ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】   作:ぬくぬく布団

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布団「ステンバーイ、レディ」
深月「ゴー!です」
布団「悪魔が襲来するぞー!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」










特攻対象、メイド

~深月side~

 

ハジメ達は警戒をしながら迷宮を進んでいる。だが、今現在居る場所は物凄く不気味で、風で葉が騒めいたり、虫が鳴いたりの音が無いのだ。例えるなら、嵐の前の静けさだ

 

「う~む、何だか嫌な感じじゃの」

 

「うん。何だか、オルクスで待ち伏せされた時みたい」

 

「確かに・・・魔物の気配も全くないものね」

 

龍の本能的な機微が反応したのか、初めにティオが口漏らし、香織と八重樫が魔人族と初めて出会った時と似ている雰囲気の事を思い出しながら周辺の環境に注視する

 

「蜘蛛型ゴーレムを先行させて索敵させているのだけれど・・・全く成果がないわね。特に変化がある場所も無いし、警戒を厳にしたまま進むしかないわ」

 

「いっその事、周囲一帯を燃やすか?」

 

「え?燃やす?」

 

「ハジメ、それは駄目よ。この大迷宮にある空気の流れが分からないのよ?酸欠になって死ぬ可能性も否めないわ」

 

皐月の懸念は、この樹海の中で燃やした際の空気・・・酸素の確保についてだった。結界内部に空気を残したまま遮断する事が出来るのは理解している。だが、空気の確保と結界を解いた後に起こりうる可能性を危惧しているのだ

 

「瞬間的に燃やすから時間は掛からないぞ?」

 

ハジメは、危険性についてある程度は理解しているので大丈夫だろうと高を括っている。だが、深月の指摘で燃やす事を躊躇った

 

「もし、炎が少しでも残っている状態で結界を解いてしまえば・・・バックドラフト現象とは違いますが、連鎖爆発しますよ?酸素が炎の方へと奪われてしまうので、低酸素障害に陥ってしまう可能性―――」

 

「分かった!分かったから最悪の事を想像させるな!爆破はロマンだが、自分から受けに行く事はしたくないからな。だが、燃やすのは最終手段として考えておいてくれ」

 

「まぁ、その際はユエを酷使するから注意してよね。ユエ、氷血晶のストックは大丈夫?」

 

「攻略前に深月から渡された五つ全てがあるから大丈夫」

 

さて、この氷結血晶についてだが、これは深月が作った血の結晶の事だ。重力魔法で圧縮した血を、乾燥と熱量操作で小さなブロック状にして、氷の中に閉じ込めた物だ。神水に次ぐ、ユエ専用の即時魔力回復薬。戦闘の際に吸血する暇がない場合もあるので、これならばユエの判断次第で飲む事が出来る

 

「なら大丈夫ね。些細な環境変化も見逃さずに進むわよ」

 

ハジメ達は再び歩みを進める。すると、ポツ、ポツと雨が降り始めた

 

「・・・ん?雨か?」

 

「ほんとだ。ポツポツ来てるね」

 

最初の違和感は天之河からだった。この時、先を行くハジメ達には降り注いでおらず反応が僅かに遅れた。直ぐにこのありえない現象に顔を見合わせたハジメと皐月とユエ。深月に関しては、魔力糸で作った大きめの傘で皐月の頭上を隠している。それと同時に、スコールの様に大量の雨が降り注ぎ全員を襲う

 

「チッ、ユエ!」

 

「・・・んっ、聖絶!」

 

ユエが障壁を展開すると同時に、ドロリとした白い液体が障壁沿いに流れ落ちる。この空の無い空間で雨、そしてドロリとした液体―――正体がスライムであると直ぐに理解する事が出来た

 

「南雲くん、周りがッ」

 

降りそそぐスライムの液体を浴びずに済んだ事に一瞬だけ安堵したが、一瞬で周囲の木々や地面から白い液体が滲み出てきた事に香織が一早く気付いた

 

「魔眼石に感知されないスライムって、隠密性が高すぎるでしょ。あぁ深月、持ち上げなくても大丈夫よ。にじみ出て来た時に鉄鉱石を投げて確認したけど、溶けなかったから酸性ではないわ」

