学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

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新型コロナウィルスがはやっていますね、
この3週間ぐらいで一気に広まった気がします。非常事態宣言が出されている北海道にお住いの皆様は特にご注意ください、その他の地域在住の方もくれぐれもご用心を。

さて、本作は今回から第3章、高校生活編がスタートします、
お楽しみください。


第3章:高校生活・前編
3-1:学園生活部の朝


ピピーッ

 

 朝7時半、誰もいない学園生活部の部室(元生徒会室)に小さな電子音が響く、音の発生源は部屋の隅に置かれている炊飯器である。

 

 いくら生徒会が学校行事に関する多くの業務を行っていたからといって、炊飯器を持ち込んで自炊する必要があるほど仕事量が多いわけではない。生徒会役員とて生徒であり、その本分は学業なのだ。好き好んで仕事量を増やそうと(隙あらばイベントを企画)する物好き(第31代)でもない限り炊飯器を持ち込もうなどとは思わない。

 そんなわけで物好き達が卒業してから部屋の片隅で埃を被っていた炊飯器だったが、ここ数日で現役復帰を果たし、自らの役目を果たしていた。

 

 

 そして、部屋の扉が開かれて1人の少女が姿を現す。もはやトレードマークといってもいいシャベルを肩に担ぎあくびをしながら入ってきた彼女は、シャベルをテーブルに立てかけると窓際に置かれていた電気ポッドへ歩み寄りスイッチを入れた。

 沸騰を待つ間に、戸棚からお気に入りのカップと木製の茶筒を取り出して朝の1杯の準備をする。数分後、ポットのランプが「沸騰中」から「保温中」に切り替わったところで手に取りカップに注ぐ。茶葉の入った茶こしを通して注がれたお湯は若草色の輝きと共に芳醇な香りを放つ。

 

 テーブルの席に着き、カップを両手で抱えるように持って口元に運ぶ。一口口に含んでカップをテーブルに戻したところで、少女の口から「ほぅ」と息が漏れた。

 しばらくはそうして朝のひと時を楽しんでいた彼女だったが、だんだんととソワソワしだした。やがて立ち上がると炊飯ジャーへと近づく、その手にはいつの間にかしゃもじと茶碗が握られている。ジャーのふたをを開けるとホカホカと湯気を上げる銀シャリが顔をのぞかせた。炊き立てのご飯の香りにほおを緩めつつ、しゃもじを突き立てようとしたところで、背後から唐突に声が投げかけられた。

 

「もう胡桃、まーたつまみ食いしようとして」

 

 その声に肩をビクリと震わせた少女、胡桃はゆっくりと振り返ると口を開く。

 

「お、おはようりーさん。これはつまみ食いとかじゃなくて、ちょっと味見をしようと思っただけで…」

「それをつまみ食いって言うのよ。胡桃は朝早いんだから言ってくれれば私だってもうちょっと早く起きて準備するのに」

「いや、それは悪いって。今日はたまたまお腹がすいちゃっただけだから」

「昨日も同じこと言ってたじゃない」

 

 「全くもう」、とつぶやきながら声を掛けた少女、悠里も部屋の中に入ってくる。そのまま胡桃からしゃもじと茶碗を取り上げて元の場所に戻す。そして、ああ…という表情をしてる胡桃に向き直るとピシャリと言った。

 

「すぐにご飯にするから、胡桃はみんなを起こしてきて頂戴。全員起きるまで――」

「――朝ごはんはおあずけ、だろ?じゃあ行ってくるよ」

「ええお願いね」

 

 手を振りながら部屋を出ていった胡桃を見送りつつ、悠里は隣の部屋へと移動する。電気ポッドや炊飯ジャーなどはテーブルがあって皆が過ごす時間の長い部室に置いているが、調理スペース自体は隣接する部屋にある。元は生徒指導室であり、生徒会室から廊下に出ることなく移動できる。書類棚や段ボールが雑然とに置かれていたのだが、別の部屋に移して現在は食糧倉庫として使っていた。

 水道も引かれており、料理にはぴったりなので最近では悠里の城となっている。たびたび由紀や瑠優(るーちゃん)が忍び込んでこっそりつまみ食いしているのだが、家計簿を付けている悠里の目を欺くことはできない。すぐに見つかってお説教を受けるまでが1セットである。

 

「それじゃあみんなもすぐに起きてくるだろうし、手早く作っちゃいましょ」

 

 1人呟いて軽く腕まくりをする悠里、実際そこまで汚れるような作業はないのだが気分的なものである。

 

