ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】 作:ぬくぬく布団
~皐月side~
何で深月だけなのよ・・・。普通は全員が転移するのが定番でしょ!
深月だけが転移した事に慌てる天之河達を他所に、ハジメ達は一度深呼吸して落ち着きを取り戻す
「深月なら大丈夫だと思うんだが・・・」
「早く合流するわよ。ヒシヒシと嫌な予感が強くなっているわ」
「急がないと!」
「皐月さんの直感がそれならば急いだほうが良いですね!」
「妾達よりも囁き声が聞こえていた様じゃしのう・・・。ちと危うい感じがしたのじゃ」
「殺意のオーラが漏れてたもんね・・・」
だが、試練はもう始まっている。もしかしたら、一人、また一人と転移してしまう可能性がある
「予定だと天之河達に魔物を殺させるつもりだったが、それは変更だ。天之河達は後を付いてこい」
「なっ!?俺達は戦えるぞ!」
「なら、秒で殺せるんだな?」
「いや・・・それは・・・」
「出来ないなら却下だ」
「私が書かせた契約書をしっかりと確認したのかしら?有事の際は指示に従う事を明記していたのよ?」
天之河と坂上と谷口は、「え?」とそんな事書いていたっけ?と首を傾げる。そんな三人を見た八重樫は、「この馬鹿達は・・・」と呆れていた
「唯一目を通していたのは八重樫さんだけね・・・。まぁ、今はどうでもいいわ。早足で付いて来なければ置いて行くから気合を入れて付いて来なさい。皆、行くわよ」
ハジメ達は早足で移動をし始め、天之河達は慌ててその後を追う。道中で襲い来る魔物は、メツェライとミーティアで粉微塵に瞬殺して奥へと進む。奥へ進む毎に囁き声は多くなり、皆の精神を揺さぶる
「囁き声で精神を揺さぶられるのは良いけど、判断を鈍らせないでよ?」
皐月がジト目で後ろの天之河達を睨み、当人達はビクッと肩を震わせて視線を逸らす。明らかに精神的に参っていると感じたティオが魂魄魔法で天之河達の落ち着きを取り戻させる
「さて、どうじゃ?多少はマシになったかの?」
「ええ。ありがとうティオ。頭の中がクリアになった気がするわ」
「うん。体も少し軽くなったかも・・・」
先程よりも顔色が良くなっている事から、ティオの魂魄魔法の行使は最適だった。とはいえ、囁き声が聞こえなくなるわけではないので、そこら辺は当人の精神力次第という事だ。たが、それでもあまり効かない者も居る
「ああ。ありがとう、ティオさん。楽になったよ」
天之河が薄らと微笑み返すが、声が重く、表情も暗いままだった
「なに礼には及ばんよ。それより、さっさとこの迷路から出てしまわんとな。ご主人様よ。あと、どれくらいじゃ?」
「後一キロもないから・・・恐らく残り二つ三つで最終試練と考えて間違いないわ。気合入れなさいよ?」
早歩きから少しだけゆっくりとした警戒態勢で進む。何事も問題がない現状に嫌な予感がした時―――
「うわぁあああっ!?」
「こ、光輝!?どうしたの!?」
「大丈夫か、光輝!」
天之河が奇声を上げながら氷壁から飛び退き、八重樫と坂上が慌てて呼び掛ける。ハジメ達も何事かと振り返って目を丸くする。しばらくの間氷壁に映っている自身の姿をジッと警戒して睨んでいる
「光輝?」
「・・・壁に、壁に映った俺が笑ったんだ。俺は笑ってないのに・・・まるで別の誰かみたいに・・・」
「見間違いじゃないのね?」
ふ~ん、なるほど・・・。試練の最後は、己の影に打ち勝つ事かもしれないわね
皐月は魔眼石で氷壁に映る全てを調べるが反応は無く、そのまま天之河達をスルーして先に進む。しばらく歩くと、通路の先に巨大な空間を発見。部屋の奥には意匠の凝らされた巨大な門が見え、先の門の様な鍵を嵌める場所はない。羅針盤もこの先を指しているのでゴールで間違いないだろう
「ふぅ、ようやく着いたようだな。あの門がゴールだ。だが・・・」
「ん・・・見るからに怪しい」
「ですねぇ。大きい空間に出たら大抵は襲われますもんねぇ」
当然、今まで同様魔眼石にも反応は無い。その場に立ってからの試練が始まるのだろう
「何にせよ進まなければ分からないわ。深月が転移した事から、個人の試練と考えた方が良いわ。バラバラに転移される可能性は極めて高いから注意しなさい」
ハジメと皐月を先頭に、ユエ達も続いて進む。そして、部屋の中央まで来たら案の定変化が起こった
「あ?・・・太陽?」
突然頭上に降り注いだ光は熱を持っており、太陽と錯覚させる程だ
「・・・ハジメ、皐月。周りが」
疑似太陽に視線を捕らわれた二人に、ユエが周囲の環境変化を注意する
「ダイヤモンドダスト?」
皐月の言葉通り、頭上から降り注ぐ光が氷に乱反射して視界を徐々に奪う。だが、天然物なら今現在体験している光量より少ない筈だ。徐々に光を強めるそれに対し、ハジメが全員に注意を促す
「・・・ダイヤモンドダストと称するには少々危険な香りがするな。全員、防御を固めろっ!」
皆が一塊に集まり、ユエと谷口が聖絶を展開した瞬間に閃光が駆け巡った
「うわぁ・・・まるでレーザー兵器ね」
「ライ〇ルビットの製作者、感想を一言」
「避けるのってめんどそう」
「それだけで済むのね・・・」
皐月の言う通り、宙に浮く小さな氷片が光を溜め込んでレーザーの様な熱線を放ったのだ。個人を狙う様な鬼畜な攻撃ではないものの、完全なランダム攻撃で結界を解除するわけにもいかない。状況は刻一刻と変化し、上空を覆う雪煙が徐々に降りてきており、ハルツィナ樹海の様に霧が視界を塞ぐ可能性も出て来たのだ
「チッ、煙に包まれるのは面倒だ。一気に駆け抜けるぞ」
「ん・・・鈴、合わせて」
「は、はい、お姉様!」
今までは出番がなかった谷口だが、ユエに結界の防御の一部を任されて気合が入る
ハジメの声に合わせて全員が何時でもかける準備をし、熱線が飛んでこない一瞬を狙って聖絶を盾状に変形させて皆の周囲に展開する
「行くぞ!」
ハジメの合図に合わせて皆が駆ける。出口がある門まで約数百メートル―――走る抜ける間に襲い来る熱線が障壁の壁を削るが、ユエと谷口が削られた傍から修復する。すると、前方に大型トラック大の氷塊が落ちる
ズズゥン!
