遠足編2話目です、お楽しみください
翌朝、胡桃に頼んで不寝番の時間を少し短くしてもらった凪原は爽やかに目を覚ました。
「やっぱ睡眠時間が1サイクル多いと体感で分かるな」
などと呟きながら体を起こす凪原、睡眠は90分を1サイクルとしており睡眠時間が90の倍数であった場合心身共にスッキリと起きられるらしい。
普段は3時間(2サイクル)睡眠であるのだが、今日は遠足に備えて4時間半(3サイクル)睡眠をとったので体の調子が良い。
諸々の準備は昨夜のうちに済ませてあるので、着替えを終えれば後はリュックを持つだけだ。
「じゃ、いってきますっと」
そう誰にともなく口に出すと凪原は自身の部屋としている教室から出て行った。
====================
「あ、ナギさんおはよー」
「おう、おはよう由紀。なんだ今日は随分早起きじゃないか」
凪原が学園生活部の部室に顔を出すと、そこでは由紀が既に席に着いていた。普段であれば朝食の準備ができても起きてこないで女性陣の誰かが起こしに行くのだが今日は自分で起きられたらしい。
「由紀ったら今日は一番に起きたのよ、あんなに早く起きれるなら普段からちゃんと起きればいいのに……」
「にへへ、遠足が楽しみで目が覚めちゃったんだよ」
凪原へとお茶を渡しながら呆れたように言う悠里に笑いながら返す由紀。凪原は礼を言いながらお茶を受け取って一口飲んだ後に口を開いた。
「早く起きちゃうってのは遠足のお約束だな。ところで2人は体の調子は大丈夫か?多分普通の遠足よりも疲れると思うから不調なら遠慮なく言ってくれ」
「そこはばっちり、全然問題ないよっ!」
「私も特に不調はないから大丈夫よ」
念のため体調に異常がないかを確認した凪原だったが、2人とも問題なしとの返事に頷くとそのまま席に着いた。
数分で慈と胡桃もきて5人揃ったので皆で朝食を取り始める。食事中の話題はもちろん今日の遠足についてだ。
「それじゃあ今日の予定を確認するぞ、ご飯が終わったら荷物を持って車まで移動、安全確保をしたら出発。まずは田宮さん達の車に向かって銃と弾薬の補充、その後で近場の物資調達だ」
「りょうかーい」
「了解、昨日話したとおりだな」
今日の行程を確認する凪原に元気よく返事をする由紀と問題ないと頷く胡桃。
その後もそれぞれが疑問点などについて話している途中で慈が思い出したように口を開いた。
「そうだなぎ君、その田宮さん達の車ってどのあたりにあるんですか?近くに目印とかがあれば教えてほしいんですが」
「そういえば言ってなかったっけ、車があったのはここから大体南西、鞣河小学校の近くだよ。俺が来るときは徒歩であいつ等を躱しながらだったから3日くらいかかったけど車で行けば迂回を考えても2,3時間くらいじゃないかな」
2人の会話に由紀と胡桃は特に気にしたそぶりも見せなかった。
しかし、悠里だけが凪原の言葉に小さく肩を震わせたことに気づいた者は1人もいなかった。
====================
「おい由紀っ、お前ちっちゃいんだからもう少しそっち詰めて座れよ」
「ちっちゃくないもんっ。胡桃ちゃんこそいつもシャベルと一緒なんだから、一緒に後ろに行けばいいじゃん」
「あたしを荷物と一緒にするなぁっ」
「まったく2人とも、なんでもいいから静かにしてちょうだい」
慈の愛車である赤色のミニクーパーの後部座席で由紀と胡桃が騒いでいる。うんざりしたように悠里が話しているが2人ともあまり聞く気がないようで収まる気配はない。
「にぎやかなのは良いけど、大声出しすぎるなよー」
「「はーい」」
凪原の声にも2人仲良く返事をしてくるあたりそれほど本気で言い合いをしているわけではないようである。
大方2週間ぶりの屋外にテンションが上がってるのだろう。
それに、文句を言っている悠里からして顔は笑っているので問題もない。
学園生活部の一行は日常が崩壊した中を車で走っていた。
あの後朝食は滞りなく終わり、荷物(保存食の類と着替えなど)を持った一行は車に乗り込んだ。
一晩の間に車に寄ってきていたゾンビが数体いたが、車を停めていたのは教員用玄関のひさしのすぐ下。せいぜい数メートルの距離であれば凪原の銃の腕なら外すことはない。
早々に
なかなかにショッキングな光景が出来上がったため慈たちを呼ぶ前に胡桃と協力してざっと片づけておいた。
ちなみに胡桃にはある程度グロ耐性があったようで、特訓中にもゾンビの死体で気分を悪くすることなどはなかった。(理由を聞いてみたところ、「
