ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】   作:ぬくぬく布団

42 / 102
布団「遅くなってすまない。待たせたな!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」
布団「えっ?」










メイドならば、魔人族程度ちょちょいのちょいです♪

~深月side~

 

ハジメ達は遠藤に案内されながら走る。だが如何せん、ステータスが違い過ぎる為に進行速度は遅い

 

「もっと速く走りやがれ遠藤!」

 

「勇者(笑)組って今まで何してたの?見た感じだと、ステータスが1000有るか無いかじゃない。深月、持ちなさい」

 

「では、失礼致します」

 

後ろで走っていた深月は遠藤を俵の様に担ぎ、ハジメはユエを、皐月はシアを担ぐ

 

「それではお嬢様、ハジメさん、走りますよ」

 

「俺達が追える程度でな」

 

「道中の魔物が襲って来ない様なら無視で良いわよ」

 

「殲滅しますので大丈夫です」

 

「えっ?今殲滅って言った!?ってか言ったよな!?」

 

深月を先頭にして最短距離を走って進む。自分達が走る速度よりも圧倒的に早いハジメ達を見て、遠藤は「俺って弱かったんだな・・・」と呟く程だ。そして二十階層・・・ハジメ達は転移トラップのあった一角に辿り着き、深月は躊躇う事無くグランツ鉱石に近づく

 

「ちょっと待って!そのトラップは未だ活きているんだぞ!?あの時みたいに敵が―――――」

 

遠藤の言葉も空しく、深月は触れた。足元に魔法陣が浮かび上がり、光に包まれて石橋の上に転移した。それに連動する様にベヒモスとトラウムソルジャーの群れが出現

 

「も、もう駄目だ。おしまいだ・・・」

 

圧倒的な物量に絶望する遠藤だが、深月は下層を守る様に佇むベヒモスに突撃。ハジメ達もその後に続いて走る。近づく深月に、ベヒモスが角を真っ赤にして突進するが

 

「邪魔です」

 

すれ違いざまに黒刀で首を跳ね飛ばし、側面を殴って吹き飛ばす事で邪魔な障害物を排除した。前方から襲い来るトラウムソルジャーは、ノコ状の魔力糸を伸ばし、腕を扇状に振るって一掃。たったの三つの動作で全滅した魔物に、遠藤は目が点になっていた

 

「おーおー、深月が先頭だと楽だなぁ~」

 

「深月の魔力糸・・・私も欲しいわ」

 

呑気に感想を述べる二人

更に下層へと行くと、深月がふと足を止めて下を見る。ハジメ達は感知系能力をフルに使ると、下で魔力の奔流が感じ取れた

 

「なんだ、もう終わるじゃねぇか」

 

「えっ?」

 

「限界突破よりも大きい魔力の奔流ね」

 

「皆さんも聞きますか?」

 

「えっ?」

 

何時の間にか深月の手元に魔力糸で作られたカップ・・・糸電話だった。糸は地面に向かって伸びており、恐らく地面を貫通して下の階層で何が起きているのかが分かるのだろう。五人は耳に当ててその様子を確かめる

 

『まいったね・・・あの状況で逆転なんて・・・まるで、三文芝居でも見てる気分だ』

 

聞いた事の無い声にハジメ達は、「誰だこいつ?」と頭を傾げると、遠藤が「魔人族の声・・・天之河がやったのか!」と喜んでいた。この声を聞くだけで、魔人族は慢心して逆転されたのだろうと容易に想像が付いた

 

『ごめん・・・先に逝く・・・愛してるよ、ミハイル・・・』

 

「よーし、後はゆっくり行くか」

 

「ご飯食べながら行きましょう」

 

「・・・急がなくてもいい」

 

「観光気分を味わうですぅ~」

 

「良かった・・・これで魔人族を倒した!」

 

「・・・・・あの口だけのど腐れ野郎」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

今まで聞いた事の無い様な深月の声。何があったのかと再び耳を澄ませて聞くと―――――

 

『・・・呆れたね・・・まさか、今になってようやく気がついたのかい?"人"を殺そうとしていることに。まさか、あたし達を"人"とすら認めていなかったとは・・・随分と傲慢なことだね』

