学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

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お久しぶりです、ちょいと肉体・精神共にゴタゴタしているうちに時間が経ってしまっていました。
7章の閑話、ワンワンワン放送局でのお話です。

そして、90000UAありがとうございます!


閑話:一方その頃

 季節は厳冬、1月も終わり2月に入った今頃は1年の中で最も寒い時期だ。文明の恩恵を受けていた頃でさえ外に出たいとは思えなかったのに、今年はそれに輪をかけて寒さがひどい。

 都市からの排熱がなくなり地表付近の温度が下がったのだかなんだ分からないが、週に1,2度は雪がちらつくほどである。もし薄着で外に出ようものなら冗談抜きで凍死しかねない。

 

 これが動物であるのなら巣穴で冬眠してしまうのが最も簡単かつ確実なこの季節をやり過ごす方法なのだが、残念ながら人間にはそんな便利な機能はついていない。

 そしてもう一つ、より大きな障害がある。今の時代、ただ籠るだけで安全な巣穴など存在しない、ということだ。

 

 現在聖イシドロス大学に出向いている凪原に胡桃、早川と照山、そして圭といったいわゆる前線組とは対照的に、ワンワンワン放送局に残っているメンバーはゾンビと正面から戦うことがあまり得意ではない。

 もちろん凪原と早川から訓練を受けているので最低限の自衛は可能なことに加え、何人かは一部の能力において前線組を持っている。それでも、ゾンビと連戦したり囲まれた時の対処には不安があるというのが現状である。

 

 しかしだからといって放送局に閉じ籠っていればいいというものでもない。閉じ籠っていればさしあたっては安全かもしれないが、外の変化を察知することができないからだ。

 例えばどこからか人間の気配を嗅ぎつけたゾンビの群れが現われた時、あるいは以前凪原と胡桃が遭遇したような野盗が付近に根城を構えた時など、すぐに対応に動くかは別として早く知っておくに越したことはない。

 

 外に探索に出た方がいいがそれをするには技量が不足しているため安全マージンが十分に確保できない。

 二律背反の命題に対し、学園生活部は幸運にも答えを示すことができていた。

 

「よーし、このコーナーで一気に最高速度までいっちゃうよ!」

「ちょっと由紀先輩、そんなスピード出しながら変な動きしないでくだ――ウップ」

 

 前半こそいつも通りの平坦なトーンで由紀を嗜めていた美紀だったが、後になるにつれてその声は細くなり最後にはこみ上げてきたナニを抑えるように口に手をやってしまう。

 

「みーくん大丈夫!?ビニール袋いる?出しちゃった方が楽って聞いたことがあるよッ!?」

「………出しませんよ。いくら卒業(仮)したとはいえ、私にも女子高生としてのプライドがあるんです」

 

 ()()()()()()()()()()()を放り出して心配する由紀の提案に、美紀は弱々しいながらもきっぱりと否定の意思を示した。

 こちらもゴーグルを外して膝の上に置き、片手を胸に手を当てながら深呼吸している。辛そうではあるが自身の中の守るべきもののために奮戦するその姿は、見る人が見れば感動が感動を呼ぶ大スペクタクルである、かもしれない。

 

ふぅ、もう大丈夫です」

 

 1分ほどかけて呼吸を整え、額に浮かんだ汗をぬぐったところでようやく美紀は由紀へと顔を向けた。まだ若干顔色が悪いながら、丸まっていた背もきちんと伸びている。

 

「ほんとに大丈夫?やっぱり袋とか持ってた方がいいんじゃない?」

「だから出しませんッ!それに、そんなに心配するならもっと丁寧に操縦してくださいよ」

 

 何度も確認する由紀にトレードマークのジト目を向けつつ美紀が答えれば、ようやく彼女も安心したようだ。表情を不安げなものからばつの悪そうなものに変わる。

 

「うぅ、ごみん。ゲームじゃないのにゲームみたいなのが楽しくって…」

「楽しんでやるのは全然構いませんけど、ドローンはあんまり数がないんですから無茶な動きはダメですって」

「いやー分かってはいるんだけどさー」

「というか今はどうなってるんですか?さっきはすぐ私の方に来てましたけど制御、ちゃんとできてます?」

「ああっ!?―――うん、大丈夫だったよ!なんか自動ホバリング?とかいうモードになってたみたい」

「なら良かったです。とにかく、ちゃんと丁寧に操縦してくださいよ?」

「はーい」

 