落ちた氷塊は形を変え横一列で通せんぼする形となる。大きなタワーシールドを持ち、ハルバードを持った番人となりハジメ達を迎え撃つ
「定番っちゃ定番だな!」
ハジメがドンナー・シュラークで胸元の赤黒い部分を狙撃するが、タワーシールドで防がれる。昇華した力でさえ貫通しない事から頑強な盾である事が分かる。しかし、こちらにはチートが勢揃いしている
「うっりゃああああーーーーーーですぅううううう!」
「蹴散らしてくれるのじゃ!」
シアの炸裂スラッグ弾とティオのブレスで一体を撃破。防御を担っているユエと谷口は攻撃出来ないが、残りの者達も攻撃する。天之河の天翔剣・震を、香織が分解の砲撃を、雫が飛ぶ斬撃を、龍太郎が衝撃波を―――味方であるハジメと皐月に向けて
「「っ!?」」
天之河と坂上の攻撃はハジメへ、香織と八重樫の攻撃は皐月へと向かうが、二人は飛び退く形で攻撃を回避。尚、皐月は回避しつつシュラーゲンでお邪魔虫のゴーレムを粉砕する
「「・・・何のつもり(だ)?」」
地響きを立てて近づいて来るゴーレム達を放置する訳にはいかないが、皐月は宝物庫からフラッシュストライクの銃身に切り替えて撃ち振るってゴーレム達を切断して足止め。これでじっくりとお話しする事が出来る。尚、攻撃を放った当人達は呆然としており、我を取り戻すと同時に激しく動揺する
「ち、違う!俺は、そんなつもりなくて・・・気がついたら・・・ホントなんだっ!」
「あ、ああ、そうだぜ!南雲を攻撃するつもりなんてなかったんだっ!信じてくれ!」
「そ、そうなの!本当に気がついたら皐月に・・・何で私・・・あんな・・・」
「ごめんなさい、高坂さん!でも、自分でもわけが分からないのよ。敵を斬るつもりだったのに・・・」
必死に弁解する四人を見て、いつ間にか・・・それこそ無意識に誘導されたかの様な感じだった。しかし、これはあっさり解明された
「無意識化の干渉ね・・・。ゴーレムに攻撃しようとした時に何かが聞こえた様な気がする?からかもしれないわ。香織、回復魔法はどうなの?」
「わ、分かんない・・・」
「ユエは?」
「皐月、無意識化の解除はかなり難しい」
皐月が対策を考えていると、切断した筈のゴーレムが徐々に再生する
「回復が駄目、干渉も無理と考えれば・・・どうしようもないわね。でも、私とハジメだけが狙われているなら対処は簡単よ。これも試練なら、ノルマを倒して援護に徹すれば良いだけよ」
「全員死ぬ一歩手前までド突き回したらどうだ?」
「足手纏いが増えるから駄目よ」
古いテレビを直すかの如く提案するハジメに、四人の顔が青ざめるが皐月が却下する事で危機を回避する事が出来た。だが、皐月の案は今の状況下では最適だ。雪煙で完全に互いが見えなくなる事も考慮したとしても、ハジメと皐月ならフレンドリーファイア程度あしらう事が出来る
「ま、俺達以外に誘導されたら・・・ご愁傷様って事で」
雪煙も完全に降りて互いが見えない状態となるが、ハジメと皐月は背を合わせて一緒に行動する。途中でゴーレムが襲って来るが、シュラーゲンの一撃であっさりと倒して流れ弾を悠々と回避する。すると、目の前の雪煙が渦巻き始めて一つの通路が出来る。その先にはゴールの扉だった
「呆気ないわね」
「オルクスがそれだけ鬼畜って事だな」
時々来る流れ弾を撃ち払いつつ扉の前までゆっくりと歩いて行った
ハジメ達は全員ゴーレムを倒し終え、ゴールの扉前で天之河達を待つ。一番は八重樫で、残りの三人が続く様に倒し終えて香織の治療を受けた
「全員治療が終わったわね?とっとと行くわよ」
「お、おう。・・・だけど・・・なぁ?」
皐月の言葉に少々躊躇いながら返事を返すハジメだが、それには理由があった。試練を終え、光る扉の前で回復している最中に響く音と振動が気になっているのだ。恐らく深月が暴れた影響がここまで届いていると理解出来るのだが、何度も何度も響いているので少しばかり怖いのだ
「・・・コワイ・・・深月コワイ」
「あわわわわ!?どれだけの威力で攻撃してるんですか~」
「妾・・・あれでも手加減されていたのじゃな」
「王国の時よりも凄い轟音だよ・・・」
「覚悟決めて行くわよ。深月なら無意識化でも私に攻撃する事はありえないわ」
皐月はこの先の試練について予測は出来ている。恐らく転移させられ、自分自身の何かと戦うと推測する。だが、それを事前に伝える事は、試練とは言えない。特に、天之河達はこれといった活躍はしていないのだ
「・・・皐月の言う通り覚悟を決めるか」
ハジメが皐月の隣に並んで光る扉を潜る。ユエ達も覚悟を決めた表情で潜り、天之河達も潜った
