ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】 作:ぬくぬく布団
深月「お嬢様方は出ませんので悪しからず」
布団「記念話をどうしようかと迷い中」
深月「無難にしましょう。私とお嬢様のイチャイチャという事で!」
布団「はいはいはーい。まだアンケート終了していないから却下!それに、意味深でやったでしょう!?」
深月「ぬぐぐぐぐ!」
布団「あ、誤字報告有り難う御座いましたー」
深月「ン"ン"ッ! 読者の皆様もお待ちになられていますので前書きもこの辺りにして始めましょう」
布団「ごゆるりとどうぞ」
深月「私のセリフですよ!?」
これは、ハジメ達がサソリ擬きを倒した日まで遡る――――――
天之河率いる勇者パーティー達は、再びオルクス迷宮へやって来ていた。だが、人数は少ない。勇者パーティーは当然として、小悪党の塵芥共、それに永山重吾という大柄の柔道部の男子生徒を率いた男女五人のメンバーだけ。何故か?理由は明白――――――ハジメと皐月の死。そして、勇者よりも高スペックの深月が後を追ったからだ。"死"というものを身近に実感した事で、まともに戦闘する事すら出来無くなったのだ
この事態に教会関係者はいい顔をせず、全員に復帰を促した。しかし、これに待ったを掛けた人物が居たのだ。教師の畑山先生だ。食糧問題を解決する程のチート生産職の彼女との関係を悪化させてしまえば大きな損失に繋がる為、教会は畑山先生の抗議を受け入れた。結果、上記に上げた者達だけが訓練の継続と、オルクス迷宮に挑む事となったのだ
迷宮攻略から六日目・・・階層は六十層付近で、立ち往生をしていたのだ。理由は、何時かの悪夢を思い出しているからである。彼等の目の前には何時かの物とは異なるが、同じ様な断崖絶壁が広がっていたのである。次の階層へ行くには崖に掛かった吊り橋を進まなければならないのだが、やはり思い出してしまうのだろう。特に白崎は顕著で、真っ暗闇の奈落をジッと見つめたまま動かなかった
「香織・・・」
「大丈夫だよ、雫ちゃん」
「そう・・・無理しないでね?私に遠慮する事なんて無いんだから」
「えへへ、ありがと、雫ちゃん」
今の白崎には絶望に染まった瞳は感じられない。それどころか、日に日にギラギラとしているのだ。これは白崎が目を覚まして数日後の事だった。八重樫と一緒に話していた時に、ニュ〇タイプの如く何かを感じ取ったのか・・・「先を越されたっ!」等と意味不明な事を漏らしていた。(※この時ハジメが皐月に告白したのである)奈落でハジメとイチャつく皐月を敏感に感じ取っていたのだろう。八重樫曰く、「般若が見えた」との事
洞察力に優れた八重樫は白崎が本心で大丈夫だと言っているのだと分かった
(やっぱり、香織は強いわね)
絶望的な状況でも納得がいくまで諦めずに進む白崎に、八重樫は誇らしい気持ちで一杯だった。だが、そんな事も気にせずに空気をぶち壊していくのが勇者(笑)クオリティー。天之河視点からは、白崎がハジメの死を思い苦しんでいると決めつけて早速行動
「香織・・・君の優しいところ俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲もそれを望んでる」
「ちょっと、光輝・・・」
「雫は黙っていてくれ!例え厳しくても、幼馴染である俺が言わないといけないんだ。・・・香織、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織を悲しませたりしないと約束するよ」
「はぁ~、何時もの暴走ね・・・香織・・・」
「あはは、大丈夫だよ、雫ちゃん。・・・えっと、光輝くんも言いたい事は分かったから大丈夫だよ」
「そうか、分かってくれたか!」
そこまでは良かった・・・そう。そこまでは・・・
「落ちた皐月と深月を一刻も早く助けないといけないからな!」
その言葉を聞いた瞬間に白崎の表情は能面の様になり、八重樫は怒りで表情を歪ませた
「・・・光輝あんたねぇ!」
ついに手を出しそうになったが、白崎が八重樫を止めた
