5000UAありがとうございます!
今回から第2章、遠足編です、お楽しみください。
2-1:遠足に行こう!
「そろそろ校外遠征に行こうと思うんだけど、どう思う?」
「「「校外遠征?」」」
凪原の提案に首をかしげる学園生活部一同。
会話が行われているのは学園生活部の部室、時間は朝で皆で食卓を囲んでいる時間である。
「どうしたんだよいきなり……ってわけでもないのか。食料の確保だっけ?」
一瞬怪訝そうな顔を浮かべる胡桃だったがすぐに理由にたどり着いた。周りもその言葉に納得した表情になる。
「そう、めぐねえとりーさんに計算してもらって一応2週間はもつって話だったし購買の物資も確保できたから急を要するってわけじゃないけど余裕があるに越したことはないしな。これから時期だと雨が続くことも考えないといけないし、早めに行っておきたい」
「なるほどね、そろそろ1週間だしいい頃合いということかしら」
「ナギさんが来てからもうそんなに経つんだ~。いろいろ楽しかったからもっと短く感じるね」
凪原が学園生活部に加入してからおよそ1週間、由紀の言葉通りここ数日学園生活部の面々はなかなかボリューミーな日々を送っている。胡桃の訓練がてら本校舎の2階まではとりあえずの安全を確保できたので物資についてはそこそこの余裕もできた。
最近では高校での暮らしにも慣れ、皆で仕事を分担したりおしゃべりやカードゲームを楽しむなど生活にも余裕が出てきていた。
「それでなぎ君、食料調達といってもどこに行くか当てはあるんですか?その、場所によっては彼等がたくさん居たりして大変だと思うんですが」
「あー目的地、というか調達場所としてはとりあえずその辺のコンビニか地域密着型のスーパーを考えてるんだけど」
「あら、どうせならショッピングモールとかの方がいいんじゃないかしら?あそこならお店がたくさんあるから色んな物資がいっぺんにそろって効率がいいと思うのだけど」
「んー、そりゃちょっと危ないんじゃない?」
調達場所として、効率の観点からショッピングモールを提案する悠里だったがそれに悩みながらも否定の声を上げる胡桃。少し空気が悪くなりそうな気配を感じた凪原は割り込む形で口を開く。
「いや胡桃の言う通り、この状況でショッピングモールは悪手だ。映画やゲームじゃショッピングモールといえば彼奴らの巣窟かタチの悪い生存者の溜まり場って相場が決まってるしな」
古今東西多少なりとゾンビ関連のものに知見がある者にとって、ショッピングモールというのは避難するのに最悪といってもいい選択肢である。
まず人が多く集まる場所の為ゾンビの溜まり場となっている可能性が高いことに加え、基本的に客へ開かれた施設であることから、開放感を意識した建物は総じて防御力が低い。入口そのものが多くある上に1つ1つが大きく脆いため塞ぎ切ることが難しい。
もちろん物資は大量にあるだろうがそれは多くの生存者にとって略奪の対象となる。物資を取りに来た者同士で争いになるかもしれないし、運良く籠城できた生存者達がいた場合攻撃されるだけならばまだしも、運が悪ければ捕まって奴隷にされるかもしれない。
ともかくゾンビものにおけるショッピングモールは立ち入りが憚られるような危険地帯なのである。
そして、あまりゾンビ関連に詳しくない胡桃でさえ気付く事に高校3年の1年間を
「――という訳でゾンビが蔓延ってる状況でショッピングモールに行くのは割と危険なんだ。まぁりーさんの言う通り色々なものが一気に揃うってのも魅力的ではあるからな、余裕があれば近くまで行ってもいいと思う。外から見て分かるレベルでゾンビが居たら論外だしそうじゃなければちょっと探ってみればいい」
そう締めくくった凪原に、納得の表情を浮かべる一同。
少し悪くなりかけた空気も元に戻っていた。
「なるほどね、確かにそう考えるといきなりショッピングモールに行くのは危ないわね」
「ゾンビさん達がたくさんいるところは怖いもんね」
悠里や由紀の言葉に頷きつつ、「それと、」と前置きをしてもう一つの目的についても言及することにした。
「それと食料調達の前に銃と弾薬も回収しておきたいんだよな」
「銃、ですか?」
食料に続いて凪原が調達目標として挙げたの銃と弾薬であった。
