それでは第9話です、どうぞ。
「それだけ驚いてもらえると俺
笑いながら話す凪原に開いた口が塞がらないといった様子の4人だったが一番早く立ち直ったのは慈だった。やはり凪原の学生時代に振り回されていたので耐性が付いているらしい。
「な、なぎ君、これは一体どういうことですか!生徒会室を勝手に改造したり、いろんなものを保管してたり、私こんなことやってたなんて聞いてませんよ⁉」
「そりゃ言ってないから当たり前だよ。物資の運び込みとか部屋の改造はめぐねえがいないタイミングでやってたし」
あっけらかんと答える凪原に絶句する慈。慈が復活する前に機先を制する形で再び動き始めた凪原は工具入れからドライバーを取り出すと、いまだに固まったままの胡桃たちに声をかける。
「ちょっとそこの本棚の前開けてくれる?その位置だと危ないから」
「「「……(スススッ)」」」
いまだに口を開けないながらも移動する3人。本棚の前からどくというよりも凪原から距離を取ったように見えるのはきっと気のせいだろう。
そして本棚の前に移動すると転倒防止用の金具を外していく凪原。本棚の大きさに合わせてたのか、金具の数も多くすべて外すのには数分かかった。
金具をすべて外し終わり、4人の方に向き直った凪原は先ほどまでとは異なり苦笑いを浮かべていた。
「ここの中身に関しては準備しなくてもいいんじゃないかって思ってたんだけど、まさか役立つことになるとはなぁ。まったくハヤ様様だ」
そう言いながら凪原は本棚の横に回ると、側面を押し始めた。
すると本棚はこするような音を立てつつもその巨体に似合わず滑らかにスライドした。
そしてスライドした本棚の背後、本来なら部屋の壁があったはずの場所はぽっかりと口を開けており、その空間には様々な物品が詰め込まれていた。
それを見た4人の反応はというと、
「「「うわぁ……」」」
完全にドン引きしている胡桃たち3人に、
「なっ、なっ、なっ」
声でてこない様子の慈と、先ほど災害対策用の品々を見た時よりもひどいものだった。そしてその反応を見て、そりゃそうなるようなぁといった感じの凪原。
何しろ、本棚の後ろから姿を現した品々は―――
「とまあこんなわけで、
そんな物騒な品々を披露しながら笑顔で話す凪原はそれぞれの品を説明しようとしたがそれを遮ったのは慈の声だった。顔は下を向いていて表情を伺うことはできないが、肩が小刻みに震えているのが分かる。
「―――なぎ君」
「ん?どしたのめぐねえ?」
「……正座してください」
「へ?」
「いいからそこに正座してください!部屋を改造するだけじゃなくこんな危ないものまで置いておくなんて、おまけに私には何も言わずにっ。お説教してあげますから覚悟してください!」
顔をがばっと上げて大声を上げながら凪原に詰め寄る慈。一瞬ヤベッという顔をした凪原はせめてもの抵抗として弁明を口にする。
「ちょっと待ってめぐねえ。部屋を勝手に改造したのは確かに悪かったけど、本棚の裏のやつを準備しようって言いだしたのはハヤの方であって俺じゃな―――」
「言い訳はお説教の後で聞きます!。とにかく、正座ぁ!」
「……はい」
観念して正座する凪原とその前に立って説教を始める慈。
もし凪原の横であと2人ほど正座する人がいたならば当時の巡ヶ丘学院名物「やらかしすぎて生徒会担当教員にお説教される
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「……全く、今となっては役立ちそうなのでこれぐらいにしておきますけど、反省しましたか?」
「はーい」
「よろしい」
両手を腰に当てて頷く慈からお許しが出たので、凪原はやっと立ち上がることができた。それなりの時間正座をしていたのでジンジンとした痺れが足に来ている。
胡桃たちも時間が空いたことで落ち着いたのか、凪原が怒られている横で床下の物資を取り出してみたり本棚裏の収納スペースをのぞき込んでみたりしていた。
凪原が解放されたのを見て備蓄物資を1つずつ確認していた悠里が声をかけた。
「それにしてもすごい量の物資ね、こんなにたくさん用意するための資金はどうしたのよ?数万って額じゃないように思えるのだけど」
悠里の言葉通り、室内に備蓄された物資の量はかなりのものであった。非常食や災害対応物資など、1つ1つは高額では無いが数をそろえるためにはそれなりにお金がかかる。それに加えて本棚裏の武器防具類は1つ数万といった物もある。
お説教の内容を聞くに、これらを準備したのは凪原を含む当時の生徒会役員たちであったらしいが、とてもではないが数人の高校生の貯金で用意できる量ではない。
同様の疑問を感じていたのか他の人も注目する中の凪原の答えは意外なものだった。
「あ、それは
「「「校長先生!?」」」
