ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】 作:ぬくぬく布団
薄暗い地下迷宮では、激しい剣戟と爆音が響き渡る。苛烈さを増す戦闘は迷宮の壁が振動する程だ。剣線や、曲線を描いて飛び交う炎弾や炎槍、風刃や水のレーザーはまるで弾幕だ
「万象切り裂く光 吹きすさぶ断絶の風 舞い散る百花の如く渦巻き 光嵐となりて敵を刻め! "天翔裂破"!」
聖剣片手に自分を中心に光の刃を無数に放つ天之河。襲い掛かろうとしていた蝙蝠型の魔物達は細切れにされ、肉片となって地に落ちる
「前衛!カウント、十!」
「「「了解!」」」
彼らが居る場所はオルクス迷宮の八十九層。前衛を担当する天之河、坂上、八重樫、永山、檜山、近藤に、後衛からタイミングを合わせた魔法による総攻撃の発動カウントが告げられたのだ。後衛組に襲い掛かろうとする魔物達は、彼らの攻撃で打倒されていく。時々その攻撃を掻い潜って後衛組に突撃する魔物が居るが、結界師の谷口によって防がれる
「刹那の嵐よ 見えざる盾よ 荒れ狂え 吹き抜けろ 渦巻いて 全てを阻め "爆嵐壁"!」
攻撃性を持った防壁が、突撃してくる魔物達をグシャグシャにして絶命させる
「ふふん!そう簡単には通さないんだからね!」
谷口が得意気な声を出す
「後退!」
天之河の号令と共に、前衛組が一気に後退して魔物から距離を取る。次の瞬間、完璧なタイミングで後衛六人の攻撃魔法が発動。巨大な火球が魔物達に着弾して大爆発を引き起こし、刃を持った竜巻が魔物を飲み込みながら切り刻む。足元から射出される石の槍が魔物を串刺しに、氷柱の豪雨が上方より魔物の肉体に穴を穿つ
「よし!いいぞ!残りを一気に片付ける!」
九割近い魔物が倒され、残りは殆ど瀕死の重傷を負っている。天之河達前衛組が再び前に飛び出していき、残った魔物を駆逐していった
「ふぅ、次で九十層か・・・この階層の魔物も難なく倒せるようになったし・・・迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりだな」
「だからって、気を抜いちゃダメよ。この先にどんな魔物やトラップがあるかわかったものじゃないんだから」
「雫は心配しすぎってぇもんだろ?俺等ぁ、今まで誰も到達したことのない階層で余裕持って戦えてんだぜ?何が来たって蹴散らしてやんよ!それこそ魔人族が来てもな!」
感慨深そうに呟く天之河に八重樫が注意するも、脳筋の坂上が豪快に笑いながら慢心をしており、天之河と拳を付き合わせて不敵な笑みを浮かべ合っている。八重樫はその様子に溜息を吐きながら、眉間の皺を揉みほぐしていた
「檜山君、近藤君、これで治ったと思うけど・・・どう?」
内心では嫌々だが、治癒師としての役割をしっかりとこなす白崎
「・・・ああ、もう何ともない。サンキュ、白崎」
「お、おう、平気だぜ。あんがとな」
二人にお礼を言われて、「どういたしまして」と当たり障りのない返事を返して奥へと続く薄暗い通路を憂いを帯びた瞳で見つめ始めた
「・・・・・」
未だにハジメの痕跡を見つける事が出来ておらず、強い決意であっても、暗い思考に侵食され始めるには十分な時間だ。そんな白崎に八重樫が声を掛けようとする前に、ムードメーカーの谷口が背後から抱きつく
「カッオリ~ン!!そんな野郎共じゃなくて、鈴を癒して~!ぬっとりねっとりと癒して~」
「ひゃわ!鈴ちゃん!どこ触ってるの!っていうか、鈴ちゃんは怪我してないでしょ!」
「してるよぉ!鈴のガラスのハートが傷ついてるよぉ!だから甘やかして!具体的には、そのカオリンのおっぱおで!」
「お、おっぱ・・・ダメだってば!あっ、こら!やんっ!雫ちゃん、助けてぇ!」
「ハァハァ、ええのんか?ここがええのんか?お嬢ちゃん、中々にびんかッへぶ!?」
「・・・はぁ、いい加減にしなさい、鈴。男子共が立てなくなってるでしょが・・・たってるせいで・・・」
八重樫のチョップを頭上に落とされてタンコブを作ってピクピクと痙攣している谷口を、中村が苦笑いしながら介抱する
「うぅ~、ありがとう、雫ちゃん。恥ずかしかったよぉ・・・」
「よしよし、もう大丈夫。変態は私が退治したからね?」
涙目で縋り付く白崎を、八重樫が頭を撫でて癒す
「あと十層よ。・・・頑張りましょう、香織」
「うん。ありがとう、雫ちゃん」
八重樫の気遣いが、自身を支えている事に改めて実感し、瞳に込めた力をフッと抜くと目元を和らげて微笑み、感謝の意を伝える
「今なら・・・守れるかな?」
「そうね・・・きっと守れるわ。あの頃とは違うもの・・・レベルだって既にメルド団長達を超えているし・・・でも、ふふ、もしかしたら彼等の方が強くなっているかもしれないわね?あの時だって、結局、私達が助けてもらったのだし」
「ふふ、もう・・・雫ちゃんったら・・・」
