ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】   作:ぬくぬく布団

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布団「FGOイベントも終わり、一発目!」
深月「ゲームの話は置いておきましょう」
布団「今話は急展開!敵陣に乗り込む主人公達。だが、待っていたのは罠ばかり!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」





うっそだろ!?メイドさんが・・・

~深月side~

 

一行がゲートを潜った先は巨大なテラスだった。学校の屋上程の広さがあり全員が入っても余りある程のスペースで、ハジメ達を監視する先兵達は空を飛ぶ者と傍で監視する者と別れている。フリードはゲートを閉じ、ハジメ達を促して付いて来させる

 

「光輝く~ん、あのクソメイド、酷いよね~。クラスメイト達を人質に取られているのにあんな事言うんだよ?」

 

「え、恵里っ、君はっ」

 

中村は天之河の片腕に抱き着いて、悪びれもない様子でニタニタと嗤いながら体を摺り寄せる

 

「早くそのど腐れ野郎を引き取ってくれませんか?既成事実を作って言い逃れ出来ない様にして欲しいです」

 

「あぁん?クソメイドは立場分かってるの?この距離なら光輝君を護れるんだよ?」

 

一触即発な空気に皆がピリピリする。特にフリードは、胸を抑えている事から胃痛案件なのだろう

長い石造りの廊下を進み、魔王城の謁見の間に相応しい威容の扉の前に到着。フリードが扉の番人をしている魔人族の仲間に視線を送り魔人族が扉に手をかざすと、重厚そうな扉がギギギッと音を立てながらゆっくりと開く。扉の奥には仙鏡で見た光景があり、そのまま入室して玉座の前まで歩いていると檻に入れられたクラスメイト達や畑山とリリアーナが居た。向こうもハジメ達が来た事に気付き、皆が驚いた表情をして涙ぐむ。更に、ハジメ達よりもチートな存在の深月が居る事でこれで助かると思ったクラスメイト達が名前を呼ぼうとした時―――

 

「パパぁーー!!皐月ママーー!!」

 

「あなた!!皐月さん!!」

 

何も知らなかった者達・・・特に男子達が"どういう事だ!?"と驚愕の表情をしていた。

 

「ミュウ、レミア。すまない、巻き込んじまったな。待ってろ。直ぐに出してやる」

 

「こればかりは私達の想定外だったわ。ごめんね?」

 

「パパ、皐月ママ・・・ミュウは大丈夫なの。信じて待ってたの。だから、わるものに負けないで!」

 

「あらあら、ミュウったら・・・ハジメさん、皐月さん。私達は大丈夫ですから、どうかお気を付けて」

 

先程まで不安だったのにも関わらず、ハジメ達が現れた途端笑みを浮かべて安心するミュウと、落ち着いた雰囲気を纏ったレミアが逆にハジメ達を気遣う。フリードが「騒ぐな」と口を挟む前に、玉座の背後から声が聞こえた

 

「いつの時代も、いいものだね。親子の絆というものは。私にも経験があるから分かるよ。もっとも、私の場合、姪と叔父という関係だったけれどね」

 

玉座の後ろの壁がスライドし、金髪紅眼の美丈夫が現れた。年は初老の頃辺りで、金の刺繍が施された衣服とマントを着て、オールバックの髪型をしていた。少しだけ垂れた髪と胸元を少しだけ開いた格好は色気がありつつ、力強さと魔王としての重圧もあった。十中八九あの男がアルヴ神である事に違いない。穏やかな笑みを浮かべながら近づく魔王に、ハジメと皐月は目を細める

 

「・・・う、そ・・・どう、して・・・」

 

「「ユエ?」」

 

動揺しているユエに二人が声を掛けるも聞こえていない様子で、ありえない者を見ているかの様な反応だ

 

「なるほど、貴方がユエさんを閉じ込めた張本人なのですね」

 

