第5話です、どうぞ。
「あれ?君はシャワーを浴びなくていいのか?」
少女が手にしているシャベルについてはあえて触れずに凪原は答えた。
「ああ。休憩室のシャワーは3つしかないから、すぐには浴びれないんだ。それに疲れちゃったから先におなかに何か入れたい気分だし」
「そういうことなら了解。さっきも言ったけど準備に2,30分くらいかかるからちょっと待っててな」
そう応じて視線をリュックに戻した凪原だったが、視線が外れないためもう一度顔を上げると少女は何か言いたげに凪原を見つめていた。らちが明かないと判断し、手を止めて少女に向き直った。
「どうした、もじもじして?愛の告白なら真摯に対応させてもらうけど」
「なぁっ⁉あ、愛って何言ってんだよ⁉」
口ごもりながら顔を真っ赤にさせる少女に無駄にいい笑顔を向ける凪原。
「冗談だって。なんか言いたげだったから、とりあえず肩の力を抜いてもらおうかと思ってね」
「だからって女子高生にいきなり告白とかいう言葉を言うかよ普通っ」
「まぁまぁ、落ち着けって」
「誰のせいだと!?」
文句を言いたげな表情をスルーし、凪原は「さて、」と前置きをしてから話を始めた。
「いろいろ話したいことはあるだろうけど、まずは自己紹介からいこうか。さっきも言ったけど改めて、俺は
「
「3年生ってことは2学年下だな。それより現学園生活部か、俺がいた時にそんな部活は無かったしやっぱり…」
「そう、想像の通りこんな事態になってからできた部活さ。「避難してるって考えると気分が沈んじゃうから部活動にして楽しんじゃおう」って由紀が言い出してさ」
「ケモミミ帽子かぶってる方?」
「そう、かぶってる方」
ふむ、と教えてもらった情報を頭の中で整理する凪原。
避難生活を部活にしてしまうというのは突飛にも聞こえるが、冷静に考えてみるとなかなか悪くないように思える。
避難生活というものは心身、特に精神に多大な負荷をかける。まして今回は自然災害時の避難とは異なり、ゾンビという脅威がすぐ身近に存在している。そんな危機的な状況が連続する避難生活が精神に与える影響は計り知れないものになるだろう。
そのような状況において、避難生活ではなく部活動という風に考え方を変えるだけでも受ける印象は変わる。やっていることは同じでも、部活動と考えることで以前の日常のを疑似的に再現することができる。
それだけでも精神への負担を多少なりと軽減できるだろう。
そこまで考えて部活動を提案したのかどうかは分からないが、由紀という子は現状に適した行動をとったと言える。
「なるほど、その由紀って子は結構頭がいいのかな?(さっきめぐねえや恵比須沢にほおずりしていた様子からはそうは思えないけど)」
微妙な表情をしながら尋ねた凪原、その表情の意味するところを察知した胡桃は首を振って言葉を返す。
「いいや。由紀はそんなに頭がいいわけじゃない、というより悪い。りーさんの方が頭は良いよ、まありーさんは私よりも頭いいし、むしろ教師のめぐねえと比べた方がいい気がするし」
胡桃の返事に納得し、もう一人の少女はりーさんというのかなどと考える凪原の耳に「でも、」という胡桃の声が届いた。
「由紀は確かに頭がいいってわけじゃないんだけど、なんていうのかな、物事を良いほうに持っていく力があるんだよ。あたしたちが今なんとかやってこれてるのも由紀のおかげってところが大きい。それはあたしもりーさんも、きっとめぐねえも感じてると思う」
そう話す胡桃の表情は優しげであり、由紀という少女を大事に思ってることが理解できた。
「いい友達だな」
「そうなんだ。あっ、でも由紀だけじゃない、りーさんやめぐねえも大事だよっ」
慌てたように言う胡桃に対して、凪原も分かってるという風にうなづいて口を開く。
「3人とも大事なんだろ?分かってるさ。そうじゃなきゃさっきあれだけ戦えるはずがない」
自分たちのことをちゃんと理解した様子の凪原に小さく笑みを浮かべた胡桃だったが、気を引き締めるように表情を改めると話を切り替えた。
「あたしらの話はだいたいこんなもんだ。次はそっちのことを聞かせてもらう」
「俺のこと?それならめぐねえ…は別にいいか、後の2人も一緒の方がいいんじゃないか?」
疑問を示す凪原に胡桃は首を振って返す。
「それは後でいいさ、というより3人が戻ってくる前に話しておきたいんだ」
「なんだ、やっぱり告は「違うっ」」
真面目に聞けっ、と怒る胡桃に、悪かったと両手を上げて降参の構えをみせる凪原。
胡桃はため息をついて諸々を吐き出すと続きを話し始めた。
「あたしから言わせてもらうと、あんたはすごく怪しいんだよ。不審って言ってもいい」
「……。」
雰囲気を察して口をはさむことはせずに目線で先を促す凪原。