「放っておこうよ雫ちゃん。光輝くん・・・ううん。"天之河"くんはもう手遅れだから」
「ッ!そ、そうね。兎に角、私達は私達の出来る事をしましょう」
先程までは大丈夫だと思っていたが、それは見当違いだった。少しだけ歪んでいると感じた。だが、実際は日に日に歪んでいるのだ。もしも、ハジメが死んでいたら確実に狂っていただろう。それこそ、死を振り撒く敵みたいになるだろう
「早く南雲くんに会いたいなぁ」
誰にも聞こえない一言を零して、迷宮を進んでいく一行。そして、特に問題も起きず遂に歴代最高到達階層である六十五層にたどり着いた
「気を引き締めろ!ここのマップは不完全だ。何が起こるか分からんからな!」
メルドの声が響く。天之河達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れてしばらく進む。少し進めば大きな広間に出て、何となく嫌な予感がする一同。その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に赤黒く脈動する魔法陣が浮かび上がったのだ。それは、とても見覚えのある魔法陣だった
「ま、まさか・・・アイツなのか!?」
「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」
天之河と坂上は驚愕を露わに叫ぶ。しかし、険しいながらも冷静なメルドが応える
「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ!退路の確保を忘れるな!」
念には念を押して退路を確保するメルド率いる騎士団。だが、天之河は不満そうに言葉を返す
「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ!もう負けはしない!必ず勝ってみせます!」
「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」
メルドはやれやれと肩を竦めるが、今の天之河達の実力なら大丈夫だろうと不敵な笑みを浮かべている。そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び光輝達の前に現れた
「グゥガァアアア!!!」
咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む
今、過去を乗り越える戦いが幕を上げた
「万翔羽ばたき 天へと至れ"天翔閃"!」
前回の戦いでは、天翔閃の上位版である神威を以てしてもかすり傷一つ付ける事が出来無かった。しかし、今回は違った
「グゥルガァアア!?」
悲鳴を上げ地面を削りながら後退するベヒモスの胸にはくっきりと斜めの剣線が走り、赤黒い血を滴らせていたのだ。自分の攻撃が通じる――――――その事実は周囲の士気を更に上昇させる
「いける!俺達は確実に強くなってる!永山達は左側から、檜山達は背後を、メルド団長達は右側から!後衛は魔法準備!上級を頼む!」
「ほぅ、迷いなくいい指示をする。聞いたな?総員、光輝の指揮で行くぞ!」
天之河の指示の元、ベヒモスを包囲する
「グルゥアアア!!」
「させるかっ!」
「行かせん!」
ベヒモスは後衛組を行かせんと攻撃するも、坂上と永山がベヒモスに組み付いて"剛力"を使って突進を防ぐ
「ガァアア!!」
「らぁあああ!!」
「おぉおおお!!」
完全に動きを止められないながらも、勢いを削ぐ事は出来る。その隙を他のメンバーは逃さずに攻撃を加える
「全てを切り裂く至上の一閃"絶断"!」
八重樫の抜刀術がベヒモスの角に直撃するが、切断までには至らなかった
「ぐっ、相変わらず堅い!」
「任せろ!粉砕せよ、破砕せよ、爆砕せよ"豪撃"!」
メルドの追撃が叩き込まれ、遂にベヒモスの角の一本が半ばから断ち切られた
「ガァアアアア!?」
角を切り落とされた衝撃にベヒモスは力に任せて暴れて、八重樫、坂上、永山、メルドの四人を吹き飛ばす
「優しき光は全てを抱く "光輪"!」