「ここは私が答えるまで待つのが定番な筈だが・・・まあいい。やぁ、アレーティア。久しぶりだね。相変わらず、君は小さく可愛らしい」

 

「・・・叔父、さま・・・」

 

「そうだ、私だよ。アレーティア。驚いているようだね。・・・無理もない。だが、そんな姿も懐かしく愛らしい。三百年前から変わっていないね」

 

叔父と呼ばれる彼は玉座の祭壇から降りながらフリード達へ手をかざすと、床に倒れ伏した。余りにもいきなりの出来事に皆が驚く中、彼はゆっくりとユエの前に立ち止まってハジメ達を包む様に障壁を展開しようとするが、深月の黒刀が首筋に添えられた事で動きを止める

 

「私とアレーティアの再会を邪魔しないでくれるかな?このままだと喋りにくい」

 

「深月、下がりなさい」

 

彼は冷や汗を流し、皐月が深月を命令で下げさせる。これで話し合いをする事が出来る

 

「ふぅ・・・かなり危険なメイドだね。でも、アレーティアを想って護ってくれた事を思うと良い仲間を手に入れたね。でも、一応障壁を張らせてもらうよ。これは音と姿を誤認させる障壁だから安心して欲しい」

 

「・・・どういうつもり?」

 

「高坂皐月君、といったね。君の警戒心はもっともだ。だから、回りくどいのは無しにして、単刀直入に言おう。私、ガーランド魔王国の現魔王にして、元吸血鬼の国アヴァタール王国の宰相――ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタールは・・・神に反逆する者だ」

 

ハジメと皐月と深月以外は驚愕した。仮にも魔族の長である者が神に反逆する者の一人である事実に息を呑む。そんな中、谷口が中村を心配して近づこうとするのを天之河が手で制して脈があるかをどうかを確認して小さく微笑む。彼等は仮死状態となっており、谷口はホッと胸を撫で下ろす

 

「心配させてすまないね。でも、こうでもしないと話し合いは出来ないからね」

 

深月は手の出せない状況に不機嫌になりつつ、一度冷静になってディーンリードが話す物事の整理を開始する

 

ここで一度復習をしましょう

・ユエさんを奈落に閉じ込めた人物があのディンリードである事

・およそ三百年の間封印

・先祖返りではないのに生きている事

そして、追加の情報

・変成魔法の使い手

・生成魔法を手に入れたが適正無し

・アルヴがエヒトに反逆

・アルヴがディーンリードの身体を使っている

・信仰を持っていないユエさんはイレギュラー

う~ん、これだけ条件が揃っているとツッコミ所満載ですね。違和感多すぎて馬鹿じゃないかと思いますよ。さてと・・・嘘は言っていないこの状況で皆を護るのは厳しいときました。保険が機能してくれたら良いのですが、こればっかりはぶっつけ本番以外どうする事も出来ませんね。あっ、やはりお嬢様とハジメさんは気付きましたね

 

ハジメが周囲の使徒を潰し、皐月がディーンリードを撃ったりとしていたのだ。まぁ、その行いに皆はビックリ仰天で慌てて止めに入ったりしている

 

「いや、全く、多少の不自然さがあっても、溺愛する恋人の父親も同然の相手となれば、少しは鈍ると思っていたのだがね。まさか、そんな理由でいきなり攻撃するとは・・・人間の矮小さというものを読み違えていたようだ」

 

パチパチと手を叩きながら、何事もなかったかの様に振る舞うディーンリード―――いや、アルヴだ。衣服の乱れも無く、本当に撃たれたのかと錯覚する程の無傷だ

 

「せっかく、こちら側に傾きかけた精神まで立て直させてしまいよって。次善策に移らねばならんとは・・・あの御方に面目が立たないではないか」

 

「・・・叔父様じゃない」

 

「ふん、お前の言う叔父様だとも。但し、この肉体はというべきだがね」

 

「・・・それは乗っ取ったということ?」

 

