学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

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も~い~くつね~る~と~お~しょ~うが~つ~

になる前に投稿します。今回は鞣河小を脱出するところからですね。

それではお楽しみください。


2-5:独白 上

「それでは準備は良いですか?」

 

 凪原の問いかけに林達教師陣、そして児童たちが頷きを返す。

 教師たちは皆真剣な表情をしている反面、児童たちは皆一様に不安そうな顔をしている。

 その様子に凪原は意図的に笑顔を作って笑いかける。

 

「大丈夫、目を閉じて先生の言う通りに動けば何も怖くなんてない。先生たちを信じるんだ、できるね」

 

 そういえば皆不安そうにしながらも今度はしっかりと頷いた。

 それを見た凪原は今度は林達教師陣の方に向き直ると口を開く。

 

「まずは俺が外に出て安全を確認、危険があればそれを排除(元児童のゾンビを始末)します。そしたら合図を送りますので教師の皆さんは生徒達を連れて車に乗り込んでください」

「わ、分かった」

 

 そう答えに満足した凪原は、最後に自身のズボンを掴む手その主のるーちゃんへと視線を移した。

 

「結構大変だと思うけど頑張れるか?先生たちといたいならそれでも大丈夫だぞ、りーさんには俺から説明するぞ?」

「や、ゆーにぃと一緒に行く」

 

 確認するように問いかける凪原に対し、るーちゃんはきっぱりと首を横に振った。ちなみにゆーにぃというのは凪原のあだ名である。無線でりーさんと話した後、一気になついた彼女は凪原をこの様に呼び始めた。

 曰く、「ゆうとお兄ちゃんだからゆーにぃ」とのことである。

 その気丈な様子に微笑んだ凪原はくしゃりと頭を一なですると、脳内のスイッチを切り替え真剣な表情になる。

 

「分かった。―――じゃあ行きます。2、1、今っ」

 

 その声に合わせて林が小さく扉を開けるとその隙間に滑り込むようにして凪原が外に出る。

 

 再び扉が閉じられるのとほぼ時を同じくして、パシュパシュパシュッ―――というくぐもったような破裂音が連続して響く。その音の意味が分からない児童たちは不思議そうな顔をしており、中には教師たちに「何の音?」と尋ねている者もいる。

 問われた教師は無理やり笑顔を作って「出発の準備をしてくれているんだよ」と濁して答えるが、本人たちは分かってしまう。くぐもってこそいるがあれは銃声であると、そしてその銃口が向けられているのは―――

 

 ギリッっと奥歯を噛み締めた林はそこから先を意図的に考えないようにして、凪原からの合図を待つ。

 

「終わりました、すぐに車に乗りこんでください。生徒達は確実に目を閉じさせるようにお願いします」

「分かった」

 

 凪原からの言葉に返事をした林は生徒達や同僚たちを振り返る。

 

「それじゃあ外に出るよ。みんなは目を閉じて手をつないで、先生たちが手を引いてくれるからそれに従うんだ。絶対に目を開けないようにな」

 

 その声を受けて児童たちが準備ができたのを確認すると、教師同士で頷き合うと一気に外へ出る。

 

「1分くらいは時間があります、慌てず急いでください」

 

 凪原の声にも手を上げて返し、とにかく生徒達を安全に車に乗せることに意識を集中する。一定の距離を開けて車を取り囲むように崩れ落ちている小柄な人影などは目に留まっても動きを止めるほどの事ではない。

 

 生徒たちを守るという目的が、ゾンビへの恐怖を教師たちから拭い去っていた。

 時間にして30秒足らず。生徒達は2台のバンに分乗し、残っていた物資も積み込まれた。教師陣も皆が乗り込み、1台目のバンの運転席に座った林は凪原と視線を交わす。

 

「本当にありがとう」

「できることをやっただけです、もう手助けはできません。頑張ってください」

 

 その言葉に頷いた林は、手で後方の車に合図を送るともう凪原の方を見ることはせずアクセルを踏み込んで走り出していった。すぐ後ろに2台目のバンが続き、鞣河小学校の生存者達は母校を去っていった。

 後に残越されたのは、凪原たち2人とお預けを食らったゾンビの群れだけである。

 

