本気制限決闘島   作:阿音

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0話の注意書きを必ず読んでからお読みください。
読まずに気分などを害されても自己責任でお願いします。

とてつもなく遅くなってしまってごめんなさい
1ヶ月以上、微熱が続いて全くやる気が出ませんでした。
自分の体の弱さ、本当にどうにかしたい……
それだけならまだしも、仕事先で辞める人が続出してリアルがとにかく忙しくなりました。
深夜まで仕事が終わらないという事が起こり、体調不良も合わせて小説を書く気力が湧きませんでした。

まぁ他にも理由は有るのですが……
とにかく、1ヶ月半以上も遅くなってごめんなさい。
その代わりと言っては何ですが、長めだった2話の倍近くの長さになっています。
……正直、自分でも予想外の長さですが気にしない。
文字制限は一応4万文字ですが約5万字に……前後編に分ける事になりました、後編は明日。

タグを編集しましたので注意。
数ヶ所変更していますのでタグで検索している人は要注意。


6話【操られた2人・前編】

先日の龍牙の件から数日。

咲良が俺を呼び出してきた……面倒事の予感しかしないな。

 

「……で、なんだ?」

 

「手伝ってほしい事が有る」

 

「断る、じゃあな」

 

「話ぐらい聞いて!」

 

溜め息を吐き、とりあえず話を聞くだけは聞いてやろう。

断るつもりしか無いが、暇潰しにはなるか。

 

「で?」

 

「もう少しその態度はどうにかならない?

それはともかく……最近、明日香が夜中に外に出てる

心配だし、気になるから何をしているか調べたい」

 

「別にそれぐらい構わんだろうが……逢い引きでもしてるんじゃないか?

丸藤亮と会っているという噂が立ってるらしいしな」

 

「……何で知ってるの?」

 

龍牙の件の後、頭では理解していたが実感が無かった情報の大切さを、改めて重要だと理解した。

下らない話題から騒ぎになるような話題まで、どんな話題も捨てずに覚えておく。

大抵は今のようにつまらんが、知っているのと知らないとでは差は大きい。

積極的にはしていないが、この程度の噂は耳に入ってくる。

 

「まぁ、私もその噂は知ってるけど違うらしい

海の方で会っているらしいけど、明日香は森の方に向かっているみたい」

 

そこまで知ってるなら別に俺なんて呼ぶ必要は無いだろ……

何故俺が天上院の調査なんてしなければならんのだ。

というか、何故俺を頼った? そういうのは遊城辺りにでも頼めよ。

 

「気になるのは、あの森には廃寮が有って

その寮では昔、何人もの生徒が行方不明になっているって話

しかも、あの寮では闇のゲームを研究していたらしい」

 

「闇のゲーム……ねぇ?」

 

遊戯王DMで、千年アイテムを使った生死を賭けたゲーム。

このGX時代にも有った気がするが……こんなにすぐだったか?

 

「もし明日香がその寮を調べているのなら

危険だから止めさせたい、違うのなら違うで何をしているのか調べたい

だからそれを手伝ってほしい」

 

「断る」

 

「闇のゲームなんて信じる相手が貴方ぐらいしか居ない!

他に頼れる相手が居ない! だから手伝って!」

 

「断る」

 

「闇のゲームを信じる人なんて居ない!

他に頼める相手が居ない! 手伝って!」

 

「断る」

 

「他に言えるような知り合いが居ない!

理解してくれる人が居ないから手伝って!」

 

「断る」

 

「こんな事言える人なんて居ない!

明日香が心配だから手伝って!」

 

「断る」

 

「えーっと……んー……て、手伝って!」

 

「断る」

 

ネタ切れか? ボキャブラリーが無くなってしまったのか?

まぁそれでも面倒だから断るけどな。

 

「闇のゲームとか千年アイテムとか、そういうのに興味が無いの?」

 

「…………」

 

そういえばこいつ、俺の事を知ってるんだったな。

俺の趣味とか興味が有る事を知っていても不思議ではないか。

確かに興味は有るのだが……

 

「今は関係無いんじゃないか?」

 

「有る」

 

「ほぅ?」

 

断言するとは、何か理由が?

 

「一応、私は貴方よりこの世界を知っているつもり

あまり覚えていないんじゃないの? このアニメの事」

 

「…………お前はどこまで知ってるんだよ」

 

俺の記憶範囲まで知っているとは、さすがに……

まぁ構わん、相手が俺を理解しているのなら話は早い。

 

「だからこの世界、この時代にも存在する……闇のゲームはね」

 

「だが断る」

 

「くっ……(本当は今回の闇のゲームがインチキだって知ってる?

それとも単に面倒なだけ? さすがにそこまでは読めない

もっと巻き込まれて嫌な想いをして、さっさと出て行ってくれればいいのに!)」

 

探るような目をされるが、気にする程でもない。

にしても、こいつはどうしてこうも俺を面倒事に巻き込もうとするのかね?

俺を追い出したいのならつまらない毎日を送らせればいいのにな。

そうなれば俺もやる気を無くして何もしないだらけた毎日を送るだろうに……

面倒事は嫌いだが、騒ぎはそれはそれで楽しいんだぞ?

まぁ、巻き込まれるのは嫌いだがな……自分から首を突っ込むのは好きだが。

 

「話は終わったな?

ほら、さっさとどこかに行け」

 

「(これ以上粘っても了承しなさそうだし、諦めるしか……

でも確か、アニメでは最終的に本当の闇のゲームまで発展していたはず

十代をそれに巻き込んでもいいのかどうか……

あの【堅守瑞貴】みたいに、本当の闇のゲームに見せるようにしただけにする事が正解なのか

アニメみたいにインチキを気付かせ、それでも本当の闇のゲームが有るのかもしれないと思わせるべきか

今後の十代の成長を考えたら前者の方が良いはずなんだけど……どうしよう?)」

 

咲良は悩みながら、頭を抱えながら去って行った。

やはり先を知っていると色々と考える事が有るのか?

だからといって俺を巻き込むのは止めてほしい所だ。

 

さて……っと。

俺は巻き込まれるのは嫌いだが、自分から首を突っ込むのは好きだ。

天上院が行方不明になろうが、天に召されようが、オブラートに包まずに死んでしまおうが

俺が巻き込まれなければどうでもいい、寧ろ面倒事が減るからメリットなんじゃないか?