 指摘に大慌てで再びHMDを被る由紀。

 すぐに嬉しそうな声で報告した、恐らく単語の意味は理解していないだろう。?マークが付いているのがよく分かるイントネーションだった。

 それを感じ取ったのと、「次はどんな動きしようかな~」という独り言が聞こえてたため、美紀はため息をつく。

 

 彼女は体質的に乗り物やゲームで酔いやすい。昔は1人で静かに本を読んでいられればそれでよかったが、今となっては直した方がいい弱点となってしまっている。

 これも訓練だと思えば諦めもつくというものだ。

 

(まあ実際、遊びってわけでは全然ないし)

 

 そう納得をし、美紀も改めてHMDを装着した―――

 

「……ウプ

 

―――被る時に閉じていた目を開けて2秒で後悔することになったが。

 

 何はともあれ、ドローンである。

 

 照山が自身が通っていた大学から拝借して(盗んで)きて、初めて聖イシドロス大学に向かった時にはルート選定に用いたが、今は拠点周りのパトロールに使っていた。

 

 もっとも、由紀が操縦しているのは以前のものとは別の機体だ。

 2回りほど大型なため車に機器一式を積んでの運用は不可能になったものの、その分いくつかの機能がアップグレードされている。

 なかでもパトロールに役立つのは無線出力の強化と、操縦者の動きをトレースするカメラの搭載だろう。前者は言葉通りなので説明を省くとして後者の性能は画期的だ。

 

 カメラを搭載したラジコンは以前からあったがその多くは画角が固定されており、違う方向を見たい場合は機体ごと向きを変える必要があった。

 しかしこの機体に搭載されたカメラは違う。操縦者が着用したHMDの動きに合わせて画角をリアルタイムで変更でき、例えば右を見ながら直進する、というようなパイロットさながらの操縦が可能だ。

 周囲の様子をつぶさに確認したいというパトロール任務に、このカメラの仕様はもってこいである。

 おかげで実際に人が出向くのと変わらない、というか上空から見渡すことができる分より詳細な状況把握ができていた。

 

 なおこのカメラは機体の前後に操縦者用と同乗者用の計2つが搭載されている。

 それぞれが別のHMDに接続されているため互いに独立して動かせるが、違うのは可動範囲だ。操縦者用は前方200°なのに対し同乗者用は360°、全周への視界を有する。

 どうしても機体コントロールに意識を割く必要がある操縦者と違い、観察に集中できる同乗者を考えた設定だ。

 進行方向とは違う方向、それこそ真横や真後ろを監視し続けることもできる。

 

 まぁ、つまるところ何が言いたいのかといえば―――

 

「………やっぱりちょっと止めてください。やばいです」

「みーくんッ!??」

 

―――操縦者の運転次第では同乗者は酔う。とてつもなく、酔う。

 

 

 

====================

 

 

 

「この辺りは異常なしっぽいねー」

「いや、もっとちゃんと見てくださいよ。操縦してない分余裕があるんですから」

 

 あの後、再び乙女の気合を発揮してせり上がってきたナニカを押し戻した美紀は、由紀に頼んで操縦役を交代してもらった。

 渋る由紀の両肩に手を置き、鼻が触れ合うほどの至近距離から「変わってください」と全力のジト目とともにおねがい(命令)した結果である。その時の様子をもし凪原達第31代生徒会のメンツが見ていたとしたら、「めぐねえや隊長に迫る迫力」と評していただろう。

 

 直樹美紀、学園生活部のブレーキ役として日々着実に成長しているようだ。

 

 ともかく、パイロット(?)が美紀になったことでドローンの飛行はだいぶ安定した。

 先ほどの由紀の操縦を曲芸飛行のタイムアタックとするなら、こちらは観光地をのんびりとめぐる遊覧飛行だ。カーブでも機体を傾けることなく緩やかに曲がるのでHMDの画面が揺れることもない。

 

 しかし快適な空の旅ができればそれでよしというわけでもない。あくまでこの飛行の目的はパトロール、拠点の周囲に異常がないかを確認することだ。

 

