ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】 作:ぬくぬく布団
布団「県越えのお仕事ツライ・・・」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」
~深月side~
深月が情報収集を終えると、外は朝日がこんにちわをする手前だった。かなり時間が掛かってしまったが、十分すぎる程の物が集まった。深月は気配を透過させたまま帝城へと入り、リリアーナが滞在している部屋へと侵入する。中に入ると、リリアーナは着替えの真っ最中だった。深月は、透過を解除してリリアーナに声を掛ける
「リリアーナ様、おはようございます」
「ひゃい!?って、神楽さんでしたか・・・驚かさないで下さい」
「先日のあれにつきましては申し訳ありません。まさか・・・ど腐れ野郎が突撃して来るとは思いませんでした」
「あはははは・・・どうしてこうなったのですか!」
「あれが無ければ、帝国との同盟を有利に進める事が出来たのですが・・・本当に運が悪いです」
「本当に悲しいです」
「さて、本題なのですが・・・招待状をお願いしたいのですが、宜しいですか?」
「はぁ、分かりました。南雲さん達に宛てて一筆入れますので少々お待ち下さい」
リリアーナは机に座り、ハジメ達が違和感無く帝城に入れる様に招待状を書いて深月に手渡す
「有難う御座います。それと、帝国との同盟についてですが、運が良ければ対等に持って行く事が出来そうです」
「本当ですか!?」
「その為にも、あのど腐れ野郎に首輪でも着けておいて下さい」
「・・・八重樫さんにお願いしましょう」
結局、天之河の手綱を握るのは八重樫となった
深月はリリアーナに別れの挨拶を一言入れて、透過でその場から離れてゲートホールを通ってハジメ達の元へと帰還した
帝国が陥落するまで残り半日―――――
ハジメ達と合流した深月は、別れてからの事の顛末を報告した
「――――という事です」
「あんの脳内お花畑め!」
皐月はウガーっと地団太を踏んで怒りを露にしている。一踏み毎に深くなる地面を見たハウリア達は、「お嬢が怒ってる・・・ヤベェ」と口漏らす。しかし、ハジメのフォローとキスで皐月は元通りになった
「ん・・・ちゅ。もっと欲しいけど・・・それはまた今度でね?」
「・・・お、おう」
ディープなキスをした皐月を見て、「良いなぁ」と口漏らしながら自分もして欲しいと内心で思っているシアとティオと香織に、ユエがジト―っと睨みながら一言
「・・・皐月は特別」
「うぅ、そうですよね。我慢しますぅ!」
シアはハジメのハーレムに入る事が出来たので我慢できたが、ハーレム入りをしていない二人は文句を垂れていた
「妾もご主人様からのあつ~いキスが欲しいのじゃ!」
「わ、私も欲しいかな!皐月だけズルイよ!」
話は戻り、ハジメ達の後ろ盾となる王国が帝国の属国になる可能性が高くなってしまった事にどうしようかと頭を悩ませる皐月。しかし、只では終わらないのが深月クオリティー
「リリアーナ様についてはこの辺りで止めましょう。今はハウリア達についてです。帝国に戦争を仕掛ける事は決定なのですか?」
深月に尋ねられたハジメは、カムの方に視線を向けた。カムもハジメの視線の意味を理解して、深月の前に立って宣誓する
「深月殿、我々ハウリアは帝国に戦争を仕掛けます。しかし、ボスやお嬢を戦争に参加させる事は絶対にしません。これは、帝国と亜人族との楔を断ち切る為の戦い―――手出しは無用です!」
「お嬢様、私達は戦争には参加しない―――で間違いありませんか?」
「これはカム達の戦いなの。参加はしないわ」
「なるほど・・・では、お膳立ては大丈夫ですね?」
「ん?あ、あぁ。俺達はあくまでも傍観者だ」
「あわわわ、重要書類が落ちてしまいましたー(棒」
深月はわざとらしく、手に持った紙束をバサッとカムの前に落とした
「大丈夫ですか?こちらが拾いましょ――――」
「あららー、書類が無くなってしまいましたー。いえ、もう私達には必要無い物なので放置しましょう(棒」
ハジメと皐月は内心で「深月のわざとらしい演技下手すぎぃ!」とツッコミを入れた。一方、カムは手に持った書類を拾う時に見て、切り返した
「あぁ!こんな所に書類がぁ!?これは天からの贈り物にちがいない!」