「なぎ君、次はどっちの道ですか?」
「ちょっと待って、えーっと……、しばらく直進。公園前交差点って信号で右折。でも車が通れるかどうかは分からないから注意して」
「分かりました、安全優先で行きますね」
ハンドルを握っている慈からの質問に地図を確認しながら答える凪原。手にしている地図は凪原が単独行動中に書き込みをしていたもので道路の様子やゾンビの分布などについても情報が載ってはいるが、この1週間ほどで変化が起きているかもしれないので油断できない。
なお、実際にパンデミック後の道路を移動したことのある凪原が運転をするという意見もあったのだが―――
「めぐねえ、俺が運転してもいい?道路の状態とか道順とかはだいたい覚えてるし」
「え、なぎ君免許持ってるんですか?」
「去年の夏に合宿で取得したから平気平気。……あんま乗る機会がなかったからペーパー気味だけど」
「なんかすごく不安な言葉が聞こえたんですけど、ちゃんと運転できるんですよね?」
「や、やっぱりダメですっ!なぎ君にはハンドルを任せられません!」
「えー...」
―――という一幕があったため運転は慈の担当となった。
「うーん、こっちの道もあいつ等が増えてるな。めぐねえバック、ルートを変更するからちょっと戻って」
「分かりました」
「なんかさっきから戻ってばっかだな。ほんとに道合ってんのか?」
前方を確認した凪原が戻るように慈に頼むと、後ろから胡桃が声を掛けてきた。
「しょうがないだろ、俺が来たときと比べてあいつ等の位置とか量が変わってるんだ」
その言葉通り、1週間前と比較するとゾンビたちの場所がずいぶんと変わっていた。
前は通れた所にたむろして道をふさいでいることもあれば、逆に大量にいたゾンビがほとんどいなくなっている場所もあった。
ある程度は生前の習慣に沿った動きをしているとはいえ、徘徊しているうちにその動きから外れていってしまうのだろう。
「参ったな、こっちの道も使えないとなるとどう迂回したもんか」
新たな書込みが増えた地図をにらみながら新しいルートを考えていた凪原だったが、肩あたりに気配を感じて振り返った。
「どした、由紀?」
「ちょっと地図見せて、......えーっと、こっちの道を通るのはどうかな?ここまで戻って右折して道伝いに行けば目的地に結構近づけると思うんだけど」
「おっ、そのルートは考えてなかった。確かにこれならいけそうだな、お手柄だぞ由紀」
後部座席からひょっこり顔をのぞかせた由紀はしばらく地図を覗き込むと新しいルートを提案してきた。
そのルートは普段から人通りが少ない場所を通っているのでゾンビも少なそうである。
「えっへん、私地理は得意なんだよっ」
「なんだ、由紀の方が地図読むのうまいじゃないか。ナギとナビゲーター変わったらどうだ」
「その場合俺が
「げ、やっぱ来んな。そこでナビゲーターやっとけ」
からかう胡桃だったが、凪原のよく分からない脅しにあっという間に意見を翻した。
「面と向かって来るな、なんてひどいじゃないか」
「胡桃、そんな暴言を言ってはだめよ?凪原さんが傷ついてるじゃない」
「うっさい、これ以上狭くなってたまるかっ。あとりーさんもノるな、ナギが調子づくだろが!」
そしてそのまま凪原と悠里に逆撃を掛けられる。実はこの流れ、もはや学園生活部でテンプレ化しつつある。胡桃はよくちょっかいを掛けるのだがやり返されると弱い。
それを逆手に取られて
「あの、なぎ君。その、道路に……」
「…ん、了解」
ドライブの途中、慈が言いづらそうに凪原に声をかけてきた。その視線の先にあるのは道路の真ん中にたたずむ数体のゾンビであった。
まだ距離があるためか、こちらには気づいていないようでうめき声を上げながら体を揺らしているだけである。
小さく返事をした凪原は極力音を立てないようにドアを開け外に出る。自分も降車しようとする胡桃を手で制し、車に残る面々に辛いなら目を閉じておくように言ってホルスターから9mm拳銃を抜いて構えながらゾンビたちの方近づいていく。
「heyゾンビ共!ここに昼ごはんがあるぜっ」
道路の端まで移動した凪原わざと声を上げてゾンビたちに自らの存在を伝える。その声に挑発の意図を感じたのかどうかは定かではないが、ゾンビたちはうめき声を上げながら凪原の方を向くと動き始めた。とはいえその歩みはゆっくりとしたものであり、生きた人間が普通に歩く速さのおよそ半分程度でしかない。
