ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】   作:ぬくぬく布団

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布団「おまちどう!それでは―――」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」














人質・・・メイドには関係無し

~深月side~

 

会場が暗闇になり、この場に居る参加者達の悲鳴が上がる。そんな中、深月はハウリア達の動きを観察する。暗闇の中で光を灯そうとする者を第一として狩って行く

 

襲撃タイミングは上々ですね。光源となる者を優先的に狩り、混乱の声に乗じて兵士の場所を割り出していますか・・・。ですが、帝国の者もそう易々と殺られはしませんよ?

 

ハウリアがもう一人の帝国兵の首を飛ばそうとした時、兵士達が一斉に背を預ける様に三人組となって防ぎに回る。ハウリアは止まらずに攻撃をすると、三人同時に動いてハウリアの退路を絶つ様に攻撃した。恐らく、先日の出来事から訓練の一つとして提案されたのだろう

深月のもたらした情報以外の攻撃に咄嗟に対処が遅れたハウリアは斬られてしまう。バックステップで死ぬ事はなかったが、重症である。トドメを刺そうとした兵士だが、死角から現れたハウリア達に首を跳ねられる

一方、皇帝のガハルドは矢の攻撃を前に動けず防戦一方となり中々指揮を出せないでいた

 

「っ!?ちっ!こそこそと鬱陶しい!」

 

急所をワザと外して防ぎづらい所を攻撃―――足止めと冷静な判断力を奪うには良いですね。しかし、単調過ぎる攻撃ですね。間髪を入れない事を前提で動いているなら間違いではありませんが、相手が並みの者でなかったら早々に対処されていますよ。しかし、今回は大丈夫ですね

 

粗方の兵士の対処が終わった後は、貴族達の逃亡を防ぐ為に手足の腱を切断している。すると、カバルドの方で動きがあった。素早い詠唱で、十程の光源を生み出して放つ。会場が光が灯り闇を払った所で、反撃開始と息巻く。直後、兵士達の目の前に金属の塊が転がって来たのだ

 

「何だ?これは・・・」

 

「よせ!近づくなっ!」

 

不用意に近づく兵士。嫌な予感がしたガハルドが制止するが、ほんの少しだけ遅かった

 

カッ!

 

キィイイイイイン!!

 

突如金属の塊が爆ぜ、凄まじい光と爆音が無差別に響き渡った

 

「ぐぁあ!?」

 

「ぐぅうう!」

 

「何がァ!?」

 

咄嗟に腕で視界を庇ったガハルドは無事だったが、聴覚がイカれてしまった。側近達は間に合わず、視覚も聴覚もやられてしまっていた。そんな大きな隙を逃すハウリアではなく、魔法を主として使う者だけを首を撥ね飛ばして、残りは手足の腱を切った後、念には念を入れて舌を切る。これでまともに動けるのはガハルドだけとなり、ハウリア達が一斉に襲い掛かる

 

「散らせぇ!"風壁"! 撃ち抜けぇ!"炎弾"!」

 

襲い来る矢の軌道をずらし、火球よりも威力の高い炎弾で悉くを破壊する。死角から気配を現わせて攻撃しようとするハウリアや、上部で狙撃するハウリアの足場を破壊したりと様々だ。ハウリア達へと殺到した炎弾は爆発し、衝撃を受けたハウリア達は攻撃の手が一瞬止まる

 

「舞い踊る風よ!我が意思を疾く運べ"風音"!」

 

本来の用途は遠くの小さな音を聞く為なのだが、聴力を補助する為の魔法だった。視界も回復し、音は魔法で補った。これでガハルドは十分に動けるが、それ以外の者達は全滅している。ハウリア達の獰猛な視線と殺気を受け、ガハルドの目はギラギラと滾っている。彼の本質は、強者と戦う事に喜びを見出すのだ

 

「ククク、心地いい殺気を放つじゃねぇか!なぁ、ハウリアぁ!ビビって声も出せねぇのか!?」

 

ガハルドの叫びにハウリア達が殺気を振り撒き――――カムが小太刀を二刀構えながら、殺気はそのままに無機質に返答する

 

「戦場に言葉は無粋。切り抜けてみろ」

 

「っ!はっ、上等ぉ!」

 

カムが真正面からガハルドに襲い掛かり、二人を中心に剣戟は嵐が巻き起こり火花を散らす。しかし、双方共に体に刃は届かない。会場で意識がある者達は、何故この様な状況になっても助けが来ないのかと状況に苛立ちを感じつつも、体が動かないのでガハルドの勝利を祈る

しかし、状況は一変した。ハウリアの攻撃が届いていないのにも関わらず、ガハルドの体がふらつき始めた

 

