投稿初日ということで第2話も投下します。
鉄の猛威って何なんだろうなー(すっとぼけ)
それでは第2話です、どうぞ
翌朝、ベッドで目を覚ました青年は軽く腹ごしらえをすると身支度を整えて一夜を明かした住宅を後にした。
時刻は9時過ぎ。夜明けとともに起きだしていた割には移動を始めるのが遅い気がするが、これには理由がある。
朝、特に通勤ラッシュがあった時間帯は妙にゾンビの数が多くなるのである。
ゾンビパンデミック発生から1週間ほど、青年は自宅から外に出ることなくゾンビたちの様子を観察していた。結果、奇妙なことにゾンビは生前の生活ルーチンを模したような動きをすることが分かった。
通勤ラッシュや帰宅ラッシュ、あとは昼休憩の時間帯は表を出歩くゾンビの数が増えているのである。
電車などの交通機関は止まっているし、そもそも会社も営業していない状態で、彼らがどこからきてどこに行っているのかは皆目見当がつかない。しかしわざわざ知りたいとも思えないのでそのあたりは放置する。
そのようなわけで、朝早くに起きてもすぐに移動ができるわけではないのである。加えて、食べてすぐの移動は自分のパフォーマンスを落とすことにつながるので、移動を開始するのはこの時間になるという訳である。
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移動し始めてから数分もたたないうちに青年は少し悩んだ様子で立ち止まることになった。
少し離れたところから煙が立ち上っていた。
煙が出ているということはその下には火かそれに準じるものがあるはずで、ゾンビに火を扱う能力が無い(確認はしていないが恐らく無いであろう)ことを考えれば必然的に生存者がいる可能性が高い。漏電による火災という線もあるが、電気がストップしている現在それは考えにくい。
となると問題は、煙の下にいると思われる生存者がどのような意図で煙を上げたかという点になる。ぱっと考えて思い浮かぶものとしては、自分たちの存在を知らせ救助を求める、逆にここに拠点があると示して周囲の生存者を集めようとしているなどがある。
前者なら接触を図ることで救助は無理でも情報の交換などを行うことができるが、後者の場合は罠であることを警戒しなければならない。純粋に生存者を集め保護しようとしているのなら何の問題もないが、身ぐるみをはいだうえで良くて奴隷、悪いとその場で殺そうとするような無法者の集団であるかもしれない。
まだパンデミックから一ヶ月も経っていないため、そこまで倫理観が崩壊することはないと思いたいが極限状態が人間に与える影響というものは計り知れないので心配してしすぎるということはない。
「安全策としては近づかないほうがいいんだけど、放置してもいい予感がしないんだよなぁ」
もしよくない連中がたまっていた場合、目的地到着後の行動方針を考え直さないといけない。
「接触しないで、情報収集だけはやっときますか」
青年は地図を取り出し煙が出てると思われる方への安全そうなルートを構築し始めた。
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「・・・うっそだろ、お前」
思わずといった様子でつぶやく青年がいるのは電柱の上である。
煙が近づいてきたところで、少し離れたところから観察しようとポケット望遠鏡を片手によじ登って覗き込んだところで出たのが先ほどの言である。
レンズの中に映るのは住宅の壁に突っ込んでいるオリーブグリーンの四駆とそれを囲むように倒れている多くのゾンビたちだった。
先ほどから目印にしていた煙は四駆のボンネットから立ち上っており、ひしゃげたバンパーは衝突時の衝撃の強さを物語っているようだった。
しかしながらパンデミックが起こった現在では、事故車両などは珍しいものではない。問題なのは壊れている四駆の種類であった。
(あれって自衛隊の車両だよなぁ)
1/2tトラック、愛称をパジェロ。それが事故を起こしているトラックの名前だった。
1973年に正式採用されたことから73式小型トラックと呼ばれていたが諸々の事情で名称が変更されたという経歴を持つ。
小型車ゆえ注目されることは少ないが自衛隊に最も普及している車両であり、様々な活動を行ううえで不可欠な存在である。
そんな自衛隊の車両が煙を吹きながら事故を起こしているという状況は、パンデミックに際してロクに対処もできないまま崩壊した日本社会を表しているようにも思えた。