カムもカムで何やってんだ!とツッコミを入れつつ、ハジメと皐月はカムが手に持っていた書類に書かれた物を見て頬を引き攣らせた。書類に書かれていたのは帝国の地図と、皇族の行動予定表、兵の配置人数、交代時間、重要拠点、亜人族が捕らわれている場所等々、帝国に関する情報のほぼ全てだった。これを見た二人の反応は、帝国が不憫でならなかった
「コレハキットイイモノダー」
「アジンゾクハセカイニミマモラレテイタノネー」
どうやって此処までの情報を半日で入手した!という叫びたい衝動を抑える事に成功。一番渡しちゃいけない物をハウリアに渡してしまったのだ。・・・カムは目を閉じて深月を祈り、他のハウリア達と情報を共有すべく一ヵ所に集まって作戦を練る
「・・・何が書いてあった?」
「父様達の表情が怖いのですが・・・」
「嬉々として作戦を立てておるのう」
「何を見たらあそこまで変わるの・・・」
カム達の変貌にユエ達がハジメと皐月に尋ね、二人は顔を見合わせて短期決戦に重要な物は何かと尋ねる
「いいか?カム達が行うのは短期決戦だ。それに必要なのは何だと思う?」
「・・・力?」
「違うわよ」
「あっ、情報ですか?」
「正解だシア。深月が落とした書類に書いてたのは・・・姫さんの婚約パーティーが終わるまでの皇族の予定表、兵士の情報、捕らわれている亜人族の情報と様々だ」
ハジメの言葉を聞いてユエ達は、もしも自分が帝国の立場だと考えたらゾッとした
「ヤバイのじゃ。・・・戦力もそうじゃが、行動の詳細まで把握されてしもうたら何も出来んぞ」
「プライバシーが無いね」
「・・・今のハウリア達には一番必要」
「もしかして・・・帝国陥落しちゃいます?」
そう、今のハウリア達に必要なのは情報だ。ある程度の誤差はあるだろうが、婚約パーティーで警備兵達が警戒する場所は決まっている。それに伴い、薄くなる場所がある。どれ程の人数で制圧できるか、予定外にも対処出来るかも分かる。過剰な人数にならず、帝国の要所に事を致せるのだ
「帝国は終わったな」
「あっ、王国の後ろ盾もしっかりとした物になるわね。亜人族に倒される程度の帝国と思わせれたら万々歳ね」
「だけど皇族の一人と婚約だろ?政略結婚って嫌らしいな」
「そうなのよ・・・。海外でパーティーに参加した時に近寄って来た奴等なんて、全員がお父さんのお金目当てなの。お父さんがね?「娘と結婚する相手の条件は、会社を立ち上げて世界有数企業の社長になれ」―――ってね?これを聞いた奴らは一斉に解散したわ。ホント、何を見ているか分かるわよ」
「な、生々しいよ・・・」
「愛が一欠片も無いのじゃ・・・」
「・・・もしくは体」
「うわぁ~、絶対に嫌ですねぇ」
皐月が体験した生々しい話にユエ達はドン引きして、ハジメは皐月の肩を持って抱き寄せている
「皐月は既に俺の女だ。もしも向こうで同じことをする様な奴らが居れば・・・躊躇い無くあそこを潰す」
「いえいえ、その様な輩は社会から抹消する方が一番です」
ハジメは何処を潰すのかは大体は予想が出来る。しかし、深月の言う社会から抹消の意味は想像出来ない。物理的にその生を終わらせるか、社会に出れない様に徹底的にゴミの様な人間として紹介するか・・・いや、後者よりも酷い可能性もあるだろう
「さて、パーティーの参加についての問題は解決済みです。リリアーナ様に招待状を一筆して頂きましたので、正規に参加する事が出来ます」
「ん?一枚しかないが大丈夫なのか?」
「招待人数分の手紙があるのが普通なのだけど・・・本当に大丈夫なの?」
「リリアーナ様専用のハンコを押されていますから大丈夫です」
深月は、リリアーナが執筆している内容も見ているのでその点は抜かりない。カム達へのお膳立てはこれで最後―――後は自分たちの手で自由を掴み取れだ。ハジメはカム達に一言入れてから、ゲートホールで帝国内へと移動した
~皐月side~
帝国へと移動したハジメ達は、そのまま帝城へと真っ直ぐに歩いて行く。このパーティーには、決められた者もしくは招待された者だけしか入れない特別な催しだ。これに参加する為、長い列に並んで詰所へと向かう
詰所近くまで来ると、遠目から見て兵士達は厳重な警備をしている。正規の手続きで不備が無いか、持ち込み物の一つ一つ精査してようやく入れるという事だ。だが、宝物庫を持っているハジメ達からすれば、この程度の検査はザル同然だ。そして、ようやくハジメ達の出番となった