「っ!なんだっ?体が・・・」

 

その状況を、「待ってました!」と言わんばかりにハウリア達が四方から殺到する。体が鈍いながらも、ガハルドは襲い来るハウリア達を迎撃しようとするが、今まで隠れて攻撃しなかったハウリアの矢がふくらはぎに突き刺さる

 

「ぐぁ!」

 

膝が折れるガハルドにカムが小太刀を振るう。一刀は防がれたが、反対側の一刀はしっかりと腕の腱を切って剣を落とさせる

ガハルドは剣を落とされた瞬間、魔法を発動するも追撃のハウリア二人が装飾品を切って弾き飛ばし、手足の腱を切って動けなくする

 

「ッ――」

 

魔法陣を描いていた布は破れ、アーティファクトは弾かれた――――ガハルドが何かする手は残されておらず、迸る激痛に襲われながらも悲鳴を上げずに堪えながら地に倒れ伏した

ヘルシャー帝国皇帝の敗北――――その事実は、この場に居る殆どの者達から言葉を奪った。そして、ハウリアの一人が倒れ伏したガハルドに近づいて聴力を回復させる薬を施した。これからの交渉に必要だからだ

 

「ふん、魔物用の麻痺毒を散布してここまで保つとはな」

 

「くそがっ、最初からそれが狙いだったか・・・」

 

暗闇の中、ガハルドの頭上から光が降り注ぐ。暗闇で現実味がなかったが、光照らされる事で彼等にこれが現実のものだと理解させる

 

『どどどどど、どういうことですか!?ここここ、これは!?にゃにゃにゃ、にゃぐもさん!いいい、一体ぃ!!』

 

『いいから、ちょっと落ち着け姫さん。今、クライマックスなんだから』

 

光照らされ、組み伏せられているガハルドを見たリリアーナは物凄く動揺しており、皐月に羽交い締めされ、ハジメに手で口を閉じられていた。ハウリア達の襲撃の際、リリアーナはバイアスの近くに居たのだが、ハジメ達に連れられて会場の端っこへと退避させられていたのだ

帝国貴族が幾人も殺された事に天之河は盛大に顔をしかめている。八重樫や谷口、坂上も難しい表情で黙り込んでいた。これは亜人族の待遇改善を行う為の最大のチャンスであり、文字通り今後の種族の生末を左右する戦いを理解していても尚、目の前で繰り広げられた惨劇を見てあっさりと割り切る事なんて出来ないのだろう。八重樫は、自分が何をしなければいけないのかを理解して行動する。飛び出そうとした天之河の肩を強く掴んで飛び出さない様にさせる

 

「さて、ガハルド・D・ヘルシャーよ。今生かされている理由は分かるな?」

 

「ふん、要求があるんだろ?言ってみろ、聞いてやる」

 

「・・・減点だ。ガハルド。立場を弁えろ」

 

カムの姿は見えないが、パーティー会場全体に響き渡る声だ。這い蹲るガハルドに声を掛けるも、ガハルドの横柄な態度に、一拍置いて機械の様な声で忠告を発した。そして、これは忠告だけではなく合図でもあった。光がもう一つ現れてガハルドとは別の場所を照らすと、魔法を封じる為に舌を切られた者が膝立ちにさせられていた。ガハルドがその姿を確認すると同時に、その男の首があっさりと斬り飛ばされた

 

「てめぇ!」

 

「減点」

 

思わず怒声を上げるガハルド。しかし、次は別の男の元に光が当てられ、膝立ちにさせられて一拍置いた後に切り飛ばされる

 

「ベスタぁ!このっ、調子にのっ――」

 

「減点」

 

再び別の場所に光が照らされ首が跳ね飛ばされる

 

「・・・」

 

ガハルドは歯軋りしながらも押し黙り、前方の闇に向けて殺気を込めて睨む。そんなガハルドに対し、カムは淡々と話し掛ける

 

「そうだ、自分が地を舐めている意味を理解しろ。判断は素早く、言葉は慎重に選べ。今、この会場で生き残っている者達の命は、お前の言動一つにかかっている」

 

その言葉と同時に、ガハルドの首にネックレスが掛けられた

 

「それは"誓約の首輪"。ガハルド、貴様が口にした誓約を、命を持って遵守させるアーティファクトだ。一度発動すれば貴様だけでなく、貴様に連なる魂を持つ者は生涯身に着けていなければ死ぬ。誓いを違えても、当然、死ぬ」

 

そして、帝室の人間も確保しており、同じアーティファクトが掛けられている事を伝えると、ガハルドは苦虫を万匹くらい噛み潰した表情になる

 

「誓約・・・だと?」

 

