ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】 作:ぬくぬく布団
深月「帝国に入るには準備が必要です。しっかりと備えましょう!」
布団「今回は影の薄い人が活躍?するよ!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」
~八重樫side~
ハジメ達と深月の訓練を見ていたハウリア達はとても驚いていた。そして、ボスに特訓をつけてもらうよりも、深月にお願いした方がもっと強くなれるのではないかと歓喜する
「おい、ボス達があっという間に倒されちまったぞ!」
「なん・・・だと・・・!ボスとお嬢の輪舞だぞ!?」
「強すぎる!」
「深月殿に後でご教授願いたいな」
「「「「「それだ!!」」」」」
一方、天之河達は、戦いの一部始終を見て自分達とどれ程の差があるのかを再認識した
「何故だ・・・どうしてあれ程の力を手にしているのに・・・世界を救おうとしないんだ」
「す、すげぇ・・・」
「ミズキンって規格外だね」
「俺も・・・死ぬ程鍛えたらあそこまで行けるのか?」
誰もが深月が強いと言っているが、八重樫だけは少しだけ違和感を感じていた
神楽さんが強い事は分かっていた。けど・・・何?この違和感は?まるで体が思考に追いついていない?でも、もしそうなら南雲君や高坂さんは気付いている筈。敢えて言っていないだけ?・・・・・私の気のせいかもしれないから何も言えないわね
ドゴンッ!!
深月が繰り出したトドメの一撃はジャーマンスープレックス。地面に突き刺さったハジメは、犬神家と化していた
南雲君生きているのかしら・・・。頭が地面に埋まるなんてそうそう無いわよ?香織達も顔を青褪めているわね
八重樫は、オブジェと化したハジメを見ながら「自分に向けられる事がありませんように」と祈った
~深月side~
ハジメ達との試合も終わり一息入れようとした深月に迫る様に、ギャラリーに徹していたハウリア達がジャンピング土下座で『是非、私達にも特訓を!』とお願いを申し出て来た。どうしようかと迷っていると、彼等と別れる際に言った事を思い出した
「そう・・・ですね。別れる際に――――"使えると判断したら更なる訓練を付けて差し上げる"と言ったので、特訓については問題ないですね」
「おう、新人共!お前等は未だ使えねぇから今回は見学だ。じっくり見てものにしろ!」
「「「「「了解!」」」」」
「深月殿、よろしくお願いします!」
イオ達の準備は完了。これからどんな事を体験できるのか、心をワクワクとしていた。しかし、予想は斜め下のシンプルな物だった
「缶は無いので、竹蹴りをしましょう♪これなら、新人ハウリアも鍛える事が出来ます」
『竹蹴り?』
「しかも、普通のルールではありません」
深月は、ハウリア達にルール説明をする。竹を守るのは深月で、竹から半径五メートル以上は離れる事と魔法を禁止。ハウリア達は基本何でも有り―――――竹を足で蹴るだけの制限だ。これならば、新人でも参加する事が出来る
「地面に置くだけでは安定しないので・・・あの切り株の上に立たせましょう」
深月が宝物庫から竹のコップを取り出して切り株の上に置いた。場所は悪く、十メートル先には木々が生い茂っている。これでは"隠れる事が前提"の訓練となってしまう。八重樫達や新人達は「えっ・・・ここでやるの?」と口漏らす。だが、イオ達は警戒を厳にしていた。ボス達が束になっても勝てなかった相手で力もそうであるが、技術で隙を作る事が神がかっていたのだ。油断している彼等を見て、聞こえない様に舌打ちする
「八重樫さん達は参加させませんが、遠藤さんは強制参加です。頑張りましょうね♪」
「ッ!・・・やってやるさ。俺だってやってやる!」
深月Vsハウリア達+遠藤の竹蹴りが始まる
「それでは始めましょう。"隠れる時間は"、五秒で大丈夫ですね?」
カウントダウンを始める深月に、新人ハウリア達が襲い掛かる
「「「「四方四殺陣!」」」」
四方から標的の攻撃は、普通ならどうする事も出来ずに蹴られるだろう。イオ達も強襲しようと考えてはいたのだが、深月が言った意味をよく理解していた為に新人達の様子を見ながら森へと駆けた
イオの予想は正しかった。深月は、カウントを進めながら足元の切り株を蹴り上げる。いや・・・切り株の側面を掬い上げる様に蹴るという表現が正しいだろう。深月が蹴り上げたのは蔦で、切り株を締めていた物だ。宙に蹴り上げられた蔦を素早く手に持って――――払った
「ブッ!?」
「ベッ!?」
「ラッ!?」
「アッ!?」
四方から襲い掛かった新人ハウリアの頬に、パシーン!と良い音が鳴って森の奥へと吹き飛ばされた。何時かのハジメの特訓の事を思い出したのか、イオ達の足が少しだけ鈍った
「足を動かさなくていいのですか?」
「に、逃g――――」
パァンッ!
