ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】 作:ぬくぬく布団
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」
~皐月side~
ハジメ達は魔石の反応を辿って通路を進む。しかし、深月のストナーサ〇シャインの影響なのか魔物が全く現れない現状に、「また深月がやっちゃった」と魔物に哀れみを送った
「魔物・・・出ないな」
「・・・爆風で蒸発したのね」
「あれは危険。私の最上級魔法よりも強い」
「あれに直撃した魔物には同情したくなるのう」
「物理特化の私に天敵ですぅ」
「分解って出来るかな?」
唯一、この中で抑える事が出来そうな香織の分解でワンチャンと思ったが、深月が対策していない筈もない
「大丈夫です。私の任意起爆も出来ますので分解される前に爆発して蒸発出来ますよ♪」
「OH・・・」
「これは酷い」
あくまで、分解は砲撃か羽で行う。従って、翼で包んで防御しても高温で焼き殺され、砲撃では全体攻撃のエネルギーを防ぐ術がない。これを防ぐには、深月の魔力糸の壁か同威力の攻撃をぶつける位しか残されていない
話は大迷宮攻略に戻り、ハジメ達がフロストゾンビを操る魔物の場所へと近づくと広い空間に出た。おおよそ東京ドーム程の大きさの場所に一体―――魔人族の襲撃に居た障壁を張る亀形の魔物だ。しかし、体は氷で出来ていた
「あいつが大元か」
「羅針盤もあいつを指示しているわ」
「でも~・・・動きませんよ?」
シアの言う通り亀形の魔物の魔石の反応はあるのだが、ハジメ達が少しずつ近づいても反応せず甲羅に籠ったままだ。いや、よく観察するとプルプルと少しばかり揺れている
「震えている?」
「魔物に恐怖を与えたという事じゃな」
「可哀想だね・・・」
「縁日の景品の亀を彷彿させるわね」
「シズシズ・・・これはあの亀の比じゃない位大きいから」
縁日の景品の亀と比べるのは止めよう。しかし、ハジメ達よりも図体が大きい亀が縮籠っている光景はシュールだ
「甲羅まで氷で出来ているのですか。・・・亀鍋の器にも出来ませんね」
もしも、この亀が普通の肉付きだったら、「食べる」という選択肢が出て来る事に天之河達はドン引きする。しかし、ハジメ達は深月が調理すれば大抵の物は美味しく食べれる事を知っているので落ち込んだ
「うぅ・・・さっきよりもプルプルと震えてるよ~」
「くっ!で、でも倒さないといけないのね」
結局、無抵抗の状態で天之河達全員の攻撃を四方から受けて絶命した。しかし、トドメを刺した四人の表情はあまりよくはなかった
「・・・なんか後味悪いな」
「・・・だけど、魔物なんだ」
「・・・今までで一番心に来たわ」
「ごめんね・・・亀さん。縁日ではちゃんと育てるから赦して」
落ち込んでいる天之河達に対し、ハジメ達はこの程度で何を言っているのかと呆れていた
「とっとと進むぞ」
奥へと続く道を進み下って行く。どんどんと下に降りて行くと、眼下に広大な迷路がそびえ立っていた
「ん~・・・雪煙で奥の方が見えないな。何キロあるんだ?」
ハジメ達が通っている通路は、迷路のアーチ状の入口まで続いている。おそらく、第二の試練はこの迷路の走破なのだろう
「なんだよ。こんな馬鹿でかい迷路を通れってか?うざってぇなぁ」
「龍太郎。しょうがないだろう。これも試練だ」
「だがよぉ」
細かい事が大っ嫌いな坂上は、心底面倒そうに表情を歪ませる。しかし、何かを思いついたのかニヤリと口元を歪めた
「ああ、いいこと思いついたぜ。折角、上が開けてんだ。だったら、そこを跳んでいきゃあいいじゃねぇか!」
坂上が空力で空から攻略しようと飛び出した
「深月~」
「当身!」
「グブァッ!?」
しかし、深月の肘打ちが鳩尾に綺麗に入って落下した
「いってぇ~・・・何すんだ!!」
「黙りなさい」
パァンッ!