「誓約の内容は四つだ。一つ、現奴隷の解放、二つ、樹海への不可侵・不干渉の確約、三つ、亜人族の奴隷化・迫害の禁止、四つ、その法定化と法の遵守。わかったか? わかったのなら、"ヘルシャーを代表してここに誓う"と言え。それで発動する」

 

「呑まなければ?」

 

「今日を以て帝室は終わり、帝国が体制を整えるまで将校の首が飛び続け、その後においても泥沼の暗殺劇が延々と繰り返される。我等ハウリア族が全滅するまで、帝国の夜に安全の二文字はなくなる。帝国の将校達は、帰宅したとき妻子の首に出迎えられることになるだろう」

 

「帝国を舐めるなよ。俺達が死んでも、そう簡単に瓦解などするものか。確実に万軍を率いて樹海へ侵攻し、今度こそフェアベルゲンを滅ぼすだろう。わかっているはずだ。奴隷を使えば樹海の霧を抜けることは難しくない。戦闘は難しいが、それも数で押すか、樹海そのものを端から潰して行けば問題ない。今まで、フェアベルゲンを落とさなかったのは・・・」

 

「畑を潰しては収穫が出来なくなるから・・・か?」

 

「わかってるじゃねぇか。今なら、まだ間に合う。たとえ、奴の力を借りたのだとしても、この短時間で帝城を落とした手際、そしてさっきの戦闘・・・やはり貴様等を失うのは惜しい。奴隷が不満なら俺直属の一部隊として優遇してやるぞ?」

 

「論外。貴様等が今まで亜人にしてきた所業を思えば信じるに値しない。それこそ"誓約"してもらわねばな」

 

「だったら、戦争だな。俺は絶対、誓約など口にしない」

 

口元を歪めるガハルドに、カムはどこまでも機械的に接する

 

「そうか。・・・減点だ、ガハルド」

 

再度、"減点"と言葉が発せられ、光で照らされた先に居たのは・・・

 

「離せェ!俺を誰だと思ってやがる!この薄汚い獣風情がァ!皆殺しだァ!お前ら全員殺してやる!一人一人、家族の目の前で拷問して殺し尽くしてやるぞ!女は全員、ぶっ壊れるまでぇぐぇ――」

 

皇太子バイアスだった。彼が照らされた時に息を呑む声がそこかしこから聞こえ、銀線が翻って帝国皇太子の首はあっさりと跳ね飛ばされた

 

「・・・」

 

「あれが次期皇帝。お前の後釜か・・・見るに堪えん、聞くに堪えん、全く酷いものだ」

 

「・・・言ったはずだ。皆殺しにされても、誓約などしねぇ。怒り狂った帝国に押し潰されろ」

 

「息子が死んでもその態度か。まぁ、元より、貴様に子への愛情などないのだろうな。何せ、皇帝の座すら実力で決め、その為なら身内同士の殺し合いを推奨するくらいだ」

 

帝国は強者にこそ従う。それは皇帝の跡継ぎにも適応され、決闘に勝利したバイアスがそれに適応したのだ。例え家族であろうとも、皇帝の跡継ぎを争うなら戦わせる。正に、実力至上主義―――そのせいか、ガハルドの表情に変化は無かった

 

「わかってんなら無駄なことは止めるんだな」

 

「そう焦るな。どうしても誓約はしないか?これからも亜人を苦しめ続けるか?我等ハウリア族を追い続けるか?」

 

「くどい」

 

「そうか・・・出来ればこれは使いたくなかったのだがな・・・。"デルタワン、こちらアルファワン、やれ"」

 

――アルファワン、こちらデルタワン。了解

 

突如、ガハルドには分からない事を発したカム。訝しそうな表情になるガハルドだったが、腹の底に響くような大爆発の轟音が響き渡り、顔色を変える

 

「っ。なんだ、今のは!」

 

「なに、大したことではない。奴隷の監視用兵舎を爆破しただけだ」

 

「爆破だと?まさか・・・」

 

「ふむ、中には何人いたか・・・取り敢えず数百単位の兵士が死んだ。ガハルド、お前のせいでな」

 

「貴様のやったことだろうが!」

 

「いいや、お前が殺ったのだ、ガハルド。お前の決断が兵士の命を奪った。そして・・・"デルタワン、こちらアルファワン、やれ"」

 

「おい!ハウリアっ」

 

ガハルドの制止の声が掛かるも、二度目の轟音が響き渡る。今度は帝城ではなく、帝都から聞こえた

感情を押し殺したこえで、ガハルドがカムに尋ねる

 

「・・・どこを爆破した?」

 

「治療院だ」

 

「なっ、てめぇ!」

 

