ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】 作:ぬくぬく布団
深月「ゲームをされていたのですか?」
布団「ゲームはしていないよ。冬野菜の第一陣が全滅したので、その補給を急ぎ行っていたの・・・」
深月「それはまた・・・大変ですね」
布団「読者達には申し訳ありませんでした!」
深月「それでは、毎回ご恒例を行いましょう。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」
~深月side~
朝日が部屋を照らす前、いつも通り起床。一伸びして精神統一、意識をしっかりと目覚めさせ終えるとテキパキとメイド服を着用し鏡の前で調整する
さぁ、今日もお嬢様の為に全力でお仕えです。体調よし、手入れよし、外見よし、清掃行きます!
屋敷に居る使用人達全員が起床し、なるべく音を立てない様に掃除をあっという間に終わらせる。掃除が終わる頃には日も照り、朝食までもう少し。深月は、厨房で紅茶を入れる道具をカートに乗せて皐月の部屋へ移動。いつもポケットに入れている懐中時計で時間を確認して、いつも通りの時間で部屋に入る。カーテンを開けて部屋全体に非の光を入れると、ベッドで寝ている皐月が日の眩しさに身動ぎする
「うにゅう・・・眩しい」
「おはようございます、お嬢様。朝食まで後少しですので眠気覚ましの紅茶は如何されますか?」
「・・・飲む」
皐月は深月が淹れた紅茶を飲み、眠気を覚ましながら美味しい紅茶一杯を堪能した
「ふぅ、深月が淹れる紅茶はいつも美味しいわね」
「ありがとうございます」
「ちょっと遅れたけど、おはよう深月」
「はい、おはようございますお嬢様」
しっかりと起きた皐月は、ドレッサーに移動して髪を梳かす。後ろの見えない所は深月が梳かす事で完璧に仕上がる
お嬢様のサラサラ髪きもちぃいいいいいいいい!クンカクンカしたいですが、しっかりと自重していますよ?後はお着換えです。お嬢様が起きる前にアイロンがけしたシャツと、制服のスカートを履いてリビングへと移動です。旦那様と奥様は早く起きられており、食卓の椅子へ座られています
「「皐月、おはよう」」
「おはよう、お父さん、お母さん」
「深月ちゃんも皐月の事をありがとう」
「メイドとして当然の勤めです」
「さて、皆で朝食にしよう。―――――いただきます」
『いただきます』
高坂家の食事は、主と一緒に使用人も食べるという特殊な行いである。当主の薫曰く、「皆で美味しく食べる事が重要」という方針だ
トースト、ベーコンエッグ、サラダ、コーンスープのありふれた朝食を食べて、各自の予定確認を行う
「僕の予定はスポンサー会議をする予定だ」
「私も新衣装の会議よ」
「私は学校で勉強。ハジメ達と一緒にお昼を食べる予定かな?」
あぁ・・・なるほど、こういう事でしたか。確かにこれは気付くまでに多少なりとも時間が必要ですね
最初から何か違和感を感じていた。だが、深月は先程の皐月の言葉で確信に至り溜息を吐く。その様子に気が付いた皆が深月を心配そうに見ていた
「深月、疲れたのなら休みなさい」
「そうよ、深月ちゃんは無理しがちだから要注意よ?」
「えっと、本当に無理は駄目よ?」
全員が深月を心配して声を掛ける。だが、この夢の様な時間はいつまでも居るのはいけない。己のやるべき事を再認識させる
「本当に―――本当にありがとうございます。ひと時とはいえ、私の理想とする日常を体験させて頂いた事には感謝いたします」
「どうしたの?深月、どこかおかしいわよ?」
「無理は駄目だよ?」
「今日は休みがいいわね」
この理想の世界の誘惑は本当に・・・私からすれば本当に危険です。一瞬で堕落し、それを求め続けてしまいます。だからこそ拒絶し、本来の世界に戻らなければいけません