「招待状は?」
「此方です」
「ん?人数分無い―――んなっ!?リリアーナ姫直筆の招待状だと!?」
「不備はないとは思いますが、内容の確認もお願いします」
「・・・少しだけ待ってもらおう。一応リリアーナ姫の確認を取らせて頂く間に検査をする。検査が終わっても確認が未だな場合は、列を外れて待ってもらおう」
「警備は重要だ。その程度待つさ」
「よし―――至急リリアーナ姫に確認を取って来い!」
ハジメ達を確認していた兵士は、詰所で手の空いていた兵士に命令を出して確認に向かわせる。その間、手荷物検査を厳重に行った。ハジメ達全員分の検査も終わり、列から外して待機させていると、リリアーナに確認に行っていた一人の兵士が帰って来て本物の招待状である事を伝えられた
「よし、確認も取れた。お前達は行っていいぞ」
ハジメ達が帝城へと入ろうとした時、一人の兵士が近付きシアに声を掛けた
「ちょっと待ちな。よぉ、ウサギの嬢ちゃん。ちょっと聞きてぇんだけどよ。・・・俺の部下はどうしたんだ?」
「部下?・・・っ・・・あなたは・・・」
最初は分からなかったシアだが、直ぐに察して驚愕の表情を浮かべていた。かの兵士は、樹海を出たばかりの頃のシア達を散々追い詰めた連中の一人だった
「おかしいよな?俺の部下は誰一人戻って来なかったってぇのに、何で、お前は生きていて、こんな場所にいるんだ?あぁ?」
「ぅあ・・・」
シアをジリジリと追い詰める兵士。シアにとって一番嫌な記憶がフラッシュバックを起こし、気圧されてしまう。だが、そんなシアの頬を摘まんで緊張感をぶち壊した皐月が彼に言い放つ
「貴方が誰か知らないけど、シアは私達の仲間よ。部下が戻って来なかったのはお前のせいだって言いたそうだけれど、それはお門違いよ。シアに聞いたわよ?ライセン大峡谷へと追いやられたって。大方、目先の欲に駆られて奥深くまで入り込んで魔物に食べられでもしたのでしょ?この世は弱肉強食、弱者は強者に従う―――帰って来なかった部下は魔物に敗れたという事よ。帝国の兵士なのにそんな事も理解していないなら、帝国に相応しくない考えの持ち主ね」
「ガキが粋がってんじゃねぇぞ!」
彼は激情に駆られて腰に下げていた剣を掴んで引き抜こうとしたが、深月の寸止めの目潰しに動きを止めた
「リリアーナ様に招待されている身分とはいえ、お嬢様方に危害を加えるのであれば――――殺しますよ?」
「ッ!?・・・・・チッ、案内係!とっとと連れて行け!」
「はっ、はい!」
彼は目を血走らせながらも、何かを我慢して凶悪な視線を向けながらも案内係に誘導を指示した。恐らくだが、このパーティーでは手を出さないという事だろう。詰所を離れ、案内されるまま歩きながら先程の話を蒸し返す
「やれやれ、躾けのなっていない奴だったな」
「帝国の弱肉強食を分かっていない馬鹿よね」
「・・・パーティーが終われば手を出してきそう」
「粘着な人ですねぇ」
「情けない男じゃのう」
「何と言うか・・・いかにも小物って感じだったね」
本人が居ない事を良しとして、ハジメ達は思った事を言いたい放題言っていた
ハジメ達は帝城の奥へと進み、大きな扉の一つに案内された。ハジメ達の待機室はこの場所なのだろう。扉を開けると、花嫁衣装を着たリリアーナとメイドのヘリーナ。そして、ついでの勇者(笑)パーティーの面々達も居た
「おっす、姫さん。どんな感じだ?」
「政略結婚ですよ?どんなも何もありません。私は、無事に同盟が結べるかを心配しているだけです」
「ふ~ん、何処の世界でも結婚衣装は白なのね」
「いえ・・・私のこの衣装が白いだけですよ?他の方達は目立ちやすい赤等が多いです。私がこの色にした理由は、汚れを知らないという意味を込めての色です」
白=誰にも手を付けられていないという事で、自分の価値を少しでも上げて帝国と良い関係を築こうとしているのだ。しかし、現時点ではとても厳しい
「なるほどねぇ~。確かに、事を致していないアピールをして自分の価値を上げるのは良い手ね。でも・・・深月から聞いたわよ?帝国が有利になる材料を作ったって――――ねぇ?お花畑勇者さんと愉快な仲間達?」
「お、お花畑勇者?」
「愉快な仲間って?」
「ムツ〇ロウじゃないわよ!」
