学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

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東京五輪延期になりましたね。
まぁ今年無理やり敢行しても大変だったと思いますし、「五輪を宣伝できる期間が1年延びたと思えば経済的刺激になる」とかニュースでも言っていたのであまり気落ちせずに待ちましょう。

さて、このところ真面目な話が続いたので今回は日常回です。
お楽しみください


3-5:座学と白衣とお菓子

 由紀の復活は早かった。気絶した時はどうなることかと思われたが、一晩中ぐっすり眠ったことで翌日の朝にはいつも通りの元気な姿を皆に見せていた。

 

 あまりに以前と様子が違わないので、流石に無理をしているのではないかと警戒した凪原達だったが、専門家という訳でもないため不審な点などは全く見つけられなかった。さしあたっては由紀の精神が予想以上に強靭だったと納得することにして、しばらくはそれとなく様子を見るということになった。

 

 

 由紀の訓練から数日間を開けて、瑠優(るーちゃん)を除いた残りの4人もそれぞれ実戦訓練を行った。幸いと言うべきかこの時は彼女たちの生前の知り合いだったゾンビと遭遇することもなく終わった。皆がそれほど逡巡することなく制圧できたことには教官役である凪原と胡桃も驚かされた。ただ、慈と悠里の2人は「いざという時になればできるが普段からはキツイ」とのことで、やはり個人差はあるようだ。

 

 よってそれぞれに合わせたメニューが必要になったために戦闘組以外の訓練はお休みとなり、凪原と胡桃のみが訓練を続けることになった

 

 

 

―――はずだった。

 

「あれ?ねえ美紀、なんか凪先輩と胡桃先輩の声が聞こえない?」

「ほんとだ、この時間は訓練中のはずなのにどうしたんだろ」

 

 凪原たちの声が聞こえてくることに疑問を覚える圭と美紀。いつもであれば屋上で訓練している時間にもかかわらず、2人の声が窓からではなく廊下側から聞こえてきているのだ。

 

「見に行こうか?」

「そだね、特にすることもないし」

 

 美紀が読んでいた本を閉じて1人掛けのソファ(遠足時にショッピングモールから持ってきた)から立ち上がりつつ声をかけると、絨毯の上でゴロゴロとくつろいでいた圭も返事をして体を起こした。並んで廊下を歩いていると、圭が伸びをした後に口を開く。

 

「にしても、ここはのんびりできていいね~。モールで生活してた時とは大違いだよ」

「圭は自由時間が無くてピリピリしていたもんね」

「そうそう。いくら非常時だ~っていってもちゃんと休まないと疲れちゃうよ」

 

 ゾンビパンデミックの発生により社会基盤が根底から崩れてしまったため、現在は生きるか死ぬかのサバイバル生活を送っている学園生活部一同であるが、その生活は規則などに縛られた窮屈なものではなく、かなりのびのびしたものだ。菜園の世話や掃除洗濯などの家事の仕事をする時間はあるものの、それ以外の時間はほとんど自由時間である。

 「生きていくために、って働きすぎて過労死でもしたら意味が無いからな。何よりそんな生活じゃ楽しくない」というとある元生徒会長の発言もあり、全員が思い思いに過ごせるように話し合った結果だ。話し合いの際にも特にもめることは無く、終始穏やかのものだった。ほぼ全員が「巡ヶ丘学院」というつながりがあり、リバーシティ・トロンの避難民のように全くの他人同士ではなかったのも一因かもしれない。

 

 リバーシティ・トロンでのことは置いておくとしても、学園生活部ではそれぞれが良好な関係を築いているのである。

 

「ねぇ、なんか凪先輩達喧嘩してない?」

「うん、あの2人に限ってそんなことはないと思ってたのに」

 

 近づくにつれ、聞こえてくる声がだんだん大きくなってきていた。凪原と胡桃は学園生活部において重要な役割を果たしてくれている。ともに戦闘役であり、今の安定した生活があるのも2人の功績によるところが大きい。それだけでなくそれぞれの人柄も良く、凪原は遊び心のある穏やかな性格と生徒会で鍛えた指導力で、胡桃は姉御肌のさばさばした性格と時折見せる乙女な一面で皆から慕われている。

 またこの2人同士の仲も非常に良好であり、交際していると言われても違和感がないほどで、本人(特に胡桃)は否定しているが、はたから見れば大差ないのでさっさと付き合ってしまえと思われている。

 

