学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

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UA20000突破!皆さん本当にありがとうございます!
このままのんびりと続けていきたいと思っていますのでよろしくお願いします

チョーカー姉貴がゾンビとなって登場した前回、果たして彼女を前に由紀はどうするのか……


3-4:おやすみ

「由紀っ、おい由紀どうしたっ⁉」

「――っ」

 

 幸いなことに、胡桃の声掛けにより由紀は我に返った。しかしクロスボウは相変わらず下を向いており、ゾンビから射線は外れたままだ。ゾンビとの距離は現在約5メートル、数秒程の余裕はあれどもその間に由紀がとどめを刺すことは難しい。

 

「~っ、下がってろっ!」

 

 そう判断した胡桃は由紀の手を取って下がらせ、自分が始末しようと逆の手に持った山刀(マチェット)を振りかぶる。

 

「待って!」

 

 しかし、掴んだままだった由紀の手に引かれてその動きを止められてしまった。まさか邪魔されるとは思っていなかった胡桃は由紀に食って掛かる。

 

「何すんだ由紀っ」

「だめっ、あの子(貴依ちゃん)は私がやらないとだめなの!」

「はぁっ⁉今できて無かったじゃん、だからあたしが前に出たんだろうがっ」

「それでもダメなんだよっ」

 

 今まで見たことが無いくらい必死な由紀の姿に訳が分からず、さらに言い返そうとする胡桃だったが、彼女が口を開く前に背後から2本の腕が伸び、2人を掴むや勢いよく引き戻す。その力強さに抗いきれず、後ろに倒れ込む2人の眼前を彼女たちを引っ張ったのとは別の腕が通過していく。トイレから出てきたゾンビがいつの間にかすぐ近くまで接近していたのである。

 そして胡桃と由紀を引き戻した腕の持ち主は2人と入れ替わるように前に出ると、そのままゾンビの胸部に前蹴りを叩き込んだ。その衝撃を殺しきれず、ゾンビは数歩後ろによろめいたのちにあおむけに倒れた。

 やはり生前と比べて運動能力が著しく低下していいるのか、もぞもぞとしてしばらくは起き上がれそうにないことを確認して、ようやく凪原は振り返った。

 

「2人とも動けるな?さっきの教室まで戻るぞ」

「なんでだよっ、他の奴らが集まってくる前に倒すべきだろ」

「廊下見てみろ、幸いなことに寄ってくる奴はいない。由紀の方にも事情があるみたいだしいったん引くぞ」

「……分かった」

「由紀もいいな?」

「う、うん」

 

 頷いた2人に凪原は「いきなり引いて悪かった」と手を差し出し、立ち上がらせると先頭に立って教室へと移動し始めた。

 

 

 

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「よし、ここでいったん休憩だな」

「ゾンビの真ん前で動きを止められたんだ、納得のいく説明をして欲しいなあたしは」

 

 少しだけご立腹な胡桃だが、凪原は彼女に言うことがあった。

 

「あ、そうだ胡桃。ゾンビの近くで別のことに意識を向けるのはあまり感心しないぞ?」

「うっ、あれはいきなりでびっくりしたから…」

「そうゆう時に対応できるかどうかが重要なんだ」

「そりゃそうだけどさ~」

 

 「う~」とぼやく胡桃、言われた内容が正論であるために反論ができず、でもなんか物申したい。そんな内心を見て取った凪原は励ましの言葉を掛けることにした。

 

「ま、おいおいできるようになればいいさ。(外に出る時は)いつでも俺がそばにいるから安心してくれ」

「えっ、えーと……ありがとう。き、急に変なこと言うなよっ(プイッ///)」

 

 突然の「ずっとそばにいる」宣言に思わず赤面してしまった胡桃は、赤くなった顔を凪原に見られないように顔をそむけてしまった。一方、急にそっぽを向かれた凪原は何か変なことを言ってしまったかと首をかしげる。

 

(クスッ)

 

 そしてそんな2人の様子を見た由紀は小さく笑ってしまう。さっきまでは頭の中がぐちゃぐちゃになってしまっていたが、だんだんと昂っていた気持ちが鎮まってくるのを感じる。

 

「―――さて、そろそろ大丈夫そうだな。話してくれるか?由紀」

「あたしも聞かせて欲しいな、由紀があんなに取り乱すなんて普通じゃないし。やっぱりさっきの奴のせいなの?」

「うん、もう大丈夫だよ」

 