ハジメ達の生存を信じる白崎と八重樫。八重樫の冗談めいた言葉だが、これは的を射ており、後に色んな意味で度肝を抜かれるのだが・・・その事を知るのはもう少し先の話である
現在この場に居るのは、天之河、白崎、八重樫、坂上、谷口、中村、永山を含める五人及び檜山達四人の十五人の面子である。メルド達は七十層で待機している。実は、三十層と七十層をつなぐ転移魔法陣が発見され、深層への行き来が楽になったのだ。しかし、メルド達のステータスでは七十層より下の階層は限界だったのだ。元々、六十層を越えた付近で、天之河達に付き合える団員はメルドを含めて僅か数人だったからである
メルドは天之河達に迷宮でのノウハウを既に教えきっていた事もあったので、自分達は転移陣の周囲で安全地帯の確保に努める事にしたのだ。たったの四か月程度で自身を超えられた事に苦笑いを浮かべていたが、天之河達と付き合う事で、七十階層でも安全を確保出来る程の実力を自分達も付けられた事に喜んでいた
因みに、現在の天之河達のステータスはこんな感じである
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天之河光輝 17歳 男 レベル:72
天職:勇者
筋力:880
体力:880
耐性:880
敏捷:880
魔力:880
魔耐:880
技能:全属性適正[+光属性効果上昇][+発動速度上昇] 全属性耐性[+光属性効果上昇] 物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和] 複合魔法 剣術 剛力 縮地 先読 高速魔力回復 気配感知 魔力感知 限界突破 言語理解
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坂上龍太郎 17歳 男 レベル:72
天職:拳士
筋力:820
体力:820
耐性:680
敏捷:550
魔力:280
魔耐:280
技能:格闘術[+身体強化][+部分強化][+集中強化][+浸透破壊] 縮地 物理耐性[+金剛] 全属性耐性 言語理解
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八重樫雫 17歳 女 レベル:72
天職:剣士
筋力:450
体力:560
耐性:320
敏捷:1110
魔力:380
魔耐:380
技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇] 縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子] 先読 気配感知 隠業[+幻撃] 言語理解
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白崎香織 17歳 女 レベル:72
天職:治癒師
筋力:280
体力:460
耐性:360
敏捷:380
魔力:1380
魔耐:1380
技能:回復魔法[+効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動] 光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動] 高速魔力回復[+瞑想] 言語理解
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白崎に関しては、回復魔法と光属性魔法が極まっていた。特に回復魔法に関してはすさまじいの一言。これ程までに成長したのは寝る間も惜しんで、ひたすら自分の出来ることを愚直に繰り返してきた結果なのだ
「そろそろ、出発したいんだけど・・・いいか?」
天之河達は、白崎と八重樫を促して探索を開始する。九割探索し終え、残りの場所を探索すると一行は階段を発見した。トラップの有無を確かめながら慎重に薄暗い螺旋階段を降りていき、遂に九十階層まで到着した
警戒しながらゆっくりと探索を始める一行だが、少しして違和感を感じた
「・・・どうなってる?」
「・・・何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」
天之河達が探索し始めてから約三時間、魔物が一体も姿を現さないのだ。いくら何でもおかしいと感じ始めた一行
「・・・なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」
「・・・光輝。一度、戻らない?何だか嫌な予感がするわ。メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし」
「大丈夫だ雫。今の俺達ならこの程度異常だろうと乗り越えられる!」
「光輝の言う通りだぜ。確かに不気味だが、今の俺達なら問題ないぜ!」