 

「いいえ、絵面が大変な事になりますので持ち上げます」

 

深月は皐月の言を無視して持ち上げてスライムに濡れない様にする。その間にもスライムがどんどんと溢れ出て辺りを埋め尽くす

 

このスライムは、白くてドロッとした液体・・・・・あれに似ています。お嬢様に触れさせないで良かった。地面にせり上がって来るスライム達は香織さんの分解で対処されています。しかし、動きにくくなる程度の試練なのでしょうか?いえ、それはありえません。何かしらの副作用、毒素が含まれている筈です

 

深月は、スライムを焼却処分する為にクロスビットを上に飛ばすハジメを観察しつつ、これから来るであろう試練の可能性を考える

 

これまでの試練を思い出しましょう。猿型の魔物は姿や記憶をコピーしてこちらを騙し、琥珀は理想の世界という心に来る何かの試練でした。ならば、これも心に来る何かである事は確実―――喜怒哀楽といった人間の感情を試す試練?いえ、それだと四つ全てが埋まってしまいます。ならば三大欲求?・・・これはいけません!毒耐性があるハジメさんとお嬢様は大丈夫ですが、それ以外が全員駄目です!

 

深月は、ドロリとした白い液体を浴びた絵面が大変な事になった八重樫達を見て、この試練が何なのか思い至った

 

「ハジメさん、お嬢様、男性陣の拘束をお願いします!」

 

「何?・・・いや、深月が言うならそうした方が良さそうだな」

 

「拘束?・・・絵面・・・そういう事!?」

 

ハジメと全てを察した皐月は、宝物庫から拘束アーティファクトのボーラを取り出して天之河と坂上を拘束する。深月は、スライムの全てを処理し終えた地面に皐月を下ろして遠藤を拘束した。普段の天之河達なら怒る処置の仕方だが、正気を失ったような目と血走った目で女性陣を見て手を伸ばしていた。取り敢えず、襲われていないのでギリギリセーフと言ったところだろう

因みにハジメの方は、身悶えながら息の荒くなったユエとシアに体を押し付けられたりしている

 

「はぁはぁ・・・ハジメ、何か変・・・はぁはぁ、すごく・・・ハジメが欲しい」

 

「ハジメさん・・・私・・・私、もうっ・・・はぁはぁ」

 

ティオは何処かボーっとした様子で、香織は四つん這いになって体を悶えながら少しずつハジメににじり寄っている。明らかに様子がおかしく、発情している事に気が付いたハジメは、この試練の内容にようやく気付いた

 

「くそったれ。これがあのスライムの真髄かっ!」

 

「その様ね。私とハジメと深月は毒耐性を持っているから効かないけど、それ以外はどうにかして乗り切らないと駄目よ」

 

「八重樫さんと遠藤さんは・・・精神統一で落ち着かせていますね。ですが、谷口さんは失格です」

 

深月が魔力糸を伸ばして、八重樫へと手を伸ばそうとしていた谷口を縛り身動き出来ない様に雁字搦めにした。その顔は、恋人だけに見せた方が良いという崩れた顔だった

ハジメは、右手にユエ、背中にシアを引っ付けながら左手に抱き着こうとしている香織を引っぺがしていると、ティオがしっかりとした足取りでハジメの方へと近づく

 

「むぅ、ご主人様達よ、無事かの?どうやら、あの魔物の粘液が強力な媚薬になっておった様じゃな」

 

「あれ?ティオってスライムの液体に大量に直撃していた筈じゃ・・・」

 

ハジメと皐月は思わず目を丸くしている。そんな二人に気付かずティオは言葉を続ける

 

「強烈な快楽で魔法行使すら阻害しておる。時間が経てば経つほど正気を失って快楽のまま性に溺れることになるじゃろうな。厄介なこと極まりないのぅ。あの物量で襲われては、全く飛沫を浴びないなど不可能じゃろう。戦闘が長引けばそれだけで全滅じゃ。生き残っても仲間がおれば交わらずにはおられんじゃろうから、その後の関係はかなり危うくなりそうじゃしの」

