ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】 作:ぬくぬく布団
布団「久々の早めの投稿だよ」
深月「もう一つの方は・・・?」
布団「ちょっと難産なんです」
深月「息抜きでこちらを書いているのですね・・・」
布団「あっ!誤字報告ありがとうございまーす!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」
~皐月side~
悪路を爆走する四輪と二輪。整地機能が追い付かない速度での移動は、天井に張り付けたティオと荷台に乗っている男子生徒をシェイクする。ウルの町と北の山脈地帯のちょうど中間辺りの場所で完全武装した護衛隊の騎士達が猛然と馬を走らせている姿を発見。先頭には鬼の形相で突っ走るデビッドやその横を焦燥感の隠せていない表情で併走する騎士達の姿
畑山は窓枠から半身を乗り出して両手を振り、大声を出してデビッドに自分の存在を主張するが、それを無視するのがハジメクオリティー。「さぁ! 飛び込んでおいで!」とでも言うように、両手を大きく広げている騎士達を素通りする。畑山の「なんでぇ~」という悲鳴じみた声が後方へと流れて行き、騎士達は「愛子ぉ~!」と、まるで恋人と無理やり引き裂かれたかの様な悲鳴を上げて、猛然と四輪を追いかけ始めるのだった
「南雲君!どうして、あんな危ないことを!」
プンスカと怒りながらハジメに猛抗議する畑山
「止まる理由がないだろ、先生。止まれば事情説明を求められるに決まってる。そんな時間あるのかよ?どうせ町で事情説明するのに二度手間になるだろ?」
「うっ、た、確かにそうです・・・」
「まぁ・・・騎士連中が気持ち悪かったというのもあるわ」
「・・・ん、同感」
ンッホォオオオオ!ユレテ・・・ユレテカラダガウチツケラレルゥウウウウ!ハァハァ!モット、モットハゲシクヲキボウスルノジャアアアア!
車体の上で誰もがドン引きする言葉を口にしている変態。皆は敢えて触れない様にしていたのだが・・・
「ねぇ、ハジメ。私・・・今から深月の方に乗り移るって言ったら止める?」
「俺の隣に居てくれ。・・・本当に頼む・・・上の変態によるストレスが凄まじいんだ。皐月の癒しが無いと俺が困る」
「・・・あれ、本当に竜人族?」
「幻想は打ち砕かれるものなのよ・・・」
上で車体の振動で刺激され続け恍惚の表情を浮かべるティオにショックを受けているユエ。竜化を解いてから何処かおかしいと感じていたが、痛みで快楽を得るというドン引きな性癖を前に、竜人族に抱いていた憧れと尊敬の気持ちが幻想の如くサラサラと砕けて消えてしまった様である
アッフゥ!ッテナンジャ!?イトガカラダヲマイテエェェェェェェ!?
