生存報告、ヨシッ
拝啓、お父さんお母さん、ご無沙汰しております。
あなた方の息子、凪原勇人です。
世界が変わってから短くない期間が経過しましたが、いかがお過ごしでしょうか。
まあお二人のことですから、特に何不自由なく生活していると確信しています。
もし仮に何かの間違いで冥府の門をくぐっていたとしても、天国に行けばそちらで悠々自適に過ごし、地獄に行けば善良な先達を率いてクーデターでも起こしていることでしょう。
まあそのまま極悪人を放置するとも思えないので、閻魔と講和後に権力を返還して自分達は煉獄の監視役に就任、あたりが妥当なラインですかね。
なににせよ、こちらが心配せねばならないことは何もないと思います。
翻って私の方はどうかと申しますと、こちらはあの日に朝から家にいたこともあり初期の安全と情報収集、そして必須物資の確保には苦労しませんでした。
その後は母校へと向かい生き延びていた恩師、そして後輩達と共に暮らし始めました。
要するに、ほどほどにやれているのでお気になさらずということです。
まあしいて課題を挙げるとするなら―――
「んみゅ、さむい」(ギュッ)
「おい胡桃マジで起きてくれ!その眠気に負けたら俺等揃ってお陀仏だぞ⁉」
―――人生初にしてこれ以上の人はいないと断言できる恋人に、自室のベットの中で抱き着かれながら凍死しかけていることでしょうか?
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『この冬真っただ中に窓開けたままで寝るとか、なに?体温下がっただけじゃなくついに脳みそ腐ったの?』
「……ちょっと換気のつもりだったんだよ、空気淀んでたし」
「昨日は結構暖かかったし、ナギが毛布出してくれたし……」
『それで2人仲良く布団で丸くなって就寝したと、冬眠でもしたいのかおのれ等は』
布団にくるまった状態でベットの上に座り、無線機から聞こえてくる早川の声に小さく反論する人影が2つ。
言うまでもなく凪原と胡桃である。
極寒の空気が吹き込んでいた窓は閉められ、凪原が大慌てで持ってきたとある器具のおかげで室温はかろうじて2桁に到達し、冷蔵庫の中の方が温かいという状況は脱していた。
とはいえ寒いものは寒いため、凪原は布団の下で胡桃を体の前に抱きかかえピッタリと密着していた。そして暖をとるためか、胡桃も胡桃で定期的に体をスリスリとこすりつけている。
向こうから見えていないのをいいことにやりたい放題だった。
『―――とにかく、ほんとに温度には注意すること。帰省中に揃って凍死とか勘弁してほしいんだから』
「あいあい、んじゃまた昼ごろにでも連絡するわ。3時まで音沙汰なしだったら捜索隊を出してくれ。以上、通信終わり」
『ちょっ』(ブツッ)
さらに数分お小言が続いたところで、面倒くさくなった凪原が強引に通信を打ち切った。早川が何か言いかけていた気がしたので数秒待って掛け直してこないのを確認し、ため息。
「「ふー」」
タイミングが重なったことに思わず顔を見合わせて顔をほころばせる。
最近、こういった何気ないところで息が合うことが増えてきて、それが意外と嬉しいのだった。
「さて、それじゃそろそろ起きますか。朝飯は……持ってきたインスタントでいいか」
「だね、手軽だし。寒さのせいとはいえせっかく早起きできたんだから時間は有効利用しない、と」
言いながら布団をはいだ2人の足先と首回り、パジャマから露出した肌をヒンヤリとした空気が撫でる。
ちなみに人が快適に感じる温度は、湿度にも寄るがおおよそ22~23度。今の室温と比べれると実に10度近い差があった。
「「………。」」
そして何も言わずに布団をかぶり直す凪原と胡桃。
「………やっぱもうちょっと温まってからにしない?」
「賛成」
感染による体温低下の影響か、夏の暑がりと冬の寒がりが顕著になった2人だった。
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「かち合わなかったのを喜ぶべきか、胡桃が敵だったことを嘆くべきか…」
「どっちも好きな方食べれるんだから大人しく喜んどけよそこは」
深刻そうな表情でつぶやく凪原(←赤いうどん派)と、それに呆れた顔で答える胡桃(←緑のそば派)。
2人は凪原がどこかからか持ってきた折りたたみテーブルにつき、ズルズルとカップ麺をすすっていた。
室温はようやく15度を超え、寒いは寒いが服装次第でまあ過ごせる環境となっている。
無線で早川も言っていたように冬真っただ中。
