学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

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えー………、お久しぶりです。
恥ずかしながら帰ってまいりました。まだ待ってくれている方がいるかは分かりませんが、ほぼ1年ぶりの本編になります。

それでは、どうぞ


8-4:選ばれた者

 私は選ばれた。

 

 

 世界がこんな風になる前、私の世界はひどく色褪せていた。毎朝目を覚ますたびに決まりきった日常が始まることを思いため息が出た。起きたら世界が変わっていたりしないか、或いはいっそ寝ている間に死んでしまえないかと、そう何度願ったか分からない。

 

 

 なかでも学校は特に嫌いだった。ずっとずっと、大嫌いだった。

 

 

 来る日も来る日も、同じ建物の中で同じ席に座り同じ人間の講義を同じ人間達と聞く。昨日と今日、明日、一週間後、一か月後、どの日とどの日を比べても違いを見つけることができない毎日。

 自分を取り巻く空気が質量を持ってへばりついてくるようで、ただ過ごしているだけで窒息しそうな錯覚に襲われることが週に何度もあった。

 

 そして何より我慢できなかったのは、そんな地獄のような日々を耐えきったとしても未来に全く希望が持てなかったことである。

 当時世間では若者に対し、やれ「今頑張れば大人になった時に苦労しない」だの「1人1人が輝ける未来を」だのと、耳心地の良い言葉があらゆる場所で飛び交っていた。

 だが実際にはどうだろう。

 確かに若い間に勉強やその他の自己研鑽に励むことは大人になった時のプラスにはなるだろう。

 

 しかしそれは、大きなマイナスを少しでも0に近づけるためのものでしかない。

 

 大人になった時にドン底の生活をするのが嫌ならば死に物狂いで努力して、それでギリギリ耐えることのできる苦痛に満ちた人生を送るしかない。

 それが私の出した結論であり、私にとっての真実だった。

 

 

 我慢できなかったことはもう一つある。といってもこちらは理解できないことと言った方が正しいかもしれない。

 それは、自分と同じ世代の人間がいつも笑っていたことである。

 日々のニュースや世界情勢を見ても、これから先の未来が明るいと本気で信じている人などほとんどいなかったはずだ。

 なのに、彼等彼女等はいつ見ても笑みを浮かべていた。何が面白いのかも分からない話題で、心の底から楽しそうに。

 

 分からない、どうして笑顔でいられるの?

 

 今あなた達が話している相手はその顔を向けるに足る存在なの?

 

 もしあなたに何かがあった時、手を差し伸べて、助けてくれる存在なの?

 

 違うでしょう!?

 その人達が今近くにいるのには何の理由もないただの偶然で、あなたが困ったところで口だけの同情を残してどこかに行ってしまうことくらい分かっているでしょう!?あるいは完全に支配下に置いていて言うことをきかせられるというわけでもないんでしょう!?

 なんでその程度の関係の相手と一緒に居られるの!?

 

 何度叫び出しそうになったかはもはや覚えていない。

 彼等にあって私にはない感性があるのだろうと、なんとか理解しようとしてみたこともあったが、結局なにも得られなかった。

 どれだけ考えても、この先に希望のない世界でわざわざ自分に益のない人間とつるむ理由は思い浮かばなかった。

 

 とにかく、以前の世界はまさに生き地獄というにふさわしいものだったのだ。

 

 

…だからこそ

 

 

 だからこそあの日、それまでの世界のすべてが壊れたのは、私にとって福音と感じられた。

 

 

 教室の前の方でたむろしていた連中はすぐに死んだ。

 

 最初の1人は何も分からないうちに食い殺された。しかし彼は比較的幸せだったかもしれない。なにせ、それを目の前で見せられた連中の混乱が、それはもう悲惨という言葉では言い表せない程だったからである。

 固まる、泣き叫ぶ、縮こまる、喚く、怒鳴る、走る、殴る、突き飛ばす。状況を理解した者から順に、自分だけは助かろうと行動し始めた。

 