 

「あ、ああ、そうだな・・・」

 

「うむ。おそらく、それが狙いじゃろう。快楽に耐えて仲間と共に困難を乗り越えられるか……あるいは快楽に負けても絆を保てるか・・・いずれにしろ性格の悪いことじゃ。"解放者"というのは本当に厄介な連中じゃの。もっとも、それもご主人様の毒耐性には敵わんかったようじゃが」

 

「・・・ねぇ、ティオ」

 

「む?何じゃ、ご主人様達よ」

 

ハジメと皐月はユエ達を見ながら、一番の疑問点をハジメが尋ねた

 

「あの粘液がこの事態を引き起こしているという推測は納得できる。俺もそう思うからな・・・だが、だがな。何でお前は平然としてるんだ?」

 

「確かに、妾の体も粘液の効果が発揮されておる。事実、体を駆け巡る快楽に邪魔されて魔法がまともに使えんからの。じゃがのぅ、舐めてくれるなよ、ご主人様達よ。妾を誰だと思っておる」

 

「ティオ・・・」

 

二人は、長く生きる竜人族として快楽に侵されながらも誇りで耐えているものかと思った。変態が変態をしていない事実に、「これからは見方を変えて接しよう」と思ったら、深月が核心を突く

 

「お嬢様、ハジメさん、お二人の認識は間違っております。ティオさんの変態具合はお二人の想像を上回っているのです。大方、ハジメさん達から受ける攻撃―――体を突き抜ける痛みの方が快感が勝っていると思われます」

 

二人は、「まっさか~、そんなに残念じゃないだろう」と思った。だが、深月の言葉に直ぐ反応したティオの言葉を聞いてドン引きした

 

「妾はご主人様の下僕ぞ!この程度の快楽、ご主人様達から与えられる痛みという名の快楽に比べれば生温いにも程があるわ!妾をご主人様達以外に尻を振る軽い女と思うてくれるなよぉ!!」

 

「「そっすか」」

 

二人は、拳を天に掲げて力強く宣言する変態龍を汚物を見る様な眼差しを向けた。ティオは、二人が汚物を見る様な眼差しの視線を浴びて、スライム粘液の快楽を退ける体をゾクリと震わせる

 

「あっふぅうううん!その視線が堪らんっ!!い、いかんのじゃ!これ以上の視線を受けてしもうたら妾・・・自我をなくしちゃうのじゃああああ!」

 

二人は、更に気持ち悪い奴を見る眼差しを向けようとした時、ティオの肩にポンっと手が乗せられた。ティオがゆっくりと振り返ると、笑顔の深月がティオを見据えていたのだ。流石のティオもこの視線には耐えられず、体をガタガタと震わせ、冷や汗を大量に流し始めた

 

「さぁ、淑女としての教育をしましょうね」

 

「ヒィッ!?ご、ご主人様達、た、助けてたもう!お願いじゃ、助けてたもう!!」

 

二人の答えは決まっており、明後日の方向を向く事で"我関せず"とした。首根っこを掴まれて、ユエが炎もろとも氷魔法で鎮火した道を飛ばされた地点に戻る深月とティオ。その様子を身悶えしていたユエ達も見ており、深月達が見えなくなるまでじっと見ている事しか出来なかった。その間、快楽がどうのこうのなんて考える事が出来なかった。深月による淑女になる為の強制的な"教育"。何も起きない訳がないと思っていると、姿が見えなくなったティオの悲鳴がハジメ達の所まで響いた

 

『や、やめてたもう!黒刀を取り出してどうするつもりじゃ!?』

 

『片手程度再生出来ますよね?今までの教育は温いと感じましたので、腕の一本をと思いまして』

 

『い、あっ、や、やめてえええええええ!?――――――ぎゃああああああああああ!』

 

その直後に響き渡る破裂音―――。生々しくティオの悲鳴が聞こえる中の破裂音・・・ハジメ達は、今まで実行に移していなかった事が実行されていると理解した。

 

「・・・ユエ、シア、香織、お前達は快楽に敗ける程精神が軟じゃない筈だ。俺は・・・耐えろとしか言えない」

 