「グッヘエエエエエエエ!?」
イオの腹部に直撃―――――蔦は鞭へと変貌していた。予測不能な軌道と射程に、イオは呆気なく吹き飛ばされたのだ。残りのハウリア達と遠藤が木を壁にして深月の様子を見る。しかし、手に蔦を持っている為に不用意には近づけなかった
「カウントダウンは終わりましたが・・・・・来ないのですか?」
全員が、「迂闊に近づけるか!」と心の中でツッコミを入れる。そして、深月の次の言葉に思考を一瞬だけ停止させてしまった
「こちらから行きますよ?」
『へ?』
ドゴン!
鈍い音が響く――――それは、遠藤が背にしていた木からだ。深月の攻撃からようやく回復したイオがその木を見ると、表面が凹んでいた
「全員射程から離れろ!今直ぐだ!!」
イオの叫びと同時に、全員が散開する事で一旦落ち着きを取り戻す。木々の隙間から深月を見ると、切り株を椅子にして手で触っている程度だ。それを確認し終えたイオ達は、作戦会議を開く
「深月殿は
「指鞭の冥土だ!」
「・・・作戦会議じゃなかったのか?」
『うおっ!?いつ間に?』
「その反応は知ってた・・・」
ハウリア達は、遠藤の指摘により現実へと引き戻される。木を凹ませる程の強力な一撃が、ギリギリ反応出来ない速さで襲い掛かって来るのだ。当たれば吹き飛ばされ、しばらくは体が動かなくなる―――――決め手が無いのだ
「気配を消して四方から襲撃をしても対処されるだろう・・・」
「ボス達みたいに予想外な事をすれば良いのだろうが・・・」
「深月殿には通用しなさそうね」
ハウリア達は蔦の攻撃に戸惑いがある。"連発出来るのではないか?""射程が伸びるのではないか?"と疑心暗鬼に陥っている
「いや・・・神楽さんが使っている蔦は鞭で横薙ぎにしない限り単発な筈だ。それに鞭なら懐に入れば咄嗟に対処は難しいと思う」
「時間差の波状攻撃ならばつけ入る隙がありそうですね」
「最初が肝心だな」
「それについては俺が出る。俺は暗殺者だし、ハウリア達よりもステータスでは勝っている」
「むぅ・・・近距離でも中々見つける事が出来ない気配の持ち主だと最初以外が良いのでは?」
「最初はそう思ってたんだ。だけど、恐らく神楽さんは俺を警戒しているかもしれない」
「それは・・・影の薄さという事か?」
「一瞬でも良いから気を逸らす事が出来れば、ほんの僅かな時間だけ俺を認識出来なくなる筈だ。南雲や高坂さんの気配感知にも引っ掛からない位だからな」
「本当ですか!?」
「認めたくはない長所だからな・・・」
「深淵卿」ボソッ
遠藤に最後の呟きは聞こえなかったが、ハウリア達は後程、遠藤の二つ名を決めようとしていた
作戦会議は続き、どうやって攻めようかと話し合っていると、遠藤の頬を掠めて後ろの木にカツっと何かが刺さった。全員が刺さった物を確認する
「これは木?」
「木片が木に刺さっている?」
「ッ、不味い。これは攻撃だ!」
音を立てずに飛来する木片が遠藤達を襲う。当たらないギリギリの攻撃が、彼等の冷静さを奪って行く
「遠藤殿、頼みますぞ!」
遠藤は震える腕を押さえて広場へと出た。案の定、切り株の傍に立って右手に持った木片を弄る深月
「遠藤さんだけですか?私の予想ではハウリア達が牽制として出てくると思っていたのですが・・・宛が外れましたね」
遠藤は喋らずに短剣を手に持ち、すり足で円を描く様に移動しながら深月の動作を見逃さない様に注視する。深月は動かない
(神楽さんの言葉はブラフだ。・・・思考を誘導して小さな情報まで拾う。南雲達の特訓を見ていて本当に良かったよ。視線、呼吸、立ち方で情報を拾ってしまうから、ハウリア達の出方で変わってくる)