 数分どころか数秒前まで談笑していた相手を罵り押しのけて我先に外へと向かう人の群れ。そんな彼等の様子に、私は唇の端が吊り上がるのを止められなかった。

 それ見たことか。普段何か付つけ口にしていた絆とやらは、今は影も形もないではないか。

 

 何をしてもいい、何をしたっていい。

 世界はそんな風に作り替えられたのだ。

 

 初期の混乱を生き残った人間は、多少なり現実が見えてきたようだった。

 スーパーへの遠征が失敗したことで武力第一主義となり、力あることが正義であるという考え方が主流になった。

 それでもまだ甘い、私ほどこの世界に適応していない。生き地獄(こうなる前)の感覚に引きずられている。もはやそんなものに意味はないのに。

 だけど私は、私だけはそれに縛られていない。この世界で、私は初めて自由になれた。

 見回りについてきた男は、顔の汚れを拭うふりをして首を搔き切った。自分は男だから女性は守らなければならない、などと古臭い態度が気に障ったので当然の対応だ。

 

 他にも、私がしたいと思ったことは全てすることができた。

 そして私ほど今を楽しんでいる者もいない。誰も彼も常に苦痛に耐えるかのような表情を浮かべる人ばかり、この世界の素晴らしさに気づかない、気づけない

 つまり、私は世界に選ばれたのだ。

 

 世界に選ばれた私は無敵、誰も私を止められない。誰も私を、殺せない。

 それが私の、私だけに与えられた権利なんだ。

 

「そう、思っていたのだけど―――」

 

 窓枠を掴む手に力が入り、グローブの生地にしわが寄る。

 少し前から、私の世界に異物が入ってきていた。

 

 見下ろす先にある人影は3つ。本の虫は何の力も意思も感じられないから捨て置くとして、気に入らないのはその隣を歩く男と小娘の方だ。

 

 塀で囲まれているとはいえキャンパス内は安全と言うには程遠い。

 それなのに彼等の歩く姿に気負いは見られず、かといって子飼いにしている連中のように油断しているわけでもない。完全に自然体のまま周囲への警戒ができている。

 間違いなくこの世界に『選ばれた』人間の所作だ。自分以外に見るのは初めてだが、そうとしか考えられない。

 

 奴等への対応も見事なもので、男も小娘も複数を相手取り危なげなく始末していた。

 あのような躊躇いと無縁かつ最適化された動きは、少なくとも自分には不可能である。こちらの最高戦力である城下にも無理だろう。

 

 つまり、現状こちらの戦力で彼等を相手取るのは不可能、ということである。

 

 もし決定的に敵対すれば、あの男は必ず銃の引き金を引く。

 銃口の先は心臓か頭か、どちらにせよそこまでだ。始まったばかりの私の物語は、何の山場もなく終わることになる。

 

────ああ、これは無理だ。

 

 そう神持 朱夏(かみじしゅか)は結論付ける。

 彼女は狂ってはいるが、馬鹿でなければ無能でもない。自分達と相手との実力差を正確に理解していた。

 

 

 そもそもの話、現在の状況では狂ってなければ正気を保つことが難しい。 

 世界そのものが狂っているのだから、頭のねじの1つや2つくらい飛ばしていないと確実に精神を病む。

 凪原達(元々人外)を除いた学園生活部の面々にしても、少なくともメンタル面は狂人の領域に片足を突っ込んでいる。

 現在において日々を心から笑って過ごすためには、狂うことが最低条件なのだ。

 

 無論、狂いさえすればよいというものではない。

 もし仮に狂う過程で理性を捨てようものなら、待っているのは迅速にして確実な死である。

 ただ生きる、その難易度が跳ね上がったこの世界では、決して無くしてはいけないものもまた多くあった。

 

 

 そういう意味では、もとの性格もあり正しく狂うことができた朱夏は彼女が考える通り世界に選ばれた存在になったと言える。

 仲良しこよしでなく実力主義の、裁量権がありながら何かあれば上に責任をなすり付けられる副リーダーという立場。さらに自由に動かせる手駒も複数ある。性格は社交的ではないと自覚しているものの、躊躇しないという利の方が大きいと判断している。