これ以上は主の心身に関わると思った深月がティオを回収したのだった。因みに、ティオは回収される際にゴキッと人体で鳴ってはいけない様な音を立てた後にぐったりとしていた。何があったのかはお察しである
~深月side~
ウルの町へ到着したハジメ達。畑山と生徒とウィルは、急いで町長の居る場所へ駆けていった
「おいおい、護衛対象の奴まで行かれたら面倒じゃねぇか」
「さっさと連れ戻してフューレンへ戻りたいわ」
口ではそう言いつつも、屋台の串焼きやら何やらに舌鼓を打ちながら町の役場へと向かった。ハジメ達が到着した頃には場は騒然としており、ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まり喧々囂々たる有様だった
「おい、ウィル。勝手に突っ走るなよ。自分が保護対象だって自覚してくれ。報告が済んだなら、さっさとフューレンに向かうぞ」
「依頼の時間が長引く程、イルワさんに心配が掛かるんだから早く移動するわよ」
ハジメ達のいきなりの登場にウィルや畑山達は驚き、その場に居た重鎮達は「誰だ、こいつ?」と、危急の話し合いに横槍を入れたハジメ達に不愉快そうな眼差しを向けた
「な、何を言っているのですか?ハジメ殿、皐月殿。今は、危急の時なのですよ?まさか、この町を見捨てて行くつもりでは・・・」
「見捨てるもなにも、どの道、町は放棄して救援が来るまで避難するしかないだろ?観光の町の防備なんてたかが知れているんだから・・・どうせ避難するなら、目的地がフューレンでも別にいいだろうが。ちょっと、人より早く避難するだけの話だ」
「そ、それは・・・そうかもしれませんが・・・でも、こんな大変な時に、自分だけ先に逃げるなんて出来ません!私にも、手伝えることが何かあるはず。ハジメ殿も・・・」
「私達はあくまでも貴方の救出が依頼なのよ?危険な所に滞在させる訳ないでしょ」
「はっきり言わないと分からないのか?俺達の仕事はお前をフューレンに連れ帰る事。この町の事なんて知った事じゃない。いいか?お前の意見なんぞ聞いてないんだ。どうしても付いて来ないというなら・・・手足を砕いて引き摺ってでも連れて行く」
「なっ、そ、そんな・・・」
ハジメの醸し出す雰囲気が変わり、その言葉が嘘ではないと察したウィルは顔を青ざめさせる。あまりにも無関心さに言葉を失い、ハジメから無意識に距離を取るウィルにハジメが決断を迫るように歩み寄ろうとする。周囲の者達は、ハジメとウィルを交互に見ながら動けずにいると、ハジメの前に立ちふさがるように進み出た人物――――――畑山がいた。彼女は、決然とした表情でハジメを真っ直ぐな眼差しで見上げる
「南雲君、高坂さん。貴方達なら・・・貴方達なら魔物の大群をどうにかできますか?いえ・・・出来ますよね?」
畑山のどこか確信している声色に重鎮達は一斉に騒めく。"神の使徒"にして"豊穣の女神"の畑山の確信めいた言葉は信じるに値するもの。彼等は期待を含んだ視線を向けるが、ハジメは鬱陶しげに手で払う素振りを見せて誤魔化す事にした
「いやいや、先生。無理に決まっているだろ?見た感じ四万は超えているんだぞ?とてもとても・・・」
「でも、山にいた時、ウィルさんの南雲君なら何とか出来るのではという質問に"出来ない"とは答えませんでした。それに"こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない"とも言ってましたよね?高坂さんも"護りながら戦うなんて無理"と言っていましたよね?それは平原の様に開けた場所でなら殲滅戦が可能という事ですよね?違いますか?」
「・・・よく覚えてんな」
「はぁ・・・。そうは言ったけど・・・」
口を滑らした事と、畑山の記憶力の良さに顔を歪める二人。後悔先に立たずである
「南雲君、高坂さん、神楽さん。どうか力を貸してもらえませんか?このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」