遠藤の予測は当たっており、深月もまた遠藤の事を警戒しながら情報を得ようとしていたのだ
これは・・・予想以上の原石ですね。先の特訓風景を観察しての情報を盗み、悟らせない様にすり足で様子見をしている事が更に良いです。開花すれば先兵を殺す事も出来るでしょう。しかしながら・・・動きませんね。もう少しだけ動揺を誘ってみましょう
深月は、ワザとらしく大袈裟に、パチ―――パチ―――パチとゆっくり拍手する
「遠藤さんは素晴らしいですね。私が注視している本人が真正面から出る事で気を逸らす――――実に良い作戦です。これを考えたのは遠藤さん本人ですね?」
遠藤は何も言い返さずにすり足で移動を続ける
「生まれ持った影の薄さを利用して視線の釘付けに――――」
視線は遠藤に向けたまま蔦を横に飛ばして引き上げると、新人ハウリアが引きずり出された。しかも、引き釣り出した勢いのまま鳩尾に蹴られて沈黙させた
「ハウリアに意識が向いたと同時に突撃するだろうと予想しています。ハウリアの人数は多く、囮にして近づくには十分すぎますから♪」
「ッ!」
反応有りですね。さて、計画の一つ一つを潰していきましょう
~遠藤side~
深月の言葉に遠藤の体が一瞬だけ硬直した。しかし、それは遠藤達にとって手繰り寄せられた一途の糸
神楽さんが罠に掛かった!ほんの少し・・・だけどゼロじゃない。落ち着け、悟らせるな・・・
額から一筋の汗が流れ落ちると同時に、木々に隠れていたハウリア達が間隔を開けて一斉に飛び出した
「野郎共!行くぞおおおお!!」
「ボス、お嬢、見ていて下せえええええ!」
「一泡吹かせてやるう!」
「ヒャッハーーーーー!」
ハウリア達が飛び出した。神楽さんの次の行動は、切り株の傍に戻る以外ありえない!
遠藤の予想通り、深月はバックステップをしながらハウリア達の急所に打ち当てる事で意識を奪って行く。ハウリアが倒されながらも、遠藤はその都度生まれるタイムラグでゆっくりと近づく。しかし、深月もそこら辺りは用意周到と言うよりも、応用の幅が大きかった。蔦を払う様に地面を叩いて、ハウリア達に礫を飛ばす。腕で防ぐ者達から鳩尾に叩き込んで沈黙させていく
分かっていたさ。何かしらの応用で足止めをする事は!でも、その時には絶対に視線を外す――――その時だけは物は見えない!
手に持った短剣を竹に向けて投げる。しかし、深月は背を向けたままつま先だけで短剣の腹を叩いて自身の手元に持って行った
嘘だろ・・・後ろに目が付いているのかって叫びたい程のタイミングだったぞ!
遠藤は足を止めずに駆けるが、とうとう最後のハウリアのイオが倒されてしまった。これで残りは遠藤一人だけとなり、それからは一方的な展開だった。深月の蔦捌きは絶妙で、威力はそこそこの避けづらい攻撃を受け続けている。足を攻撃して機動力を削ぎ、腹部に叩き込んで思考を鈍らせる。腹を押さえいない腕を攻撃して隙だらけになった所で、腰に巻き付けて遠くへと放り投げた。遠藤はボロボロとなった
「終わりですね」
これ以上は無理だろうと判断した深月だったが、地面に倒れ伏していた遠藤がゆっくりと立ち上がる
「未だ諦めていないのですね」
全身がズキズキと痛むのを我慢して立っている遠藤の視界はぼやけている。だが、遠藤には硬い意志があった
ははは、以前までの俺だったら諦めていたんだろうな・・・。だけど・・・だけどっ!俺は死にたくないし、友達を死なせたくない!やれる事があるなら全部やってやる!この世界に来た時は天之河に流されるままだったけど、それじゃあ駄目なんだ!