 死が溢れる現代において、これほど好きに動ける環境を得られた者はほとんどいない。

 幸運に恵まれたこともあり、彼女はこの世界において自身はまぎれもなく上位者であると自負していた。

 自負していたからこそ、あの日受けた衝撃は甚大だった。

 

「相手が悪いってのはこういうことを言うんでしょうね、ほんと最初の失敗が悔やまれるわ」

 

 運よく物資を手に入れてうまいこと切り抜けてきただけの集団、直接的な圧力と先住者としての立場を使えば今の立場をさらに強化できるだろうと高を括ってしまった。

 思えば仮にも銃を所持し、理性と統率を持つ人間の脅威度をあまりにも軽く考えていた。慢心と言われても否定のしようがない。

 

 そしてその慢心の結果が決裂とまではいかずともその一歩手前、もはや関係の修復は不可能だ。

 いや、やりようによっては可能かもしれないが少なくとも今の立場は失うことになるだろうし、未だ相手を格上と認められていない手駒共の離反を招きかねない。

 

「ほんとどうしようかしら──といってもつまるところは留まるか進むかの二者択一。それなんだったら進む一択、か」

 

 過去に行けない以上、戻るという選択肢は初めからない。

 留まろうものなら待っているのは緩やかな死、仮に連中の問題が片付いたところでこちらの物資不足は解消していないのだ。

 となれば進むしか道がないだろう。そもそもせっかく世界が自分好みに変わったのだ。これまでのようにただズルズルと流されるままにいるなど、まさかである。

 

 とはいえ進むにしても方法は考えなければならない。下手に仕掛けたところで相手にならないというのは身に染みている。連中を正面から相手取るには何かしらの対価、それこそ差し違えるレベルの覚悟が必要だろう。

 

 我が身を犠牲にしてしまっては元も子もないので何かないかと考えて、朱夏の頭に浮かんだのは今いる自分がいる拠点、聖イシドロス大学そのものだった。

 命とは比べるまでもないが決して安いとは言えない代償だ。差し出すからには相応の反応を得たいところである。

 しかしこれをテーブルに上げ(ベットす)れば、辛うじて作戦と呼べる程度には勝率が確保できそうだった。

 

「居心地の良い場所を捨てるんだもの、最大限愉しませてもらわないと割に合わないわ」

 

 立つ鳥跡を濁さずとは言うが、立つ鳥側としてそれでは面白くない。

 一矢報いることすらできなかったとしても、あの連中にせめて一泡程度は吹かせてやりたい。

 

 こちらの手札はあの辺の機材と墓場の中身に………あの連中も使おうか。余計なものを連れていきたくはないし、なによりせっかくの門出だ。派手に盛り上げるのに一役買ってもらうとしよう。

 

 徐々に頭の中で形になってくる計画に、朱夏の口の端は自然と吊り上がり始めていた。




はい、というわけで改めましてお久しぶりです。
投稿自体4ヶ月ぶり、本編に至ってはほぼ1年ぶりの投稿となってしまいました。

 一応言い訳をさせていただくと、今年度から環境がガラリと変わりまして精神も身体も結構ギリギリの状態におりました。今回の話も4月には書き始めていたのですが全く筆が進まず、気合で閑話だけ投げて倒れ込んでいました。
 今は何とか落ち着き、メンタルも戻ってきたのでリハビリを始めた次第です。あまりにも執筆から離れすぎてたせいで、考えてたはずの伏線の回収方法が1つ頭からスッポ抜けました(ので過去話から一文だけ消去させていただいています)。

 さて、そんな諸事情は置いておくとして本編です。
 久しぶりの投稿なのにいつもより短く、さらには凪原も胡桃も出てこないという本作初の異常事態が発生してしまいました。次は登場予定で、なるべく早く投稿するつもりですので何卒ご容赦ください。


 それではまた次回!
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