ユエは手に蒼炎を浮かべながら尋問する。そんなユエを見ながらアルヴはニヤニヤと口元を裂きながら嗤う

 

「人聞きの悪いことを。有効な再利用と言って欲しいものだ。このエヒト様の眷属神たるアルヴが、死んだ後も肉体を使ってやっているのだ。選ばれたのだぞ?身に余る栄誉だと感動の一つでもしてはどうかね?全く、この男も、死ぬ前にお前を隠したときの記憶も神代魔法の知識も消してしまうとは肉体以外は使えない男よ。生きていると知っていれば、なんとしても引きずり出してやったものを」

 

「・・・お前が叔父様を殺したの?」

 

「ふふ、どうだろうな?」

 

「・・・答えろ」

 

「ほぅ、いいのかね?実は、今の言葉も嘘で、ディンリードは生きているかもしれんぞ?この身の内の深奥に隠されてな?」

 

「っ・・・」

 

深月はアルヴを見て違和感を感じた。戦場で感じた事のある感覚―――はったりと事実を交えながら時間を延ばす事。時間稼ぎを。急ぎ感知技能を最大限に引き上げるも、反応が無い

 

やはり壊しておくべきでした!

 

アルヴがユエに何かを言い残す前に、深月は一瞬で障壁に発勁を叩き込んで粉々に破壊する。だが、ユエはアルヴが残した置き土産に心を揺らされてしまっていた。障壁の破壊と同時に全部が一斉に動く

 

「――"堕識"」

 

中村の闇系統魔法の標的は皐月かと思いきや狙いはユエで、フリードの攻撃がミュウやレミアに攻撃が向かい、アルヴの攻撃がハジメに、周囲から数十体の先兵が躍り出る。タイミングを見計らった同時攻撃―――この時、深月は先兵が皐月を攫う可能性を危惧して護衛に集中した

 

「舐めんじゃないわよ!」

 

ハジメはミュウとレミアを護りに行き、皐月の乱れ撃ちがハジメ達に飛んで来る魔弾の全てを横っ飛びで迎撃し、襲い掛かる先兵は深月が拳で粉砕し、シアは畑山達を護る様にスラッグ弾を手前に撃ち込んで衝撃で吹き飛ばす。ヘイトを取ろる為に、アルヴとフリードに向けてブレスを打ち込もうとしたティオと我を取り戻した香織と雫が他の先兵を攻撃しようとした瞬間

 

「――"堕識"」

 

中村の魔法が三人に放たれ、一瞬だけ意識が飛んでしまった。中村はその隙を見逃さず、三人の後ろに回り込んで衝撃波を放って吹き飛ばす。全員が手一杯な所で、皐月と同じ様に魔弾の迎撃で動けなかったユエが光の柱に飲み込まれた

 

「ユエッ!」

 

「ユエさんっ!」

 

「深月っ!」

 

皐月が先兵の殆どを粉砕し終えた深月に光の柱をぶち壊せと命令しようとした

 

「さっせないよ~!」

 

「邪魔ですねっ!」

 

中村が皐月に攻撃を仕掛け、深月がその全てを防ぐ。中村は意地汚く、ハジメと皐月と深月が動けない様に密集した面での攻撃を手当たり次第に行っていた。周囲の被害なんてどうでもいい、足止めだけを目的としたそれだった

 

「お嬢様は動かないで下さい。ハジメさん!」

 

深月はハジメに一瞬だけ目配せして、黒刀を中村に放り気配遮断。技術が昇華魔法でより一層凶悪になったミスディレクションで一瞬で背後に回ってジャーマンスープレックスをぶちかまし中村を犬神家にする

特大な隙を得たハジメは、レミアとミュウにビットの障壁を展開して戦線を一気に駆け抜けてユエの元へ向かう。そんなハジメを攻撃しようとするお邪魔虫は、深月のハーゼン・ハウンドで撃ち落としたり牽制したりする