「三人共、気合を入れなさい。あの変態でも耐えれた試練よ?敗けたら・・・変態に敗けたというレッテルが貼り付くわよ。その後は、深月のOHANASHIが待っていそうね」

 

遠い目をした皐月が元来た道を見ている中、未だに聞こえるティオの悲鳴。肉体言語で矯正しているのだろうと容易に理解出来た。そして、もしもこの試練を突破出来なかった場合の事を思うと後が大変怖い。三人は気合を入れ直して、深呼吸した後に真面目な顔で二人の言葉に応える

 

「・・・大丈夫、変態には敗けない。敗けたら一生の恥」

 

「深月さんのOHANASHIは受けたくないですし、変態に後れを取るなんて死んでも御免です」

 

「敗けない。私は敗けない!」

 

言葉はしっかりとしているのだが、体は正直者なので膝がガックガクに震えながらも必死に耐える。その間も聞こえるティオの悲鳴と深月の怒号に、ハジメと皐月は、「自業自得だな(ね)。淑女になる事を祈る(わ)」と口漏らして、毒が抜けきるまで待つ事となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

深月がティオを引き摺って戻って来たんだが・・・ティオの目が死んでやがる。まぁ、変態を淑女に更生する為の犠牲と割り切るしかないな。十回近くやっても治そうともしなかったティオに対して限界が来たんだろうな~。俺も飯を食べる時にはセーブしないとヤバイかもな・・・

 

深月とティオが帰って来る前まで膝を震わせていた三人だが、帰って来ると同時に快楽の波が無くなり普通の状態へと戻った

 

「・・・ん?」

 

「あらら?」

 

「あれ?」

 

あまりにもいきなりの出来事に不思議に思いつつも、体を動かして体調を調べている。三人の変化に気付いたハジメと皐月は、少し心配そうな声音で尋ねる。ユエ達は、ついさっきまでの異常を確かめ合い結果に至る

 

「・・・ん、耐え切ったみたい」

 

「はい。湧き出していた快楽が綺麗さっぱり消えました」

 

「もう何ともないよ。・・・うん、感覚も戻ってきた」

 

「そう、・・・それなら良かったわ」

 

三人が元に戻った事に安堵する皐月。だが、意識がしっかりとしている彼等の目を引いているのは、機械の様に、「妾は誇り高き竜人族。妾は誇り高き竜人族。妾は誇り高き竜人族」と呟き、ハイライトがお亡くなりになったティオだ。深月がチラリとティオを見ると、体をビクッと大きく跳ねてガクガクと震えながら、「嫌なのじゃ嫌なのじゃ嫌なのじゃ」と恐怖する始末

自業自得とはいえ地獄のOHANASHIを終えたティオを見たハジメは、頬をポリポリと掻きつつティオを慰める

 

「まぁ・・・なんだ・・・よく頑張ったなティオ。淑女らしさを見れて嬉しいぞ」

 

ハジメの言葉に、ティオはガバッと顔を上げて涙目でハジメの腹に引っ付いた

 

「妾頑張ったのじゃ!もう変な事は言わんから、ご主人様達は妾を見捨てないでおくれ!」

 

ハジメの腹に顔を埋めて泣き続けるティオを見て、皆がドン引きしつつ深月が行った教育に恐怖する

 

「お、おう・・・」

 

「うわぁ・・・ティオが滅茶苦茶怯えてる」

 

「容赦のない・・・」

 

「深月さんがトラウマを量産していますね」

 

「あのティオがこんなになるなんて・・・深月さん怖いよ」

 

まぁ、ティオについては自業自得として割り切り、ハジメは耐えきった三人に賞賛を送る

 

「流石だ。三人共、よく頑張ったな。お前等なら大丈夫だと確信していたが・・・それでも、うん、本当に流石だよ」

 

「んっ・・・くふふ」

 

「えへへ、そう正面から言われると照れますね~」

 

「うふふ、ありがと、ハジメくん。ハジメくんが支えてくれていたから頑張れたんだよ」

 

理性のある熱の籠った視線をハジメに向ける三人に、皐月が、「なるほど」と呟いた後にハジメの援護を行う

 