「グベラァッ!?」
皐月の張り手が坂上の左頬にシュートォオオオ!―――地面にゴロゴロと転がり壁に激突してようやく止まる。皐月の容赦のない所業に、天之河達は慌てる
「その中身が詰まっていない脳みそをフル稼働して理解しなさい。何も考えずに即実行・・・死にたいのかしら?深月みたいな超チートステータスじゃない限り警戒は当たり前よ」
「うっ!?」
「私でも警戒はしますよ?」
「ぐぅっ!」
「対価で迷宮に挑む際に死なせないとサインした事忘れてるの?自分勝手に行動させるわけないでしょ」
「そ、それだったら神楽のあの攻撃は」
坂上は深月へとヘイトを変更しようとしたが、皐月はその悉くを正論でシャットアウトする
「最初は私もあの攻撃は無計画と判断したわ。だけど、その後の色々を考えられていたわ」
深月は、只無計画にストナー〇ンシャインを放ったわけではない。大量に魔物が沸き、肉片になっても再生する現状を打破する為の大火力の一撃だ。攻撃の余波を防げる事を確信しているので、多少の恐怖は致し方が無い犠牲である
「あの攻撃のお陰で通路の拡張で空力で空中に回避可能、私達の行動を幅広くする事を考えればお釣りがくるわ」
皐月の言に四つん這いで落ち込む坂上を天之河が慰め、八重樫と谷口はフォローを入れる。四人を放置し、皐月は上の吹き抜けを魔眼石で調べる
魔力の流れが分からないわね・・・。上の吹き抜けが罠である可能性は九割―――だけど、どういった部類なのかが不明ときた。あの通路での試練は、あの冷たい雪とゾンビの二つ。移動障害は前者とくれば、此処の罠もその類で確定ね
皐月は仮説を立てて、錬成で作った球を放り投げて様子を見る。しかし、罠は発動せず
「なるほど、熱を持たせた無機物は反応しないのね。罠があれば、上から攻略しようとすれば発動する可能性は絶対ね。深月、行ける?」
皐月は天之河達が、「え?あそこに行かせるの?」と頬を引き攣らせていたが無視する
「そうですね。・・・これまでの試練や障害は移動阻害と考えるとここもそうなのでしょう。凍る可能性はありますが、問題ありません」
「もの凄く分厚い氷の中に閉じ込められたら?」
「无二打の衝撃を体の中に循環させているので、それを放出して砕きます」
「魔力の流れと此処の試練の予測を立てたいから」
「行ってきます」
深月は躊躇い無く空力で吹き抜けへと跳んで行った。すると、その途中で空気がたわむ様な音が響いて深月が消えた
「神楽さんっ!?」
「ミヅキン!?」
八重樫と谷口はとても焦っている様子だが、皐月は魔眼石で深月の反応を辿って見つける
「あそこね」
ハジメ達は焦る様子なく皐月が見上げた先を見て、天之河達もそちらへ見上げると、巨大な氷の中に深月が閉じ込められていた。焦った表情も無く、こうなる程度予測の範囲内といった表情だった
(意識は?)
(問題ありません。恐らく、窒息させるつもりかと)
(窒息ねぇ・・・周りから氷柱がせり出ているから、念には念を押してかしら?・・・氷を砕けばどうなると思う?)
(氷柱が伸びて押し潰すか、刺し貫くかのどちらかでしょう)
(ふむ・・・罠の起動は一瞬のテレポート系、駄目押しの追撃・・・ね。これ以上の情報は無さそうだから、砕いて戻って来なさい。それで変化もあるでしょ)
(かしこまりました)
皐月と深月が念話で罠の性能と試練の予測をし終え、深月は体内に循環させていた衝撃を両手から放出
ドガァアアアン!