「安心しろ。爆破したのは軍の治療院だ。死んだのは兵士と軍医達だけ・・・もっとも、一般の治療院、宿、娼館、住宅街、先の魔人族襲撃で住宅を失った者達の仮設住宅区にも仕掛けはしてあるが、リクエストはあるか?」

 

「一般人に手を出してんじゃねぇぞ!堕ちるところまで堕ちたかハウリア!」

 

「・・・貴様等は、亜人というだけで迫害してきただろうに。立場が変わればその言い様か・・・"デルタ、やれ"」

 

「待てっ!」

 

カム達からすれば、帝国は亜人族というだけの理由で迫害を続けてきたのに何を今さらと呆れている。故に、三度目の轟音が響き渡る。しかし、それは脅す為のブラフだったので、帝城へと繋がる橋が爆発した音だった

ガハルドからは爆発が見えないが、ハウリア達の行動から本気のそれだと理解する

 

「貴様が誓約しないというのなら、仕方あるまい。帝都に仕掛けた全ての爆弾を起爆させ、貴様等帝室とこの場の重鎮達への手向けとしてやろう。数千人規模の民が死出の旅に付き合うのだ。悪くない最後だろう?」

 

臆病で温厚だったハウリアが何故これ程までに変貌したのか・・・。ガハルドはハジメ達を睨む。この中で表情変化が乏しく、一番怪しいのだ。等の本人達は何処吹く風だ

ガハルドのは冷や汗を流し、巡るましく変化する現状をどうやって切り抜けようと模索しているのだろう。しかし、ハウリア達は待つ道理はない

 

「"デルタへ、こちらアルファワン・・・や"」

 

「待てっ!」

 

カムが良い終える前にガハルドは制止の声を上げ、苛立ちと悔しさを発散する様に地面に頭を数度叩きつけて吹っ切った顔をして返答する

 

「かぁーー、ちくしょうが!わーたよっ!俺の負けだ!要求を呑む!だから、これ以上、無差別に爆破すんのは止めろ!」

 

「それは重畳。では誓約の言葉を」

 

要求が通ったとしても淡々と答えるカムに対し、ガハルドは苦笑いしていた。肩の力を抜き、この場に残っている生き残りに向けて語る

 

「はぁ、くそ、お前等、すまんな。今回ばかりはしてやられた。・・・帝国は強さこそが至上。こいつら兎人族ハウリアは、それを"帝城を落とす"事で示した。民の命も握られている。故に、"ヘルシャーを代表してここに誓う!全ての亜人奴隷を解放する!ハルツィナ樹海には一切干渉しない!今、この時より亜人に対する奴隷化と迫害を禁止する!これを破った者には帝国が厳罰に処す!その旨を帝国の新たな法として制定する!"文句がある奴は、俺の所に来い!俺に勝てば、後は好きにしろ!」

 

これで帝国は亜人族・・・いや、ハルツィナ樹海に干渉しないという法が施行された

 

「ふむ、正しく発動した様だ」

 

その言葉と同時に、光が皇帝の一族達に降り注ぐ。その場には本来居る筈のない幼児までも居り、皆が首からネックレスを吊り下げていた

 

「ヘルシャーの血を絶やしたくなければ、誓約は違えないことだ」

 

「分かっている」

 

「明日には誓約の内容を公表し、少なくとも帝都にいる奴隷は明日中に全て解放しろ」

 

「明日中だと?一体、帝都にどれだけの奴隷がいると思って・・・」

 

「やれ」

 

「くそったれ!やりゃあいいんだろう、やりゃあ!」

 

「解放した奴隷は樹海へ向かわせる。ガハルド。貴様はフェアベルゲンまで同行しろ。そして、長老衆の眼前にて誓約を復唱しろ」

 

「一人でか?普通に殺されるんじゃねぇのか?」

 

「我等が無事に送り返す。貴様が死んでは色々と面倒だろう?」

 

「はぁ~、わかったよ。お前等が脱獄した時から何となく嫌な予感はしてたんだ。それが、ここまでいいようにやられるとはな。・・・なぁ、俺に、あるいは帝国に、何か恨みでもあったのかよ、南雲ハジメ、高坂皐月」

 

ハジメが居る暗闇に向けてガハルドが問い掛けるも、ハジメは傍観者を徹している為に何も答えない。そんなハジメに、ガハルドは舌打ちをする

 

「ガハルド、警告しておこう。確かに我等は、我等を変えてくれた恩人から助力を得た。しかし、その力は既に我等専用として掌握している。やろうと思えば、何時でも帝城内の情報を探れるし侵入もできる。寝首を掻くことなど容易い。法の網を掻い潜ろうものなら、御仁の力なくとも我等の刃が貴様等の首を刈ると思え」