 時間を置いたのち、凪原が声をかけてきた。胡桃も頬の熱が収まったのかこちらに顔を向けている。2人の視線を受け、由紀は落ち着いた口調で話し始めた。

 

「あのゾンビさんは、柚村 貴依(ゆずむら たかえ)っていうの。貴依ちゃんは、私の命の恩人なんだ」

 

 

 

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「私ってさ、なんか人よりも空気が読めないみたいなんだよね。そのせいで時々クラスの中で浮いちゃうことがあったんだ。2年生になってからはめぐねぇにりーさん、胡桃ちゃん達がいたからそんなことは無かったんだけど。それより前、特に高校1年の時は多かったかな」

「そういう時ってみんなあんまり話しかけてくれないんだよね。別にいじめられてるって雰囲気じゃなくて、ただ何となく話しかけられないって感じでさ」

 

 普段の元気な様子ではなく、少し寂し気に目を伏せて話す由紀。両手で握っているペットボトルを見ると、手の近くが少しだけへこんででいた。今まで見たことのない由紀の様子に凪原だけでなく胡桃も驚いたように聞き入っている。

 

「そんな時でも…うーん、そんな時には、だね。貴依ちゃんがいつも話しかけてくれたんだ。普段はあんまり話さないんだけど、私が1人でいるところに来て話しかけてくれた」

「だいたいはからかうような内容でね、私が反論したら面白そうな顔になってさらにからかってきた。それを繰り返してたらいつの間にか他の皆も近くに来てて、またいつものようにみんなと話すようになるんだ。それで気がつくと貴依ちゃんはどこかに行っちゃってたんだよね」

 

 話を続ける由紀の様子は話し始めた時からほとんど変化していない。それなのに話を聞いている2人にはだんだんと由紀の纏う空気が重くなっているように感じられた。

 

「1年生の終わり頃になると私が浮いちゃうことも少なくなってたし、2年ではクラスも別れちゃったからほとんど会うこともなかったんだけど、あの日は放課後に廊下でばったり。それで久しぶりに話してる最中に、あんなことになった」

「最初は何が起きてるか分からなかったけど、貴依ちゃんが「逃げるよ」って言って私の手を引いて走り始めたんだ。それで―――」

 

 クシャリ、と由紀が持つペットボトルの形が大きくゆがむ。

 

「―――それで、階段まで来たところで、1階から上がってきてたゾンビさん達と鉢合わせしちゃったんだ。急すぎて反応できなかった私を貴依ちゃんは助けてくれた。でも……」

 

 「でも」、その後に続く言葉は容易に想像することができた。

 

「……でも、その代わりに貴依ちゃんが噛まれちゃった。それを見て動けないでいた私を、貴依ちゃんは早く上に行けって言いながら登り階段の方に突き飛ばしたんだ。起き上がって振り返った時には、背を向けて離れていく貴依ちゃんとそれを追いかけるゾンビさん達しか見えなかった」

「気が付いたら私は屋上の扉の前にいて、りーさんとめぐねぇ扉を開けてくれた」

 

 そこまで言って、話すのをやめる由紀。凪原も胡桃もすぐには口を開くことができず、教室の中を沈黙が満たす。

 

「―――なるほど、な。さっき様子が変だったのはそういう理由があったのか」

 

 数十秒、あるいは数分間続いた沈黙を破ったのは凪原だった。

 

(身を挺して助けてくれた、しかもそれ以前にも助けてもらっていた友人が奴等になって目の前に、か……。きっついなぁ、こういう時どう声をかけるのがいいんだ?)

 

 内心で頭を抱える凪原だったが、時間的な猶予はそこまでない。いくらゾンビの身体能力が低いとはいえ、先ほど蹴倒したゾンビ(由紀の話では柚村貴衣という名らしい)がもう近くまで来ているだろう。単に凪原が始末するだけなら、弾丸を1発、もしくは山刀(マチェット)を1振りで事足りる。しかし、恐らくそれでは解決にならないだろう。

 直接的な脅威ならば凪原が排除できるが、由紀本人の問題は由紀にしか解決できない。

 

(さっき由紀は自分で倒すと言ったけど、それで解決になるのか、ってかそもそも由紀にやれる(殺せる)のか?―――1度3階まで戻ってめぐねぇに相談するか)

 