天之河達はハジメ達が何もしていないのにも関わらず氷が砕けた事に驚愕。氷の中から出て来た深月は、黒刀を片手に持って押し迫る氷柱を粉々に切り伏せ、もう片方はハーゼンの魔力砲で氷を蒸発させる。そして、難無く着地して追撃が来ない事を確認してから武器を収める
「只今戻りました」
まるで何事もなかったかの様にハジメ達の元へ帰り、情報の整理をする
「俺の眼帯の反応は皐月と同じだ。試練は襲撃系だと思う」
「そう・・・ね、私もハジメと同意見よ。敵は転移系の襲撃、もしくは死角からの襲撃の二択ね」
「手前の通路はミラーハウスでしたので、この迷路も同じだと思います」
「・・・常時障壁で防ぐ?」
「ですが、魔力効率が悪い場所でしたら駄目ですよ?」
「此処までの道のりは炎系の魔法の阻害と考えると、シアの言う魔力効率を悪くさせる可能性もあるのじゃ」
「物理で砕いても、あのゾンビみたいに再生しちゃったら面倒だね」
冷静に試練の事を考えているハジメ達を見て、天之河達は呆然としており、坂上はもしも自分がああなっていたらと思うとゾッとした
「俺・・・ああなってたら死んでたかも」
「あれで死なないのはみづ―――ブアッ!?・・・神楽だけだと思うぞ?」
「・・・神楽さんのステータスって今どうなっているのかしら」
「きっとバグレベルだよ。・・・氷を中から砕くって普通出来ないよ」
天之河は名前呼びをしようとした所に皐月が指弾で放った氷の礫で中断し、八重樫と谷口は深月のステータスを見てみたいような見たくないようなと躊躇いがあった
「恐らく、この壁は修復能力が備わっている筈よ。だから、それは止めなさい」
皐月がハジメの頬を抓ってドンナー・シュラークを下げさせ、深月にはジト目で注意する
「・・・先に確かめておいた方がいいだろ?」
「出口から撃っても意味無いわよ。やるなら入って安全確認してからよ」
迷路の入口を潜って直ぐの場所で止まり、壁の厚さを確認。ドンナーで一発撃つが、弾丸は貫通しなかった。次はチャージしたシュラーゲンを発射―――人一人通れる程の大きさの穴が開いたのは良かった。しかし、壁は直ぐに修復されてしまう
「・・・どうやら壁を壊して一直線にゴールへ向かうという手も無理なようだな」
ハジメ達は警戒するが、迷宮からの仕掛けは無い。これは正攻法しかないと感じた皐月は、羅針盤を取り出して先頭に立って進む
~深月side~
羅針盤が指し示す方向へ迷路を順調に進んでいると、壁から魔物が現れ戦闘に突入。だが、ここで良い意味での問題が発生した。それは、魔物が深月を除いた皆にしか襲わないという珍事だった。深月本人は、はて?と不思議に首を傾げていたが、ハジメ達は深月が放ったストナーサ〇シャイン事件が切っ掛けだと予想した。魔力の残滓に敏感な魔物は、何かしらの方法で危険だと察知したのだろう
私だけ魔物の攻撃が来ないですね。何故でしょう?特に怖がられる様な事はしていない筈ですが・・・
頑強で再生する氷壁を、只の魔力だけで削って再生させない事自体が異常。迷宮そのものがあのぶっこわれ技をこれ以上放たせてはいけないと何処かで判断しているのだ。深月は襲撃されないので、敢えて皐月の傍に行き天然の魔物避けとなり皆を観察する
「うりゃぁあああああ!!」
シアの蹴り上げが魔物達を直撃して上空へと打ち上げる。そして、その場でグルグルと回転して遠心力を利用してハンマーの回転速度を上げ、そのまま落下してくる魔物達を攻撃する。まるでダルマ落としの様に吹き飛ばされた魔物達は、氷壁にぶつかって粉々に砕け散った