「じゃ、俺たちも行くとするか。少し走れる?」

「うん、早くりーねえ達のとこに行こっ」

 

 そう言って凪原が差し出した手を、るーちゃんは笑顔で握る。

 そして2人は走り出し、鞣河小から生きた人間は一人残らずいなくなった。

 

 

 

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「るーちゃんっ、るーちゃんっ」

「りーねえっ、りーねえっ」

 

 遊水地と兼用の駐車場にて悠里とるーちゃんの若狭姉妹が抱き合いながら涙を流していた。

 

 鞣河小学校で林達生存者を見送ってからおよそ2時間、凪原とるーちゃんは他の学園生活部の面々と合流を果たしていた。小学生のるーちゃんを連れての移動だったため、凪原1人の時よりも時間が掛かったが時には手をつないで走り、時にはおんぶして進むことでそれほど遅れることはなかった。

 

 そして駐車場に着き姉妹が再会したところで今の状態になったのである。無線で互いの無事は確認できていたがそれでも不安だったのだろう、実際に顔を合わせたことでその不安が解消され押えていた感情が噴き出していた。

 普段は冷静で頼れるお姉さんといった様子の悠里も、今は年相応の少女に見えた。

 由紀や慈もそのそばで再会を祝福している、慈に至っては薄らと涙ぐんでいた。

 

「すっかりヒーローって感じだな」

「からかうなよ、探索に行くのは俺が適任だったってだけだ。それに俺は元々は鞣河小に行くのに反対してたしな」

 

 その様子を少し離れたところから眺めていると、胡桃がニヤニヤしながら声をかけてきた。それに対して凪原はそっけなく返す。初めは小学校に行くことに反対する、結果的に考えればるーちゃんを見捨てるという考えだった身としては素直に称賛を受けるのは複雑なモノがあった。

 そんな凪原の様子に胡桃は首を振って続ける。

 

「それでもだよ、実際にナギは鞣河小に行ってりーさんの妹を連れて帰ってきた。だからお礼を言わせてくれ、私の親友の家族を助けてくれてありがとう」

「……おう」

 

 面と向かってお礼を言われ、少し恥ずかしくなったのかそっぽを向いて答える凪原に胡桃はひとしきり笑うと表情を真面目なものに切り替えた。

 

「それで、この後はどうするんだ?もうしばらくすれば暗くなるぜ?」

 

 問いかけてきたのは今日のこれからの動きであった。当初の計画であれば昼までに銃の回収を済ませて午後は食料などの物資調達をするはずであったが、るーちゃん救出という想定外の事態が起きたためその予定は狂ってしまっていた。救出は決して無駄などではないが予定の組みなおしが必要になったのは確かである。

 凪原は少し考えて口を開いた。

 

「そうだな、もう遅いから物資調達は明日にしよう。今日は明るいうちにどっか夜を越せる家を見つけて間借りさせてもらう(押し入る)ことにするか」

「まるで強盗だな」

「そう言うなって、真っ暗な道端で夜を明かすなんて自殺行為だからな」

「そりゃそうだけど」

 

 軽口をたたき合いながらもそれぞれ違う方向を警戒し、付近にゾンビの姿がないことを確認すると2人は悠里達4人の方へ近づいていった。

 

「おーい、そろそろ移動開始するぞー」

「あれ、もうそんな時間?」

「おう、もうしばらくすれば暗くなり始めるからな」

「確かにそうですね、じゃあ行きましょうか」

 

 反応した由紀と慈に軽く今日のこれからについて説明する。どこかの家にお邪魔(不法侵入)するということに慈は微妙そうな顔をしていたが仕方がないと納得したようだった。そして一方の由紀は―――

 

「なんかRPGの勇者になったみたいだね~盗賊ムーブって言うんだっけ?」

「その言葉がナチュラルに出てくるのはちょっと怖いぞ…。ねぇめぐねえ?」

「そうですね。由紀ちゃん、ちょっと今日の夜はお話し(・・・)しましょうか」

「ぴぃ!?」

 