(ゲームとかじゃ走るゾンビとか特殊能力持ちのやつとかが定番だけど現実じゃそんなことはないな、群れたりしなければ別にたいした脅威じゃない)
そんなことを頭で考えながらも凪原の体は淀みなく動く。9mm拳銃を目の高さまで持ち上げると、目、照準器、ゾンビが一直線上になるように構え狙いをつける。ゾンビが一歩踏み出すごとに頭部が上下に揺れて狙い辛いが、ほぼ一定のリズムである上に数メートルという至近距離、なおかつ相手の方から近づいてきてくれるとなれば
くぐもった銃声が数初響いたあとにはそれと同じ数のゾンビが倒れていた。
軽く周囲を見渡し、近づいてくるゾンビがいないことを確認した凪原は車へと戻った。
「お待たせ」
「おつかれナギ、でもさっきから言ってるけどもう少し離れたとこから倒せないのかよ?見てる身としては気が気じゃないぜ」
「この方が無駄弾撃たなくて済むし、倒したあとにどかす必要がないから楽でいいだろう」
「とは言ってもなぁ…」
今の凪原の技量であればゾンビに気づかれない距離から一方的に屠ることは難しくない。それでもあえて声掛けをするのは後片付けの手間が省けるからである。
道路の真ん中で倒してしまえば、そこを車で通れるようにするためにゾンビの死体をどかす必要が出てくる。基本的に死体には触りたくないし下手に触って感染しようものなら目も当てられない。ならばゾンビたちに
とはいえ傍から見れば危険な行為であることに違いはなく、胡桃たちは同じような状況になるたびにハラハラさせられていた。
「その辺の話は帰ってからじっくりするとして、今はおいておこう。12時過ぎには田宮さんのところに着いておきたいし」
「確かにそうですね。時間もたくさんある訳ではありませんし出発しちゃいましょう」
凪原の言葉に慈も頷き、停まっていた車は再び動き出した。
====================
「お、良かった。近くにゾンビはいないみたいだな」
「うっわぁ…、ほんとに自衛隊の車が事故ってるよ」
学園生活部の一行はほぼ予定通りに田宮等の車の事故現場に到着できた。凪原にとっては実に10日ぶりなのでその間にゾンビたちが溜まっていないかを心配していたがそれは杞憂に終わったようだ。
自衛隊の車が事故を起こしてることに若干引いてる胡桃だったがパンデミック当初の混乱した様子を考えればそこまでおかしなことでもないと思いなおしたのかそれ以上の反応は見せなかった。
「それじゃあ早いとこ銃とかの物資をめぐねぇの車に移してしまおう。重いものもあるから基本は俺がやるけど1人2人手伝ってくれ。あと、念のため道の両側で警戒を頼む」
その言葉に皆頷き、由紀と悠里が凪原の手伝い、胡桃と慈が警戒を担当することになった。
「あいつ等が視界に入ったらこっちに来て教えてくれ。間違っても大声で知らせたりしないように」
「分かってるって、大声を出してさらにあいつ等を呼び寄せちゃ意味ないからな」
「ええ、分かりました。それじゃ行ってきますね」
凪原からの注意事項に笑って返事をした2人はそれぞれ道の両端へ向かっていった。
「んで、2人は缶詰とか9㎜弾の箱とかの軽めのものを積み込んでくれ」
「はーい」
「分かったわ。それにしてもかなりたくさんの物資があるわね、とても2人しか乗ってなかったとは思えない量があるわよ?」
悠里は車に積まれている物資の量に驚いたような呆れたような声を出した。
「ああ、駐屯地を出たら補給ができるとは思えなかったからできるだけ積み込んできたらしい。結局使えなかったけど俺、今は俺たちか、の役に立つならそれでいいって言ってくれたよ」
「……そう、ならありがたく使わせてもらわないとね」
凪原の言葉にそれだけ答えると悠里も黙々と荷物の移し替えを始めた。
====================
「「「………」」」
凪原を除く学園生活部の一同は皆一様に目を閉じて合掌している。
積み込みが無事に完了したあと、凪原はちょっときてほしいと伝えるとそのまま近くの家の敷地に入っていった。訝しみながらも着いていった4人が目にしたのは庭の中央に作られた2つの土饅頭であった。近くには木の枝で組まれた粗雑な十字架が刺さっておりそこには2枚の
凪原が作った田宮たちの墓標である。
その光景を見た4人は何を聞くでもなく横一列に並ぶと黙祷を捧げ始めたのであった。
(見てるか田宮さん、今はこれが俺の手が届く精いっぱいだ。あんたが救おうとしていた人数と比べれば少なすぎるかもしれないけどさ、それでもきちんと守っていくつもりだ。―――だから、安心して成仏してくれよ?)