 そんな2人が喧嘩をしているとなると大ごとである、場合によっては学園生活部そのものにまで影響が出るかもしれない。

 そう思った美紀と圭が慌てて扉を開いた先では―――

 

「だからそこのパーツは「スライド(遊底)」だっつってんだろっ、なんで「ストライド(歩幅)」になるんだよ⁉――陸上部かっ」

「陸上部だったんだよあたしはっ、悪いか⁉」

「悪くねぇよっ。いいじゃないか陸上部、俺は好きだぞ」

 

 

―――しょ~もないことで言い合いをしている凪原と胡桃の姿があった。

 2人は美紀たちが入ってきたことに気づかないようでそのまま会話を続ける。

 

「ほんとか~、ごまかそうとしてテキトウ言ってんじゃないだろうな?」

「ガチガチ、俺部活動とかやったことないから結構憧れてんだぞ?」

「あれ?ナギは部活やってなかったのか?」

「おう。1年2年は帰宅部だったし、3年は生徒会で忙しかったからな。んで、学内回ってると陸部の練習の声が聞こえてきて、「お~やってるな」って思ったもんだ。だから俺の中では部活といえば陸上部なんだ」

 

 「多分胡桃が練習してるとこも見てる」と話す凪原にいつの間にか様子を見られていたらしい胡桃は天を仰ぐ。

 

「マジか~、1年の時はあたし全然だったから恥ずかしいな」

「んなことないだろ。みんな一生懸命練習していて見てて清々しかったし胡桃もちゃんとしてたと思うぞ?何も恥ずかしがる必要はないだろ」

「そ、そうか?」///

 

 つい数十秒前の言い合いが嘘のようにほんわかした空気に包まれる2人。その様子を間近で見ることとなった美紀と圭は何ともむず痒い気分になる。コミュニティの一大事かと来てみれば痴話げんかだったのだ、当然と言えば当然の反応である。

 

「(なんだ~、いつもの痴話げんかか。心配して損した)」

「(だね、もうほっとこうか)」

 

 コソコソと言葉を交わし、ドアを閉めて立ち去ろうとしたところでようやく凪原達は2人に気づいた。

 

「ん?圭と美紀じゃないか、どうした?」

「あ、ホントだ。今は自由時間だったはずだけどなんかあった?」

 

 こっそり退散するわけにもいかなくなった圭たち。

 

「凪先輩たちの声が聞こえてきたから、訓練の時間なのに変だと思ってさ」

「そしたら2人がけんかしてるような声が聞こえたのでどうしたのかと」

「?、俺ら今けんかしてたか?」

「さぁ?よく分かんない」

 

 美紀からの問いにそろって首をかしげる凪原と胡桃。そのしぐさがそっくりであったため呆れてしまう2年生2人。

 

「あーはいはい、いつもの痴話げんかですね」

「なんだよその投げやりな感じは」

「そうだよっ、っていうかち、痴話げんかとかそんなんじゃないからっ」

「胡桃先輩も焦ってないでいい加減慣れてくださいよ」

 

 不満げな様子の凪原達だが、美紀たちからすれば知ったこっちゃないのでさっぱり無視して先を促す。

 

「それで何やってたんすか?」

「…圭も変わったよな、最初に会った時はあんなに弱々しかったのに」

「凪先輩?あの時の事それ以上言ったら〆ますよ」

「へーい」

 

 圭にとってパンデミック発生から学園生活部に入るまでの間の自分は黒歴史認定しているらしい。曰く、「あんなシリアスでおろおろしてるのは私じゃない」とのこと。恐らく人生で最もつらかったであろう時期を黒歴史の一言で片づけられるあたり、圭の精神はかなり復活しているのだろう。

 試しにからかってみると、目の笑っていない笑顔で返されたので凪原は直ちに話題を変えることにした。

 

「えーっと訓練の時間のはずなのに何してるのか、だったな。体は動かしてないけど一応今も訓練中だ、前に胡桃にも銃を使えるようになってもらうって話してただろ?皆の訓練もひと段落着いたからこっちを始めることにしたんだ。今は、まずは座学からってことで銃の構造について教えていたところだな」

 

 ホラ、と言いながら手で示した黒板には凪原が普段使っている9ミリ拳銃の模式的な図が描かれていた。各パーツについての説明も簡潔に書かれており、内容が物騒なことを除けば授業中の板書と見まがうほどのものだった。

 