「それじゃあ、三人共もう少し自重する事が出来ると考えても良いのよね?」

 

皐月の言葉に、ハジメに体を押し付けようとした三人の動きがピタリと止り抗議の声を上げようとするが

 

「今は強くならないといけないわ。それこそ、夜の営みの時間を無くして特訓する程切迫している状況という事を理解しているわよね?」

 

皐月に現状を突き付けられユエとシアがショボンと気を落とす。香織は羨ましそうに頬を膨らませており、ティオに関しては、「妾頑張る。ワラワガンバル。ワラワガンバル」と繰り返し呟いていた

 

「ゴホンッ!・・・お邪魔して悪いのだけど、そういうのは全部終わってからにしてもらえるかしら?あと、光輝達の拘束も解いてあげて欲しいのだけど」

 

「あ?あ~、八重樫か・・・お前もすげぇな。よく自力で耐えたよ。流石、剣士。精神統一はお手のものか」

 

「あ、ありがとう。まぁ、剣術を習う上で、父から心を静める方法はみっちり叩き込まれているからね。少し危ないところだったけれど・・・というか、光輝達が拘束されているのは私を守るためかしら?瞑想に集中して他に対応する余裕はなかったから助かったわ。ありがとう、南雲くん」

 

「ああ、それくらいはいいさ。天之河達は・・・気絶中か。快楽の苦痛に耐え切れなくて意識を落としたんだな。八重樫・・・衣服と土壁は用意してやるから、そいつら叩き起してフォローは頼むぞ」

 

「・・・衣服?土壁? ・・・っ・・・え、ええ。わ、わかったわ」

 

八重樫は、ようやく自分の変化に気が付いた。スライムに汚された絵面は、R-18に引っ掛かる程大変な姿だ。ハジメが土壁を錬成している間に、皐月は簡易風呂を宝物庫から取り出して汚れた女子だけ洗わせる

 

「南雲、俺にも何か拭く物をくれないか?」

 

「あ・・・遠藤も無事だったのか。すっかり忘れていたぜ」

 

「・・・もう慣れたよ」

 

ハジメは、未だに気絶している天之河と坂上は放置して遠藤にタオルを放り渡す。遠藤だけは、勇者(笑)パーティーの面々とは違ってスライムを浴びた範囲は足と顔に少々程度で済んでいたのだ。遠藤は、拭き終わったタオルを深月が用意した洗濯籠に入れて、未だに目覚めない天之河と坂上を見て溜息を吐いた

 

(俺も何もしていなかったら、完全に足手纏いになってたんだろうな。・・・絶対に試練っていうのをクリアして強くなる。まぁ、神代魔法が手に入った=強くなるなんてありえない事位分かってるけどな)

 

遠藤は、何はともあれこの大迷宮をクリアして神代魔法を手に入れたいと考えている。だが、神代魔法が扱える様になったからと言って飛躍的に強くなるなんて無理だと理解している。深月の訓練を受けているからこそ分かるのだ。無能と呼ばれていたハジメ達があそこまで強くなったのは、基礎がしっかりと出来ているから―――体の動かし方に無駄が無いのだ。素人目から見れば技能に頼っているチート野郎と思われがちであるが、そう見えるだけだ。基礎のなっていない技能任せの動きだったら、隙が大きく付け込まれる事は確実なのだ

例えるなら、基礎を齧っている程度で技能頼りにしているのが天之河と坂上と谷口で、基礎と技能をしっかりと使いこなしているだけが八重樫と遠藤、基礎と技能と応用を十全に使えているのがハジメ達。深月に関しては人間という枠組みに極まった存在と認識した方がとても分かり易い

 

(神楽さんが南雲達の技能の使い方がパターン化しつつあるって言ってたよな?って事は、技能の使い方次第で引き出しが多くなるって事か。俺は引きつけ位しか出来てないからなぁ)

 

技能の使い方―――技能を持っているから100だけの力を使っているのを例えるなら、天之河達勇者(笑)パーティーの面々だ。技能をフルに使える者は強い。だが、0~100を調整出来る者と対峙してしまえば瞬く間に劣勢になってしまう。何事も使い方が一番重要で、八重樫と遠藤の二人は少しずつながらも制御しつつある