 

ま、人が死ぬ所なんて見ていて良い気がするものじゃないし

そんな事にならない方がいいんだが、どうでも良い事というのは事実だな。

 

俺は俺で、自分で廃寮というのを調べてみるか。

何か見つかればそれで楽しめばいいし、本当に闇のゲームに出会ったとしても……勝てばそれまでだ。

所詮、この世界はデュエルモンスターズで基本構築されている。

生死を賭けた決闘(デュエル)なら、嫌いなのだが1ターンキルをしてでも勝つまでだ。

勝ちさえすれば俺には何もデメリットは無いのだからな。

 

………………

…………

……

 

夕方、廃寮に来て探索をしている。

深夜は深夜で色々とする事が有る、つまりこれは仕込みだ。

あんな話をしたんだ、どうせ咲良か天上院のどちらかは必ず来る。

子供っぽいが、抜き打ち肝試しとでもいこうか……季節外れだがな。

 

んー……この部屋にはこんな物が有るのか……ん?

なんだこの写真、長い黒髪でオベリスクブルーの制服を着た男子……FuBuKi 10JoiN?

これはどう読むんだ? フブキ ジュウジョイン? いや、フブキ テンジョインか?

テンジョイン……テンジョイン? テンジョウイン……天上院か?

 

つまり天上院がこの森を調べていると仮定し、この廃寮に用が有ると仮定するならば

この男が関係していると考えて良さそうだ。

1年生だから弟は無い、父親という可能性は薄そうだし、兄が妥当かな?

さすがに従兄弟だの義理兄弟だのと考えると切りが無いから兄とでも思っておく。

 

闇のゲームの研究に、行方不明になった生徒……それを調べていると考えるのが正解か。

自分の関係者がそんな事に巻き込まれれば調べて当然だな、まぁこれで天上院の問題は解決っと。

 

それはさて置き、どこで何をして、どんな事をしてやろうかな……

童心に帰るのも偶にはいいな、こんな子供っぽい事なんて現代じゃできる事じゃないし。

若返ったというのも有るし……もしかして肉体に精神が引っ張られてるのか?

俺はここまで子供っぽい性格じゃなかったはずだし……まぁ別に問題は無いかな?

 

今を楽しめればそれでいいし、もし引っ張られていてもそこまで困る問題でも無い。

俺は今を楽しむタイプの人間であり、未来を楽しむ為に動くタイプでもあるからな。

例えるならば、食事時に好きな食べ物が出た場合、楽しみは後に取っておく為に最後に食べる。

しかし、その次に好きな物は先に食べてその瞬間を楽しむ……嫌いな食べ物は2、3番目ぐらいに食べる。

最後の楽しみの為ならば、多少の面倒も甘んじて許容する、それでいて今も楽しむのが俺だ。

 

さてと、どこで仕掛けるかなーっと。

絵の有る部屋で絵画に潜む者とか、ベッドの有る部屋で夢魔の亡霊とか、甲冑の有る部屋で首無しの騎士とか

そんなモンスターを突然召喚して驚愕させるとかが良いかな?

おっと、それよりも今はどこに何が有るか調べないとな。

 

という訳で地下室まで降りてきたのだが……なかなか良い趣味の部屋だ。

ここは決闘場(デュエルフィールド)であると同時に、儀式場にもなっていたんじゃないか?

装飾、雰囲気、部屋の形に床の模様……闇のゲームの研究という話はデマでは無さそうだ。

 

下手な操作をしなければ何も問題は無いだろう。

最後はここで変装でもして、行方不明になった生徒の亡霊だとでも言って決闘(デュエル)をするとか?

それはそれで楽しそうだ、その路線でやってみるか。

天上院ならば消えるように見せかけ、咲良なら驚けば馬鹿にしてやろう。

 

下調べも終わったし、急いで準備をしないとな。

間に合わなかったら調べ損だし、頑張ってみようかね。

 

――――――――――――――――――――

 

明日香の後ろを隠れながら歩く。

確か近いうちに何かが起こったはず……それがいつか分からない。

堅守瑞貴の奴はやっぱり動かなそうだし、今回は私がなんとかしないと。

 

後を付けてきたのはいいんだけど、廃寮の周りを歩いているだけで中に入ろうとしない。

まだ探索段階なのか、それとも別に調べているのか……あれ?

明日香に近づいて来てるのって、もしかして十代に翔に……誰だっけ?

アニメに居たのは覚えてるけど、途中退場だったから名前を忘れてしまった。

えっと、えっと……でかいの? って、それは違う! 確かに太ってるけど違う!

 

話は少し離れてるから分からないけど、明日香が十代に何かを言っているらしい。

多分、この廃寮に近づくなとか、そんな感じだと思う。

でも十代の性格から考えて、多分明日香の言う事なんて聞かずに入るはず。

という事はアニメのイベントが起こるのって……まさか今日!?

 

何か起こる、でも詳しくは覚えていない。

所々アニメに関する記憶が無くなっている……何が起こったっけ?

闇のゲームが関係するのは覚えてる、でも確か、確か……

 

悩んでいる内に、十代達は廃寮に入っていった。

そういえば明日香はどこに?

そう思って辺りを見た時、黒い服を着た大男に担がれている明日香を……誘拐!?

でも、大男は廃寮に入っていった……何が起こった?

分からないけど、とりあえず気付かれないように追いかけてみよう。

 

暫く見ていたけど、特に明日香に何かをするつもりは今の所無さそう。

気になる事は、明日香のカードを1枚抜き出して床に落としたり

埃だらけの床に、引き摺るような跡を付けたり……何が目的?

 

落とされたカードは気になるけど、今は放置。

取った時に気付かれたら拙いし……後で拾えばいい。

こんな時に堅守瑞貴が居れば悪ふざけをしそうだけど

今回に限って来なくて良かった、断られていて良かった。

 

ゆっくりと大男の後ろを歩き、足音を立てないように慎重に……

 

「んむ!?」

 

後ろから誰かが口を塞いで!?