本来は衝撃に息を詰まらせ地面に叩きつける所だが、白崎の行使した防御魔法が四人を光の輪が無数に合わさって出来た網が優しく包み込んで衝撃を殺した。そして、間髪を入れずに回復魔法も行使する
「天恵よ 遍く子らに癒しを "回天"」
"天恵"の上位版である回復魔法。遠隔の、複数人を同時に癒せる中級光系回復魔法だ
天之河は、未だに暴れ回るベヒモスに真っ直ぐに詠唱しながら突進。先程入れた傷口に切っ先を差し込んで、最後のトリガーを引いた
「"光爆"!」
聖剣に蓄えられた膨大な魔力が、差し込まれた傷口からベヒモスへと流れ込み大爆発を起こした。傷口を抉られ大量の出血をしながら、技後硬直中の僅かな隙を逃さずベヒモスが鋭い爪を天之河に振い吹き飛ばす。攻撃自体はアーティファクトの聖鎧が弾くが、衝撃が内部に通る為に激しく咳き込む
「天恵よ 彼の者に今一度力を "焦天"」
すかさず、白崎の回復魔法が掛けられて直ぐに治まった
ベヒモスは、咆哮と跳躍による衝撃波で他のメンバー達を吹き飛ばし、折れた角にもお構いなく赤熱化させていく
「・・・角が折れても出来るのね。あれが来るわよ!」
八重樫の警告と同時に襲い掛かるベヒモス。皆は一度経験している為、一斉に身構える。だが、想定よりも違っていた点、跳躍距離だった。前衛を飛び越えて、一気に後衛組へと襲い掛かったからだ。前衛組が焦りの表情を見せる中、後衛組の一人――――谷口が詠唱を中止して前に躍り出る
「ここは聖域なりて 神敵を通さず "聖絶"!!」
ベヒモスの必殺の一撃を受け止める事に成功したが、完全詠唱の"聖絶"では無い為にひび割れ始めていた
「ぅううう!負けるもんかぁー!」
障壁越しに睨付けられる殺意を大量に含んだ眼光。全身を襲う恐怖と不安に、掲げた両手が震えるが、弱気を払って必死に叫ぶが限界はもうそこだ。「破られる」と心の内で叫ぼうとした瞬間
「天恵よ 神秘をここに "譲天"」
谷口の体を光が包み、"聖絶"に注がれる魔力量が跳ね上がった
「これなら!カオリン愛してる!」
一気に本来の四節分の魔力が流れ込むと同時に完璧な"聖絶"を張り直す。パシンッと乾いた音を響かせ障壁のヒビが一瞬で修復された。ベヒモスは突破出来無い苛立ちを術者を睨むが、谷口も気丈に睨み返し一歩も引かない。徐々にベヒモスの角の赤熱化が効果を失い始めた。突進の勢いも無くなると同時に谷口の"聖絶"も消失した
「後衛は後退しろ!」
天之河の指示に後衛組が下がり、前衛組がヒット&アウェイでベヒモスを翻弄し続け、遂に待ちに待った後衛の詠唱が完了する
「下がって!」
中村の合図と共に、天之河達は渾身の一撃をベヒモスに放ちつつ、その反動も利用して一気に距離をとった。その直後に、炎系上級攻撃魔法のトリガーが引かれた
「「「「「"炎天"」」」」」
術者五人による上級魔法。超高温の炎が球体となり、太陽の様に周囲一帯を焼き尽くす。ベヒモスの直上に創られた"炎天"は一瞬で直径八メートルに膨らみ、直後、ベヒモスへと落下した。絶大な熱量にベヒモスの外殻は融解して断末魔を上げる
「グゥルァガァアアアア!!!!」
いつか聞いたあの絶叫だ。鼓膜が破れそうなほどのその叫びは少しずつ細くなり、やがて、その叫びすら燃やし尽くされたかのように消えていった。黒ずんだ壁と床―――――そして、ベヒモスの物と思しき僅かな残骸だけが残った
「か、勝ったのか?」
「勝ったんだろ・・・」
「勝っちまったよ・・・」
「マジか?」
「マジで?」
「そうだ!俺達の勝ちだ!」
キラリと輝く聖剣を掲げながら勝鬨を上げる天之河。その声にようやく勝利を実感したのか、一斉に歓声が沸きあがった。男子連中は肩を叩き合い、女子達はお互いに抱き合って喜びを表にしている。メルド団長達も感慨深そうだ
白崎だけはボーッとベヒモスが居た場所を眺めており、八重樫が声を掛ける
「香織?どうしたの?」
「えっ、ああ、雫ちゃん。・・・ううん、何でもないの。ただ、ここまで来たんだなってちょっと思っただけ」
「そうね。私達は確実に強くなってるわ」
「うん・・・雫ちゃん、もっと先へ行けば南雲くんも・・・」
「それを確かめに行くんでしょ?そのために頑張っているんじゃない」
「えへへ、そうだね」