 

『ち、ちが・・・俺は、知らなくて・・・』

 

『ハッ、"知ろうとしなかった"の間違いだろ?』

 

『お、俺は・・・』

 

『ほら?どうした?所詮は戦いですらなく唯の"狩り"なのだろ?目の前に死に体の一匹がいるぞ?さっさと狩ったらどうだい?おまえが今までそうしてきたように・・・』

 

『・・・は、話し合おう・・・は、話せばきっと・・・』

 

「「「「何言ってんだこいつ?」」」」

 

「おい・・・どういうことだよ天之河!?さっさと殺せよ!」

 

遠藤が声を荒げるも、向こうには届かない。これはあくまでも聞くだけに特化している物だから

 

『アハトド!剣士の女を狙え!全隊、攻撃せよ!』

 

『な、どうして!』

 

『自覚のない坊ちゃんだ・・・私達は"戦争"をしてるんだよ!未熟な精神に巨大な力、あんたは危険過ぎる!何が何でもここで死んでもらう!ほら、お仲間を助けに行かないと、全滅するよ!』

 

事の急展開に呆然とするハジメ達は全員が頭を抱えた

 

「は、早く助けに行かないと!?た、頼むっ!どうにかしてくれ南雲!!」

 

南雲の足に縋り付いて懇願する遠藤。ハジメは「何か・・・助けたくなくなってきた・・・」とぼやく始末。その間も声が響く

 

『・・・へぇ。あんたは、殺し合いの自覚があるようだね。むしろ、あんたの方が勇者と呼ばれるにふさわしいんじゃないかい?』

 

『・・・そんな事どうでもいいわ。光輝に自覚がなかったのは私達の落ち度でもある。そのツケは私が払わせてもらうわ!』

 

『や、止めるんだ雫!人殺しはいけない!』

 

『ハッ、本当にこの坊やは笑わせてくれるね!ほらほら!私を殺らないと死んじまうよ!』

 

『くっ!』

 

「思ったんだが・・・八重樫を勇者にして行動させた方が良くないか?」

 

「苦労人だから胃に穴が開いて血反吐を吐きそうね」

 

「・・・吐血勇者?」

 

「言ったら本当に泣くか吐血するかもしれないわね」

 

ハジメは宝物庫からパイルバンカーを出して設置して、チャージを開始してゆっくりと待つ

 

「おい南雲!どうするつもりなんだよ!このままじゃ皆死んじゃうだろ!?」

 

「黙ってろ」

 

「うっ・・・」

 

ハジメの威圧を込めた一言に遠藤は押し黙る。今も尚声が聞こえ、大ピンチ―――――いや、死が目前といった所だろう

 

『あぐぅう!!』

 

『雫ちゃん!』

 

白崎の悲痛な声から察するに、八重樫が魔物の攻撃を食らって重傷を負ったのだろう

 

『えへへ。やっぱり、一人は嫌だもんね』

 

『か、香織・・・何をして・・・早く、戻って。ここにいちゃダメよ』

 

『ううん。どこでも同じだよ。それなら、雫ちゃんの傍がいいから』

 

『・・・ごめんなさい。勝てなかったわ』

 

『私こそ、これくらいしか出来なくてごめんね。もうほとんど魔力が残ってないの』

 

魔力も既に空っぽだろう。絶望に心が折れて死を受け入れようとしている声色だった。すると、丁度良くチャージも終わった

 

「幸運だったな。今し方チャージが終わったぞ」

 

「ちゃ、チャージ?」

 

「ぶち抜くわよ~♪」

 

「ぶ、ぶちぬ――――――」

 

遠藤が言い終わる前にパイルバンカーの杭が地面を穿ち、大穴を開けて目標地点まで到達した

 

「おっし、行くぞ」

 

「え!?行くって、飛び降りるのかよ!?」

 

「行ってっきま~す」

 

躊躇無く飛び降りる皐月。続く様にハジメ、ユエ、シアが飛び降りて行き、遠藤も覚悟を決めて飛び降りた

 

「フフフ♪お嬢様はど腐れ野郎達とは会いたくないでしょうが、私個人の意見では彼等に会いたかったです。目的は塵芥ですがね?」

 

小さな声で呟く深月の声は誰にも聞こえず、深月も続く様に飛び降りた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

ドォゴオオン!!

