞬間、深月の足下の地面が粉々に砕け散り、周囲に砕けた破片が飛び散る。ユエは防御では無く、シアの視界を確保する形での攻撃をする

 

「"緋槍"」

 

シアの目の前を通り過ぎる形で放たれ、視界を奪っていた土煙や破片は無くなった。深月は緋槍を数歩下がる形で避けており、シアから見れば絶好の距離に居るのだ。欲が冷静さを奪い去り一旦離れる事をせずに、攻撃へと移行してしまった

 

「うりゃあああーーーですーーーー!!」

 

「これでシアさんは脱落です」

 

大槌の側面を叩いて軌道をほんの少しだけずらし、目に指を突き入れる様に攻撃する。当然、シアは驚いて目を瞑りながら仰け反りながら避ける。動きがそれ以上取れなくなった隙を突いて顎先を掠める様に拳を当てて軽い脳震盪に陥らせる。僅かな思考の鈍りがトドメとなり、顎下を掴んで地面に叩きつけたのだ。先程の軽い物とは違って強烈な揺さぶりの緩急は、シアの意識を完全に断つには十分過ぎる一撃だった

 

「・・・・・見逃しては?」

 

「ユエさんも最低限の近接戦闘―――――護身を出来る様にしましょうね?」

 

ドンッ!と鳴り響く大地の割れる音と同時にユエの目の前に移動した深月。ユエは「ヒィッ!」と小さな悲鳴を上げた後、顎に僅かな衝撃を感じた瞬間に目の前が真っ暗になり意識を手放したのだった

 

「ふむ、一応私の姿を捉える事は出来たので収穫は有りですね。拠点での修行は何が起きたかすら分からない状態でしたが、確実に成長しておりますので少し安心です。二人を回収して、お嬢様達と合流致しましょう」

 

深月は倒れ伏したユエとシアを俵を担ぐ様に持ち上げ、悲鳴が聞こえる場所へと歩を進めるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

ユエとシアを担いだ深月がハジメ達の元へと到着した時、ハジメと皐月はイチャイチャしていた。三人の気配に気が付いた二人は、ユエとシアの現状を見つつ率直な感想を述べた

 

「何でユエとシアが気絶してるんだ?」

 

「ユエがシアと戦ったとしても気絶する様な事は無いと思ったのだけれど・・・」

 

「試合はシアさんが勝ちました。ユエさんがワンパターンの攻撃を作業の様に対処している際に少し・・・」

 

「あぁ、攻撃方法を変えてビックリした所に一撃入っちゃった感じね」

 

「その後、ユエさんとシアさんと私の二対一で戦いました」

 

うわぁ・・・って事は、ユエ達は深月の攻撃で意識を無くしたって事か

 

ハジメと皐月は心の中で二人に合掌を送り、ユエとシアの戦いについて詳しく話しを深月から聞く。深月の観察から、シアの魔法適性はハジメ達と変わりが無い。しかし、身体強化系に特化しているとの事で

 

「恐らく最大値でハジメさんの五割~六割辺りだと思って頂ければ分かりやすいかと。そして、鍛錬次第で伸びると思われます」

 

「マジか・・・」

 

「十分、化け物レベルって事ね」

 

すると、先程まで気を失っていた二人が徐々に目を覚まし始めた

 

「・・・め、メイドが襲って・・・ウッ頭が・・・」

 

「うぅん。此処は一体何処ですか?」

 

ユエの反応は仕方が無いとしか言い様が無い。オルクスでの戦闘訓練で、何度も襲われていればトラウマとなるだろう。シアは徐々に意識が回復し、大分ハッキリとした所で耳をピンッと伸ばして一世一代の頼み事をする

 

「ハジメさん皐月さん。私をあなたの旅に連れて行って下さい。お願いします!」

 

「断る」

 

「まさかの即答!?」

 

考える間も無く拒否されるとは思っていなかったのか、驚愕の面持ちで目を見開いた

 

「ひ、酷いですよ、ハジメさん。こんなに真剣に頼み込んでいるのに、それをあっさり・・・」

 

「いや、こんなにって言われても知らんがな。大体、カム達どうすんだよ? まさか、全員連れて行くって意味じゃないだろうな?」

 

「ち、違いますよ!今のは私だけの話です!父様達には修行が始まる前に話をしました。一族の迷惑になるからってだけじゃ認めないけど・・・その・・・」

 

「その?なんだ?」

 

「その・・・私自身が、付いて行きたいと本気で思っているなら構わないって・・・」

 

「はぁ?何で付いて来たいんだ?今なら一族の迷惑にもならないだろ?それだけの実力があれば大抵の敵はどうとでもなるだろうし」

 