まさか仲間が!? でもそんな事は私の記憶が間違っていなかったら無かったはず!

あれ? なんで私はあの大男に仲間が居ないって覚えている?

記憶がちぐはぐで、忘れていたり思い出したり……って、今は関係無い!

 

そんな事を考えている内に何かで目隠しをされ、猿轡をされて口を塞がれる。

更に手首を縄か何かで縛られて……どうして私がこんな目に!?

 

何が起こっているのか理解できない。

だけど歩けと催促されるかのように、腕を縛っている縄が引っ張られる。

多分、縄の先を相手が持っていて、そこを引っ張られているのだと思う。

 

怖い……怖いけど逆らったら何をされるか分からない。

私は黙って(口は塞がれているけど)引っ張られる通りに歩き出す。

 

暫く歩き、引っ張られる力が無くなった。

目的地に着いたみたいだけど、どうなっている?

 

「んんー? なんだ、貴様は?」

 

誰の声? 私は知らない……でも、もしかして私を引っ張っている人とこの声の主は仲間じゃない?

ならなんの為に私はこんな目に遭っている? 訳が解らない。

 

「楽しそうな事をしているから混ぜてもらいに来た」

 

この声は……この、声は……何を考えてこんな事をした、堅守瑞貴!!!

しかも楽しそうな事? 混ぜてもらいに? ふざけるな!

 

「おーおー、怒ってるな

俺に気付いたか? まぁ声を聞けば分かるか」

 

当たり前! 馬鹿にするな!

 

「貴様、何が目的だ?」

 

「天上院を誘拐し、遊城を誘い出す

それはそれで十分楽しそうだが、俺もその茶番に付き合わせろよ

条件として、カードを数枚ほど渡す……どうだ?」

 

明日香の誘拐はともかく、十代の誘い出し?

……思い出した! 確かクロノス先生が十代を追い出す為に呼び出した刺客!

名前まで覚えていないけど、確かデーモンデッキを使うインチキ闇のゲームをする人!

あれ? でもこれって確か堅守瑞貴を誘う時には覚えていたはず……でも思い出した?

こんな短時間で忘れるほど記憶力が悪かった、なんてそんな事は無い。

どうなってる? 私の記憶はどうなってる? 自分が、なんだか自分が怖くなっていた。

 

「私がする事は仕事だ、お前のようなお遊びとは違う」

 

「だが、アンタは俺の条件を呑まなければならない

今回の誘拐事件を警察に通報してもいいんだぞ?

俺はアンタの事は知っている……闇の決闘者(デュエリスト)、タイタンだったかな?

状況証拠として写真を……今、撮ったので十分だろうな」

 

写真をと言った時、シャッター音が聞こえた。

どうやら本当に写真を撮ったらしい。

でも、シャッター音に若干の違和感を感じた……少し音がずれていたような気がする。

 

「…………」

 

「俺の言う事を聞いてくれればこれは警察に提出しないでおこう

これは使い捨てカメラだし、このカメラごと渡しても構わない

それで証拠は消える……乗るか、蹴るかどちらだ?」

 

「…………貴様の目的はなんだ?」

 

「楽しむ事だ

せっかく俺が下調べまでして、お前が攫った天上院と

俺が連れてきたこの女を驚かす為に抜き打ち肝試しを計画したのに邪魔をされたんだ

だから俺が楽しむ機会が減った、それを戻す為にこの茶番に付き合わせろ

別に邪魔をするんじゃない、むしろ手伝ってもいい」

 

抜き打ち肝試しって……もしかしてこの為だけに私の頼みを断った?

嫌がらせも大概にしてほしい、受ける方は大変なのだから。

相変わらず、堅守瑞貴は楽しむ事しか考えていない……

 

「……いいだろう、だがその女はどうするのだ?」

 

「こいつか?

まぁ、さすがにもう暴れないだろうからいいか」

 

「ぷぁ!」

 

猿轡を外され、目隠しを外される……腕は縛られたままだけど。

目に入ってきたのは堅守瑞貴と大男、そして悪趣味な棺桶みたい物に入って気絶している明日香。

こいつら……酷すぎる!

 

「堅守瑞貴……」

 

「おっと、そんなに睨むな

単なるお遊びのつもりだし、天上院に何かをするなら問答無用で警察に突き出すつもりだ

別に、アンタも天上院に何かをするつもりは無いんだろ?」

 

「うむ、この者は遊城十代を誘き出す為の餌だからな」

 

「そういう問題じゃない!」

 

こいつらは何を考えている!

こんな事をしていいはずが無い!

 

「さてタイタン、お前の事を詳しく教えてもらおうかな?

一応名前ぐらいは知っているが、それ以外はあまり知らないのでな」

 

「どうして名前を知っているの?」

 

「外の楽しそうな決闘者(デュエリスト)の名前ぐらいは一応調べたからな

しかしまぁ……何が悲しくてこんな場所まで足を運んだのか理解に苦しむ

誰かの依頼だとして、遊城十代を狙う理由を持つ者なんて……あぁ、そういう事か

(遊城を狙う理由を持って、更に学園に入る手引きをできる人物なんて限られているしな

どうせクロノス教員が嫌がらせをする為に呼んだんだろ)」

 

1人で勝手に何か言いながら勝手に納得された。

私には何がなんだか……

 

「話さなければ?」

 

「言わなければ分からないか?」

 

さっきのカメラを揺らしながら、またタイタンを撮る堅守瑞貴。

ここまでされてはさすがに言わないとは言えないらしく、タイタンは素直に白状した。

 

詳しくは省くけど、名前はタイタンで合っているらしい。

偽物の千年パズルを使い、相手に錯覚とプレッシャーを与え、闇のゲームと偽る。

そしてそれを闇のゲームと言い、依頼人に頼まれた相手を精神的に追い込むらしい。

相手は再起不能にはならないものの、闇のゲームの恐怖に陥るとかなんとか……

今回、依頼人から受けた対象は遊城十代、そして誘き出す為に明日香を攫ったと。

 

「ところで堅守瑞貴」

 

「なんだ?」

 

「私は、いつまで繋がれたままなの?」

 

「俺の手伝いをするのなら解放してやる

しないと言うのならば適当な場所に繋いで、朝まで放置する」

 

「…………」

 

つまり、言う事を聞かなければ置いて行くって事か。

嫌だなぁ……やっぱり、あの【堅守瑞貴】みたいな事をする?