 

大きな音を立てて貫通した地面の穴に、皐月が最初に飛び降りた。すると、杭に潰された馬型の魔物――――アハトドが見えた。皐月は気にする事無く、クッション代わりとしてアハトドの上に降り立って横に寄ると同時にハジメが降り立った。続いてユエ、シア、遠藤、深月と降り立つ。ユエは重力魔法でシアと遠藤の落下速度を緩めて地面に降り立たせ、深月は空気を蹴って減速しながら着地地点を皐月の斜め後ろに変えて降り立った

 

「・・・相変わらず仲が良いわね、貴女達は」

 

「百合の背景が見えてるな」

 

「ハジメくん!高坂さん!」

 

白崎は分かった。姿形が別物ではあるが、分かったのだ

 

「へ?ハジメくん?って南雲くん?えっ?なに?どういうこと?それに高坂さんって?」

 

白崎は見ただけで確信に至ったが、八重樫は変わり果てた彼らの姿を見ても理解が追い付かず未だに混乱している

 

「えっ?えっ?ホントに?ホントに南雲くんと高坂さんなの?えっ?なに?ホントどういうこと?」

 

「いや、落ち着けよ八重樫。お前の売りは冷静沈着さだろ?」

 

「勇者(笑)パーティーで、気苦労が絶えなくて遂におかしくなっちゃったのかしら?」

 

「おかしくなってないから!?というよりも、二人共変わり過ぎ!?」

 

深月が何故無視されているかだが、絶賛気配を透過しているので誰も気付かない。・・・いや、一人だけ気付いていた。それは、影の薄さ世界一の遠藤だ。遠藤は「えっ?何で誰も神楽さんが高坂さんの斜め後ろに居るって気付いていないんだ?」と呟くが、今はそんな場合では無いと切り替えた

 

「皆、助けを呼んできたぞ!」

 

『遠藤(浩介)!』

 

遠藤の"助けを呼んできた"という言葉に反応して天之河達と魔人族の女も我を取り戻し、ハジメと皐月と二人の少女を凝視する

 

「ユエ、悪いがあそこで固まっている奴等の守りを頼む。シア、向こうで倒れている騎士甲冑の男、容態を見てやってくれ」

 

「ん・・・任せて」

 

「了解ですぅ!」

 

ハジメが二人に指示を出し、皐月は魔人族の女の方を向いて敵ではないが故の慈悲を与えた

 

「そこの魔人族。死にたくないのであれば直ぐにここから立ち去りなさい。もし、敵意を向けたのであれば・・・その時は容赦無く殺すわ」

 

「・・・何だって?」

 

興味無さ気に魔人族の女に言い放つ皐月。魔物の大群に囲まれたこの状況下で言う台詞ではなかった

 

「戦場での判断は迅速にしなさい。本当に死にたいのかしら?」

 

魔人族の女はスっと表情を消して「殺れ」と、皐月を指差し魔物に命令を下した

 

「へぇ・・・じゃあ貴女は敵って事で良いのね」

 

「「高坂さん!」」

 

皐月に襲い掛かるキメラの攻撃が来ると思い、危ないと叫ぶが、皐月は右手の義手でキメラの頭部を鷲掴みして握り砕いた

 

「物凄く中途半端な固有魔法ね。大道芸のつもりかしら?」

 

すると、ハジメから途方もない殺気が漏れ出した

 

「おいテメェ。俺の女に手を出しやがったな?絶対に容赦しねぇ・・・絶望を味わわせて殺してやるよ」

 

ドパパパパパパパパパン!

