ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】 作:ぬくぬく布団
深月「汚物は消毒ですよ~」
布団「そして、メイドさんによる被害者が増えました」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」
~深月side~
渋く低い声が聞こえた事に衛宮達は動揺しているが、深月とハジメは全く驚かない。深月は間桐の身体を調べ尽くして理解し、ハジメは原作知識があるからだ
「まぁ、臭い臭い。バルサンでも焚けば虫は死ぬのですか?」
『カッカッカッカッ!只の人間がよく吠える。一体何時儂が本体だと言った?』
「千里眼」
『・・・・・』
長い時を生きる輩だからこそ駆け引きが上手でもあるので、深月は事実と嘘を混ぜて相手に動揺をさせる。しかし、相手も相当な輩なのか、少しだけ沈黙するだけだ
『ふむ、なるほどと言いたいが、現代を生きる人間がその様な眼を持っていたら生きていられるとでも?』
これを聞いた遠坂は、「・・・確かに」と呟き今までで得た情報を整理していく
「どの様な理由で彼女に住み着いているかは分かりません。しかし、この場に居る時点で駆除の対象です。汚物に塗れた臓物と虫に情けなど要りませんよね?」
深月は宝物庫からアイスピックを取り出す。刃はアザンチウム、柄はトレント擬きの木に宝石を埋め込んだキラキラした一品だ。しかも、柄についている宝石は外す事も出来る優れ物となっている
深月は、黒刀を取り出して間桐の腕を切断。何の躊躇いもないその行いに、衛宮が鬼の様な形相で殴り掛かろうとしたがハジメが首根っこを掴んで止める。遠坂の方も深月に攻撃しようとしていたが、いつの間にか合流したアーチャーが制止させていた。邪魔が入らない事で作業も進み、アイスピックを心臓に突き刺す
『儂には当たっていないぞ?』
「いいえ、これで全ての準備が完了しました」
間桐からアイスピックを抜いて柄に付いていた宝石を丁寧に外す
「その本体はもう要りません」
ハジメにアイコンタクトを送り、それに応じる形で宝物庫からシュタル鉱石製の棺桶を取り出し間桐をその中へ入れて封をする。これで中の虫と汚物の両方を封印した
「面倒事は早々に解決しましょう」
深月は切り落とした間桐の腕に再生魔法を使う。異物が無い状態を強く念じながらの再生魔法なのでかなりの魔力消費だが、保有魔力が桁外れに高い深月なら余裕だ。腕の切断面から肉が生え、あっという間に人間の姿になる。だが、髪色だけが黒色だ
「これに宝石の中に封じ込めた魂を元に戻して・・・・・簡易AEDで心肺機能を取り戻させて終わりですね」
そう、間桐を刺したアイスピックはアーティファクトだ。柄に宝石を嵌め込み、その宝石内に魂を移動させるという乗っ取り防止の為に生み出したのだ。もし、最大戦力の深月が乗っ取られたらという最悪を考慮してのアーティファクトであり、他の効果は普通の意味の無敵貫通だけだ。アイスピックという急所以外は致命傷になる可能性が低い武器ならば相手に油断を誘い、皮一枚でも掠る事が出来るだろう
「ちょっと待って!?魂を封じ込めた宝石!?それを移す!?しかも四肢の破片から体までの再構成に蘇生ってどんな魔法よ!?」
「そりゃあ異世界の魔法だからな。こっちでは見ないだろ?」
「寿命の概念が消し飛ぶじゃない。こんなの絶対に知られたらアウトよ!?」
遠坂の叫びをスルーして魂魄魔法で魂を体に移し、纏雷と気功打ちの簡易AEDで心肺機能を取り戻させて全ての処置が完了した。残る問題は廃棄物についてだ
「この棺桶の中に入っている汚物はどうしましょう?」
正直言うと、誰も触りたがらない。虫が寄生している肉体が入っている箱なんて気持ち悪いの一言である
「深月のストナー〇ンシャインで蒸発させりゃあ問題ねぇだろ?」
「「「「?ストナー?」」」」
誰もゲッ〇ーネタは知らない様子なのでスルーして深月の様子を窺うが、当の本人は手で×を作り拒否する
「山一つを軽々消し飛ばせるあれを放てば被害が計り知れませんので却下です」
「山!?えっ?その技って山一つを消し飛ばせるの!?」
