ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】 作:ぬくぬく布団
~皐月side~
「ふむ。それにしても、ご主人様、ユエよ。本当に良かったのか?」
「・・・敢えて突っ込まないけれど、シアの事かしら?」
「うむ。もしかすると今頃、色々進展しているかもしれんよ?二人が思う以上にの?」
「大丈夫よ。ハジメを想った行動なら良いし、ウザったいと思わなければ良いの」
「・・・シアはあれから一歩引いて全体を見ている」
「でも・・・昨日の覗きは良くなかったわ。ティオはそこの所分かっているのかしら?」
「あっふん!その冷たい眼差し堪らん!!」
冷めた目でティオを見る皐月。現在三人は買い出しという名の観光をしている。宝物庫に沢山の物資を保管しているので消費した分よりも、補充のペースの方が早いのだ。一体何処で補給しているのかというと、旅路でちょくちょく深月が手に入れているのだ。実はこの中には魔物肉も含まれているのだ
彼女等はブティックで展示品を品定めしており、三人しか居ないので腹を割って話をしているのだ
「私はハーレムを容認しているのよ」
「・・・正妻は皐月。・・・私は側室」
「ふむ。昨夜の様子から見るに・・・一人では体が保たないといった所かの?」
「そうなのよ・・・初めての時は死ぬかと思った位よ。深月が助けに入らなかったら危なかったわ」
「・・・もしもシアが入るなら嬉しい」
「そうよね~。そろそろ入ってくれると嬉しいわ」
「ん?なら何故昨夜の覗きについて怒ったのじゃ?」
「・・・恥ずかしいから」
「後は、ハジメがシアのハーレム入りを容認すれば良いだけよ」
「・・・妾も入れるかのう?」
「・・・変態は駄目」
「ユエ、逆に考えるのよ。例え入ったとしても、この変態にはお預けが一番なのよ」
生々しい話をしながらブティック鑑賞を済ませて外に出た直後
ドガシャン!!
「ぐへっ!!」
「ぷぎゃあ!!」
すぐ近くの建物の壁が破壊され、そこから二人の男が顔面で地面を削りながら悲鳴を上げて転がり出てきた。更に、同じ建物の窓を割りながら数人の男が同じように悲鳴を上げながらピンボールのように吹き飛ばされてくる。その建物の中からは壮絶な破壊音が響き渡っており、その度に建物が激震し外壁がひび割れ砕け落ちていく
建物は度重なるダメージを前に、とうとう自壊してしまった。野次馬が悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らす様に距離を取る中、皐月とユエとティオは聞き慣れた声と気配があった
「ああ、やっぱり三人の気配だったか・・・」
「あれ?皐月さんとユエさんとティオさん?どうしてこんな所に?」
「何をやっているのよ。・・・こんなド派手なデートが良かったの?」
「・・・それはこっちのセリフ・・・デートにしては過激すぎ」
「全くじゃのぉ~、で?ご主人様よ。今度は、どんなトラブルに巻き込まれたのじゃ?」
「あはは、私もこんなデートは想定していなかったんですが・・・成り行きで・・・ちょっと人身売買している組織の関連施設を潰し回っていまして・・・」
「何で潰そうと思ったのよ?何時もなら無関係を貫くのに・・・」
「・・・成り行きで裏の組織と喧嘩?」
皐月とユエは呆れた表情をして、ハジメに事情説明を求める
「実はな・・・」
ハジメ達がデートを開始。メアシュタットという水族館?を見て終わり、町を散策中に気配感知に何かが引っ掛かったのだ。常に気配感知を使っているから疑問に思うのだが、反応があったのは地下・・・下水道だった。気配も小さく弱い事から子供と分かり、シアに求められるがままその場所へ向かって拾ったのが三~四歳程の海人族子供だった。それから名前を聞いて、お風呂に入れて体を綺麗にして串焼きを食べさせて保安所に預けた。それだけなら良かったのだが・・・ハジメ達と離れたくなかったのか、駄々をこねて中々離れなかったが無理矢理預け終えてデートの続きとなった。しかし、事態は急展開を迎えた。保安所は爆破されて、海人族の女の子"ミュウ"が連れ去られてしまった。しかも、返して欲しいのならばシアを寄こせとの事らしく、現在進行形で潰して回っているという
「子供・・・ね。当たり前だけど、助けられたらヒーローみたいに思われるわよ。自分を守ってくれると思ったから離れたくなかったのでしょうね・・・」