「鈴ね。帰ったらウサギさんに優しくするんだ。絶対に怒らせないように、優しくするんだ・・・」
「鈴・・・気持ちは分かるわ」
谷口はバグウサギの容赦の無さに恐怖し、これからは怒らせない様に慎重に行動しようと決意した瞬間だった
「強さは大したことないな。氷壁の何処から現れるか分からない奇襲性くらいだが・・・まぁ、深月みたいに消える事はないから注意すれば大丈夫だろう」
「・・・あれは鬼畜の技」
「見ていましたけど・・・一瞬で見失いましたし」
「技能じゃなくて技術なんだよね・・・。私も使いたいけど無理だよ」
「そうじゃ・・・あぎゃあああ!?それ以上は無理なのじゃ!妾爆散したくないのじゃああああ!!」
一人だけはトラウマスイッチを押されて発狂しているがそれは放置。ハジメ達は、無慈悲な襲撃を身をもって体験しているのでこの程度どうとでもないのだ。そして、魔物を難無く倒したハジメ達は天之河達の様子を観戦する
「・・・連れて来たのを後悔し始めたわ」
「皐月でも判断ミスがあるんだな」
「私も人間よ?予想以上に弱い勇者(笑)達に頭を悩ませているだけなの」
そうこうしていると、八重樫が一体倒した。それからは、相手の行動パターンをある程度把握した八重樫が翻弄して各自が止めを刺して倒し終えた
「ようやく倒したか」
「この先に広場があるからそこで一度休憩するわよ。危なっかしくて見てられないわ」
皐月が言う通り、一行が少し進んだ先にはそこそこ広い場所があった
「お前ら、壁際は止めとけ。奇襲されるかもしれないからな。休むなら部屋の中央に来い」
「深月、壁をお願い」
「かしこまりました」
ハジメは、宝物庫からホットカーペットと炬燵を、皐月はストーブを、深月は魔力糸で編んだもこもこ敷き毛布を出して設置。あっという間に暖房完備の無敵結界が完成した。魔力糸の壁はアザンチウム製の武器じゃないと傷つける事が出来ない利点が物凄く大きい
「いやぁ~、温まる。炬燵は最高だな」
「深月が編んだもこもこな毛布が反則よ。・・・油断していると寝てしまうわ」
「・・・ぬくぬく」
「あ"ぁ"~、生き返るですぅ~」
「これ、はしたないぞシア」
「でも、シアの様になるのも分かるよ~」
ユエ達は炬燵の上に頭を置き、お餅の様に頬を緩ませている。残念美人とはこう言う事だろう
「それにしても、大きな扉に四つの鍵穴・・・。この広大な迷路の何処かに置かれているのね」
「クロスビットで回収―――」
「大丈夫です。既に四つ確保しました」
『・・・・・』
深月の周りにフヨフヨと漂っている四つの鍵を見て、全員が呆気に取られていた。深月が何もせずに迷路の中を歩く事はなく、魔力糸を迷路に張り巡らせていたのだ。魔力がある限り無限に伸び、動かす事が出来るのだ
「深月だから仕方がない」
「流石深月」
「・・・魔力糸は何処まで広がっているのか聞いても良い?」
「全て網羅しています!」
「あぁ・・・やっぱりそうよね・・・深月は凄いわね」
皐月は、この迷路を作ったであろう解放者の者には大変申し訳ないと心の中で謝罪した。自分達もクロスビットで楽して回収しようとは思っていた。何の苦労もなく全体を探索する深月が異常なだけだ。そして、今の深月の心の中はフィーバータイムである
お嬢様に褒められましたよ!さぁ、次の試練は何ですか?私は一瞬でクリアしてみせますよ!!