「もう次のポイントに着きますよ。さっきと同じようにチェックをお願いします」

「任かされよー!―――えーと赤い車ヨシ、青い車ヨシ、バイク2台もオッケー。自転車は…うーん、1台倒れてるけどあれは風かゾンビさんじゃないかな、隣の三角コーンがそのままだし」

「了解です、でももう一回見てみてください。私も操縦しながらですけど見てみます」

「はいはーい」

 

 そんなことを話す2人がドローンから見下ろしているのは、住宅街の一角にある何の変哲もない交差点だ。

 事故を起こして動かなくなったり乗り捨てられたりした車、崩れたブロック塀や中身の零れた誰のものとも知れないトランクなど、大小さまざまなものが散乱していることまで含めて今となってはどこでも見られる光景である。

 

 これらはそれだけでは何の意味も持たない。せいぜいがそこを通ろうとする者の交通を妨害する程度の障害でしかない。

 しかしその配置が記録され、そして定期的にチェックされるようになった瞬間、全ての物体は警戒装置の一端を成す。

 

 車両であれ人であれ、そして動物やゾンビであれ、何かが動けばその後には痕跡が残る。まして、それが残りやすいように場が仕組まれているとなれば尚更である。

 実は、この交差点の現状は――そうと分からないように偽装されているが――全て凪原達が用意したものだ。

 どの方向から来てどこに行こうとしても、通り過ぎようとすれば障害物のうちのどれかに引っかかる。

 

 ゾンビや動物なら動かしたものを戻す知能はないし、生存者であっても結果は同じだろう。このご時世にわざわざそんなお行儀のよいことをするとは考えにくい。

 それなりの人数のグループになればあまり自分達の動向が目立たないよう片付けくらいはするかもしれない。それでも規模が大きくなればその分生じる痕跡も多くなる。すべてを消すことは不可能だ。

 例外なのは訓練と経験を積んだごく少数の人間が通過した場合である。自らの存在を徹底的に隠蔽された場合は流石に痕跡を探すのは難しいだろう。

 一応そういった手合いに対する策も講じてあるが効果のほどは未知数である。

 

「うん、やっぱり問題ないんじゃないかな」

「そうですね。それじゃあ次のポイントに向かいます」

 

 由紀の声を受けてドローンの速度を上げる美紀。

 ここのような偽装地点は一つではない。交差点に限らず三叉路や裏路地、更には通り抜けができそうな庭など、ワンワンワン放送局に通じそうな場所には似たような仕掛けが施されている。

 

 そんな場所を回り異常がないかを確認する、それが現在行っているパトロールの目的だ。これを1日3回、最低でも2回、放送局に残ったメンツは行っていた。

 決して楽ではないが必要なこととして全員が真面目に取り組んでいる。

 

 

 

====================

 

 

 

「―――よし、これで午前の巡回は終わりですね」

 

 HMDを外して机に置き、美紀は両手を上にあげながら大きく伸びをしていた。「~~~っ」と、普段の彼女からはあまり聞くことのできない声が漏れる。

 パトロールにかかった時間は1時間と少し。常に操縦していたわけではないとはいえ、ずっと同じ体勢でいれば体も固まるというものだろう。

 

「なんかさー、気のせいかもしれないけど最近少しゾンビさんの数が増えてきてるよね~」

 

 無意識に腕を回していた美紀に由紀から声が掛けられる。こちらは椅子から立ち上がり、片手を腰に当てながらもう一方の腕をそちら側へ伸ばすという、まさに絵に描いたようなストレッチを行っていた。

 2人とも一仕事終えて弛緩した空気だが、話題自体は真面目なものだ。

 

「たしかに、記録を見ると微妙に数が増えていますね。この程度なら誤差の範囲ともとれますが」

 

 パラパラ、とノートをめくりながら答える美紀。日々のパトロールの内容が記されたそれには、当然ながら確認されたゾンビの数も書かれている。

 そしてそのデータは、由紀の言葉通りわずかな増加傾向を示してた。

 

「まあ多分大丈夫だとは思うけどね~、案外雪が珍しくてテンションが上がっちゃったとかかもしれないし」

「それはないと思います」

 