 

「専用かよ。羨ましいこって。魔力のない亜人にどうやって大層なアーティファクトを使わせてんだか・・・」

 

ガハルドは、「大変な時期に何て事をしてくれたんだ!」と叫びたかったが、それは口にしない

「これにて終了」とカム達ハウリアが引き上げようとした時、カム達の腰が引っ張られる

 

『!?』

 

気配も無く引き摺られた事に驚愕したが、その後に何かを殴る鈍い音が鳴り響く。予想外の緊急事態に傍観者を決め込んでいたハジメは、天井へ光源を照らす鉱石が装備されたビットを飛ばして皆が見える様に照らすと、先程までカムが立っていた場所にドレスを血に染めた深月が女性を殴っていたのだ。皆が皆、急すぎる展開に困惑している中で、ハジメと皐月がいち早く気づいた

 

「おいおい・・・まさかこんな時に仕掛けてくるとは思ってもみなかったぜ」

 

「あれって神の先兵よね?」

 

皐月の言葉にガハルドやリリアーナ、本当の神の使徒を知っている者達の顔が強ばった。しかし、リリアーナは王国で畑山救出時の事を聞いていたのでハジメ達を信じる事にした。今回の数は前以上で、十人もの先兵が居た。皐月はユエ達に指示を出す

 

「ユエ達は生きている者達を連れて下がって!私とハジメと深月で迎撃するわ!」

 

「「「「了解(ですぅ)(じゃ)!」」」」

 

「ボ、ボス、お嬢!我らも「邪魔だからとっとと連れて下がれ」ッ―――!了解しました」

 

カム達も重要人物を連れて下がろうとした時、深月から念話が飛んでくる

 

(殺気で一時動きを止めます)

 

「全員、深月の殺気に耐えろ!」

 

ハジメが警告したと同時に、深月から殺気が撒き散らされる

 

「ッグゥ!」

 

「こ、これ程とはっ・・・」

 

「あの時の神の使徒が幼児に感じるぞ・・・」

 

『ウッ、オエ"ッ、オロロロロロロ』

 

ハジメ達ですら圧倒されるそれは、常人である者達からすれば兵器に他ならない。香織に傷を癒されて意識があった者にとっては地獄そのものだ。体験した事のない殺気がを全身に浴びて嘔吐する者が殆どだ。唯一吐かなかったのはハウリア達とガハルドだけだったが、体を震わせながらも体に鞭を入れて撤退した

 

「これで邪魔者は居なくなりました。帝城が無くなるかもしれませんが、その辺りは気にせず殺りましょう」

 

冷や汗を大量に流す神の先兵達。今回の割り当ては、ハジメと皐月で四体、深月が六体となっている

黒刀で割当てを分ける様に斬撃を放つと解散され、丁度になる様に分断出来た。そして、避けられた斬撃はそのまま壁を切り裂いて破壊する。ハジメ達の二度目の神の先兵との戦いが始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

皐月のドンナー・シュラークが火を噴いて先兵を攻撃するが、ハジメと同じ様に斬り落とされる。しかし、徐々に反応出来なくなってかすり傷を負っている

 

聞いてはいたけど・・・スペックがかなり高いわね。でも、相手取れない程じゃないわ!

 

皐月は、ビットとチャクラムを利用してオールレンジ攻撃をしている。そして、この戦いを前に武器の改修で戦力増強が丁度良かった

ドンナー・シュラーク改とシュラーゲン改は、深月のハーゼン・ハウンドと似た性質の魔力を込めた分だけ弾速が早くなるか改修を施したのだ。とはいえ、皐月の魔力も無尽蔵ではない。だが、その問題を解決したのは深月であった

 

「死になさいイレギュラー!」

 

先兵の分解魔法が真正面から皐月を襲ったが、皐月が左腕を盾にし、魔法が当たる直前で装備していたミサンガに吸収された

 

「なっ!?」

 

これには先兵もビックリ仰天

このミサンガは深月お手製である。実は、深月は生成魔法で魔力糸に技能を付与してアーティファクトを作ったのだ。最初は魔力糸を物質化する為の生成魔法だと思っていたのだが、それは誤りであった。深月は錬成師ではない為、鉱石に付与する事は出来ない。ならば魔力糸ならどうなるのだろう?とお試し気分で試した結果、ある程度の技能を付与する事に成功したのだ。こうなってしまったら、深月の暴走は目に見えており、皐月を守る為の御守りとしてミサンガを贈った。プレゼントされた皐月は喜んだのだが、ミサンガに付与されている技能を聞いた時にはドン引きしていた