特大なフラグを建てつつ、もう一度皐月に褒めて貰える様にテンション上げ上げ状態なのだ
深月の内心状態は置いておき、しばらくの間大きな炬燵に入り込んで眠るユエ達と、小さい炬燵に身を縮こませながら入っている天之河達
「この迷宮の試練・・・一体何かs―――」
皐月が考察していると、隣に入っていたハジメが肩を持って抱き寄せる
「皐月、休憩の時まで考えるのは止めろ。いつまでも気を張り詰めるのは逆効果だぞ」
「・・・そうね。気疲れしてもいけないわね」
そのまま自然な流れでハジメは皐月を撫で、皐月はハジメに甘えて桃色の空間を大量生産する
「いいなぁ~」
香織はそこに自分が~と思っているが、ユエとシアの二人にジト目で睨まれて羨まし気に見るだけとなっていた
「最近の皐月は張り詰め過ぎている。ハジメに甘えるのは当然」
「私達よりも桃色ですぅ~。流石正妻の皐月さんですね!」
ティオは炬燵に置かれた果物を食べながら、内心で色々と考察する
(うむ、やはりそういう事か。いやはや・・・長生きしているのにも関わらず気付かんとはな。ご主人様は皆に平等の機会を与え、それをものに出来るかどうかが重要という事かの?いや、これは器の違いじゃな。ご主人様は複数の伴侶に寛容、香織は己一人だけ―――うむ、凄いのじゃ。妾がご主人様の立場でもあそこまでの気遣いは出来んの)
遂にティオはハーレム加入条件の入口に辿り着いたのだ。変態のままでは気付かず、淑女になってからようやく気付いたのだ。これもある意味深月の思惑通りである
ティオさんはようやくですか。香織さんは・・・駄目ですね。冷静になって全体を見れば直ぐ気づく筈ですし・・・あぁ、八重樫さんが香織さんを残念な子を見る様な眼で見ています。という事は、八重樫さんもハーレム加入条件を知ったのでしょうね
二人は互いに食べさせ合いをしたり、キスをしたりとタガを外してイチャイチャする。微笑ましく見る者や、羨ましそうに見る者、ゲッソリと迷惑そうに見る者と三者三様だ。二人のイチャつきを見た谷口は本音を口漏らす
「・・・独り者には癒されない空間になりそうだよ」
見慣れていない天之河達は激しく同意した
休息を取っているハジメ達。炬燵で暖を取っているのだが、今は体の中から温まる鍋を食べている
「はいハジメ、あ~ん♪」
「あむっ、良い出汁が染みてるぜ。皐月、あ~ん」
「はむっ、やっぱりいい味が出てるわ」
「皐月、あ~ん」
「ん、ユエもあ~ん」
「私もお願いしますぅ!」
「シアはちょっと待ってね?」
ハジメと皐月とユエとシアは互いに食べさせ合いで、激しくイチャイチャし始める。それを羨ましそうに見ていた香織が恥ずかしそうに突撃する
「は、ハジメくん。私も食べさせて欲しいな~?」
「ハジメさんの両手は塞がっているので私が食べさせましょう。良い色でしょう?」
「それ劇物ぅ!私は激辛苦手どころか嫌いなの!食べさせないでぇええええ!?」
「心外ですね。赤ですが、香辛料が全く入っていないので辛くはありませんよ」
「えっ、そうなの?」
予想外―――深月が作る赤い料理に香辛料が全く入っていない事に驚きつつ、恐々としながら目の前の野菜を一口食べる。その瞬間、旨味のスタンピードが香織の口内を襲った。濃厚な味と言うよりも、素材そのものの濃い味が広がる。そこで香織の意識は途切れた
パタッ
皆は地面に倒れた香織に驚愕したが、香織の顔を見て何やってんだ?と不思議そうに首を傾げる
「・・・香織、笑顔で倒れる。深月、私にも頂戴」
「ユエさん、あ~んです」