 昨夜のうちに朝の献立は考えて材料なども準備してあったため、悠里の動きに迷いはない。スパム缶を開けててきとうな厚さに切り分け、軽く油を引いたフライパンに並べる。ジュ~ッという油のはぜる音を聞きながら、冷蔵庫から昨日屋上菜園で収穫したほうれん草を取り出す、下ごしらえを手早く済ませると適当な大きさに切って、別のフライパンに放り込みすぐにみりんを加えて炒める。醤油とバターでてきとうに味付けをしながらも、スパムが焦げないように気を配るのも忘れない。

 複数の火元を危なげなく扱う悠里の姿は堂に入っていて、高校生の調理実習というよりは熟練の主婦を思わせるものがあった。

 

 

「悠里さんおはようございます」

「あ、おはようございます、めぐねぇ」

 

 もうすぐほうれん草炒めができるというところでキッチン(元資料室)に顔を出したのは学園生活部の顧問である慈だった。朝に弱いタイプなのでまだ微妙に眠そうではあるが、身だしなみはきっちりしているしいつもの紫のワンピースも健在である。

 

「私も何かお手伝いできることはありますか?」

「ん~、それならお味噌汁の準備をお願いします。インスタントのがまだあるのでお湯を沸かしてください、お椀の場所は分かりますよね?」

「はい……なんか以前からうすうす感じてたんですけど、悠里さん私がお料理できないと思ってません?これでも料理は得意なんですよ」

「えっ、そうだったんですか!わたしはてっきり…」

「や、やっぱりそう思ってたんですね⁉いっつも簡単なことしか言わないからおかしいと思ってたんですっ」

 

 「も~っ」と怒る慈をなだめつつ、悠里は内心では結構驚いていた。どちらかといえば不器用なこの先生がまさか料理を嗜んでるとは思っていなかったのだ。本人から聞いた今でも半信半疑といった感が強い。

 

「あっ、その顔は信じていませんね!こうなったら今日の晩御飯は私の特製フルコースですっ。食べきれないくらいの量を作りますから心してください!」

「わ、分かりましたっ。信じますからそれはやめてください!」

 

 遠足によって食事事情が大きく改善したとはいえ、食料は無尽蔵にあるわけではないのだ。食べきれないほどの量を作られても困ってしまう。そんな悠里の必至な説得が功を奏したのか、何とか慈は引き下がってくれた。

 

「むぅ…確かにその通りにですね、フルコースは諦めます。でも朝ごはんに小さく1品そえるくらいは良いですよね?」

 

 そんな慈の言葉に悠里も「それくらいなら」ということで了承した。、1品程度ならそこまで食材を使うこともないと判断したので備蓄品に関しても自由にしてよいと伝える。

 悠里の了解が得られたところで、慈は備蓄物資リストと現在悠里が作っている朝食(スパムとほうれん草炒め、あと味噌汁)を見るとすぐに動き始めた。

 

 段ボールからさばの水煮缶を3つと、冷蔵庫から青じそとショウガ、それにチューブの薬味をいくつか。ショウガをみじん切りにして薬味と混ぜ、そこにさば缶の中身を開けて身を崩さない程度に和える。適度に具材が混ざったら、短冊切りにした青じそをトッピングして完成だ。見た目からしてさっぱりとした味わいなようであり、先に悠里が作った2品との相性もよさそうである。

 

 手慣れた感じで作業する慈の姿に悠里は驚いていた。作ったモノこそシンプルだが、他の料理との組み合わせも考えられており、何より1品作ると決めてから動き始めるまでのラグがほとんどなかった。材料を確認してすぐにレシピを決められるというのは料理に慣れているものでないと難しい。その点を考えると恵が料理が得意というのは事実だったようだ。

 

「…ほんとに得意だったんですね」

「そうですよ~、驚きましたか」

「ええ、それはもう盛大に」

「そこまで驚かれるとそれはそれで複雑な気分です…」

 

 「そんなに不器用だと思われていたんですね」とつぶやきながらも手は止めることなく、小皿を人数分取り出し、完成したあえ物を盛り付けていく。その様子をなんとなく見ていた悠里に、何かに気づいた様子の慈が声をかける

 

「あっ、焦げそうになってますよ!」

「え?――あっ!」

 

 その指摘に手元に目を落とすと、確かに不穏なにおいがかすかに立ち上ってきていたので慌ててフライパンを火から下ろして用意しておいた大皿に中身を移す。何とか間に合ったようで、スパムにもホウレンソウも焦げ付くことはなかった。

 