「俺のわがままを聞いてくれるか?」
「良いわ。でも、これは時間との勝負になりそうね・・・問題行動にも発展する可能性も否めないから一度冒険者ギルドに行くわよ。何も言わずに破壊行為を行ったとすれば、後ろ盾も何もヘッタクレも無いわ」
「よし、急ぐぞ!」
ハジメ達は急ぎ冒険者ギルドへと向かった
冒険者ギルドに急ぎ走ったハジメは、この事を直接イルワに話を通す為に直行する。ギルド職員もハジメ達が直接ギルド長に訪れる事を了承しているらしく、何も言わずにすんなりと部屋の前まで辿り着いた
「俺だ。ちょっと急用で来たんだが、今良いか?」
ノックして返答を待つと、今回は直ぐに扉が開き中へ招かれた。部屋の中に居たのは、イルワとドット、そして何故か深月が居たのだ。最初の二人については居るだろうと確信していたが、深月が居る事は予想外だったのか目を見開いて驚いていた
「どうして深月がここに居るんだ・・・」
「深月は一体どうしてここに居るのかしら?」
率直な疑問を深月に尋ねると、予想の斜め上を行く言葉だった
「お二人を交えてフリートホーフを駆除しても良いかと判断を仰いでいたのです」
「「「「フリートホーフ?」」」」
聞いた事の無い名前に疑問を浮かべるハジメ達
「フリートホーフは裏組織・・・人身売買をしている総元締をしている組織と言った方が良いかな?」
「シアさんを狙う可能性が特大の輩ですので駆除する為の許可を貰ったばかりなのです」
「いやぁ~、深月君にはとても助かるよ。このフリートホーフにはこちらも手をこまねいていてね・・・一斉に取り締まれないのが現状なんだよ」
「そうか」
「丁度良いわね」
「ん?シア君が狙われたのかい?」
「直接ではないがな」
ハジメは皐月達にした説明と同じ内容をイルワ達に話した
「海人族か・・・」
「オークションが始まってしまえば足取りが着かなくなる恐れがあります」
「私一人でも駆除できますが?」
深月が言うのであれば出来るのだろう。だが、大切な者に手を出した輩に何もせずに待つ事をしないのはありえない
「いや、俺達もそいつ等を潰す」
「こういう奴等は改心する事は絶対に無いわ。殺処分が一番良い解決方法ね」
「ミュウちゃんを絶対に助けます!」
「・・・二人がやるなら私もやる」
「妾も一緒にやるのじゃ」
ハジメ達も参加する事が決定した。深月は、イルワの机の上に広げられた地図に印を付ける
「私が印を付けた場所がフリートホーフの拠点達です。ただし、昨日の情報収集でこれだけしか集める事が出来ませんでしたので全てでは無いと思います」
「結構ありますね・・・」
「おーし、潰す。俺達の大切な者に手を出したんだ」
「誰一人容赦せずにド頭をぶち抜くわ。子供を食い物にするなんて許せないし」
「何かあったら念話しろよ?まぁ・・・無いとは思うがな」
ギルド長の部屋から踵を返し、二人三組で行動する事となった。ハジメとユエ、皐月とシア、深月とティオで組み、各組が拠点を潰して回る
~深月side~
商業区の外壁に近く、薄暗く、道行く人々もどこか陰気な雰囲気を放つ場所。その一角の七階建ての大きな建物、表向きは人材派遣を商いとしているが、裏では人身売買の総元締をしている裏組織"フリートホーフ"の本拠地で騒然とした雰囲気で激しく人が出入りしていた
「ふざんけてんじゃねぇぞ!アァ!?てめぇ、もう一度言ってみやがれ!」
「ひぃ!で、ですから、潰されたアジトは既に五十軒を超えました。襲ってきてるのは二人組が三組です!」
「じゃあ、何か?たった六人のクソ共にフリートホーフがいいように殺られてるってのか?あぁ?」
「そ、そうなりまッへぶ!?」
室内で怒鳴り声が響き、ドガッ!と何かがぶつかる音がして一瞬静かになる。どうやら報告していた男が、怒鳴っていた男に殴り倒されでもした様だ
「てめぇら、何としてでも、そのクソ共を生きて俺の前に連れて来い。生きてさえいれば状態は問わねぇ。このままじゃあ、フリートホーフのメンツは丸潰れだ。そいつらに生きたまま地獄を見せて、見せしめにする必要がある。連れてきたヤツには、報酬に五百万ルタを即金で出してやる!一人につき、だ!全ての構成員に伝えろ!」
男の号令と共に、室内が慌ただしくなり男の指示通り、組織の構成員全員に伝令する為部屋から出ていこうとしたが
ドガガガガガガガガガガガガ!