香織に続いてユエも深月の料理を口にしてしまった。ユエが今まで体験した事のない旨味の暴力が口内で暴れる。一噛みしただけでも、某星の白銀の如くオラオラオラオラオラオラオラオラ!の圧倒的暴力が脳に響き意識が途切れた
パタッ
ユエも香織同様幸せそうな笑顔のまま倒れた事で、深月以外の皆が警戒する
「ユエまでも倒れただと!?クソッ、どこからの攻撃だ?」
「幻惑魔法だとすれば・・・全員が厳しいわね。深月は状態異常耐性があるから大丈夫だとは思うけど」
しかし、何も起こらない。しばらく警戒が続いていると、数十分程で香織が目覚める
「うぅん・・・私寝てたの?」
「香織大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「何か見せられましたか?」
「見せられる?」
皐月とシアが何を言っているのか理解出来ていない様子だった。すると、ユエも目覚める
「不覚、・・・あれは予想外」
「どういう事?」
「原因・・・深月の料理」
皆が「お前は激辛で何をした」とジト目で見ているが、香織が予想外の言葉を告げる
「人間って本当に美味しい物を食べると気絶するんだね」
「「「「「「「「は?」」」」」」」」
「こればかりは香織と同意見。深月の料理は美味しいけど、あれは抜きん出ている!口の中で最上級魔法が炸裂した!」
「爆弾の様に広がる旨味の暴力・・・駄目、お母さんが作った料理の味が分からなくなったよ。ごめんね、お母さん」
ここで、気になったハジメがその料理を食べようとすると二人に全力で止められる
「ハジメ、駄目!あれは危険物!旨味が暴力に変わって口内にスタンピードが起こる!!」
「駄目だよ!実家の味が分からなくなる位危険な凶器なの!ううん、あれは麻薬だよ!!」
ハジメは二人の静止を振り切って深月の料理を口へ運ぶ
「「駄目ぇえええ!」」
ハジメの口内にスタンピードが発生した
パタッ
二人と同じ様に幸せそうな笑顔で気絶してしまった。皐月以外でここまで表情が崩壊したハジメの顔をユエ達は見た。普段の暴虐な感じが一切見当たらない笑顔に、心がキュンキュンしている
「ヤバイ、ハジメの笑顔だけでご飯沢山食べれる」
「はうっ!キュンキュンしますぅ」
「良い笑顔じゃな」
「ぐへへ、ハジメ君の笑顔良いよ」
ゴスッ!
「グエッ!?」
皐月は、一人だけ危ない顔をしている香織の頭にチョップして正気に戻す
「お馬鹿な香織は無視してユエ、深月の料理ってそんなに危険なの?」
「皐月、甘く見てはいけない。あれは深月以外の料理の殆どが豚の餌と錯覚してしまう」
「なるほど・・・。食べ慣れている私じゃないと耐えられなさそうね」
「え?皐月さん、二人のあれを聞いたのにも関わらず食べるんですか?」
「深月の限界を知るいい機会なのよ」
「なら私も食べますぅ!遥か彼方の頂をこの舌で体験するです!」
「準備は出来ていますよ?」
深月は容易万端で、皐月はそこそこ入った器、シアは一口分だけの器だ。深月は皐月に遠回しで、「気絶しないで下さいね?」とプレッシャーをかけている。尚、本人にその自覚はなく、美味しく食べて下さいと思っているだけなのだ
「いただくわ」
皐月が一口―――口内に旨味のスタンピードが起こり、脳を殴られた様な衝撃に足元がふらつくも耐える
「ぐっ!・・・何て旨味なの。素材そのものの味だけと思いきや、混ざり合う事で最大級の威力に変化だなんて」
パタッ
皐月の隣に居たシアが倒れてしまった。とても良い笑顔である
「・・・『美味しいには勝てなかったですぅ』と言ってそう」
「仕方がないよ・・・美味しいのがいけないんだもん」
「それならば、お代わりは不要という事ですね?」
「「お代わりをお願いします」」