「そ、なんか若いうちから防災に興味を持つとは感心だから自由にやってみなさい、ってさ」
突拍子もない答えに驚愕する一同であったが、校長先生のことを思い出すと同時に納得した。
巡ヶ丘学院は私立校であるので校長先生は変わらない。そんな校長先生は気のいいお爺ちゃんといった感じの人物だった。生徒の自主性を尊重するという考えの持ち主であり、生徒からの要望を可能な限り叶えようと尽力する。そのために私財を投じることも厭わない姿勢は生徒達から広く慕われていた。
胡桃達はこの段階では知る由もなかったが、凪原たち生徒会が数々のイベントを実行できたのは彼が最終的にゴーサインを出したからというところが大きい。
そのあたりの事情を知っている慈はもとより、そんな校長先生の性格を知っている胡桃たちにしてもそれほど驚くことではなかった。
「校長先生はまた勝手なことをして、一言くらい言ってくれてもいいじゃないですかぁ」
今ここにはいない校長に文句を言う慈だったが声にはあきらめが含まれていた。その様子に凪原は、俺らが卒業してからもなんか色々あったんだろうなと推測していた。
「校長先生が出資してくれたってのは分かったんだけどさ、この本棚の裏のやつはなんで用意しようと思ったわけ?どう考えても普通の自然災害とかじゃ必要ないものだと思うんだけど」
武器や防具を用意した理由を尋ねる胡桃にうんうんと頷く由紀。問われた凪原は頭を掻きながら答える。
「それなぁ、さっきも言いかけたんだけどその辺の物品を用意しようって言いだしたのは俺じゃなくて当時の副会長やってたハヤってやつでな、んでこいつがSFっていうかポストアポカリプス系が大好きな奴でさ―――」
曰く、
ポストアポカリプスと言えばサバイバルや籠城が基本(←まぁ分かる)
学校が舞台の籠城と言えばやっぱりゾンビもの!(←こじつけだがギリ分かる)
だから武器も準備しよう!(←分からない)
「―――ってことがあったんだ」
「それはまた、なんというか……」
「どういう考え方をしたらそうなるんだよ」
凪原の説明に何とも言えないような表情の悠里と呆れたように言う胡桃。凪原も2人の反応に頷きながら、まぁあいつ頭のねじが何本かぶっ飛んでたからな、と話していた。
なお凪原は、どの口が言ってるんですか、と言いたげな顔の慈を有意義に無視している。
「でも今は役に立つんだからハヤさんに感謝しないとねー」
「確かにその通りなんだけど、あいつに感謝するってのはなぁ」
素直に感謝の気持ちを表す由紀に対し微妙に複雑そうな表情をする凪原。ハヤの性格を知っている身としては素直に感謝する気になれない、どうだまいったかという声が聞こえてくるようだった。
「まぁありがたいことに違いはないから感謝してもいいんじゃないか?これを使えばあたしももっと戦えるし」
「「「はい?」」」
胡桃の言葉に彼女以外の声がきれいに揃う。その様子に胡桃は、え、どうした?という感じになっていた。
「ちょい待った胡桃、お前今なんて言った?」
「え?いや、これがあればあたしももっと戦えるって―――」
4人を代表して質問した凪原にキョトンとしながら答える胡桃。その答えに女性陣から口々に危険だという声が上がるが、胡桃としても譲れないものがあるようで毅然と反論していた。
「だってこれからのことを考えたらあいつらと戦うことは避けられない、その時に凪原に頼りっきりになるのは良くないだろ。凪原もさっき食料調達に行くのは準備してからって言ってたし、戦い方を教えてくれる気だったんじゃないのか?」
胡桃の言葉にそうなの?という顔を向ける3人に対し、ため息をつきつつ答える凪原。
「そりゃ多少はそういうことも考えてたよ?でもそれは盾とかさすまたの使い方ぐらいで、いざというときにゾンビと距離を取って逃げやすくするための方法。教えてもクロスボウの撃ち方ぐらいまでで本格的なことは教えるつもりはなかったんだけど」
凪原の返答に最初は身をこわばらせた3人だが、続く内容を聞くに確かにそれぐらいは自分たちもできなければいけないと思える内容だったので納得した表情になった。
「でもそれだったら胡桃もそれだけ教わればいいんじゃないかしら」
胡桃も自分たちと同じくらいのことを教わればいいんじゃないかという悠里に、首を振って否定の意を表す胡桃。
「それじゃ、ナギだけが矢面に立つことになって負担が大きくなっちまうだろ」
「別に俺の事なら大丈夫だぞ?さっき言った内容だけでも後ろから援護はしてもらえるし、昨日の胡桃を見た感じなら今のままでも十分だ」
だから無理して戦おうとする必要はない、と続ける凪原だったが胡桃はそれでは納得できないといった様子でなおも言いつのる。
「正直に言ってくれよナギ、前に出て戦える奴は多いほうがいいに決まってる。それも1人しか居ないのと2人居るのとじゃ大違いだ、そうだろ?」