「・・・先生は生徒の事が最優先だと言っていたのに、それを無視するかの様な提案じゃない。色々活動しているのも、それが結局、少しでも早く帰還できる可能性に繋がっているからと知っていたわ。なのに、見ず知らずの人々の為に、その生徒に死地へ赴けと?その意志もないのに?まるで、戦争に駆り立てる教会の連中みたいな考えね」
「・・・元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも、それは出来ないから・・・なら、今、この世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。そう思う事は、人として当然の事だと思います。もちろん、先生は先生ですから、いざという時の優先順位は変わりません。ですが、穏やかで明るかった貴方達が、そんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います。そこでは、誰かを慮る余裕等無かったのだと思います。君が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など・・・貴方達には軽いかもしれません。でも、どうか聞いて下さい」
二人は黙ったまま畑山を見つめ返す
「お二人は昨夜、絶対日本に帰ると言いましたよね?では、南雲君、高坂さん、貴方達は、日本に帰っても同じ様に大切な人達以外の一切を切り捨てて生きますか?貴方達の邪魔をする者は皆排除しますか?そんな生き方が日本で出来ますか?日本に帰った途端、生き方を変えられますか?先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに慣れて欲しくないのです」
「「・・・」」
「貴方達には貴方達の価値観があり、未来への選択は常に貴方達自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するような事はしません。ですが、君がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は・・・とても"寂しい事"だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、貴方達にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから・・・他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、貴方達が持っていた大切で尊いそれを・・・捨てないで下さい」
畑山の一つ一つの言葉は、二人に余すことなく伝わる。例え世界を超えても、どんな状況であっても、生徒が変わり果てていても、全くブレずに"先生"であり続ける畑山に内心苦笑いをせずにはいられなかったが、それは、嘲りから来るものではない。心の底から感心が来るものだった。だが、奇麗事ばかりでは済まされないのがこの世界のルールだ
「とてもいい言葉です。貴女は何処であろうとも"教師"なのですね」
「深月・・・?」
微笑みで返す深月の言葉に顔を明るくさせる畑山だが、さっきも言った様にこの世界のルールはそれだけでは押し通れない。皐月は深月の様子が少しだけ違う事に感づいた。それは、ハジメも、ユエも、シアも、ティオも気付いた
「ですが、その心の甘さだけはいただけません。生徒全員を帰還させたい――――――それは唯の夢物語です。闇を放置して光を蝕むこの状況・・・一度でも心を闇に染めた者は二度と正常な歯車には戻りません」
「確かに私の言葉は甘さだけです。それでも・・・それでも私は教師です!生徒達を全員帰す希望は諦めません!」
「そうですか。・・・では、その夢物語を貫き通せる事を期待しましょう」
深月は一歩下がり、皐月の傍の定位置へと戻った
「・・・先生は、この先何があっても、俺達の先生か?」
ハジメは問う。絶対に生徒の味方かどうかを
「当然です」
問いを一瞬の躊躇いもなく答える畑山
「・・・俺達がどんな決断をしても?それが、先生の望まない結果でも?」