 

素早くドンナー・シュラークを引き抜き、周囲に発砲。ハジメのあまりにも早い動作に八重樫達の目では何をしているのかが分からなかった。すると、空間が揺らいで頭部を爆散させたキメラと心臓を撃ち抜かれたブルタールモドキが、ぐらりと揺れて地面に倒れ伏した

一瞬で数十の魔物が駆逐された光景を見て、魔人族の女は全ての魔物達に一斉に襲い掛かる様に指示を出した

 

「殺れ!あの二人を殺せ!!」

 

襲い来る魔物達を、ハジメと皐月は背中を合わせてドンナー・シュラークで殲滅して行く。二人きりの世界で、ダンスの様に舞いながら息ぴったりのコンビネーションで魔物を次々と撃ち殺す

黒猫は頭部を粉砕され、四つ目狼は跳弾させた弾丸の檻に貫かれる。皐月が跳弾で四つ目狼を駆逐していると、真正面からキメラが突撃する。皐月は焦る様子も無く四つ目狼の処理を優先。殆どの者が皐月に直撃すると思ったが、ハジメが背中合わせのままシュラークを後ろに構えてキメラの頭部を撃ち貫く

 

「ちっ!アブソド!」

 

六足亀の魔物アブソドが口を大きく開いてハジメ達の方を向くと、その口の中には純白の光が輝きながら猛烈な勢いで圧縮されているところだった。だが、忘れてはいけない。強靭な魔物だろうと、殺しの方法は幾らでもある

 

「駄目ですよ?无二打(にのうちいらず)!」

 

亀の硬い殻に打ち込まれた深月の拳―――――普通の人間ならば、拳が粉々に砕けるだろう。しかし、気に入った技を自分に合った形で昇華させるチートメイドの前ではその心配は無用

亀は深月の拳が直撃した瞬間に「グゴゲゲゲゲゲゲ!?」と意味不明な絶叫を上げて、時間差で吹き飛んで迷宮の壁にぶつかって破裂。姿形も無くなったのだ

 

「ふっ!」

 

黒刀を引き抜いて、無間と音越えで音速を超えた速度で音も無く魔物達の間を通り抜けて切り刻む。早すぎる斬撃は魔物達も認識出来ず、深月が通り過ぎたと自覚して振り向くと同時に体がズレ落ちて絶命した

 

ドパァンッ!

 

魔人族の女は、最初の蹂躙を見て魔法の詠唱を始めていた。しかし、ハジメの放った弾丸が肩に乗っていた白鴉の魔物に当たったのだ。白鴉はその白い羽を血肉と共に撒き散らし、レールガンの衝撃の余波で魔人族の女はバランスを崩して尻餅を付いた

 

「何なんだ・・・彼等は一体、何者なんだ!?」

 

天之河は動かない体を横たわらせながら呟いた

 

「はは、信じられないだろうけど・・・あの三人は南雲と高坂さんと神楽さんだよ」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

遠藤の言葉を聞いた一同は遠藤を見て「頭大丈夫か、こいつ?」と思っている。その様子が手に取る様に分かった遠藤は肩を竦める

 

「だから、南雲ハジメと高坂皐月さんと神楽深月さんの三人だよ。あの日、橋から落ちた南雲と高坂さんとそれを追った神楽さんだ。迷宮の底で生き延びて、自力で這い上がってきたらしいぜ。ここに来るまでも、迷宮の魔物が完全に雑魚扱いだった。マジ有り得ねぇ!って俺も思うけど・・・事実だよ」

 

「南雲って、え?南雲が生きていたのか!?」

 

「あの白髪野郎がやる気の無い奴だっていうのか!?ありえねぇだろ!?」

 

「いや、本当なんだって。めっちゃ変わってるけど、ステータスプレートも見たし」

 

皆が信じられない様な目で二人の無双っぷりを見ていると、檜山が酷く狼狽した声で遠藤に喰って掛かる

 

「う、うそだ。南雲達は死んだんだ。そうだろ?みんな見てたじゃんか。生きてるわけない!適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 

「うわっ、なんだよ!ステータスプレートも見たし、本人達が認めてんだから間違いないだろ!」

 

「うそだ!何か細工でもしたんだろ!それか、なりすまして何か企んでるんだ!」

 

「いや、何言ってんだよ?そんなことする意味、何にもないじゃないか」

 