遠坂のツッコミが入るが、深月は無視して棺桶に入っているこれをどう処理するか決めた。汚物は焼却に限る
「溶鉱炉を作ってそこに放り込みましょう」
「流石にI'll be backなんてしないよな?」
「もし駄目でしたら、成層圏を出て太陽に向けての全力投擲とブースターでどうにかなりませんか?」
「太陽には悪いが、それは最終手段としておこう」
ハジメは、宝物庫からアザンチウム鉱石を使った超頑丈のプールを作って実験で駄目になった鉱石や金属を大量に放り込む。そんな作業をしていると、ギルガメッシュと言峰とランサーが訪ねて来た。どうやら暇を持て余しているとの事で、愉快な光景を見れると感じたので来たという次第らしい
「深月、廃材を投入し終えたからこれらをよろしく頼むぜ」
「私は二人から一人に戻った事で出来る事が大幅に広がりましたので、出来ない事は殆どありませんよ!」
「えっ?大人深月は?」
ハジメとしては、学生の深月も魅力的だが大人の深月もまた魅力的なのだ。だが、今ここで追及する事ではないので熱量操作で高温になるまで熱する。廃材が熱で赤くなり、かなり柔らかくなっている
「タウル鉱石を入れたカプセルを十個程投入して下さい」
「あいよ」
ハジメが事前に用意していたタウル鉱石入りのカプセルを放り込むと、一気に燃焼して赤くなった廃材が更なる高温によってドロドロと溶ける。後は魔力糸で作ったかき混ぜ棒で塊の部分を解す事で、汚物の焼却場が完成した
「さて、中でゴソゴソと暴れているからさっさと済ませようぜ」
『待っ――――』
「えいっ!」
深月が返答を待たずに棺桶を放り投げた。ドロドロな粘性・・・マグマのそれに投入された棺桶は、底なし沼に引きずり込まれる様に徐々に沈み溶けていく
『ギィィァァァァァァァァ!』
スピーディーな展開はお約束の如く、あっという間に燃え溶けて何も残らなかった。一人の少女を地獄に落とした元凶は駆逐された。元凶が死んだからか、間桐が目を覚まして自身が裸になっている事に赤面するが何処かしら憑き物が落ちたかのような反応だ
「え?お爺様が居ない?それに髪が黒に戻ってる?」
「桜、大丈夫か!?」
「せ、先輩・・・や、嫌っ!私・・・私はっ!」
「おいちょっと待て。もう少し考える時間を与えろ」
ハジメが衛宮の首根っこを掴み止め、いつの間にか衛宮宅からバスタオルやら衣服を持って来た深月が間桐に渡して着替えを促す。間桐はいきなりの出来事ばかりで頭が混乱しているが、衣服を渡されたのでおとなしく着替える
「さて、着替え中に何をしたか簡潔に説明します。貴女の心臓に寄生していた害虫と汚物の聖杯の破片はまとめて焼却処分しました。そう、あそこでグツグツと煮えているマグマに放り込みました。そして、貴女の身体についてですが、腕を切り落として清潔した後に再生させました。勿論、全てが正常で機能不全を起こしていない状態にです。これからはかなり厄介事に巻き込まれる恐れがありますが、後はご自身の力で振り払って下さい。とはいえ、何もしないまま放り出すには心許ないので師と呼べるスペシャリストを勧誘しましょう」
今回の聖杯戦争は既に破綻しており、誰も聖杯を欲さない所が良い点だ。敵対サーヴァントはバーサーカーが確定で、残りのライダー、アサシン、キャスターの三騎は出会ってもいないので不明だ。そして、こちらの戦力はセイバー、アーチャー、ランサー、ハジメ、深月の計五人。近接最高峰のセイバー、ランサー、深月と遠距離攻撃手段を豊富に持つアーチャーとハジメとなれば、とてもバランスの良いチームだ
「あぁ、そういやアサシンは知ってるぜ。侍の服装で寺の門から離れられない縛りを受けているんだが、あいつはヤベエぜ?真正面から正直に相手する方がしんどいぜ」
「侍?」
「名は?」
「何だったかなぁ~?なんとか次郎?」
「全然分かんないわね。本当に使えないわ」
深月は、ランサーからの情報で有名人を絞ろうとするが多すぎてこれと確信する事すら出来ない
「武器は何だったんだ?」
「アサシンって言ったら普通は暗器の類だろ?だが、あいつの得物は長刀だ」
「あの・・・目測で二メートル近くありました?」
「そんぐらいあったな。武器のリーチを長くすればする程扱い辛く、じゃじゃ馬なもんだ。だが、あれは完璧に使いこなしていた」