どこか必死ともいえる様相で凪原を見つめる胡桃と口をはさめず推移をみることしかできない慈たち3人、4人分の視線を受けた凪原はしばらく目を閉じて黙り込んでいたが顔を上げると組んでいた腕をほどきながら口を開いた。
「……確かに胡桃の言う通り、最前線に立てる人間は多いほうがいい。しかも1人と2人とじゃ取れる選択肢もだいぶ違うからな。そういう意味では胡桃が前に立って戦ってくれるならそれはありがたいと言えばありがたい」
「ならっ「だけど」」
口を開きかけた胡桃の言葉を遮る凪原。
「お前はなんでそんなに前で戦いたがる?」
「それは、さっきも言ったように前に出れるのが1人だけより2人居たほうが「嘘だな」―――っ」
再び言葉を遮られ怒った表情になる胡桃、そんな胡桃を見ながら言葉を続ける凪原。
「もちろん今言った理由も確かにあるだろう、でもそれは一番の理由ではないように見える。答えてくれ、なんでお前はそんなに前に出たがる?」
嘘は許さないといった表情の凪原に、胡桃は黙り込むと顔を伏せてしまった。
(やっぱりほかに理由があったか。これで素直に答えてくれたらいいけど分からないな、死ぬ気ではなさそうなのが救いだけど)
そんなことを考えながら返答を待っていると、やがて小さな声で胡桃が話し始めた。
「……もうあたしの目の前で大事な人をなくしたくないんだ」
「こんなことになった日にあたしはすごく大事に思ってた人を失った、あたしは何もできなかった、助けられなかった。あたしは、もうそんな思いはしたくない。そのためにはあたしも戦えるようにならないといけない」
「なぁナギ、お前はあいつらと戦えるんだろう?頼む、あたしに戦い方を教えてくれ」
言葉とともに大きく頭を下げる胡桃。
凪原にはその大事な人というのが誰なのか分からなかったが由紀達3人は心当たりがあったようで、悲しそうな顔で胡桃を見つめていた。
「俺だって戦闘の専門家という訳じゃない。教えたところでまた目の前で大切な人を亡くすことになるかもしれないぞ?」
「分かってる、それでも何もできないでいるよりずっといい」
あえて厳しいことを言う凪原だったが、顔を上げた胡桃の顔は真剣そのもので、その瞳には決意の色が映っていた。それを見て取った凪原は、上等っと笑みを浮かべた。
いきなり態度が変わった凪原にえっといった様子の胡桃だったが、凪原は構うことなく近づくとその頭をなで始めた。
「それだけ覚悟がありゃ十分。しっかり教えてやるよ」
「えっちょっ、え?」
理解が追い付いていない胡桃をなで続けながら凪原は黙っている3人の方を振り返ると笑みを浮かべたまま口を開いた。
「と、いうことになったからよろしくー」
その言葉がきっかけとなり3人の沈黙も解けた。
「そ、そんな簡単に決めちゃっていいんですか?」
「簡単にってわけじゃないよ、めぐねえだって見ただろ?あんな覚悟を決めた顔はそうそうできないよ。いや~慕われてるね~」
慌てたように質問する慈にのんびりと答える凪原。その雰囲気には先ほどまでの真剣な様子はかけらも見られなかった。確かに慈の目からも胡桃の覚悟は周りがどうこう言えるレベルのものではなかったので納得するしかなかった。
「それよりも良かったじゃん、こんなに守りたいって思ってもらえるなんてそうそうないぞ?めぐねえに由紀、りーさん達のことを本当に大事に思っているみたいだね」
「そうね、そこまで思ってもらえていると分かったのはとても嬉しいわ。―――ところで凪原さん?そろそろ胡桃を解放した方がいいみたいよ?」
「はい?」
そうニヤニヤしながら言う悠里の言葉にどういうことかと疑問を覚えた凪原だったが、その答えはすぐに身をもって知ることになった。
「い、いつまでなで続けるんだよっ!子ども扱いするな!」
そう叫びながら腕をはらった胡桃。そして腕を払ったのとは逆側の腕、その肘が吸い込まれるように凪原の
突然の衝撃にうずくまる凪原の耳には、からかうような由紀と悠里の声とそれに食って掛かる胡桃の声、そして楽しそうに笑う慈の声が響いていた。
以上、第9話でした。
まぁ全力ではっちゃけてたんだから普通の非常用品だけで終わるわけないよね、って話です。
あとは胡桃の覚悟についてですね。一応補足しておきますとこの時点で胡桃は既にゾンビ化した先輩を殺害しています、つまり胡桃覚醒イベントは発生済みです。凪原がOBで胡桃たち3年生にとって先輩であることから誤解していた方が居ましたらごめんなさい。
遺物の披露については今回で終わりです、次の話で遠足前までいきたいと考えています。
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それでは第10話でお会いしましょう。
……胡桃の初々しさがうまく表現できない!