そこそこ平和に進むんじゃないかな~
慈をほっぺムニムニの刑に処した後、圭といつの間にか緊張の解けた様子の美紀に改めて自己紹介をしたうえで話し合い、2人は正式に学園生活部に入ることになった。
そこから物資の回収をしようという流れになったのだが、その時点で時刻はすでに夕暮れ時、窓の外に見える空が茜色に色づいていたので今日はもう休んでモール内の探索は明日ということとなった。
最上階にあった寝具売り場から人数分の布団セットを持ってきたところまでは良いが凪原がどこで寝るかということで一悶着が起きた。凪原は女性陣に配慮して部屋の外で寝ると言ったのだが、いくら安全確保をしたとはいえ売り場の床で寝かせるのは悪いということで押し問答となる。最終的に壁際にあったソファーを部屋の真ん中まで移動させ、扉側に凪原、反対側に女性陣という配置で就寝することになった。
そんなこんなで明けて翌日、遠足3日目の朝。
むくりと起き上がった胡桃が辺りを見回すと、いつも通りの格好をした凪原が目についた。
「おはようナギ、もしかして寝てなかったのか?」
「ああおはよう胡桃、いやさっき起きたとこだ。バリケードの確認ついでに下の階の様子をちょっと見に行こうかと思ってさ」
「んじゃあたしも行くよ、ご飯の前に軽く体動かした方が調子が出るし」
「別にまだ寝てても大丈夫だぞ?」
「いんやなんか目が覚めちゃったから大丈夫。さ、ここで話してて皆を起こしちゃっても悪いし早く行こうぜ」
枕元に置いていたシャベルを手に取ると立ち上がり、なぜかさっきからこちらを振り向こうとしない凪原の方へ向かう。横まで来たところでやっとチラリとこちらを見るがやはりすぐに目をそらしてしまう。その理由を考える前に凪原が言いづらそうに口を開く。
「あー…。シャベルを持つのはちゃんと警戒ができてるってことでいいんだけど、その前に服装を変えたほうがいいと思うんだ俺は」
「服装?………///!(ボンッ)」
そう聞き返しながら視線を下に向けた胡桃の顔が、まだ薄暗い室内でもはっきり分かるぐらい真っ赤になった。それもそのはずで、今の胡桃の格好はいつもの制服姿ではなく昨日寝具売り場から持ってきたパジャマである。絵柄こそ無地で色っぽさなどは欠片もないが、普段来ている制服と比べたら薄着もいいところで、そんな姿を見られたともなれば胡桃が恥ずかしがるのも無理はない。
口をパクパクさせて動けないでいる胡桃にもう一度視線を向けた凪原がとどめを放つ。
「あと髪を下ろしてるの初めて見たけど新鮮でいいな。おしとやかに見える」
「う、うるさいそんなこと言うな、ってか着替えるからとっととでてけーっ!」
口調こそ叫んでいるが皆を起こさないよう声量は落として凪原を追い出す胡桃、気配りのできる優しい子である。凪原が完全に部屋の外に出たのを確認して慌てて制服に着替える。パジャマはてきとうに丸めて布団の中に放り込んでおく、洗面台についている鏡の前で手早く髪型を整え一回転、変なところが無いことと顔色が戻っていることを確認したら改めてシャベルを持って部屋を出る。
「お待たせ」
「おう、なんだ髪型いつものにしちゃったのか。似合ってたのに」
「へ?そ、そう?ありがと―――じゃないっ、それはもう忘れろ!ほらさっさと行くぞっ」
「はいはい」
ゲシゲシ、と足を蹴ってくる胡桃を笑いながらなだめて歩き出す凪原。「ホントに忘れろよ⁉」という胡桃の声を残して部屋の中は再び静かになった。
「「「………。(ゴソゴソ)」」」
そして静かになった室内で聞こえる布団がこすれる音×4
寝たフリをしていた少女たちが動き出し、腹ばいで枕を腕の中に抱えるような体勢で顔を突き合わせる。
「あの2人ってほんとに付き合ってないんですか?」
「そーなんだよ、みーくんっ。おかしいと思うよねっ?」
「あんなやり取りしといて付き合ってないとか……もしかして凪先輩ってヘタレ?」
「彼の名誉のために言っておくけど違うと思うわよ。もともと相性は悪くなかったみたいだし、でも」
「でもなんですか?ゆうり先輩」