「言った筈です。先生の役目は、生徒の未来を決める事ではありません。より良い決断が出来る様お手伝いする事です。南雲君が先生の話を聞いて、なお決断した事なら否定したりしません」
「言質は取ったわ」
「だな・・・流石に、数万の大群を相手取るなら、ちょっと準備しておきたいからな。話し合いはそっちでやってくれ」
「南雲君!高坂さん!」
ハジメと皐月の返答に、顔をパァーと輝かせる畑山
「俺の知る限り、一番の"先生"からの忠告だ。まして、それがこいつ等の幸せにつながるかもってんなら・・・少し考えてみるよ。取り敢えず、今回は、奴らを蹴散らしておく事にする」
「でも、忘れないでね先生。深月が言った様に、残酷なこの世界でも頑張ってその信念を貫き通して下さいね?」
皐月の最後の言葉は、尊敬の念を込めた一言である。ハジメ達は踵を返して部屋を出ていく。ユエとシアも続く様に出て行き、最後に深月が出て行った
畑山は、ハジメ達がこの一件をどうにかしてくれる事に喜びつつ、町で出来得る事を重鎮達と話し合う。だが、危険な行為を生徒にさせる事に、内心、自分の先生としての至らなさや無力感に肩を落としていた
畑山先生、貴方はお気付きではないでしょうが・・・心が壊れた者はこの世界に来る前からいましたよ。あれは私と同じ様に完全に壊れていますから。まぁ、私の方が歪ですが・・・あれは目的の物を手に入れる為には何でも利用しようとする害虫ですね
"あれ"を本当に理解しているのは深月以外誰一人いない。観察眼に優れていた皐月でさえ気付いていなかったにも関わらず、深月が"あれ"を放置していたのはこちらに害が向かないからだった。偶に殺気が向けられるが、それは微々たるもので本人すら気付いていないのだろう
もし、お嬢様方に危害を及ぼすのであれば――――――――処分も検討しておきましょう
~皐月side~
「先生にあぁ言った手前、投げ出す事はしないが・・・正直言ってめんどくせぇ」
「言質は取ったから良いじゃない。これで、異端認定される可能性が低くなったから儲けものでしょ」
「はぁ~。万単位の敵となると、弾薬消費がバカにならねぇ」
現在ハジメ達は一台の駆動二輪に乗って、整地と錬成で町の周囲に壁を作っている。ハジメが整地、皐月が壁作りをしている
「今までに体験した事の無い集団戦。貴重な経験になると思ってやりましょ」
「だな。神の先兵だって幾つ居るか分からねぇからな」
この集団戦は、いつか来る神との闘いの練習に過ぎない。先兵と魔物の力の差は月とスッポンだが、立ち回り等の把握には必要だ。それに、エヒトが魔物を操れる可能性があるので無駄ではない
「それにしても・・・今頃町の住人は混乱しているわよね」
「そこは先生に任せる他ないだろ?」
「そうね。・・・でもね?深月があそこまで先生に言うとは思わなかったわ」
「何かしら過去にあったんじゃないのか?」
「ん~?何かを隠しているの・・・かな?」
「本人に聞いても話を逸らされるか、はぐらかされるな」
「いつの日かちゃんと告白してくれるわよ。それまで待ちましょう」
「そうだな」
二人は作業の速度を上げて帰還すると、町の中はパニックとなっていた。恐らく、魔物の大群がこの町に向かっていると説明があったのだろう。町の重鎮達に言い寄ったり、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者がいた
「やっぱりカオスになったわね」
「自分の故郷が滅びると言われたと同じなんだ。そりゃあこうなるのは目に見えていただろ」
そんな彼らの冷静さを取り戻させたのは畑山だ。高台から声を張り上げて恐れるものなどないと言わんばかりの凛とした姿と、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻していったのだ
「脳内お花畑の勇者(笑)よりも勇者しているわね」
「天之河の奴が気になるのか?」
「そんな訳ないでしょ。気になるのは女子組よ」
「あ、あー・・・地球ではよく話をしていたな」
「どうせ勇者(笑)のせいで貧乏くじを引いている筈よ」
「・・・容易に想像が出来てしまった」
ハジメ達は即席の城壁に腰かけて武器の点検と弾丸等のチェックを行う