「・・・はぁ、分かったわよ。でも、何かしら見つけたら撤退しましょう。無計画で進むには危険すぎるわ」
すると、辺りを観察していたメンバーの何人かが何かを見つけた様だ
「これ・・・血・・・だよな?」
「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど・・・あちこち付いているよ」
「おいおい・・・これ・・・結構な量なんじゃ・・・」
青ざめるメンバーの中から永山が進み出て、血と思しき液体に指を這わせて指に付着した血をすり合わせたり、臭いを嗅いだりして詳しく確認する
「天之河・・・八重樫の提案に従った方がいい・・・これは魔物の血だ。それも真新しい」
「そりゃあ、魔物の血があるって事は、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど・・・いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」
「天之河・・・魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にも関わらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり・・・」
「・・・何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したって事ね?」
八重樫の言葉に、二人を除く全員がハッとした表情になって警戒レベルを最大に引き上げた
「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど・・・人であると考えたほうが自然って事か・・・そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは・・・」
「ここが終着点という事さ」
天之河の言葉に引き継ぐ様に、女性が発する男口調のハスキーな声色が響き渡った。咄嗟に戦闘態勢に入り、声のする方に視線を向けると、奥の闇からゆらりと現れたのは燃えるような赤い髪をした妙齢の女。その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった
「・・・魔人族」
「それで?勇者はあんたでいいんだよね?そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたで」
「あ、アホ・・・う、煩い!魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ!それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」
「はぁ~、こんなの絶対いらないだろうに・・・まぁ、命令だし仕方ないか・・・あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」
「な、なに?来ないかって・・・どう言う意味だ!」
「呑み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇するよ?」
魔人族のいきなりの提案に理解が追い付かず、クラスメイト達は自然と光輝に注目し、光輝は、呆けた表情をキッと引き締め直すと魔人族の女を睨み付けた
「断る!人間族を・・・仲間達を・・・王国の人達を・・・裏切れなんて、よくもそんな事が言えたな!やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ!わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、一人でやって来るなんて愚かだったな!多勢に無勢だ。投降しろ!」
「あっそ・・・一応、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど?それでも?」
「答えは同じだ!何度言われても、裏切るつもりなんて一切ない!」
仲間には相談せずに断言する天之河。しかし、八重樫や永山は小さく舌打ちを鳴らした。二人は一度、嘘をついて魔人族の女に迎合してでも場所を変えるべきだと考えていたのだが、その考えを光輝に伝える前に彼が怒り任せに答えを示してしまったので、仕方なく不測の事態に備えているのだ
「そう。なら、もう用はないよ。あと、一応、言っておくけど・・・あんたの勧誘は最優先事項ってわけじゃないから、殺されないなんて甘い事は考えないことだね。ルトス、ハベル、エンキ。餌の時間だよ!」
魔人族の女の号令と同時に襲い掛かった衝撃。バリンッ!という破砕音と共に、雫と永山が苦悶の声を上げて吹き飛ぶのは同時だった
「ぐっ!?」
「がっ!?」