建物の屋上から何かが降り注ぎ、構成員に伝令する為に部屋から出ようとした者達全てが肉片となった。いきなりの光景に目が点となるフリートホーフの頭、ハンセン。そして、ヒュンッと一瞬だけ聞こえた何かを引っ張る音を皮切りに男の周りの建物が切断された
「何だこれはああああああ!」
切断して崩れた周りに続く様に、ハンセンが立っていた場所も崩れ落ちた。何とか生き残った男の目の前に居たのは二人―――――深月とティオの二人だった
「・・・てめぇら、例の襲撃者の一味か・・・その容姿・・・チッ、リストに上がっていた奴らじゃねぇか。深月にティオだったか?あと、ハジメと皐月とユエとシアかいうやつらも居たな・・・成程見た目は極上だ。おい、今すぐ投降するなら、命だけは助けてやるぞ?まさか、フリートホーフの本拠地に手を出して生きて帰れるとは思ってッ!?『ヒュンッ!』グギャアアア!!!」
好色そうな眼で深月とティオを見ながらペチャクチャと話し始めたハンセンの指が一本切断された
「生き残りは貴方だけですのでどうする事も出来ませんよ?」
「バカな事を言ってんじゃ――――」
「後ろを見るんじゃな」
「後ろだ・・・と・・・」
ハンセンが後ろへと振り返ると、首吊り死体が沢山出来上がっていた。深月の魔力糸超便利である
建物に入ろうとした構成員の殆どを捕まえて、情報を聞き出した後に魔力糸で首を吊ったのだ。目に入る沢山の首吊り死体に驚愕して言葉も出ないハンセン
「本当に裏組織の構成員かと疑いましたよ?全く教育が出来ていませんね。組織の拠点が潰されている程度で狼狽えて、本部まで案内とは・・・本当に組織の一員という自覚があるのでしょうか」
ヤレヤレと残念そうに溜息を吐いてつい独り言が漏れる
「本当の裏組織の者は一般人と何ら遜色ない装いと仕草で連絡をするものですよ?一つの日常の動作、例えるなら手洗いの洗濯が良いですね。洗いをしながら瞬きの間隔と数で連絡が出来ます。貴方方の組織とは、子供でも思いつくお遊びのそれと同義です」
この場に居るティオとハンセンは心の内で「そんな事あるか!」と叫びたいが、深月の用意周到さと無慈悲な攻撃を見た後なら何も言えない程だ。まるで、本当に体験したかの様な言い草だから
「た、たのむ。助けてくれぇ!金なら好きに持って行っていい!もう、お前らに関わったりもしない!だから助けてぐぎゃああああああああ!!」
「私が何時、その口を開いて良いと言いましたか?貴方に残された選択肢は、黙って私に情報をもたらす事だけですよ」
手首から先を切り落とす深月。その目は無機質で、作業をこなすだけの機械的なものだった。あまりの不気味さと今まで味わった事の無い言い知れぬ感覚に襲われ、ハンセンは自分の命惜しさにペラペラと自白していった
"こちら深月です。フリートホーフの本拠地をたった今壊滅させました。頭が言うには観光区の近くにあるそうです。門番に黒服を着た巨漢が居るので目印には丁度良いかと思われます"
"観光区は私とシアが近くに居るから向かうわ。ハジメ達は残りの拠点を全て潰して回ってね"
"情報ありがとうございます!皐月さんと向かいます!"