ともかく、望遠鏡から見た限り目立った危険はなさそうなので青年は近づいてみることにした。
スルスルと電柱から降り、地面に置いていたリュックを背負おうと事故現場に足を踏み入れる。
念の為に倒れているゾンビを突っつき、完全に沈黙していることを確認していくが、どのゾンビも頭部が激しく損傷しており、原形をとどめていないものもあった。どうやら車両を運転していた者たちに鉛玉をプレゼントされたらしい。
「ウップ…」
映画とは段違いのグロテスクな光景に思わず胃の中身がこみあげてくるが、朝食を無駄にしたくないので根性で押し戻す。
吐き気をこらえながら事故車両に近づいていくと、車両に背を預けるようにして座り込む迷彩服をきた人影があった。電柱から見た時は車両の陰になっていて見えなかったようだ。
顔を伏せるようにして座り込んでいるため表情は見えないが、どうやらゾンビ化はしていないらしい。
右手で拳銃を掴んでいるのを見るに、ゾンビを始末したのはこの人物らしい。
「大丈夫ですか?」
青年が声をかけると、ゆっくりと顔を上げると驚いたような顔をして口を開いた。
「生存者か…こんな状況でまだ生き残っているとはな」
声は細く、かろうじて聞こえる程度のものでしかない。相当弱っているように見える。
「はい。まあ何とか生き残っているという感じですし、特に仲間がいるという訳ではありませんけどね」
「それでもだ。どこか怪我をしているようには見えないし、今の現状に対応できる格好をしているように見える。翻って見れば俺はこんなありさまだ。きちんと訓練をしてきたはずだったんだがな…」
自嘲気味につぶやく男に対して青年は問いかける。
「一応聞きますけど、あなたは自衛隊の方ですよね」
「ああ、俺はこれでも陸上自衛隊に所属する自衛官だ。基地の上層部からこの地域の警察機構を指揮して生存者を保護、帰還せよという命令を受けてな、まずは警察と合流しようとしていたんだが、」
そこで自衛官は言葉を切ると、一度四駆の中を振り返ってから話を続けた。
「ゾンビどもが車両の前に現れてな、よけきれずに引いてしまって奴らの血や内臓でスリップしてブロック塀に衝突。その衝撃で相棒は死んじまったよ」
車内をのぞき込んでみると、もう一人の自衛官が突っ伏すようにして死んでいるのが見えた。変形した車両のフレームが腹部に突き刺さっていた、即死だったのだろう。
「その後は、事故の音を聞きつけた奴らが次から次へ押し寄せてきたから頭に1発ずつくれてやったという訳さ」
「そうだったんですか。でもこういう言い方は何ですが、あなただけでも生き残ってよかったじゃないですか」
励ますように言う青年の言葉を遮るように手を挙げた自衛官は弱弱しく笑うと、体に隠れていた左腕を掲げて見せた。
制服の二の腕付近が破れており、その下から覗く肌には噛み千切られたあとがあった。
思わず距離をとって身構える青年を気にせずに話し続ける自衛官。
「この通り俺はもう長くない。 奴らになる前に始末をつけるつもりだが君はもう行きなさい。うまくいけばどこかの避難所にたどり着けるだろう」
そこまで言い終わると、自衛官は目を閉じて黙ってしまった。
しかし青年にその場を立ち去ろうとする気配はない。
自衛官も青年の気配がなくならないことに気づいたのか、しばらく沈黙していたが目を開けると口を開いた。
「どうしたんだ、もう行きなさい」
「いや、あなたもうすぐ死ぬんですよね。ならそれまで待ってあなたの銃をもらおうかなぁ…っと」
堂々と死体漁りをすると宣言する青年に、自衛官は思わず「ハァ?」という顔になる。
「何を言ってるんだ、民間人に火器を渡せるわけがないだろう。扱いを間違えればゾンビと関係なく死にかねないんだぞ」
「一応海外での射撃経験はありますし、自衛隊の火器についても知識だけならあるんで大丈夫です」
「それを聞いて安心できるわけないだろう。火器の流出を防ぐための措置としてここで俺が君を処理するかもしれないとは考えないのか」
険しい表情をしてにらむ自衛官に対し、青年は態度を変えることなく、
「いやいやそんな、あなたはそんなことをする人ではないと信じています」
と笑顔で言い切った。
この青年、なかなかイイ性格をしているらしい。
自衛官も毒気を抜かれたようで、苦笑すると先ほどより砕けた口調で話し始めた。