二人は近くの空間が歪んだ事に咄嗟に防御に回るが、相手の攻撃が予想以上に重かった為に地面に吹き飛ばされてしまったのだ。特に、八重樫は攻撃を受けない事を前提としたスピードファイターなので脆く、防御を崩され腹部を浅く裂かれた上に肺の空気を強制的に排出させられる程強く叩き付けられたのだ
永山は重格闘家という天職で、格闘系天職の中でも特に防御に適性があるのだが、その永山でさえ防御を突破されて深々と両腕を切り裂かれ血飛沫を撒き散らしながら吹き飛んだのだ。たまたま檜山達が後方に居た事で地面に衝突する追加ダメージを免れたのだが、それでも傷は深い
これを皮切りに、天之河達と魔人族の女の戦闘が開始した
八十九層の最奥付近の部屋・・・天之河達は魔人族の女が操る魔物の猛攻の前に撤退を余儀なくされた。しかし、半数近くの仲間がやられたのだ。完全に石化した者や、半身が石化した者。もしくは重傷、倦怠感を募らせている者と様々だ
「ふぅ、何とか上手くカモフラージュ出来たと思う。流石に、あんな繊細な魔法行使なんてしたことないから疲れたよ・・・もう限界」
「壁を違和感なく変形させるなんて領分違いだものね・・・一から魔法陣を構築してやったんだから無理もないよ。お疲れ様」
「そっちこそ、石化を完全に解くのは骨が折れたろ?お疲れ」
野村の天職は土術師。天之河達が身を隠しているのは迷宮の一角で、その入り口を土魔法でカモフラージュして隠れているのだ
「お疲れ様、野村君。これで少しは時間が稼げそうね」
「・・・だといいんだけど。もう、ここまで来たら回復するまで見つからない事を祈るしかないな。浩介の方は・・・あっちも祈るしかないか」
「・・・浩介なら大丈夫だ。影の薄さでは誰にも負けない」
「いや、重吾。それ、聞いてるだけで悲しくなるから口にしてやるなよ・・・」
彼等が話している人物―――――遠藤浩介は天職が暗殺者なのだが、地球に居た時から影が薄く、自動ドアにも認識されなかった時がある程の影の薄い者なのだ。因みに、深月は一度たりともその姿を見失った事は無いのだが・・・鍛えれば自分を超える程の力量になるとの事だ
そんな彼が七十層に居るメルド達に事の次第を伝えに行ったのである。皆と別れる時に、遠藤は少し涙目だったが・・・きっと、仲間を置いて一人撤退することに感じるものがあったに違いない。・・・多分
「白崎さん。近藤君と斉藤君の石化解除は任せるね。私じゃ時間がかかりすぎるから。代わりに他の皆の治癒は私がするからさ」
「うん、分かった。無理しないでね、辻さん」
「平気平気。というかそれはこっちのセリフだって・・・ごめんね。私がもっと出来れば、白崎さんの負担も減らせるのに・・・」
野村達が話している傍らで魔力回復薬を服用する辻を、何とも言えない表情で見つめている野村
「・・・こんな状況だ。伝えたい事があるなら伝えておけ」
「・・・うっせぇよ」
野村はぶっきらぼうに返事を返すだけだった
遠藤は走る。走って、走って、走って・・・メルド達騎士団が居る場所まで走って到着した
「団長!俺です!気づいてください!大変なんです!」
「うおっ!?何だ!?敵襲かっ!?」
「だから、俺ですって!マジそういうの勘弁して下さい!」
「えっ?って、浩介じゃないか。驚かせるなよ。ていうか他の連中はどうした?それに、何かお前ボロボロじゃないか?」
「ですから、大変なんです!」
遠藤は何があったのかをメルドに話した。魔人族が襲い掛かって来た事、仲間の半数が重傷を負った事、天之河でも歯が立たなかった事、自分に希望を託して送り出した事を話した
「泣くな、浩介。お前は、お前にしか出来ないことをやり遂げんたんだ。他の誰が、そんな短時間で一度も戦わずに二十層も走破出来る?お前はよくやった。よく伝えてくれた」
「団長・・・俺、俺はこのまま戻ります。あいつらは自力で戻るっていってたけど・・・今度は負けないっていってたけど・・・天之河が"限界突破"を使っても倒しきれなかったんだ。逃げるので精一杯だったんだ。みんな、かなり消耗してるし、傷が治っても・・・今度、襲われたら・・・あのクソったれな魔物だってあれで全部かはわからないし・・・だから、先に地上に戻って、この事を伝えて下さい」
泣いた事を恥じるように、袖で目元をぐしぐしとこすると、遠藤は決然とした表情でメルドに告げる。メルド達騎士団は悔しそうに表情を歪めながら、回復薬の入った道具袋を遠藤に託した
「すまないな、浩介。一緒に、助けに行きたいのは山々だが・・・私達じゃあ、足でまといにしかならない・・・」
「あ、いや、気にしないで下さいよ。大分、薬系も少なくなってるだろうし、これだけでも助かります」
「・・・浩介。私は今から、最低なことを言う。軽蔑してくれて構わないし、それが当然だ。だが、どうか聞いて欲しい」
「えっ?いきなり何を・・・」