顔を青ざめさせて遠藤の胸倉を掴んで叫ぶ檜山。周囲は若干引いた感じで見ているとユエから冷たい一言が発せられる

 

「・・・大人しくして。鬱陶しいから」

 

まるで虫けらを見る様な冷たい目だった

魔人族の女は、魔物を数体天之河達の方へと襲わせる。恐らく人質にするつもりなのだろう。谷口が咄嗟に盾を発動させようとするが、怪我をしており、その激痛で詠唱すらままならなかった

 

「・・・大丈夫」

 

ユエが谷口を見ながら発した言葉。ユエは谷口から視線を外して襲い来る魔物達に向けて、魔法のトリガーを引いた

 

「"蒼龍"」

 

燦然と燃え盛る蒼炎が突如うねりながら形を蛇の様に形を変えて、魔物達を飲み込んで消し炭にする

 

「なに、この魔法・・・」

 

今まで見た事も聞いた事も無い魔法に、呆然とする天之河達

 

「くそっ!化け物ばっかりか!だったら―――――」

 

「だったら―――――どうしますか?」

 

まるで瞬間移動でもしたかの様に眼前に現れた深月に驚愕し、体を硬直させた魔人族の女。隙だらけな彼女の腹部に、強烈な拳が突き刺さった

 

ズドムッ!

 

深月なりに手加減をした一撃だったのだが、魔人族の女からすれば凶悪な一撃だった。衝撃で宙に浮き後方に吹き飛び、口から内臓が噴き出ると思う程の錯覚する威力だった。口から大量の血を吐いて地に伏し、ゆっくりと近づく深月を標的として石化魔法の"落牢"を放った。煙で視界を遮断した事で逃走出来ると思い逃げようとしたが、足を踏み外してこけた。それと同時に襲い来る痛み―――――足首が切断されていた

 

「はは・・・既に詰みだったわけだ」

 

「その通りです」

 

煙の中から何事も無く姿を現す深月に、天之河達は本日何度目か分からない驚愕をしていた。ハジメ達も魔物を殲滅し終えたのか、動けない魔人族の女に銃口を向けて近づく

 

「・・・この化け物共め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんたら、本当に人間?」

 

「実は、自分でも結構疑わしいんだ。だが、化け物というのも存外悪くないもんだぞ?」

 

「化け物夫婦という事ね」

 

「違いないな」

 

「私はメイドですよ?」

 

「「深月みたいなメイドが何人も居てたまるか!!」」

 

「私とて人間ですよ。悲しいですシクシク」

 

「嘘泣きは似合わないから止めなさい」

 

「かしこまりました」

 

他愛無い話をしているが、威圧は変わらずに魔人族の女に突き刺さっている

 

「さて、普通はこういう時、何か言い遺すことは?と聞くんだろうが・・・生憎、お前の遺言なんぞ聞く気はない。それより、魔人族がこんな場所で何をしていたのか・・・それと、あの魔物を何処で手に入れたのか・・・吐いてもらおうか?」

 

「あたしが話すと思うのかい?人間族の有利になるかもしれないのに?バカにされたもんだね」

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

「あがぁあ!!」

 

両肩と両足を撃たれて悲鳴を上げる魔人族の女。情け容赦の無いハジメの行動に、クラスメイト達は息を呑んだ

 

「てめぇに選択権は無いんだよ。特に、俺の女に手を出したんだ。この程度で済ませているだけありがたいと思えよ。それに―――――人間族だの魔人族だの、お前等の世界の事情なんざ知ったことか。俺は人間族として聞いているんじゃない。俺が知りたいから聞いているんだ。さっさと答えろ」

 

「・・・」

 

「だんまりしているけれど、大体は予想が付くわ。大方、この迷宮を攻略するつもりだったのでしょう?そしてあの魔物達は神代魔法。恐らく変成魔法の産物ね。そして、この使えない勇者(笑)の勧誘と迷宮の調査でしょう?」

 

「な、何で・・・まさか・・・」

 

「お、ようやく理解出来たか?」

 

魔人族の女は、ハジメ達が迷宮攻略者だと理解したのだろう。全てを察して諦めた目をしていた

 