「危なかったわ…。ありがとうございます、めぐねぇ」

「うふふ、どういたしまして。火を扱うときはそこから意識を放しちゃだめですよ?」

「以後気を付けます」

 

 料理が下手だと思っていた慈から基本的なことを注意されて少しへこんでしまう悠里だったが、すぐに気を取り直して大皿から各個人のお皿に取り分ける。盛り付けが終わったものから順に台の上お盆の上に並べていく。

 

 お盆の数は8つだ。

 

 それらを前にして悠里の手が止まり、それを不審に思った慈が声をかける。

 

「悠里さん?どうかしたんですか」

「いえ、私たちも大人数になったな、って。――あの日の直後は4人だけだったのに…」

 

 悠里が思い出していたのはパンデミック直後、まだ学園生活部として活動を始める前のことであった。数百もの学生や教師達がいた学校は、わずか1日で悠里たち4人を残して全滅した。逃げ切った人もいたのかもしれないが、悠里の中ではあの日、巡ヶ丘学院は崩壊したのだ。

 

 そこからの数日間は今思い出してもつらいものだった。ほとんどなかった食料を4人で分け合った、収穫にはまだ早かった作物も食べた。それでも足りなくなって雨の日に調達へ出たら、雨宿りをするかのように校舎に入ってきた彼等と鉢合わせし、危うく慈を失ってしまうところだった。

 もしそうなってしまっていたら、慈に懐いている由紀はどうなっていたか分からない。自分や胡桃も大きく傷つくことになっていただろう。

 

「でもなぎ君が来てから変わりましたよね」

「はい、ほんとに凪原さんには感謝しないと」

 

 そうだ、凪原が来てからというもの学園生活部は変わった。普段の雰囲気こそ大きく変化はしていないが、その雰囲気が強がりやカラ元気によるものではなく、しっかりとした安心感からくるものになったのである。

 

 会った当初こそ見知らぬ異性ということで警戒をしたが、1年生時の先輩であり全く知らない相手出ないことが分かり、慈が信用していたこともあって悠里は凪原を受け入れた。そして受け入れてみれば、洞察力や行動力に優れているうえ親しみやすい人柄も相まって、凪原の加入は悠里にとっても学園生活部にとっても福音といってよいものだった。

 実際、凪原が来てから食事事情や安全性が劇的に向上したし、特に悠里には、半ばあきらめかけていた妹との再会という望外の幸運をもたらしてくれた。妹である瑠優(るーちゃん)にとっても彼の存在は心強いものであるだろう。

 というわけで、悠里は凪原に対して恩があるしそれにとても感謝しているのだ。その思いを本人にも伝えたいのだが、ストレートに言っても「大したことはしていない」、と流されてしまうのがもどかしい。仕方がないので毎食の料理など、自分にできることで少しずつ返していこうと思っている。

 

 そんな風に凪原のことを好ましく思っている悠里だったが、恋愛的な感情を持っているわけではない。どこぞのツインテール(胡桃)は除くとして(もっとも本人は否定しているが)、他の学園生活部の面々もそこは同じだろう。異性としてどうこうといういうより頼れる仲間、少し踏み込んで兄のように思っている者が多い。

―――まあ、普段ののんびりとした様子やイタズラ好きなところを見ていると、兄というよりも手のかかる弟のように思えてくるのだが。

 

 ふと見れば、用意したおぼんの上にはスパム焼きとほうれん草炒めの皿と、さばの薬味和えが盛られた小皿が揃っていた。どうやら悠里が考え事をしている間に慈が準備を終えてしまったらしい。

 

「悠里さん、もしかしてまだ眠かったりします?なんかぼうっとしていましたけど」

「いや、ちょっと考え事をしてて…」

 

 「無理はしないようにしてくださいね~」と言われ、またしても注意されてしまい少し顔を赤くする悠里。ごまかすように小さく咳ばらいをすると両手に盆を持ち、部室へと移動する。

 

 

 部室のテーブルの上に配膳していると、部屋に学園生活部の部員たちが次々に入ってくる。

 

「りーさんおはよ~(フワァ…)」

「ちゃんと1人で歩いてください由紀先輩、部室まで来たんだからしゃきっとしてくださいよ…。あ、おはようございます、りーさん」

「はい、おはよう2人とも。もう由紀、目が閉じちゃってるじゃない。すぐ朝ごはんの準備できるからいい加減目を覚ましなさい」

「は~い…(スヤァ)」

「「も~…」」

 