そんなことを考えながら見守ることしばし、黙とうを終えた慈が「行きましょうか」と言ったのを契機に5人は家主の分からない庭を後にした。
「にしても結構な大荷物だよな。このなんとかライフル、だっけ?ってのもデカいしこのあと他の物資も取りに行くのに積みきれんの?」
「何とかじゃなくて89式小銃な、まあ何とかなるんじゃないか車の積載量ってカタログスペックよりだいぶあるみたいだし。そんなにスピード出すわけでもないしな」
荷物の多さを心配する胡桃に適当に答える凪原、実際慈の車の積載量は未知数なのでどれだけの物資を積み込めるのかはやってみなければ分からないといったところが大きい。
「それじゃもし荷物が積みきれなかったらナギは歩きな。スピード出さないなら大丈夫だろ?」
「ちょっと何言ってるか分からないですね。
「お前、うら若い乙女に歩けなんてひどいこと言うなよな」
「おっそうだな(棒読み)」
「あっ、今バカにしたな!りーさんからもなんか言ってくれよ―――りーさん?」
返事がないことを不審に思った胡桃が振り返ると、悠里は呆然とした表情で一方向を指さしていた。
その指につられるように皆が向き直った先では離れた位置から3本の黒い煙が細く長く立ち上ってた。
「煙…、3本…生存者の救難信号だな。あっちにあるのは確か…小学校か」
「えっ、それじゃああそこに行けば生存者がいるのか⁉」
「あそこに行けば助かるのっ⁉」
煙の意味に気づいた凪原が発した内容に食いつく胡桃と由紀、しかし2人の言葉に凪原は首を振って答える。
「いや、ありゃ文字通り救助を要請するための信号だ。遭難者や被災者が航空機などに向けて発するもんだけどそんなものが飛んでる気配はないのに上げてることを考えると相当追い詰められてるな」
「そ、それじゃああそこに行っても」
「ああ、とてもじゃないが助かるとは思えないな、逆にこっちの物資を奪われかねない。合流は危険すぎる」
「そんな……」
厳しい言葉にうなだれる慈、由紀、胡桃の3人。しかし、悠里だけは凪原の言葉が耳に入っていないようでフラフラとした足取りで煙の方に向かい始めた。
「ダメだりーさん、聞いてなかったのか?合流はリスクが大きすぎるっ!」
思わず腕をつかんで止めた凪原に対して答えた悠里の声には悲壮感がこれでもかというほど詰まっていた。
「離してっ!あそこにはるーちゃんがっ、妹がいるのっ!」
遠足編でも原作乖離していきますよー
まずは、銃と弾薬を調達できましたね、これで安心(は果たしてできるのか?)
この話ラストで書いた煙3本で救難信号というのは、現実でも通用するものです。
煙でも、棒を3本立てるでも、3つのものを並べて航空機のパイロットに分かるようにしておけば、緊急の救助を要請しているという意味になります(豆知識)
ちなみに左手を振ってしまうと「問題ありません」の意味になってしまい、せっかくの救助が帰ってしまうかもしれませんので気を付けてください。
さて、ここでちょっとアンケートです。
「地の文でのるーちゃんの呼び方はどうしましょう?」
なお、会話文では人によってるーちゃんorるーにしようかなぁ、と考えています
締め切りは次の更新日までです。
それではまた次回!
|ω・)<感想、高評価お待ちしています