「あ、あぁ~・・・・・いや、でも・・・まさか・・・。う~ん?」
深月はアサシンの真名に偽名であろうともおおよその人物を把握した
「長刀の侍っていや佐々木小次郎だろ」
「えっ!?いやいやいや、佐々木小次郎だったらセイバーになるでしょ!」
こればかりは埒が明かない。取り敢えず、出会えば名乗りはしてくれる可能性が大なのでこれは二の次に置いておく。次の問題はキャスターで、何処に居るかは不明。お次はライダーについて話し合っていると間桐が心苦しそうに横から発言する
「あの・・・非常に言いにくいのですが、ライダーのマスターは兄さんです。いえ、本来のマスターは私です」
「はあっ!?一体どういう事よ!?何で桜が聖杯戦争に参加してんのよ!?」
「非常にうるさいので少しだけ黙っていただけませんか?」
さっきから混乱してヒステリックを起こしている遠坂に深月の冷たい眼差しが直撃した事で、遠坂は体を震わせて黙り込む。何事も冷静に物事を聞かなければ正常な判断は出来ない
「さて、間桐様。貴女がマスターであるならば、今此処にライダーをお呼びする事は出来ますか?」
「・・・令呪は全て兄さんが持っています。なので私がどうこうする事は出来ません」
「では、ライダーも後回しにしましょう」
「んじゃあ夜にでも寺の門に居たアサシンを見に行くか」
思い立ったが吉日即行動
その日の夜、全員でアサシンが居た寺前の門に続く階段を登る。ざわざわと風に揺られて木々から枯葉が落ちる。街灯も無く、月明かりだけが目印の階段を登っていくと目的の人物と出会う。風が青い髪を揺らし、階段の上段に座りこちらを見る侍はまるで吹けば飛ぶかの様に曖昧な存在感だ。それこそ、侍のコスプレイヤーと言われても納得する程の不気味さがある
「ふむ、これはまた大層なお客人だな。一応聞くが、何用だ?」
「ちゃんと聞くの!?」
「女子よ、用がなければ問答無用に斬るというのは殺人鬼だ。アサシンのサーヴァントとはいえ、今は門番。なら、どの様に対処するのかもこちらの判断になる」
目の前のアサシンは、話をちゃんと聞くという事に違いない。話を聞き終えてからの言及はしていないので何かしらのアクションを起こす可能性があるが、この少しの話し合いだけで見えてくるものがある
「門番・・・寺の住職様がマスターと思いましたが、違いますね。寺の中に強大な魔力反応、マスターかキャスターが居ますね。となれば、同盟ですか?」
「ふっ、少しばかり惜しいな。私は女狐に召喚された只の亡霊だ」
「サーヴァント自体が亡霊の様なものですから・・・」
「そうだな。・・・・・さて、そなた等の目的は聞いた。だが、ここから何もせず通すというのは門番にあるまじき行為。故に、そちらの中で代表を一人選び、勝利すれば皆を通すというのはどうだろうか?」
強き者が全て―――。戦いにおいての条件で言うならば一番手っ取り早く、これ程信頼出来る約束はない。だが、誰が出るかについて話をしようとした時
「召使、貴様が行け」
「デスヨネー」
この暴君!と皆が心の中でツッコミを入れる中、深月は宝物庫から黒刀を取り出して刃先を階段の石畳に少しだけ打ち付ける。甲高いぶつかり合う音が木々のざわめく音を黙らせ、アサシンもまた長刀を石畳にぶつけてその音をかき消す
「こちらには居ませんが、仮初の主のメイド―――神楽深月」
「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎」
ギルガメッシュが宝物庫から金貨を取り出して上に弾く
「いざ―――」
「尋常に―――」
金貨が重力に引かれて石畳に落ち、甲高い音を鳴らす
「「勝負!」」
アサシンは上段で陣取っており、深月は下段と不利な場所だがこの勝負にはそんな言い訳は関係ない。互いの得物をぶつけ合い語り合うだけだ
深月の黒刀が最短距離を滑りアサシンの喉元に迫るが、長刀にも拘わらず刃先で深月の黒刀の腹に当てて流して返しの攻撃が首に迫る。だが、黒刀の持ち方を変えて首筋と長刀の間に刃を割り込ませて防ぎ、今度は剛力を持って相手の長刀事叩き切る様にするが、それも受け流されて再び首筋に攻撃が迫るもまた防ぐ。この攻防の速度は徐々に上がり、普通の人間が刃を目視する事すら不可能な程の早さで火花が飛び散る