簡易風呂で汚れを落とした八重樫は、さっぱりした様子で簡易更衣室を出た。そして、意識を取り戻した天之河と坂上と谷口の三人は落ち込んでいた。発情効果の間の記憶はばっちり残っていたらしく、己が何をしようとしたのかに暗い表情をしながらギクシャクしていた。八重樫はともかく、遠藤ですら耐えることが出来たこの快楽の試練に呆気なく敗北した事にショックを受けていた。特に、谷口に関しては八重樫に手を出す寸前という痴態をさらしてしまった為に、精神ダメージが大きかった

 

「鈴・・・忘れましょう? あればっかりは仕方ないもの。最後の一線は越えなかったのだし、あんなの忘れてしまうに限るわ。誰だって、思い出したくない思い出の一つや二つあるわけだし・・・」

 

「・・・シズシズ」

 

「ほら!私なんて、そうとは気づかずにエッチなゲームコーナーを彷徨ったあげく、商品を物色してしまった事があるのよ?それはもう真剣に!周囲の男性客が、あの時、私をどんな目で見ていたのか・・・思い出しただけで欝になるわ・・・」

 

「・・・シズシズ、エッチなゲームに興味があるの?」

 

「ないわよ!あれは、そう、不幸な事故だったのよ」

 

「・・・ふ、くふふ、真剣な顔でエッチなゲームを吟味するシズシズ・・・ぷくく」

 

「鈴、笑うのは流石に酷いわ・・・」

 

黒歴史を量産する大迷宮。互いに自虐する事で少しでもダメージを減らす為に、忘れたい過去を掘り起こす八重樫は正に天晴と言っても良いだろう

 

「・・・南雲、その、面倒を掛けた。止めてくれて感謝するよ」

 

「ああ、そうだった。助かったぜ、南雲。マジでありがとよ」

 

気まずい空気がだが、強姦する事態を防いでくれたハジメに天之河と坂上が感謝する。だが、そこで「気にするな」とは言わないのがハジメクオリティー

 

「ああ、たっぷり感謝しろ。恩に着まくれ。借りを常に意識しろ。そして、いざという時は肉壁になる覚悟で俺に返せ。間違っても踏み倒すなよ?地の果てまで追って返済させるからな」

 

天之河と坂上の二人の頬が引き攣る。まるでヤの付く人の如く威圧感のある言葉は、それだけマジだと理解させる

 

「ハジメさんは生温いですね。私の場合は、死んでも生き返らせて十倍の利子を付けて返済させますよ」

 

「・・・再生魔法と魂魄魔法があれば死んだ直後なら復活が可能だな。深月の案を採用でいくか!」

 

ハジメ達は無限の肉壁を手に入れた!天之河と坂上は顔を青褪めて冷や汗を大量に流している!

そして、ハジメ達の視線は二人だけではなく、その後ろに居る八重樫、谷口、遠藤にも向けられている。魔王とメイドに目を付けられたが最後、彼等も気を付けなければならない

全員の処理が済んだ事で、一行は再び迷宮を進む。巨樹の傍へと辿り着き、奥へと続く洞の中へ入ると、転移の魔法陣が再び現れて一行を新たな場所へと跳ばした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

転移によって跳ばされた場所は同じ様に洞の中だった。しかし、今回は外へ繋がっている出入り口が存在していた

皐月は、魔眼石で周囲を見て本人であるか確認をし終えた後ハジメに視線を向けて問題ない事を伝える。全員が大丈夫と確認し終えたハジメ達は、光が差し込む出口に向かって進んだ

 

「これは・・・まるでフェアベルゲンだな」

 

「似ているわね。でも、こっちの方が正に大自然って感じがするわ」

 

洞の先はそのまま通路になっていたのだが、その通路は枝だったのだ。幅広い枝が天然の通り道となり、周囲の数多くの巨樹から出ている枝達が空中回廊の様に続いていた

 

「・・・大樹?」

 

「そういう事になりますよね。ここは大樹の真下の空間って事ですか」

 