「し、シズシズ落ち着いて!?」
八重樫は頭に血が登っているが、谷口が諫めに掛かった事で冷静さを徐々に取り戻した
「・・・・・はぁっ、どうして私が愉快な仲間の一人に入っているのよ」
「そこのお花畑勇者のストッパー係をしているから」
「そんな係なんて手放したいわよ!」
「雫、落ち着くんだ!俺は誰も困らせないし、この世界の人達を助ける為に俺達は行動しているから大丈夫だ!」
何処がどう大丈夫なのかが全く分からない。皐月は顔に手を当てて空を見上げて現実逃避した後、リリアーナとこれからの事について話す
「もう・・・あれはどうでもいいわ。よく聞いてリリィ、今は受けの状態かもしれない。だけど、強気で攻める事を諦めちゃ駄目よ。引いたら最後、ズブズブとつけ込まれるわよ」
「分かっています。ガハルド陛下に隙を見せればあっという間に奪われてしまいます。いえ、殆ど奪われている状態から奪い返す事に注力したいと思います」
「どれぐらい不利?」
「今で8:2です」
「はぁ~~~~、本当にどうしてこうなったのやら・・・」
「神楽さんのあの行動は、私の交渉を有利に進める為に行った事ですよね?」
「そう言ってたわ。でも、お花畑勇者が介入しても攻撃しないと想定していたらしいわ」
「ですよね。・・・光輝さんの行動はどことなくおかしいのです。まるで第三者からの目線で見ているかの様な行動―――操られていませんよね?」
「前に言ったでしょ?人間は正しい事しかしない性善説を信じているのよ。そして、気に入らない者は無意識に否定する。理想ばかり振りかざして、周囲の人間を殺すタイプな奴よ。今からでも遅くないから、信頼せず只の道具として見なさい。八重樫さんは優柔不断だから、ズルズルと引き摺られてあの有様よ」
「・・・ですが、それは出来ません。私達の都合で彼等を呼んでしまったのです。・・・帰る目戸が立つまでは保護しなければいけません」
リリアーナの目は力強く、これだけはやらなければいけないという使命感を帯びた物だった。皐月はこれ以上の強制は良くないと分かり、これ以上は何も言わずに傍観者へと徹した
「リリィ、大丈夫だ。俺が皆を守る!そして、無理な結婚も取り止められるようにする!それまで我慢していてくれ!」
リリアーナは、苦笑いで天之河とのやり取りを流す。それからは、昨日の出来事の話に移る
「それよりも、地下牢に居たハウリア達を脱走させたのは南雲さん達ですよね?」
「いやいや、こんな厳重な警備の中を潜り込むなんて出来ねぇぞ」
「絶対に嘘ですよね!?」
「まぁまぁ、夜を楽しみに待とうぜ?パーティーの主役なんだからもっとリラックスしろよ」
「リラックス出来ると思っていますか?私が来てから問題続きで関係者じゃないかと疑われているのですよ!?」
「これを舐めて落ち着いて下さい」
深月がリリアーナに手渡した薄黄色の玉。リリアーナは不思議に思いつつ、新しい煮凝りか何かと思いながら口に含むと、蜂蜜の風味が口全体に広がる。これは深月お手製の蜂蜜飴である
「・・・美味しいです」
モゴモゴと蜂蜜飴を舐めるリリアーナ。それに一早く反応したのは、食に飢えているハジメだった
「おいこら深月ぃ!姫さんに食べさせたやつは何だ!」
「飴玉です」
「砂糖菓子!?リリィだけズルい!私にも食べさせて!」
「残り一個しかありませんので、お嬢様にお渡しします」
ハジメ残念。仮初の主と本来の主となれば、優先順位は皐月となる。ハジメは四つん這いとなって落ち込み、皐月は早速口に入れて味わう様に舐める
「おいしぃ~♪」
「また作れよ!絶対だぞ!!」
「ハジメさんにはこちらです」
深月はスティック状の物をハジメの口に突っ込む。ハジメは戸惑いながらそれを舐めると、柑橘の爽やかな風味が広がる
「・・・美味ぇじゃねぇか」
これも深月が作った砂糖菓子である。砂糖そのものが高い為、数量は少ないのが難点だ
「・・・二人だけズルい」
「わたしにも下さい!いえ、食べさせて下さい!」
「わ、妾も欲しぃのじゃあ~!」
「砂糖菓子・・・ゴクリ。私も欲しい!」
深月に群がるユエ達の口に一本ずつ突っ込む様子は、まるで親鳥が雛鳥に餌を与えている光景を錯覚させる。ユエ達にも餌を与え終え、食べ終える頃に扉がノックされた
「誰ですか?」
『リリアーナ姫が招待された者達はこちらにいらっしゃいますか?皇帝陛下がお会いになれたいとの事です』