コソコソとまだ寝ている慈やるーちゃんを起こさないように話す4人。圭のあんまりな予想を否定した悠里が何かを言いかけたので先を促す美紀。その顔はやや無表情ながらも気になっている様子だ。
「なんか昨日の朝から距離が近い気がするのよね」
「なんてったって一緒の部屋で寝てたからね~」
「いやそれもう確定じゃんっ!?」
「それで付き合ってないっていうのはちょっと…」
思ったより大きな情報が出てきたことに驚愕の声を上げる圭、今までは一応意識していた言葉遣いへの配慮が吹き飛び、完全に以前の口調に戻っている。美紀の方も呆れ顔だ。
「おそらくあなたたちの想像してるようなことはなかったと思うわよ」
「というと?」
「あの時は胡桃ちゃん落ち込んじゃってたからね、そこに付け込んでなんかするってことはナギさんはしないと思うよ」
「でもその次の朝から距離が近くなってたんですよね?」
「まぁナニかはあったんじゃないかな~、たとえば―――
パンデミックが起こって世界が変わってしまったとしても彼女達は女子高生、皆恋バナには興味津々で、ヒソヒソ話はるーちゃんが起きるまで続いたのだった。
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「それじゃあ、物資回収会議を始めま~す。拍手∼」
「「ワー、パチパチ」」
凪原のてきとうな言葉にキラキラした笑顔で返するーちゃんと懐かしそう様子で返す慈。時刻は午前9時ごろ、場所は美紀と圭が暮らしていた部屋である。朝の軽い探索から戻り朝食を取った凪原は今日の行動について会議を始めていた。ちなみに慈が懐かしそうにしているのは生徒会当時の会議がこんな感じだったからである。
「昨日も話した通り俺たちはこれから
言いながら凪原が視線を向けた先では、前後左右をぐるりと囲まれて尋問を受けている胡桃の姿があった。彼女は探索から戻ると同時に由紀達女子高生組に部屋の隅へと連行されていたのだった。漏れ聞こえてくる言葉から会話の内容をうすうす察した凪原はこちらに飛び火してこないようスルーしていたのだが、そろそろヘルプを求める胡桃の視線が無視できなくなってきたので渋々声をかけることにした。
「うーんまぁ仕方ないか~」
「そうですね、会議も大事ですし」
呼ばれた由紀達は割とあっさりと胡桃を解放した。解放された胡桃はワタワタと凪原の方へ移動してくると恨みがましい目で凪原をにらむ。
「助けが遅い」
「いやだって、途中で介入したら俺に矛先が向きそうだったし」
「それでもだよっ」
「さ、全員集まったところで会議を続けるぞ~」
「聞けよっ」
流されて怒る胡桃であったが、物資の回収が大事なことはよく分かっているのでため息をつくと表情を改めた。凪原もそれを確認し、皆に折りたたまれた紙を配る。先の探索時に持ってきたリバーシティ・トロンの館内パンフレットだ。
「今配ったパンフレットを参考にして欲しい物資を探してみてくれ。ちなみに×を付けたエリアは破損がひどかったりして危険そうな場所だ、そこでの活動はやめといたほうがいいだろうな」
「それは分かったけれど、そもそも彼等のことはどうするのよ?彼等がどこにいるのか分からない状況じゃ落ち着いて探索できないわ」
彼等、ゾンビたちのことについて質問を発する悠里。その指摘はもっともで慈や由紀なども頷いている。だが凪原とてそのことを忘れているわけではない、今回の場合はショッピングモールの特徴が役に立ってくれる。
「その辺については大丈夫だ。ここでは各店舗が独立してるからな、店舗ごとにシャッターが下ろせるみたいだから必要なものが決まったらそれが売ってる店舗のシャッターを下ろして隔離、制圧してから回収をすればい。隔離から制圧までは俺と胡桃でやるから安心してくれ」
「2人だけで大丈夫なんですか?」
問題ないという凪原に当然の疑問を投げる慈、それに答えたのは凪原ではなく胡桃だった。
「平気だよめぐねぇ。さっきあたしとナギとで下のフロアを見てきたけど、あいつらの数は少ないし2人だけなら警戒する範囲も減るからかえって安全だと思う」