「諦めないさ。だって・・・俺は男の子なんだから」
「・・・」
「意地があるんだよ―――――男の子にはなぁ!」
譲れない想い。強くなるなら諦めずに喰らい付く。今の遠藤を動かす原動力は、この硬い意志だ
「それに、俺は勘違いしていた。俺の影の薄さは隠れる事だけしか出来ないと結論付けていた。でも、神楽さんのお陰でようやく気付けた。光と影は表裏一体―――――今から俺は光になる!」
~深月side~
遠藤を注視する深月は、彼の言葉から情報を得ようとする
「それに、俺は勘違いしていた。俺の影の薄さは隠れる事だけしか出来ないと結論付けていた。でも、神楽さんのお陰でようやく気付けた。光と影は表裏一体―――――今から俺は光になる!」
光と影は表裏一体とは何か
まさかここまでとは・・・。予想を上回る成長を間近で見るとこの様に感じるのですね。過去の私を見ていた人達もこんな気持ちだったのでしょうね
深月は、感知技能を全てオフにして五感を駆使して行動に移った。微かに聞こえる音に反応して、背面を蹴り上げる。ゴリっと鈍い音が響き、その正体はイオだった。深月の一撃に沈黙はしたが、死んだふりでやり過ごして徐々に這い寄って来ていた
しかし、深月の蹴り上げによって完全に意識を奪われてしまった。絶対に嵌ると思っていた遠藤の唯一の失点は一つ
「遠藤さんは自分を小さく評価し過ぎです」
「な―――――」
「私は遠藤さんを高く評価しています。それこそ、お嬢様達と同じかそれ以上ですよ」
ズンッ!
深月は遠藤の腹部に掌底を叩き込み、裏拳で顎先に当てて意識を奪った。最後の幕切れとしては何とも言えないショボイものだったが、特訓の内容は物凄く充実して得る物もあった。そして、この訓練を見ていたハジメと皐月は特に驚いていた。深月の評価が高い事と、先程見せた違和感に頭が混乱していた
「は?えっ?深月からの評価が俺達よりも高いって・・・え?マジで?」
「いやいやいや、それもそうだけど最後のあれ何?深月が蹴り上げるまでイオの姿が見えなかったんだけど?」
「・・・魔法?」
「天職が暗殺者でしたよね?」
「固有魔法かのう?」
「遠藤くんが強くなってる・・・あれ?今の私でも勝てるのかな?」
ハジメ達は何がどうなっているのかが分からない様子で、勇者(笑)パーティーも同様だった
深月は、目の前の出来る事から計画を立てる事にした。目先の目標は、ハジメ達の基礎と応用力の向上である。これから先はゴリ押しでは難しい事が確定しているからだ
全員技術の向上が必要・・・力も必要ですが、何より重要なのは技術と応用力ですね。こればかりは特訓で見出して頂く他ありません。遠藤さんに関しては、基礎が第一ですね。ハウリアは・・・駄目駄目ですね。
何故遠藤が基礎が優先なのか。それは、遠藤の戦闘の型が暗殺者に合っていないからだ。深月から見て、遠藤の動作に隙が多いのだ。そこで、深月が暗殺者としてリスペクトするのは前世でプレイしたゲームのキャラ―――某蛇さんである。これは余談だが、深月が転生した世界ではこの有名タイトルが存在しておらず、似た様なゲームはあるものの評価が低い+ストーリーが全く駄目だった
話しは戻り、遠藤に必要な物は型である。現在の型は、遠藤が必死になって作り上げたのだろう。しかし、強くなる為にはそれは邪魔でしかない
「時間は有限ですので早く起きて下さい」
深月は、気絶している遠藤の顔に冷水をぶちまけて強制的に目を覚まさせた
「俺・・・負けたのか・・・」
深月にあっさりと秘策も破られ、意気消沈している遠藤。しかし、直ぐに気持ちを切り替えて立ち上がった
「神楽さん。・・・俺達はどうだった?」
先程の訓練も一方的な展開だったので、何処がどう悪かったのかを知りたかった。そして、改善する所を見つけようともしていた
「正直言わせて頂きますと、ハウリア達は駄目駄目です。私は言いましたよね?基本的に何でも有りだと」
「で、ですが、深月殿・・・あの蔦を避けるのは至難の技です」
