生存報告、2ヶ月以上ぶりだし七夕から1週間以上遅れたのは誤差ですね
「「ノックしてもしもーし!!」」
蹴破られたかのような勢いで寝室のドアが開かれ、その衝撃で気持ちよく寝ていた凪原は叩き起こされた。
「なんだいきなりっ、敵襲か!?」
訳が分からないながら襲撃の可能性を考え、即座にベット脇に立てかけていた応戦用の木刀を手に取るあたりは世紀末世界に適応していると言えるだろう。
立て膝ながら攻防どちらにも移行できる構えを取った凪原だった。しかしこちらを覗く2つの顔を見て入口へ向けていた切っ先を下ろした。
「んだよ
前言撤回。世紀末世界に馴染んだのではなく、彼等の高校時代の治安が世紀末世界顔負けだっただけらしい。
就寝中に襲撃を受けるのは巡ヶ丘31期にとっては茶飯事のようだ。
「いつの話してんの。部費バトルロワイヤルから丸2年は経ってるわよ」
「あんときゃまともに睡眠がとれるのは授業中くらいだったぞ、後半はそれも怪しかったけど」
「俺等が呷ったとはいえ一部が暴走しすぎたからな。………ところでよ───」
凪原に声色が昔を懐かしむものから疑念を含んだものへと変化した。下げられていた木刀もゆっくりと元の位置へと戻る。
「───なぁんで2人とも顔しか見せねえの?、俺の経験じゃそれなんか投げ込むときのやり口なんだけど。あと一応文句言っとくけど今朝5時だからな?寝かせろよ、ちゃんと」
「「ハッハッハ」」
「笑ってんじゃねえ」
半眼で向けられる視線を意に介さずに笑う早川と照山。主導権が取れている状況を楽しんでいるのが顔に出ていた。
その気持ちはよく分かる、立場が逆なら凪原も同じよう表情を浮かべるはずだ。
よって問題なのは主導権を握られている側だという点だろう。
今のところ被害は早朝に叩き起こされただけだが、こういう時は畳みかけるものと相場が決まっている。根拠は自分ならそうするからだ。要するにさらに続きがある確率は100%である。
「うん、会長なら分かるよなそりゃ」
「というわけではいっ、お届け
「やっぱりかい──っておいバカじゃねえの!?」
何かくるとは分かっていても、まさか人が文字通り
まず照山が開かれた時の勢いが強すぎて半開き状態になっていた扉を再度全開にし、そのすぐ後に続いて早川が入ってくる。
彼女の肩に担がれていた人ぐらいの大きさの何かが本当に人で、さらにいえば恋人の胡桃であると凪原が気付いた時には既に彼女の体は宙を舞っていた。
慌てて手にしていた木刀を投げ出して飛んできた胡桃を受け止める。何とか横抱きの要領でキャッチできたものの流石に勢いを殺しきれず、2人してベットに倒れ込んでしまった。
数秒経ち、まだこちらにしがみついている胡桃の頭に手を置いて凪原が口を開く。
「ってて…、胡桃怪我ないか?」
「う、うん大丈夫。それよりナギの方は平気?重くなかった?」
「俺の方は問題なし、それに全く重くないぞ、っと」
「ひゃっ」
胡桃を抱えたまま一息で体を起こし、胡坐をかいた足の上に座らせる。そのまま両腕を彼女のお腹の前に回し、ちょうどいい位置にある肩へ顎をのせる。
「それに全く重くない、まるで羽みたいだ。そんでこんなにやわっこいのに外じゃあれだけ動けて、ほんとに胡桃はすごいな」
「え、や、その……ありがと」
そのまま凪原は思い浮かんだことを口に出し、それを耳元で聞かされた胡桃はもごもごとお礼を言った後に小さくなった。ワンワンワン放送局で常にとまでは言わずとも度々見られる光景である。
どれだけ経っても初な反応を見せてくれるところが彼女の可愛いところだと、性別年齢を問わず学園生活部の全員から思われているのだが、本人は全く気付いていない。
「ちょっとテル見た?ナギったらあんなべたなセリフ言っちゃって」
「ああ、朝から見せつけてくれるな」
「うっせえぞ誘拐犯共」
あからさまにコソコソ話をする2人に手元にあった照明のリモコンを投げつける凪原。とはいえ体勢の都合で大して力を籠められず、対して本気でもなかった投擲は難なくキャッチされてしまう。
「ちょっと危ないじゃない」
「やかましい。人投げる方が危ないだろうが」
「なによ、うちが投げた人を怪我させるような素人に見えるの?」
「んなことで玄人になるな」