"真正面から行くなよ?絶対に皐月に従って行動しろ。見つかりでもしたら移送される可能性があるんだからな"
"了解ですぅ!"
念話で連絡を取り終え、ハンセンへと向き直る深月。ハンセンは出血多量で顔を青くしており、意識が朦朧とし始めている
「た、助け・・・医者を・・・」
「将来性のある子供達を食い物として、さぞ懐が温かくなったのでしょう?今は出血多量で体中が寒くなってきているので、温めて差し上げましょう」
熱量操作でハンセンの体を温める深月。だが、ハンセンは更なる恐怖を魂に刻み込まれる事となる
「な、なぁ。熱いんだ・・・もう温めなくても・・・」
「この世界には電子レンジが無いので理解できないのでしょうが、そんな貴方にも解りやすく説明してあげましょう。人体は殆どが水分で出来ています。それが蒸発すればどうなるか・・・とても簡単です♪体が破裂するだけですから」
熱量を更に上げて、電子レンジの要領で温めていく
「あっぎああああああああああああああ!やめでぐれえええええええええ!」
ボコボコと徐々に体が膨れ上がる怪奇な光景と、自分の体を焼く熱に絶叫が漏れる
「貴方方は今までやめてくれと言った子供達に対して何かしましたか?何もしていませんよね?ですので、その罰が回ってきたという事ですよ」
熱量を一気に上げた深月。ハンセンの体は一気に膨張して破裂、大量の血と内臓が至る所に飛び散る光景は絶対に見ない光景だろう。血を浴びない様に魔力糸で壁を創った事で、ティオは汚れる事は無かった。深月はハンセンを掴んでいた右腕だけが真っ赤に濡れていた
「・・・深月よ。妾にはあの様な事は・・・」
「しませんよ?」
「ホッ・・・」
「敵に回らなければですがね?」
「絶対に敵にはならないのじゃ!」
その後、深月は清潔で綺麗サッパリにしてハジメ達に合流した
~皐月side~
深月からオークション会場の様相を聞いた皐月とシアは遂に目的の場所へと到着。深月からもたらされた情報通りで、黒服を着た巨漢が門番をしていた
「シアこっちに来なさい」
「気配を殺して入らないんですか?」
「深月みたいに溶け込ませる事が出来るの?」
「無理です」
「時間が押しているから錬成で地下へと潜るから静かにしててよ?」
裏路地に移動して、誰にもバレない様に錬成で地下へと侵入した。気配遮断を駆使して素早く移動して行くと、地下深くに無数の牢獄を見つけた。入口に監視が一人おり居眠りをしており、首の骨をへし折って絶命させた
「あ、あの~・・・殺さなくてもいいのでは?」
「お花畑はそこまでにしておきなさい。この先に囚われている子供達の事を考慮すれば騒ぎ出す可能性は否めないわ」
「成程、確かにそうかもしれないですね」
中に入ると、人間の子供達が十人程いて、冷たい石畳の上で身を寄せ合って蹲っていた。皐月は突然入ってきた人影に怯える子供達と鉄格子越しに屈んで視線を合わせると、静かな声音で尋ねた
「ここに、海人族の女の子は来なかった?」
未だに戸惑う子供達。沈黙をしていた子供達だが、皐月の傍に珍しい兎人族が居た事で助けに来てくれたと思い込んだ様だ。すると、七、八歳くらいの少年がミュウの事を知っていたのか、皐月達に情報をもたらしてくれた
「えっと、海人族の子なら少し前に連れて行かれたんだ」
「成程。・・・シアはこの子達を頼むわ」
「わ、私が行きたいです!」
「人質として掴まれたらどうする事も出来ないでしょ!適材適所、この子達もミュウちゃん?と同じ境遇の子なのだからしっかりと守りなさい」
「うぅ~、わかりました。ミュウちゃんをお願いします!」
「それじゃあ行ってくるわ」
皐月は錬成で地上までの道を創り、シアに子供達を任せてオークション会場へと急ごうとした時、先ほどの少年が皐月を呼び止める
「姉ちゃん!助けてくれてありがとう!あの子も絶対助けてやってくれよ!すっげー怯えてたんだ。俺、なんも出来なくて・・・」
この男の子は亜人族差別をしない心優しい少年なのだろう。自分の無力に悔しそうに俯く少年の頭を、皐月は優しく撫でる
「わっ、な、なに?」
「男の子が悔しいと感じたなら強くなれば良いのよ。少なくとも、私の好きな人は無力だと思い込んでいた殻を破って強くなったわ。今回は私がするけど、もしも、今回と同じ様な事が起きたら強くなった貴方が止めればいいのよ。男の子なんだから頑張りなさい」