それは―――――魔力濾過、魔力濾過吸引、超高速体力回復、超高速魔力回復、魔力変換―――計六つのぶっ壊れ技能だった。因みに、ハジメにも贈られているのでチートがさらに進んでいたりする。尚、ユエ達分も作ってはいるが、時間がない為今は持っていない

話は戻り、分解魔法を吸収された先兵は隙が出来た為、先程吸収した魔力を全て使ってシュラーゲンで胸部に風穴を開けた。ハジメも同じ様に、武器ごと頭部を粉砕した

 

これでノルマは二人―――その先兵達を皐月考案の新型ビットで足止めしていた

とこぞの私設武装組織の兵器と酷似したライフルビットを作ったのだ。第一弾目は実弾となれば、第二弾がビームになるのは必然である

 

「っく、死角ばかり!」

 

「これでは―――っ!?」

 

先兵が最後に見たのは、目の前を紅一色が埋め尽くした光景だった。ハジメと皐月の放ったシュラーゲンの極光が先兵を飲み込み、肉片一つ残さずに消し去った

 

「ふぃ~、終わった終わった。しっかし、深月が作ったミサンガの効果ヤベェな」

 

「私達が作る武器も大概だけど・・・それ以上の性能よね」

 

「それよりも深月の方は終わったか?」

 

ハジメ達が深月の方を見ると―――倒れ伏した天之川と坂上、そして人質とされた八重樫が居た

 

「「何でやねん・・・」」

 

思わずハジメと皐月は関西弁でツッコんだ。それは事を少しだけ遡る―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

皐月達が上空で先兵と戦う最中、深月は既に三人の先兵の首の骨を折って心臓を抉り出していた。深月を一瞬だけ見失ったら、三人殺られた事に苦虫を噛み潰した様な表情をしていた

 

「・・・後三体」

 

「イレギュラーッ!」

 

「おやおや、統一された造形人形に感情を与えたのですか。・・・以前とは違い感情起伏が豊かです―――ねっ!」

 

幻歩で相手の距離感歪ませて、一気に懐に入り込んで首に向かって手刀を一刺し。首を貫通して脊髄もろとも粉砕する

 

「カヒュッ―――」

 

「スクルト!?」

 

深月は手を引き抜こうとしたが、即死していなかったスクルトが深月の片腕を掴んで離すまいとしがみついていた

 

「今ッ!」

 

「確実にッ!」

 

左右から襲い掛かるが、深月は死して尚手を離さないスクルトを使って振り回す事で血を撒き散らせる。残りの先兵―――ラーズとグリーズに血が叩きつけられるが、両腕と羽で目に入らない様にして防ぐ。大量の血を浴びた二人は、分解魔法が付与されている鎧と羽は綺麗になった。しかし、防いだ四肢は血に塗れていた

 

「目潰しは外れてしまいましたね」

 

「ッ!」

 

グリーズは、咄嗟にバックステップしたと同時に頭部に鈍い衝撃を受けて壁際まで吹き飛んで瓦礫に埋もれる。深月は舌打ちしつつ、孤立したラーズを慢心無く処理を開始した

吹き飛ばされたグリーズは、瓦礫をかき分けて立ち上がる。急ぎラーズの支援をと思ったが、視界の端から振り下ろされた剣を受け止めた

 

「これ以上はやらせないぞ!」

 

「邪魔です。駒は駒らしく動きなさい」

 

「俺は勇者だ!悪神エヒトを倒すのは俺の使命、俺がこの戦いを終わらせてみせる!」

 

グリーズに攻撃を仕掛けたのは天之河だったのだ。何故ここに居るのか―――深月の殺気を全身に浴びて嘔吐して動けなくなった所をハウリア達が避難させたのだが、如何せん人数が多く、全員を監視する事は出来ない。その隙を見て勝手に戻って来たのである

 

「ちょ!?早く戻りなさい光輝!」

 

「光輝戻れ!」

 

グリーズは状況を把握した。無鉄砲な勇者を連れ戻しに来た仲間―――イレギュラーも少なからず気に留めている事から、人質に有効な者を選択した

 

「勇者もやる時はやりますね」

 

「俺はお前を倒す。うぉおおおおおおおおお!」

 

覇潰を使って短期決戦を試みる天之河。しかし、完全武装した神の先兵の一人であるグリーズのステータスは、およそ20000である。分解魔法等の技能も含めると、技術の引き出しの少ない天之河が勝てる可能性は皆無だった。振り下ろした聖剣は片手で受け止め、天之河の顔を掴んで坂上へと突進。早すぎて反応出来なかった坂上は、天之河と一緒に顎を打ち上げられ倒れ伏した

 

「では、有効活用させて頂きましょう」

 