「南雲さん達を?」
恐らくハウリア達の事を聞くのだろう。リリアーナはハジメ達に視線を向けると、「ヤレヤレ仕方が無ぇな」と肩を竦めていた
「えっと・・・大丈夫ですよね?」
「バカな事をしなかったら大丈夫よ」
「先に言っておきますが、ガハルド陛下は気に入ったら手に入れる人です。十分注意して下さい」
「会っても何も渡さないから大丈夫よ」
「分かりました。南雲さんはあれですので・・・皐月に判断を任せます」
「手加減はするわ」
皐月とのやり取りを終え、リリアーナは入室の許可を出す
「急な要件に失礼致します。ガハルド陛下が応接室でお待ちです。リリアーナ姫や勇者達もご同行出来ますが・・・如何されますか?」
「行きます。この呼び出しは私が招待した事が切っ掛け―――ならば、私も同行しなければなりません」
「では、そちらの勇者様もご同行して頂きます」
「リリィが行くなら俺が護ってみせる!」
天之河の事は放置して、リリアーナとハジメと皐月を先頭に一行は応接室へと向かう
ハジメ達が通された部屋は、数十人くらいは座れる縦長いテーブルが簡素に置かれた一室だった。そして、上座に位置する場所で、頬杖をついて不敵な笑みを浮かべる男――――ヘルシャー帝国皇帝ガハルド・D・ヘルシャーがいた。彼の背中に二人、見るからに"出来る"オーラを纏った男二人が控えていた
「お前が、南雲ハジメと高坂皐月と神楽深月か?」
ハジメ達が入室するなり、リリアーナによる紹介や勇者に対する挨拶をすっ飛ばして、ガハルドの鋭い眼光が突き刺さる。同じ王族であるリリアーナは息苦しそうに小さな呻き声を上げ、天之河達は思わず後退りする。しかし、視線を向けられた等の本人達は、「どうした?」とどこ吹く風だ
全く変化の無いハジメ達を見て、ガハルドはますます面白げに口元を吊り上げ、三人は返事を返す
「ええ、俺が南雲ハジメですよ。御目に掛かれて光栄です、皇帝陛下」
「「「「「!?」」」」」
「皇帝陛下の仰られた通り、私は高坂皐月です。実力主義の陛下にお目をかけて頂けるとは光栄です」
「私は神楽深月、高坂皐月お嬢様の忠実なる
皐月や深月はともかく、ちゃんとTPOをしているハジメを見た天之河達の眼が、「お前、誰だよっ!」と物語っていた。特にリリアーナの動揺が酷く、「えっ?えっ?えぇ!?」と愕然とした表情でハジメを凝視している。一応リリアーナから招待されているとはいえ、今夜のパーティーに用事があるハジメとしては帝城から追い出されるわけにもいかない
「ククク・・・思ってもいない事を。普段の傍若無人な態度はどうしたんだ?ん?何処かの王女様が対応の違いに泣いちまうぞ?」
ハジメはリリアーナをジロリと見るが、リリアーナはプイッとソッポを向いて無視した
「似合わねぇ喋り方してぇねぇで、普段通り話しな。俺は、素のお前達に興味があるんだ」
「・・・はぁ、そうかい。んじゃ、普段通りで」
「普段通りで良いなら楽出来るわね」
「くく、それでいい」
ハジメ達は席へと座り、ガハルドは意味深めにシアを見た後、八重樫の方へと視線を向ける
「雫、久しいな。俺の妻になる決心は付いたか?」
「お、おい!雫は、既に断っただろう!」
「子供が一々茶々入れるなよ。俺は雫本人に聞いているんだぜ?」
八重樫は溜息を吐きながら、澄まし顔で拒否する
「前言を撤回する気は全くありません。陛下の申し出はお断りさせて頂きます」
「つれないな。だが、そうでなくては面白くない。元の世界より、俺がいいと言わせてやろう。その澄まし顔が俺への慕情で赤く染まる日が楽しみだ」
「そんな日は永遠に来ませんよ。・・・というか、皇后様がいらっしゃるでしょう?」
「それがどうした?側室では不満か?ふむ、正妻にするとなると色々面倒が・・・」
「そういう意味ではありません!皇后様がいるのに他の女に手を出すとか・・・」
「何を言っている?俺は皇帝だぞ?側室の十や二十、いて当たり前だろう」
「ぐっ・・・そうだったわ。と、とにかく、私は陛下のものにはなりません。諦めて下さい」
「まぁ、神による帰還が叶わない以上、まだまだこの世界にいるのだろうし、時間をかけて口説かせてもらうとしようか。クク、覚悟しろよ、雫」