ハジメを探せるという安堵と、もしも死んでいたらと思う不安を実感したのだ。答えが出てしまう恐怖に、つい弱気がでたのだろう。八重樫は白崎の手を力強く握る。その力強さに白崎も弱気を払ったのか、笑みを見せる中――――天之河達が集まってきた
「二人共、無事か?香織、最高の治癒魔法だったよ。香織がいれば何も怖くないな!」
「ええ、大丈夫よ。光輝は・・・まぁ、大丈夫よね」
「うん、平気だよ、天之河くん。皆の役に立ててよかったよ」
「これで、南雲も浮かばれるな。"自分を突き落とした魔物"を自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」
「「・・・」」
もう言葉も出ないというよりも諦めている。天之河の脳内フィルターの前にはベヒモスの攻撃がハジメを落としたと認識させているのだ。犯人である檜山は謝罪したからわざとじゃ無いという謎の思考。訳が分からない。よって、白崎と八重樫は犯人の檜山の処遇を許した天之河を諦めている
微妙な空気が漂う中、クラス一の元気っ子が飛び込んできた
「カッオリ~ン!」
「ふわっ!?」
「えへへ、カオリン超愛してるよ~!カオリンが援護してくれなかったらペッシャンコになってるところだよ~」
「も、もう、鈴ちゃんったら。ってどこ触ってるの!」
「げへへ、ここがええのんか?ここがええんやっへぶぅ!?」
変態親父の如く白崎の体をまさぐる谷口の頭に、八重樫の手刀が炸裂
「いい加減にしなさい。誰が鈴のものなのよ・・・香織は私のよ?」
「雫ちゃん!?」
「ふっ、そうはさせないよ~、カオリンとピーでピーなことするのは鈴なんだよ!」
「鈴ちゃん!?一体何する気なの!?」
白崎と八重樫と谷口を挟んでのジャレ合いに、いつしか微妙な空気は払拭されていた
これより先は完全に未知の領域。天之河達は過去の悪夢を振り払い先へと進むのだった
更に日は流れ――――――
ハジメ達がヒュドラ擬きと神の先兵のデッドコピーを倒した辺りまで進む。勇者一行は迷宮攻略を一時中断して王国へと戻っていた。理由は、ヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来るのだという
歴史上の最高記録である六十五層が突破されたという事実は、帝国側の者達からしても是非会ってみたいとの事だそうだ。王宮に戻る中、馬車の中で一通りの説明を受けた勇者一行
馬車が王宮へと到着し、全員が降車すると王宮の方から一人の少年が駆けて来る。その正体はハイリヒ王国王子ランデル・S・B・ハイリヒ――――思わず犬耳とブンブンと振られた尻尾を幻視してしまいそうな雰囲気で駆け寄ってくる
「香織!よく帰った!待ちわびたぞ!」
これだけでお分かりだろう・・・ランデル王子は白崎に惚れているのだ。実は、召喚された翌日から、ランデル殿下は香織に猛アプローチを掛けていた。白崎は、相手が十歳辺りの男の子という事もあり、弟の様な感じを抱いているのである
「ランデル殿下。お久しぶりです」
「ああ、本当に久しぶりだな。お前が迷宮に行ってる間は生きた心地がしなかったぞ。怪我はしてないか? 余がもっと強ければお前にこんなことさせないのに・・・」
「お気づかい下さりありがとうございます。ですが、私なら大丈夫ですよ? 自分で望んでやっていることですから」
「いや、香織に戦いは似合わない。そ、その、ほら、もっとこう安全な仕事もあるだろう?」
「安全な仕事ですか?」
「う、うむ。例えば、侍女とかどうだ?その、今なら余の専属にしてやってもいいぞ」
「侍女ですか?いえ、すみません。私は治癒師ですから・・・」
「な、なら医療院に入ればいい。迷宮なんて危険な場所や前線なんて行く必要ないだろう?」
これだけのやり取りだけで分かるだろう。白崎と離ればなれになりたくないとランデル王子は思っているが、鈍感な白崎には全く伝わらない
「いえ、前線でなければ直ぐに癒せませんから。心配して下さりありがとうございます」
「うぅ」
そこに空気の読めない勇者(笑)の天之河が乱入
「ランデル殿下、香織は俺の大切な幼馴染です。俺がいる限り、絶対に守り抜きますよ」