深月は皐月の手を包む様に優しく握り、目を真っ直ぐ見つめながら告げる
「この世界が作り物とはいえ、私が信奉するお嬢様の言葉を拒絶する事をお許しください」
「・・・ここは理想郷なのよ?一緒に楽しい日々を楽しみましょう?」
「私の最優先目標はお嬢様の幸せです。私の理想のお嬢様と主のお嬢様・・・・・後者が一番です」
「・・・私じゃ不満?」
深月の願い全てを尊重する皐月なら不満処はない。だが、それは人形に近い存在だ。時には否定し、導き、お願いされたりするのが本来の主である皐月の姿だ
「不満はありません。私の願いを汲み取られるお嬢様は大変素晴らしく思いますが、何でもというのはありえません。私はお嬢様のメイド―――僕として時には導き、時には導かれる存在です。いつの日かこの光景が現実となる様、私は進みます」
深月が言い終わると同時に、世界にヒビが入りガラスの様にバラバラと砕け落ちる。深月は皐月の手を離し、背を向けて歩く
「・・・そう。やっぱり深月は強いわね」
「僕達が深月の理想の姿とはいえ、さようならは悲しいね」
「深月ちゃん、行くのね?」
皐月、薫、癒理の三人の言葉を背に受け歩みが一瞬止まり、再度振り返って崩壊する世界の皆に別れの礼と言葉を送る
「必ず、必ずお嬢様達と地球へ戻ります。―――有難う御座いました」
背を向け再び歩き始めたと同時に、世界が一気に砕けた
「・・・合格だよ。甘く優しいだけのものに価値はない。与えられるだけじゃ意味がない。たとえ辛くとも苦しくとも、現実で積み重ね紡いだものこそが君を幸せにするんだ。忘れないでね」
皐月達とは違う声が響き渡る。中世的な声と霞んだ人影は、最後には優しい微笑みを浮かべていた
深月は、目を覚まして周囲を確認する。暗闇が支配する中、夜目で問題なく見えるのでこの空間の様子を見ていると、ドーム状の空間に一定の間隔で置かれている長方形型の物体で透明感のある黄褐色。おおよそ人一人分入る事が出来る程の大きさで、個数もこの迷宮に入った人数分だった。自分が居た場所も同じ物があり、抜け出た様な形だった
これは・・・先程の理想郷を見ている者が入っているという事ですか。あのトレント擬きが居た空間から少し進んだ場所で転移、試練を受けるといった流れですね。不意打ちには警戒をしていたのですがまだまだでしたね。精進せねば!
己の未熟さを恥じて次への教訓に活かす事を決めていると、二つに変化があった。琥珀の光が灯り、徐々に薄くなっている。およそ五分―――琥珀が溶けて出て来たのはハジメと皐月だった。スライムボディから元の身体に戻った事に安堵し、目覚めるまで傍で待機する
「っ・・・ここは・・・」
「・・・うぅん・・・ここはどこ?」
深月は、二人が目覚めるタイミングも同じな事を見て「お二人は運命の赤い糸で繋がれていますね」と呟きつつ目覚ましの紅茶を一杯ずつ手渡す
「うぉっ!?・・・・・深月か、びっくりさせるなよ」
「深月が一番だったのね。二人の理想の世界はどんな感じだった?因みに、私はハジメと結婚して自分とユエ達の子供と仲良く暮らしていた光景だったわ」
皐月が理想とする世界は、皆仲良く穏やかな日常という事だった
「俺は皆で学校で暮らす日常だったな。皐月達と同棲生活で充実していた」
「私は朝の時点で気付きましたので・・・お嬢様以外の方達を見ていませんね」
「・・・だよなぁ」
深月の"一瞬で見抜きました"の一言でガックリと項垂れながら溜息を吐くハジメ。それを見ていた皐月はジーっとその様子を伺う様に見つめていた
(ハジメは無自覚ながら深月を落とそうとするけど、深月も無自覚な返しで撃墜しているのよね。・・・これは大変そうね)
二人は深月の淹れた紅茶を飲みながら皆を待っていると、一つ、また一つと琥珀が溶けていく。ユエ、シア、ティオ、香織の順で目覚めた。四人の理想の世界はというと、ユエとシアは皐月と似た世界で、ティオは・・・いうまでもなく変態な世界、香織はハジメを見て顔を赤くしていたので恐らくエッチな世界だったのだろう