「・・・何があっても、"光輝"だけは連れ帰ってくれ」
「え?」
メルドの言葉に、遠藤はキョトンとしてしまう
「浩介。今のお前達ですら窮地に追い込まれるほど魔物が強力になっているというのなら…光輝を失った人間族に未来はない。もちろん、お前達全員が切り抜けて再会できると信じているし、そうあって欲しい・・・だが、それでも私は、ハイリヒ王国騎士団団長として言わねばならない。万一の時は、"光輝"を生かしてくれ」
「・・・俺達は、天之河のおまけですか?」
「断じて、違う。私とて、全員に生き残って欲しいと思っているのは本当だ。いや、こんな言葉に力はないな・・・浩介、せめて今の言葉を雫と龍太郎には伝えて欲しい」
「・・・」
遠藤はメルドに裏切られた様な気持ちに襲われた。だが、この世界では誰よりも信頼している人物で、本心で言っていないのは理解出来ていたので衝動のまま罵る事はしなかった遠藤は、暗い表情のままコクリと頷くだけで踵を返した瞬間―――――
「浩介ッ!?」
「えっ!?」
メルドが遠藤を弾き飛ばすと、ギャリィイイ!!という金属同士が擦れ合う様な音を響かせて、円を描く様にその手に持つ剣を振るった。そして、クルリと一回転して遠心力の付いた回し蹴りを揺らめく空間に向けて放つ。ドガッ!という音を立てて揺らめく空間は後方へと吹き飛ばされ、五メートル程だろうか、地面に無数の爪痕が刻み込まれた。遠藤は顔を青くした
「そ、そんな。もう追いついて・・・」
闇の奥から現れた魔人族の女は、遠藤を見て舌打ちをした
「チッ。一人だけか・・・逃げるなら転移陣のあるこの部屋まで来るかと思ったんだけど・・・様子から見て、どこかに隠れたようだね」
四つ目狼の背に乗って現れた魔人族の女に警戒する騎士団。彼女の予測では、天之河達がこの転移陣へと逃げ込むと考えていたが、予想が外れたのだ
「まぁ、任務もあるし・・・さっさとあんたら殺して探し出すかね」
直後、魔物達が一斉に襲い掛かる
「円陣を組め!転移陣を死守する!浩介ッ!いつまで無様を晒している気だ!さっさと立ち上がって・・・逃げろ!地上へ!」
「えっ!?」
「ボサっとするな!魔人族の事を地上に伝えろ!」
「で、でも、団長達は・・・」
「我らは・・・ここを死地とする!浩介!向こう側で転移陣を壊せ!なるべく時間は稼いでやる!」
「そ、そんな・・・」
「無力ですまない!助けてやれなくてすまない!選ぶ事しか出来なくてすまない!浩介!不甲斐ない私だが最後の願いだ!聞いてくれ!」
戸惑う遠藤。に、兄貴のように慕った男から最後だという願いが届く
「生きろぉ!」
遠藤はグッと唇を噛んで全力で踵を返し転移陣へと向かった
「させないよ!」
魔人族の女は黒猫の魔物を差し向け、自らが放つ魔法で遠藤を狙う。黒猫の背中から触手の様な弾丸が豪速で射出さるが、それをいなして躱す。だが、女が放った石の槍の魔法が直撃コースだった。避ける事も出来ないそれを前に歯を食いしばって衝撃に備えた。例え直撃したとしても走り続けてそのまま転移陣に飛び込んでやるという気概を持って。だが、その衝撃はやって来なかった。騎士団員の一人、アランが円陣から飛び出し、その身を盾にして遠藤を庇ったからだ
「ア、アランさん!」
「ぐふっ・・・いいから気にせず行け!」
腹部に槍が刺さったまま剣を振って魔物を転移陣へ近づけさせない
「チッ!雑魚のくせに粘る!お前達、あの少年を集中して狙え!」
魔人族の女が少し焦った様に改めてそう命じるが・・・既に遅かった
「ハッ、私達の勝ちだ!ハイリヒ王国の騎士を舐めるな!」
魔物の大群を差し向けるが、巧みな技と連携で魔物達の動きを阻害する
「舐めるなと言っている!」
多勢に無勢でありながら、その防御能力と粘り強さは賞賛に値するものだったが、遂に腹を石の槍で貫かれていたアランが膝を付いて崩れ落ちてしまった。それを好機と見たキメラ型の魔物が防衛線を突破しようと突撃する
「まっ・・・・・まだまだぁ!絶対に行かせん!!」
崩れ落ちていたアランが、キメラ型の魔物の足を掴んでほんの僅かな時間を邪魔する。それを無視して転移陣の上へと乗ったが、光が輝く事も無かった。遠藤が向こうで転移陣の破壊に成功したのだろう
「フッ、ここを死地と定めたのなら最後まで暴れるだけだ。お前達、ハイリヒ王国騎士団の意地を見せてやれ!」
「「「「「おう!」」」」」
メルド号令と共に部下の騎士達が威勢のいい雄叫びを以て応える。その雄叫びに込められた気迫は、一瞬とはいえ、周囲の魔物達を怯ませる程のものだったが・・・その十分後。転移陣のある七十層の部屋に再び静寂が戻った
「ちくしょう!ちくしょう!!メルドさん・・・アランさん・・・ごめん・・・ごめんなさい!」
三十階層に居た騎士達の静止を振り切って転移陣を破壊した遠藤は、急ぎ救援を求めて地上へと戻る為に走り出した
布団「と、いう事でした。・・・後書き終わりです」