毎週投稿と謳っておきながらこれでは隔週投稿になってしまっているので何とか投稿ペースを戻したいと考えている今日この頃、
そんな筆者の反省はさておき8章2話目です。
図書館2階の最奥、備え付けの椅子やテーブルにソファーに毛布や食料品など大小さまざまな物品が加わり、その場所には不思議な生活感が生み出されていた。周囲を幾重にも取り囲む本棚やそこに収められた無数の本が熱の拡散を防いでいるのか、暖房など一切使っていないにもかかわらず卓上時計の液晶の片隅に移る室温はギリギリで20度を上回っている。
そんな、静かに本を読みたい人にとっては天国のような空間で1組の男女がくつろいでいた。
「それで、結果はどうだったんだい?――って、聞くまでもないか」
女性の方はこの図書館の主であるところの理瀬だ。相も変わらず肩出しのシャツを着ているが、その上からストールを羽織っているので寒くはないのだろう。
定位置であるソファーに腰掛け、両手で抱えたティーカップから湯気と共に立ち上る香りを楽しんでいる彼女の顔には苦笑が浮かんでいた。
「ええ、けんもほろろに追い返されました」
そしてその対面の椅子に座っているのは凪原だった。両肘をテーブルに突きながら背を丸め、ズズッと音を立てながら湯呑を傾けている。普段の自信ありげなのとは打って変わって、やさぐれているとも取れる様子の彼はあまり見られるものではない。
「フフッ」
「笑わないでくださいよ」
「いやいや失敬。まだあまり付き合いが長いわけではないが、今みたいな君はなかなかに珍しい気がしてね」
「………。」
そこを理瀬に指摘され、自覚もあったために反論できない凪原。無言のままさらに湯呑の角度を上げて視線を遮るしかなく、そのせいでさらに笑われる結果となった。
ところで、2人が飲んでいるのはそれなりの等級の緑茶である。本のレンタル料がてら、遠征で見つけたコーヒー豆や紅茶の茶葉と合わせて専用の道具込みで差し入れたものだ。
今日見たところどれも同じようなペースで消費されているので、そこそこ気に入ってくれたらしい。
次に来るときにでも追加分を持ってこよう、と凪原は頭の片隅にメモしておく。
そのまま軽い雑談を交えながらお互いにコップの中身を空にし、2杯目を注いだところでようやく話が本題へと移る。
「さて、それじゃあ改めて聞くけどどうだった?
「だから話という程のものはなかったですって。つーか、そんなこと知ってるなら先に言っといてくれてもいいじゃないすか」
「言ったら変に身構えてしまうじゃないか。それにあだ名はあくまでまわりの憶測を含むからね、ありのままのところを知りたかったのさ」
本好きというのは総じて――無論例外はあるが――知識欲が高い傾向がある。
本を読むことで新しい知識を取得しそこで生まれた疑問をまた別の本を読むことで解決する、そのサイクルを苦にすることなくむしろ楽しんで続けられるタイプの人間だ。
彼女の場合、その知識欲の対象は本に限られたものではなかったということだろう。
「………ハァ、……やっぱりあなたもその人種かぁ」
そして残念なことに、その光は凪原に大変馴染みがあるものだ。
彼の高校の同期達、巡ヶ丘学院第31期生は変人のオンパレードだったが、全員が自分がやりたいと思うことに対して全力投球できる人間だった。
彼等彼女等が
その内容はまともであったためしがなく、時にはすべきこと――例えば勉学など――をおろそかにしてでも自分のしたいことを優先する姿勢は、放蕩の烙印を押されても致し方がないという者も数多くいた。
しかしそれでも、凪原はそんな人たちのことが嫌いではない。
そもそも彼自身がそのような人間の筆頭であるというのはさておいたとして、やりたいことをしている時の彼等の表情が好きだからだ。
非常に活き活きと、楽しそうにしている彼等からはプラスのエネルギーが猛烈な勢いで放出される。それは近くにいるだけで自分の中にどんどん入ってきて、抱いている負の感情をどこかへと追いやってしまう。
そんな活力にあふれた仲間がいる環境の居心地のよさが、凪原は大好きだった。
もちろんいきなり騒動に巻き込まれ、思い切り振り回される(ときには比喩でなく物理的に)のも度々だ。予期せぬタイミングでとんでもない状況に放り込まれる、というのは31期生であれば誰もが1度は体験しているだろう。