 由紀のお気楽発言を切って捨てつつも、美紀自身もそこまで深刻に考えているわけではない。

 実際ゾンビの増加量は非常に小さく、記録を付けていなければ分からないレベルだ。少なくなる日も普通にあるので、単なる偶然という可能性も十分にある。

 さらに言えば、基本的に敷地から出ることなく過ごしているおかげか、意識的に――実際に意識があるかは置いておくとして――放送局の場所をピンポイントで目指してくる個体は今のところいない。あちらへフラフラ、こちらへフラフラと彷徨ううちにこの近くにたどり着いたというのが正解なのかもしれない。

 

「しばらくは様子見ですね。ちょうど今日の夕方に次の当番なので今との違いを見ておきます」

「さすがに真面目だね~、じゃあ私も明日の昼だから見ておこうかな」

 

 とはいえ楽観も良くないので今後も注意を払っておく必要がある。

 ノートの記録も大切だが、やはり自分の目で見た方がわずかな差に気付きやすいのだ。

 このパトロールは担当者や時間を固定せず様々な時刻に異なるペアで行っているが、これも理由は似たようなものだ。色々なタイミングでそれぞれ異なる観点から見ることで違ったことが見えてくるかもしれないのである。

 

「ちなみにみーくんの次のペアは誰?」

「えーっと、葵さんですね」

「アオさんか~。そういえばさ、」

「なんですか?」

 

 キャスター付きの椅子の上でグルグル回っている由紀の言葉に美紀が首をかしげる。

 回転を止めて美紀に向き直ったところで由紀は続きを口にした。

 

「なんかアオさんってみーくんに似てるよね、なんかお姉ちゃんみたい。私は一人っ子だったからうらやましいよ」

「えぇ…。確かに見た感じは似てる気がしないでもないですけど―――」

 

 美紀がそこまで言ったところで、無線室の部屋がノックと共に開かれる。そこからひょっこりと顔を出したのはちょうど話題になっていた葵だった。

 

「やあお二人さん、もう朝のパトロールは終わったかな?うん、終わってるね。ちょっとりーさんのとこに遊びに行かない?今日は大根とか白菜とかたくさん収穫するって言ってたから面白そうだs「ダメですよ~」」

 

 言い終わる前に伸びてきた腕が葵の腕をがっしりと掴んだ。

 

「捕まえました。あおちゃん、まだ午前の家事当番の仕事は終わっていませんよ。洗濯が終わるまでの間にお掃除をして、洗濯物を干したらお昼とお夕飯の下準備です」

「あ~~~」

 

 腕の持ち主である慈に引きずられ、葵は情けない声を出しながら2人の視界からフェードアウトしていった。

 

「「………。」」

 

 わずか数秒で消えた葵に何とも言えず沈黙する由紀と美紀。

 

「―――あんな感じの人が姉なのはちょっと」

「え~?楽しそうだと思うけどな。お姉ちゃんと妹で性格が違うのもますます姉妹っぽいし」

「なんかそれっぽい気がしてきてしまったのでやめてください」




以上、戦闘組がいない間ワンワンワン放送局ではどうしているのかというお話でした。


外に出るのは万が一を考えると危ないし、かといって閉じ籠っているのも外の様子が分からないのでそれはそれで危ない。ならどうするか、というのを考えた結果がドローンによるパトロールでした。

現実でも災害時の状況確認にドローンを用いることが増えてきているので、照山が大学から持ってきた機体もそのような仕様であってもおかしくないと思います。
上空によく分からない機械が飛んでいたとしてもゾンビはあまり気にしないでしょう。原作ではプロペラ音がうるさいと言われてますが高度があれば平気なはず…。とはいえ高すぎると生存者に見つかる可能性もあるので塩梅が難しそう。

そして生存者に見つかった場合後を付けられるんじゃね?という問いについて、同じ懸念を抱いた凪原達により放送局とは全く違う場所に待機・充電用の家屋が確保されているので大丈夫です。


ほんとはパトロールだけじゃなくて放送局の日常を色々書きたかったんです(悠里と篠生・太郎丸の畑仕事とか、高上とるーちゃんのお勉強タイムとか)。でもパトロールだけで6000字に乗ったうえ投稿期間を開けるのも違うだろということで泣く泣くこ子までになりました。
いつか日常パートを色々書いてやる(鋼の意思)。


次からはいよいよ第8章がスタートしますが、まだプロットに不安があるので来週投稿できるかはフィフティーフィフティーです。
それでも大筋は決まっているのでエタることはないと思いますのでこれからもよろしくお願いします!

それではまた次回!
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