「でもそれだと、地上に見えてた大樹って・・・」

 

「ふむ、地下の幹から枝が生えているという事は、本当の根はもっとずっと地下深くという事じゃ。ならば、地上に見えていた部分は大樹の先端部分という事になりそうじゃの?いやはや、大樹の存在は知っておったが、まさかあれがほんの一部だったとは」

 

「本当の大きさはどれくらいになるんだ?」

 

皆が改めて大樹の凄まじさに圧倒される中、深月は周囲一帯を確認していると

 

えっ?私の見間違いでしょうか?・・・・・間違いではなかったのですね・・・頭が痛い。私は見ても何とも思わないのですが、お嬢様達は絶対に駄目ですよね

 

深月がげんなりとしている様子に気付いた皐月が尋ねようとしたと同時に、シアのウサミミが何かに反応した。カサカサという微かに聞こえる生理的嫌悪する音―――シアは知らぬ間に鳥肌が立っていた肌をさすりながら、音の発生源の下を覗き込んだ

 

「ん~?暗くてよく見えないです。・・・あの、ハジメさん皐月さん」

 

「どうした?」

 

「何か感じたの?」

 

「下から嫌な感じの音が聞こえてくるんです。でも私の目じゃ暗くて正体が・・・」

 

「ああ、俺達に確認しろってことか」

 

「はい、お願いします。何か、蠢いてる?そんな感じの音です」

 

「・・・嫌な音だってことはよくわかった」

 

ハジメと皐月が確認しようとしたが、深月が手で制する。二人は深月の方を見て、何が居るのかを尋ねる

 

「何が居たか分かったか?」

 

「どんな魔物?」

 

皆の視線が深月に集まる中、当の本人は少し悩みつつも先に忠告を入れる事にした

 

「取り敢えず、叫ばないで下さいね?」

 

深月からの忠告が入った事にハジメ達は真剣な表情で覚悟を決めた。天之河達も覚悟を決めたのだろうが、それでもハジメ達に比べたら危機感は足りていない。そして、深月が告げた言葉はこの場に居る全員の背筋を凍らせた

 

「ゴキブリです」

 

『   』

 

「この下には大量のゴキブリが居ます。万単位・・・いえ、億単位で景色を黒く染め上げています」

 

『ゴッ、ゴキブリ!?』

 

ハジメと皐月は、「深月の言葉は冗談!」と思いつつ下を覗き込んで、悲鳴を上げずに顔を青褪めて深月の傍に避難した。そして、「お前らも道連れだぁ!」といわんばかりに宝物庫からクロスビットを下に飛ばして映像を見せる

 

「うえっ・・・気持ち悪いよ」

 

「な、なんてもの見せるのよ・・・」

 

「うぇ、GがGがあんなにいっぱい、いっぱいぃ~」

 

皆が皆気持ち悪くて嫌悪感丸出しの表情をする中、音に敏感なシアが特に酷く、ウサミミを垂らせて手で必死に押さえつけて体をガクガクと震わせていた

 

「・・・ハジメ、焼き払おう」

 

ユエが焼却処分をしようと物騒な事を提案し、ティオと香織も賛同する

 

「止めた方が良いわ。もし・・・もし撃ち漏らしがあればどうするつもり?こっちたくさん飛んで来る可能性が特大なのよ?」

 

「「「・・・」」」

 

最初は皐月も焼却処分を考えたのだが、深月の、「焼いても撃ち漏らしが絶対に出ますね。・・・いえ、燃えながらもこちらに飛んでくる可能性が大きいですね」という言葉を聞いて想像してしまったのだ。SAN値がゴリゴリと削られるのは目に見えているし、それならば隠密行動でやり過ごすしかないと結論を出したのだ

 

「とにかく、落ちなきゃ大丈夫だ・・・と思う。先に進んで、さっさと攻略しちまおう。ここに止まっていたら、それこそ襲われるかもしれないしな」

 

ハジメの言葉に全員が普段以上に真剣な表情となって行動に移る。なるべく大きな音を立てずに、太い枝通路を進み、登り、遠くの枝通路が四つ合流している大きな足場に辿り着きどうしようかと考えていると、遂に恐れていた事態が起きた

 

ウ゛ゥ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!!

