お気に入り100件突破ありがとうございます‼
めっちゃ嬉しいです!これからも頑張っていくのでどうか拙作をよろしくお願いします。
さて、
第1章がひと段落したので今回は閑話です
時系列的は10話の数日後ですが
本編とはほぼ関係ありませんので気楽にお楽しみください。
「(おい、これどうすんだよナギ!)」
「(俺に聞くなっ、そっちこそなんかいい案ないのかよ!)」
「(でもこの状況になったのは凪原さんのせいですよ⁉)」
「(俺だってこんなことになるとは思わなかったんだって!)」
凪原、胡桃、悠里は切羽詰まった様子で話し合っていた。3人とも小声ではあるものの、その声からは3人の焦りがにじみ出ていた。
その焦りの度合いたるや、初対面時に皆で協力してゾンビラッシュをさばいていた時に迫るものであった。
「(やばいって、このままじゃ)」
「(ああ、このまま何もできなかったら)」
「(めぐねえが―――)」
悲壮感すら漂わせる声で話し合いながら3人がこっそりと向けた視線の先では―――
「………。」(グスッ)
―――慈が今にも泣きそうな顔でトランプの手札を握りしめていた。
「「「(このままじゃ、めぐねえが泣く!)」」」
どうしてこんなことになったのか、きっかけは些細なものだった。
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さかのぼること数時間前、もうすぐ夕暮れになるという頃。
「疲れたぁー…。でもやっとついていけるようになったぞ」
「お疲れ。やっぱ運動部だっただけあるな、基礎体力がしっかりしてるから飲み込みが早いよ」
そう話す2人がいるのは校舎の屋上、その階段口近くであった。ここはソーラーパネルと園芸部のスペースの間なので体を動かすのにはちょうどいい。
備蓄物資を披露した日、自らを鍛えてほしいと言った胡桃の為に凪原は訓練メニューを組み特訓を開始していた。
訓練の内容としてはまず基本となる体力づくり、その後に近接武器を用いた戦闘訓練をするといった形で行っていた。体力づくりに関しては特筆すべきことはないが、戦闘訓練では対ゾンビを主眼とした白兵戦、正確にはシャベルと
凪原とて戦闘のプロというわけではないが、この2つの武器に関して言えば高校在学時の悪友にして生徒会仲間である早川から教えられてたし、何よりパンデミック発生からの数日はこれらの武器に文字通り命を預けていたのでその扱いについては習熟しており、人に教える上での支障はなかった。
という訳で胡桃はこの数日の間、手足にプロテクターをつけて凪原とマンツーマンのトレーニングに勤しんでいたのである。最初の1日2日は久しぶりの運動や慣れない戦闘訓練に疲労困憊となっていたが、このところはそれにも慣れてきたようで少しは余裕を見せるようになった。
とはいえトレーニング終了直後である現在、校舎屋上には荒い息を吐きながらあお向けに横たわる胡桃の姿があった。
「ゼーゼー……ちくしょう、あたしがこんななのに涼しい顔しやがって」
「教師役がそう簡単にバテてちゃかっこつかないからな」
恨みがましい顔の胡桃にしれっと答える凪原。ほれっという風にスポーツ飲料のボトルを放る凪原と、んっと受け取り身を起こすと飲み始める胡桃。その手慣れた動作からこの数日間で2人代わりと親しくなったことが分かる。
ちなみにスポーツ飲料は粉末タイプを水に溶かしたものである。
「よっし、もう大丈夫!下に戻ろうぜ」
「おう」
しばらく経ち、胡桃が復活したので2人は屋上を後にした。
「おっ、胡桃ちゃんにナギさんおかえり~」
「おかえりなさい、今日は早かったわね。胡桃ったらバテちゃったの?」
部室に戻った2人を出迎えたのは悠里と由紀だった。
読んでいた雑誌から目を上げた悠里が、ギブアップでもしたのか、とからかうように問うと胡桃は自慢げに答える。
「そんなことないぜ。今日は途中であまり休憩を挟まないでついていけたんんだ」
「あら、それなら今日は凪原さんから1本とれたのかしら?」
「う、それは…」
ふふんっと言った様子の胡桃だったが続く悠里の言葉に口ごもる。
毎日トレーニングの最後には凪原と模造刀を用いた模擬戦をしているのだが、未だに凪原から1本も取れないでいた。
「だって、ナギってばマジで強いだぜ⁉ちっとは手加減しろっての」
「そう簡単に勝たせちゃトレーナー失格だからな」
悔しそうな胡桃だったが、凪原としても当分は1本とらせてやるつもりはない。
よって凪原は話題を変えることにした。
「そういえばりーさん、昨日もその雑誌読んでたけど飽きないのか?」
そう言いながら凪原が指さすのは悠里が手に持っている雑誌だった。表紙の見出しは「アリの行動に見る経済学」、華の女子高校生の読み物としてはかなり微妙なチョイスだろう。
「別に好きで読んでるわけじゃないわよ、でも他に本もあまりないし。時間をつぶせるものにも心当たりはないしね」
「マジか、ゲームとか…は持ち込み禁止か、えーと…あっそうだ携帯とかは?あれなら持ち込み可だし時間つぶせるだろ」