もちろんそんな瞬間には『こんの野郎…』と思う、理不尽に巻き込まれている以上それは当然だ。
それでも終わってみれば『ああ面白かった』と、そう言い合える間柄というのどれほど貴重なものか。若干二十歳の身では完全に理解などできるはずもないが、少なくとも得難いものであることは分かっている。
そう言った人間との縁は望んだところでそうそう得られるものではない。
もし運良く得られたのなら、その絆を繋ぎ続けていくための努力はすべきである。例えば定期的に連絡を取り合う、または相手の頼みを聞くなどが関係維持に効果的だ………………後者は内容や程度にも寄るが。
「分かりましたよ。でもほんとに話せることだけ、ですからね。会話があまり続かなかったんですから」
今回の場合、頼まれたのは話すだけだ、それならば別に渋る必要もないだろう。
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「さて、と。ほんとに人いんのか、ここ?」
角材を打ち付け、さらに取っ手に幾重にも鎖を巻き付けることで厳重に封印された理学棟の正面扉前で、凪原は1人疑問の声を上げた。
朝の悠里との会話でワクチンの
彼女曰く、中にいるゾンビの掃討ができていないので入り口を封鎖しているだけのようだ。自分達は完全に放置しているし、武闘派の方も周辺の警戒はしているが中に入る気はなさそうであるとのことだった。
それならば話は早い。こっそり忍び込んでパパッとゾンビを殲滅し、しかる後に悠々と中を捜索すればすぐに見つかるだろう。そう考えた凪原だったが、一応集められる情報は集めておこうと図書館にいる理瀬にも話を聞きに行った。
ところがそこで彼女から聞いたことには、どうやら理学棟にはまだ人がいるようだった。人影、もちろんゾンビではなく意志ある人間の動きをしているのを少し前に見たと言ってた。
理学棟内には売店があることに加え、各研究室には学生が持ち込んでいたインスタント類があるであろうことを加味すればまだ生きている可能性は十分にあるとのことらしい。
さすがに人がいる建物の窓をぶち破るわけにはいかない。
幸い電気は通っており、正面扉横にあるインターホンを使えば中にいる誰かと連絡が取れるはずだというので大人しく武闘派に見つからないようにしながら入口までやってきた―――ところで狂気的なまでに閉ざされた扉を見て思わず出てしまったのが先ほどの凪原の言葉であった。
「これじゃいたとしても中から出るのは無理、でもないな。俺が考えてたみたいに窓破ればいいわけだし」
自分の言葉を自分で否定して1人納得する凪原。
しかしこの理学棟、1階,2階部分には一切窓がなく非常階段の類も外付けではなく建物内部にあるようで出入口はここと裏側の2箇所、もちろんそちらも同じように厳重に封鎖されている。恐らくは危険物管理の観点から出入記録を付けやすくするための措置なのだろう。
そのため凪原の言った方法では、進入には3階までの壁登りスキルが、脱出には飛び降りる度胸と身体能力が必要になる。つまり、ある程度人外に足を突っ込んでいる人間でなければ不可能である。
常であれば近くにいる胡桃などからツッコミが入るところだが、現在は凪原1人なのでここで補足しておく。
「そんじゃあんまり長居もできないから押すか。武闘派に見つかったら面倒だし」
言いながら凪原はインターホンのボタンを間隔をあけて2回押し込む。偶然や気のせいではないと示すためで、3回でないのはそれで反応がないなら聞こえる位置にいないという予想からだ。
少し時間を空けてからもう1,2度同じようにすればいいだろう。
「つーかここ臭いもうめき声もすごいな、そりゃ誰も近づきたがらないわけだ、なぁくr………あ」
言いかけたところで隣に誰もいないことを思い出しきまりが悪そうに頭を掻くが、取り繕う相手もいないことに気付き大きくため息をつく。
凪原、隣に胡桃がいるのが当たり前になりすぎて無意識のうちに声をかけてしまうことが最近増えていた。
ちなみに胡桃にも同じことが起きているのだが、お互いに恥ずかしいため言っていない。もちろん2人以外は皆が知っている。