深月とアサシンの両名共その場から動かずに、刀だけで対処する。そして、遂に両者共少しだけ動く。体を最小限にずらして回避し、静かな足運びで相手に音の情報を与えずに有利になる様に動く。だが、このどれもが相手が最も得意とする技術故に決め手がない
「ふっ、これは心躍る。剣戟の音、鍔迫り合い、視線、足運び、どれもが互いが得意としている」
「しかし、私達のそれは全くの別物。大変学び概があるというものです」
「そうさな。今は心行くまで月夜に奏でよう」
ここからは両者共に何でもありの攻撃を始めた。石蹴り、針飛ばし、武器掴み、死角作り等々、殺し合いに必要な全てをここに凝縮する。尚、それを見ていたサーヴァント達は唖然としていた。騎士道では邪道、戦士としては汚い等々の技術故に手を出さない。だが、二人の攻防を見ていると不思議な事にこの戦いを美しくさせ見る者を魅了する。剣戟の劇場―――、永遠に続くかと思えるそれだがどうしても不利な点が出てくるのはアサシンの方だった
「うむ!これは拙いな。最初の数回の斬り合いで気付いていたが、その黒い刀はただ頑丈な武器ではないな。不壊と言えばよいのか・・・。何とも面妖な素材で作られた刀よの。私の物干し竿もその素材で作られていればもっと長く踊れただろう。流石にこれ以上の打ち合いは心が曲がってしまう」
「まさか、逃がすとでも?」
「いいや、逃げぬさ」
アサシンは上段の有利を捨て深月と同じ高さまで降り、先程まで浮かべていた笑みを消す。相手に背を向ける様に長刀を構え、途方もない殺気が放たれる。佐々木小次郎と言えば、燕返しという必殺技。だが、魔力反応は何一つない
「今宵、この一刀にて証を示す。――――――秘剣」
「ッ!」
深月が未来予測の如く自身に起こる事を感じ取り、黒刀を上段の攻撃を遅延させる為だけに受け止めようとする。残りの軌道は回避出来ると思っていた。だが、唐竹割をされるイメージが消えなかった。アザンチウム鉱石で作られた黒刀であっても、死のビジョンが一向に消えない。だからこそ、犠牲を払う事を選んだ
「―――燕返し」
斬撃は、どうしても連撃となる。だが、この佐々木はクラス詐欺の如く軽い動作で即死級の絶技を放った。上中下の三段の全くの同時攻撃―――。相手が一刀であろうと、二刀であろうとも関係なしの防御不可能の絶技が襲い掛かり、攻撃が放たれる前に回避行動をとっていた深月の急所は外すも黒刀を持っていた腕を見事に両断した
深月は、飛び退きの回避で階段を転がるように落ちたが直ぐに体勢を立て直すのは見事という他ないだろう。もし、あの絶技がポンポンと繰り出されたとしたら回避しても次の回避は難しいか不可能だろう
「避けたのか!私の秘剣を!!」
「完全に避ける事は出来ませんが、この程度は私にとって軽傷です」
腕一つ駄目にされている深月だが、再生魔法で全快して元通りになる。だが、宝物庫から予備の黒刀を出していない深月にハジメが疑問に思った
(深月には予備の黒刀を五つ渡したんだが・・・何で出さないんだ?)
「フハハハハハ!よい、よいぞ!暗殺者だからと期待はしていなかったが、これ程までに掴み処がなく馬鹿を突き抜けた雑種は初めて見るぞ」
「ふむ・・・漂う気品と圧力は、まさしく国の天に立つお方とお見受けする。只の農民の棒振りとはいえ、少しでも楽しみを与えられたのならこの棒振りは無駄ではなかった」
「よく喋る口よな。だが、貴様のその戦い方は対人戦において極みに位置する。肉達磨の様な特殊な造りでなければ、貴様は勝者になれただろうに。その召使の刀を両断する器量、この英雄王が認めよう。しかし、貴様は未だ召使の本当の力を引き出していないのだ。こ奴は武器を使うよりも素手の方が本領だぞ?」
「それは良い事を聞いた!ならば、我が秘剣を存分に振るうとしよう!」
アサシンの表情は嬉々として輝き、まるで玩具を初めて与えられた子供みたいだ。いや、遊びを知らない者だからこそ喜ぶのは当然の反応だろう
「私は完全な本調子ではないのですが・・・」