「充電する電力がもったいないから使用禁止よ」
「Oh…」
ストイックここに極まれりといった悠里の発言に絶句する凪原。そしてその後ろにはやれやれといった感じの由紀と胡桃。
入部してから何かと忙しかったので気づかなかったが、どうやら学園生活部は娯楽に飢えているようである。
ため息をついて部室の奥にある机(生徒会長のデスク)に近づき、引き出しの中を漁り始める凪原。
何をしているのかと見つめる3人に向き直った凪原の手にはトランプの束が握られていた。
「これなら電気を使わないし皆で楽しめるだろ?」
当然否定の声が上がることはなく、早めのシャワーを浴びていた慈も会話に加わり、少し早めに夕飯とシャワーを済ませた後に5人でトランプ遊びに興じることとなった。
……ここまでは平和だったのである、ここまでは。
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「(ちくしょう、俺はただトランプをしようと提案しただけだぞ。それがどうしてこうなった?)」
「(寝ぼけてんのかナギ。さっきあたしらの前で起きた光景、忘れたとは言わせないぞ)」
「(でもまさかこんなことになるとはね…)」
「(ああ、あたしもここまでだとは思わなかった)」
3人ともそこまでしか言わないがその心中は完全に一致していた。
(((まさかめぐねえがここまでトランプ勝負に弱いなんて)))
そう、現在泣きそうになっている慈、絶望的なまでにトランプが弱いのだった。
その弱さは驚異的であり凪原たち3人が戦慄するレベルのものであった。
具体的には以下通りである。
・七並べ
配られた手札が1~3と絵札のみであり1枚も出すことができずに3パスで敗北
・スピード
対戦相手の由紀にスピードで圧倒されほとんど札を出せず敗北
・神経衰弱
神経が衰弱しているのではないかと心配になるレベルで札がそろわない、当然敗北
・うすのろ
まず一番に手札がそろわないし、ほかの人がそろった時も反応が遅れて中央に置いた消しゴムを獲得できない、敗北
端的に言って惨憺たる結果である。
始めのうちは負けても笑っていた慈だったが、負けが重なるにつれて顔が曇り、続いて口数が減り、纏う空気がどんどん暗くなっていった。
そして先ほど大富豪で一番に上がったと思ったら、最後の手札がジョーカーだった為反則負けになったところでとうとうガチ泣き一歩手前というところまできてしまったのである。
ちなみに現在はババ抜きを始めたところなのだが、皆が手札にあるペアを捨てていく中で慈だけはほとんど札を減らすことができていない。
そんな手からあふれそうな量の手札に涙ぐむ慈に更なる追い打ちとなる事件が起こった。
「あ、やったぁ!全部捨てられたよっ」
(((この
あろうことか、先ほどから会話に参加していなかった由紀が手札をすべて捨てることができ、スタート前から一抜けが確定してしまった。
そしてそれに内心で絶叫する凪原たち3人。
実は由紀は先ほどからどのゲームでも1位か2位という好成績を収め続けており、そのたびに無邪気に喜んでいたのである。そのため慈の様子には気付いておらず、珍しくビリから脱出できそうだった慈を絶望の底に叩き落したことも1度や2度ではない。
「トイレ行ってくるねー」と出ていった由紀を尻目に小声で作戦会議をする凪原たち3人。
「(と、とにかくめぐねえをビリにすることだけは避けないと)」
「(だな。幸い
「(そうね、これ以上放置するとめぐねえが本当に泣き出してしまうわ)」
手短に意思疎通を終えた3人は覚悟を決めた表情で
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―――数分後
(何となくこうなる気はしてたよ……)
そう達観した表情を浮かべる凪原の手札は1枚。そして、その正面で2枚の手札を突き出している慈。
「さあ、なぎ君。引いてくださいっ!」
今にも涙がこぼれそうになるのを必死にこらえながら迫る慈に凪原はどんな顔をしていいか分からなかった。
胡桃と悠里はすでに上がっており、悠里からは心配そうな視線が、胡桃からは「めぐねえを泣かしたら分かってんだろうな?」という圧力に満ちた視線がそれぞれ凪原に送られている。
ここで凪原が慈からジョーカーでない方のカードを引いてしまえば凪原の勝利が確定し、同時に慈の涙腺が決壊することになるのだがその心配はない。その理由は慈の顔を見ればすぐに分かる。
スッ(一方のカードに手を伸ばす)
パァァ(こぼれそうな笑顔になる慈)
ススッ(もう一方のカードに手を伸ばす)
ズーン(ぎゅっと口を引き結んで泣きそうになる慈)
(分かりやすいから間違える心配がないのが救いだよな、だけど―――)
嬉しそうな顔をした方のカードを引く凪原、当然ながら引いたカードはジョーカーであった。
これで次に慈がジョーカーでない方を引けば晴れてビリ脱却となるのだが―――
「うーん……よし、こっちですっ!」 ←颯爽とジョーカーを引く慈
(―――こうなっちゃうんだよな、ほんとなんでこんなに引き運悪いんだろ?)