天之河の善意100%は、恋に盲目なランデル王子からしたら「俺の女に手を出すんじゃねぇ!」的に聞こえるのだった
「香織を危険な場所に行かせることに何とも思っていないお前が何を言う!絶対に負けぬぞ!香織は余といる方がいいに決まっているのだからな!」
「え~と・・・」
「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう?光輝さんにもご迷惑ですよ」
「あ、姉上!?・・・し、しかし」
「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて・・・相手のことを考えていないのは誰ですか?」
「うっ・・・で、ですが・・・」
「ランデル?」
「よ、用事を思い出しました!失礼します!」
自分の非を認めたくないランデル王子は踵を返してササッと消えていった
「香織、光輝さん、弟が失礼しました。代わってお詫び致しますわ」
「ううん、気にしてないよ、リリィ。ランデル殿下は気を使ってくれただけだよ」
「そうだな。なぜ、怒っていたのか分からないけど・・・何か失礼な事をしたんなら俺の方こそ謝らないと」
白崎と天之河の言葉にリリアーナは苦笑いを浮かべる。姉として弟の恋心を察してはいるのだが、全く気付かれていない現状に多少なりとも同情してしてしまう
「いえ、光輝さん。ランデルのことは気にする必要ありませんわ。あの子が少々暴走気味なだけですから。それよりも・・・改めて、お帰りなさいませ、皆様。無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」
「ありがとう、リリィ。君の笑顔で疲れも吹っ飛んだよ。俺も、また君に会えて嬉しいよ」
「えっ、そ、そうですか? え、えっと」
またしても天之河の善意100%の言葉が炸裂。リリアーナは聡明であり、秀才、王女という事もあり、お世辞混じりの褒め言葉等は慣れているし、そういった事を見抜く事も出来る。だが、下心一切無く素で言った天之河にどう返そうかとおろおろとしている
「えっと、とにかくお疲れ様でした。お食事の準備も、清めの準備もできておりますから、ゆっくりお寛ぎくださいませ。帝国からの使者様が来られるには未だ数日は掛かりますから、お気になさらず」
天之河達は迷宮での疲れを癒やして、居残り組達にベヒモスを倒したと報告して舞い上がったのは言うまでも無い
それから三日後、遂に帝国の使者が訪れた
「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」
「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」
「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」
「はい」
「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので?確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが・・・」
使者は天之河を観察する様に見て、疑わしそうにしている。特に、使者の護衛の人は値踏みする様な感じでジロジロと見ている
「えっと、ではお話ししましょうか?どのように倒したかとか、あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」
「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか?それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」
「えっと、俺は構いませんが・・・」
「構わんよ。光輝殿、その実力、存分に示されよ」
「決まりですな、では場所の用意をお願いします」
勇者(笑)と帝国の使者の護衛の戦いが決定した