「今この場で適応しておくのだな。どうやら、お前達二人の中でも召使は世界に異物だと認識され始めている。掃除屋が出てこない現状だが、この聖杯戦争のサーヴァント達に介入しているだけでもマシだという事だ」
「えぇ・・・?私何もしていないのですが?」
「阿呆、本来なら人ならざるモノとし判別されるが貴様は人だ。世界に矛盾が生じて抑止力が混乱しているだけだ。其処な仮初の主の雑種よりも強く、神霊級のサーヴァント相手でも引けを取らぬ貴様だからこそ目を付けられたのだ」
「それ矛盾ではありませんか?私が本調子になればなる程目を付けられるのでは?」
「既に目を付けられておる。ならば、抑止が我に判断を仰ごうとする段階に至れば何も問題はない」
ギルガメッシュは英雄王、サーヴァントとしてこの地に降り立っていても強い。だからこそ、抑止力があらゆる手段で殺す方法を考察し、一番身近で強いサーヴァントであるギルガメッシュに力を送り込む。其処が狙い処である。ギルガメッシュは抑止力という強制力が働こうとも、その程度どうとでも出来る。そして、ギルガメッシュの目に付いたからこそ直ぐには殺せないという仮定も成り立つ。下手に掃除屋を送り込んだとしても、ギルガメッシュが気に入らなければ排除する可能性は大。ならば、この聖杯戦争というルールに従って違和感無く殺す為に深月が戦うサーヴァントを強化するだけだ
「・・・貴方には悪い事をしますが、私の全力を取り戻す為に利用させて頂きます」
「応とも!外から要らぬ力が送り込まれているのは正直不快だが、この亡霊の身であっても成長する事が出来る程度なら必要な力だ。お主を斬り伏せるにはいささか心許ないがな」
深月は、四肢に付けている重りを外して落とす。少ししかない高さから落としたのにも拘らず、小さなクレーターを作る重さは最早常軌を逸している
「・・・正直に言おう。その重りを付けてよくもまぁあれほどまで動けていたものよ」
アサシンの心境は、「こいつ本当に人間?」という思いで一杯だ。勿論、ギルガメッシュ以外のサーヴァント達も冷や汗を流している
「素で忘れていたというのもありますが、これで大分動きやすくなりました」
「いやいやいや、忘れていたんかい!?」
「・・・慣れると違和感がありませんから」
改めて、アサシンの一挙一動に注意しつつすり足で距離を近づけていく。物干し竿の射程圏内に入って尚、アサシンからの攻撃はなくさざ波の如く静かなものだ。一歩、また一歩と近付く深月がようやく手の届く範囲内に入った
それを皮切りに、アサシンの神速の一振りが放たれる。たった一振りだが、その軌跡には幾つもの斬撃が内包されている。当たれば絶対切断が確約されたその攻撃に対し深月は、いつも通りに刃に手を添えて軌道を逸らす。その攻防を幾度か繰り返し、アサシンが深月の動きに慣れて猛追しようとした時に変化が現れる
「っ!?これは!?」
深月の全身が白銀に染まり刃に手を添えて軌道を逸らしていた動作が無くなり完璧に見切ったのだ。何度も刀を振ろうとその全てが避けられ、燕返しを放っても完璧に避けられるのだ。アサシンが抑止力のバックアップを受けて成長するとはいえ、身勝〇の極意を発動した深月には追い付くどころか離されている
「ほぅ、只の人の身でありながら神の領域へと踏み入るか。我は神というものを殺したい程嫌悪しているが、これは愉快よな。見ているか神々共?お前達が矮小だと決めつけていた人間はここまで進化するのだ。だからこそ、我は神と決別し人を選んだのだ」
人は神を超える事が出来る―――。ギルガメッシュが言うそれは、人の手で作られるものである。だが、深月は物理的に神の領域に踏み込んでいる。人と神の身体の造りは別物だが、体を動かすという点では殆ど同じだ。人が信仰する神の殆どは人型であり、神であろうとその領域に踏み込む事が出来ない所に深月は到達している。故に、神を乗り越えている
「はあっ!」
「な、グハァッ!?」
深月とアサシンの距離が少し離れた瞬間に深月の正拳突きが放たれ、音速を超えた空気の打撃がアサシンの身体中に当る。たった一度の正拳突きから、数十もの打撃―――。常人ではそう見えるだけで、真の強者である者にはようやく目で捉えられる程の連打だ