だとしたら私の立場って……

 

でも、十代の成長を促せるという方法ならこちらの方が良いのは確実。

確かアニメでは、十代は本物の闇のゲームにまで発展してもインチキだと思っていたっけ?

なら最後まで本当の闇のゲームだと勘違いしてもらって、心を強くしてもらおう。

いつか起こる、本当の闇のゲームの為、少しでも強くなってもらう為にも……

 

「手伝えば、いいの?」

 

「聞き分けが良くて助かる

咲良、遊城は1人で来ているのか?」

 

「……違う、他に2人を連れてきているから3人で来ている」

 

「ふむ、なら……」

 

今後、どうするかを考える堅守瑞貴。

何をするのかは大体予想はできるけど……

 

「よし、ではこういうのはどうだ?」

 

私と堅守瑞貴とタイタンで作戦会議……みたいな何か。

完全にとばっちりを受けた明日香には悪いけど、今回は諦めてもらおう。

あまりこういう思考は良くないんだけど、遊城十代を成長させる為に……

言い訳なんてみっともないか、ごめん明日香。

 

「……悪く無いが、私が怨まれるだけではないのか?」

 

「どうせ滅多に来ないだろ?

なら別にいいじゃないか、格好いい悪役ができるぞ」

 

「悪役に格好いい格好悪いなんて……」

 

「別にそれはどちらでも良い

そこまでするのだ、キチンと演技はしてもらうぞ」

 

「大丈夫だろ、単純な馬鹿ばかりだし」

 

「…………やっぱり、私も演技をするの?」

 

なんだかんだで十代達を騙す決闘(デュエル)が決定した。

今回使用するデッキは堅守瑞貴から渡されたんだけど……なにこのデッキ?

なんというか、ロマンに溢れた楽しそうなデッキって感じ。

男の子って、何歳になってもロマンが好きなの?

かなり事故が怖いけど、それでも現実のデッキとも戦えないという事は無いはず。

まぁ……勝てるとは言えないけど、まだまともに戦えるかな?

 

「いつの間にこんなデッキを作った?」

 

「ネタデッキは基本だろ?」

 

……確かにネタデッキだけど、これって結構強くない?

コンボが決まれば強いし、決まらなくてもまともに運用できなくはないし。

やっぱり事故が怖いけど、それでも十分に戦えるぐらいのネタデッキ。

十代達、こんなデッキに勝てるのかな?

 

「このデッキを使わないという選択肢は?」

 

「別に構わないが、お前のデッキだとあいつらは勝てないだろ?」

 

このデッキでも辛いと思うんだけど……私のメインデッキよりかは確かにマシかも。

でも基本攻撃力が高いこのデッキを相手に、十代達はどこまで頑張れるのか……

ちなみに、堅守瑞貴の使用デッキは教えてくれなかった。

タイタンのデッキは【チェスデーモン】だから、それに合わせていると思うけど。

 

そうこうしている内に明日香の意識が……

私と堅守瑞貴は隠れ、明日香の相手はタイタンに任せた。

 

「ん……な、何よこれ?」

 

腕を縛られ、どこか知らない場所に移動していて混乱している。

 

「ふっふっふ、貴様には遊城十代を誘き出す餌になってもらおう」

 

「だ、誰?」

 

なんというか、ネタを知っているだけにあまり緊張しない。

堅守瑞貴の言う通り、なんだか茶番って感じしかしない。

 

偽物の千年パズルが光り、明日香が悲鳴を上げて再び気絶する。

アレ、どんな仕掛けをすれば気絶するのだろう?

 

「……喧しい悲鳴だ」

 

「何も知らない明日香の悲鳴で文句を言わない」

 

「だが、これでこの寮に居る遊城十代も来るだろう」

 

はぁ、嫌だなぁ……でも今更逃げられないし、覚悟を決めないと。

どうして私、こんな事に巻き込まれているんだろう?

堅守瑞貴を巻き込むはずだったのに、私が巻き込まれたらただの間抜けだ。

 

――――――――――――――――――――

 

白い霧を出し、遊城達が来るのを待つタイタン。

俺と咲良は隠れ、出番を待つ。

 

足音が複数……どうやら来たみたいだな、遊城。

タイタンにも期待しているぞ、俺を楽しませてくれよ?

 

「明日香ぁ!」

 

「ふっふっふっふっふ……この者の魂は、もはや深き闇に沈んでいる」

 

「誰だ!?」

 

霧の中に紛れていたタイタンがゆっくりと姿を見せる。

こいつの演出もなかなかだな、演出が必要な時は真似させてもらおう。

 

「ようこそ遊城十代」

 

「貴様、何者だ!?

明日香に何をしたんだ!?」

 

「私は闇の決闘(デュエル)を操る闇の決闘者(デュエリスト)、タイタン」

 

「闇のゲーム?」

 

「ふざけんな!

闇のゲームなんて有るはず無いだろ!」

 

いや、有るんだなこれが……GXはDMの後の設定だ。

つまり、あの当時に有った闇の決闘(デュエル)は実際に起こった事だ。

今回はインチキで偽物だがな。

 

「ふふん、試してみれば分かるだろうよ小僧

ここは何人も踏み入ってはならぬ禁断の領域

我はその誓いを破る者に、制裁を下す」

 

「ここで居なくなった人達はお前のせいだな!

明日香は、返して貰うぜ!」

 

あぁ、勘違いしてるのか、天上院に関しては勘違いじゃないけどな。

別に助けようと思えば助けられたけど……

既に廃寮の中だったし、隙を探すのが面倒だったから手出しをしなかっただけで。

 

「私に闇のゲームで勝てるならな……遊城十代」

 

後ろで何か鞄を漁っていた……なんだったっけな、あいつの名前。

レッド寮で、体格が大きくて、そしてあの顔は……前田隼人だったか?