集合住宅よりも冷え込みやすい一戸建てで、しかも電気もガスも止まっているとなれば部屋を暖めるのは容易ではない。
カップ用のお湯を沸かすのに使ったカセットコンロではいささか荷が重く、それこそきちんとした暖房器具が必要なレベルだ。
「そんでしっかりストーブが出てくるのが流石ナギの家って感じだな」
そう話す胡桃の視線の先にあるのは、部屋の中央に鎮座する丸っこい金属筒だ。柔らかな光と共に確かな暖気を発しているソレは、彼女の言葉通りストーブである。
所謂だるまストーブのフォルムなのだが、多くの人が思い浮かべる物よりも2回りほど小さい。
「というかそれカセットガスのストーブなんだね、ガスとか石油とかが普通でしょ?」
「ん?あー、もっと北の方だったらそういうガチのが必要なんだろうけど、この辺じゃこれでも十分だろ。サイズも手ごろだし」
「いや違うって、そこじゃない」
実用性の観点から答えた凪原だったが、あいにく胡桃が言いたいことはそうではない。
「なんでカセットガスを使うストーブがあるのを知ってるのか、って聞いてるんだよこっちは。ふつう知らないだろこんなの」
「なんだ、そっちかよ。いや、てかこれは結構有名だったと思うぞ」
「そうなの?」
キョトンと首をかしげる胡桃に対し、凪原が本棚から取り出してきたのはアウトドア雑誌だ。パラり、と開かれたページには今室内に鎮座しているのと同じタイプのストーブがデカデカと紹介されている。
「
「あー、確かにナギってそういう雑誌とか好きそうだよな。偶に訳わかんないガジェットとかが紹介されてる奴」
「そうそう、これマジでなんで企画通ったんだってのを見つけるのが楽しくて、ってそうじゃなくてだなぁ…」
何やら
「冗談だって、正しくは防災ガジェットハンターだろ?生徒会室の武器庫見れば分かるって」
「アレはアレででハヤの思想が多分に含まれてるだが…、まあそうだな。防災用品は俺が選んだ奴だし」
「あそこスペースの割にでホント色々揃ってたよね。リバートロンに行くまでのなにも不便に感じなかったもん」
「うちの学校は電気と水が元々揃ってたのからな。そっち方面に気にしなくて良い分、他の準備に気を回せたんだ。あと、
生徒会室を備蓄倉庫に魔改造する際、当然のように生徒会担当の慈の許可を得ず実行した凪原達31期生徒会だったが、それを全面的にバックアップしたのが学園長である。
ノリノリで「一番いいのにしなさい」と言って、クレジットカードを渡してきたのはいい思い出だ。
「あーじゃあ校長先生さまさまだね」
「胡桃を噛んだことは絶対許さないけどな」
「そこはもういいじゃん、今は平気なんだし」
感謝はするが、それはそれとして恋人を物理的に傷物にされた恨みは忘れない。当たり前の感覚だろう。
「まあ話を戻すとして、あの倉庫の備蓄選んだのナギなんだろ?ならその
「いやたしかにそれなりに備えてはいるけどさ、普通の範疇だと思うぞ?」
「まっさかー、普通じゃないナギが準備してるだから普通なはずないじゃん」
「失礼な奴だな」
まるで面白いことでも言ったかのように笑う胡桃に凪原は仏頂面になる。
そりゃたしかに念入りに備えてはいたが、本人的には本気で普通の範疇だと思っているので反応的にはおかしくはない。
「そんじゃぼちぼち食べ終わったことだし、実際に見てみるか?そしたら思い違いだって分かるだろ」
「見たい!よーし、放送局に続いて2件目のプレッパーのお宅訪問だな」
「おまえプレッパーさんなめんなよ。プレッパーさんが本気出してみろ、俺なんか足元にも及ばないからな?」
「いやなんでさん付け?プレッパーはナギの何なんだよ」
「師匠に決まってんだろ?言わせんな恥ずかしい」
「今恥ずかしがる要素あった???」
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~2階、納戸~
「ま、とりあえずここのは小手調べってとこだ」
「キャンプ用品色々と…うわっこの段ボール全部保存食かよ!?」
「ほっといても悪くなりにくいからな、特に国産のはなおさら。法的なあれこれで賞味期限はあるけど食べる分には2倍から3倍くらいは余裕らしいし」
「そういうのって噂じゃないの?」
「いくつか試したけど割とガチだったぞ。少なくとも俺には差が分からなかった」
「へー、結構しっかりできてるんだな。そう聞くとちょっと試してみたいかも」
「数年もすりゃ勝手に期限切れになるんだからそん時にな。ま、中には期限25年とかいうヤベー奴もあるけど」