「お前、度胸あるな。まぁいいだろう、実際俺にはお前を処理する気はないし確かに最低限の知識があるなら火器を持っていて損することはないだろう」
「ありがとうございます」
「その堅苦しい口調もなしだ、どうせなら地を出してしゃべってみろ。年齢差の気遣いも不要だ、どうせもうすぐ死んじまうのに敬ってもらったってしょうがないからな」
頭を下げる青年に笑って、普段の口調で話すように求める自衛官。
「そういうことでしたら。了解、渡してくれる気になってくれて嬉しいよ。スコップと
「上等」とうなづく自衛官に、青年は続けて口を開く。
「ついでと言っては何なんだけど、やっぱり使い方を教えてもらってもいいか。あと車に積んである物資とか相棒の方の装備とかもできればもらいたいんだけど」
「なかなか、結構図々しいやつだな。」
「それほどでもないさ。それで、どう?」
笑顔で首をかしげる青年の顔には「ダメと言っても持っていく」と書いてある。これには自衛官もため息をついていた。気持ちは分かる。
「好きにしろ。というか、ダメっつっても意味ないだろ」
「ご明察」
ブレない青年の態度にため息をつくと、自衛官は右手に持っていた拳銃をクルリと回し、グリップを青年に向けるように差し出す。
「まずはこれ、9ミリ拳銃だ。装弾数は9発、ほかの
9ミリ拳銃、陸海空問わず自衛隊に導入されているダブルアクション式
世界的に流通している9ミリパラベラム弾を使用する、日本人の手のサイズにも合うようなグリップとなっている、などの特徴があるが大きな特徴としてはマガジンキャッチがグリップ底部にあることが挙げられる。
通常はグリップを右手で握った時の親指の位置近くにボタンがあり、これを押すことでマガジンがリリースされるので片手で扱うことができる。
一方、9ミリ拳銃の場合はグリップ底部にツメのようなパーツがあり、これをマガジンに引っ掛けることで支えている。リリースの際にはグリップを握るのとは逆の手で詰めを外す必要があり、必然的に両手での操作となる。
この様な形式は比較的古い銃に多く、操作感としてはボタン式の方が圧倒的に使いやすい。
なぜこの形式のp220が自衛隊で正式採用されたかについては諸説ある。一説として自衛隊の特性上、火器の部品紛失などは絶対にあってはならないことであるので必ず両手で操作するレバー式を採用したのではないかと言われている。
その他の特徴としては装弾数が少ないことも上げられるが、こちらも自衛隊の特性上、拳銃を使うようなことになる事態はそうそう起こらないと判断されたために装弾数が少なくても問題にならなかったのではないかなどと噂されている。
この様な、実戦面で見れば問題がある9ミリ拳銃だが、基本的に陸海空の自衛隊すべてで同じような仕様で導入されている。
しかし、渡された9ミリ拳銃には青年の記憶している中には無い仕様変更がなされていた。
「なあ、なんでこれサプレッサーが取り付けられてんの?」
こんな仕様の9ミリ拳銃が使われているという話は聞いたことがなかったため自衛官に尋ねてみる。
「ああ、それか。このパンデミックが起こる直前に新しいバレルが支給されたんだ。なんでも近々仕様変更の可能性があって試験的にうちの基地で支給したということらしい。あいつらは主に音に反応するからな、こんな状況にはピッタリってわけだ」
(仕様変更?そんな話があったら公開されてるはずだよな、一部の秘匿部隊用ということなら分かるけど基地全体で試験というのも変な話だ。しかもパンデミックの直前に配布されるなんてタイミングが良すぎる…)
疑問には感じたが、現状困る事ではないので一旦置いておくことにする。
「ふーん、それは運が良かったな」
呟きながら9ミリ拳銃を構える青年の姿はそこそこ様になっており、射撃経験があるというのも満更嘘ではないようだった。
両手に握られたそれは暴力の化身としての存在感を放っているようで、青年にはそれが頼もしく感じられた。
以上、第2話でした!
「てめぇまだ学園生活部出てこないじゃねえか!おっさんは良いからはよ出せっ」という方ホントにごめんなさい。調子に乗って書いてたらまだ主人公が巡ヶ丘学院に着きませんでした。次回には到着しますので許してください。
投稿初日記念ということで本日はもう1話投稿しますのでお楽しみください。
それでは第3話、どうぞ~
……あれ?そういえばまだ主人公の名前出せてないな?