視界一杯に広がった光が収まり、皐月が目を開くと一人だけだった
「予想通り個別の試練。ご丁寧に通路まで用意されている事からこの先でしょうね」
しばらく警戒しながら進むと、大きな広場と天井と地面に一本の氷柱が繋がっている部屋に到着した
「さて、問答している時間も惜しいからさっさと始めましょう?」
『もう少し時間を頂戴よ。何せ私自身のお披露目なのよ?』
「・・・確かにドレスを着る時間は必要ね」
ドンナーはホルスターに収めて自身の影が出て来るまで宝物庫から出した椅子を二つ用意して座る。すると、氷柱から一つの影が出て皐月が用意した椅子に座る
『椅子をありがとう、私』
「自分の事だから直ぐに分かるわ」
『この試練の内容も把握している様ね』
「"己に打ち勝つ"だけなら簡単すぎるわ。大方、自分の負の感情に打ち勝てるかどうかでしょう?色々と目を逸らしていた私としては良い機会なだけよ」
皐月と影の皐月は、己を察してホルスターに収めているドンナー・シュラークを椅子の背に掛ける
『そう。私なら手を出すより言葉だと思っていたわ』
「深月から口酸っぱく言われているからよ。・・・この振動を聞いていると深月は地雷を踏まれたと分かるけどね」
『・・・この迷宮消滅しないわよね?』
二人の心配事は深月がこの迷宮をどれだけ破壊するかどうかだった
「取り敢えずこの話は置いておきましょう。話がズレるのは駄目よ」
『それじゃあ、本題に移りましょう。人間の皮を被った化物になったわね、私?』
「否定しないどころか否定なんて出来ないわ。ほら・・・魔物の肉を食べたり価値観がガラリと変わっちゃったからね。あの時は死と隣り合わせ、少しでも足を踏み外せば死―――そう成らざる得なかったわ」
オルクス大迷宮の奈落で生き抜く為には仕方がなかったと皐月自身思っている。そして、それからの在り方も後悔はしていない
『あぁ~あ、私だからこれを言った所で意味がないとは分かっているけど言わせてもらうわ。人殺しに忌避感を抱かなくなった私を見て、お父さんとお母さんや使用人達はどの様に思うかしら。明るく、誰とでも接していた頃の私とは違い過ぎる今の私。きっと化物と呼ばれ拒絶されるでしょうね』
優しい両親を思い起こしつつ皐月の答えは決まっていた
「拒絶されたら・・・まぁ、悲しいわ。世界中で拒絶されるかもしれないし、陰口を叩かれるかもしれない。でもね、そんな事で自分の人生を拒絶しないわ。以前の私も、変わった私もひっくるめて今の私の根幹なのよ。どれかが一つでも欠ければ今の私はないわ。今となってはたらればだけど、奈落に落ちたのが私一人だけで仲間が誰一人居なかったら・・・私は獣に堕ちていたわ」
『・・・正直、この試練って私は既にクリアしているわよね~』
「まぁまぁ、ここは全てを吐き出すには丁度良い場所だから付き合ってもらうわよ」
『ここは相談室じゃないのだけれど。・・・まぁ、私だからその程度問題ないわ』
ハジメが居たからこそ精神が完全に壊れなかった。深月が自分の事よりも己を心配して単身で探すという安心。ユエが居たから変わった価値観。最初はウザかったシアがどんどん変わる事の嬉しさ。ミュウが居たから己に子供が居たらこんな風に親馬鹿になるだろうと分かった。レミアから時折感じる両親の親心。変態龍と突撃娘も今は置いておく
皆が居たからこそ、注意したり注意されたり気付き合った事が何度もあった。それらを否定する事は、今までの人生全てを否定する事だ。皆が根幹に携わっているからこそ、今の皐月があるのだ
「私が拒絶される事も仕方がないわ。価値観は人それぞれ―――でも、その人の人生を馬鹿にする事は私が赦さない。それは人を拒絶する事、「自分ならこうする」なんて言う輩は経験した事が無いから言えるだけ。価値観の押し付けはその人を拒絶し、相手を想わない馬鹿と一緒よ。脳内お花畑が一番いい例よね。・・・あっ、もの凄く長く話しちゃったわね。ごめんね、私」
『まぁ、不満を溜め込む私としては吐き出す事が出来る場所の一つと言う事だから気にしていないわ』
肩を竦めた影の皐月は椅子から立ち上がり、出て来た氷柱へと戻る手前で止まって一言だけ忠告を送った
『言葉だけでの試練突破おめでとう、私。だから報酬として一つだけ忠告よ。深月の抱えている闇は私が思っているよりも大きく、ほんの少しの手違いで心が砕けるわ。皆と合流した後、光の先に居るから皆で受け止めなさい』
「・・・ありがと」
奥へと続く道を皐月は進み、影の皐月は氷柱へと帰った
~深月side~