「人投げ検定準1級の実力なめんじゃないわよ」と嘯く早川に「そんな検定はねえ」とか「協会はどこだ」とか、あるいは「お前で準1なら1級のラインはなんだよ」など、湧き出てくるツッコみを半呼吸で飲み下し残りの半分で平常心に戻る。
これくらいできなければ巡ヶ丘31期生は務まらない。
「そんで結局何なんだよ?これで単なる嫌がらせとかだったら相応に暴れるぞ」
胡桃を投げ込んできた時点で緊急性の高いトラブルではないはずだ。おおかたイベントか何かを思いついたのだろう。
さすがに何の理由もなく朝5時に叩き起こされたのではないと思いたいが、なんせ相手はハヤにテル。
ちかごろは現役当時と比べて体が睡眠を欲するようになっているため、もし本当にただの嫌がらせであれば宣言通りに暴れる所存である。
「おいおいそれでも
「時計ぃー?」
肩をすくめる照山に促され、ベットレストへと目を向ける。
とはいえ置かれている卓上時計はデジタル式のごくありふれたものだ。時刻に日付、それから温度と湿度が表示されているだけである。
しばし液晶を眺めていた凪原だが、やがて「ああ」と声を出した。
「七夕か」
「「そういうこと(こった)」」
今日は7月7日、5節句の4番目である星まつりの日である。
気づいてしまえば簡単な話で、お祭り大好き人間である早川がこんな分かりやすいイベントを見逃すわけがないのだ。
「ただうちとしたことが昨日の夜まですっかり忘れててね、まだ何も準備ができてないのよ」
「だから今日超特急で準備するんだが、せっかくだから日頃のお礼も兼ねよう思ってな。会長と恵飛須沢さんは準備の間は部屋に籠っててもらおうってわけだ」
「てめえら日頃のお礼って大義名分出せば何してもいいと思ってるだろ……俺もだけどさ」
「「大義名分ってそういうものでしょ(だろ)」」
隠すことなくニヤリと笑う2人に凪原としてはため息を禁じ得ない。
だが彼女等ここまでやる気になっている以上、止めようとするのは時間と労力の無駄でしかない。さっさと諦めた方が吉である。
「あーまあいいや。ただほどほどに「「それは無理ね(だな)」」………だろうな、もう好きにしろや」
早川と照山が手を振りながら上機嫌で部屋を出ていき、凪原とその腕の中にいる胡桃だけが部屋に残された。
数秒の沈黙。
「まあとりあえず──」
「わわっ」
胡桃を抱えたまま再びベットに倒れ込む凪原。そのまま胡桃の自分より一回り小さい身体を抱え、バサリとまとめてタオルケットを被る。
「──もうひと眠りといこうぜ。インパクトがデカすぎて忘れかけてたけどまだ5時だ、仕事禁止って言われたんだから思いっきり寝てても文句は言われないだろ」
「あーたしかに、自覚したらあたしも結構眠いや。おやすみ」
「おう」
元々部屋数の問題や
「………そういやなんで大人しく担がれてたんだよ?抵抗なりなんなりできただろうに」
「っ、あたしはナギみたいに奇襲に慣れてるわけじゃないんだよ」(暴れたらこっそりナニしてたかバラすって脅されたなんて言えない…)
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「よーし、それじゃ物資調達を始めるわよ。笹、は建物周りにあるからいいとしてまずはモミの木と靴下にイルミネーション、それからこいのぼりと兜飾りね。あとは…落花生ってこの近所でどっか育ててたかしら?」
「ちょっと待ってください、何の準備をする気ですか?」
「ねえはやちゃん、一応確認するけど今日って7月7日で合ってるよね?5月5日でも12月24日でもないよね?」
ハンドルを切り、放送局の敷地を出ながらそう宣言した早川に、彼女と共に調達に出ることになった美紀と葵は堪らず待ったをかけた。
時刻はきちんと太陽が昇り切った午前10時。
このところ雨や曇りが多かった七夕、しかし今日は雲一つない快晴が広がっている。この分なら今日の夜空には期待できるだろう。
季節の催事を行うにはもってこいの日だ。
そんなわけで早川と照山が「七夕をやろう」と言い出した時には、美紀達は「たまには普通のイベントを企画することもあるのか」と変な感心をしつつも特に異論を挟むことなく賛成していた。
今思い返せば油断していたとしか思えない。