ガハルドにすっかりと気に入られている八重樫に、ハジメと皐月は、「苦労人だ(ね)」と明らかに面白がっていた。二人のその反応にイラっとした八重樫は、紅茶に付いて来た角砂糖二つを二人の顔面に弾き飛ばす。しかし、ハジメは難無く口でキャッチし、皐月に向かって来たのは深月の弾いた角砂糖に迎撃されて八重樫の紅茶の中へ入った。八重樫の表情は悔し気に、ハジメと皐月の二人は澄まし顔だ。一連のやり取りを見ていたガハルドは、改めてハジメに鋭い視線を向ける
「ふん、面白くない状況だな。・・・南雲ハジメ。お前には聞きたいことが山ほどあるんだが、まず、これだけ聞かせろ」
「ああ?なんだ・・・」
「お前、俺の雫はもう抱いたのか?」
「「「「ぶふぅーー!?」」」」
ガハルドの唐突な発言に、八重樫を含めた数人が紅茶を噴き出した。そして、彼の背に控えている護衛達も、「陛下・・・最初に聞くのがそれですか・・・」と頭が痛そうな表情をしていた
「ちょっ、陛下!いきなり何をっ・・・」
「雫、お前は黙っていろ。俺は、南雲ハジメに聞いてんだよ」
「何をどうしたらそんな発想に辿り着くんだよ」
「どうやら、雫はお前に心を許しているようだからな・・・態度から見て、ないとは思うが、念のためだ」
「はぁ、あるわけないだろ」
「・・・ふむ、嘘はついてないな。では、雫のことはどう思っている?」
ガハルドの質問に、この部屋に居る皐月と深月以外の皆の視線がハジメに集まる。ユエ達や天之河達も様々な意味を込めている視線を向けていた。当の本人は顔を赤らめているが、ハジメが八重樫に対して思っている事は唯一つ―――
「・・・オカンみたいな奴」
「OK、その喧嘩買ったわ。表に出なさい、南雲君」
未だ成人もしていない女性に向けての、"オカンみたい"というのは酷い感想だ。無謀にもハジメに掴みかかろうとしていた八重樫は、天之河達に宥められていた
「・・・まさかの回答だが・・・まぁ、いい。雫、うっかり惚れたりするなよ?お前は俺のものなのだからな」
「だから、陛下のものではありませんし、南雲君に惚れるとかありませんから!いい加減、この話題から離れて下さい!」
「分かった、分かった。そうムキになるな。過剰な否定は肯定と取られるぞ?」
「ぬっぐぅ・・・」
八重樫は椅子にドカッと座り、苦笑いする坂上と谷口。それと、何故かハジメを睨む天之河だった
「南雲ハジメ。お前も、雫に手を出すなよ?」
「興味の欠片もねぇから、安心しろ。つか、ホント無駄話しかしないなら、もう退出したいんだが?」
「無駄話とは心外だな。新たな側室・・・あるいは皇后が誕生するかもしれない話だぞ?帝国の未来に関わるというのに・・・まぁ、話したかったのは確かに雫の事ではない。分かっているだろう?お前達の異常性についてだ」
ガハルドは、「おふざけもここまでと」態度を切り替えてハジメ達を見ながら話を変える。彼がリリアーナに招待されたハジメ達を呼んだのはこの事についてだ
「リリアーナ姫からある程度は聞いている。お前が、大迷宮攻略者であり、そこで得た力でアーティファクトを創り出せると・・・魔人族の軍を一蹴し、二ヶ月かかる道程を僅か二日足らずで走破する、そんなアーティファクトを。真か?」
「ああ」
「そして、そのアーティファクトを王国や帝国に供与する意思がないというのも?」
「ああ」
「ふん、一個人が、それだけの力を独占か・・・そんな事が許されると思っているのか?」
「誰の許しがいるんだ?許さなかったとして、何が出来るんだ?」
ハジメの簡素な返しに、ガハルドは視線を更に鋭くさせて睨む。周りの控え達も続く様に殺気を混ぜて威圧する。リリアーナは相当苦しそうに歯を食いしばって耐え、天之河達は顔を強張らせて戦闘態勢に入った。しかし、皐月がスッと視線をあちらこちらに向けた。それに気付かない馬鹿でないガハルドは、威圧を霧散させる
「はっはっは、止めだ止め。ばっちりバレてやがる。こいつ等は正真正銘の化け物だ。今やり合えば皆殺しにされちまうな!」
「なんで、そんな楽しそうなんだよ?」
「おいおい、俺は"帝国"の頭だぞ?強い奴を見て、心が踊らなきゃ嘘ってもんだろ?」
「戦闘狂ねぇ~・・・めんどくさ」
天之河達は訳も分からず、空気が元に戻った事に安堵する一方で、ガハルドに呆れるハジメと皐月