「ユエとシアの世界が私と殆ど同じなのは良い事ね。ティオと香織は・・・なんとなくそうだろうとは思っていたわ」
「・・・変態とむっつりスケベ」
「ティオさんはすでに手遅れですが、香織さんも少しは自重を覚えた方が良いですよ?」
「あふんっ!その冷ややかな視線がたま「再度教育が必要ですね?」・・・嫌じゃあ!妾の自由を奪う行為はもう嫌じゃ!!」
「むっつりじゃないもん!それよりも、シアも酷くない!?これでも自重している方だよ!?」
「スケベである事は否定しないのね・・・」
「ハッ!?」
「・・・マヌケ」
「ユ~エ~!」
「エロ香織」
「今日という今日こそは許さないよ!」
「受けて立つ!」
売り言葉に買い言葉でユエと香織のキャットファイトが開始し、ティオは深月にネチネチとお説教されている
「見慣れた光景だな」
「ですねぇ~」
「・・・見慣れたくないわよ」
ハジメと皐月とシアは、残りの琥珀に視線を向ける事で無視。話を強引に切り替える事にした
「俺達は余裕だったが、あいつらの中で真っ先にクリア出来るのは誰だと思う?」
「八重樫さんでしたっけ?あの人だけだと思いますよ」
「私個人としては遠藤君も付け足したいわ」
「案外、迷宮の試練にも忘れられたりしてな」
「「それはないでしょ(ですよ)」」
「あいつの影の薄さ知ってるだろ?」
ハジメの言葉を聞いて、皐月とシアが思い出した様に考え込んだ末に導き出した答えの一つの可能性として選択肢に出た
「深月が認める程の気配遮断よね。・・・どうしよう、否定出来ないわ」
「気配に敏感な私も気付く事が出来ませんでしたし、深月さんに一目置かれているとなると可能性としてはありですよね」
もしこれを遠藤が聞いていたなら泣いても良いだろう。二人の素直な感想は悪意が無い分余計に質の悪い言葉だからだ。そして、噂をすれば影とやら―――琥珀の一つが溶けつつあった
「お、誰が目を覚ますんだ?」
「賭けをやりませんか?深月さんの料理一品で」
「良いわね。なら、私は遠藤君で」
「八重樫もありだと思ったんだが、此処は皐月と同じ遠藤にするか」
「えぇ~、八重樫さんは私だけですかぁ?あの人って結構現実を見ているから早くクリア出来る筈ですよ。あっ、気配感知とか使っていませんよね?」
「大丈夫よ。勇者(笑)パーティーは興味が無かったから確認すらしていないわ」
皐月は元々勇者(笑)達を連れて行く事を反対しているので、本当に興味が無かった。唯一興味があるとすれば、深月が期待している遠藤がどの様に化けるかだけだ。
「・・・すまん」
「皐月さん自身は気にしていないつもりでも、心の奥底では気にしているんですね」
皐月だけでなく、深月に関してもストレスを量産する勇者(笑)パーティーと同行という事が一番の心労なのだ。そんな彼等を待つ事おおよそ三十分後に一つの琥珀が溶け始めた。キャットファイトしていたユエと香織は中断し、OHANASHIをしていた深月とティオも切り上げてハジメ達の傍へと集まる
「遠藤来い。八重樫よりも後だったらブッ飛ばす」
「深月の麻婆を食べさせましょう。麻婆を布教出来るわよ?」
「ここは八重樫さんですよ!私の夕ご飯の一品を賭けているんですから!」
琥珀が完全に溶け、中から現れたのは遠藤だった。だが、他の者達とは様子が違っており目が開いていたのだ。深月でさえ琥珀が溶けてから目覚めたのに対して遠藤だけが違う異常を警戒し、ハジメと皐月はドンナーを突き付けた
「え?ちょっと待って。何で二人は俺に銃口向けてるんだよ!?」
皐月が魔眼の感知技能をフルに使って本人かどうかをチェックするも、魔物の反応ではなく本物の人間の反応が返って来た。皐月がハジメに目配せをして銃口を下げた事で、ハジメも眼帯の情報が騙されていない事を理解して銃口を下げて疑問を問う