そんなカップルの近況にはさておき凪原の先の独り言だ。
その言葉は臭いとうめき声についてだったが、正直なところ前者については気にするほどのものではない。なにせあちこちをゾンビすなわち腐ったした死体が動き回っているのである、外に出ればどこであっても大なり小なり腐敗臭は漂ってくる。
あちこちに出向いている凪原にとってはもはや嗅ぎ慣れた臭いだ、もっとも慣れたくて慣れたわけではないが。
それより問題なのはうめき声の方だ。
基本ゾンビは常に意味不明な声をあげているものの、それはあまり大きいものではない。せいぜいが隣へ座る相手へ話かける程度の声量である。
だというのに、凪原がいる付近はをパンデミック前の朝の駅前を彷彿とさせるほどの騒々しさだった。1体や2体どころか10体や20体でもこうはならない、少なく見積もってもクラス1つ分かそれ以上だろう。
一か所に群れている数としてはなかなか珍しく、何かしら理由でもなければお目にかかれない現象だ。
無論、それは今回だって例外ではない。
「お墓……ね、死者が留まる場所って意味じゃ間違っちゃいないけどさ」
凪原の視線の先は幾つかのコンテナが鎮座している、桐子に『お墓』と説明された場所だった。「聖イシドロス大学」と大学名が書かれていたり「学祭用倉庫」と銘打たれていたりと、どれも元々大学構内にあったことを思わせる。
しかしそれらはあるものは横倒しになりまたあるものはかつてあったであろう生垣を踏みつぶして置かれているなど、一つとして以前からそこにあったわけではなさそうだった。現に運搬したのであろうフォークリフトが近くに放置されている。
ただ凪原が真に見ているのはそのコンテナ群の中央、四方を囲まれた狭い空間に閉じ込められているゾンビ達だ。うめき声と共にバンバンと金属を叩く音が幾重にも重なっているので五体満足?な個体がひしめいているのだろう。
「校舎内で窓まで誘導してそのまま下に、か。しっかり始末までするならいいけどこれじゃ時限爆弾と一緒だぞ―――って、お?」
戦闘組で相談して近いうちに中の掃討をしよう、と脳内スケジュール帳に書き込んだところでインターホンのランプが灯った。どうやら理瀬の言った通り、本当に理学棟内に生存者がいたようだ。
内心「どうせいないだろう」と思っていたため少々驚きながら意識をコンテナ群から戻す。
「えーと、もしもし?聞こえてたら返事をしてもらえると嬉しいんだけど」
とりあえず軽く手を振りながら話しかける。最近では一般的になったカメラ付きのタイプなので相手には凪原の姿が見えているはずだった。
手を下ろして数秒後、スピーカーからノイズ交じりの声が聞こえてきた。
「………この前の大学の外から来たというグループの仲間か?」
(くぐもってはいるけど女性の声だな、それよりこちらのことを知っている?)「ああそうだ、俺達の誰かと会ったことがあるのか?いつだ?」
「年が明けるよりもそれなりに前で会ってはいない。地毛がパールホワイトというのは珍しいしなにより制服姿なのが気になってな、コレを使って声をかけただけだ」
(パープルホワイトってことは美紀か、後で連絡したときに聞いてみよう)「なるほど、そういうことか」
きちんと話が通じることにひとまず安堵する凪原。ここで武闘派と同じような相手が出てきたらそれだけでかなり気力を消耗することになっただろうからである。
しかし、話が通じることとこちらの希望が通ることは一致するわけではない。
「それで、何の用だ?」
「ああ、実はちょっと探したいものがあるから中を捜索させて欲し「断る」……えー」
取り付く島もない、という言葉の事例として辞書に載せたい程に一瞬で拒絶され、凪原にしては珍しく完全に素の状態の声が出てしまった。
「私は、お前達はもちろんもともと大学に居た連中とも付き合いはないから貸しも借りもない。その状態で素性の分からない他人を、わざわざ自分の拠点に招き入れると思うか?リスクだけがありリターンのない申し出を受けるわけがないだろう」
「そりゃ確かにそうかもしれないけど」
「どうしてもと言うなら入りたい理由を言え、その内容によっては考えてやる」
「それは……」
インターホン越しの相手が言っているのは全くもって正論だった。