「まず、自衛隊や警官でもないのにそんな人が持つような銃を持っている。それだけでも怪しいってのに、あんたはあたし等にやけに友好的に接してくる。はっきり言ってさっきのタイミングであんたが来ていなかったらめぐねえは助からなかった。それだけのことをしたのに何かを求めることしないで、あまつさえ食事を用意するとまで言ってる。あんたの考えが読めないだ、めぐねえの様子から卒業生なのは間違いないんだろうけどもう1年以上前のことなんだろう」
「あんたはどういう目的でここに来た?それだけの装備があれば1人で生きていけそうなのにわざわざあたしらを助ける理由はなんだ?もしも身体が目当てだってんなら絶対抵抗するからな!脅しになんか屈するもんか!」
話してるうちに興奮したのか、だんだんヒートアップした胡桃は武器があることを示すかのように持っていたシャベルを自身と凪原の間に掲げてまくしたてた。
「………ハァ」
「っ!」
しばらく続いた沈黙を破ったのは、凪原の方だった。大きくため息をつくと体をこわばらせる胡桃を気することなく腕組みを解いてぶつぶつとつぶやき始める凪原。
「そっかそういう風に見えちゃうか。ってかいきなり見ず知らずの奴が接触してきたら何も起きてなくてもそうなるわな。もうちょっと考えろよ俺…」
「お、おい。こっちにも分かるように話せっ」
1人で納得して1人で落ち込み始めた凪原の様子に声をかける胡桃。声に気づいた凪原は胡桃に向き直るとゆっくり話し始めた。
「あー、失礼。とりあえず今ので君が何に不安や不審感を感じているのかは分かった。確かに武器を持った見知らぬ男が近づいてきたとなればそんな反応になるのも無理はないと思う」
一息、
「察するに4人の中で君はそういう役割なんだろ?年長者のめぐねぇの役割のような気もするけど、まぁめぐねぇは性格があんな感じで疑うことは苦手そうだし、身体能力は…言うまでもないか。見たところ君は運動部だったみたいだから荒事になるなら自分が引き受けるってとこかな?」
(女子高生にしてはしっかり鍛えてるみたいだし、こりゃめぐねぇが3人ぐらいでかかっても勝てないな)
などと慈と胡桃の双方に失礼なことを考える凪原。
「う、うるさい!それでお前の目的と考えはなんなんだよっ!」
自信を鼓舞するためか少し大きな声で返事をする胡桃、よく見ると声とともに構えたシャベルも小さく震えていた。
「うーん、目的というか考えは大きく分けて2つ。俺以外の生存者を探すことと、この学校なら生存を考えた時に有利だってことだな。ほかにも細かく言えばいろいろあるけど、身体が目当てってことはないから安心してほしい。証明しろと言われても困るから信じてくれとしか言えないけどな」
実際、凪原にそんな意図はないのではまじめに答える。
「本当だなっ?嘘だと分かったら容赦しないからなっ」
「ああ、本当だ」
睨むようにこちらを見る胡桃に対し、やましいことが無いことを示すように正面から見返す凪原。数秒ののち、視線を外したの胡桃は一つ頷くとシャベルの構えを解いた。
「分かった、とりあえず信用しておく。まぁ、そのあたりの感性はめぐねえが鋭そうだからそっちに任せるよ」
「ありがとう、信じてくれて」
「いいって、元はこっちが疑ってかかったんだから。そんでもう一つ聞きたいんだけど、」
「なんで俺が銃を持っているのか、って話だろ?」
言葉を引き取って彼女が疑問に思っているであろうことを言う凪原。
胡桃も頷き話を進める。
「そう、見た感じあんたが持ってる銃って自衛隊のだろ、なんでそんなもの持ってるんだ?」
「お察しの通り、この銃は自衛隊で正式採用されてるものだよ。ここに来る途中で自衛官の人からもらったんだ」
「自衛隊ってそんな簡単に銃をくれるもんなの?というよりその人はどこにいるんだ、救助呼をびに行ったとか?」
純粋に疑問に思ったという感じで首をかしげる胡桃に対し、凪原は即答することができなかった。
「……あの人は、田宮さんは、…俺が殺した」
「っ!」
息をのみつつも、すぐさまシャベルを構えた胡桃の反応速度は褒められてしかるべきだろう。そのまま怒りを隠そうともせずに声を荒げる。
「お前なんてことをっ「頼まれたんだっ!あの人本人に」…どういうことだ?」
「どうも何も言葉通り。その自衛官本人に殺してくれって頼まれたんだ。話すよ、何があったのかを全部。その後で判断してくれ」
シャベルを構えたままの胡桃に対し凪原は田宮にあった時のことを話し始めた。
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「―――それで俺は田宮さんを撃って、彼とその相棒の装備のうち持ち運べそうな分をもらってきたって訳だ」
「そうか、大変だったんだな」
「信じてくれるのか?」