「あれ、ナギのことだから全部そういうので揃えてるのかと思った」
「流石に高い、長期的に見りゃ安いんだろうけど瞬間的に掛かるコストがデカすぎる」
備蓄物資:
キャンプ用品多数
保存食(最後に数えた時は家族で2ヶ月分だったが今は分からん by凪原)
~1階、階段下倉庫~
「………うん、まあ、さっきのとこに無かったからどっかに水はあるだろうと思ってたけどさ」
「サイズもそうだけどとにかく重いからな。少しは分散させているけどメインは1階に置いとくしかないんだ」
「いや理屈は分かるよ?分かるけどさ……これどれくらいあるなの?」
「えーっと…飲用に限定すれば3人家族で3,4ヶ月分、1人だったら頑張って1年ぐらいだな。米はそれよりもちっと少ないくらいか」
「ば か じ ゃ な い の?」
「質問しといて失礼だな、実際必要な事態になってるじゃねぇか」
「それは確かにそうだよ。でも絶対あたしの感覚は間違ってないと思う」
備蓄物資:
水 約1000ℓ、米 50kg(玄米含む)、
その他 塩,砂糖,蜂蜜等の長期保存可能な調味料多数
~庭~
「庭に出てきたけど、ここもなんかあるの?外なんだから近所の目とかいろいろあっただろ」
「なんで人目をはばかる前提なんだよ、やましいことなんざしてないっての」
「そりゃ明確な違反行為はしてないだろうけどさ」
「おい今なんか変なアクセントだったぞ……。まぁいいや、庭は基本的に家庭菜園だな、小規模だしほぼ趣味だったけど」
「うーんまぁ確かに普通──「んであっちが焼却炉」──前言撤回、やっぱ普通じゃない」
「ああ、排気口に細工してあるから全力で焚いても煙はほぼ出ないぞ」
「人目はばかってんじゃん。つーかなんでそんなんあんの?」
「肥料用に灰が欲しくてな。他にも気合入れりゃ石鹸作れるし、あっちで雨水綺麗にするのにも使えるしな」
「多分雨水ダム、で合ってる?自信ないけど」
「自信もてよ、合ってるよ」
「ゴテゴテいろいろ付いてなければあたしも自信持てたよ」
設備:
家庭菜園
焼却炉(無煙処理)
雨水ダム(ろ過装置付き)
~倉庫~
「ここは園芸用の諸々を入れてる感じだ。
「いーや、もうだまされないぞ。どうせそう言ってやばいモン置いてるに決まってるんだ」
「この数分で胡桃からの信頼がガタ落ちしてる件について…っと、お、あったあった。これなんかは胡桃も気に入ると思うぞ」
「ほらもう言ったそばから。なにこれ、やすり?」
「正確にはグラインダーっつうんだが、まあやすりには違いないな」
「ふーん、それでなんでこれを気に入ることになるの?」
「まあ聞けって。なんとこいつはな────シャベルを砥げるんだ」
「何を言うかと思えばそんなの────最高だな!」
「だろ?胡桃なら分かってくれると思ってたぞ」
「いいじゃん!いいじゃん!そういうの待ってたんだよ、ちょうど最近切れ味落ちてきたなって思ってたし」
「ならいいタイミングだな。ただ結構うるさいから使うのは放送局戻ってからにするぞ」
「おっけー!……楽しみだなぁ」
設備:
イ○バの物置
備蓄物資:
園芸用品諸々
各種工具
グラインダー(←超重要!)(←リスト化してんだから余計なこと書かないように)
~台所~
「ナギん家って勝手口あるんだ、うちはなかったからなんか新鮮」
「なんだかんだで結構便利だぞ、ゴミ出しは楽だし災害時の脱出路が増えるし。ただ裏手だからって変に安心して鍵の閉め忘れがちょくちょくあんだよな」
「あーそういうのもあるのか。──っとここは流石に変なものは置いてないみたいだな」
「別に他のとこにも変なものは置いてないんだけどな。強いて言うなら床下収納にカセットガスを多めに置いてるくらいか」
「……一応聞くけど、何本?」
「ざっくり100本。まあここだけじゃなくてさっきの納戸にも分散させてるけど」
「家吹っ飛ばす気?」
「錆防止のために乾燥剤と一緒に保管してあるし、換気とかにも気を使ってるから問題なし。消防法にも触れてないしな」
「絶対なんかしらの問題ありだと思う」
備蓄物資:
カセットガス 100本(3人1ヶ月半分)
固形燃料 段ボール1箱
乾物、一般調味料 等
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「結論っ。やっぱナギん家の防災は普通じゃない、というか変!」
「ホント失礼な奴だな」
この話掻き始めた時はまだ全然寒くなかったはずなんですけどね~、不思議ですね~
すぐに「下」が投稿できるよう頑張りたいと思います。
それではまた次回!