胡桃の言うことは正しい。危険地帯を徒歩で行動するとき、人数が少なくとも全員が戦えるグループと人数が多いが非戦闘員が過半数のグループとでは前者の方が圧倒的に生存率が高い。人の目は多いほうが良いが最低限自衛ができない場合は言い方は悪いが足手まといだ。
そんな事情を察したのか、慈だけでなくるーちゃんを除いた戦闘役以外の皆の表情が沈む。
「そんな顔しないでくれよ、あたしは戦う方が得意だからやってるだけで別に辛いとかは思っていないよ。なあ、ナギ?」
「ああ、胡桃の言う通りだ。適材適所って言ったらあれだけど、それぞれが得意なことをやってるだけだからそこに引け目を感じる必要はない。―――とはいえ割り切れないものはあるだろうしな、遠足に戻ったら皆にも自衛できるくらいには鍛えさせてもらう。そうすれば多少は気持ちの整理もつきやすいだろ」
実際、凪原や胡桃は慈達のことを足手まといだとはこれっぽっちも思っていない。戦闘をこなしているのはそれが得意だからだし、皆が戦闘をしないことに不満はないしその他のところでは常々助けられていると感じている。
が、慈達からすればそう簡単に割り切れるものでもないのだろう。他人を矢面に立たせて自分が比較的安全なところにいるというのは、まともな精神であればなかなかクるものがある。まして戦っているのが自分の親しい人であればなおさらだ。世の中には仕方ないで納得できないこともある。
そのあたりの心情を察したのであろう凪原の言葉は皆の内心に一応の整理をつけることができたようで、少し暗くなっていた空気が元に戻った。
「それじゃ改めて聞いていくぞー。生活必需品だけじゃなく欲しいものはとりあえず言ってくれ、取りに行けるかは置いておくとして言うだけならタダだからな」
その声をきっかけにして部屋の中ではワイワイと自分の希望を言う声が響き始めた。
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「んで、一番多かったのが洋服か」
「あら、私たち女子にとっておしゃれはとっても大事で意味のあることなのよ」
「なの~」
微妙に呆れが混ざったような凪原の言葉に反応する悠里、とそれに便乗するるーちゃん。この手の話題で男子が反論するとたいていロクなことにならないことを経験的に知っている凪原は手を振りながら「分かってる」とだけ返す。
会議では様々な意見が出たが、とりあえず洋服が欲しいという声が一番多かった。これで男子が多ければまた違った結果になったのかもしれないが考えても詮無きことである。
ファッション関連はそれだけでフロアを丸々一つ使っているが、フロア全体の安全確保は骨であるため、ショップを選んでもらったうえで制圧を行った。現在は皆を連れてショップへ移動してきたところである。
閉めておいたシャッターに異常がないことを確認してから開き、全員が中に入ったところで再度閉める。きちんと油が差してあったようで、度重なる開閉でもきしむような音が出ることはなかった。
光が漏れそうな場所がないことを確かめてからランタンの明かりを全開にすれば、明かりに照らされて若い女性向けのファッション売り場が浮かび上がる。
「お~っ!」
「たくさんあるの~」
「あっ2人とも!皆から離れちゃ危な―――くないんでしたっけ?」
たくさんの洋服にテンションが上がったのか走り出す由紀とるーちゃんに静止の声を掛けようとした慈だったが安全確保をしたというのを思い出して凪原に振り返る。
「ああ、俺と胡桃とで隅から隅まで確認したからね。この店舗内に限って言えば何の危険もない、ただの洋服店と思って大丈夫。普通と違うのは全品10割引きセール実施中ってことぐらいだから気にしなくていい」
「それだけでだいぶ普通じゃないと思いますけど?凪原先輩」
「かもな、でも悪いことじゃないだろ?」
圭が凪原のことを先輩と呼んでいたため、それに倣って美紀も先輩と呼ぶことにしたらしい。突っ込みを入れてきた彼女にそう聞き返せば、確かにと頷いてた。やや不愛想にも見えるが嫌悪感などは感じないので特に問題ないだろう。