「何故避ける事が前提なのですか・・・。数が多い利点を活かして、武器を封じなさい。私が攻撃の手を多くしていた理由は、武器の情報を多く伝える為です」
「弱点ですと?」
「この蔦は、鞭として使用しました。先端が見えないのは仕方が無いですが、私の手元なら見えていた筈です」
「・・・・・なるほど。手の動きと、蔦の形を見て避けろという事ですね」
「何故避ける事を意識するのですか・・・。武器を封じるのであれば、身を犠牲にして掴めば良いでしょう。ステータスで負けているのは最初から分かっていた事ですが、武器を一瞬でも硬直させる事の重要さを分からない訳ではないでしょう?」
「そうか!あの鞭は小回りが利かない。一瞬でも使用不能となれば手放す可能性が大きいという事ですね!」
「正解です。武器の情報を読み取り、どの様に対策するのかが重要なのです」
ハウリア達は集まって、鞭の構造からどの様に攻撃を防げるのかを話始めたが、深月は手を叩いて会議を中断させて次の議題へと移る
「さて、次の反省点は遠藤さんです。しかし、これは先程も言った通り、遠藤さんは御自身を過小評価し過ぎていたという事です」
「そ、それは・・・俺って暗殺者だし・・・表立って戦うには役不足だし・・・」
ネガティブになる遠藤。天之河みたく多くの技能が有る訳でもないし、坂上みたく頑丈さを売りにした攻撃も出来ないし、八重樫みたいな鋭い攻撃も出来ない。自分は陰ながらサポートする位しか出来ないと心の何処かで思っているのが原因だ。そんな遠藤を見て、皐月が素直に思った事を言った
「自分を卑下しない!深月が評価しているんだから、もうちょっと自信持ちなさい!正直言わせてもらうけど、さっきの特訓風景を見て一番化けるのは遠藤君と確信したわ」
皐月の言葉に呆気にとられた遠藤に、ハジメが皐月に便乗する
「遠藤、皐月の言う通りだぞ。俺や皐月も、遠藤に関しては影が薄いだけの暗殺者と思っていた。だが、さっきのを見せられちまったら撤回しなきゃいけねぇ位だよ」
「お、俺が・・・?」
「あぁそうだ。影のお前が光になる事でイオ達を隠したのは驚いたぜ?俺や皐月も、深月が蹴り上げるまでイオの存在を忘れた位だったからな」
「私達も気配を消す事は出来るわ。だけど、ヘイトを集めて仲間を見えなくするなんて芸当は無理よ」
「そっか・・・俺だけしか出来ないのか・・・」
遠藤はようやく自分が強くなった事を自覚し、感慨深そうに両拳を握りしめて噛み締めていた
「それで?深月から見て遠藤君には何が必要だと感じたかしら」
「俺は攻撃動作の隙の多さだと思うんだが・・・合ってるか?」
「ハジメさんの言う通りです。動作の隙が多い点を修正に伴い、遠藤さんに酷な事を言う様で申し訳ありませんが今以上に強くなるなら既存の型を捨てて下さい。遠藤さんに関してはCQCが一番適しています」
『CQC?』
全員が頭の上に?マークを大量に浮かべる。オタクであるハジメですら聞いた事の無い単語だった
「Close Quarters Combatの略称です。日本語風に言うのであれば、近接格闘術です。ゲームにも使われていますが、評価等が低かったので知っている人が少なかったのでしょう。早速体験して頂きたいのでこちらに来てください」
「あっ、はい」
深月に言われるがまま不用意に近づいた遠藤。開始の合図は無く、遠藤の左肩を少し小突いて態勢を崩させ、真っ直ぐに伸びた右腕に自身の腕を巻き込んで肩を押す。すると、遠藤はあっという間に背中から地面に崩れ落ちる
「え?・・・何が?」
遠藤は、痛み無くあっという間に崩されてしまった事に混乱している。ハジメ達も一部始終を見ていたが、遠藤でも反応出来る速度での崩しに呆然としていた
「これがほんの一部です。とても簡単な部類ですので覚えたらすぐに使えますよ。ハジメさんも本格的に体験してみますか?」
「そうだな・・・やってみるか」
「私もやるわ」