それだけ言って、皐月は踵を返してオークション会場へと向かった。撫でられた頭を両手で抑えていた少年は、何かを決意したかの表情でグッと握り拳を握った。シアは、その少年の姿を見て微笑ましげな眼差しを向け、子供達を連れて地上へと向かった
オークション会場は、一種異様な雰囲気に包まれていた。会場に居る客の誰もが奇妙な仮面をつけており、物音一つ立てずに、ただ目当ての商品が出てくるたびに番号札を静かに上げるのだ。素性をバラしたくないが為に、声を出すことも躊躇われるのだろう
そんな彼等ですら、その商品が出てきた瞬間、思わず驚愕の声を漏らした。出てきたのは、ハジメ達が探している海人族の幼女のミュウだった。二メートル四方の水槽に入れられ、衣服も剥ぎ取られ裸で入れられて水槽の隅で膝を抱えて縮こまっており、手足に付けられた拘束具は痛々しい光景だ。多くの視線を向けられ怯えるミュウを尻目に競りは進んでいく。ざわつく会場に、ますます縮こまるミュウは、その手に持っていた黒い布をギュッと握り締めた。それは、ハジメの眼帯だった。ミュウと別れる際、ミュウを宥めることに忙しくてすっかりその存在を忘れていたハジメは、後になって思い出し、現在は予備の眼帯を着けている
母親と引き離され、ずっと孤独と恐怖に耐えてきたミュウは、ハジメ達を遠く離れた場所で出会った優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんと思っていた。故に、保安署に預けられる事で、再び孤独になるかもしれないと思うと耐え難かったのだ。ミュウは全力で抗議した。ハジメの髪を引っ張ってやったし、頬を何度も叩いたし、目に付けた黒い布だって取って、返して欲しくばミュウと一緒にいるがいい!と。しかし、ミュウが一緒にいたかったお兄ちゃんとお姉ちゃんは、結局、ミュウを置いて行ってしまった
「お兄ちゃん・・・お姉ちゃん・・・」
もう会えないと分かっていても、縋らずにはいられない。ミュウが呟いたとき、不意に大きな音と共に水槽に衝撃が走った。すると、すぐ近くにタキシードを着て仮面をつけた男が、しきりに何か怒鳴りつけながら水槽を蹴っていた
「全く、辛気臭いガキですね。人間様の手を煩わせているんじゃありませんよ。半端者の能無しのごときが!」
震えて縮こまっていたミュウに痺れを切らしたのか、司会の男が脚立に登り上から棒をミュウ目掛けて突き降ろそうとして、その光景にミュウはギュウと目を瞑り、衝撃に備えた
「そのセリフ、そっくりそのまま返すわよ?屑男」
聞いた事の無い声。だが、凛とした温かい声はどこか懐かしさを思い出させた。声の聞こえた天井を見上げると、人影が舞い降りて司会の男を踏み潰した。衝撃的な登場をした皐月は、踏み潰した男に目もくれない
「さぁ、ここから出ましょう?私がお兄ちゃんとお姉ちゃんにもう一度会わせてあげるわ」
義手で水槽を砕き、破砕音と共に水槽が壊され中の水が流れ出す
「ひゃう!」
流れの勢いでミュウも外へと放り出されたが、皐月が優しく抱きかかえる事で怪我一つ無い
「さぁ~てと、一緒にこんなジメジメした薄暗い場所から出ましょうね?」
「・・・お兄ちゃんとお姉ちゃんにまた会える?」
「会えるわよ。私は二人の仲間なの。保安署でミュウちゃんが居なくなったからとても心配していたわよ」
「・・・うん」
「それってお兄ちゃんが付けていたやつだよね?」
「・・・うん」
「一緒に返そうね?」
「うん!」
ミュウは、皐月に抱きついてひっぐひっぐと嗚咽を漏らし始めた。子供をあやす様にミュウの背中をポンポンと叩き、道中で拝借してきた新品の毛布にくるんだ。と、二人に水を差す様に、ドタドタと黒服を着た男達が皐月とミュウを取り囲んだ。客席は、どうせ逃げられる筈が無いとでも思っているのか、ざわついてはいるものの、未だ逃げ出す様子はない
「クソアマ、フリートホーフに手を出すとは相当頭が悪いようだな。その商品を置いていくなら、苦しまずに殺してやるぞ?」
「はぁ、頭が悪いのはどちらの方か分からない様ね。ミュウちゃん、目を瞑って耳を塞いでちょうだい。私が良いと言うまでは開けたり離したりしちゃ駄目よ?」
「はいなの!」
皐月の言葉を素直に聞いて、両手で耳を塞いで目を閉じて胸元にギュッと顔を埋めた
「商品に傷をつけるな!ガキは殺せ!」
ドパンッ!