 生徒会役員にお説教していた時の声色になった慈に、悲鳴を上げた由紀は助けを求める視線を向けてくるが凪原はそれを有意義に無視した。

 巻き添えを食わないうちに若狭姉妹にも説明をしておこうと向き直ると、既に胡桃から話を聞いていたようであった。悠里もるーちゃんも目元がこすったように赤くなっていたが、それを口にしないだけの分別は凪原にもある。

 

「移動するんでしょう?胡桃から聞いたわ。それと、改めて本当にありがとう」

「ありがとうなの、ゆーにい」

「無事に終わったんだから気にすんなって。さて、るー。これから車なんだけどちょっと狭くても大丈夫?」

「うんっ」

 

 元気に返事をするるーちゃんの頭を一なですると、凪原は手を叩いて移動開始を宣言した。それに返事をした皆が車に乗り込んでいく。

 数分後、駐車場には再び無人となり、もはや持ち主が現われることのない車だけが残されていた。

 

 

 

====================

 

 

 

「ちょっと待って!」

 

 日が傾き空が染まり始めた頃、突然車内に響いた声に慈はブレーキを踏み込み車は軽い音を立てて停車した。

 

「どうした胡桃?いきなり大声出して」

「びっくりしたじゃない」

 

 声の主である胡桃に掛ける凪原と悠里だったが、党の胡桃には2人の声は届いていないようだった。目は見開かれ、片手を窓について食い入るように外を見つめている。それにつられるように他の面々も外を見てみるが、何の変哲もない一軒家があるだけで特に変わった点はない。

 気づいたのは凪原だった。

 

「表札が、恵比須沢。ここ、お前の家か?」

「あ、ああ。…多分」

(多分?)

 

 胡桃の要領を得ない答えに疑問を感じたがそれはひとまず置いておくことにして言葉を続ける。

 

「偶然とはいえせっかく来たんだ寄っていくか?もちろん安全を確認してからだが」

「うん…」

 

 どう見てもいつもの様子ではない胡桃に首をかしげながらも、慈に少し待っているように伝えた凪原は車から降りて一軒家改め恵比寿沢家の安全確認を開始した。巡ヶ丘学院に着く前、夜を明かす家を探す際に繰り返したことであるためその動作に淀みはない。

 確認は数分で済んだ。

 

「大丈夫そうだ。少なくとも家の外に異常はないし、確認できる範囲では中も安全なようだ」

「ありがとう。…じゃああたしがちょっと見てくるよ」

「一人で行くのは危険だ、まだ閉所での戦い方を教えてない」

「ナギが外から見た感じでは平気そうだったんだろっ。大丈夫だから見てくるっ」

「あ、おい!待てって!」

 

 凪原の静止の声を聞かず、胡桃は家の中に駆け込んでいった。

 そして何分待っても胡桃は戻ってこなかった。

 

 

 

====================

 

 

 

「胡桃、入っていいか?」

 

 凪原がノックする扉には木製の札看板が掛かっており、丸っこい字体で「くるみのへや」と書かれている。恐らく小さいころから自分の部屋として使っていたのだろう。

 

「……」

 

 部屋の中では、胡桃が枕を抱きかかえながらベットの上で横になっていた。入口に背を向けるように寝そべっているため凪原からはその表情を伺うことはできない。

 

「…勝手だけど家に入らせてもらったよ、他の皆は今リビングで休んでいる。もうすぐ暗くなるから今日はこの家でで休ませてもらうってことになった」

「……(コクン)」

 

 その言葉に頷きだけで答える胡桃。そこから無言の時間が流れたが、凪原が立ち去る気配がないの今度は胡桃の方から口を開いた。

 

「何も聞かないのか?」

「急かすようなことではないしな。言いたくなってからで構わないし、嫌ならなら言わなくてもいい。俺はただ、」

「ただ?」

「近くに誰かいるってだけでも少しは楽になるものがあるんじゃないか、って思ってな」

「ふーん…」

「ま、俺の経験から出た勝手なおせっかいだから、邪魔だと思うなら出ていくよ」

「いや、大丈夫………ありがとう」

「ん、」

 

 疑問に答える凪原の言葉は普段と変わったところはなく、顔を見ていない胡桃からは凪原がどんな表情で話しているのかをうかがい知ることはできなかった。

 

「…分かってはいたんだ」

 