「いっ!?ぐぅっ!」

 

八重樫は、肩の関節を外され、グリーズに背から首を掴み上げられた。痛みと息苦しさに涙目になり、八重樫は心の中でハジメ達に謝罪する

 

(本当にごめんなさい・・・光輝を止められなかったわ)

 

グリーズは、八重樫が抵抗する事も出来ないと確信して深月に警告を送る

 

「そこまでですイレギュラー、攻撃の手を止めないのであればこの女性を分解します」

 

グリーズの言葉を聞き、深月は動きを止めた。グリーズの位置からでは、土煙が足場を隠してラーズの状態は把握出来ず、自身とその場から離れる様に命令する。しかし、返ってきた答えはグリーズにとって最悪のものだった

 

「・・・現状を理解していますか?残りは貴方だけです」

 

「何を?ラーズの足は未だ動いています」

 

「経験の差がものを言いましたね。人は死んでも偶に動くのですよ?スペックの高い貴女達の体なら説明は不要でしょう?」

 

「ッ!?な―――」

 

土煙が晴れ、グリーズが目にしたのはラーズのもがれた足だった。血が噴き出る動きに合わせて筋肉が動いており、つい先程の出来事だと理解したグリーズが深月の足元を見ると、四肢をもがれたラーズがハイライトを失った目で涙を流しながら口から血を零している姿だった。しかも、深月の足が胸部を踏み潰しており、完全に機能を停止している

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は戻る―――

残りは自分だけとなり、八重樫の首を掴んでいる手に力が入って呻き声が聞こえたがそれどころではない状況に腕が震えていた

 

「貴女はどの様に殺されたいですか?即死で楽に死ぬ、いたぶられて死ぬ、絶望と後悔の念を抱いて死ぬ―――今なら選びたい放題ですよ♪」

 

「・・・人質の命は惜しくないのですか?」

 

「私からすれば、死地に自ら飛び込んだ責任と割り切って行動しますが・・・お嬢様達の返答待ちです。如何されますか?」

 

深月の質問と同時に空から降りて来たハジメと皐月は、どうしようかと頭を悩ませる

 

「ほんとどうするよ?狙撃しようとしたら壁にされるか衝撃で死ぬぞ・・・」

 

「何でここに来たのかは・・・暴走したお花畑を止めようとしたからでしょうね」

 

対処法が思いつかない二人が頭を悩ませている時、ようやく気絶した二人が目を覚ます

 

「うっ・・・一体何が起きたんだ」

 

「光輝大丈夫か?」

 

「龍太郎こそ無事か?」

 

「あぁ。だがよぉ、雫が人質に取られてやがる・・・どうすりゃあいいんだ」

 

「クソッ、人質なんて卑怯だぞ!」

 

グリーズを睨む二人だが、赤子が見ている程度にしか感じない為動揺する素振りもない

 

「南雲、攻撃するな!雫は仲間なんだ!」

 

「まぁ攻撃は出来ないな。・・・だが、こうなったのは他でもないお前のせいだぞ?―――天之河」

 

「なっ!?俺のせいだと?俺は間違った事はしていない!勇者として彼女を倒そうとしただけだ!」

 

己のせいでこの状況になった事を否定する天之河。この場面であろうとご都合解釈は、彼女が人質という卑怯な事をしたからいけないと結論付けているのだ。ハジメ達が迷っていると、八重樫が覚悟をした目で掠れた声で叫んだ

 

「わ――たしの事はいいから・・・攻撃して!」

 

『なっ!?』

 

なるほど、そういう事なら仕方がありませんね。お嬢様の友達という事もありますので香織さんを呼んでおきましょう

 

グリーズを含めハジメ達が驚愕する中、深月だけが微笑みながら香織へ念話でこちらへ来るように指示を出す

 

「それでは遠慮なく行かせて頂きます」

 

残像を残して深月が一気に八重樫の懐まで飛び込み、貫手を心臓へと穿つ。八重樫の体を貫通した深月の貫手が奥に居るグリーズへと迫ったが、グリーズは咄嗟に八重樫を放す事で難を逃れた。しかし、八重樫を貫いた深月の姿は無く、いきなり視界が反転した。落下する最中、首から上が無い体と手を振り切っている深月の姿を最後にグリーズの意識は無くなった

 

「雫ちゃん! 絶象!」

 

香織が行使した再生魔法が八重樫の体を元の状態まで再生させるが、心臓は動いていないので皐月が微力な纏雷で簡易AEDの様に刺激して動かした。すると、八重樫は咳き込みながら酸素を求めて呼吸した。自分の胸に手を当てて傷跡が無い事を確認し、少し遅れれば死んでいた事に体を震わせ涙ぐんでいた

 

「雫!大丈『メキィ』ブッ!?」

 

八重樫を心配して近づこうとした天之河の頬に拳が直撃―――天之河を殴ったのは香織だった。天之河は、どうして香織が己を殴ったのかが分からない事に呆気に取られていると、ニコニコと笑っているが目が笑っていない香織に胸倉を掴まれた

 

「どうして此処に天之河くんが居るのかな?かな?