圭に呼ばれた美紀が離れていき、胡桃や悠里も奥に行ってしまったのでシャッター近くには凪原と慈が残される形となる。
「さて、ここは安全みたいですしなぎ君は自分の服とかを見に行って大丈夫ですよ」
「そう?ならお言葉に甘えようかな、あの調子じゃどれだけかかるか分かったもんじゃない」
「ふふ、本人たちの前でそんな言い方しちゃダメですよ?」
ほっとしたように言う凪原を嗜める慈だったが、その気持ちも理解できるようであまり強くは言わない。
「それじゃ、ちょっと行ってくる。ついでに回収するものが少なそうな薬局も回ることにするよ」
「分かりました、くれぐれも気を付けてくださいね。あ、それとできれば大きめのかばんも持ってきてもらえると助かります」
「了解、その辺も合わせて見繕ってくる。多分1時間ぐらいで戻ると思う」
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男の服選びにかかる時間など女性のそれと比べたら刹那に満たない。自身の着替えを早々に選び終えた凪原は、慈に言った通り薬局の店舗スペースへとやってきていた。
「そういや薬局来るのっていつぶりだ?」
そう1人呟く凪原が手に持っているのは薬局にはいささか似つかわしくないものだった。右手に握っている9ミリ拳銃は時節柄仕方ない、ただし左手で引きずっているスーツケースは明らかにおかしい。
しかし当の本人はそんな事ちっとも考えていないようで、
風邪薬、頭痛薬、胃薬、傷薬…etc、どれも棚に並んでいる在庫を根こそぎ回収していく。
食糧はその気になれば自分たちでも生産できる。巡ヶ丘学院の屋上菜園もそうだし、川や海まで出向けば魚も手に入るだろう。店から回収した方が早いのでそうしているが手がないわけではない。
機械や道具類は使用する人間の絶対数が激減したせいで今店舗で並んでいるものを回収するだけで一生かかっても使いきれない程手に入るだろうし、多少なら凪原自身で修理できる。インフラレベルの大規模なものはお手上げだが無くて死ぬというものではない。
しかし、医薬品だけはどうしようもない。
再生産されるのは他の物品と同じく絶望的であるうえに、自分たちで生産することは実質不可能(やればできるかもしれないが知識0の人間が作った薬など毒と同義である)。必ず必要になるとは限らないが、いざ必要となった時になければあっさり死ぬ可能性がある。
以上のような理由から、凪原にとって医薬品は優先して回収すべきものなのであった。今後遠征に出るときにはドラッグストアや調剤薬局など、医薬品が置いてそうな場所は一通り回るつもりである。ただし、病院はパンデミック直後に人が殺到し、必然的にゾンビが大量発生していると思われるので近づく気はない。
記憶にある薬局の位置をリストアップしながら物資を回収していた凪原の手が止まる。その視線の先、
――睡眠薬――
そう記されたタグが付いた棚では他の場所と比較してごっそりと箱が無くなっていた。現在のような状況では使用用途など考えるまでもない。
「あっさり諦めてんじゃねぇよ、……バカ野郎」
漏れた言葉が、誰に聞かれるともなく店内に消えていった。
一話で終わらんかった…
物資回収はもう一話で続く予定です、多分それで第2章は終わりかな
由紀達の恋バナ
そりゃ女子高生だもん、好きだよね。気になることがあったら盛り上がるよ
ファッション
筆者は全く詳しくないが大事だということは知ってる
薬局・医薬品
本文中に書いたのは筆者個人の考えです、があまり外れてるとは思わないんですよね。色んなゾンビ小説って食糧確保に重点が置かれてるけど医薬品の方が絶対数が少ないから手早く集めないと色々手遅れになる気がする。「市販薬くらいで生死に直結しないだろ」と思うかもしれませんが医者がいない状態で風邪を薬飲まずにほっといたら割と死ねる気がするし、調剤薬局ならちゃんとした薬もある。どれを飲むかはある程度知識がいるけど自分で調合するよりはマシ
次の章に行く前に閑話を入れようかどうか考え中、
それではまた次回!