「へー、っていうか凪先輩板書うまいね。チョーク使うのって慣れてないと結構難しいのに」

「そこはほら、生徒会の仕事で慣れた」

「あ、そういうことか」

「………なんで、こんな世の中になってまで勉強しなきゃならないんだよ(グデ~)」

 

 凪原と圭が話している間、胡桃は机に突っ伏してぼやいていた。彼女は勉強があまり得意ではなく、定期試験のたびに一夜漬けを敢行するタイプの人間であり、席に着いて授業を受けるのは苦手なのだった。

 

「そう言うなって、銃は他の武器と違って扱いが難しいから勉強が必要なんだ」

「そりゃ分かるけどさ~、別にパーツの名前くらいいいじゃん。分かれば」

「さてはお前、化学の分子式覚えられないタイプだな。まぁ実際は伝わるなら別にいいんだけどな」

「おいっ、さっきのあたしの苦労は何なんだよ!」

 

 凪原の言葉に思わず立ち上がって文句を言う胡桃だったが、笑顔で「ノリ」と返されてそのまま机の上に崩れ落ちた。そしてそのまま動かなくなったため、今度は美紀がさっきから気になっていたことを聞いてみることにした。

 

「ところで凪原先輩、その恰好はどうしたんですか?」

「あっバカ!」

「美紀ダメだって!」

「え?」

 

 美紀が言うように今の凪原の服装は普段来ているようなTシャツにカーゴパンツではなく、スラックスパンツに色付きのYシャツを着用し、その上に白衣を羽織りさらに黒縁のメガネまでかけた研究者風のコーディネートなのだ。それを質問をした瞬間に顔を上げた胡桃と焦ったように声を上げる圭に疑問符を浮かべる美紀。しかしすぐにうれしそうな顔になった凪原を見てその理由を察した。

 

「お、それ聞いちゃう?授業をやるならそれっぽい恰好がいいと思って準備したんだ。どうだ?似合うか?」

 

 バサリと白衣を翻し、片手でメガネをクイッとしながらドヤ顔をきめる凪原。その動きは様になっており、見た人を何となくイラっとさせる。

 

「あーもう、こうなる気がしてたからスルーしてたのに」

「ダメだよ美紀、凪先輩絶対ツッコミ待ちだったじゃん」

「うん…次から気をつけるよ」

 

 彼の意図を読めていた2人から小言をもらいシュンとする美紀に対し、反応してもらえた凪原は上機嫌である。

 

「いや〜よかったよかった。せっかく用意してたのに胡桃は一瞬固まっただけで全然反応してくれなかったからさ、圭もスルーする気だったみたいだし」

「だって明らかにツッコミ待ちだったじゃん、反応してめんどくさくなるんならスルー安定だって。んで、結局その衣装はどうしたの?」

 

 どうせなら、と衣装についても質問する圭。

 

「ショッピングモールから持ってきた。やっぱ理系の先生とか研究者といえばこんな服装だろ」

「凪原先輩ってあれだよね。見え方を気にするタイプ」

「形から入るタイプと言ってくれ。別に周りからの見え方はそんな気にしてない」

「気にしてたらいくら生徒会長でもあんなこと(バカみたいなイベント騒ぎ)できないもんな」

「……なんか胡桃ちょっとキツくない?」

 

 微妙にトゲがある物言いに凪原が疑問の声を上げると、胡桃はそっぽを向けながら答えた。

 

「フンッ、無意味な暗記をやらせた仕返しだ」

「悪かったって、チョコあげるから許してくれ」

「ジュースも欲しいとこだな」

「分かった分かった」

 

 凪原が苦笑しながら頷くと、胡桃は「ならよし」と言って顔の向きを元に戻した。心なしかさっきほどよりも機嫌が良くなっているように見える。

 それにしてもチョコにジュースとは何を言っているのだろうと首を傾げる圭達の前で、凪原は隅に置いていたバックに歩み寄ると手に取って戻ってくる。そして中から板チョコと缶ジュースを取り出して胡桃に手渡した。

 

「ほいよ」

「ありがとっ、うーんやっぱいい匂いだな〜」

「だよな〜」

 

 チョコの香りを楽しむ胡桃に同意しつつ、自分も取り出した缶ジュースのプルトップを引きあける凪原。悠里が厳しく管理しているはずの菓子類を何の気負いもなく楽しむ2人に呆気にとられてしまう圭と美紀。

 

「ちょっと凪先輩、何普通にお菓子とか食べてんのさっ⁉︎」

「そうですよっ、まさか無断で持ち出してきたんですか?」

「違う違う、これはりーさんが仕切ってるもんじゃないから大丈夫大丈夫」

 