「おい遠藤、俺達でさえあの琥珀が溶けてから目を覚ましたのに何故お前だけは違っていた?」
「何故って・・・俺にもさっぱり分からない。あの光の後はずっと真っ暗だった。・・・でも、しばらくして日常の光景が映ったんだ。だけどさ、俺が無視されない違和感に気付いてツッコミ入れてたら世界が硝子の様に砕け散ったんだ。それで目が覚めると狭くて動けないし・・・南雲達が俺を賭けにしている声が聞こえた瞬間に溶け始めた感じだよ」
ハジメ達は遠藤の試練に付いて何がどうなっているのかが分からない表情をしており、色々と推測を立てていると遠藤が言った言葉の一つに違和感を感じた
「ちょっと待って。ねぇ、光の後にずっと真っ暗って言ってたわよね?どのくらいの長さか分かる?」
「かなり長かったんだよ。あ、真っ暗って言うのは目隠しや睡眠みたいなのとは違う感じだった。無重力の真っ暗な部屋に入れられた感じだったよ」
ハジメ達は気になった部分が更に複雑になった事に頭を悩ませていると、深月から冷静な一言が告げられた
「大迷宮そのものが遠藤さんの存在を忘れていたのでは?」
ハジメ達は沈黙し、遠藤は「えっ?・・・え?」と真顔で戸惑っている。そして、ハジメ達が出した答えは
『流石影の薄さ第一位』
「ちくしょう・・・ちくしょう!」
「大丈夫ですよ、私はちゃんと認識していますから」
「・・・神楽さんの優しさが心に染み渡る」
素直な感想に傷付く遠藤をフォロー?し終えた深月は、ハジメ達にとって重要な事を告げる。いや、告げなくとも気付くのだが、念には念を入れてである
「遠藤さんが一番先に目覚めたという事ですので、賭けの勝利者はハジメさんとお嬢様のお二人ですね。では、食事を御作り致します」
「へっへっへ―――覚悟しろよシア」
「こればかりは譲れないから覚悟してね?」
「ぬぐぐぐぅ!約束とはいえあげたくないです!!」
「「抵抗するなら深月に飯抜きを―――」」
「それだけは勘弁して下さい」
シアの品を二つ奪われる事は決定した。だが、シアはここは迷宮内だという事を踏まえると手の込んだ物は出来ないだろうと踏んでいた。だが、深月が宝物庫から簡易キッチンを取り出し、食材を色々と乗せている所を見てガックリと項垂れた
さて、何を御作り致しましょうか。・・・ハジメさんは蜂の子サンドを食べているとはいえ、普通に食べそうですね。腹持ちが良く、満腹感を与え、いざという時に対処出来る物と言えば―――サンド系しかありませんね。蜂の子は肉系の味でしたが、女性受けはしなかったので却下。お肉は変わり映えが無いので魚でいきましょう
先ずはパンからだが、これは大量に焼いた物を宝物庫から取り出して横真っ二つにする。続いてエリセンで手に入れた処理済みの鮫形の魔物の大きな切り身一ブロックに清潔を行使。その後手早くステーキ状にカット、小麦粉、溶き卵、パン粉の順番につける。この準備の間に並列思考で魔力糸や重力魔法を駆使して二つの鍋に水と油を注ぎ、熱量操作で180℃まで熱し終えた油のプールに切り身を入れてフライを作る
火が完全に通るまでに時間に新鮮な状態で冷凍処理したレタス擬きを手で割いて熱量操作で解凍、沸騰したお湯の中にサッと潜らせて冷たい水へ投入して清潔済みの魔物の卵を投入。レタス擬きが完全に冷えたら取り出して適度に水切りをする。そうこうしている内に第一陣のフライが出来たので取り出し、第二陣を投入。次はソース。これは先程の茹で卵にタマネギ擬きをみじん切り刻み、塩、胡椒、砂糖、酢を良くかき混ぜる事でタルタルソースの完成である。すると、料理中の深月の感知に一つの琥珀の変化が反応した
「これは八重樫さんですね。近々目覚めるので一応作っておきましょう。あ、ど腐れ野郎とのうk―――坂上さんと谷口さんは無理そうなので無視です」