さすがにあまり目立たない奴の名前まではあまり覚えていないぞ。

 

とにかく、そいつから決闘盤(デュエルディスク)を受け取る遊城。

うーん、主人公してるな、あいつ。

 

「望むところだ!」

 

「ふふふ、威勢の良い事だ

だが小僧、貴様の相手は私だけではない」

 

「なんだって? 仲間が居るのか!」

 

部屋の影からゆったりと姿を現す俺と咲良。

そして俺達の姿に驚く遊城達。

 

「瑞貴に結美!?」

 

名前で呼ぶなと、何回も言ってるだろうがお前は!

さすがに今はそれを言えないが……

 

「ふはははははは! この者達の魂も私が預かっている

魂を握っている私には、このように動かす事も容易なのだ!」

 

「そんな……瑞貴! 結美!」

 

煩い、名前を連呼するな。

さっさと話を進めろタイタン。

 

「さぁ始めようではないか

私とこの2人、そして貴様らは3人

3VS3の変則マッチをな!」

 

「変則マッチだって!?」「ぼ、僕も!?」「俺まで入ってるのかぁ!?」

 

おー、イイ顔をしてるじゃないか。

そうやって絶望的な顔ってのを見るのが楽しくて仕方無い。

まぁ、今回は頑張って乗り切ってもらわないと困るんだがな。

 

「ルールは全員共通でライフポイントは8000

場も全員共通であり、自分のターンに他のプレイヤーのモンスターや魔法・罠カードも使用できる

場のカードはモンスター、魔法・罠共に通常のルールの通りに5枚まで

墓地、除外されるカードも全員共通であり、手札などに戻るカードはターンプレイヤーの手札に戻る

3人のチームなのだ、出すカード枚数に注意しなければ味方を妨害しかねんぞ?

ターン順は相手Aのターン→味方Aのターン→相手B→味方B→相手C→味方C→相手Aという順だ

ここまでで何か質問は?」

 

「……特に無い」「同じくッス……」「俺も無いんだな」

 

このルールは俺が提案した。

そんなに簡単に変則ルールなんて浮かぶものじゃないしな。

 

「では始めよう、闇のゲームをな……」

 

タイタンの言葉を合図に、俺と咲良もデッキをセットして構える。

丸藤と前田も準備をし、決闘盤(デュエルディスク)にデッキをセットして準備を終わらせる。

 

「絶対に勝つ、勝って3人を救うんだ!」

 

「僕だって……僕だって……うぅぅ、あの2人に勝つ自信無いよぉ」

 

「よく知らない相手だけど、だからって助け無い理由にはならないんだな!」

 

おーおー、1人を除いて良い覚悟だな。

特に前田なんてよくもまぁ、知らない奴の為に頑張ろうなんて気になるもんだ。

ま、頑張ってくれよ? 俺達を助ける為にな。

 

「「「決闘(デュエル)!」」」「「決闘(デュエル)」」「デュ、決闘(デュエル)……」

 

威勢良く言ったのは遊城とタイタン、そして前田。

普通の声で言ったのが俺と咲良で、弱気で言ったのは丸藤だな。

この時点で既にそれぞれのやる気が分かるものだ。

 

――――――――――――――――――――

 

「僕のターンから……ドロー」

 

最初は翔のターンから。

確か使うデッキはロイドデッキだったっけ?

あまり強いイメージは無いし、この時期じゃあまりやる気も無かったはず。

どこまで頑張ってくれるかな?

 

「えっと、ジャイロイドを守備表示で召喚

カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

青いヘリコプターがデフォルメされた機械族モンスターが出てきた。

ジャイロイドって事は、やっぱり【ロイド】デッキ。

あのモンスターは1ターンに1度、戦闘では破壊されない効果が有ったはず。

最初に出すモンスターとしては良いモンスターね。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

次は堅守瑞貴のターン……

最後までデッキは分からなかったけど、これできっと分かる。

 

「インフェルニティ・ガーディアンを守備表示で召喚

カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

盾みたいな形をして、真ん中の炎の中に頭蓋骨が浮かんでるモンスターか……って、インフェルニティ!?

どうしてあんな1ターンキル率の高いデッキを……

 

「俺のターンだ、ドロー!」

 

今度は十代のターン。

最初のターンでもしてきそうな行動としては……

 

「よし、俺は手札から魔法カード、融合を発動!

手札のE・HERO フェザーマンとバーストレディを融合!

E・HERO フレイム・ウィングマンを融合召喚!」

 

右手には赤い竜のような砲口、左の背には白い翼、そして尾の生えた十代のフェイバリットカード。

1ターン目に登場する確率が高く、でもよくやられ役になってたっけ?

今回はどうなるのか……

 

「バトルだ!

フレイム・ウィングマンでインフェルニティ・ガーディアンに攻撃!

フレイム・シュート!」

 

だけど相手は堅守瑞貴、そう簡単に攻撃を通すとは……

 

「永続罠、ハンドレス・フェイクを発動

自分の場にインフェルニティと名の付くモンスターが存在している時

1ターンに1度、自分の手札を全て裏側表示で除外する事ができる

俺はこの効果を発動し、手札を全て除外する」

 

やっぱり……

 

「手札を除外したって攻撃は防げないぜ!」

 

「インフェルニティ・ガーディアンの効果発動

自分の手札が0枚の時、表側表示で存在するこのモンスターは戦闘、または効果によって破壊されない」

 

「なんだって!?」

 

フレイム・ウィングマンの竜の砲口から放たれた炎を受けつつも、何も影響が無かったように浮いている。

守備力1700のモンスターが最強最悪の盾として君臨する。

ガーディアンの名にふさわしいまでの鉄壁性能……これがインフェルニティ・ガーディアンの強さ。

 

「手札が0枚の時に発動する効果のモンスターだなんて変なモンスターだな

俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

十代は甘い、【インフェルニティ】の怖さを知らないからそんな事が言える。

現実の【インフェルニティ】を見たらどう思うか……

 

「私のターン、ドロー!」

 

タイタンのターン……つまり、必然的に次は名前を忘れた男子、最後は私になる。

タイタンのデッキは【チェスデーモン】、大体の予想はできる。

 

「この瞬間、ハンドレス・フェイクの効果発動

除外されたカードを手札に加える……ただし、現在俺のターンではない

よって俺の手札は現在のターンプレイヤーに渡される」

 

堅守瑞貴は横へ移動し、タイタンへと手札のカードを渡す。

これでタイタンの手札には堅守瑞貴のカードが入り、手札が9枚にまで……

もしかしてあのカード、手札トス用のカードとして使うつもり?