 他の同年代と比較して人生経験が豊富な凪原だが、このような問題を前にするとどうすればいいのか見当もつかない。

 胡桃も難しい顔をして考え込んでいるが、口を開かないということは何も思いつかないのだろう。彼女の表情を見るに、由紀に友達を殺させたくない、でも自分たちがやればそれでいいということでもないことも分かっていてどうすればいいか考えがまとまらないようだ。

 1度3階まで戻ることを検討し始めていると、話し終えてからうつむいたままだった由紀が顔を上げた。

 

「やっぱり、私がやるよ」

 

 それは、言葉数こそ少ないがはっきりとした意志を感じさせるだった。

 

「っ!、………そうか」

 

 弾かれたように由紀の方へ顔を向けた胡桃だったが、由紀の表情を見ると何も言えなくなっている。そしてその気持ちは凪原も一緒だった。

 

(そんな顔されたらなにも言えないじゃないか)

 

 2人が見た由紀の表情は穏やかなものだった。

 これがもし悲痛そうなものであったりその他にも内心を推測させるものであれば、無理はしていないか、自分たちがやった方がいいのではないか、などと声のかけようもあった。しかしひどく穏やかに、ともすれば微笑んでいるようにも見える表情で言われてしまえば、確認や反論などできようはずもなかった。

 

「多分私の自己満足でしかないんだけど、貴依ちゃんとちゃんとお別れしたいんだ。だめかな?なぎさん」

 

 首をかしげて聞いてくる由紀に少しの間黙っていた凪原だったが、やがて顔を上げると普段通りの笑みを浮かべて口を開く。

 

「よし分かった!何かあったら絶対フォローする、だから安心してお別れをして来いっ。胡桃、俺らは援護だ、由紀に貴依さん以外近づけるな。できるよな?」

「当然っ」

 

 凪原の言葉に、胡桃も拳を手のひらに打ち付けながら答える。2人の言葉に由紀は一瞬驚いた顔になるがすぐに笑顔になった。

 

「2人とも…ありがとっ」

「なーに気にすんなって」

「ああ、友達(由紀)がやるって言ってんだ、なら手伝うのは当たり前だろ?」

 

 友人が何かをする覚悟を決めたのなら、自分も手伝う。そして、手伝うからには全力でやる。

 言葉にするのはたやすいが実際には難しい。しかし、それを当たり前にできるくらいには学園生活部の絆は強くなっていたようだ。

 

 

 

====================

 

 

 

「前に貴依さんを含めて4、後ろに2か……胡桃、後ろ任せた。俺は前の貴依さん以外をやる。へまするなよ?」

「当たり前だナギっ。由紀ちょっと待ってろよ、10秒で片付けてくる」

「う、うん」

 

 廊下へ顔を出して近寄ってきているゾンビの数を確認する凪原。それなりの時間教室内にいた割には集まりは良くないようだ(まぁその方がいいのだが)。このところ胡桃と凪原で断続的に数を減らしていたの良かったのだろう。ゾンビたちが生前のルーチンに則って動く以上、全校生徒数のゾンビを始末できれば敷地内に入ってくるゾンビの数は理論上はいなくなるはずである。

 貴依ゾンビがいる側は数が多い上に密集していて、彼女のみを残して殲滅するのは胡桃にはまだ難しそうなのでそちらは凪原がやることにして、彼女には後方を任せることにした。

 

 ところで、由紀に待っているように言う胡桃がなんかドヤ顔をしてる気がしたため、凪原はちょっとからかうことにした。 

 

「じゃあ俺は6秒で」

 

 言いながら片手で9ミリ拳銃を構え、2秒に1発の割合で連続して発砲する。宣言通り6秒で3体のゾンビを始末して凪原が振り返るのと、胡桃が2体目の頭を切り飛ばすのは同時だった。

 

「あたしも6秒」

「………そりゃ頼もしいこって」

 

 血濡れの山刀(マチェット)持ち、フンスッという鼻息が聞こえてきそうな顔の胡桃に凪原は苦笑いで返した。

 

 ともあれ、邪魔なゾンビは廊下から一掃された。残っているのは貴依ゾンビのみであり、そうなればもはや凪原と胡桃にできることはない。2人は1歩引いて由紀に場所を譲った。

 

「露払いは終わった。あとは由紀しだいだ」

「なんかあってもあたしたちがついてるから、だから頑張れよ」

「うんっありがとう2人とも」

 

 激励してくれる2人にそう答えると、由紀は笑顔を引っ込めて真剣な表情を浮かべ前に進み出る。

 1歩踏み出すごとに貴依との距離が縮まっていく。しかし先ほどとは異なり、由紀の瞳は真っすぐに貴依を見据えていて、クロスボウを握る両手から力は抜けていない。

 