この試練をクリアするならば食べさせる事は吝かではないと思っている深月。だが、勇者(笑)三人に関しては期待薄なので作る事はない
第一陣のフィッシュバーガーを作り終えると同時に第二陣のフライが完成したので、急ぎ追加の第三陣を準備して投入。第二陣の盛り付けが終わると同時に、琥珀が完全に溶けて八重樫が目を覚ました。しかし、深月から見て少しだけ様子がおかしく、ハジメを見て皆に見られず悟られない様に悶々としていた
八重樫さんがどういった夢を見ていたのか想像できますね。少女漫画の様に自分を助ける主人公の姿に惚れた感じですね。その主人公はハジメさんで確定―――ハジメさんも罪作りな人ですね
深月の最後の感想についてはハジメのせいではない。だが、ハジメは無自覚に好意をばら蒔いているから何も言えない。そのせいでリリアーナ然り、畑山然り
取り敢えず第三陣のフィッシュバーガーも完成し、全てが準備完了である
「皆様方、お食事の御用意が出来ました」
深月の言葉を聞いたハジメ達は、簡易キッチンの傍までダッシュ。そして、「いただきます!」と感謝の言葉を告げて暖かさを保ったフィッシュバーガーを手に持ってガブリッ。鮫のフライという初めての味と触感を堪能しつつ、一口、また一口と黙々と食べ進める
遠藤と八重樫は、自分は勇者(笑)パーティーと判断しているので匂いだけでもと思っていた。しかし、深月が「試練の一つをクリアおめでとう記念です」という事でフィッシュバーガーを食べる権利を得ることが出来た
「うっめ~、鮫はアンモニア臭が凄まじくて食えたもんじゃないって聞いてたがこいつは別物だな」
「一度湯通しをした事で野菜のシャキシャキ感と風味が強調されているわ。でも、お互いを支え合う様に味が損なわれていない」
「美味、深月の料理は世界一」
「深月さんの料理は麻薬ですね。無いと絶望しますよ」
「表面が程よくこんがりと焼けたパンの風味、ソースのピリ甘、鮫のプリップリの肉、野菜の損なわれない歯応え―――その全てが存在感を出しておる!これが一番!という強調ではなくとも、混ざり合った場合でも素材の一つ一つが感じられるバランスは神がかっておる!」
「おいしい~、そして深月さんと自分の調理スキルの差に絶望したよ・・・」
「美味い、美味いよ。流石神楽さんが作った料理だ!すき焼きを食べた時から物足りない充実感はこれだったんだな」
「遠藤君の言う通りね。王国の料理も美味しいのだけれど、差が大きすぎて落胆しちゃったのよね。料理人の人達は悪くないのに・・・贅沢な舌になってごめんなさい・・・・・」
あっという間にフィッシュバーガーが無くなり、満足したハジメ達がお腹をポンポンと叩く
「食った食った~♪ちょい食い過ぎ気味だが、待つ間に良い感じで消化されてるだろうな」
「美味しいのは同意するけど、ハジメは食べ過ぎよ」
皐月の指摘にハジメは「ウッ!」と痛い所を突かれて言い訳をするが、その全てをド正論で言い返されてしまい少しだけ落ち込む。正に皐月の尻に敷かれている状態である
食事を終えたハジメ達が待つ事一時間、琥珀の変化がないので香織の分解魔法で琥珀を消して天之河、坂上、谷口を強引に目を覚まさせる
「・・・あ?あれ、香織?雫?ここは?俺は、二人と・・・」
「んあ?どこだ、ここは?俺は、確か・・・」
「え?そんな、恵里はっ、恵里・・・」
三人の内、天之河と谷口が見ていた世界はおおよそ予想出来、深月は忌々し気に小さく舌打ちを鳴らした
チッ、ど腐れ野郎はお花畑の脳みそで香織さんと八重樫さんの二人を侍らしていたのですね。・・・気持ち悪い。谷口さんも諦めきれないのでしょうが、あれの改心など到底不可能です。脳き・・・坂上さんは自分の力を求める何かだったのでしょう