 

「ふむ……ほぅ? では、手札からジェネラルデーモンを捨て、効果を発動!

デッキよりフィールド魔法、万魔殿(パンディモニウム)-悪魔の巣窟を1枚、手札に加える」

 

フィールド魔法サーチモンスター!?

まさかあのカード、ハンドレス・フェイクで渡したカードじゃ!

だとすれば堅守瑞貴のデッキは単純な【インフェルニティ】デッキじゃない?

 

「そしてそのままフィールド魔法、万魔殿(パンディモニウム)-悪魔の巣窟-を発動!」

 

辺りが薄気味悪い、悪魔達の巣へと変化した。

そしてこの状況ではかなり拙いのでは?

 

「更にヘルポーンデーモンを召喚!」

 

右手は剣に、左手は盾となっている白い悪魔。

チェスで言えばポーンの位置に立つ、最弱と言ってもいい駒。

だけど、これはデュエルモンスターズではあまり当て嵌まらない。

 

「【デーモン】デッキ……だがそのモンスターには維持コストが必要なはずだ!」

 

「だがしかし、万魔殿(パンディモニウム)が存在している限り

デーモン達に必要な維持コストが無効となり、ライフを払う必要が無くなる

続いて装備魔法、デーモンの斧をヘルポーンデーモンに装備!」

 

グニグニと右手の剣が動き、斧へと変化される……なかなか気持ち悪い。

だけどこれで攻撃力は2200、E・HERO フレイム・ウィングマンを上回った!

 

「ヘルポーンデーモンでフレイム・ウィングマンに攻撃ぃ!」

 

斧を振りかぶり、強烈な斬撃でフレイム・ウィングマンは破壊される。

やっぱりあのモンスターって噛まs……そんな言い方は悪いか。

 

「くっ、フレイム・ウィングマン!」

 

これで十代は100ポイントのダメージを受けた。

そして確かこの後は……

 

「ふふふ、ダメージを受けた罰ゲームだ

さぁ、これを見よ」

 

タイタンが偽物の千年パズルを翳す。

見ろと言われて見てしまうのが人間の性、十代達はタイタンの持つ偽千年パズルを見てしまう。

そして偽千年パズルは輝き出す。

 

「消えてゆく、お前の体がライフポイントに従い、徐々に消える……」

 

怪しく輝く偽千年パズルの輝きが収まった時、十代の体の一部が消えていた。

このマジック、どうやってやってるのかイマイチ分からない。

 

「俺の体が……」

 

「これが闇のゲームだ

ライフポイントが0になった時、貴様の体は闇に食われて消え去るのだ」

 

「まさか、本当に闇のゲーム……」

 

「立ちこめた黒い霧が貴様達を包み込む

苦しいだろう? 息苦しいだろう? これが闇のゲームのプレッシャーだ

貴様達の足はもう動かず、誰もこのゲームから逃げる事はできない」

 

痺れ薬を混ぜた霧で足を止めて、息苦しさはその影響を受けたからというのはタイタンの言葉。

ネタは教えてもらったけど、それでもこの息苦しさと足が動かない状態は気持ち悪い……解毒剤、欲しいな。

 

「だが、闇のゲームをするには千年アイテムが必要のはず

お前はそれを……」

 

「ふふふふふ、これを見ろ

これこそ伝説の闇のアイテム、千年パズルだ

この決闘(デュエル)が闇のゲームという証よ」

 

「アレは千年アイテム……」

 

偽物に騙される3人……武藤遊戯を詳しく知らない人ってこんな反応なの?

やっぱりオカルトって普通の人はあまり知らないのだろうか?

それにしても、あまり話してるとボロが出るから話すのは止めた方がいいのでは?

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

大きい人のターン……本当に何て名前?

 

「俺は怒れる類人猿(バーサークゴリラ)を召喚するんだな!」

 

やや赤みがかった毛色をした大きなゴリラ。

使用デッキは【獣族】? それとも単なるアタッカー?

でも、テーマデッキとかを重視しているアニメ世界では単なるアタッカーの可能性は低そう。

多分【獣族】とか、【地属性】とかのデッキだと思う。

 

「更に装備魔法、猛獣の歯を怒れる類人猿(バーサークゴリラ)に装備!

攻撃力と守備力を300ポイントアップさせるんだな!」

 

よ、弱すぎる初期の強化装備魔法?

怒れる類人猿(バーサークゴリラ)の歯が猛獣の歯に変わったけど……殆どわからない。

だとしても、怒れる類人猿(バーサークゴリラ)の攻撃力は2300までアップした。

つまり、攻撃力2200のヘルポーンデーモンでは勝てないという事になる。

 

「ハンドレス・フェイクの効果を発動!

手札を全て除外し、インフェルニティ・ガーディアンは戦闘と効果で破壊されなくなる!」

 

「なら怒れる類人猿(バーサークゴリラ)でヘルポーンデーモンに攻撃なんだな!」

 

何故か口から炎を吐き出す地属性獣族の怒れる類人猿(バーサークゴリラ)……ん?

炎の中に何か別の……猛獣の歯が炎に混じって飛び出してる!?

ヘルポーンデーモンは炎に焼かれ、炎が消えた直後の猛獣の歯がぶつかって破壊された。

なんというか、ヘルポーンデーモンが可哀想になってしまう。

 

「ぬぅ……」

 

タイタンの体も少し消えていく。

本当にどうやってこれをしているのかとても気になる。

 

「よし、俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドなんだな!」

 

これで向こうの魔法・罠カードゾーンにカードが5枚揃った。

多人数で戦うのなら、こんな状況は不思議じゃない。

堅守瑞貴の性格、行動、考え方から予想するに……

 

「罠カード、ストレートフラッシュを発動

相手の場に魔法・罠カードゾーンにカードが全て存在している場合に発動できる

相手の魔法・罠カードゾーンに存在するカードを全て破壊する」

 

「な、なんだと!?」「そんなぁ!」「全部だってぇ!?」

 

そんなロマン系カードを……でも、多人数戦では有効な手段である事に間違いは無い。

実際に発動に成功している以上、馬鹿にできるようなカードでもなければ無視できない効果。

十代達の魔法・罠カードが輝き、破壊されてしまった。

 

「くっ……だが破壊された俺のカードはヒーロー・メダル!

