この面倒臭い根暗に祝福を 作:漆塗り
・・・今彼女は大記録へと挑戦中の様だ、暫くそっとしておこう。
タワー建築に必要な部品は残り3枚を残すのみだ。既に子供が見上げるほどの高さになっており、彼女も椅子の上に立っての作業になっている。
そろり、そろりと伸びる腕。微かな震えが崩壊へと繋がるその塔へと、ゆっくりと、確実にトランプが近づいていく。
・・・スッ
最後となる土台、その1枚がしっかりと塔の上に乗せられた。残り、2枚
1番難易度が高いのは此処だ。一度に2枚を纏めて立てなければならない上に、最後の部品ともなると緊張も一塩、更に1番高い場所なので体勢的にも厳しい物がある。
しかし、彼女はトランプの塔に立ち向かっていった。
不安を振り切るためか、先程よりも勢いの付いた両腕、しかしさっきよも安心感がある。
このまま流れに乗りきるか・・・!
そう思ったその瞬間、風が流れてきた。今日は穏やかな気候だった。日本ではもはや消えかけている春を感じさせる暖かな気温、風もなくのんびりとした雰囲気の漂う日だった。しかし、風が吹いた。
髪を少し攫うようなちいさな風、それは彼女のトランプタワーに近付いて、塔を崩壊に・・・
「ウィンドブレス」
ピタッ
彼女が何かを唱えた瞬間、崩れるかと思われた塔はその安定を取り戻した。
ウィンドブレス、たしか初級魔法だ。初級魔法は生活魔法と揶揄される程に力が小さい。ウィンドブレスもそれに漏れず、少し空気を操る程度の魔法と書かれていた。それを完璧に制御し、トランプタワー全体を襲った風の影響全てを相殺するように風を纏わせた、のだろう・・・
「天才かよ・・・」
「ひょぇっ!」
ガッターン、ゴッ
「・・・」
「きゅー・・・」
誠に遺憾に思います
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「いや、本当に申し訳ないです」
「い、いぇ・・・わた、私もその、お、大袈裟な反応をしたので・・・」
目の前の少女ーーゆんゆんと言うらしい、本名だーーが見ていて可哀想になるほどに縮こまり、掻き消えそうな声でそう返した。
いくら俺でも申し訳ないとは思った。あんな大作を一瞬で崩壊させてしまったのだから。妬み嫉みに塗れた俺の心の一部分は気にしていない様子だったが多少綺麗な一部分は罪悪感を抱いている。
そして、入る事が簡単そうなのでこのパーティに来た訳だが、ちょっと諦めようかな。
相手が女の子なのはまだ予想していた。しかし、予想より若かった。
中学生位だと思う。アークウィザードだと言うことを疑っている訳では無いが自分から関わるのは少しばかり面倒そうだ。男か、せめて同年代なら話しやすかったのに・・・。
しかし、入る事は諦めるがこの子を見捨てるのは心苦しい。この世界に来て初めての良い人演技をしてみようか。
「あ、そ、その紙・・・!も、もしかして、パーティ申請n」
「いや、違います」
「あ、そうですか・・・」
テーブルから乗り出すほど期待していたみたいだが、組む気はない。途端に萎れてしまった。
そうやって罪悪感を刺激するのは卑怯だぞ
「俺が来たのはアドバイスの為です」
「・・・アドバイス?」
自分がパーティに入らないなら、パーティメンバーが来るような募集文に変えてやればいい。と言うか、ギルドの連中も少しくらい手助けして上げようとか思わねぇのかな。
「ええ、アドバイスです。パーティメンバーを募集する為のコツを教えますよ」
こっちの常識なんて正直分からないが、コレよりはマシな物は作れる。
「まず、この2枚目の紙なんですが、こんなに必要ないですね。これがあるだけで『あ、ちょっとヤバい人かな』と思われてしまいます」
「ふぐっ」
「そして、当方アークウィザードと言う文、コレもカットします」
「えっでも、職業が無いと相手は不安になるんじゃ・・・」
まぁ、それはそうだろうが。
「ここは駆け出し冒険者の街アクセルです。上級職の上に、魔法に長ける紅魔族の出身ともなると、敷居が高くて初心者の冒険者は声を掛けずらいでしょうね。人が来ないのはこの2つの原因が大きいです」
「・・・そ、そう言われればそうですね・・・」
彼女の所持スキルを聞いたところ、中級魔法と上級魔法、そして少しばかりの体術も納めているらしい。いよいよ駆け出し冒険者では釣り合わない。
よってこうなった。
『初心者のパーティメンバーを募集しています』
当方、中級魔法が使えます。
まだ覚えたての初心者なので、同じように今から冒険を始める仲間を募集しています。クラス・レベルは問いません
「まぁ、こんなもんでしょうね」
「えっ、で、でもコレって詐欺なんj」
「誇張してる訳じゃないから大丈夫です。で、メンバーの前では中級魔法しか使わないようにして、緊急事態で使わざるを得ない時は魔力を全力で込めたとか言っとけば上級魔法使っても大丈夫でしょう」
は、はぁ・・・と納得の行かないような顔が見える。ぼっちは嫌なんだろうになぜ抵抗があるのか。
人間は知れば知る程分からなくなる。
「まぁ、・・・そうですね。その、友達・・・欲しいですし。・・・あの、一つ質問なんですけど、そう言う、人の事って、どうやれば分かるんですか・・・?」
人の事・・・俺は殆ど分かっちゃいない。もし彼女が『ちっ、上から目線で来やがって。だがまぁ言ってる事はズレちゃいねぇから聞いてやんよ』と内心思っていたとしても俺にそれを知る術は無い。まずそんなことは無いと思うが、無い話でも無いだろう。自分ならそう思うからだ。自分が少数派の人間なのは分かっているが他にいてもおかしくは無い。だがそれはそうとして、簡単な一言だけを伝えておいた。