「それにしても、お前が侍らしている女達もとんでもないな。おい、どこで見つけてきた? こんな女共がいるとわかってりゃあ、俺が直接口説きに行ったってぇのに・・・一人ぐらい寄越せよ、南雲ハジメ」
「馬鹿言うな。ド頭カチ割るぞ・・・・・いや、ティオならいいか」
「っ!?な、なんじゃと・・・ご、ご主人様め、さり気なく妾を他の男に売りおったな!はぁはぁ、何という仕打ち・・・たまらん!はぁはぁ」
「ちょっと問題あるが、いい女だろ、外見は」
「すまんが、皇帝にも限界はある。そのヨダレ垂らしている変態は流石に無理だ」
「こ、こやつら、本人を目の前にして好き勝手言いおって! くぅうう、んっ、んっ、きっと、このあと陛下に無理矢理連れて行かれて、ご主人様の目の前で嫌がる妾を無理やりぃ・・・ハァハァ、んっーー・・・下着替えねば」
皐月は深月に向けて、指で首を掻き切る合図を送った
「少しばかり調教が必要の様ですね?」
「・・・すまんかったのじゃ。だから~・・・ゆ、許してくれんか・・・の?」
「大丈夫ですよ?破裂したら香織さんの再生魔法で元通りになるだけです♪」
「ヒィッ!?」
ティオの怯え様を見たリリアーナ達が「破裂?」と口漏らす中、深月はティオの片腕を掴んだ
「一本程度なら良いですよね?」
「駄目なのじゃああああ!例え元に戻るとはいえ痛みはあるのじゃぞ!?」
「淑女としての再教育を施したのにも関わらず、権力者の前でのこの暴走―――今なら、腕部、脚部、内臓の三種類のどれかを選べますよ?」
「嫌じゃああああ!どれもヤバイ場所なのじゃあああああ!」
「私のオススメは、フルコースですよ?」
「即死の間違いじゃ!」
深月の目の前で必死に土下座をするティオ。恥も外聞も全てを投げ捨ててでも行わなければ、この場であろうと実行する。実際、再教育中に暴走した際、手加減した発勁をねじ込まれて悶絶したのは真新しい記憶なのだ。痛みを快感へと変換の技能を貫通しての一撃は、ティオにトラウマを植え付けていたりする
「・・・さて、話を戻そう。俺としては、そちらの兎人族の方が気になるがね?そんな髪色の兎人族など見た事がない上に、俺の気当たりにもまるで動じない。その気構え、最近捕まえた玩具を思い起こさせるんだが、そこのところどうよ?」
「玩具なんて言われてもな・・・」
「心当たりがないってか?何なら、後で見るか?実は、何匹かまだ・・・いてな、女と子供なんだが、これが中々――」
「興味ないな」
「ほぉ。そいつらは、超一流レベルの特殊なショートソードや装備も持っていたんだが、それでも興味ないか、錬成師?」
「ないな」
「・・・そうかい。ところで、昨日、地下牢から脱獄した奴等がいるんだが、この帝城へ易々と侵入し脱出する、そんな真似が出来るアーティファクトや特殊・・な魔法は知らないか?」
「知らないな」
「・・・はぁ・・・ならいい。聞きたい事はこれで最後だ・・・神についてどう思う?」
「ぶち殺す」
「あ~、もう、分かった分かった。ったく、最後のはともかく、愛想のねぇガキめ」
ガハルドはガリガリと頭を掻きながら悪態をつく。予想としては、ハジメと皐月の作ったアーティファクトでハウリア達を逃したと思っていたが、返って来たのはこの世界の問題はどうでもいいと言った具合だ。だが、最後のエヒト関連については殺気が少し漏れ出ていた事から、ハジメの仲間の誰かを襲う可能性があると予想した
「しっかし、俺の威圧や殺気に無反応ってのはどういう事だ?何かしらの反応位はさせようとしたんだが」
「はっ!あの程度そよ風みたいなもんだよ。・・・・・深月が本気でキレた時の殺意の方がヤバイ」
「同感、深月が本気を出したら国落とし出来・・・あれ?本気じゃなくても余裕で出来そう・・・」
「流石に国落としをしようとは思いませんよ」
「しようとは思わない―――か。俺の下でその力を存分に振るわないか?」
「冗談でもブッ飛ばすぞ?」
「深月は私のメイド、誰にも渡さないわよ」
「私はお嬢様と将来の旦那様になられる予定のハジメさん以外の人の下では働きません」
ハジメと皐月は威圧を込めた視線をガハルドに、深月は全く興味が無い素っ気ない返事を返す
「つれない事言うなよ。数日の間だけリリアーナ姫の下で働いたのは知ってるんだぞ?」
「あれは、王国とリリアーナ姫個人の後ろ盾を手に入れる為にしたのよ。何でもかんでも奪う帝国よりも信頼出来るの――――ハウリア程度に逃げられる帝国の後ろ盾を作ってもねぇ?」