予想していなかった名前に確認するように尋ねた慈だったが、凪原は「そう、銃」となんでもないかのように答える。
「ナギはもう銃持ってるだろ、なんでまた必要っていうんだ?というかそもそもそんな簡単に銃って手に入るもんなの?」
しばし視線を交えた後、代表して質問した胡桃の言葉からなぜ皆が訝しげな顔をしているのか分かった凪原は理由を説明することにした。
「じゃあ2つ目の簡単に手に入るのかって方から。普通なら大変だろうけど俺に銃をくれた田宮さん達の車にまだ残っているから見つけるのは別に難しくない」
凪原が調達先として挙げたのは田宮達の自衛隊車両であった。当時は必要最低限のものだけを取ってその場を後にしたのでまだ装備が残っていたのだ。
「んで1つ目のなんでまだ必要なのかって方。これは簡単な話でゾンビを相手にするなら近距離でやるより離れたところから銃で撃った方が早くて安全だから。そのためには銃本体、というよりは弾丸がたくさん必要になるんだけど、ぶっちゃけ今ある分じゃ少なすぎるからな、今のうちに補充しておきたい」
とりあえず理由を説明されたものの、銃よりも弾丸の方が大事ということにあまりピンときていないようで、
「言いたいことは分かったけどさ、弾丸ってそんなに必要なもん?今ある分じゃダメなの?」
という胡桃の言葉に頷いている。
「弾丸って銃と違って当たっても外れても撃ったら無くなるから消費量がすごいんだよ、今ある分じゃこないだの雨天ラッシュが2,3回きたら無くなると思う」
「マジか」
「そんなにすぐ無くなってしまうものなんですね……」
皆、弾丸の消費の凄まじさに驚きつつも補充の必要性を理解したようだ。その様子に満足げな凪原は話を続けることにした。
「この間は重くて全然持ってこれなかったからな、あれを全部回収できればかなり余裕ができるし胡桃の射撃訓練も始められるぞ」
「えっ⁉︎あたしも練習すんのっ⁉︎」
突然のことに思わず大声になる胡桃。どうやら初耳の内容に驚いたらしい。
「おう、胡桃もかなり近接戦闘ができるようになってきたからな。それだけ動けるんなら近づかれても大丈夫だから、銃の練習を始めてもいいと思う」
「あ、あたしはシャベルと山刀だけでいいよ。銃なんて撃ったことないしうまくできないから上手なナギがやった方がいいって」
「ばっかお前、白兵戦でやり合うより離れたとこから攻撃できる方がいいだろ。それに俺だって2週間前には実銃を撃ったことはおろか持ったことすらなかったんだから差も大きいもんじゃない」
「けどさぁー…」
どうにも気乗りしない様子の胡桃だったが、銃を扱える人が2人いれば防衛力が格段に上がると説得したら納得してくれた。
「そういえば、調達に出るといっても荷物はどうするの?凪原さんだけじゃないといっても5人じゃ持てる量にも限度があるわよ?」
「はい!私は重いものは持ちたくありません!」
悠里が物資の重量について言及すると由紀が自ら元気よく戦力外宣言をした。
「確かにそれはどうするんだ?ナギが持てなかったもんをあたしらに持てって言われても困るぜ?」
「あーそれなら大丈夫」
それだけ言って言葉を切った凪原を不審に思った皆が視線を向ける。視線が集まったのを確認した凪原はグリンッと音が付きそうな勢いで振り返ると、これまたガシッと音が付きそうな勢いで慈の肩に手を置き―――
「めぐねえ、車出してっ」
と笑顔で言い放った。
「ふぇっっ⁉」
部室に慈の悲鳴じみた声が響いた。
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「クッソ、足がしびれててうまく動かねぇ……」
「当然だろ、めぐねえはああいうのに弱いって分かっててやるんだから」
「いやだって、反応が面白いじゃん」
ぶつぶつ呟く凪原とそれを自業自得と切って捨てる胡桃。
あの後、凪原は顔を真っ赤にした慈に正座させられたうえでお説教を受けることになった。曰く、「先生をからかっちゃいけませんっ」とのこと。
しかしその表情を見れば照れ隠しであることは明白なので、凪原としては反省する気はさらさらない。
「さてめぐねえの赤面顔はおいといて、こりゃちょっとめんどくさいな」
「おいとくなよ……。とはいえどうすんだ、あれ?」