二人はお代わりして無言で食べる
「それにしても・・・一体何時の間に作ったの?」
「エリセンで滞在している時から煮込んでいました。熱して凍らせを繰り返し、魔力糸に技能を付与出来るようになってからはずっと煮込んでいますね」
これを聞いた皐月は、「そりゃあ美味しいに決まってるわ」と納得した。少ししてハジメとシアが起き、お代わりを強請ったのは言うまでもないだろう。ハジメ達が美味しいご飯を食べていると、四方の通路から巨大な魔物がいきなり現れた
「グルァアアアアアアアッ!!!」
五メートル越えのフロストオーガが現れた瞬間、天之河達は食材だけ分けて貰い自分達で作った鍋の汁を噴き出した。あまりにもいきなりの出来事に咄嗟に動けなかったが、ハジメ達は「あっ」と口漏らして魔物達に黙祷した
「邪魔です」
深月の魔力糸で足元を縛られたフロストオーガ達は、一ヵ所に集められて雁字搦めで身動きを取れなくされる
「
遂に〇を付けて伏せる事をしなくなった。ハジメと皐月は、めんどくさくなった為に付ける事を諦めたのであろうと理解した
魔力糸の槍が投擲され、真っ赤に染まって――――着弾
ドッグォォォォオオオン!
衝撃は凄まじく、炬燵がガタガタと揺れる。しかし、深月が魔力糸で鍋を持ち上げているので零れる心配は皆無である。天之河達の鍋?そんな物はどうでもいいので持ち上げていない
爆発の煙が晴れ、フロストオーガ達が居た場所には巨大なクレータだけが残っていた。
「南無」
「可哀想に・・・開幕2コマで殺られる敵の様だったわ」
「安らかに眠れ」
「木っ端微塵ですぅ」
「妾達の攻撃でもびくともせん氷を一撃で砕くとはのう」
「やっぱり深月さんって規格外だよね~」
ハジメ達は魔物に同情するが鍋を食べる手を止めず、天之河達は道中で相手をした魔物より強いと分かる相手を片手間で殺しきる深月に呆然として口が開いたまま塞がらない
鍋を食べ終え、十全に動けるまで休んだハジメ達は迷宮の攻略を再開する
「この鍵を入れればいいんだな」
深月が回収した鍵を嵌めると、大きな扉がゴゴゴッとゆっくりと開いて奥へと続く道が現れた。そして案の定、通路は透明度の高い氷の壁だった。またしてもミラーハウスの攻略に、少しだけ溜息を吐きつつ攻略を開始する
「さて、それじゃあ行くか」
「またミラーハウス・・・ね。芸がないわ」
氷壁から冷気が漏れていなければ氷だとは気付かない程の鏡の様な壁に、ハジメ達が歩く音が響く。コツコツと足音が鳴り、反響―――そして、合わせ鏡の様に永遠と続く世界を見たユエがポツリと呟く
「・・・何だか吸い込まれてしまいそう」
鏡面世界が不気味に感じたのか、少しだけ体を震わせた。そんなユエをハジメと皐月が手を握って落ち着かせる
「大丈夫よ。吸い込まれそうになったら引っ張るわ」
「俺達が行かせないから大丈夫だ」
「・・・んっ」
「貴方達、いちいちイチャつかないと気が済まないの?」
微笑み合うハジメと皐月とユエに八重樫がジト目でツッコミを入れる。互いに好感度がカンストしているので、その程度の口撃では痛くも痒くもない
ハジメ達は罠もなく、魔物も出ず、不気味な静けさのこの通路に少しずつ警戒度を上げていると、不意に天之河がキョロキョロと辺りを見回し始めた
「光輝?どうしたの?」
「あ、いや、今、何か聞こえなかったか?人の声みたいな。こう囁く感じで・・・」
「・・・そういうのはメルジーネで十分だよ」
ハジメ達は足を止めて警戒をする。皐月達に聞いても今の所違和感を感じているのは天之河だけだと分かり、警戒を更に強める
―――本当にこの関係が続くとでも?