 

「ぶち壊してやるっ」

 

光の柱の傍まで近づいたハジメがパイルバンカーで柱を打ち貫く姿を見た皐月達は、ユエが窮地を脱した事に一安心しつつも猛攻を防ぎ、切り崩しと後の為の退路を切り開く

 

「っ、ユエ!」

 

光の柱が粉々になって一瞬だけユエの姿が見えなくなるが、変わらずその場所に居た事にハジメは安堵する

 

「ユエっ」

 

「・・・ここにいる」

 

ユエが問題無いと返事を返した瞬間、深月はなんとなく違和感を感じた。気配、声、心拍、魂―――全てが変わらないのにも関わらず、戦場で培った勘が大音量で警告を鳴らした

 

これは・・・ハジメさんが危険です。回収!

 

ハジメがユエを心配して話し掛けているが、深月は有無を言わさずにハジメの腰に魔力糸を巻き付けて引っ張る

 

「どわぁっ!?」

 

「深月何やってるの!?」

 

皆が深月の行動に驚愕する。ユエを置いてハジメだけを回収する事がありえないと。ハジメは皐月の傍まで回収される

 

「おい深月、ユエも回収しないといけないだろ!」

 

「二人回収するのは無理じゃないでしょ!?」

 

二人が深月に怒るが、深月の一言で硬直する

 

「あれはユエさんではありません!あれは・・・あれはエヒトです!」

 

「ふふふふ、本当にいい気分だよ、イレギュラー。現界したのは一体、いつぶりだろうか・・・。だが、そこまで予測を立てていたとは予想外だよ」

 

『なっ!?』

 

ユエとはかけ離れた言葉遣いと、深月の言葉で誰もが理解した。あの光の柱はエヒトがユエに憑依する為の一手だと。しかも、ユエの身体なので無茶な攻撃も出来ないという八方塞がりの展開だ。あまりにも危険な状況と、ユエからエヒトを引き剥がす為の武器も無い事から一度撤退しようと考える。しかし、それはエヒトの一言で敵わなくなった

 

「エヒトの名において命ずる――"動くな"」

 

『ッ!?』

 

ハジメ達の身体がまるで標本の様に固まってしまった。エヒトはゆっくりとハジメと皐月に近づき、手刀で腹部を貫こうとする

 

「さて、これでお前達を弄びながら殺そうかびゅっ!?」

 

だが、無防備なエヒトに深月のボディーブローが突き刺さる

 

「がはっ!?何故だ!何故神言が効かない!?」

 

「は?お嬢様以外の命令を私は受け付けませんよ!!」

 

「くっ!?お前達やれ!!」

 

エヒトは飛び退いて距離を置き、周囲の使徒達に命令を下す。その言葉と同時に全員の攻撃がハジメ達に殺到するが、物理は黒刀で防ぎ、魔力の攻撃は深月に吸収されたりと全てを防ぎきる

 

「流石、イレギュラーといったところか。―――だが、殺到している魔法の全てを防ぎきれるかな?――"四方の震天"――"螺旋描く禍天"」

 

「その程度っ!」

 

無色透明の魔力糸をドーム状に展開し、当たった傍から吸収する。どんな魔力攻撃も吸収され、物理攻撃は弾かれと頑強過ぎる防御壁だ

 

「ほう?魔力を吸収しているのか。どれ、最大火力を味わってもらおうか―――"五天龍"」

 

エヒトはユエのオリジナル魔法を放つ。しかし、その威力は絶大。ユエが放つよりも数倍の大きさの龍が深月に襲い掛かる。前方の視界を潰す程の魔法だが、それも深月の前では無力。深月は片手をかざし、装填で絶大の魔力を自身に取り込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

「ぐっ、ハジメ動ける?」

 

「限界突破で何とか破ったがな」

 

「深月が居たからどうにか無事だけど、ユエをどうやって取り戻す?」

 