深月は三人に何も期待していない目を向けている事に気付かない天之河と谷口。坂上は野生の本能か何かで、バッと深月の方を見て悔し気に表情を歪めた。すると、全員が琥珀から解放された事で部屋の中央に魔法陣が出現。強制的に次の試練へと送られるらしい
「天之河、谷口、省みている時間はないぞ。備えろ。でないと、お前らの望みは本当の意味で潰えることになる」
「っ・・・ああ、分かってる」
「う、うん。そうだね!」
光が爆ぜ、再びハジメ達を飲み込んだ
~皐月side~
光が収まると、最初の転移場所と同じ樹海の中だった。しかし、天井の高さと進むべき方向が決められている点が違っていた。皐月は直ぐに魔眼で全員をチェックし、何も問題がない事に取り敢えず安心した
「・・・皐月、偽物居る?」
「居ないわ。目で確認したけど全員本物よ」
「皐月さんがそう言うなら大丈夫ですね!」
皐月は先の道を見据えて警戒をしている最中、先程の試練をクリア出来なかった天之河と谷口の二人の表情が未だに暗かった。敢えて理想の世界の内容を掘り返す事はしないが此処は大迷宮、一瞬の油断で命が尽き果てる。ハジメはわざとらしく舌打ちを鳴らして二人に警告する
「天之河、谷口。お前等やる気あんのか?」
「なっ、あ、あるに決まってるだろ!」
「え?あ、あるよ!」
ハジメの辛辣な言葉に、仲間思いの坂上が異を唱えようとするがその前に言葉を続ける
「ここは大迷宮だ。一歩踏み込んだ先、一秒後の未来、そこに死が手ぐすね引いて待っているような場所だ。集中出来ねぇなら、攻略は今ここで諦めろ。無駄死にするだけだ」
「ま、まて、俺は・・・」
「何をどう言い訳したところで、さっきの試練をお前がクリア出来なかったという事実は変わらない。なら、最低でも必要なのは残りの全てを踏み越えてやるという決意だ。今のお前等にはそれが見えない。気概のない奴はただの足手纏いより質が悪い」
「・・・俺は」
天之河は、己よりも強いハジメ達の傍で甘えている事実に憤りそうになる。しかし、それは己自身に対しての怒りだ。今まで培った経験はどれもがお遊びとも言える程の物―――認めたくはない事実に更に怒りが募る。谷口も意気消沈している事に後ろめたさを感じていているが、中々振りほどけていない様子だ。そんな二人に、深月がありのままを宣告する
「邪魔ですのでゲートで出口に送りましょう。私とて人間ですのでその感情を引き摺るなとは言いませんが、体に表すのであれば足手纏い以上です。ハジメさんは甘いので畑山さんの願いに折れてしまいましたが、私にその様な甘さはありませんよ?死ぬのならば勝手に死んで下さい。こちらに被害を及ぼさないで下さい」
やる気の無さに呆れるわ・・・深月の言う通りさっさと退場してもらおうかしら?先生も厄介な頼み事をしたものね
冷ややかな目で天之河と谷口を一見し、深月と同様に皐月は呆れ果て蜘蛛型ゴーレムを散らばらせて情報を収集する事を第一優先とした。ハジメは二人を見据えて再度辛辣な言葉を投げつける
「深月の言う通りだ。お前達が俺達に同行出来ている理由は、先生が懇願したからという事を忘れるな」
「なぁ南雲、俺もその内に入ってるのか?」
勇者(笑)パーティーの面子の一人である遠藤の最もな疑問。オルクス襲撃の際、四人に比べて力が弱い遠藤の疑問はそれだ
「遠藤、お前は別だ。飛空艇でのあの言葉と、深月に喰らい付こうとする姿勢はこいつら以上だから大丈夫だ。なぁお前等、飛空艇に乗った辺りからどうしていた?」
遠藤は勇者(笑)パーティーとは違って迷宮に連れて行く事に不満はないと宣言したハジメに対し、八重樫以外の三人がムッと腹をたてる。しかし、ハジメはしっかりと見ていたのだ。真剣ではあるものの日課の様な素振りをしている天之河達と、疲れ果てても体に鞭を入れて訓練をする八重樫と遠藤。連れて行くならば後者の二名だ