このカードが相手によって破壊される場合、墓地へ送られずにデッキに戻る!

そしてデッキからカードを1枚ドローする!」

 

「僕の伏せカードはワンダーガレージ

セットされているこのカードが破壊された時

手札からLV4以下のロイドと名の付く機械族モンスターを特殊召喚できる!」

 

「だがターンプレイヤーは前田隼人

故に遊城十代のデッキにヒーロー・メダルは戻るが、ドロー効果は前田隼人が行う

ワンダーガレージの効果も、ロイドと名の付く機械族モンスターは前田隼人の手札から特殊召喚される」

 

「……ヒーロー・メダルの効果でドローするんだな

だけど、俺の手札にロイドと名の付く機械族モンスターは無い

だからワンダーガレージの効果は不発なんだな」

 

完全に嫌がらせ目的としか思えないようなカード。

しかも、タイミングも絶対に狙っていたとしか思えない。

そしてあの大きい人、前田隼人って名前だったのね。

 

次はやっと私のターンだけど、手札がやや事故を起こしてる。

こんなデッキだから仕方無いけど、このドローでどうにかできる?

 

「私のターン、ドロー」

 

ロマンは求められるけど、手札が足りない。

あと2枚ぐらい有れば……スタンバイフェイズ?

 

「スタンバイフェイズ時

ハンドレス・フェイクの効果により、タイタンの手札を私の手札に加える」

 

タイタンから手札を受け取り、手札を確認する。

この手札ならロマンを狙う事ができる……だから堅守瑞貴はこんなカードを使った?

手札が12枚も有れば割となんでもできる。

 

「ゼラの戦士を召喚」

 

緑の服と青いズボン、どこかで見たかのような青白い顔のような装飾の剣を持つ戦士。

そう、堅守瑞貴から渡されたこのデッキは……

 

「儀式魔法、ゼラの儀式を発動

手札か場から合計LVが8以上になるようにモンスターを生贄にする事でゼラを降臨させる

私は手札に存在するLV8のモンスター、プリズンクインデーモンを生贄に捧げ

幾多の戦士を誘惑し、破滅の道へと進ませる邪悪なる悪魔!

儀式召喚! 絶望の悪魔王、ゼラ!」

 

シンクロ召喚の時に使われていたような口上……これって楽しいな。

こういう特殊な召喚の時に使うと恥ずかしいけど格好いいし、なんというか……開放感?

シンクロ召喚の時にはよく言ってたし、こういう口上は時々したいな。

 

「攻撃力2800のモンスターだって!」

 

「こんなん勝てるわけ無いッス!」

 

「ゼラって……確かあの青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)を超える幻の超レアカードじゃ?

俺の気のせいなのか? それとも俺の記憶が間違ってるのかなぁ?」

 

え、そうなの?

アニメにそんな設定が有った記憶なんて無い。

また忘れてるのか、それとも知らないだけ?

 

ともかく、青白い肌をし、紫のマントを着けた巨大な悪魔。

その爪は鋭く、攻撃力2800の悪魔王としての威厳が出ている。

っと、まだ続けないと……

 

「ゼラはゼラの戦士を悪魔の道へと誘惑する

しかしゼラの戦士が目指すは大天使への道……そんな彼の運命は?」

 

「大天使を目指す男が悪魔なんかの誘惑に乗るはず無い!」

 

「そうッスそうッス!」

 

「頑張ってる人を誘惑するなんて酷いんだな!」

 

……モンスター世界のストーリーにここまで真剣に反論する人、初めて見た。

やっぱり3人共、デュエルモンスターズが好きなんだ。

だけど、ここは感動の正道ストーリーを破壊しないと……

 

「しかしここは悪魔の巣窟、そんな場所に迷い込んだゼラの戦士の命運は決まっていた

ゼラの戦士は悪魔王の誘惑に導かれ、闇の契約により悪魔への道へ進んでいく……」

 

ゼラはゼラの戦士の前に立ち、どこからか持ち出したのか、ワイングラスをゼラの戦士に渡す。

ゼラの戦士は悩みながらもその杯を受け取り、ワインなのか血なのか……赤い液体を一気に飲み干す。

その瞬間、ゼラの戦士は苦しみ始め、肉体が大きく変化していく……

 

「場に万魔殿(パンディモニウム)-悪魔の巣窟が存在している時にのみ、このモンスターは特殊召喚される

ゼラの戦士を生贄に捧げ、手札よりデビルマゼラを特殊召喚する」

 

持っていた剣は消滅し、顔が悪魔のように凶悪に歪んでしまう。

更に背からは緑の翼が現れ、爪は鋭く尖り、フードの角は凶悪な形へと変化する。

これがゼラの戦士のなれの果て……悪魔へと堕ちた姿。

 

「あぁああああ! 悪の道に進んじまったぁ!」

 

十代、ちょっとリアクション激しすぎない?

見ていて楽しい、堅守瑞貴も楽しんでいる。

 

「また、攻撃力2800のモンスターなんだな……」

 

「このモンスターは万魔殿(パンディモニウム)-悪魔の巣窟が存在している時のみ

自分の場に存在するゼラの戦士を生贄にして手札から特殊召喚できる

更に自分の場に万魔殿(パンディモニウム)-悪魔の巣窟が存在している時に特殊召喚に成功した時

相手は手札をランダムに3枚捨てる……現在のターンプレイヤーである前田隼人の手札を3枚捨てる」

 

「俺の手札が……0枚になった!?」

 

前田隼人……言い難いから隼人でいい。

隼人の手札が0枚になったからもう何も抵抗はできない。

なら次にする事は……

 

「魔法カード、思い出のブランコを発動

自分の墓地に存在する通常モンスターを1体、特殊召喚する

ただし、エンドフェイズ時にこの効果で特殊召喚したモンスターは破壊される

この効果により、ゼラの戦士を墓地より特殊召喚」

 

再び場に現れるゼラの戦士。

そして隣に立つデビルマゼラの姿を見て、驚き、悲しみの顔を見せる。

やはり闇の道へと進んだ己の姿に後悔しているのだろうか?