「・・・悔しいが、方法が思いつかねぇ」

 

深月が猛攻を防いでいる間、二人は限界突破で神言を破る。それと同時に、エヒトが放つ巨大な五天龍が深月に放たれる。しかし、その攻撃は装填されて無効化された。ハジメ達は宝物庫から武装を取り出し、邪魔な周囲を殲滅しようとした時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"平伏せよ"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユエとは違う声―――慣れ親しんだ声色・・・深月の声だった。その声を聞いたハジメ達は、限界突破をして自由となった体でも逆らう事が出来ずに全員が地面に倒れ伏した。これだけで理解した。エヒトの本当の目的とは

 

「ふっ、目当ての身体は手に入った。流石はイレギュラーだ。いや、この身体だけが異常個体なのだろう。最も優れた身体を手に入れる為とはいえ、そこの吸血鬼の身体に入った事は業腹だな」

 

「おっ、まええええええええ!!」

 

「"伏して静かに拝聴せよ"」

 

口が閉ざされ、何も言えなくなる。ハジメと皐月は覇潰を使用して体を動かそうと試みるも、先程の神言よりも強力なのか体がピクリとも動かない

 

「ふむ、良い眺めだ。全てが我の前で平伏し、言う事を聞く駒のこれこそあるべき姿なのだ。あぁ、先程の吸血鬼も目を覚ましたか」

 

エヒトが振り返った先には、地面に倒れ伏したユエの姿だ。既に目を覚ましており、この現状に混乱している様子だ

 

「ありえない、ありえない!深月は状態異常完全無効の技能があった!憑依なんて出来ない!!」

 

そう、ハジメ達の疑問もそれだ。憑依状態もこの技能の対象であると思っているのだ。しかし、現にエヒトは憑依しており、この矛盾が理解出来なかった

 

「脆弱な貴様達では本当の意味を理解出来ていないのだろう。だが、今の我は気分が良いから教えてやろう。あの技能は身体の異常を無効にする―――が、それは普通にしていればだ。我は魔法に魂を乗せてイレギュラーに放ったのだ」

 

これを聞いた皐月は目を見開いた。可能性としてはありえなくもないが、唯一考えられるのは装填

 

「気付いた様だな?このイレギュラーが魔法を取り込んで纏う姿を見た時には感動に打ち震えた。新たなる魔法の可能性に付け加え、魂までも変質させるその技術。分かるか?魂まで魔法の属性に切り替えるのだ。そこに我の魂が乗せられたらどうなると思う?上書きされるのだよ」

 

深月が装填を見せたのは奈落の拠点と、王国襲撃の際の二回だけだ。エヒトが見る事が出来たのは一度―――だが、そのたった一度で全てを見極めたのだ

 

「さて、この身体と魂が混じるまでには少しばかり時間が掛かる。だが、その前にお前達に絶望を味わわせようか。動けぬ身体でどこまで抵抗出来るか楽しみだ」

 

エヒトはハジメと皐月に向き直り、指パッチンを一度。たったそれだけでユエ達も身に着けていた宝物庫が回収されたのだ。普通では破壊出来ないそれを、手を握っただけで粉々の砂状に変えた。そして、ハジメと皐月が装備していたドンナー・シュラークも回収して手で弄る

 

「よいアーティファクトだ。この中に収められているアーティファクトの数々も、中々に興味深かった。イレギュラーの世界は、それなりに愉快な場所のようだ。ふふ、この世界での戯れにも飽いていたところ。魂だけの存在では、異世界への転移は難行であったが・・・我の器も手に入れたことであるし、今度は異世界で遊んでみようか」

 

今度は手を握り締める動作もせず、手の上にあったドンナー・シュラークが砂に変わった

 

「おっと、忘れるところであった」

 

ワザとらしい笑みを浮かべながらもう一度指パッチン。すると、ハジメの義手が粉々に破壊された

 