「?、2人ともどうしたのよ?何って七夕の準備に決まってるじゃない」
「笹以外のどれも七夕での用途が思い浮かびませんが?」
「どう考えても別のイベントに使うものだね」
「やれやれなってないわね。それじゃあ走ってる間に七夕について教授してあげるわ。あ、警戒はお願いね」
「見ておきますからしっかり説明してください」
「じゃあ左右見てるね、何がなってないんだか分からないけど」
文句を言いながらもそれぞれ自分の得物を持ち出して警戒の任に就く美紀と葵。
ちなみに、葵が構えているのは凪原や胡桃が使っているのと同じグロックカービンである。曰く、白兵武器は怖いしピストルは上手く狙えない、一番マシに使えるのがコレ、とのことらしい。
「まず基本として、願い事を書いた手紙を靴下にいれてイルミネーションで飾り付けをした笹にぶら下げるじゃない?」
「じゃない?じゃないです」
「うん、その役目は笹じゃなくてクリスマスのモミの木が担うものだね。というか、それならモミの木は何に使うのさ」
「きまってるでしょ、かがり火にするのよ」
「「かがり火!?」」
完全に声が揃う美紀と葵。美紀に至っては普段の敬語が消えてしまっている。
クリスマスの象徴たる──そもそも今はクリスマスではないが──モミの木にあろうことが着火すると宣言されれば驚くのも無理はない、のかもしれない。
「先輩、あなた信心を火にくべでもしました?」
「なによー、かがり火は神聖なもんなんだからいいでしょ。それにいくらうちだってクリスマス期間のツリーは燃やさないわよ」
「その時期に燃やしてたらもう疑う余地なしで悪魔か何かです」
「そう?大学いくと意外といるわよ、クリスマスのすべてを憎んで燃やそうとするやつ」
「どこの魔界の大学ですか?」
「………。」
完全に呆れ顔の美樹だが、その横で葵は何とも言えない顔で沈黙していた。そういった手合いに知り合いでもいたのだろう。
あるいは彼女自身が“そう”なのかもしれない。とはいえ人となりを考えれば流石に可能性は低いはずだ。
「そっそれよりも次のツッコミどころにいこうよ!」
「なんか葵さん慌ててません?、まぁいいんですけど。それにこいのぼりとかはどう考えてもこどもの日ですよね」
………低いはずである。
なぜか慌てている葵に美紀は疑問を抱くが、とりあえず流すことにした。確かに今はツッコミどころを潰す方が優先である。
「何言ってんの。こいのぼりに頭を噛んでもらって、お礼にカラフルに塗った卵を渡す七夕の一般的な厄払いじゃない。」
「獅子舞とイースターと、後なんか違う儀式が混ざってます」
「これ、はやちゃんだけじゃなくて凪原君と照山君にも言いたいんだけど、一般的って言葉の意味調べた方がいいと思うよ?」
「ちょっと、まるで
「「まるでじゃないです(よ)」」
心外だといった雰囲気の早川の言を切って捨てる2人。辞書で「一般」と引いたら対義語の項目に「巡ヶ丘31期」と出てくるだろうと思うほどには普通からかけ離れていると判断している。
「そんなに不満なら一応最後のも聞いとくけど、落花生はどうするつもり?」
「周りの人に叩きつけて殻を割ってみせることで、自分の願いがその人のよりも強いことを示すのよ」
「そんなことされたら鬼も逃げる、というかもはやはやちゃんが鬼だと思う」
「もうそろそろ日本の文化に謝った方がいいと思います」
やはり100対0で変人である、美紀と葵はそう結論付けた。
「あーもう、せっかくの茶番だから楽しんだもん勝ちでしょ!?なんせ───」
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「さて、そんじゃ準備していくぞ。とりあえず時間が掛かるそば打ちだな。それが終わったらひなあられを作ってからちょっと工作、んで午後は餅つきと流しコース作りだ。盛りだくさんだから気合入れていけよ」
「わぁー豪勢だねっ。がんばるぞー、おー!」
「おーなの!」
「しまったこのメンバーだとツッコミ役がいないっ。あたしも美紀と一緒に遠征行けばよかった!」
同時刻、ワンワンワン放送局のキッチンでは圭が後悔の声を上げていた。
メンバーはは照山、由紀、