 しばらくして胡桃の口から出たのは小さく、つぶやくような声だった。

 

「死んだやつらが起きて襲ってくるなんてことが起きて、みんな死んじゃって、テレビや電話だってつながらない。そんな状況で家に帰ったからといって家族に会えたりするわけないって」

「でも今日りーさんが妹と再会して、それはほんとに嬉しくて、それでもしかしたらあたしもって思っちゃってさ」

「そんなことをぐるぐる考えながら車に乗ってたら偶然うちに着いて、そのことを意識したら思わず家に入っちゃったんだけど、結局ダメだった」

 

 そこまで話すと、再び黙り込む胡桃。

 胡桃が言ったように、恵比寿沢家の中で彼女の両親の今について分かるようなことはほとんどなかった。凪原が確認したところ部屋の中は荒れているところが多かった、まるであわただしく荷造りしたかのように服やカバンが散らばりクローゼットは開け放されていた。そしてそれらすべての上に埃がうっすらと積もっており、パンデミックが起きたあの日から誰も立ち入っていないように見えた。

 

「でも俺が見た感じじゃどの部屋にも争ったような跡はなかった」

「………うん」

「それに血の跡とかも見当たらない」

「……うん」

「さらに言えばこの家の近くの道路は事故車両とかあまり無かったし、あいつ等の死骸もほとんど無かった。組織的な避難が間に合ったんだと思う」

 

 「だから、」とまで言いかけ、凪原はその先の言葉を続けることができなかった。避難が間に合ったというのは憶測に過ぎないし、仮に避難できたとしてもその避難先がどうなっているかなど分かるはずもない。

 そんなことを言っても胡桃を慰められるとは思わないし、まして今日の昼に「知らなければ希望を持つことはできる」などと言ってしまっているのだ。「だから、大丈夫」などとという気休めを果たしてどの口で言うことができようか。

 

「……ありがと」

 

 そう考えて黙り込んでしまった凪原の耳に届いたのは感謝の言葉だった。予想外の言葉に思わず苦笑してしまう。

 

「慰めの言葉一つ掛けられないのにそんなこと言われてもな」

「慰められたら、納得してなくても信じたふりしてしないといけない気がするからさ」

「そりゃまた難儀な性格だな。こんな状況なんだ、弱音を吐いても誰も責めないと思うけど」

「そうかもしれないけどさ、あたしがしっかりしてないと皆が不安になるし」

 

 そう答える胡桃の声は、凪原に答えるというよりはどこか自分に言い聞かせるようであった。

 

(なるほどね、皆を守らないといけないから自分はしっかりしないとって感じか。確かに4人の中じゃ胡桃が一番腕が立つし、無意識のうちに皆を守ろうって考えてたのかな)

 

 現在のような普通が普通じゃない(死者が起き上がる)状況で周りにいる人たちの中で自分が一番強いとなればその人にかかるプレッシャーというのは並大抵のものではない。それにつぶされて傍若無人なふるまいをしてしまう者もいるのだろうが、生来の律儀な性格がそれを防ぎ自分で抱え込むという方向になったのであろう。

 

(由紀やりーさんは言わずもがなとして、めぐねえも胡桃にとっては守る対象なんだろうな。それで普段は大丈夫だけど、何かあった時は逆に脆くなっちゃうってとこか)

 

 普段からは想像できないような弱弱しい胡桃の様子に、どう声を掛けたものかと凪原はしばし考え込むことになった。




はい、無事に脱出成功&りーさんとるーちゃんの対面がかないました

鞣河小の皆さんは多分もう出てこないと思います。恐らく、きっと
んで、今回と次回は胡桃回ですね、うまく書けてる自信は全くありませんが筆が止まりませんでしたので前後編に分けることにしました。

1話当たり6000字弱くらいにしようと思いながら書いてるんですが、なんか4000字超えてから文字数の増え方が一気に早くなる気がする今日この頃です。

誤字等指摘していただいた方、ありがとうございます。結構間違えがあると思うので今後も見つけたら教えていただけると嬉しいです。(ついでに感想ももらえるとすごく嬉しい(コソッ))

年内はこれでラストかな~。それでは皆さん良いお年を!

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