 先に正気に戻った圭に続いて声を上げる美紀。凪原はその言葉になんでもなさそうに手を振りながら答えた。意味がわからないという顔の2人に、胡桃が銀紙を剥がしたチョコをかじりながら説明をしてくれた。

 

「ナギのやつショッピングモールで食料調達をした時にお菓子とかを自分の洋服用のトランクにこっそり隠してたんだ」

「りーさんが帳簿をつけてるのは食料用のトランクに入れてた分だけだからな。これは管理の対象外だ」

 

「管理してる中から取ろうとするから見つかって怒られるんだ、初めから存在しないことにしておけばバレないし問題も起きない」などと嘯きながら缶を傾ける凪原に圭たちは呆れてしまった。

 

「なんというか、悪徳政治家が予算をごまかしてるみたいな感じですね」

「なんてこと言うんだ美紀、日々の生活を豊かに生きるための細やかな知恵と言ってくれたまえ」

「その言い訳まで含めてです、というかわざと言ってますよね?」

 

 美紀の言葉をのらりくらりと受け流している凪原に、圭が悪役っぽい笑い声をあげながら声をかける。

 

「クックック、凪先輩そんなこと言っちゃっていいの?今のをそのままりーさんに伝えちゃおうかな〜」

「な、なんだと⁉︎それはやめてくれ、そんなことをされたら私は破滅してしまうっ」

「言われたくないならホラ、なんか渡すものがあるんじゃない?」

「………板チョコ1枚」

「何寝言言ってんのさ。あたしたちに2枚ずつ、当然ジュースもつけてもらうよ」

「くっ、……悪魔め」

「なんとでも言うがいいね、別にあたしはこのままりーさんのとこに行ってもいいんだよ?」

「ええい分かったっ、持ってくがいい」

「毎度あり〜」

 

 いかにも苦渋の決断といった感じで要求された物品を渡す凪原とそれをニヤニヤしながら受け取る圭。そのやりとりがひと段落した所で胡桃が冷ややかに声をかけた。

 

「んで、2人とも満足したか?」

「おう」

「そりゃーもう」

 

 それまでの表情を瞬時に引っ込めて満足げな顔になる2人。なんてことはない、今の凪原と圭のやりとりは茶番だったのだ。

 

「悪事の証拠を掴まれてそれをネタに強請られる、なかなかできない経験だな」

「やってみたかったけど、現実ではそうそう出来ないからね~。あー楽しかった」

 

 笑いながら「はいこれ美紀の分」と凪原から受け取った菓子類を手渡す圭に、安堵の息をつきながら受け取る美紀。胡桃は気づいたようだったが2人の茶番があまりにも自然に始まったので芝居だと分からなかったのである。

 

「全く、いきなりだったからびっくりしたよ」

「あはは、ごめんごめん。でもこういうのって勢いが大事だからさ」

「そういうこった。――さ、ちょうどいい時間になったしおやつタイムといこうぜ」

 

 そう言いながら凪原が指さした時計が示しているのは15時。午後の3時はおやつの時間、というのはパンデミックが起こっても変わらない不変の真理なのである。

 彼の言葉に胡桃たちも賛成し、教室内では穏やかな午後の時間が過ぎていった。




はい、何となく書いてたらいつの間にかおやつを食べる回となってました。


銃に関するお勉強
ナイフなどは習熟の程度は置いておくとして、渡しさえすればとりあえず誰でも使える。が、銃に関しては扱いを学ばないと使えないどころかそこそこの確率で暴発などの事故が起こり得る。という訳で胡桃はお勉強中です。銃を持つだけでいきなり強くなったりするのはおかしいですからね。え、凪原?まぁあいつはサバゲとか本とかで扱いについて学んでたんじゃない?

初めから分けておき、存在しないものとして扱う
別に不正だけではなく、余裕を持たせるための手法としては割と一般的。スケジュール帳に書く締め切り日を実際より数日早くしておいたり、イベント時の人員配置でそれぞれの部署を問題なく回せるだけの人数の他に不測の事態が発生した時の増援用の人を置いておくなど。凪原のは完全にズルですが方法としては有効、ちなみにりーさんもうすうす気づいているけど凪原が1人締めしないで皆にあげている(りーさんももらってる)から見て見ぬふり。


次からは遠征の予定、目的地はホームセンター辺りを考えています
そ俺ではまた次回!
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