乾いた炸裂音を立てて、命令を出したリーダー格の黒服の頭部が爆ぜた。この会場に居る全ての者が「えっ?」と事態を理解できないように目を丸くして後頭部から脳髄を撒き散らして崩れ落ちる黒服を見つめる。皐月はそんな事はお構い無しに次々と発砲して、彼等が正気を取り戻す頃には十二体の頭部を爆ぜさせた死体が出来上がった
ようやく皐月の恐ろしさを知ったのか、黒服たちは後退り、客達は悲鳴を上げて我先にと出口に殺到し始めた
「お、お前、何者なんだ!何が、何で・・・こんなっ!」
「未来ある子供を食い物にして生きている貴方達がそれを言うの?まぁ本当は無視しても良かったのだけれど、私達の大事な仲間に手を出した事が全ての間違いなのよ。・・・私達が手を出すまでもなく壊滅していたのは間違いないけれどね?後は、見せしめを兼ねているのよ」
空力を使って、ホールの天井まで上がって行き、いつの間にか空いていた穴に飛び込んでそのまま建物の外まで空いた穴を通って地上へと出た皐月は念話で合図を送る
"無事にミュウちゃんを確保したわ。怪我一つ無いから安心してね?そっちはどう?"
"・・・ん。・・・今準備が出来た"
"建物からお客さんがワラワラと出てきています!"
"んじゃあ、フィナーレといくか"
皐月とのお約束を律義に守っているミュウは「もういいわよ、ミュウちゃん」という言葉に目をパチクリさせながら周囲を見渡し・・・「ふわっ!?」という驚きの声を上げた
「お姉ちゃん凄いの!お空飛んでるの!」
「正確には跳んでるんだけど・・・まぁいいか。それより、ミュウちゃん、もう少しで派手な爆発が見れるわよ?」
「爆発?」
「そろそろね。・・・耳を少しの間だけ塞いでてね?大きい音が鳴り響くから」
「はいなの!」
耳を塞ぐミュウ。遅れる様に、至る所が爆発して裏オークションの会場となっていた場所も木っ端微塵に粉砕されていった
「・・・やり過ぎね。後でお説教が必要かしら」
「爆発コワイ」
「やっぱり爆発は怖いわよね。でも、最後のは綺麗だと思うわ」
「さいご?」
すると、少し離れた場所で空に突然暗雲が立ち込め始めた。そして、雷鳴の咆吼と共に、四体の"雷龍"が出現して取り残していたフリートホーフの重要拠点四ヶ所に、雷鳴を轟かせながら同時に落ちたのだった
「それじゃあ、お兄ちゃん達に会いに行こっか!」
「うん!」
ハジメ達は冒険者ギルドに集まっており、皐月とミュウの帰りを待っていた。皐月はミュウとお話ししながら、ゆっくりと冒険者ギルドへと向かったのだった
「倒壊した建物二十二棟、半壊した建物四十四棟、消滅した建物五棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員百八十名、行方不明者百十九名・・・で?何か言い訳はあるかい?」
「町が綺麗になって良かったわ」
「はぁ~~~~~~~~~」
冒険者ギルドの応接室で、報告書片手にジト目でハジメ達を睨むイルワだったが、出された茶菓子を膝に載せた海人族の幼女と分け合いながらモリモリ食べている姿と反省の欠片もない言葉に激しく脱力する
「まさかと思うけど・・・メアシュタットの水槽やら壁やらを破壊して少女が空を飛んで逃げたという話・・・関係ないよね?」
「ミュウ、これも美味いわよ?食べてみる?」
「あ~ん」
やり過ぎ具合にそれはもうとても深い溜息を吐いて、片手が自然と胃の辺りを撫でさすり、深月お手製の胃薬がさり気なく渡されている
「まぁ、やりすぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね・・・今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね・・・はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だった・・・ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたからね・・・はぁ、保安局と連携して冒険者も色々大変になりそうだよ」