「なるほどね。あの方と同じなら・・・化け物じみた強さも頷ける・・・もう、いいだろ?ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね・・・」

 

「あの方・・・ね。皐月の予想通り、魔物は攻略者からの賜り物ってわけか・・・」

 

「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」

 

「恋人ねぇ・・・確かに厄介だろうけれど、本当の意味も知らずに神に踊らされている程度なら、私達には届かない」

 

「恋人がいるのか。・・・だったら、慈悲としてこれ以上苦しませずに殺してやるよ」

 

ハジメは銃口を魔人族の頭部に向けて、引き金を引こうとした瞬間に静止の声が掛かる

 

「待て!待つんだ、南雲!彼女はもう戦えないんだぞ!殺す必要はないだろ!」

 

「・・・」

 

「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

天之河の甘々言動に呆れて何も言えないハジメ

 

「敵だけど・・・貴女には同情するわ」

 

「・・・そうかい。さっさと殺しておくれよ」

 

「おう」

 

ドパンッ!

 

躊躇い無く引き金を引いて、魔人族の女を殺したハジメ。今更だと分かっていても、同じクラスメイトが躊躇無く人を殺した事に息を呑み戸惑ったようにただ佇む。特にショックを受けていたのは白崎だろう。皐月が居ながら、あそこまで人殺しに対する忌避感や嫌悪感、躊躇いというものが一切無かったから

この事に正義感の塊たる勇者の方は黙っている筈が無く、静寂の満ちる空間に押し殺した様な天之河の声が響いた

 

「なぜ、なぜ殺したんだ。殺す必要があったのか・・・」

 

「シア、メルドの容態はどうだ?」

 

「危なかったです。あと少し遅ければ助かりませんでした。・・・指示通り"神水"を使っておきましたけど・・・良かったのですか?」

 

「ああ、俺達はこの人に、それなりに世話になったんだ。それに、メルドが抜ける穴は色んな意味で大きすぎる。特に、勇者パーティーの教育係に変なのが付いても困るしな。まぁ、あの様子を見る限りメルドもきちんと教育しきれていない様だが・・・人格者である事に違いはない。死なせるにはいろんな意味で惜しい人だ」

 

「・・・ハジメ」

 

「ユエ。ありがとな、頼み聞いてくれて」

 

「んっ」

 

「あぁ~・・・シアも頼みを聞いてくれてありがとな」

 

「はいですぅ!」

 

「そして皐月、俺のわがままを聞いてくれてありがとな」

 

ユエとシアには言葉だけだが、皐月には手を取って感謝するハジメ。明らかに対応が違い過ぎていた

 

「駄目でしょ。二人にも、私の様にもう一回感謝しなさい」

 

「・・・おう」

 

皐月と同じ様に感謝の言葉を述べるハジメ。二人の気分は上昇して、皐月に感謝の念を込めた視線を向けた。まぁそんな中で、天之河達とは違う視線が突き刺さって何故か背筋が粟立った

 

「おい、南雲。なぜ、彼女を・・・」

 

「ハジメくん・・・色々聞きたい事はあるんだけど、取り敢えずメルドさんはどうなったの?見た感じ、傷が塞がっているみたいだし呼吸も安定してる。致命傷だった筈なのに・・・」

 

「ああ、それな・・・ちょっと特別な薬を使ったんだよ。飲めば瀕死でも一瞬で完全治癒するって代物だ」

 

「そ、そんな薬、聞いた事無いよ?」

 

「そりゃ、伝説になってるくらいだしな・・・普通は手に入らない。だから、八重樫は、治癒魔法でもかけてもらえ。魔力回復薬はやるから」

 

「え、ええ・・・ありがとう」

 

ハジメから薬を受け取った八重樫は、きっちりと薬瓶をキャッチして中身を飲み干す。味わいはフルーティーで、口の中一杯に広がって少しずつ活力が戻ってくる。とりあえず、メルドの容態は大丈夫だと告げられて一安心する白崎達。再び勇者(笑)が口を開くが

 