2人がいるのは本校舎3階の外側(この部分には3階の教室がないため図書館や購買部の上がバルコニーのようになっている)、そして視線は校舎裏にある職員用駐車場に向けられていた。
そこには複数の車が駐車しており、その中にはお目当ての車である慈の赤いミニクーパーも含まれている。
それだけならば借り受けたキーを使って車を持ってくればいいのだが、駐車場内にちらほらとゾンビがいることがそれを難しくしていた。
「しかも中途半端にばらけてるんだよなー。もうちょい離れてたら1体ずつ倒すなりばれない様にすり抜けるなりできるんだけど」
「そんな面倒なことしないで1体ずつ撃っちゃうのじゃダメなの?」
「それでもいいっちゃいいんだけど、少しもったいないんだよな。向こうにばれてるならまだしもそういう訳じゃないし、あと距離的に厳しい。2階からなら当たるとは思うけど1体1発で始末できる自信がない」
銃で撃ってしまえという胡桃に対して、否定的に返す凪原。2階から狙ったとして20m前後かそれ以上、銃を持ち始めて1ヶ月たっていない身としては一撃必殺には厳しい距離だ。
「そんじゃまぁ、先人に倣うとしますか」
「先人?」
よく分からないことを言いだした凪原に首をかしげる胡桃だったが、凪原は「ちょっと待ってろ」とだけ言い残して校舎内に入っていってしまった。
「―――お待たせ、用意できたぞ」
「用意って何取りに行ってたんだよ?縄梯子と、あとそれ……何?釣り竿の先にキッチンタイマーがついてるように見えるんだけど」
数分後、戻ってきた凪原は戦闘用の服装と装備を付けたうえでいくつかの物品を持っていた。特に胡桃が反応したのは釣り竿だった。
質問の言葉の通り釣り竿の糸の先、本来なら仕掛けや針がついている場所には100均等でよく見かけるチープなキッチンタイマーが結び付けられていた。
「あとめぐねえ達も連れてきたのか」
そう言いながら胡桃が凪原の背後に視線を向ければ、そこにはよく分かっていない様子の慈、悠里、由紀の3人が立っていた。
「一体どうしたのよ、戻ってきたと思ったらいきなり「これから車を回収しに行くから見る?あとついでに手伝って」って聞かれて全く状況が分からないのだけど?」
どうやら何も説明しないで3人を連れてきたらしい。そんな凪原にジト目を向ける胡桃だったが当の本人はそんなことどこ吹く風で作戦を説明し始めた。
「やろうと思ってるのはそう複雑なことじゃない、このキッチンタイマーを垂らして音であいつらを車から引き離してその間に車を移動させようって考えだ。釣り竿を使えばあいつらの近くに落として注意を引いた後にタイマーを動かせるからな」
「そんなてきとうな作戦でいいの?なんというかこう…行き当たりばったり?」
「危なくないんですか?」
不安そうな表情の悠里と慈だったが、胡桃は話を聞くと納得した表情になった。
「いや、大丈夫だろ?2階でも使った手段だけどあいつら音を聞いたらすぐそっちに気を取られてたからな」
「胡桃の言う通り、あいつらは単純だから一発目で気を引ければ後は簡単」
実戦班の2人の言葉を聞いた悠里達は渋々と言った様子で納得した。
「それで手伝いって何をすればいいの?」
「ああ、これを使ってあいつらの陽動をやってほしいんだ。あれだ、クレーンゲームみたいなもんだ」
「うわー楽しそうだねっ」
釣り竿を渡された由紀は笑顔を浮かべた。
ほっとくと今にも釣り竿を振り上げそうなので慌てて止める。
「ちょい待ち、具体的にははしごをセットして…ついでに俺の心の準備ができるまで」
「なんだよナギ、ビビってんのか?」
「ちょっとしたジョークだ、すぐ用意するよ。胡桃は駐車場外から近づいてくる奴がいないかを見ててくれ」
「は?何言ってんだあたしも行くぞ」
「へ?」
その言葉に振り返ってみると、プロテクターとタクティカルグローブを装備し終えてシャベルを担ぐ胡桃の姿があった。どう見ても戦闘準備完了といった様子だ。
「……いいのか?」
「はっ、何のために訓練したと思ってるんだ」
「いやそうじゃなくて、はしごだし、スカートだし」
真面目な顔になった凪原に笑いながら返した胡桃だったが、続いたことばが予想外すぎて一瞬固まってしまい脳が言葉を理解した瞬間に顔が沸騰した。
「なっ///ス、スパッツ穿いてるから大丈夫だっ。次ふざけたこと言ったら屋上から叩き落すからなっ⁉」