周りにまとも枠がいれば悪ノリに専念できるのだが、そうでない場合は常識的な部分が顔を出す圭。一流の愉悦派への道はまだまだ険しい。
「おいおいどこにツッコミどころがあるんだ。七夕と言えば流しそば、何もおかしくないだろう?」
「いや流すのはそうめんだねっ、それか10歩譲ってひやむぎ!いったいどこの誰がそばを流すなんておかしなこと考えるのさ」
「おいおい失礼だな圭、岩手の滝観洞じゃ七夕の時期だけじゃなくて年中やってる名物だ。ちゃんと岩手の人に謝っとけ」
「くっ実例があると非難しにくいっ。岩手の人達はごめんなさい!」
「うんうんけーくん、ちゃんとごめんなさいできたね」
「花丸なの」
悪いことをしたらきちんと謝る、人としての基本である。
「う、うんありがと……じゃないよ!?照先輩が変なのは変わらないって!流しそばは良いとしてもひなあられはどう考えてもおかしいでしょ」
「別におかしくないぞ?短冊でつくった風船にひなあられを詰めて、それを目隠しと兜飾り付けた奴が棒で割る。んでひなあられを年の数だけ食えば一年間無病息災ってよく言うだろ」
「やってみたいの!」
「すいか割りみたいですっごい面白そうだね!」
照山の説明にはしゃぐ全肯定組、楽しそうならよしという考え方もそれはそれで悪くない。
「いやみたいというか元ネタ絶対それだよね!?なんかイベントのキメラになってるし。どうせ餅つきは十五夜の月見団子の亜種かなんかでしょ」
「おうよく分かってるなその通り、なかなか見込みがあるぞ」
「あっさり自白したね、後あんまり嬉しくない」
ジト目の圭に肩をすくめてみせる照山。そして続けたのは彼の素直な感想だった。
「これくらいのお茶目は許容範囲内だろうよ、なんたって───」
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「とまあそんな感じに久しぶりあの子達が張り切っていて、なんか大変な感じになりそうなのでこっちに来てしまいました」
「めぐねえのスルースキルのレベルが上がってる件」
「「あなた達(ナギ達)の近くにいたらそうもなるでしょ(だろ)」」
ワンワンワン放送局2階のラウンジ、もとはただの広い廊下だったここは部屋コーディネーター志望の葵の手によってリビングに引けを取らない寛ぎ空間となっている。
今日1日大人しくしているように言われた凪原と胡桃がこちらで茶を飲んでいたところに朝食の片付けを終えた慈達が上がってきたところだった。
の判断は正しかったようで、圭がツッコミに回っている声が凪原の耳まで聞こえてくる。
ともかく休憩しに来た2人の分もお茶を準備する凪原。電気ケトルがあるのでわざわざ下に降りずとも温かい飲み物を準備できる。
「いやまあ……それなりに自覚はあるけどさ、なんだかんだでめぐねえもりーさんも止めに入るからちょっと珍しいくてな」
淹れ直した自分と胡桃の分、そして慈と悠里の分のコップを配りながら話す凪原。たしかに学園生活部でも屈指の常識人枠である彼女ら、今回の様に完全放置というのはなかなか珍しい。
そんな思いで質問してみれば、2人は少し考える様子を見せた後に口を開いた。
「「そう(です)ねぇ───」」
奇しくも、慈と悠里、そして早川と照山が放った言葉は同じものだった
「「「───この8ヶ月ろくに喋れなかった気がするから、これくらいはっちゃけてもいいと思うわ(ぞ)(います)」」」
「「えっと……、なんかごめんなさい」」
そして突如として発生した謎の罪悪感から凪原と胡桃はそれぞれ手にしていたコップを置くと、深く静かに頭を下げた。
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以下、この日の
『楽しかったけど、るーの知ってる七夕じゃなかったの』
はい、改めてしてお久しぶりです。そしてごめんなさい(土下座)。
いやもうほんと、リアルが忙しすぎて執筆どころかプロットすら進んでいませんでした。書き方も忘れているかと思いましたがまだギリギリ覚えていたみたいで一安心です。
次はバイオネタの方か、もしかしたら本編の方になるかもしれません。どちらにしてももう少し早く上げれるように頑張りますので気長にお待ちください。
それではまた次回!