 

「魔法カード、テラ・フォーミングを発動

デッキからフィールド魔法を1枚選択し、手札に加える

私はデッキよりフィールド魔法、天空の聖域を手札に加える」

 

これで次の準備は整った……

 

「悪魔への道へ進んだゼラの戦士

しかしそれを後悔し、過去を思い出した彼は改めて大天使への道を願う

そんな彼を再び悪魔王ゼラは悪への道へと誘おうとする

だが彼は今度こそ誘惑を振り払い、聖域へと足を踏み入れる……

フィールド魔法、天空の聖域を発動し、万魔殿(パンディモニウム)-悪魔の巣窟は新たなフィールド魔法の発動で破壊される

この聖域が存在している限り、天使族モンスターが受ける戦闘ダメージは0となる」

 

悪魔の巣窟は破壊され、辺りは白き聖域へと姿を変える。

ここは天空に存在する雲の更に上の神聖なる聖域……ゼラの戦士の目的地。

 

「悪魔王ゼラの誘惑を拒み続け、天空の聖域へと足を踏み入れたゼラの戦士

1度は悪への道へ進んだ彼を、聖域の者は歓迎する

そんな彼は、大天使への資格を手に入れる事により、大天使への姿を現す……」

 

ゼラの戦士の姿が白へと変わっていき、美しい白き翼が現れる。

手に持つ剣は青白い姿から白銀の剣への変わり、悪魔への道を断ち切る。

これがゼラの戦士の望んだ、大天使の姿。

 

「すげぇ……これがゼラの戦士が目指した大天使の姿か!

すげぇ、すげぇよ! ゼラの戦士も頑張ったんだな!」

 

……十代、これは偽物とはいえ一応闇のゲーム。

どうしてそんな興奮できる? 忘れてる?

 

「興奮している場合じゃないッスよアニキ……

攻撃力2800のモンスターが3体に増えたんスよ?」

 

「この大天使ゼラートはフィールド魔法、天空の聖域が存在している時のみ

場のゼラの戦士を生贄にする事で手札から特殊召喚ができる

そして自分の場に天空の聖域が存在している時

手札の光属性モンスターを1枚墓地へ送る事で、相手の場のモンスターを全て破壊できる」

 

「相手のモンスターを全滅させるだって!?」

 

「そんなの反則ッス! ズルッス! 卑怯ッス!」

 

「そんな事されたらこのターンで俺達のライフが0になるんだな!」

 

そんな3人の期待に応えたい所だけど……

 

「効果の説明をしただけ、効果を発動するとは言っていない」

 

というか、発動できない……手札に光属性モンスターが無い。

私のデッキの手札は全て使ってしまったし、2人は光属性メインのデッキじゃない。

チェスデーモンには光属性のデスルークデーモンが有るけど、タイタンの手札に無かった。

もし効果の発動に成功していたら2800×3の8400のダメージで1ターンキルになっていた。

 

ちなみに私の初期手札はデビルマゼラ、大天使ゼラート、ゼラの戦士、ゼラ、ゼラの儀式、思い出のブランコ

もし手札トスが無ければゼラの儀式で大天使ゼラートを生贄にしてゼラ降臨、更にデビルマゼラしか出せなかった。

渡された手札に儀式に使えるLV8のモンスター、フィールド魔法のサーチカードが有ったからできたコンボ。

多分、どちらも堅守瑞貴のカード……残りの手札のカードは多分タイタンのカードのはず。

堅守瑞貴、絶対にこのデッキとタイタンのデッキを合わせて組んだデッキに決まってる。

そうでなければここまで見事なサポートカードをパスなんてできるはずが無い。

 

それにしても、なんて夢の共演……

ゼラの戦士とゼラの同時出現に、ゼラが出ている間のデビルマゼラへの悪魔堕ち。

更に元の姿に戻ってから大天使への道を進む姿……そして同時に同じ場へ立つ2人。

デビルマゼラと大天使ゼラートが同時に現れる場なんて滅多に見れる場じゃない。

しかもゼラも立っているし、これを夢の共演と言わずになんと言えばいいのか……

 

「バトル、デビルマゼラでジャイロイドに攻撃」

 

デビルマゼラが巨大になった爪でジャイロイドを強烈に引き裂く。

だけどジャイロイドはボロボロになりながらも耐え抜く……

 

「じゃ、ジャイロイドは1ターンに1度、戦闘では破壊されない!」

 

「大天使ゼラート、ジャイロイドを倒せ」

 

私の指示により、大天使ゼラートはジャイロイドに近づく。

ジャイロイドは冷や汗を出してゼラートを見上げ……一瞬でバラバラに切り裂かれた。

……機械族のジャイロイドがどうやって冷や汗を出したのかを小一時間問い詰めたい所。

とにかく、大天使ゼラートとデビルマゼラの、ある意味同一人物による共同作業が終わった。

なんというか、なんだか満足した。

 

「ゼラ、怒れる類人猿(バーサークゴリラ)を攻撃」

 

デビルマゼラのように爪を逆立て、ボディブローのような動きでゴリラに爪を突き刺す。

その爪を回転させてゴリラの腹部を抉り、破壊する……なかなかのグロテスク。

とにかく、攻撃力が元に戻って2000の怒れる類人猿(バーサークゴリラ)を撃破し、800ポイントのダメージが与えられる。

それにより、十代の体がまた少し見えなくなる。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

やり過ぎた自覚は有るけど、決闘(デュエル)するからには手加減をするつもりは無い。

頑張れ主人公とその弟分と……友達? 私達に勝つのは至難の業。

だけど勝てた時、きっとそれは君達の自信に繋がる。

……でも、もう少し手加減した方がよかったかな?




今日の最強カード、Q&Aは後編の後書きに前編分も纏めて書きます。
更新は明日なので気長にお待ちください。

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