さっきも気になったけど、白崎さん達は今頃何をやっているのかしら?流石にベヒモスを単騎で倒す位の実力はつけているわよね?もしもそんな力が無かったら・・・真のオルクス迷宮に挑む事すら出来ないでしょうね。ばったり再会したら私達に着いて来るって言いそうなのよね~
「ハジメさん、何か手伝う事無いですか~?」
「俺よりも皐月の方を手伝え。俺は深月と各自の配置とペアを相談する」
「わっかりました~」
「ユエも皐月の手伝いを頼む」
「ん!」
ハジメは深月の方に行ったわね。丁度三人だけで、周りには誰も居ないわ
チェックをする皐月の元にユエとシアが混ざり、皐月の指示に従って一つ一つをチェックしていく。三人だけの場になったので皐月は率直にシアに質問する
「で?シアはどうなの?」
「ふぇ?」
「ふぇ?じゃないでしょ。ユエの助言で半歩でも引いた立ち位置でハジメを見る様にしているでしょ?」
「・・・もしかしなくても気付いていました?」
「気付くに決まっているでしょ。時々暴走するけどその都度ユエの指摘が入っているし、何より変わり過ぎなのよ。先生と出会ってから半歩引いて全体を見ていたでしょ?」
時々暴走する事もあったが、確実にその回数が減った事は気付いた皐月。恐らく、畑山の出会いとユエの助言で気が付いたのだろう。皐月にバレない様に変えていこうとしたのだろうが、明らかに別物な点からあっという間にバレてしまったという事だ
「シアがハジメを好きなのは出会って少しして分かっていたわ」
「・・・」
「その様子だと気づいたのかしら?」
「はい・・・私は自分の事ばかりを考えていました」
「・・・私の助言が活きた。・・・でも、それは皐月の了承があったから言った」
「うぅ、皐月さんがちゃんと私を見ていた事に気づきませんでした」
シアは気が付いたのだ。半歩でも下がって見た景色が違う事に。皐月が自分にチャンスを与えている事、ユエが陰ながら応援をしている事、深月が自分を思って説教をする理由が理解出来たのだ
「ハジメは気付いていないけど、私達はちゃんとシアにチャンスを与えていたのよ。今までは押せ押せの押し付けで空回りしていただけ。後はどうすれば良いかは分かるわよね?」
「はい、ありがとうございます!ハジメさんの側室になれる様に頑張ります!」
「・・・でも条件がある」
「条件ですか。・・・難しいんですか?」
「・・・私は聞いた時に納得する時間が掛かった。・・・けど、ちゃんと納得した」
「ユエさんでも納得するのに時間が掛かったんですか!?」
「簡単よ。深月を第二夫人と認めるだけよ」
「えっ?でも・・・深月さんはハジメさんに興味が無いと言っていましたが?」
そう。深月はハジメと関係を一度だけ持ったが、無かった事にしている。それからは、メイドとして将来の関係性から興味を持たない様にしているだけだ。まぁ実際問題、本人はそれに関しては興味を持っていないのである
「シアは気付いていないと思うけど、ハジメは深月に好意を抱いているわ。自分でも気付いていないのが余計に質が悪いわ」
「むむむっ!深月さんを第二夫人は良いのですが、どうやって迎え入れるかが問題ですね!」
「・・・納得したの?」
「いや~、深月さんなら納得出来ます。私自身得意だと自負していた料理が、深月さんの前では完膚無きまでに負けてますぅ。あ、料理を時々教えてもらっていますよ?皆さんの好みの味を再現できる様に特訓中ですぅ!」
「「なん・・・だと・・・!?」」
シアが深月の元で料理の特訓をしている事を初めて知った皐月とユエ
「あっ、でも、簡単な料理ですよ?"とある"難しい料理は絶対に無理だと言われちゃいました!」
「「あぁ・・・あれか」」
「お二人は知っているのですか?」
シアは知らない。極稀に魔物肉を使った料理を出されている事実を
その際は周りに人が居ない事を第一条件としたものなので、出される時は限られているのだ
「もしかして・・・」
「・・・知りたい?」
「知りたいですよ!私だって美味しい料理を作って褒めて貰いたいんです!」
二人は少し考えて教える事にした
「教えるのは良いわ。・・・ユエ、準備は良い?」