「ありゃあ誰かの手助けがあったから逃げられただけだ」
「運も実力の内よ。深月の件は主として認可出来ないから諦めなさい。もし、実力行使してきたら――――深月単独で帝国を蹂躙するように命令するわよ」
「そりゃあ勘弁だな。まぁ、最低限、聞きたい事は聞けた・・・というより分かったから良しとしよう。ああ、そうだ。今夜、リリアーナ姫の歓迎パーティーを開く。是非、出席してくれ。姫と息子の婚約パーティーも兼ねているからな。真実は異なっていても、それを知らないのなら、"勇者"や"神の使徒"の祝福は外聞がいい。頼んだぞ?形だけの勇者君?」
「なんだと!」
「勇者パーティーは理解出来ていなさそうだからハッキリと言っておいてやる。お前が本当の神の使徒に攻撃してくれたお陰で王国に色々と吹っ掛けられたぜ。その一点だけには感謝しているさ。ハッハッハハハハ!」
捨て台詞を残し、ガハルドは応接室を出て行った。ハジメ達は俯いているリリアーナを見て、内心で「色々大変だなぁ」と思い、ガハルドの言葉をよく理解していない天之河と坂上は首を傾げている
「ね、ねぇリリィ・・・ガハルド陛下の言っていた事って」
「えっと~・・・ヤバい感じなの?」
八重樫は事の大変さを理解し、谷口は少しだけ大変そうだと感じている模様。そんな彼等を見て、皐月はほんとうに残念な子供を見るみたいに溜息を吐く。深月に関しては彼等は既に理解していたと思っており、予想外の回答に表情は崩さずに驚愕していた
「うっわ~、リリィ、本当にご愁傷様としか言えないわ。帝国に何を要求されると思う?私は戦後の統治権についてだと思うわ」
「いえ・・・国家間の上下関係についてかもしれません」
「そりゃあ終わったな」
「南雲さん達からすれば他人事ですからね!くぅっ、考えて動いた結果がこんな事になるなんて・・・何故私ばかりこんな思いをしなければいけないんですかぁ!」
「・・・ストレスハゲ」
「ハゲませんよ!ユエさん、何気に酷すぎません!?」
ハジメ達は所詮他人事なので、お気楽に楽しみながらリリアーナと話しているが、その様子が気に入らない天之河が割って入る
「南雲、いい加減にしろ!リリィが困っているじゃないか!」
いやいや、リリアーナが困っている原因を作ったのはお前だろ―――と心の中でツッコミを入れて、面白半分で天之河の言い分を聞く
「なんて酷い奴なんだ。好きでもない人と結婚するリリィを笑うなんて人として最悪だ!お前は困っているリリィを助ける事なんて何もしない。大丈夫だよリリィ、この世界を平和にした暁には俺が開放してみせる!」
天之河自身は、気付かない特大ブーメランが突き刺さる。そもそも、リリアーナが困っている原因を作り出したのは天之河の行いのせいだ。確かにリリアーナの不幸を笑うのは趣味が悪いが、それは不器用なハジメなりの気遣いでもある
「ハジメ、早くこの部屋から出たいわ。パーティーの主役であるリリィも、そろそろ最終準備に取り掛かるだろうから会場に行きましょ」
「確かにそうだな。んじゃあ姫さん、俺達は一足先に会場に向かうぜ」
「待て南雲、話は終わってないぞ!」
ハジメ達は天之河を無視して部屋を退室して会場へと向かった。少しして、リリアーナも最終準備という事で、天之河達を連れて元の部屋へと帰って行った
布団「メイドさんは狙われたが、お嬢様達は絶対に手放さない」
深月「メイド冥利に尽きます」
布団「これからも頑張ってメイドメイドしましょう!」
深月「全力全開でお嬢様にお仕えする事こそ、メイドの勤めで御座います」
布団「話は変わって報告です。pixivの方でもお話を投稿しています。これに関してはフォント変換をしない形で一日毎の投稿になります。執筆しながら手を加えているのでご了承下さい」
深月「メイド成分を拡散していますね?」
布団「それと、帝国のお話は難産なのでお時間頂きます。と言っても、週一で書けそうなので変わらないと思われ」
メイドさんのガチギレ時のフォントについて
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感情表現が良く分かるからこのままで
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読みにくいので普通に戻して