「妖の類の攻撃かと思ったが、成程。サーヴァントの身でありながらも殆ど捉える事の出来ぬ超連打。私の燕返しは並行世界からの攻撃を持って来るものだが、いやはや・・・素早いだけでこうも違うとはな」
アサシンは膝を着いてボロボロになっていた。音速を超えた拳が体の至る所に直撃したのだ。頑丈な体ではないアサシンが敗れるのは必然だった
「この勝負、私の負けだ。女狐も見ていたであろう?敵対は避ける事だな。・・・私はしばらく動けぬ」
『分かったわ。話を聞きましょう。しかし、武力行為を見せるのは禁止よ』
何もない所から女性の声が響き、こちらを迎え入れる事に決定。アサシンは寺の門前の階段に座って英気を養っており、案内人は一人の男性が現れた
「葛城先生!?」
「嘘っ!なんで葛城先生が!?」
「衛宮と遠坂か。私が此処に来るという事は分かるだろう?」
「・・・キャスターのマスターなのか」
「ああ、そうだ。色々聞きたい事があるだろうが、話をするには寒いだろう。ついて来い」
葛城と呼ばれた男性の後を追って寺の中へと案内された一行は、人が居ない一室へと入った。その和室には不釣り合いなフード付きのローブを身に着けた如何にも魔女な女性が一人佇んでいる
「・・・貴方達の事は使い魔越しに見ていたわ。正直言って敵対は絶対にしないわ。それに、そのメイドは人間でしょう?サーヴァントなら再契約なりと色々と出来たのだけれどね」
「それで?話し合いに応じたのは戦力的に分が悪いと感じたからかしら?」
遠坂の言葉は事実であり、例えキャスターとアサシンが纏めて相手になろうと深月だけでアサシンを足止めしてセイバーとアーチャーでキャスターとなれば何をどうしても勝つ事すら出来ない。いや、先程キャスターが告げた再契約によってマスターから離れたとしても、セイバーとアーチャーは深月に勝てる確率は殆ど無いに等しい
「ええ、分が悪いわ。でも、私がこの聖杯戦争の仕組みについて何も理解していないとでも思っているのかしら?こんな醜悪で吐き気がする儀式を完成させろだなんてするわけないじゃない。あれが完成する先は破滅、生産性も何もない素材なんて誰も欲しがらないわ。それとも、お嬢さんはそんな物を欲しがるの?」
「そんな物ですって?まぁ、遠坂家の魔術の根幹は根源へ至る事だけだけど、それは私自身の力で到達しなければ意味もないわ。そして、聖杯は参加トロフィーみたいなもんよ」
「いや・・・遠坂様、ちゃんと聞いて理解しているのですか?」
「深月の言う通りだ。あんなヤベェ代物をトロフィーにしたいとか頭のネジが数本ぶっ飛んでるのか?」
遠坂は怪訝そうな表情をしており、聖杯の状態を完璧に把握出来ていない様子だ。そして、その事についてしっかりと理解しているこちら側はハジメと深月とアーチャーとギルガメッシュの四人だけだった。他は、遠坂と同様に本当の意味を理解しきれていない様子だ
「そちら側で把握している人数は四人・・・他は知らないのね。現代の魔術師ってほとんどが馬鹿なのかしら?」
「はぁっ!?魔術のプロとはいえ聞き捨てならないわっきゅんっ!?」
遠坂が言い終わる直前にハジメがハリセンで頭を一叩きした。とても煽りに弱いおつむにホトホト困るが、聖杯のヤバさをしっかりと理解させるには口を塞ぐのが手っ取り早い。遠坂がこれ以上叫ぶ前に、深月が遠坂に魔力糸製のボールギャグを噛ませて亀甲縛りで完全拘束する
「ン"ー!ン"ー!!」
「さて、深月が馬鹿を黙らせたから現状を分かっている範囲で良いから説明して欲しい。俺は、理解しているとはいえ魔術師じゃねえ。最悪の想定が出来ない点でキャスター、あんたに助力を頼みたい」
「あら、坊やはお利口ね。其処のお馬鹿さんよりも話が通じ易くて助かるわ」
「魔力の可視化で聖杯の現状と最悪の場合の表現って出来るか?」
「その程度余裕よ」
全員床に座り、キャスター解説の「なぜなに聖杯戦争」が始まった
「この聖杯戦争は最初から破綻しているわ。サーヴァントが残りの一人になるまで戦い願いを叶える。これだけ聞けばそこそこよく出来た魔術儀式ね。でも、聖杯の燃料となるサーヴァントの魂は全部で七つ必要なのよ。要するに、聖杯戦争に生き残ったとしても最終的に自害させる事でようやく聖杯の本来の力が発揮するの。其処にサーヴァントの願いも何もない。マスターの願いの為に死ねというものよ」