相手の護衛は、見た目は平凡で、特に目立った特徴の無い人物で強そうには見えない。だが、刃引きした大型の剣をだらんと無造作に持っているのだ。これといって意識をしていない天之河は、使者は強くないと判断した。この場に居る全ての人に、驚かせてやろうと割かし本気の一撃を放つ事にした
「いきます!」
縮地で一気に距離を詰めて唐竹に振り抜いたが、天之河の反応よりも早く護衛の攻撃が直撃して吹き飛ばされた
「ガフッ!?」
地を滑りながら体勢を整える天之河は驚愕の面持ちで相手を見る。護衛は、掲げた剣をまた力を抜いた自然な体勢で構えている
「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか?まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」
その表情は失望。天之河は、意気揚々と仕掛けた自分が吹き飛ばされた事実を受け入れ、相手を舐めていたと自分に怒りを抱く
「すみませんでした。もう一度、お願いします」
天之河は再び気合いを入れ直して攻撃を開始する。超高速の剣撃は体をブレさせて残像を生み出す程――――――だが、紙一重で躱されて隙あらば反撃されて天之河は、自分の戦闘を見失っていた。それでもステータスに物を言わせて直撃を避けているという点は流石勇者(笑)だろう
「ふん、確かに並の人間じゃ相手にならん程の身体能力だ。しかし、少々素直すぎる。元々、戦いとは無縁か?」
「えっ? えっと、はい、そうです。俺は元々ただの学生ですから」
「・・・それが今や"神の使徒"か」
チラッと教会関係者の方を見て不機嫌そうに鼻を鳴らす
「おい、勇者。構えろ。今度はこちらから行くぞ。気を抜くなよ?うっかり殺してしまうかもしれんからな」
「ッ!?」
気付かぬ内に懐に潜り込まれ、不規則な攻撃が天之河を容赦なく襲う。先読や縮地で体勢を整え様とするが、まるで磁石の様に一定の距離を保ったまま離れない。徐々に焦りが顔に出始め、多少のダメージ覚悟で剣を振ろうとした瞬間に護衛が魔法のトリガーを引いた
「穿て――"風撃"」
「うわっ!?」
片足に撃ち込まれた魔法の威力は高くは無い。だが、姿勢を崩す程度の威力が有り、バランスを崩した。それと同時に、壮絶な殺気が天之河を射貫いた。ようやく天之河は理解した。相手は自分を殺すと―――――しかし、そうはならなかった
ズドンッ!
「ガァ!?」
今度は護衛が吹き飛んだ。天之河は全身から純白のオーラを吹き出しながら、護衛に向かって剣を振り抜いた姿で立っていた。生存本能に突き動かされるまま、限界突破を使用したのだ。殺されていたかもしれない・・・天之河の表情は恐怖を必死で押し殺した険しい顔をしていた
「ハッ、少しはマシな顔するようになったじゃねぇか。さっきまでのビビリ顔より、よほどいいぞ!」
「ビビリ顔? 今の方が恐怖を感じてます。・・・さっき俺を殺す気ではありませんでしたか?これは模擬戦ですよ?」
「だからなんだ?まさか適当に戦って、はい終わりっとでもなると思ったか?この程度で死ぬならそれまでだったってことだろ。お前は、俺達人間の上に立って率いるんだぞ?その自覚があんのかよ?」
「自覚って・・・俺はもちろん人々を救って・・・」
「傷つけることも、傷つくことも恐れているガキに何ができる?剣に殺気一つ込められない奴がご大層なこと言ってんじゃねぇよ。おら、しっかり構えな?最初に言ったろ?気抜いてっと・・・死ぬってな!」
だが、護衛はそれ以上踏み込んでは来なかった。何故なら、二人の間に光の障壁がそそり立っていたから
「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。・・・ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」
「・・・チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」
護衛は、耳に付けていたイヤリングを外す。すると、霧がかった様に姿がボヤけ始め晴れる頃には別人が立っていた
「ガ、ガハルド殿!?」
「皇帝陛下!?」