 最初に入ってきたのは由紀と美紀であった。まだ眠気が抜けていない様子の由紀は呆れた様子の美紀に支えられており、体をユラユラと揺らしながら歩いていた。2人の言葉にも返事こそしているがその姿はテーブルに突っ伏しており、完全に二度寝の体勢に入っている。

 

「おはようっりーねぇ、めぐねぇ!(ガラッ)」

「ちょっとるーちゃん、いきなり駈け出さないでよ。お、2人ともおはよ~」

「おはようございます、るーちゃん、圭さん」

「おはようるーちゃん。ありがとね圭、るーちゃん起こしてくれて」

「いやいや、大丈夫だって。私一人っ子だったから妹の世話とかあこがれてたし」

 

 次に入ってきたのは悠里の妹である瑠優(るーちゃん)と圭であった。勢いよく扉を開けて入ってきた瑠優(るーちゃん)は朝とは思えない程テンションが高く元気いっぱいであり、見ていて笑顔になる。対して圭は少しだけ息を切らせている。おおかた、突然走り出した瑠優(るーちゃん)を慌てて追いかけてきたのであろう。

 

「ゆーにぃとくーねぇは?」

 

 ちょこんと自分の席に着いて部屋を見回していた瑠優(るーちゃん)が凪原と胡桃の姿がないことに首をかしげる。現在部室にいるのは6人、話題に上がった2人以外は全員そろっている。

 

「あれホントだ、凪先輩達まだ来てないの?」

「胡桃先輩私たちに声だけかけてすぐ凪原先輩を起こしに行ったからもう来てるかと思ったんですけど」

「いいえ、まだ来てないわよ。どうせのんびりしてるだけだろうしすぐ来るでしょ」

 

 そう悠理が答えたのとほぼ同時にドアが開き、件の2人が姿を表す。

 

「皆おはよう、…悪い、待たせたか?」

「ほら、やっぱりみんなそろってるじゃん。だから早く起きろって言っただろ、ナギ」

「あと5分って言ったのにぴったりで起こしてくれなかった胡桃が悪い」

「いや私絶対悪くないだろ⁉︎」

 

 部屋に入ってくるや、悠里たちが口を挟む間も無く言い合いを始める凪原と胡桃。

 

「どう考えても時間通りに起きないナギが悪いだろっ」

「いーや、胡桃が悪いな。だいたい俺の寝顔なんか見てても面白くないだろ、なのになんで気づいたら15分経ってんだよっ⁉︎」

「そ、それはっ///、睡眠時間が少ないお前を少しでも休ませてやろうってあたしの親切心だ!」

「そりゃ、ありがとうっ」

「ああ、どういたしましてっ」

 

「はい2人ともそこまで、ご飯にするから席についてちょうだい」

「……めぐっち先生コーヒーくれない?ブラックで」

「私も欲しいかも」

「ご飯とじゃ合わないから朝食の後ならいいですよ。それにしても2人は朝から仲がいいですね」

 

 もはや痴話喧嘩といってよい掛け合いに朝からげんなりした顔になった悠理がストップをかける。その後ろでは圭と美紀がブラックコーヒーを所望し、慈が微笑ましそうな顔をしていた。

 

 そうこうしているうちに、全員分の配膳が終わる。メニューはご飯と味噌汁、スパム焼きとほうれん草炒めに慈が作ったらサバの薬味和え、パンデミック前と比較しても充分な内容である。

 

「ほら由紀ちゃん、ご飯食べるから起きて」

「ん〜?あ、ナギさんに胡桃ちゃんじゃん、おはよー」

「おうおはよう」

「ああおはようーーって由紀お前、さっきあたしが起こしたの分かってなかったのかよ…」

 

 慈に声をかけられて二度寝をしていた由紀も体を起こす、誰からともなく皆が手を合わせてーーー

 

「「「いただきますっ」」」

 

ーーー校舎に元気な声が響いた。




章はじめということで日常回です。

ナギにるーちゃん、圭やめぐねぇなどの原作の学校生活中にはいなかったメンツが多い(ってか半分そう)ので普段はどんな感じなのかな〜と想像して書いてみました。


最初に入ってきたのが胡桃な件
まだバリケードができていないので、深夜∼5時ごろまでは相変わらずナギが不寝番をしてます。早朝からは胡桃が交代してナギは仮眠に入ります。だから朝一番に部室に来るのは胡桃です。早くバリケード作って夜寝れるようにしなければ!(使命感)

瑠優(るーちゃん)表記について
なんとなくこんな感じにしてみました、否定的なご意見があったり自分でなんか違うなーと思ったら戻すかもしれません。


それではまた次回!
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