 

悪魔の羽音―――それも大量と来た

 

『っ!?』

 

ハジメ達は頬を引き攣らせながら慌てて眼下を確認する。恐れていたゴキブリ達の大移動―――ハジメ達が登っていた場所を一気に染め上げる。こうなれば迎撃するしか手は残されていない。宝物庫からオルカンを取り出そうとしたハジメと皐月だが、ここで力強い味方が名乗りを上げる

 

「ゴキブリを一掃しましょう!」

 

深月は、事もあろうか足場から飛び降りて迎撃に行った。皆が、「やった!深月が駆逐してくれる!」と歓喜に震えた。超広範囲の拡散型の魔力砲を撃ち込んだのは良かった。下から這い上がって来るゴキブリ達の一部があっという間に駆逐されたのだが―――

 

「うぅおおおおおお!!」

 

「やぁあああああ!!」

 

「ひぃいいい!!」

 

「くるなぁあああ!!」

 

「ッ――――!!」

 

深月が対処したのは下から這い上がって来るゴキブリ達だけで、巨樹の裏側から回り込んで上から襲って来るゴキブリ達は対象外だった。それも、這い上がって来るゴキブリ達よりも大量のゴキブリがハジメ達の周りから波の様に襲い掛かって来たのだ

ハジメと皐月はオルカンを、ユエは雷龍を、シアはドリュッケンの炸裂スラッグ弾を、ティオはブレスを、香織は分解の砲撃を、天之河達も持ちうる遠距離攻撃を一斉にぶっ放す

 

物量が少ない?何故?・・・これでは下から這い上がるゴキブリ達は完全に抑える事が出来てしまいま―――

 

ドゴォオオオオン!

 

深月の上部から聞こえる大きな破壊音に一瞬だけ見上げると、下とは比べ物にならない程の大量のゴキブリ達が蠢いていた

 

「下は囮という事ですか!」

 

爆発等の轟音で皐月達の声が聞き取れないが、間違いなく悲鳴を上げながら戦っていると分かった。だが、下方に見えたゴキブリ達が上がって来ず、何やら形を作っている事に気が付いた。深月の勘が最大級の警報を鳴らし、早急に対処すべくハーゼンに魔力を集中して発射。巨樹の裏側に居たゴキブリ達が壁となって下方のゴキブリ達を護ろうとするが、ゴキブリ達の抵抗虚しく足止めすら出来ずに着弾した

 

チュゴオオオオオオオオン!

 

大きな爆発の衝撃は、下方に居たゴキブリの群れを一掃した。だが、巨樹の後ろに隠れているゴキブリ達に被害は無く、皆が深月を無視して一斉に上層へと移動してしまった

 

「決着は屋上という事ですね。絶対に一掃します!」

 

上は黒一色に染まっており、離れた所ではハジメ達の様子が分からなかった。だが、深月が中心部へと近づくとゴキブリ達はモーゼの様に道を開けた。深月はそのまま道を進んで行き聖絶をドーム状に張っている場所まで辿り着く。障壁越しからではあるが、ハジメ達が無事である事に安堵しつつ、深月は皐月に状況を尋ねた

 

「お嬢様大丈夫ですか?私がこの害虫を殲滅するまでもうしばらくお待」

 

だが、皐月が深月に向けた表情は嫌悪で、深月特攻の攻撃が直撃した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ?害虫は貴女でしょ。気分が悪くなるから顔を見せないでよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲハァッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深月は吐血し、四つん這いに崩れ落ちた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「はい、皆の予想通りの展開となりました!」
深月「 」チーン
布団「メイドさんは真っ白に燃え尽きているのでこのまま進めます。何故、メイドさんだけが影響がないのかと言いますと、状態異常完全無効の技能のお陰です。皆が反転する中、一人だけが正常。しかし、大切な大切なお嬢様からの拒絶の言葉を受けてしまったメイドさんの精神ダメージは計り知れなかった!頑張れメイドさん!と言いたかったが、ざまぁねぇぜ!」

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