「くそったれがぁああああ!!」

 

「よく足掻くものだな。しかし、何故貴様の方は破壊されない。どんなアーティファクトを身に着けているのか気になるぞ」

 

エヒトがもう一度指パッチンして、深月が皐月に渡した御守りが取り上げられる。しかし、エヒトがじっくり手に取って調べるも"皐月の元に戻るだけ"の効果に興味を失くして地面に放り捨てると消える。それならば直接破壊しようと近付き、義手の右手に手を出して触ろうとした瞬間、バチィッ!と何かに弾かれる様に手が肘の部分まで崩れ落ちる

 

「何?」

 

『えっ?』

 

この場に居る全ての者達が何が起こっているのかが理解出来なかった。だが、皐月に手を掛けようとしたエヒトにハジメがブチ切れ、皐月は深月の身体で隙勝手するエヒトにブチ切れて徐々に体を動かし始めた。これぞ火事場の馬鹿力?で動こうとする二人を見て、少し離れた場所でエヒトの降臨に恍惚の表情を浮かべながら涙していたアルヴが、ハッと我に返り戦慄の表情を浮かべた。ハジメ達の力が徐々に大きくなり、己と同等にまで成長した力に驚いているのだ

 

「我が主!」

 

「よい、アルヴヘイト。所詮、羽虫の足掻きだ。エヒトルジュエの名において命ずる――"鎮まれ"」

 

エヒトの神言が二人の覇潰を自分の意思で解除させようとする。だが、ハジメと皐月の身体を纏う紅い魔力は点滅し、必死に足掻いている

 

「があああああああああ!!」

 

「ぅああああああああああ!!」

 

その様子を見たエヒトは、深月の顔を邪悪に歪めて余興を見ている様子だ

 

「ほぅ、まさか我が真名を用いた"神言"にすら抗うとはな。・・・中々、楽しませてくれる。仲間は倒れ、最愛の従者は奪われ、頼みのアーティファクトも潰えた。これでもまだ、絶望が足りないというか」

 

「・・・当たり、前だ。てめぇは・・・殺すっ。深月は・・・取り戻すっ。・・・それで終わりだっ」

 

「クックックッ、そうかそうか。ならば、そろそろ仕上げと行こうか。一思いに殲滅しなかった理由を披露できて我も嬉しい限りだ」

 

「コロス、コロスコロスコロス!エヒトは絶対に私の手でコロス!!」

 

ここでエヒトは満面の笑みを浮かべて、敢えて深月が再現した技でハジメ達は勿論、その後ろに居るレミアやミュウ達にも標的に加える

 

「ストナー〇ンシャインと言っていたか?太陽という名を付けられているだけの威力があるな。これを放ってやろう。例え、イレギュラーの高坂皐月だけが死ななくとも、我に挑もうと足掻く姿も見物だ」

 

大切な仲間の姿で殺し、例え何かしらの方法で生き残るであろう皐月の抗う姿を見ながら楽しむという腹積もりだ。とても趣味の悪いエヒトに舌打ちをしつつ、皐月は叫んだ

 

「深月、目を覚ましなさい!私の声が聞こえるなら抗いなさい!!」

 

「ふふ、遂に従者頼りか?無駄な事。これは既に我のものだ。それとも時間稼ぎか?今こうしている間も、お前への戒めは解けてきているからな。全く、大したものだ。・・・だが、所詮は矮小な人間よ」

 

「深月!俺達の声が聞こえる筈だ!敗けるな!!」

 

片手に巨大な魔力の塊を放り投げようとしたエヒトだが、その手がピクリと震えて魔力が霧散した

 

「ッ!?何だ・・・魔力が・・・体が・・・まさかっ、有り得んっ」

 

エヒトが頭を押さえて膝を付く。いきなりの事にアルヴが咄嗟に体を支えようとするが、その手は振り払われる

 