「詐欺ですね」
「あぁ、詐欺だな」
「そこの二人の言う通り、詐欺よ。私は召喚されてから聖杯を調べて分かった事だから願いなんて早々に諦めたわ。そして、ここからが重要よ。何処の馬鹿か知らないけど、聖杯に異物が混入しているの。本来は無色透明の願望器なのだろうけど、とんでもない悪性のサーヴァントの魂が捧げられた事で聖杯が悪性に変質したのよ。願いを叶える力はあるけれど、それは破壊という願い。戦争を止めてなんて願ったら、人類皆殺しで戦争は起きないという事実に置き換わるわ。そこのお嬢さんが言うトロフィーはもっての外よ。完成させた聖杯は、溢れる寸前の入れ物。ほんの僅かな衝撃で中身が零れるのよ」
キャスターが魔力で器に見立てた容器にどす黒い魔力をギリギリ限界まで注ぎ、後一滴でも入れれば零れる様に再現する。とても分かり易く、馬鹿でも理解出来る
「悪性で破壊という事は、中身に入っている代物は呪詛ですね」
「簡単に言えばそうよ。でも、聖杯のそれはそんな生易しい物ではないわ」
「現段階の状態でもいい。暴発した際の被害範囲を教えてくれ」
「地図はある?」
「こちらに」
「大本の聖杯はこの山中の洞窟の奥にあるけれど、今は核が入っていないわ。核となる聖杯は、山奥のお城に居るわ。バーサーカーのマスターの心臓がその核なのよ。・・・話が逸れたわね。貴方達がアサシンを脱落させなかった事は故意よね?」
聖杯戦争参加者にとっては、サーヴァントの脱落は必須。だが、傭兵の立ち位置であり自身の安全を考慮するハジメ達は、より酷い未来になる可能性を回避するのは当然だ
「まぁ、なんとなく嫌な予感がしていたからな」
「儀式戦争ですので、それに関連する何かを排除するのは危険だと判断しました」
「坊やのその直感は嘘ね。可愛いお嬢さんはありのままね。さて、坊や?嘘は無しにして知っている事を全て話しなさい。そうしなければ同盟なんてしないわ」
「・・・・・勘弁してくれよ」
「ふむ、取り敢えずギルガメッシュ様とキャスター様以外は退席して頂く他ありませんね」
「当然だ。こ奴等二人は漂流者、この世界とは違う世界から訪れた者だからな。その召使は我の気を惹いたのだ。当然、真の王たる我がその席に同伴するのは必然でもある」
「・・・・・ねぇ、坊や。私の聞き間違いかしら?聖杯戦争では七騎のサーヴァントが召喚される筈なのにイレギュラーがここに居る英雄王?どういう事なの?」
「あ、あぁ~・・・。ギルガメッシュ王は前回の聖杯戦争の勝利者だから!」
「嘘仰いっ!その陳腐な嘘で騙せるとでも思っているの?」
「遠坂様は煽り耐性がゼロですね。つい絞め落としてしまいました」
ハジメがどうしようかと考えていた時、深月が一仕事終えた様子だ。遠坂については・・・どんどん残念な子になっているが放置する
「さて、雑種。自らの口で全てを話せ」
「逃げるのは無しよ」
「私はそこまで詳しく理解していないのでご説明をお願いします」
ハジメは、とても気が重くなった。だが、ようやく踏ん切りをつけて説明する事にした。この世界はハジメ達の世界で言う所のゲームの世界。恐らくの世界線と聖杯戦争についての原作知識を分かり易く説明する事で精一杯だった。これを聞いたギルガメッシュは少しだけ興味が湧いた様子で、キャスターは頭を抱えていた
「坊や達はとんでもない事故に遭ったのね。創作の世界線に入るという事は、異物が紛れ込むという事。アサシンのスペックが文字化けしているのにもこれで納得したわ。現代で抑止力が動く事なんて普通はありえないわよ?」
「ふむ、抑止力は遂に我に判断を仰ぐ事にしたか」
「マジで、命だけは勘弁して下さい」
ハジメの綺麗な土下座だった。英雄王に挑む?ハジメは死ぬ事になってしまうので命乞いは当たり前だ
「帰る術はあるのか?」
「深月、どうしよう?」
「そこで私に振りますか?概念魔法を創って帰るだけですよね?」
深月は、正直言うと何故ハジメが帰還用のアーティファクトを作らないのか不思議に思っていた。創作の世界に紛れ込む事はオタクの夢だから、しばらく滞在するのかと決めつけていた。だが、本当に成す術が無いという事でもあった