「で、ですからぁ、それは、そのぉ・・・」

 

皐月は察し、ハジメの袖を引っ張りボソボソと答えを告げる。それの少し後で

 

「ハジメさんの傍に居たいからですぅ!しゅきなのでぇ!」

 

「・・・へぇ。・・・で?」

 

「ふぇ?」

 

「ふぇ?じゃねーよ!今までの流れで惚れるとかあり得ねーだろ!!」

 

実は皐月もユエも気付いていない。何処で惚れる場所があったのかは

 

「いえ・・・ハジメさん?あそこまで口説いておきながら気が付かないのですか?もしもそうであれば、とてつもない女誑しですよ」

 

「な・・・んだ・・・と・・・?」

 

「長老会議の時に言ってましたよね?」

 

皐月とユエはやり取りを思い出して、「あぁ・・・あの時か」と呟いた

 

「さ、皐月!俺はそんなフラグを建てた発言してないよな!?」

 

「・・・ごめん。これは擁護出来無いわ」

 

「・・・女誑し」

 

「俺はそんなフラグを言った覚えは無いぞ!?」

 

「いえ・・・『俺から、こいつらを奪おうってんなら・・・覚悟を決めろ』と言いましたよね?」

 

「あ、あぁ・・・そう言ったが?」

 

「それまでは、『俺達』と仰っていたのですが・・・シアさんを庇う様に言われたのがいけなかったと・・・・・」

 

ハジメは冷静に状況を考えて思い出して行く。そして、自分が逆の立場・・・はあり得ないとしても、似たような状況化でその発言をしたならば・・・

 

「俺って無自覚の女誑しだったのか・・・」

 

自身が何をやったのかようやく気が付いた様だ。皐月とユエは、ジト目でハジメを睨付けている

 

「そうですよ!そうですよ~!ハジメさんが私を護る様に壁となって立ち塞がった時は心が温かくなったのです~♪」

 

「俺は皐月とユエ以外どうでもいい!」

 

「大丈夫です!私のダイナマイトボディにてハジメさんを陥落させて正妻を勝ち取りますから~♪そうすると・・・いやんいやん♪」

 

体をくねくねとしながら妄想に耽るシア。だが、忘れないで下さい――――――正妻は皐月に決まっているのだ。そんな事を許さないのは三人である

 

「おい、残念ウサギのシア。正妻は私だけど、奪うというのなら連れて行かないわよ」ゴゴゴッ

 

「・・・皐月が正妻。・・・これは絶対」ゴゴゴッ

 

「ウサギさんにはお灸が必要ですね?」ゴゴゴゴゴッ

 

「ヒィッ!?」

 

今まで感じた事の無い威圧に悲鳴を上げるハジメと、自分の発言が、如何に愚かで無粋だったのかを改めて理解したシア

 

「で、でも!ユエさんは側室ポジで良いんですか!?納得しているんですか!?満足なんですか!?」

 

「・・・私は三人に助けられた。・・・それでもハジメが愛してくれるなら満足」

 

「み、深月さ―――――」

 

「お嬢様はハジメさんのご両親公認の仲ですよ?」

 

「・・・皐月さん」

 

「なぁに?」

 

「・・・・・許してくれたりは」

 

「愚かしい発言をした雌を調教しないとでも?」

 

「・・・ニ、ニゲルンデスゥ」

 

全力の身体強化で逃走を図るシアだが、皐月の錬成の方が早く、躓かせて首根っこを掴まれ二人に連行される形で森の奥へと姿を消した。少ししてから悲鳴が鳴り響いたのは言うまでも無いだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なぁ深月」

 

「何でしょうか、ハジメさん」

 

「俺はどうなると思う?」

 

「精のつく料理をお嬢様とユエさんに作る予定です」

 

「俺の分は?」

 

「ありませんよ?」

 

ハジメに救いは無い

 

「ちくしょおおおおおおお!やってやるよおおおおおおおお!」

 

ハジメは皐月とユエとの夜戦が決定したのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「ハウリア達生きてるの?」
深月「分かりません。お嬢様達の加減によるのでは?」
布団「ま、まぁそれはどうでもいいや!メイドさんとの訓練で吸血鬼さんが成長しているけど・・・」
深月「魔法無効化を所持した近接特化の魔物が現れたら危ないでしょう?」
布団「生存確率を上げている最中?」
深月「そうですね。目が徐々に慣れ始めているので、もう少し早くしても良いでしょう」
布団「頑張って・・・作者はこれしか言えない。それでは、今回はこの辺りで!」
深月「感想、評価宜しくお願い致します」
布団「毎回上がる誤字報告にとても助かっています(・ω・)b」

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