「世の中は自分が思っている程自分に興味が無い、という言葉を聞いた事があります。見る限り、自分に自信が無いみたいですが、ゆんゆんさんは別に何がおかしいと言う訳じゃないですよ。少し世間知らずな所はあるかも知れませんが普通の女の子です。周りの人に笑われてる、と感じる事があるとしても自分の思い込みな事が多いです。冒険者は豪快な性格の人が多いだろうと思うので、少し怖気付いてしまうかもしれませんが、そこでめげずに頑張る事が大切だと思いますよ」
ソコソコいい事言ったんじゃないか?まぁ、自分でそれをやれと言われても無理だし、そもそも自分の言ってる事が正しいなんてこれっぽっちも思ってないけどな。
しかしそんなアドバイスにも、ありがとうございます、とゆんゆんはお礼を言った。アドバイス料に・・・と何やら財布を取り出そうとするが、光明はそれを押し止めて一つ頼み事をする。
「図々しいかもしれないんですが、自分に中級魔法を教えて貰えませんか?自分は冒険者でして、それが1番助けになります」
「冒険者・・・そうだったんですね。そ、それなら私でもお手伝いできますね。お礼に、頑張ります・・・!」
頑張ると言っても、少し魔法を唱えるだけなんだけどな・・・。
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「では、簡単な物を使いますね」
「お願いします」
場所は寂れた広場、まだ街に来て間もない光明を先導したゆんゆんは、人の通らない路地裏をつたい、全く人気のない広場へと来ていた。一応光明は男なんだが。まぁ、レベル差もあるだろうし、ゆんゆんは体術の使えない光明より強いのかもしれない。
ふー、と息を吐き、キリッと表情を切り替えたゆんゆんの瞳は、赤く染っていた。
(・・・あぁ、だから『紅』魔族か。炎が得意なのかと思ってた)
「えぇと、詠唱は短縮していいんでしたよね?」
「はい、『詠唱短縮』も、出来れば覚えたいので」
ゆんゆんに、自分の初期スキルポイントが多い事を説明すると、持っているスキルの殆どを教えると言う話になった。
本来魔法は小っ恥ずかしい長い呪文を唱えなければならない。そしてそれを削ろうとすると消費する魔力が上がったり、威力が減少したりとデメリットがあるので、それを改善する為に魔法使いはパッシブスキルという常時発動のスキルを幾つも所持している。
調べた所によると
『高速詠唱』
『威力向上』
『消費魔力軽減』
なんかが代表的なものらしい。
そしてこのゆんゆんは『消費魔力軽減』と、『高速詠唱』の上位互換である『詠唱短縮』を覚えていると言うのだ。最高かよ
(あの程度で職業の技術を色々教えてくれるなんてとんだお人好しだな。絶対に食い物にされるタイプだ。というか、俺が食い物にしてるしな)
・・・そう考えると、いくら年下が面倒だからと言って、この世間知らずのお嬢さんを放置していいものなのかと思ってしまう。
「うぅん・・・」
「・・・?ど、どうしたんですか?魔法打ちますよ?」
「あ、お願いします」
行きます、そういった彼女の身体をオレンジっぽい光が覆う。そして直ぐに。
「ストーンエッジ!」
ズズっ!
ゆんゆんが魔法名を唱えると、前方の地面が突如浮き上がり、土が変形して尖った杭の形になった。
つんつんと触ってみると、元が土とは思えない程度に硬い。勢いもあったし、殺傷能力は充分ありそうだ。
「コレは・・・凄いですね。足元からだと見えないし、中々強そうに見えます」
「ま、魔法を唱えてから少し時間がかかるので、言葉が分かっていたら多分避けられますけどね・・・す、すみません。私が『詠唱破棄』を持ってたら、もっとお役に立てたのに・・・」
・・・何故そこで謝るんだろう・・・。卑屈さ加減といいお人好し加減といい、今までにあった事が無い人種だ。この世界にはこういう人が多いんだろうか、なら過ごしやすいかもしれない。
「いえ、コレでも充分以上に助かります。ありがとうございます。これでマトモに戦えそうです」
冒険者カードに浮かんだスキルをポチポチとタップして、俺は中級魔法を習得した。何が変わったという実感は無いが、俺はもう魔法が使えるはずだ。
なかなかに嬉しい
「少し、使ってみます」
「は、はい。頑張って下さい」
ゆんゆんを見習ってキリッとしてみると、なんだか身体が暑くなってきたような気がした。手を前に構え、杭を出す場所をイメージする。そして、ストーンエッジと唱えた。
・・・ズッ!
ゆんゆんの作り出した杭の近くに、半分ほどのサイズの杭が出てきた。それと同時に、身体を巡っていた熱が少し冷えた様な感覚もした。
「す、凄いですね、魔法使いじゃないのに、いきなりこんなサイズのストーンエッジが出せるなんて」
嫌味かな?触ってみると、充分な硬さはあると思うのだがいささか柔らかいような気もする。土属性の魔法は、まだ実用性が無さそうだ。
「いや、本当に助かりました。収入が安定したらまた、うおっ」
お礼に行きますと繋げようとしたのだが、振り返ると肘打ちをしかねない程近距離にゆんゆんが接近していた。
「ど、どうしました?」
「あ、い、いや。ちょっとその・・・あにょ、いたっ」
ぼっち気質らしく、今までもちょくちょくどもっていたが今回は比じゃない。何かやらかしたか?と思い返すも心当たりは無かった。
「あ、あの、も、もし、ですけど、その・・・よかったら・・・。お、お祝いでもしませんか!?」
・・・
「なんの?」