ですがいろいろ忙しくて悠長に楽しんでる暇がありません、誰か助けて……
思ったより筆が進んだので投稿します。
今回やっと「あの子」が登場しますよ~
コンコンコココンッ
多少リズムをつけて体育館の扉を叩く凪原。
こうしないとさっきまで扉前を占拠していたゾンビ達と差がない。
少し待ってみても反応が無いが息を潜めているような気配はあるので声をかけてみる。
「誰かそこにいるか?」
今度は小さな悲鳴とそれを嗜めるような「静かに」という声が聞こえ、しばらくの沈黙があった後返答があった。
「………誰だ?」
「人探しにきた生存者だ、とりあえず中に入れてくれないか?」
「それはできない、扉を開けるのは危険すぎる」
「扉の前にいた奴らは排除したし、校庭にいた分は音で釣ってるから今は近くにいない。嘘だと思うんならよく音を聞いてみろ、足音もうめき声も聞こえないはずだ」
返答してきた声は男性のものであり、ややうわずってはいるがそれでもその声には理性的な響きが感じられた。
避難所内部の秩序が崩壊していることも想定していた凪原は内心で安堵の息をつく。
(比較的まともそうでよかった、
そんなことを考えながら待つことしばし、中から重いものを動かすような音が聞こえた後扉が少しだけ開く。
「入ってくれ」
そう言いながら顔をのぞかせたのは先ほどの声の主だった。見たところ30代前半くらいで、恐らくはこの学校の教師だったのだろう。がっしりとした体つきではあるがその顔には疲労が色濃く表れていた。
頷いた凪原が開いた隙間に体を滑り込ませるとすぐに扉が閉められ、扉の脇にいた別の女性教師が跳び箱や平均台などを扉の前に設置し直し始めた。男性教師も「少し待っていてくれ」と凪原に声をかけると作業にに加わっている。
「これだけしかいないのか……」
軽く中を見回した凪原の口から出た言葉である。体育館の中にいたのは多く見積もっても1クラスには届かない、せいぜい20人弱程度であった。
用具倉庫から持ち出してきて寝具としていたのだろう、体育マットなどが床の上に敷かれているスペースがあり、その上に身を寄せ合うようにして子供たちが集まってた。そして彼らを抱き寄せるように座っているのと、軽く手を広げて庇うような位置に座っている2人の女性教師。2人とも凪原のことを険しい表情で見つめている。
さらによく観察してみると、いくつかの段ボールが置かれていることに気づく。蓋は空いており、中からはペットボトルや保存食などのパッケージなどが見える。
(災害用物資を体育館に保管してて、それを使って生き延びてきたってとこかな。先生の年齢が皆若いのが気になると言えば気になるけど体力があるからかろうじて逃げ込めたってとこか)
そう凪原が結論付けたところで扉を塞ぎ終わった男性教師が声をかけてきた。
「待たせてすまなかった、俺はこの小学校で教師をしている林という。一応ここのリーダーのようなものをやっている。君は、―――」
林と名乗った男性教師はそこで言葉を切ると、チラリと凪原の9ミリ拳銃を見やる。腰に下げられたソレは本物特有の気配を発しており、決してモデルガンなどのおもちゃではないことを無言のうちに主張していた。
「君は、何者なんだ?見たところ社会人ではなさそうなのに
そう言いながら林は子供たちを凪原から隠すようにさりげなく立ち位置を変えた。目には見えないが入り口わきに立っていた女性教師も身構えたことが気配で分かる。凪原の答えいかんでは前後からとびかかって制圧する気なのだろう。
にわかに高まった緊張を鎮めるように凪原は話始める。
「まずは自己紹介から、俺は凪原勇人といいます。林先生が言う通り社会人ではなく学生、大学2年生です。
一度に多くのことを言いすぎると理解が追い付かないことがあるので、意識して少しゆっくりと話す凪原。
「ここに来た理由については先ほども言った通り人探しです。私たちのグループにここに妹が通っていたという人がいたので、グループの中で
最も腕が立つ、とは言わない。こちらの規模や戦力が小さいことがばれると襲撃のリスクが増える。彼らがそんなことをするとは思えないが、どこにどう伝わるかは分からないため極力こちらの情報は伏せておきたい。
(と、まあ嘘は言ってないんだけど怪しいことこの上ないからなぁ。これでだめだったらどう信じてもらおうか。というかだいぶ人数が少ないけどこの中にりーさんの妹っているのか?)