「あっ、なら私もお願いしますぅ!」
「・・・シアもやるなら私も」
「妾も体験したいのじゃ」
「私もやるよ!」
「強くなるなら俺も参加する!」
「ズリィぜ。俺もやるぞ!」
「参加出来るなら私もやりたいわ」
「シズシズがやるなら鈴もやる!」
ハジメ達は全員参加、それに続く様に勇者パーティーも参加表明をする
「・・・それでは、武器は有りの魔法は無しのルールでいきましょう」
深月としては天之河達は参加させたくないが、拒否すれば煩くなるので渋々参加をさせる事にした。深月が教えるのは実戦形式で、遠藤に仕掛けたのはあくまでも模擬戦形式である。要するに、只々姿勢を崩すだけでは終わらないという事だ。因みに、遠藤は参加せずに先程の動作をシャドーで再現している
「それでは、何時でもどうぞ」
「俺は遠藤みたいに弱くないぞ!」
「先手は光輝に譲らねぇぞ!」
どこからでもかかって来いと言い放つ深月に天之河と坂上が突進する。ハジメ達は「あちゃ~」と空を見上げていた。無策に突っ込む二人は馬鹿以外に他ならない
「ドラァ!」
坂上の拳が深月に襲い掛かるが、深月は拳の側面を押して軌道をずらし、手首を持って背中に捻り上げる
「グッ!?」
そのまま押し込みながら半回転させて、続いて突っ込んでくる天之河に向けて坂上を押し出す事で動きを一瞬だけ止める
「なっ!?」
天之河が咄嗟に坂上を受け止めようとした瞬間に、深月のヤクザキックが坂上の背に直撃。押し込みの勢い+蹴り込みの勢いで、人間砲弾と化した坂上を直撃した天之河は一緒に吹き飛んだ。後方に吹き飛び態勢を整えようとした天之河に、深月の肘打ちが顎に直撃して意識を断ち切り、起き上がろうとした坂上には側頭部に膝をねじ込まれて沈黙させた。一連の動作は、インパクトの瞬間以外はゆったりとした動きだった。坂上の頑丈さを知っていた八重樫と谷口は頬を引き攣らせ、ハジメ達は「えっ・・・投げるだけじゃないの?」と呟いた
「私は言いましたよ?"本格的に体験してみますか?"と。投げるだけでは敵を無力化出来ませんよ?」
ハジメは深月の言葉を思い出して苦虫を潰した様な表情をする
「ちっくしょう!こうなったらやってやらあ!」
「何事も体験よ!」
「動きを封じる!」
「そうです。四肢にしがみ付けばどうにかなるですぅ!」
「名案じゃのう!」
「先兵のステータスは伊達じゃないよ!」
ハジメ達は覚悟完了しているが、八重樫と谷口は出来ていない
「・・・神楽さんのあの攻撃を食らうって事よね?」
「す、鈴はリタイアしt「リタイアは駄目ですよ」・・・シズシズ助けてぇ!」
「無理よ!」
深月は八重樫達でも見える程度で走って近づく。ハジメと皐月とシアとティオと香織の五人が一斉に深月へと襲い掛かる。狙いは四肢を掴んで動きを阻害する事。これなら直ぐに倒される事はないだろうと想定していたが、そのどれもが踏み潰されてしまう
深月の右腕を掴んだハジメは深月に引っ張られ、体が流れた所で腹部に左手を添え、右腕を押し込まれて一回転。そのまま膝上に背中から着地した事で弓なりとなり背に激痛が走る。ハジメが一瞬で投げられた隙を突いて、左から強襲した香織だが、首筋を掴まれて引き寄せられハジメの顎に側頭部をねじ込まれてしまった。こうして主戦力の内二人が脱落。皐月が背中からタックルする形で深月の腰を掴んで移動を阻害させると、ティオとシアが正面から襲う。だが、シアは未来視で自分が倒される姿を見て後退する。一方、ティオにそんな技能は無い為、無残にも王都襲撃の際に香織が使用した技と酷似する押し技で地面に叩き付けられて、深月がしゃがみ際に鳩尾に膝を付きたてられてしまった。そして、深月がしゃがんだ事で体制を崩してしまった事で皐月の拘束が緩んでしまった。その隙を逃さず腰を回して首筋に手刀を落として皐月も倒された。残されたのは三人となってしまった
「こうなったら・・・未来視で避けまくるですぅ!」