「ぐっ、イレギュラァアアアア!「わ、たしの身体で!」黙れっ!「お嬢様に」無駄な足掻きを「手を出すなぁああああ!」ありえん!ありぇえええん!」

 

両手で頭を押さえ、ブンブンと頭を振って何かに抵抗している。だが、所々に出て来る声は深月の意思だと理解出来た

 

『深月(さん)!!』

 

助けようと動く事も出来ず、ただ言葉を投げる事しか出来ない現状に歯噛みしつつ手を伸ばす

 

「くっ、図に乗るな、人如きが。エヒトルジュエの名において命ずる! ――"神楽深月は黙れ"!」

 

脂汗を流しながらエヒトの真名による神言が放たれる。これには深月も少しばかり影響があった。いや、深月の魂だけに直接干渉する効果にエヒトは息を荒げながら平静さを取り戻す

 

「・・・アルヴヘイト。我は一度、神域へ戻る。イレギュラーの魂を見誤り万全とはいかなかったようだ。我を相手に、信じられん事だが、未だに抵抗している。調整が必要だ」

 

「わ、我が主。申し訳ございません・・・」

 

「良い、これは我の予想外の出来事だ。三、四日は調整が必要とする。その間はお前に任せる。フリード、恵里、共に来るがいい。お前達の望み、我が叶えてやろう」

 

「はっ、主の御心のままに」

 

「はいはぁ~い。光輝くんと二人っきりの世界をくれるんでしょ?なら、なんでもしちゃいますよぉ~と」

 

エヒトが手を頭上に広げると、ユエが捕らわれてた様な光の柱が降りてエヒト達を包む。そして、そのままゆっくりとエレベーターの様に天に昇って行く。恐らく、あれがエヒト達が言う神域への入口なのだろう

 

「イレギュラー諸君。我は、ここで失礼させてもらおう。激しく抵抗をしている魂に、身の程というものを分からせてやらねばならんのでね。それと、三日後にはこの世界に花を咲かせようと思う。人で作る真っ赤な花で世界を埋め尽くす。最後の遊戯だ。その後は、是非、異世界で遊んでみようと思っている。もっとも、この場で死ぬお前達には関係のない事だがね」

 

エヒトがこの世界に興味を失くし、地球へと標的を変えた。最後の盛大なパーティーでこの世界を滅ぼし、新天地へ赴く為に肉体を万全にするつもりだ

 

「く、っそたれ!深月を、返しやがれっ!!」

 

「待ちなさいっ・・・深月を返せ!!」

 

ハジメと皐月は、地面に縛られる力を振りほどきながら深月に向けて手を伸ばす。しかし、アルヴの何かしらの力によって動かす身体を固められ、先兵達によって取り押さえられる。纏っていた魔力、仕込んでいた魔法陣共に分解されて手も足も出せない状況にさせられる。しかし、それでも尚足掻きながら深月を取り戻そうと近付くハジメと皐月に、エヒトは一瞥して口元を歪めて嗤う。

エヒトが神域へと消え、フリードや中村、天之河、先兵、魔物、傀儡兵も浮かび上がり、その半数程が天へと上っていく。魔王城の外でも大規模の先兵と魔人族と魔物が神域へと繋がるゲートへ目指す。神域から見るエヒトは彼等を迎え入れる様に手を広げており、何処かで見た絵の如く全ては自分の物であるとでも言う様相だ。魔人族達は大歓声を上げ、エヒトは艶然と微笑んで光に溶ける様に消えて行った

 

「「深月ぃいいいいいいいっ!」」

 

ハジメと皐月の絶叫が虚しく木霊する。伸ばした手は掴む事なく、大切な存在が居なくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさんがクソ神の標的だった!だが、メイドさんの魂は頑丈。とはいえ、完全に掌握されるまでには時間が掛かる。何としてもその前に取り戻さなければいけない!次回、メイドさん危機一髪!―――偽予告だよ」



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