「・・・ん」
「ドキドキ」
「ライセン大峡谷の野営で食べた料理だけど・・・あれって魔物肉なのよ」
「 」
「聞こえなかった?四人だけの野営の時に、魔物肉料理が出されたのよ?」
「うぇええええ!?まもガガガガ!?」
ユエが後ろから口を塞ぐ事で大事には至らなかった。だが、その事実に頭が追い付かないシアは落ち着きがない
「ま、ままままま魔物肉って!?う、嘘ですよね!?み、深月しゃんがだだ出した、りり料理は美味しかったんですよ!?魔物肉を食べたら人は死にますよ!?」
「まぁまぁ、これを食べて落ち着きなさいよ」
「・・・あっ」
物凄くどもりながら、「嘘だ!嘘だ!?」と否定するシアだが、皐月から手渡された干し肉を食べて落ち着きを取り戻す
「ふぅ・・・この干し肉美味しいですね!これも深月さんが作ったやつですか?」
シアは美味しそうに干し肉を食べているが、肝心な所に気付いていない
「・・・シア」
「何ですかユエさん?この干し肉はあげませんよ!」
「・・・それ、魔物肉」
「 」
自分が今現在美味しく食べている肉が魔物肉である事実に硬まるシア。チェックをし終えた皐月は、追加の干し肉を取り出してユエに一つ手渡して食べる。もちろんユエも躊躇い無く食べる
「ゴクンッ・・・私死んじゃうんですかぁ?」ウルウル
「もしそうだったら、今頃激痛が襲っているわよ」
すると、深月との相談が終わったハジメが帰ってきた
「三人共、チェック終わったのか?」
「どれも完璧よ。ハジメも干し肉食べる?」
「サンキュー、これ美味いから好きなんだよな!」
ハジメも躊躇い無く食べていると、シアが瞳をウルウルさせて落ち込んでいる状態に気付く
「おい、どうしたシア?」
「ハジメさ"ああああん!わ"た"し"死んじゃうんですか~!?」
「ドわぁ!離れろ!っつか何があった!?」
「あー、それはね―――――」
皐月は、シアが魔物肉を食べた事実をハジメに説明。どうして泣いているのかようやく理解したハジメだった。知らず知らずのうちに致死率100パーセントの魔物肉を食べたのだ。涙目になるのも仕方がないだろう。だが、食にうるさい日本人であるハジメや皐月にとっては美味しいか美味しくないかが全てであるし、既に毒されたユエも同じだ
「死なないんだからいちいち小さい事を気にするなよ。美味しいから全てを帳消しにしてくれるだろ?」
「日本人って食にうるさいと本当に実感するわよね」
「・・・美味しいは正義」
「うぅ、確かに美味しいですけど・・・。あれ?このにおいって」
「「ニルシッシル!」」
「・・・いい匂い」
ハジメ達が振り向いた先には、三つの鍋を持った深月だった
「そろそろお腹が空かれると思いましたので、厨房を借りて"カレー"を作ってみました」
「「ん?カレーって言った?」」
「はい♪ウコンに似た物がありましたので、採取してそれを使っています。勿論、念の為に清潔で毒抜きはしていますよ?」
「カレー粉の黄色ってウコンだったの!?」
「ありがとうございます深月様!」
奇麗な土下座で感謝するハジメ。ニルシッシルもカレーの類似ではあるが、やっぱり黄土色のカレーがなじみ深いのだ。胃袋を掴まれているハジメ達は、座って待機。深月が各自に配膳して全員に行き渡り、お約束の感謝の言葉を
「「「「「いただきます(ですぅ)」」」」」
スプーンで米とルーを掬い、匂いを堪能して一口。爽やかな味わいから舌に来る刺激、しっかりと噛みしめて食べ終える一口
「やっぱりカレーはこれなんだよ!」
「はふぅ~、一口だけなのに体中に力を漲らせるわ」
「・・・辛いけど美味しい」
「食べる手が止まりません!」
「シアさん、魔物肉は入っていませんので安心してくださいね?」
バクバクと食べていると、畑山と生徒がハジメ達の元へと近づく
「南雲君、準備はどうですか?何か、必要なものはありますか?」
「いや、何も問題ねぇよ」
畑山の方を見ずに食事を続けるハジメ達。普段なら「こっち見て返事しろよ」と言いそうな生徒達が何故黙っているのかというと、全員がハジメ達の食べている物に目が奪われているからだ