内心で凪原が心配していると、少し間を開けて林が沈黙を破った。
「――正直に言って、その話を聞いてはいそうですかという訳にはいかない」
「ですよねぇ…」
「だからもう一つ質問だ。人探しというのは誰を探していたんだ?本当にこの学校にいる生徒なのか?」
もしこれに答えられないならお前のことは信じない、林の顔はそういっているようだった。
(よかった、理性的で話が通じるタイプの人だ)「ええ、私が探しているのは若狭悠里の妹です。彼女の依頼で探しに来ました。名前は――「りーねぇ?」」
凪原の言葉を遮えぎったのは小さな女子生徒の声だった。声の方を見やれば、集まっている子供たちの中から1人だけが立ち上がってこちらを見つめていた。薄ベージュ色の髪にたれ目、頭につけている2つの茶色いボンボンが動物の耳にも見える。
立ち上がったその子は「行っちゃだめっ」と引き留める女性教師を無視してこちらに駆け寄ってきた。そしてそのまま凪原に近づくと顔を上げて声を上げる。
「りーねぇのこと知ってるのっ?」
声は幼いながらも必死に姉を心配する気持ちが表れており、本当に仲のいい姉妹なんだなぁと感じた凪原はほっこりしたような気持になる。
だからそんな彼女を安心させてあげたくて、凪原は無意識のうちに片手を頭の上においてなで始めていた。いきなりのことにキョトンとする彼女を安心させるように口を開く。
「ああ。お姉さんは無事だよ。彼女に君を助けてあげてって頼まれて迎えに来たんだ」
「ホントっ?」
「おいおまえっ、すぐにその子から離れろ!それが本当だという証拠はあるのかっ⁉」
凪原の言葉にパッと顔を輝かせる彼女だったが、林やそのほかの教師たちは険しい顔を崩さずに証拠を見せるように言ってきた。近くに生徒がいるため手が出せないようだが、もしいなかったらとっくにとびかかってきているだろう。
ここまできて生存者に襲われるのは勘弁願いたいので凪原としても早急に証拠を見せることにした。この子の姉に連絡を取ると告げると肩につけた無線機のスイッチを入れる。
「こちら凪原、そっちの様子はどうだ?」
『おっ、ナギ。やっと連絡してきたな、さっきのから時間が空いてたから心配してたんだぞ。こっちは特に問題ない、そっちはどうだ?』
「特に問題なし、さっき小学校についたところだ。ところで、ちょっとりーさんに代わってくれるか?」
無線に出た胡桃にそう伝えると、分かったという声とともに少し歩く音が聞こえてくる。
その間に凪原は無線機を肩口から取り外すと、るーちゃんに手渡す。「?」という顔をしながら受け取ったもののどうしてよいか分からずに凪原を見上げてくるが凪原は笑顔を浮かべたまま何も言わない。
そのまま数秒が経ち、林達教師人がもう待てないと声を上げようとしたところで、無線機から小さなノイズとともに声が聞こえてきた。
『もしもし、凪原さん?胡桃から小学校に着いたって聞いたけど、るーちゃんは―――』
その声は最後まで続かなかった。なぜなら―――
「りーねぇ?」
るーちゃんがおずおずと発したその声に悠里の声がピタリと止まり、やがて確認するような声が聞こえてきた。
『るー、ちゃん?』
「そうだよ、りーねぇっ!」
『っ!良かった…ホントに良かった』
「うん……うんっ!」
話しているうちにるーちゃんはポロポロと涙を流し始めた。無線機を介して悠里が泣いてる声も聞こえてくる。
「本当にあの子のお姉さんの知り合いだったのね」
そう声をかけてきたのは扉脇に立っていた女性教師だった。自らを木村と名乗った彼女はついさっきまでは凪原にとびかかるすきを窺っていたようだが、今では優しそうな顔でるーちゃんを見つめていた。
「どうやら本当だったみたいだな。さっきは疑ってすまなかった」
「大丈夫です、実際怪しかったとは思いますし。子供たちを守っているならなおさらです」
「そうよ、見慣れない若い男が女子児童を迎えに来たなんて、少し前なら事案だもの」