「そ、その・・・怒らないで聞いてくれよ?」
「取り敢えず拳骨は勘弁してあげます」
「ほ、宝物庫はあるんだ。だけどな、それは武器と少量の素材だけ入れている方だったんだ。素材だけを入れた宝物庫はテーブルの上に置きっぱなしで」
「ヘル・アンド・ヘ〇ンで逝きますか?」
「それは駄目だぁ!俺が粉砕される未来しかないじゃん!?」
「ここは私のプライベートルームだからあまり暴れないちょうだい」
取り敢えず深月のヘル・アンド・ヘ〇ンを回避する事が出来たハジメは安堵する。だが、その直後にチョークスリーパーを仕掛けられて悶絶しているのは言うまでもない
「バーサーカーが襲い掛かった場合にはどう致しましょう?真名はヘラクレスです」
「へ、ヘラクレスゥ!?嘘でしょ・・・あの筋肉達磨がバーサーカーなの!?」
「キャスター様はバーサーカーをご存じで?」
「あ・・・えぇ、そうね。貴女は知らないのね。私の真名はメディア、同じ時代に生きていたのよ」
「メディア様ですね。ヘラクレスの弱点か情報等、何かありませんか?」
キャスターはまたしても頭を抱え、全てを察して諦めたかの様な表情をしていた
「現代風に言うならチートよ。己を傷付けた武器による耐性を付け、魔力も効き辛い・・・お手上げよ」
「ふむふむ、黒刀が弾かれた原因はそれだったのですね」
「普通は切り飛ばす事は出来ねぇからな?」
「・・・はい?」
キャスターは呆然としており、ハジメが述べた事実を受け止めきれなかった。当時を知る者だからこそ、理解するのに時間が必要だった
「・・・ねぇ、そのお嬢さんはヘラクレスの腕を切り飛ばしたの?」
「いや、上半身と下半身を切り飛ばしたんだ」
「・・・それは異物として認識されて英雄王にまで判断を仰ぐ始末になるのは当たり前でしょうね」
「くっ、フハハハハハハ!不細工筋肉達磨を両断したか!しかも、雑種が作った武器で―――か!気が変わった。雑種、その宝物庫と呼ばれるアーティファクトの中に入っている武器を献上せよ」
「いいっ!?」
「早くしろ。首を刎ねられたいか?」
「どうせロマン武器ばかり作っているのでしょう?また作れば事足りるので献上しても問題ないのでは?」
「ふぅ~ん、坊やが作った武器ね。私も興味が湧いたわ」
「この暴君っ!」
ハジメに味方は居らず、大人しく宝物庫に入れていた武器を全て出してギルガメッシュに献上した。ギルガメッシュは上機嫌で、キャスターは素材について気になっていたので宝物庫に残っていた素材も全て徴収された。物剥ぎに遭ったハジメに残されたのは、空の宝物庫だけだ
「不細工筋肉達磨についてはどうとでもなろう。召使の拳は神殺しの概念を持っている。素手ならば何も問題はない」
「はぁっ!?お嬢さん神殺しなんてしたの!?現代人がどうやって!?えっ?貴方達の住む世界ってそんなに歪なの?」
「阿呆、信仰により神の枠組みに入った者を殺した事で神殺しの概念を得たのだ」
「・・・それだけでは足りなくないかしら?」
「普通では貴様の言う通りだが、召使は神ですら到達が困難な境地に人の身で入ったのだ。ならば、世界が神を殺す事が出来ると認識した。ただ、それだけよ」
「あら~。だったら、バーサーカーと戦う時は私がお嬢さんに付与を掛ければ問題なくなるわね!」
「神代に生きた有名なお方の能力向上の付与は楽しみです!これで再現する事も出来る可能性がありますね!」
「フハハハハハ!いいぞ、不細工筋肉達磨がどの様に倒されるかが見物よな!その時は新作の料理で我をもてなせ!」
「私もご相伴に預かろうかしら?」
「では、皆で衛宮様のお宅に住んでバーサーカーを待ちましょう」
「アサシンはそのまま門番をさせておくわ。あんなひねくれ貧乏侍にご飯は贅沢よ」
「・・・・・あかん、こいつら混ぜちゃ駄目だろ」
こうしてキャスターと同盟を組み、アサシンとバーサーカー以外のサーヴァントが衛宮宅に住む事が決定した
我等が主人公は暴君王ギルガメッシュの追剥ぎに遭い、キャスターも便乗した事で宝物庫が空になった!仕方がないよね・・・暴君ですから
そして、ギルガメッシュは内心で良い拾い物をしたとニヤニヤして気分が上がっています