「まぁ、元々、其の辺はフューレンの行政が何とかするところだろ。今回は、たまたま身内にまで手を出されそうだったから、反撃したまでだし・・・」
「唯の反撃で、フューレンにおける裏世界三大組織の一つを半日で殲滅かい?ホント、洒落にならないね」
「一応、そういう犯罪者集団が二度と俺達に手を出さない様に、見せしめを兼ねて盛大にやったんだ。支部長も、俺等の名前使ってくれて良いんだぞ?何なら、支部長お抱えの"金"だって事にすれば・・・相当抑止力になるんじゃないか?」
「おや、良いのかい?それは凄く助かるのだけど・・・そういう利用される様なのは嫌うタイプだろう?」
「持ちつ持たれつ。そちらのお世話になるのだから、それ位は大丈夫よ。はい、あ~ん♪」
「あ~ん♪」
「・・・まぁ利用するにしても、ギルド長なら匙加減も分かっているだろ?俺等のせいで、フューレンで裏組織の戦争が起きました、一般人が巻き込まれましたってのは気分悪いしな」
「・・・ふむ。ハジメ君と皐月君、少し変わったかい?初めて会った時の君達は、仲間の事以外どうでもいいと考えている様に見えたのだけど・・・ウルで良い事でもあったのかな?」
「・・・まぁ、俺等的には悪いことばかりじゃなかったよ」
「最も、深月君に関しては全くもって変わっていないけどね!でも、主を守るメイドさんだから仕方がないよね!こんなに気遣いが出来る人材が私も欲しいよ」
「恐縮です」
因みに、ハジメ達がした行いは何も残りの裏世界の二大組織の抑止力だけではないのだ。実は皐月なのだが、顧客名簿やその他重要書類などを全て拝借してギルド長へと渡したのだ。利用していた腐った貴族達は軒並み粛清されて、平民に落ちたのは言うまでもない
そして、何よりも問題なのはミュウの扱いについてだった
「それで、そのミュウ君についてだけど・・・」
イルワがはむはむとクッキーを両手で持ってリスのように食べているミュウに視線を向ける。ビクッと反応して皐月に抱きつくミュウ。恐らく再び引き離されてしまうと感じたのだろう
「こちらで預かって、正規の手続きでエリセンに送還するか、君達に預けて依頼という形で送還してもらうか・・・二つの方法がある。君達はどっちがいいかな?」
誘拐された海人族の子供。本来ならば公的機関に預けるのだが、今回の様な事件があったので迷っているのだ。本音としては、フリートホーフを殲滅したハジメ達の傍に置いた方が安全なので任せたい。しかし、彼等も目的があって旅をしているので強制は出来ないのだ。だから、ハジメ達自身で決めてもらおうと提案したのだった
「ハジメさん、皐月さん・・・私、絶対、この子を守ってみせます。だから、一緒に・・・お願いします」
「・・・私もおねがい」
ユエとシアのお願いに沈黙するハジメと皐月だが
「お兄ちゃん、お姉ちゃん・・・一緒・・・め?」
皐月の膝の上から上目遣いでのお願いは反則である。というより、ミュウを取り返すと決めた時点で本人の自由意思にさせようと考えていたので答えは既に決まっている
「まぁ、最初からそうするつもりで助けたからな・・・ここまで情を抱かせておいて、はいさよならなんて真似は流石にしねぇよ」
「問題は山積みだけど、どうにかするしかないわね。何より、こんなに幼い子が母親と離れ離れというのは可哀想なのよね」
「ハジメさん!皐月さん!」
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!」