「貴依ちゃん……」

 

 距離が5メートル程になったところで立ち止まりクロスボウをしっかりと構える。狙いは眉間、その中央だ。

 ゆっくりと貴衣が近づいてくる。その瞳は白く濁り、もはや由紀の姿を映してはいない。生前と同じものといえば、1歩進むごとに揺れるチョーカーくらいだ。それでも、その姿は彼女の生前を由紀に思い起こさせるには十分であった。

 

 思わずこぼれそうになった涙を、奥歯を噛みしめるでこらえる。しかし、すぐに引き結ばれた唇が震え、小さく声が漏れた。

 

 

「ありがと………それから、おやすみ」

 

 

 声と共に放たれたボルトは、狙い違わず貴衣の眉間へと突き刺さった。

 

 

 

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「どこ行くんだ?ナギ」

「あー……、ちょっとした自己満足?」

 

 その日の夕方、珍しくシャベルを担いで階段へと向かう凪原の姿があった。胡桃に呼び止められた彼は振り返ると、少し恥ずかしそうにしながら答えた。

 

 

 あの後、由紀は気力が尽きたのか倒れてしまい、凪原たち2人を大いに慌てさせた。幸いなことにただ眠っているだけのようであったので、凪原が彼女を背負い胡桃に警戒をしてもらいながら3階へと戻った。

 3階にいた面々(特に慈)は由紀の様子に驚いたが、起きたことを話すと納得してくれた。続いて予定していた訓練は中止になり、今は部室のソファで眠っている由紀のそばで皆過ごしている。それぞれが思うところがあるのか、特に会話などはない。

 

 そんな中、いつの間にか凪原の姿がなくなっていることに気づいた胡桃が、彼の姿を探して廊下に出たところで先ほどの言葉につながったのである。

 

「自己満足って、何する気なんだ?」

「ちょっと貴依さんを埋葬してこようかと思ってさ」

「埋葬?」

 

 予想外の言葉に素で聞き返した胡桃の言葉をどのようにとらえたのか、凪原は弁解するように言葉を続ける。

 

「いや、今まで何体も奴等を始末してきて何を今更って感じかもしれないけどさ。やっぱ生前のことを知っちゃうと、それも仲間を助けてくれたってなるとなんとなく情が移っちゃって」

 

 「せめて埋葬くらいは」と続ける凪原に胡桃は何も言わずに部室に戻ると、すぐに自分もシャベルを持って出てきた。

 

「めぐねぇに話してきた、あたしも手伝うよ」

「……おう」

 

 貴依の遺体を持ってきたブルーシートで包むと、2人は校庭の隅の方へとやってきた。すでに最終下校時刻を過ぎているので敷地内にゾンビはほとんどいない。お互いに話すこともなく埋葬のための穴を掘り始める。十分な大きさと深さの穴が掘れたところで、凪原はブルーシートの包みを開き、遺体の首から上だけを露出させた。

 

「……」

 

 感染防止のためにゴム手袋をはめてこそいるが、柔らかい手つきで貴依の開いたままになっている目と口を閉じさせる。軽く顔全体を拭き、髪を整え、最後にボルトが刺さっていた穴を絆創膏で隠す。

 ひどく簡易的ではあるが死化粧が施されたことで貴依を見たときの印象が穏やかなものになった。眠っているように、とまではいかないが少なくともゾンビには見えない。

 

「こんなもんか?」

「んー、よく分からないけどいいんじゃない?」

 

 短く言葉を交わすと再び顔まで包み、穴の中に遺体を安置する。土をかけ終えたのち、しばし黙祷を捧げると2人はその場を後にした。

 

 

 

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 巡ヶ丘学院の屋上菜園の片隅には、今でもチョーカーが掛けられた小さな十字架が建っている。




チョーカーさんは姉御肌、異論は認めない(認めます)

 好きなキャラだったので何とか登場させたかった。登場のさせ方と本作との整合性を考えた結果今回の訓練の下りが出来上がりました。
 由紀を守り、彼女の手で眠らせてもらう。強くなった由紀を見てチョーカーさんも安心して成仏してくれることでしょう。屋上菜園の十字架についてはめぐねぇの十字架とロザリオの本作品バージョンです。

 訓練についてはここで一区切りなので次は日常回になる予定です。


それではまた次回!
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