煩い
―――あぁ、これが自分の声だと分かっている。だからこれは自身にしか聞こえないから安心しましょう
煩い
―――おっとっと、そう邪険にするのは良くない。お嬢様にバレたらどうなる事か
ドゴンッ!
『・・・・・』
深月が氷壁を殴り砕いた。これだけでも分かる通り違和感は天之河だけでなく深月も感じているという事だ
「皆、試練は始まっているわ。深月のあんな表情初めて見たわよ」
深月の顔は特に変化はないのだが、一緒に居た時間が長い皐月が言うのであれば間違いない。しかも、小声で伝えた事から極めて重要かつ危険だと判断した。それから少しずつ進む毎に深月が徐々にオーラが漏れ始める。本人は気付いていない様で、殺意がマシマシの危険なオーラである
(ヤバイな・・・進む毎に深月の殺意のオーラが漏れてるぞ)
(本人に自覚はないけれど、溜め込む癖があるのよ。それを思うと危険ね)
(俺・・・物凄く背筋が寒いんだが)
(私もよ。・・・理由は分かるでしょ?)
(皐月、どうにかしてくれ)
(諦めて)
ハジメが後ろをチラ見すると、ユエ達も顔を青褪めつつも何も言わず歩いている。突けば破裂するものに触れたくないのだ
―――これ以上成長しない私を見たお嬢様はどうするか
黙れ
―――お~ぉ、怖い怖い
我慢して進んで行くと、遂にハジメ達にも天之河が言う囁き声が聞こえ始めた。自分を追い詰める様な、傷を抉る様な言葉を何度も何度も囁かれる。何処か聞いた事のある声なのに思い出せないでいると、ハジメがこの囁き声の正体を突き止めた
「ああ、そうか。これ自分の声だな」
徐々に囁き声に意識を割かれたユエ達が、ハジメの声にハッと我を取り戻した
「そう言われれば、確かに自分の声ね。違和感があったのも納得したわ」
ようやく答えを知った皐月は少しだけ晴れやかな表情をした。解けない事による煩わしさからようやく解放された感じだ
「皆、囁き声に聞き覚えがあるって言ってたろ?俺もそうだったんだが、この声、俺の声だわ。親父の手伝いでゲーム制作に関わった時に、ボイステストで何度も自分の声を聞く機会があってな。自分の声って自分で聞くと意外に違和感があるもんだから気が付きにくいけど、確かに、その時何度も聞いた俺自身の声だよ、これ」
立ち止まって違和感の正体を説明し、考察をするハジメ達。しかし、今の深月にはこの言葉を聞く余裕は全くなかった
―――おっと、お嬢様達の考察タイムが始まったぞ?良いのか聞かなくて?いや、聞く耳持てないと言った方が良いのか?
・・・・・
―――遂にだんまり?
・・・・・
―――いやぁ~、私だけズルイじゃない。私もお嬢様と一緒に過ごしたいな~
・・・・・
―――だから、交代しない?
は?
その瞬間、深月の足元だけが光った。魔法陣がいきなり現れた事に考察をしていたハジメ達も驚愕、皐月が咄嗟に手を伸ばすが間に合わず深月だけが転移した
転移した先は、中央に天井と地面を結ぶ巨大な氷柱のある大きな広場だった
「此処は・・・」
深月が周囲を警戒しつつ、目の前にある氷柱の鏡を見る。見たくないが、見ないといけない現実。そして、氷柱の鏡の中から、真っ黒な人影が出て来た
『さぁ、これで邪魔者は居ない』
「えぇ、邪魔者は居ませんね」
両者睨み合い
「ですが」『でも』
その言葉を皮切りに、両者から膨大な殺意が溢れ出し
「不要な
女と男が激突した