深月と影の男の拳がぶつかり、衝撃で氷壁にヒビが入る。常人がこの場に入れば吹き飛ぶ事間違いなしの災害の風が巻き起こっている
『その程度か?それではお嬢様は護れないぞ』
深月が魔力糸で男の手足の一部を縛ろうとするが、絶妙な角度で魔力をぶつけられてしまい当てる事すら困難。ハーゼン・ハウンドを抜こうとした瞬間には一瞬で懐に入られてしまう瞬発力。一撃一撃が重く、普通に受け止めてしまえば骨が砕ける威力だ。掠るだけでもヒビが入るが、それは再生魔法の常時再生で手一杯だ
『黙れば追及は無いと思っているのか?やはり、TS転生者とバレる事が嫌か』
魔力糸の槍を投擲。これも常人なら気付かない内に殺される凶悪な速さだが、影の男は手刀で真っ二つにする。手刀だけで真っ二つにした事に深月は驚愕したが、タネを理解した。薄く、頑丈、鋭いの三点特化の魔力糸の刃を作っていたのだ。自分よりも高精度に作られたそれが、より一層苛立ちを掻き立てる
『いや、案外気付いているかもしれないぞ?お嬢様を見てハァハァしたり鼻血を流したりと・・・自分で言っていて変態だこいつと思ってしまった』
「お前は
『おいおい、試練の内容は推測しているだろ?自分の負の感情、後ろめたさに打ち勝つ。そうだろう?現実を受け入れられないお前よりも
「死ね」
『おっと、その程度が予想出来ないとでも思っているのか?お前は
「いづっ!?」
深月は、ハーゼンを取り出すと見せかけて無間と無音加速で一瞬で踏み込んで発勁を叩き込もうとしたが、影の男はひらりと躱した瞬間に膝と肘でプレスする様に深月の伸びきった腕に叩き込む。しかも、関節の肘を完全に破壊されただけに留まらず、再生阻害の為に関節の間に魔力糸の針を埋め込まれてしまった。深月は切り捨てて再生魔法をと思ったが、鳩尾に発勁をねじ込まれて視界がブレる
『教えはどうした?"心は熱く、頭は冷静に"―――今のお前とはかけ離れているぞ。あぁそうか、合流するかもしれないお嬢様に秘密をばらされたくないもんな?自分自身に勝てると思っていたか?仮想訓練で自分自身と戦ったつもりか?』
「ダマレェエエエエエエ!!」
深月は限界突破でステータスを上昇させる。しかし、相手は自分自身
『おいおい、こんな事で限界突破を使うのか?怒りっぽいなぁ』
深月は、憤怒を孕んだ眼で影の男に突撃する。熱量操作の電子レンジ掌底で相手を吹き飛ばそうとするが、相手も熱量操作で深月の手に干渉して無効化する。普段の深月なら対処される前提で動いているのだろうが、頭に血が上った状態ではそこまでの考えはなかった
『だが、弱い。弱すぎる』
陰の男は深月の右手を打ち払い、足の甲の骨を踏み砕き、頭を持って地面に叩き付ける。そして、そのまま氷壁へ投げ飛ばす
「ガハッ!」
深月は陰の男の迎撃一つで必ず何処かを壊される。それは容赦せず、相手を確実に仕留める為の行いだ。地面に足が着くと、衝撃を逃す事が出来ない体制での无二打が胸部に突き刺さる。胸骨を粉砕し、内臓をメチャクチャに破壊され、氷壁を砕いて広い場所へと吹き飛ばされた。薄れる意識の中、奥歯に仕込んだ神水の容器を噛み砕いて全回復する。怪我が完全に治るのは良いが、内臓を破壊された時の血は口の中に残り吐き出す
「う"ぉえ」
足元に血溜まりが出来るが、鈍い思考のまま横に転がる事で踵落としをすんでの所で躱す
『内臓のほぼ全てを潰したが、神水を使ったか。これで回復アイテムは無くなったぞ?』
陰の男はゆっくりと深月に近づく。しかし、深月とて黙ってやられているわけではなく、吹き飛ばされたこの広場全体に魔力糸を張り巡らせて罠を仕掛けている
「ゲホッゲホッ!・・・・・絶対に殺すっ!!」
陰の男が一歩一歩近づき、罠の起点に踏み入った。直ぐに罠を起動して極細の強靭な針を全方位から射出と、束縛の糸が殺到する。自身が流した血には魔力を流し込んで魔力糸の偽装をしているので確実に掛かったと確信があった。影だから血が出ない事、偽装が完璧だった事、油断を誘う為の仕草―――全てはこの時の為だったが、深月はある一点を忘れていた。この影は自分自身である事、感情と体力が違うだけなので同じ考えを持っている。つまり―――
『流石
その声と同時に激痛―――。影の男の腕が背後から胸部を穿ち、重要器官である心臓が掴まれていた
「な・・・ぜ?」
深月は息が出来ない中、血を噴き出す自分の心臓を見ながら罠が通用しなかった事だけが疑問をぶつける
『
「わた・・・し・・は・・・」
深月は薄れゆく意識の中、完全に手も足も出なかった事が悔しかった。徐々に冷える体でようやく自分が掌の上で踊らされた人形だった事に気付いた