「はいはい。そうだ、今回持ってく武器はシャベルじゃなくて
「それは分かったけど、なんかうまいことごまかそうとしてない?」
「イヤ、チョットナニイッテルノカワカラナイ」
「やっぱりごまかしてるじゃないかぁっ!」
うがーっと叫ぶ胡桃をほほえましいものを見る目で眺める視線が3つ。
「流石ね胡桃、あそこでスパッツ穿いてると返せる人はそうはいないわ」
「2人とも仲良しですねぇ」
「胡桃ちゃんは不意打ちに弱いんだね~」
「そっちの3人は後で覚えてろよ」
上から悠里、慈、由紀、そしてその3人に恨みがましげな目を向ける胡桃である。
「おーい、はしごの準備ができたからタイマーをおろしてくれ。――胡桃、何やってんだ早く準備しろ」
「誰のせいだとっ⁉」
怒る胡桃を尻目に、それじゃいくよー、という掛け声とともに由紀が釣り竿を振ってタイマーをおろし、車の回収作戦が始まった。
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「「「カンパーイ!」」」
夕暮れ時、学園生活部の部室には5人の元気な声が響いていた。
結果から言うと、車の回収は何の問題もなく終了した。
駐車場にいたゾンビの多くは由紀が垂らしたタイマーにつられて凪原たちに気づかなかったし、つられなかった個体は2人によって静かに始末された。慈の車は本校舎の校庭側、職員用玄関のひさしの下あたりに移動され今は沈黙していた。
今は無事に車を手に入れられたことを祝して購買部の自販機から持ってきたコーラで乾杯をしているところであった。テーブルに用意された食事も普段よりは少し豪華になっている。
「それにしてもすんなりといって良かった。由紀がうまくあいつらを誘導してくれたおかげだな」
「へへーん、私はこれでもクレーンゲームとかは得意なんだよっ。学校帰りとかにはよくゲームセンターで腕を磨いていたからね」
「由紀ちゃん?寄り道してたなんて先生聞いてませんよ」
「あ」
凪原に褒められて得意げだった由紀だったが調子に乗って口を滑らせてしまい、それを慈に問われて慌てて両手で口を押えるが時すでに遅くソファーまで慈に引っ張られていった。
そんな2人を見ながら凪原が口を開く。
「さて、車が無事に手に入ったわけだし明日にでも遠征に行こうと思うんだが」
「まあいいんじゃないか」
「そうね、物資の確保は早いに越したことはないし」
「よし、それじゃあ具体的な目的地について詰めるか部屋に地図があるからそれで「じゃあ明日は遠足だねっ!」――遠足?」
振り返った先では由紀が両手を広げた格好で目をキラキラさせながら立っていた。
ソファーには慈が投げ出されていることから振り切ってきたらしい。
「私たち学園生活部が学校から飛び出すんだよっ!これはもう遠足と言っても過言じゃないよ!」
ハイテンションで言葉を続ける由紀に、ふむ、と考え込む凪原。
確かに学校から外に出て活動するというのは捉え方によっては遠足と言えるかもしれない。何より由紀達はパンデミック初日から2週間以上外に出ていないのだ。しょうがなかったと言えばそれまでだが内心ではストレスが溜まっているかもしれない。
ならここで遠足と銘打ってイベント化してしまった方が心身にも良いのではないか。
そう考えた凪原は顔を上げるとニヤリと笑みを浮かべた。
「よっしゃ、なら明日は遠足だな。名付けて
「学園生活部第1回校外遠足~お菓子は300円まで、それ以上は現地調達です~」
というわけだ、由紀隊員覚悟は良いか?」
「りょうかいっ」
問いかけの言葉に元気よく返事をする由紀、その言葉に頷いた凪原は振り返って言葉を続ける。
「そういう訳で明日からは遠足だ。念のため2日、いや3日のつもりで準備してくれ。それが終わったら具体的な目的地について話を詰めようか」
「「「ええ(ああ)(うんっ)」」」
その言葉に答える皆の声がそろった。
遠足編、遠足に行くとは言っていない。
出発までに1話使ってしまいました…
次回には出発します。
今度こそ平日に投稿、できるといいなぁ。それが無理でも日曜には必ず投稿しますので気長にお待ちください。ではまた次回!
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