いつの間にやら近くに来ていた林も謝罪の言葉を伝えてくる。その顔に敵意の色はなく、警戒を解いたらしい。凪原としても不審者の自覚はあったので笑って許しておく。
そこからるーちゃんが落ち着くまでにお互いの情報交換をすることにした。
林が話したところによると、鞣河小学校では次のようなことが起きたらしい。
まずパンデミックの波がここに及んだのは放課後になってすぐの事だったらしい。比較的人通りの多い道路に面していたことが災いし、パニックに陥った人間やゾンビたちが大挙して敷地になだれ込みまさに下校しようとしていた生徒たちに襲い掛かった。
校舎の中からその様子を見た林を含む教師4人は立ちすくんでしまったが、近くにいた副校長の檄で我に返るとまだ校舎内に残っていた数少ない生徒を集めながら避難場所になっていた体育館へと向かった。その途中で先導していた副校長が奴らに噛みつかれてしまう。
何とか振りほどき体育館までついたところで副校長は皆を中に入れると自分は外に残って扉を閉め始めた。
慌てて中に入るように言った林達に、彼は自分は噛みつかれたからもうだめだということ、扉を内側から封鎖すること、今いる生徒を必ず守りたいなら生徒であろうと避難民であろうと誰も中に入れてはいけないことを伝え扉を完全に閉めてしまった。
閉まってすぐに扉の向こうからは怒号や悲鳴、それに混じってこの世のものとは思えないうめき声や何かを咀嚼するような音が響き始めた。林達は生徒に耳を塞いでいるように伝え、自分たちは副校長の指示通り扉や入口となりそうな箇所を片っ端から塞ぐために動き始めた。
その後は体育館に置いていた災害用物資を用いて生き延びていたが減っていく一方の物資に不安を感じ、誰かに気づいてほしくて救難信号を上げることになったらしい。
「―――とまあそんな感じのことがあったわけなんだ。すぐにどうこうなるわけではないんだけどこのままではいけないから救助隊などに気づいてもらえないかと思ったんだけど」
「難しいですね、救助隊が編成されたという話なども聞いてないですね。……私がいるところもいっぱいいっぱいという感じですし」
「ん?ああ別にそういうつもりで言ったわけではないから安心してくれ」
機先を制するように言った凪原の発言の意図を正確に理解した林がそんなつもりはないと声を上げる。
現状凪原たちのグループはるーちゃんを入れても6人、とてもではないが彼らを受け入れる余裕はない。
「それなら外に出て物資を集めてみては?さっき私に向けたレベルの殺気が放てるなら奴らに相対しても問題ないと思うんですが」
「確かにそうかもしれないんだけどね。ほら、校庭にはもとはここの生徒だった「奴等」がいるだろ?中には俺のクラスだった子もいる、彼らを前にして始末をつけられる気がしないんだ。臆病と思うかもしれないけど、俺にはそれはできない」
「今生き残ってる子たちを助けたいとも本気で思ってるんだけどな」と情けなさそうに言う林は今にも泣きそうな顔をしていた。話を聞いていた木村も同じような表情でうつむいているのを見るに同じ心境なのだろう。
「もし、元生徒でない奴らが相手ならば問題なく処理できますか?」
「ああそれなら問題ない、前に試しに外に出てみた時に倒した経験がある」
「ではもう一つ、生徒たちを守っていくために、
「どういう意味だ?」
「いいから答えてください」
怪訝そうな林に対して強い口調で問いかける凪原。その目には、ここで答えを出せとはっきりと書いてあった。
「当然だ、生徒たちを守れるなら場所なんて関係ない」
「分かりました。なら少し待っていてください」
その表情から林の本気さを感じ取った凪原は頷きながら答えた。
そのままるーちゃんに歩み寄り無線機を貸してもらい声をかける。
「りーさん、ちょっといいか?」
『凪原さん。ありがとう、本当にありがとう……』
「そのお礼はそっちに無事に帰れてからだな。でもここを出発する前に少しやることができた」