あぁ・・・暗い。あの時と同じ・・・お嬢様と出会う前と・・・。そうか・・・
目の前が真っ暗になり、薄れ行く意識の中で声が聞こえるが誰の声なのかも忘れて何も聞こえなくなった
~皐月side~
皐月は試練をクリアし、何故か争っているユエとシアと香織の三人に拳骨を落として説教。ティオと坂上と谷口と合流して、何故かハジメを襲っている天之河を見て盛大な溜息を吐いた
「うわぁ・・・駄々っ子じゃない」
頭が痛いとこめかみを指でグリグリとマッサージをして現実逃避をする。しかも、影と融合する馬鹿さが頭痛に拍車をかける
「みんな、来てたんだな。少し待っていてくれ。今、こいつを倒してみんなを解放してみせるから」
「なに言ってんだよ、光輝!どうしちまったんだ!正気に戻れよ!」
「光輝くん、しっかりして!倒さなきゃならないのは南雲君じゃなくて、自分自身だよ!」
「・・・南雲。まさか、既に龍太郎と鈴まで洗脳してるなんて。どこまで腐っているんだ。どこまで俺から奪えば気が済むんだ!あぁ、そうか。今、分かったよ。恵里の事も・・・お前の仕業なんだな?あんな風に豹変するなんておかしいと思っていたんだ。でも、お前が洗脳したんだとすれば全ての辻褄が合う」
「―――と、子供の様にハジメに八つ当たりをする脳内お花畑です。今から男の象徴を撃ち抜きま~す。大丈夫、香織の回復魔法で治療体制は万全よ!」
「止めろぉおおお!マジで止めろおおお!衝撃で死んじまうだろ!?」
男にとって一番物騒な事を実行しようとする皐月に、坂上が待ったをかける。流石に象徴潰しの死亡は洒落にならないし、想像してしまい危ないと感じたのだろう
「えぇ~、私はハジメの正妻なのにも関わらず自分の物にしようとするNTRお花畑を攻撃するだけよ?当然の反撃よ。それとも何、坂上君はNTRが正しいと言うの?」
「そんな事は言ってねぇよ!?ただ単にあそこを攻撃するのは勘弁してやってくれってだけだよ!」
そんなこんなしていると、ハジメが天之河の胸倉を掴み上げてグーパンで殴って気絶させた。ハジメには一切外傷無く、天之河はズタボロである。相手の力を理解しない者の末路のいい例だ
「ふぅ・・・、どうやら深月以外は全員無事だな」
「さて、脳内お花畑の治療は最低限で先に行くわよ」
「・・・待って、深月は?」
ユエの疑問も最もだ。試練の場所は此処で、先は出口だけだ
「実は言うと、私は影と戦闘をしていないのよ。お話しだけで済んだご褒美として、深月が居る場所を教えてくれたの」
「えっ!?あの影を口撃だけで退けたんですか!?」
「いやいや、口撃していないわよ。今の私は皆が居たから!拒絶?否定?それは私の人生だけでなく、皆も否定する事になるのよ。両親に拒絶されるかもしれない、周囲から否定されるかもしれない。・・・でも、後悔何てしない。今を全力で生きる事が歪んでいる?それは価値観の違いだけよ。体験した者と体験しない者の差だから、押し付けなんてしないし、押し付けられる事もしないわ」
「そ、そうか。・・・皐月は凄ぇな。俺でも少しは気にしているぞ」
「令嬢ともなると、人間の闇の一端を垣間見る事があるのよ。だから価値観が違うのよ。学校での私はかなりはっ茶けていたのよ?息苦しいあんな場所よりも一息付けるの。・・・・・それよりもさっさと行くわよ」
皐月を先頭に、遅れてハジメ達が潜る。そして、最初に目に入った光景の輪郭はメイド服だった
流石深月、もう終わらせたのね
徐々に眼が慣れるが、皐月は違和感を感じた。それは、深月の足元を中心に広がる何か
何・・・この違和感?深月は先回りして試練をクリアしたのよね?闇で弱った心を私達が受け止めるだけじゃないの?
皐月は影が言っていた事を振り返る。光の奥に深月が居ると言っていた。徐々に色付く光景に最悪の事態を想定しておらず、一瞬硬直してしまった
「え?」
深月は皐月達の方に向いているのは分かっていた。だが、胸部を穿たれ血だらけとなったメイド服と、地面に広がる大量の血に理解が追い付かなかった。思考が正常に動き始めたのは、後からハジメが潜り出て皐月にぶつかった時だった
「深月を放せええええええ!!」
いつもなら冷静な皐月がいきなり叫ぶ雄叫びと、殺気がハジメ達に伝わった。明らかに異常事態だと理解したハジメ達が急いで光を潜り出ると、赤いオーラを迸らせた皐月が飛び出す姿と、胸部を穿たれて血まみれの深月の姿だった
「クソッタレッ!!」
深月なら、規格外だから、強いから―――なんて油断していた己に舌打ちしながら、ハジメはドンナー・シュラークを構えて影の頭に向けて撃つ
ドパンッ!