満面の笑みで喜びを表にするシアとミュウ。問題としては【海上の都市エリセン】に行く前に【大火山】の大迷宮を攻略しなければならないだ。追々でどうにかするしかないなと覚悟を決めてミュウの同行を許すのだった
「ただな、ミュウ。そのお兄ちゃんってのは止めてくれないか?普通にハジメでいい。何というかむず痒いんだよ、その呼び方」
喜びを露にするミュウ。だが、オタクのハジメは"お兄ちゃん"呼びに色々と何かクルものがあったのか、変更を求める
「お兄ちゃんで良いじゃない。あ、そういえば私達の名前を教えていなかったわね。私は高坂皐月よ。そして、あそこに居るメイドが神楽深月、私専属のメイドなのよ?」
「・・・私の名前はユエ」
「皐月お姉ちゃん?深月お姉ちゃん?ユエお姉ちゃん?」
「よく言えました!えらいえらい♪」
ミュウの頭をナデナデする皐月。だが、ここでとんでもない爆弾が投下される
「ん~・・・ママ!」
『 』
この場に居る全員が固まった。皐月も予想の遥か斜め上の呼び方に固まっている
「ふっ、一児の母親になったな・・・皐月」
「お兄ちゃんはパパなの!」
『 』
再び全員が固まった
「・・・・・な、何だって?悪い、ミュウ。よく聞こえなかったんだ。もう一度頼む」
「パパ」
「・・・そ、それはあれか?海人族の言葉で"お兄ちゃん"とか"ハジメ"という意味か?」
「ううん。パパはパパなの」
「うん、ちょっと待とうか」
ハジメと皐月が目元を手で押さえ揉みほぐしている内に、シアがおずおずとミュウに何故"パパ"なのか聞いてみる
「ミュウね、パパいないの・・・ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの・・・キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにもいるのにミュウにはいないの・・・だからお兄ちゃんがパパなの」
「待って!それだとどうして皐月さんがママなんですか!?」
「う~んとね。ママは、ミュウのママにそっくりなの」
「いやいやいや!?皐月さんそっくりってどれだけ似ているんですか!?」
「えっとね?ミュウのママみたいに声が温かいの!それでね?ミュウのママみたいに優しいからママは、ママなの!」
「何となくわかったが、何が"だから"何だとツッコミたい。ミュウ。頼むからパパは勘弁してくれ。俺は、まだ十七なんだぞ?」
「やっ、パパなの!」
「わかった。もうお兄ちゃんでいい!贅沢はいわないからパパは止めてくれ!」
「やっーー!!パパはミュウのパパなのー!」
ハジメは必死に抵抗するが、皐月に止められる
「もう諦めましょう。子供は何時だって強いのよ」
「諦めるなよ皐月!?」
結局撤回する事は出来なかった。イルワ達の話を終えて宿に戻ってから、自分達もママと呼ばれたいと感じたユエとシアとティオの三人はママ呼びをお願いするも、結局、"ママ"は本物のママと皐月しか駄目らしく、ユエもシアも一応ティオも"お姉ちゃん"で落ち着いた。因みに深月も"お姉ちゃん"呼びで決定している。そして夜、ミュウたっての希望で全員で川の字になって眠る事になり、ハジメと皐月の間でミュウが眠る形で落ち着いたのだった
この日、ハジメと皐月は十七歳でパパとママになった・・・これより子連れの旅が始まる!
布団「お嬢様は子供に弱かったね」
深月「そうですね」
布団「それにしても・・・フリートホーフの頭ぇ・・・」
深月「何か問題でもありましたか?」
布団「いや・・・掃除が大変そうだな~と」
深月「掃除はお手伝いしましたよ?」
布団「アッ・・・ウン・・・ワカッタ」
深月「お嬢様がミュウさんの第二のママとなりましたか。・・・伏線回収しましたね」
布団「オ、オウ・・・意味深回で伏線張ったからね」
深月「では、次回にご期待ください!」