「おい、南雲、メルドさんの事は礼を言うが、なぜ、かの・・・」

 

「ハジメくん。メルドさんを助けてくれてありがとう。私達の事も・・・助けてくれてありがとう」

 

再び白崎によって遮られる。白崎は込み上げてくる来る何かを押さえて服の裾を両の手で握り締め、しかし、堪えきれずにホロホロと涙をこぼし始めた

 

「ハジメぐん・・・生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて・・・ひっく・・・ゴメンねっ・・・ぐすっ」

 

クラスメイトの男子少しと、女子達は白崎の気持ちを察して生暖かい目で見ていた。檜山達子悪党組は苦虫を噛み潰したような目を、天之河と坂上は分かっていない様でキョトンとしていた。シアは「新たなハーレム要員ですか!?」という表情をしており、ユエは無表情で白崎を見ている。皐月に関しては正妻の余裕なのか、白崎の一挙一動を観察をしている

ハジメは困った表情をして、苦笑いしながら白崎に言葉を返した

 

「・・・何つーか、心配かけたようだな。直ぐに連絡しなくて悪かったよ。まぁ、この通り、しっかり生きてっから・・・謝る必要はないし・・・その、何だ、泣かないでくれ」

 

白崎の純粋な好意に戸惑うハジメ。奈落に落ちる前から気に掛けられていたのでタジタジとなっているのだ。その様子を見て、八重樫が「私の親友が泣いているのよ!抱きしめてあげてよぉ!」という視線が叩き付けられているが、皐月とユエとシアが見ている中でするのは非常に危険だと感じたので、軽く頭を撫でる程度に止めた

良い雰囲気の中、空気を読まずにぶち壊す存在は何時だって居る。それが天之河―――――勇者(笑)である

 

「・・・ふぅ、香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて・・・でも、南雲は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、南雲から離れた方がいい。皐月も深月も危険な南雲から離れた方が良い」

 

「ちょっと、光輝!南雲君達は、私達を助けてくれたのよ?そんな言い方はないでしょう?」

 

「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲がしたことは許されることじゃない」

 

「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ?大体・・・」

 

とんちんかんな事を言い始める天之河。ハジメの事が気に食わない子悪党組も、それを助長する様に光輝に加勢し始めた

 

「雫は黙っていてくれ!南雲は無抵抗な人間を殺したんだ。人を殺す事に躊躇いを持たない危険な奴なんだ!そんな南雲の近くに居れば心優しい皐月達が傷つくんだ!」

 

次第にハジメに対する議論が白熱する中、そんな彼等に、今度は比喩的な意味で冷水を浴びせる声が一つ

 

「・・・くだらない連中。ハジメ、皐月、もう行こう?」

 

「あー、うん、そうだな」

 

「早く新鮮な空気が吸いたいわー」

 

ユエの一言に続く様にハジメ達は部屋を出ていこうとした。だが、ここでも空気を読まない天之河が引き止める

 

「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないなんて・・・失礼だろ?一体、何がくだらないって言うんだい?」

 

「・・・」

 

黙って天之河を見るユエ。「自分の胸に手を置いて考えろ」と言いたくなっている様子だ。だが、予想しない人物からも静止が掛かる

 

「くだらない連中だとしても、用件はあるのです。にとって重要な要件が」

 

ハジメと皐月を除く全員が驚き、声のした方に振り返ると笑顔の深月が佇んでいた。だが、深月の事をよく知っているユエとシアは深月の様子を見て体を震わせる。他の者達は、ニコニコと微笑んでいる深月にしか見えなかった

 

「・・・い、今直ぐじゃないと駄目なの?」

 

「そうですよ?何故なら―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで血の匂いに塗れた塵芥を殺せませんから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これだけで分かるだろう。深月は絶対に赦さない

主が持つ手綱を引き千切り、ハジメ達の殺気が可愛く思える程の殺意がこの一帯を支配したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「次回が楽しみだぁ」
深月「どの様に処分しようか楽しみです♪」
布団「次回、塵芥の処刑!ぜったいn――――」
深月「誤字報告有難う御座います。それでは次回をお楽しみにして下さい♪」








▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。