計十二発の弾丸が跳弾して全方位から襲うが、弾は着弾する手前でピタリと止まった
『放せと命令されてしまえば、そうせざる得ないです』
影は皐月の言う通り、素直に腕を引き抜いて深月を開放する。皐月は血溜まりに倒れ伏した深月を抱き起して神水を飲ませ、穿たれた胸部に掛けて治療する。損傷は治ったが、心臓が動いていないので纏雷の電気ショックと人工呼吸で蘇生を試みるも目を覚まさない
『羨ましい。お嬢様の人工呼吸とか最高だな~』
ジーっと見つめて羨ましがる影の男に苛立つが、深月の蘇生させる為に手を止めず無視する
「深月しっかりしろ!」
「深月!」
「死んじゃ駄目ですよ深月さん!」
「目を覚ますのじゃ!」
「早く起きて!」
ユエとティオが魂魄魔法で深月の魂が体の外に出ようとするのを防ぎ、香織は回復魔法を、シアは心臓マッサージ、皐月が人工呼吸、ハジメが影の男に銃口を向けて警戒をする
「てめぇ、何者だ?解放者の影か?」
ハジメが影の男に殺気をぶつけるも全く動じておらず、むしろどこ吹く風の様な態度に苛立ちが募る
「ごほっ」
深月の口から大量の血が零れ、小さな呼吸で徐々に回復している事が分かった。皐月はドッと疲れた様子で地面に座り込んでいた。だが、殺意は男の影に向けたままだ
『さて、今ならどんな質問にも答えちゃうよ!さぁお嬢様、どんどんと疑問をぶつけて下さい!』
ハイテンションな影の男に警戒しつつ、影の自分から教えてもらった情報を元に問う
「深月の闇は大きいって私の影から聞いたけど・・・それはどういう事?」
『う、う~ん・・・いきなり核心に迫っちゃうのか。でも答えちゃう!お嬢様だから仕方がないよね!』
ハジメ達は警戒を緩めず、一々オーバーリアクションをする影の男の一挙一動にイラつく
『
「よし、嘘吐くあんたは死ね」
『
ハジメ達は、「こいつはうぜぇ」と口漏らす
『ユエは他所様のお家で意味深な事をする痴女ですねぇ』
「コロス」
『シアは・・・時々うっかりをやらかすポンコツ臭ウサギですぅ』
「ツブス」
『変態は変態である。淑女になろうとも、陰では変態。―――フッ』
「ナンジャト?」
『むっつりスケベな突撃娘は・・・うん、もうちょっと周りを気にしようか』
「ナマスギリヲゴショモウカナ?」
ミレディ以上に煽る影の男に、ユエ達が戦闘態勢に移行する。しかし、ハジメが深月の試練だからと言って中断させようと制そうとしたが
『ハジメは中二病を再び煩わせた最強の自分を体現した格好で恥ずかしくないの?「くっ、静まれ俺の左腕!」「我が邪眼を封印する眼帯を開放する時が来たか」―――どう?痛すぎる!痛すぎて自分で精神ダメージを負うとか恥ずかしい!いつか、「俺は容赦はしない・・・魔王だからな」とか言ってそう!そして、子供に自慢して被虐するぅ~』
「ウボァ」
ハジメは、殺気を叩き付ける事も出来ない程の口撃に四つん這いでエクトプラズムしてしまった
『八重樫さんは勇者として活動したら、吐血勇者の称号を得るのに』
「吹っ飛ばすわよ?」
『のうき―――坂上は脳筋』
「うっせえ!」
『谷口さんは・・・お友達を見捨てよう!』
「見捨てないよ!」
これで唯一被害を逃れているのは皐月だけとなった。尚、天之河は気絶しているので何も言われていない。冷静な皐月は、影の男が言った事が理解出来ておらず考察に必死だ
私は俺で俺は私?どういう事なの・・・。二重人格?幼少の頃に人格が現れた?でも、それなら影が深月でないとおかしいわ。あれは男・・・、女ではない。意味が分からないわ
皐月が頭を悩ませていると、ハジメがようやく回復して立ち治った
「くそっ、とんでもない口撃してきやがって!」
『思った事を述べただけですー。良識なお嬢様は何時だって最高ぅ~!それすなわち愛です!!―――あ、敬愛ですよ?』
ハジメ達は手を出さず影の男が出したヒントを元に推測をする。しかし、殆どが二重人格であると推測する。だが、それならば男の影なのが矛盾する
『全く、誰も分からないのですか?』
影の男は影の女・・・深月へと変化する。その瞬間、ハジメはこの疑問のピースがピタリと嵌った。それはファンタジー小説では定番の事だった
「・・・おい、お前は深月で間違いないんだな」
『そうですよ?』
影の深月は男に戻った。これでハジメは影の正体を確信した
「性転換手術なんてちゃちなもんじゃねぇ。性転換だな?もしくは、TS転生か?」
「え?」
皐月は理解したが、ユエ達は理解していない様子だった
『大正解!いやはや、流石オタクのハジメですねぇ。あ、お嬢様一言感想をお願いします―――の前に、絶望した
ハジメ達が深月を見ると、顔を真っ青にして過呼吸に陥っていた。影の男は再び影の深月に戻り、へし折った深月の心に追い打ちをかける
『気持ち悪いよね?元男が必死に女を演じ、完璧なメイドとして本性を出さない様にして頑張った。でも、大事なお嬢様にバレてしまった。仲間にもバレてしまった。あぁ、哀れな
拙い・・・深月の闇がここまで大きいなんて予想外だったわ
皐月は深月の秘密を知り、一人だけの問題では済まない事に少しだけ表情を曇らせてしまった
『お嬢様の表情が曇ったよね?嫌われちゃったよね?だから、自分の手で幕を引くか
皐月はギョッとして深月の顔を見ると、蒼白な深月が全てを諦めていた。生きる事も、拒絶する事も、何もかもだ
「み、深月・・・。大丈夫よ?私はちゃんと受け入れ―――」
『でも、お嬢様は答えを詰まらせた。心の何処かで拒絶しているかもしれない』
「ちが―――」
『
「違うって言ってるでしょうが!!」
スガンッ!