 

「か、香織?」

 

「名前を呼ばないでくれるかな?天之河く―――うううん、お花畑くん?」

 

「お、お花畑?」

 

幼馴染である香織からのお花畑呼びにより一層と混乱する天之河。香織はそんな天之河に追撃を加える

 

「雫ちゃんを危険に冒した張本人だからだよ」

 

「あれは彼女が人質として雫を捉えたのがいけないんだ!」

 

「ねぇ、この世界に来た時に皆を護るって言ってたよね?お花畑くんは今までに誰かを護った?」

 

「沢山護って来たじゃないか!」

 

天之河の言う護った―――これは魔物を倒す事で襲われる人が少なくなったという意味での護ったと言う事と解釈しているのだ。全くもってお話しにならない

 

「全然護っていないよ?皆を死なせないって言ったのにハジメくんを最初に死亡扱いにしたのは誰?お花畑くんだよね?先生が攫われた時は?王都での襲撃は?この襲撃は?・・・何もやっていないし、足を引っ張ったよね?」

 

「違う!それは知らなかっただけだ!」

 

「この世界に来た時ばかりの私なら、同じ様に言い訳していたと思うよ。でも、今は違うよ。知らないからなんてただの言い訳・・・知ろうとしなかっただけだよ。私は考えの甘さという現実を叩きつけられたの」

 

「知っていたなら教え―――」

 

「何故教えないといけないの?少し調べれば分かる事だよ?帝国に来た時だって驚いていたけど・・・奴隷が居るって教えられたよね?」

 

「あ、あれは子供が奴隷として働かされていたからだ!」

 

「もういいよ、これ以上は誰のためにもならないし平行線だよ」

 

香織の価値観はハジメと一緒に行動してからガラリと変わった。現実はどれも酷く、誰もが必死に生きている。強者が弱者を挫くのは当たり前で、その日その日を生きるだけで精一杯なのだ。ハジメは沢山の人達を助けているが、それはあくまでも副次的やついででの事ばかり。助けても、これ以降は自分達の力でどうにかしろといった物ばかり・・・ハジメ達も余裕が無いのだ。神から狙われた状態では自分の周りだけしか守れない事を理解しているからだ

 

「雫ちゃん・・・本当に大丈夫?違和感ない?何処か怪我をしているかもって場所は?」

 

「大丈夫よ。香織のお陰で体に違和感もないししっかりと動けるわ」

 

「・・・それならいいけど」

 

「言いたい事があるんでしょ?」

 

「お花畑くんと何時まで一緒に行動するの?」

 

「それは・・・」

 

「私、嫌だよ・・・。今回みたいに雫ちゃんが人質に取られちゃったらと思うと心配ばっかりだよ。深月さんと私が居たから切り抜けられただけなんだよ?分解されちゃったら私でも元に戻せない・・・だから、もう・・・同門だからって理由だけで一緒に居るのは止めて」

 

「香織・・・」

 

香織な純粋な心配に八重樫は心苦しそうに名前だけを口にするが、答えを返そうにも優柔不断で直ぐには答えられなかった

 

「雫ちゃんの事だから迷っているのは分かるよ。でも・・・それでも早く決めてね?皐月も心配しているからこそ雫ちゃんに警告を言ったの。だから決めたら迷わないで」

 

香織は八重樫から離れてハジメ達の元に合流した

 

「どうすれば良いのかしらね・・・」

 

「切り捨てた方が長生きしますよ?」

 

「・・・何時から聞いていたの?」

 

「最初からですよ?」

 

「気配を消す理由なんてあったかしら?」

 

深月は「いいえ」と断りながら天之河をゴミ屑の様な目で見て離れて行った

 

「・・・分かっているわよ。私の優柔不断がいけなかった―――今の光輝を作り上げた責任が私にもあるのよ」

 

八重樫はハジメ達の方を無意識に羨ましそうに見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「八重樫さんの評価改めです」
布団「覚悟を決めたの凄いっす」
深月「しかし、お嬢様の御活躍が少ないです。もう少し多くを希望します!」
布団「大迷宮まで待ってくだしぃ」



メイドさんのガチギレ時のフォントについて

  • 感情表現が良く分かるからこのままで
  • 読みにくいので普通に戻して
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