シアも無謀に突っ込むが、未来視で見える光景のどれもが呆気なく深月に倒される自分の姿だった
「あっ、駄目でしブヘッ!?」
足の甲を踏まれ、動きが止まった所に掌底のかち上げられ地面に崩れ落ちたシア。これで残りは二人
「ミ、ミズキン・・・鈴には優しく~が良いかなぁ・・・」
「南雲くん達みたいな強烈な攻撃は遠慮願いたいわ」
だが、現実は無慈悲である
「大丈夫です。優しく意識を刈り取りますので」
「それ絶対信用ならないやつだよ!?」
「くっ、やるしかないわ!」
谷口は、深月が近付けない様に障壁を張る。これなら時間稼ぎが出来ると思っていた二人だが、そんなに甘くはなかった。深月がスローモーションみたく拳を突き出して障壁に当たると、粉々に砕け散った
「にゃっ!?」
「シッ!」
八重樫は神速の一太刀が振るうも、深月に刀を持っている拳そのものが受け止められた。深月は刀の頭を叩いて八重樫の手から刀を落とし、そのまま流れる勢いで肘を八重樫の顎に叩き込んで沈黙させる。戦闘職全てが倒され、残りは谷口のみ・・・。深月がユラリと振り向き、谷口の懐に飛び込んで肘打ちで終了した
「それにしても、何故ハジメさんやお嬢様が銃を使わなかったのでしょうか?私、武器の使用有りと言ったのですが・・・」
深月の言う通り、ハジメ達は銃を使っておらず、理由は無手だから危ないと思い込んでいたからだった。しかし、よく考えて欲しい。弾丸を叩き切る事が出来る深月が無手だと危険だと思うだろうか?答えは否――――余裕で回避出来る
「さて、遠藤さん。私の動きを見て色々と学べましたか?」
「CQC・・・か。今の型よりも動きやすそうって感じた。でもさ、近接格闘術って本当に暗殺者に合っているのかな?」
「暗殺者の技能が十全に活かせない場面は何だと思いますか?」
「・・・多対一の状況?」
深月の問に、少しだけ考察して出した答えだった。一対一ならば、素早さを活かして隙を突いたり逃げたりと出来る。しかし、多対一だと活かすことは出来ない
「先程のCQCをちゃんと見ていましたか?私がどの様に相手を捌いたのかを思い出して下さい」
「攻撃を避けたり受け止めて――――あっ、そう言う事か!」
「気付いた様ですね。相手の姿勢を崩して攻撃は、急所攻撃に特化した暗殺者にとって相性が良く、CQCは多人数を相手取れます。まぁ、後半のは技量次第となりますが・・・」
遠藤は、今の自分に足りない物をしっかりと理解する事が出来た。ならば、後は鍛えるだけだ
「えっと・・・今からでも一対一で指導してもらっても大丈夫?」
「元々そのつもりでしたので構いませんよ。動き方から攻撃の流れを叩き込みますが、それからは自分次第です」
「絶対に物にしてみせる!」
ハジメ達が目を覚まさないまま、深月と遠藤のマンツーマン授業が開始された。お預けのハウリア達は、見様見真似で形だけでも良いから物にしたいと訓練を始めた。そして、ハジメ達が目を覚ましたのは夜中だった。夕食はフェアベルゲンの者達が用意していたので深月の料理を食べる事は無かった
深月「何回も言いましたが、遠藤さんは暗殺者の原石です」
布団「メイドさんも暗殺者として活躍出来るでしょ?」
深月「紛いではありますがね?ですが、遠藤さんみたいな事は出来ません。一定の条件下でのみ発動するスキルですから」
布団「しっかし・・・凶悪極まりない技ですわぁ」
深月「粗削りですが、洗練すればよりすさまじい効果を発揮するでしょう」
布団「さて、次は帝国へと入るよ!」
深月「変わり映えの無い話が続きましたが、次回をお楽しみに―――でしょうか?」
布団「頑張るよ!」
メイドさんのガチギレ時のフォントについて
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感情表現が良く分かるからこのままで
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読みにくいので普通に戻して