シュラーゲンの最大威力で影の男を撃つが、片手で軌道を逸らすというぶっ壊れ技で無傷で対処されてしまった
『びっくりしましたよ』
「軌道を逸らすって・・・どんなぶっ壊れよ」
『お嬢様、
「はっ!殺させるわけないでしょ」
『首筋に手刀を当てているのに?』
気付けば、気配の無い影の深月が深月の首筋に手刀を突き付けていた
『
いきなり現れた声に、皐月を除いたハジメパーティーの全員が攻撃しようとしたが、体の四肢を無色透明の魔力糸で拘束されて動かす事も出来なかった
「うっしゃおらあああですぅううううう!」
しかし、バグウサギになったシアだけは常人程度の早さではあるがドリュッケンで叩き潰そうとする
『ウサギは人参を食べてお寝んねしようね?』
「ッ!?しま―――ウゴゥェッ!?ンゴォオ!オ、オゴォ・・・」
ご丁寧に氷で出来た人参を口に突っ込まれて気絶してしまった。酷過ぎる所業にハジメ達は心の中で黙祷する。しかし、これで終わらないのが深月クオリティー
『さぁ、三人も一緒にどうぞ』
『影とはいえ、渾身の出来の麻婆です』
「やめろぉおおお!んぐっ!?」
「麻婆・・・うっ、あた―――おぶっ!?」
「シニタクナイ!シニタク―――もごっ!?」
拘束されて動けないユエとティオと香織の口に突っ込まれた影で再現された劇物の麻婆が意識を強制的に奪った
『さぁ、次はハジメとお嬢様以外のお三方です』
『大丈夫ですよ?美味し過ぎて気を失うだけです』
気付いたが、時すでに遅し―――少しだけ開いた口の中に麻婆を放り入れられてしまった。これで残りはハジメと皐月だけとなった
『麻婆は良いですよ?』
『ハジメさんも麻婆の海に浸かりましょう』
「常人にそんな劇物を食わせるな!」
『とまぁ、おふざけもこの辺りにしておきましょう』
『
先程までと打って変わり、冷徹な殺気が二人を襲う。今まで深月の殺気を感じた事はあるが、ここまで冷たい殺気は初めてだ。皐月は危機的状況を打破しようにも、深月と同性能の影二体を相手すると思うと勝利への道筋が完全に断たれている事に苦虫を嚙み潰した様な表情をする。しかし、そんな皐月を置いてハジメは冷静だった
「・・・どうしてそんなに必死で深月を殺そうとする」
『拒絶されたから死ぬだけ』
『気持ち悪いから死ぬだけです』
どうしよう・・・手詰まりのこの状況をどうやって打破すればいいの?逃走しようにも出来ないし、戦力が私とハジメだけなのも駄目よ。深月が二人と考えると可能性が限りなく0%じゃない
皐月が色々考えていると、ハジメが動いた
「・・・そうか」
『ハジメも気持ち悪いと感じているだろう?』
『変態だと思っているでしょう?』
ハジメは深月の傍に移動し、丁度良く皆の意識がようやく戻った
「酷い目に遭った・・・」
「ウサギでも普通のご飯を食べますよ」
「もう麻婆は勘弁なのじゃ」
「一度だけ食べてて良かったよ・・・」
「油断していなかったけど・・・少量で意識が飛ぶとは思っていなかったわ」
坂上と谷口を除いた皆が意識を取り戻しても、直ぐには動けない程の重傷となっていた
話は戻り、深月の隣に膝立ちしたハジメは、皐月に断りを入れずにそのまま深月を抱き締めた
「深月、お前は本当に自分が要らないと思っているのか?」
「・・・私は隠し事をしてました。溝が出来るなら私は・・・」
ハジメは、初めて出会ってから今まで泣いた事が無い深月が泣いていると肩越しからでも感じる事が出来た。奈落の底で皐月と合流した時から、何かしらの出来事で離れる事を嫌うと分かった。最近はすっかりと形を潜めていたのでそう思わなかったが、それはブレずに綱渡りが出来ていたからだった。先入観で深月はアザンチウム製のメンタルだと思っていたが、蓋を開けてみればそんな事はなかった。地雷と言う部分を突かれてしまえばヒビが入り、綱から落ちてしまうと分かったのだ
ハジメは深月の肩を掴んで一度真正面から向かい合うと、その表情はズタボロで、ボロボロと涙を零していた
『ほら、ハジメも
「皐月」
「了解!」
ズガンッ!