「な、なぁ・・・南雲。そ、それって・・・カレーだよな?カレーだよな!?」
「ニルシッシルじゃない・・・だと!?」
「あの色・・・この匂い・・・間違いない!カレーだ!!」
「いいなぁ」
「飯テロ!」
「神楽さんが作ったの・・・?カレー粉とかは無いのに・・・どうやって?」
欲しそうに一点を見つめる生徒達。畑山もチラチラと見るが、大人として我慢している。しかし、体は正直だ。彼らはジリジリとにじり寄ってきている
「おい、もしもそのカレーに手を付けたらこいつが火を噴くぞ?」
ドンナーを手に持ち、凶悪な顔をするハジメ。お代わりする気満々な彼は、カレーに手を付けたら本気で撃つだろう。それ程までに食は人を変える
生徒達はウッと足を止めるが、涎を零す口が汚い。その光景に見るに見かねた皐月は諦めた
「男子達は我慢出来るとして、女子達なら少しぐらい分けてもいいわよ」
「「「ありがとう高坂さん!」」」
「「「あんまりだああああああああ!」」」
土下座で感謝する女子と、膝を付いて崩れ落ちる男子。だが、ここで天使の様な悪魔が男子達に唆す
「こちらのカレーなら大丈夫ですよ?」
男子達の前に置かれる鍋に入っているのは、色も匂いも普通のカレー。皐月は全てを察して、女子達を連れて自分の皿から取る様に促す。男子達は、ハジメが錬成で創った皿を持って深月の近くに待機する。因みに、この時のハジメの顔はあくどい笑みを浮かべていた
女子達は先にカレーを食べて、懐かしき味に心打たれる者や、泣く者、研究する者が居た。畑山も皐月に引っ張られてこちらの仲間入りしている。男子達は早く早くと深月を急かし、全員分が配膳されたのだった
「食べるのは構いませんが、ちゃんと残さずに食べて下さいね?残そうとしたら、無理やりでも食べさせます」
シアはいつかの出来事を思い出したのか、顔を青白くさせてユエに介抱されている。ハジメと皐月はニヤニヤと見守る。何も知らない畑山と女子生徒は不思議そうに見ている
「大丈夫だって神楽さん。俺は激辛麻婆豆腐を食べても平気な男だぜ?」
「少しぐらい辛くても男なら食べるって!」
「カレーが辛いのは当然だ!辛くないカレーはカレーじゃない!」
露骨にフラグを建てまくる男子達を無視して、深月は自分のお代わり分を入れて普通に食べる
「「「いただきます!!」」」
三人同時に一口食べ――――――
「「「ぐっはあああああああああ!」」」
地面に手を付いて、尋常じゃない汗を掻いて体を震わせる
「い、痛い!グホッ!ゲホガホッ!」
「水!水!水うううううううう!?ゴクッゴクッ ゲッハァアアアアア!染みるぅううううう!?」
「これカレーじゃない!ゴフッ!こ、これは兵器だっ!」
物凄く悶絶する男子達を見て何事も無い様にパクパクと食べている深月。女子生徒達は不思議に思って、深月に一言入れて皿から一口だけ貰い―――――
「「「グホッ!?ゲホゲホッ!い、痛い!痛い痛い痛い!?」」」
悶絶する
「駄目だ食えねぇ!これ以上は無理だぁ!!」
だが、それを許さないのが深月である
「逃がしませんよ。私は言いましたよね?"ちゃんと残さずに食べて下さいね?残そうとしたら、無理やりでも食べさせます"と」
男子達は顔を青褪めさせて逃げようとするが、三人共拘束されて正座で固定されてしまった
「本職メイドのあーんは嬉しいですよね?残さず食べましょうね?」
一人一人に零さず丁寧に食べさせる深月。男子達は奇声を発しながら食べ進めて、食べ終えた時には真っ白に燃え尽きていたのはお約束
夜も明け日が昇り始めた。それぞれが出来る事をする為に動き出す。怒涛の一日が始まった
布団「麻婆豆腐の次はカレーですか」
深月「作者さんも食べますか?」モッキュモッキュ
布団「劇物を人に勧めるな!?」
深月「美味しいですよ?」モッキュモッキュ
布団「味覚は人それぞれ!押し付け良くない!?」
深月「むぅ、そう言われてしまうと無理強いは出来ませんね」
布団(助かった・・・)
深月「それでは、感想、評価、お気軽にどうぞです」モッキュモッキュ
布団「せめて食べる手は止めようね?」
深月「なら一緒に食べましょう!」
布団「アッ!ヤメッ!ッアーーーーーーーーーー!」