言いながら構えていたシャベルをおろす胡桃に驚いたように問いかける凪原。
「ああ、信じるよ。」
「ありがたいけどさ、俺が嘘をついてるかもとか思わないのか?」
「思わない。ほんとに嘘をつく奴はそんなこと言わないだろうし、あと、」
「あと?」
「勘!」
そう言い切って笑う胡桃の様子に凪原も毒気を抜かれ、笑みを浮かべながら思ったことをそのまま口に出した。
「恵飛須沢、君はいい女だな」
いきなりの発言に顔を真っ赤にする胡桃。
「い、いいきなり何言ってるんだよお前はっ⁉あ、あたしがいい女とか」
「思ったことを言っただけだけど?」
「~っ///」
(可愛い)
深呼吸をして心を落ち着けた後、コホンと咳払いをして仕切りなおす胡桃(なお、まだ顔がほんのり赤い)。
「と、とにかくっ、あんたの目的と銃を持っている理由は分かったから。あたしからの話は終わり!」
「了解、それじゃ食事の準備を始めるとしますか。恵飛須沢にも手伝ってもら「胡桃」はい?」
「呼び方、いちいち恵飛須沢って呼ぶのも長いから胡桃でいいよ。ほかの皆からもそう呼ばれてるし」
そっぽを向きながら若干早口で話す胡桃、凪原は(まだ頬が赤いことはスルーすることにして)笑顔でうなづいた。
「分かった。俺のことは凪原かナギとでも呼んでくれ、周りからはそう呼ばれてたからな」
「なら、ナギって呼ぶことにするよ。呼びやすいし」
「ん、じゃあ改めて食事の準備を始めますか。胡桃も手伝ってくれ」
「了解、まともな食事は久しぶりだから楽しみだよ」
コッヘルやガスバーナーなどの携帯式の調理器具を取り出す凪原を眺めながら、久しぶりのまともそうな食事に期待した表情の胡桃。ワクワクしているのが一目瞭然な様子に苦笑しつつくぎを刺す凪原。
「あんまり期待するなよ?基本的に保存食系を使った料理だからな」
「分かってるよ、それで何を作るんだ?」
「カレーうどんかな、粉モノなら消化にいいしカレーなら腹もふくれるだろ」
「おっいいねぇ。ってあれ、カレールー?レトルトとかじゃないの?」
胡桃の声の通り、凪原がリュックから取り出したのはどこの家庭にも常備されているようなカレールーだった。てっきり温めるだけ完成するレトルトカレーが出てくると思っていた胡桃が疑問を口にすると、単純な答えが返ってきた。
「レトルトは、量が少ない」
「あ、ハイ」
実に、食欲旺盛な男子大学生らしい回答である。
力強い答えに思わず真顔で返答する胡桃。その様子に弁解するように続きを言う凪原。
「真面目に答えると、レトルトは水も何もなしで温めるだけでどこでも食べられるから拠点外にいる時用に取っておきたいんだ。この学校は浄水設備が独立してるから今も水出るだろ?」
「あーそういうことか、うん確かに水は普通に出るよ」
2人の会話の通り、この巡ヶ丘学院高校のインフラ設備は他の学校と比較してとびぬけていた。
上水道については近くの川から独自に水を引き込んでおり、それを校舎地下の浄水設備と貯水槽を通じて校舎中に供給している。下水道に関しても敷地内に処理施設を有し、元の川へ放流している。
また、電気に関しては屋上のスペースを利用した太陽光発電設備があり自家発電が可能となっている。これは学校活動全体を賄う量の発電は不可能だが、授業等がなくなった現在では水道施設の運用と学園生活部の面々が利用する分には十分な発電量が得られている。
そして水道と電気の2つが確保されているからこそ、この学園内においては現在は大変な贅沢となった
「そんなわけで、水が出るならルーを溶かして作った方が量の調整がしやすいからな。あとは具材としてこれだ」
「肉じゃがの缶詰?」
続いて凪原が取り出したのは胡桃が言った通り肉じゃがの缶詰だった。大粒で具沢山といううたい文句がラベルに印刷されている。
「そ、肉じゃがの材料ってカレーとほぼ一緒だからな。ちゃんと味もしみてるし、カレーに入れると手軽においしくつくれるんだ」
「納得したけど、…なんかめんどくさがりな男子大生が良くやりそうな手だな」
「うっせ、楽で早くてうまいからいいんだよ。さ、そろそろめぐねぇ達もシャワーから出てくるだろうし、ぱっぱと作っちゃおうぜ」
「了解。手伝うことがあったら言ってくれよ?」
「おう」
少し前の緊張感をはらんだ空気とは打って変わった和やかな雰囲気で2人は調理を開始した。
以上、第5話でした
本作ヒロイン(予定)の胡桃ちゃんとの絡みです。
見知らぬ男に対して一人で対峙する胡桃ちゃん、やっぱりかっこいいですよね。
そして可愛い乙女でもある、そんなかっこかわいい胡桃ちゃんの雰囲気が少しでも伝わっていたら幸いです。
それでは第6話でお会いしましょう。
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