何の非もないのにいきなり他人が自分の家の呼び鈴を鳴らし「家探しをさせろ」と言ってきたとしよう。まともな感性を持った人間なら断って当然だ。
続く言葉も何も不思議はない。「人に何かをしてほしいならその理由を述べよ」、小学校でも習うような当たり前のことである。
とはいえ凪原としても正直に話すのが憚られる事情があった。
この世界を一変させてしまったゾンビウィルス、その脅威を限定的とはいえ排除できるワクチンの存在は学園生活部にとってかなり上位に来る秘匿事項なのだ。
無論、調査の結果ワクチンを発見したとしても全て押収するような真似をする気はない。きちんと内容を説明して公正に分けようとは思っている。
ただ半ば確信しているとはいえ実際にあるか不明なものの存在を、素性のしれない相手に探す前から教えるのは得策ではないとも考えていた。相手のことがよく分かっていないのは彼女だけでなく凪原の側にとっても同じだからである。
「それが話せないのならこちらとしても譲歩はしかねる」
「まぁそうなるか………分かった、今日のところは一旦帰るわ。近いうちにまた話しに来ることにするよ」
「その程度なら問題ない。出れない時間はあるが、外の情報が入るのは私にとっても益になる」
そこまで言われると同時にインターホンのランプが消え、以降は何度ボタンを押しても反応が返ってくることはなかった。
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「―――ということで少し会話しただけで終了でした。また話は聞いてくれそうなのが一応の成果ですかね」
「ふぅむ…彼女との会話を聞いたのに状況描写の方が多かった気がするけど、外のこと知れたから良しとしようか」
私も基本
それでいて成績などは優秀過ぎる結果を示していたりするので質が悪い。
そんな彼・彼女等をイベントの名の下に引きずり出し、強制的に運動させたり周囲と交流を持たせたりするのが凪原達生徒会のあまり知られていない役目の1つだったりしたのだ。
(この人も体調に影響が出そうと判断した時点で同じようにすっか、ちょくちょくハヤとやってるパルクール徒競走に参加させればいいだろ。体が疲れりゃ強制的に休息をとるだろうし)
「………なんだか急に悪寒がしてきたんだけど、変なことを考えてないかい?」
「はてさてなんのことやら、冷えたんじゃないですかね?」
内心で決意を固めつつも凪原はすっとぼけ、理瀬が向けてくる疑念を右から左へと受け流す。
それでもしばらくは疑わし気な表情をしていた理瀬だったが、やがて諦めたようにため息をついた。
「ハァ、絶対何か企んでるみたいだけどもういいや。対応は未来の私に任せることにするよ」
「それが良いです」
「うーん、自白は得られたけどなんの解決にもなってないね………。まあそれは置いとくとして理学棟の主についてか、今聞いた感じだと前評判よりかは社交的なのか―――おや、またお客さんかな?」
言葉を中断して耳を澄ます理瀬。凪原の耳にも図書館のドアが勢いよく開かれる音に続いて、ズドドドドッと形容したくなる足音が聞こえてきた。ここが最奥であることを考えるととんでもない音量である。
そのまま足音は途切れることなく凪原と理瀬がいる方へと近づいて来て、1分もしないうちに音の主がツインテールを靡かせトレードマークのシャベルを振りかざしながら2人の前に姿を現した。
「ナギが浮気してるってのはここかぁっ!!?」
「「どうした(んだい)急に?」」
これで聖イシドロス大学に居る原作メンバーはすべて登場しましたよって後は誰を消すかだけですね。
あと前回後書きが書けなかったのでここで書きますと、本章でも「原作どこ行った?」的展開となる予定です。毎章頭で同じこと言ってる気がしますが今後はその度合いがどんどん大きくなっていくと思います。
そして前書きでも書きましたが最近投稿ペースが落ちている件について、筆者リアル事情のためとしか言えませんが執筆意欲が無くなっているわけではないということは宣言させていただきます。
むしろ、執筆できないことがストレスになるくらいには楽しく書いておりますのでどうか気長にお待ちいただけますと幸いです。
それではまた次回!