皐月はハジメとのアイコンタクトでシュラーゲンを二体の影に放って深月の心を腐食させようとする言葉を塞ぐ
「深月、―――好きだ!」
「・・・え?」
皐月以外の全員が( ゚д゚)ポカーンと、ハジメのいきなりの告白に着いて行けなかった。ハジメは周囲なんてお構いなしで深月にキスをするという追撃を行う。普通の浅いキスではなく、大人の深いキス―――流石の深月も思考がショートしてなされるがままだ
「チュ、ジュル、プハァ―――」
これには泣き顔だった深月もオロオロとして新鮮な光景だ
おぉう、分かってはいたけどいきなりディープキスなのね。深月は・・・オロオロしてるわ。あそこまでテンパっているのは初めて見るわ
『お、あわわわわわ!?
『いえいえいえいえいえいえ!これは夢ですよね?(ヾノ・∀・`)ナイナイ、惚れる要素が一欠けらも無いんですよ?・・・えっ?マジですか!?』
「俺の告白に茶々入れるんじゃねえ!」
『『あっ、はい。すいません』』
深月の負の影なのに聞き分け良いわね!
「えっと・・・あの・・・」
もの凄くオロオロとしている深月に、ハジメは怒涛の如く攻め立てる
「深月がいけないんだからな!俺がメイドスキーなのを知ってて誘ってるだろ!一つ一つの動作がエロいんだよ!俺のデザインしたメイド服を躊躇い無く着るのもそうだし、俺が近くに居るにも拘らず着替えるとか生殺しだろ!」
「え・・・いや・・・着替える場所が無かったのですが」
「シャラップ!深月の場合は素かもしれないが、気付いていない所で遠藤の好感度を爆上げしてんだぞ!?深月に褒められるとか羨ましいんだよ!俺だって深月という完全無欠のメイドに褒められてぇんだよ!皐月じゃなくて俺のメイドになって欲しい位だよ!!」
「ちょっとハジメ!深月は私の僕なのよ!?引き抜き駄目、絶対!」
「ちょっと位良いだろ?メイドの膝枕にメイドの耳搔きとか体験したいんだよ!」
「欲望駄々洩れ!私じゃいけないの!?」
「皐月も良いが、深月みたいなエロさが見え隠れするメイドにしてもらいたいんだ」
『『へ、変態だー!?』』
影の二人がハジメの欲望に素のツッコミを入れるが、ハジメは見逃してはいない所にツッコミを入れる
「お前等も欲望まみれだろ!口では膝枕が羨ましいとか言ってたくせに、皐月のお尻とか胸とか髪を見て内心興奮していただろ!」
ハジメのこの言葉に、影二体は明らかに動揺した
『な、何を言っているのかな~?そ、そそそんな不敬な事オモッテナイヨー』
『そうですよ!お尻(お胸)に顔を埋めたいなんて思っていないですよ!』
「おい、本音も建前も煩悩まみれだぞ」
『・・・そ、そう!これは本人の欲望を曝け出しているだけです!』
「明らかに一つの人格と確立してるのにそれを信じろと?はっ!影の深月ならその程度の常識をぶっ壊すだろうな」
ハジメの言葉を聞いた皐月達は、「あぁ、確かにそれはありそう」とジト目を向ける
「まぁ、そう簡単に死を選ぶなって事だよ。皆だって深月が死ぬのは悲しいもんな?元男?今は女だし、そんな事気にしねぇよ」
ハジメがユエ達に問いかけ、皆が微笑みで応える
「深月が元男。でも今は女。全部をひっくるめて深月だから問題なし」
「そうですよ~。深月さんが居なければ・・・その先は地獄です」
「人によって価値観は違うのじゃ。しかし、深月は深月じゃろ?男の感情があろうが無かろうが関係ないのじゃ」
「男の人の感情があっても、今は女の人だから何も問題ないよ?」
「香織はいつも通りの残念として、神楽さんがそんな事で迷っているなんて意外だったわ。前世持ちの現代人も居るでしょ?少しばかり価値観が違うだけでしょ」
ユエ達は全く気にしておらず、肝心の皐月はと言うと
「えっとね、私が答えが詰まらせた理由は・・・影が酷い事ばっかり言うろくでなしと感じたからよ?」
『『よし、オリジナルはブチコロス。その次はもう一人の影でろくでなしも合わせて二人だ(です)』』
影の殺意がマシマシとなり、ユエ達は何やってるの!?と皐月にツッコミを入れたかった。皐月本人は相手を怒らせる事はしていない筈だと思っていた
「ほらな?深月の前世が男だろうと、皆は今の深月を見ているんだよ。だからとっとと終わらせて来い。俺達は深月を信じているからな!」
「ぷっ、今まで悩んでいた私が馬鹿みたいですね。―――しかし、今はその馬鹿になる方が良さそうですね」
うん、吹っ切れたわね。だったら、私が言う事はただ一つ
皐月は深月に命令を下す
「深月、命令よ。主は私とハジメの二人よ。あんな影なんて撃滅しなさい!」
「あの変態のろくでなしの影二体をぶっ潰せ!」
「はい!」
涙目は消え、呪縛と受難から解放された深月は、己の影二体と真正面から向き合い相対する
布団「遂にメイドさんを縛る鎖が弾け飛びました!限界を超えた先の更なる限界へいざ行かん!」