『どうしたの?』
「ここにいる生存者の脱出を支援する」
そう言った凪原は続けて鞣河小学校の現状を説明する。それなりの数の生存者がいること、物資が残り少ないこと、教師たちのことなどをすべて話す。
「そんな訳でこのまま放置するのも後味が悪いし、少し手助けをすれば大丈夫そうだから手伝うことにした」
『そういうことね、今皆にも話して了解を得たわ。気を付けて、だって』
「了解、それじゃここを出る時にまた連絡する」
そう言って無線を切ると、るーちゃんを一なでして「少し待っててね」と伝えると林の方に向き直る。
「ということで皆さんがここから脱出させるための準備をしてきます」
それだけ言うと静止の声を聞かずに凪原は2階部分の窓から外に飛び出していった。
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1時間ほどたった後、林達の耳にエンジン音が近づいてきた。その音は扉の前で止まったものの、中から林達が声をかけても返答はない。しかししばらくすると再び別のエンジン音が近づいてきた。
そしては今度はエンジン音が止まった後に凪原の声が聞こえてきた。
「戻ったので開けてください。ああ、あいつらは近くにいないから大丈夫です」
「今開ける。………これは、佐藤先生と三島先生の車じゃないか。それにそんな大荷物を持って」
凪原の声を受けて扉を開けた林は言葉を失う。扉の前には2台のバンが止まっていた。さらに凪原自身も出ていったときには持っていなかった荷物を多く手にしていた。
ぱっと分かる範囲ではモップやさすまたに工具箱、給食室から持ってきたらしきおぼんなども見える。
「それでどうするつもりなの?」
「皆さんを脱出させます。小学校を出れば元生徒の奴等もいなくなるでしょう、それなら先生たちでも対処できるはずです」
驚いたように問う木村にそう答えながら凪原は持ってきた物資を使って武器を作っていく。モップを分解して先端部を外し、そこに包丁をダクトテープでしっかり固定、これで槍になる。おぼんには持ち手を取り付けて盾とする。
こうして即席の武装を整えると今度は奴らの特性について説明していく。
「基本的に奴らは単純なので音で釣れます。家庭科室からキッチンタイマーを持ってきたので基本的にはこれを使えばいいですが、数が少ないなら小銭を投げた音などでも大丈夫です」
「あ、ああ分かった。でもどうしてこんなにしてくれるんだ?」
「このまま放置するのも寝覚めが悪いし、私も子供は好きですからね。できることがあるなら手伝いたいんです」
戸惑った様子の林に凪原は何でもないように答える。
「凪原君、その子供が好きってことについてちょっと詳しく」
「
そんな一幕を挟みつつも脱出の準備は整った。
や~っとるーちゃんを出せました
パンデミックから2週間経ってるけどまだ生きてたの?って疑問に思う方がいるかもしれないので裏設定(こじつけともいう)を言っておきます。
まずパンデミック発生時、るーちゃんは林先生たちの近くでおしゃべりをして教室に残っていたのでゾンビの第1波を回避。
↓
その後は副校長の先導に従い体育館まで無事に到着、彼の最後の言葉に従って体育館の扉を閉鎖、籠城を開始。(避難民とほぼ同時にゾンビが到達していたためトラブル製造機の自己中な生存者などと接触することが無かったのは幸運かも)
↓
そこからは体育館内にある災害用備蓄倉庫の物資を消費して体育館から出ないで過ごす。(筆者の小学校は備蓄物資を体育館においてた気がするのでそれを参考にしました)
↓
物資はまだ余裕があるけど先生たちは元生徒を殺す勇気が無くてどうしよう、となっていたところに凪原が到着。
って流れです。
「副校長何者だよっ⁉」という突っ込みは聞きません。
ゾンビ映画を見るのが好きな心優しいお爺さん先生だったと思ってください。
年内にもう1本アップできるはず、きっと、たぶん……
それではまた次回!