「俺が皐月達と一緒に居てお前らの事を見ていないと思っていたか?本当にやる気があるのは誰から見てもたった二人だけだ。天之河、坂上、谷口、いつも通りの日課をこなして疲れたら休むお前らと、日課+応用、疲れた状態でも体に鞭を打って動かす八重樫と遠藤。誰からどう見たって後者の方が努力しているし、気合も違うって言えるだろ?」
「俺達も努力し―――」
「ハジメさんが仰る努力とは、死ぬ気であるか否かどうかです。訓練で筋肉が断裂しましたか?体が熱く、これ以上は苦しい、痛い、止めたい―――その本能を押し殺してでも鍛えていましたか?遠藤さんは筋肉が断裂しても、回復された直ぐ後に訓練をしていましたよ?苦手だから、これが一番だから、自分にはこれが合っていると言って惰性で鍛えていませんか?」
深月が言っているのはとても重要な事で、生存率を上げる為のものだ。以前、香織に課していた深月監修のブートキャンプ(地獄の訓練)は、天職が後衛職であろうと近接格闘術・・・いや、護身術という身を護る事を重点に行っていたのだ。このお陰で、王都襲撃の際に咄嗟に体が動いて命を取られる事はなかったという実績証明がある
前衛職は、魔法が苦手でも魔法の性質について知っておかなければ危険である。オルクス襲撃の際に、もしも前衛職と後衛職が分断されてしまい、石化魔法を行使されたならば被害は甚大だっただろう。魔法の詠唱とトリガーからどういった性質の魔法が放たれるかを予想すればいい
天之河達は深月に努力不足を指摘されて押し黙る。魔法が苦手の前衛だから攻撃技能を磨くだけ、後衛だから前衛が護ってくれるなんていうのは無意味だ。敵だって後衛が厄介だと感じたら即座に潰しに掛かる。その様な前提など有って無い様なものだ
「魔法や技能はあって便利というだけで、それが必ずしもアドバンテージには成り得ません。相手に考える時間を少しだけ増やす程度です。一度見せれば対応は当たり前、技能の中断や複合を試してみようとは思わなかったのですか?」
うわぁ・・・深月がああ言うって事は、既に自分の物として安全に使えるって事よね。私も出来るけど、キャンセルで偶に頭痛が襲う事があるから実践では中々使えないけどね。リスク無しで使えるにはやっぱり回数が重要という事かしら?
深月にコンコンと説教をされて、何も言えずに体を縮ませる三人。・・・いや、四人―――八重樫も流れ弾で直撃している。遠藤に関しては、深月との特訓でしつこく言われていたので、「俺より酷くないけど、同じ様な事を言われたなぁ」とウンウンと顔を縦に振り過去を振り返っていた
説教を終えた深月は、「今までの鬱憤をぶつけてやったぜ!」といわんばかりにやり切った表情をして皐月の傍へと移動した。ハジメは、気落ちしている三人にありのままを伝える
「あの程度の説教で気落ちしてんじゃねぇよ。あれでも幾分かマシな方なんだぞ?遠藤なんて・・・いや、今はそんな事はどうでもいいか。こいつ等のメンタル貧弱だな。こちとらこれ以上待つ気はないからな?」
坂上は、「事実だから仕方がねぇな」と割り切って気持ちを切り替えているが、天之河と谷口は引き摺っていた。そんな二人を見たハジメが舌打ちを鳴らしながら宝物庫からゲートキーを取り出した事で、ハジメの本気さを感じた二人は気持ちを切り替える
「南雲。もう大丈夫だ。俺は先に進む!」
「鈴も行く。やる気十分だよ!」
「そうか。ならいい。集中を切らせるなよ」
気合を入れさせてハジメ達は奥へと続く道を進み始めた
深月「本当にど腐れ野郎達は邪魔ですね。返品したいです」
布団「仕方ないんや。我慢して下しい」
深月「いざという時には、肉壁として活躍していただきましょう」
布団「次回、メイドさん絶望!絶対見てくれよな!」
深月「嘘予告は入れないでください。私はお嬢様に嫌われない限り絶望しませんよ!」
布団「頑張れ~」フレッフレ♪