あっという間に状況が振出しに戻ってしまったが、慈の顔を見ればどちらがジョーカーなのかはすぐに分かるので凪原はあまり焦っていなかった。
このまま続けていればそのうち慈も正しい方のカードを引いてくれるだろう。
そんな凪原の甘い思惑は、慈が続いて取った行動で脆くも崩れ去ることになる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ、今かき混ぜますからぁっ!」
再びジョーカーを引こうとした凪原だったが、そんなこととは知らない慈は慌てたように後ろを向くと2枚のカードをかき混ぜる。
そして向き直って凪原にカードを突き出したところまでは良かったがその体勢が問題だった。
「さあ、引いてください!」
何と顔を伏せたまま2枚の手札を突き出し、どちらのカードがジョーカーなのか慈自身でも分からないようにしたのである。
慈なりに自分の弱さを克服する方法を考えて実行したのだろうが、これでは凪原はどちらのカードを引けばよいか判断できない。文字通り運任せでカードを選ぶしかなく、慈を勝たせることが難しくなる。
自身の計画が崩壊した凪原は焦ったように視線で胡桃と悠里に救援を求める。
(ちょ、助けてくれっ、どうすりゃいい!?)
そんな心情を余すことなく視線に込めた凪原だったが、2人とも打つ手がないといった風に小さく首を振ると近くにいる由紀にばれないよう、口パクでメッセージを送ってきた。
曰く、
――が――ん――ば――つ――て――
(他人事かよちくしょうっ)
2人からの支援が受けられないことが分かり内心で絶叫する凪原。
しかしそうしていたところで状況は好転しないので腹をくくって突き出された2枚のカードを眺める。
(どっちだ?どっちを選べばいい?どっちを選べば
そして、躊躇する凪原に追い打ちがかけられる。
「ナギさん悩んでるならパっとカード引いちゃいなよ」
トイレから戻ってきていた由紀がカードを引くように催促する。このちんまい悪魔はどうやら凪原の窮地を全然全くこれっぽっちも理解していないらしい。
これだけでも辛いのだが、さらに凪原の精神にダメージを与える事態が発生する。
「(お願いします、お願いしますぅ…)」
顔を伏せたままの慈が小さな声でお願いしますと繰り返し始めたのである。そしてそれが聞こえた由紀達3人から、こちらを批難するような視線が突き刺さる。
凪原には自身の精神がやすりで削られる音が聞こえる気がした。
(ええい、ままよっ)
意を決して引いたカードはジョーカー、何とか今この瞬間でのバッドエンドは回避された。
顔を上げた慈がほっとした表情になる。しかしこれで終わりではない。今度は慈がカードを引く番であり、それで決着がつかなければ再び凪原の番になる。
(油断しようものなら即座にめぐねえ号泣は必至。そしてそうなると俺の社会的地位が死ぬ。漢凪原、誰に頼らずともこの窮地を脱出してみせるっ……)
プレッシャーのせいか、思考がおかしなことになった凪原は1人覚悟を決めると手札を慈に向けて突き出した。
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「やった……。負けた、俺は負けたぞ」
「お疲れナギ、お前はよく頑張った」
「お疲れさまでした、これで最悪の事態は回避できたわ」
しばらくたった部室には真っ白に燃え尽きながらもやり遂げた表情で負けたぞと繰り返す凪原とそれをねぎらう胡桃と悠里の姿があった。胡桃は凪原の肩に手を当ててその戦いを称え、悠里は微笑みながら少し離れたソファを眺めていた。
その先には抱き合ってビリから脱出できた喜びを分かち合う慈と由紀の姿があった。
あの後、3ターンにも及ぶ激闘の末、凪原はついに慈にジョーカー以外を引かせることに成功したのだった。
最後の一瞬ののち、慈は飛び上がるように喜びを爆発させそれと対照的に凪原はすべての気力を使い果たして崩れ落ちた。
「なぁ胡桃、今日見張りの順番変わってもらっていいか?ちょっと、疲れた……」
「分かったよ、今日はもうゆっくり休めナギ」
「ああそうさせてもらうよ」
そう答えた凪原はゆっくりと立ち上がると、ふらふらとした足取りで部室を出ていった。
以降この日の出来事は凪原たち3人の間で「学園生活部トランプの変」と呼ばれることになり、今後トランプをするときは慈を由紀と組ませるなどの対策が取られることとなったのであった。
はい、トランプがめちゃめちゃ弱いめぐねぇでした。
私の頭の中ではめぐねぇはこんな感じ時の人だと確信しています、異論は
本編でも基本はこんな感じの役回りになるんじゃないかなぁ、と予想。
あ、今回からセリフの時の行間を変更しました。
見難いなどのご指摘があれば元に戻す予定です。
さて
次回からは本編第2章「遠足編」がスタートします。
Q.部員が増える予定は?
A.ありますねぇ、ありますあります
次の更新は筆が進めば平日中無理だったら来週日曜の予定です。
誤字報告してくれた皆様、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
それではまた次回!