「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」
「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」
それからは無し崩しで試合は有耶無耶となって終わり、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質が取れ、訪問の目的も達成された
晩餐も終わり、部屋で部下と共に勇者(笑)について本音で話し合うガハルド
「ありゃ、ダメだな。ただの子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。"神の使徒"である以上蔑ろにはできねぇ。取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう」
「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」
「あぁ?違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ」
「まぁ、魔人共との戦争が本格化したら変わるかもな。見るとしてもそれからだろうよ。今は、小僧どもに巻き込まれないよう上手く立ち回ることが重要だ。教皇には気をつけろ」
「御意」
部下からもたらされる情報を一つ一つ聞くガハルド。その中に一つだけ興味を引く物があった
「あぁん?メイドだと?」
「はい。ステータスは勇者よりも高く、試合で圧倒したとの情報です。聞き伝ですが、目撃者も多数存在している事から間違い無いかと思われます」
「・・・未だ何かあるんだろう?」
「勇者一行が初めてオルクス迷宮に挑み奈落へ落ちて行ったと」
「ん?待て。今"落ちて行った"と言ったな?"落ちた"じゃなくて」
「現場に居た神の使徒の報告では、転移に巻き込まれなかった唯一の人物。そして、短時間でその場所に到着して無能と呼ばれる二名を躊躇無く追いかけたらしいです。落ちる際に、フレンドリーファイア?なる者と一緒に行動出来無いと言う事と、処罰をしなければ殺害も辞さないと宣言されていたとの事です」
「へぇ。フレンドリーファイアってのが何か分からないが想像は付くな。極め付けは最後の処罰・・・間違い無く味方を攻撃した何者かが居るのは確定だな。んで?仲間を攻撃した人物は処刑されたか?」
「・・・いえ。あの勇者が許したとの事です」
「・・・・・嘘だろ?」
「・・・・・本当です」
ガハルドは深い深ーいため息を吐き、勇者(笑)の評価を最低の物へと切り替えた
「ありゃあ人の善性しか見てねぇガキだな。戦力にもならねぇ・・・」
「・・・同感です」
「それよりもメイドについてだが、聞き伝だけでもハッキリと分かる。日和った連中と違って絶対に裏で色々とやってそうだな」
「実は・・・騎士団長曰く、自分よりも強いと感じさせる程との事です」
「何かしらの考えが有って後を追ったんだろうな。・・・って事は生き抜いている可能性は大きい」
「情報を収集致します」
「おう」
翌日には帰国するガハルド達・・・何ともフットワークの軽い皇帝である。余談ではあるが、早朝訓練をしている八重樫を気に入り愛人にどうだと割かし本気で誘ったというハプニングがあったが、当人は丁重にお断りして、皇帝陛下も「まぁ、焦らんさ」と不敵に笑いながら引き下がったので特に大事には至らなかった
知らずの内にガハルドにロックオンされた深月。だが、ガハルドの失敗はそこだった
皐月の絶対なる忠犬である深月を手に入れよう等、絶対に出来無いのだから
布団「いやぁ~メイドさんは大変だ~大変だ~」
深月「えっ・・・ちょっと待ってください。私大変じゃないですか!?」
布団「皇帝さんは有能な人材ほちいだからね♪」
深月「私の主はお嬢様だけです!!」
布団「皇帝がお嬢様を狙ったら?」
深月「無論、玉を引きちぎって竿をぶった切ります!」
布団「ひゃ~!過激だぁ!!」
深月「それでは、今回もこの辺りにしましょう」
布団「記念話はもう少し余裕が出来た日に書く予定ですー」
深月「感想、評価、お気軽にお願い致します」