1~2話程度のストックは常に用意するつもりで書いてるんですが今書いてるやつとその次がかなり書くのに時間が掛かりそう………
それはともかく、お楽しみください
「かすかに聞こえてくる音楽を聴きながら屋上で食べるご飯は最高だな」
「そうだな、音楽に交じって奴等のうめき声が聞こえてこなければだけど」
「そこはノイズキャンセリング機能をオンにすれば」
「便利な耳だな」
胡桃の指摘をたった今オンにしたノイズキャンセリング機能でスルーしつつおにぎりをほおばる凪原(なお、慈のお説教を右から左に聞き流すため第31代生徒会メンバーは皆この技能を習得していたりする)。
バリケードで銃などの物資を回収してからおよそ1時間半、2人はとあるコンビニの屋上で昼食をとっていた。とはいえ単に緊張続きの遠征の途中で気力を回復させるためだけに休憩をしているわけではない。
ゾンビが十分に集まるのを待っているのだ。
そもそもの話となるが、今回の遠征の目的地は巡ヶ丘学院から数キロ離れた場所にあるホームセンターである。ここを探索し、現在学内にあるバリケードを強化するための材料を手に入れるためだ。
ホームセンターならば角材や鉄パイプにコンクリートブロックなど、バリケードを作るための資材がまとめて入手できる上に、各種工具やその他の生活物資なども期待できる。
そんなわけで現代のサバイバーたる凪原達にとって、ホームセンターはまさに宝の山だ。
しかしいざそれを手に入れようとした場合、その宝の価値に見合った難題をクリアする必要がある。
難題とはすなわち、外の光が入りにくい大型の建物に、背が高く入り組んだ商品棚の数々である。これらのせいで、ホームセンターはそれこそパンデミック前であっても買い物中に停電などが発生しようものならパニックは必至の構造となっているのだ。
さらにそれに加え、今では総数不明のゾンビが中をうろついている状況なのだ。
もし何の準備もなく懐中電灯だけ持って中に入り込んだとしよう。
何か少しでも手に入れて出てこられれば万々歳。
何も得られず這う這うの体で逃げ帰るのもまだ運がいい。
十中八九は暗闇に潜んだゾンビの餌食となり、永遠の暗闇の中でいつ来るともしれない獲物を待つ彼らの仲間入りをすることになるだろう。
その対策として凪原達がとった方法は単純。駐車場の出入口近くの電柱にラジカセをぶら下げて大音量で音楽を垂れ流すだけだ。
「中に何体いるか分からないけどあれだけ音を鳴らしてるんだ、しばらく待てばある程度は外におびき寄せられるだろ」
「いや理屈は分かるよ?けどナギは暢気すぎるって絶対」
そう言いながらのんびりと2つ目のおにぎりの包みをはがす凪原に胡桃は同意しつつもそこまで落ち着くことはできないようで、チラチラとラジカセの方に視線を送っている。2人がいるコンビニはホームセンターから適度に離れており、設置したラジカセ周りの様子をギリギリ観察することができる。店内から出てきた分に加え、近隣から集まってきたゾンビ達で一帯はごった返していた。
思わずブルリと身を震わせる胡桃に凪原は笑いながら声をかける。
「そんな見張ってなくても奴等は俺らには気づかないよ、駅でも使った方法なんだから(2-7参照)。それより飯は落ち着いて食べないと体に悪いぞ?」
「だから逆になんでナギはそんな落ち着いてられるんだ?もしかしたら、って考えたりしないのかよ?」
心底不思議そうに問う胡桃に対し、凪原は口の中のものを飲み込んでからおもむろに口を開く。
「悲観論で備え楽観論で行動せよ」
「はい?」
「こういうときの、というよりは全てのことに通じる心構えだな。要なことをするときって、ああなるかもしれない、こんなことが起こるかもしれないってって悲観的になるもんだろ?だから事前に上手くいかない時の可能性を全部考えてその対策をその時の解決策を準備しておく。んで、いざ本番となったら「まあうまくいくだろう、なんか起きても準備してあるし」って感じで気楽に構えればいいって感じの考え方だ」
「人事を尽くして天命を待つ、辺りが意味としては近いかな」、と話す凪原にそういう考え方もあるのか、と納得した胡桃だったが今度は気になることができたのでその辺について聞いてみる。
「ってことは今もなんか備えてんの?」
興味深そうに首を傾げる胡桃に、「それなりには」と前置きをしてか説明を始める。
「まず、音楽が常に聞こえているかは意識するようにしてるな。時々確認はするけど鳴ってる間はとりあえず問題ないし、意識していればもし止まった時にすぐに様子を確認できる」
「もし止まったとしても、こっちに向かってこないならまた別の場所にラジカセを設置して集めればいいし、向かってくるならここに囮として置いてから逃げればいい。来る時のルートをメモしてあるから道が塞がってて立往生することもないし特に問題なく撒けるはずだ」
「あと考えられるのはいきなりこのコンビニが囲まれたとかだけど、トラックを建物ギリギリまで寄せてあるから地面に降りることなく乗り込んでおさらばできるな」
凪原の口から淀みなく出てくる備えの内容に、軽い気持ちで質問した胡桃は驚いていた。ともすれば周りを気にせずに気を抜いているように見える彼がそこまで考えていたとは思っていなかったのである。
「は~~、すごい色々考えてたんだな。あたしじゃできないよ」
「これぐらいの想定ができないと独断でイベントを企画して職員会議で承認させるなんてマネはできないからな。会長になったらいろいろやりたいことがあったから2年の後半は必死こいて練習したもんだ」
「そのためかよ、感心して損した」
理由を聞き、それまでの表情を一変させて呆れ顔になった胡桃にも凪原は笑ったままだ。何しろ生徒会長当時はイベントを発表するたびに生徒(+教職員)全員から同じような顔をされていたのだ、今更1人からの視線程度でどうこうなるはずもない。
「とまぁそんな感じでちゃんと備えてるから問題なし。さ、中にいる奴等が全部出てくるまでもうしばらくかかるだろうし、それまでこのコンビニの物資でも集めてようぜ」
2つ目のおにぎりも食べ終わり特についてもいない汚れを払いながら立ち上がった凪原に、何を言っても無駄と判断した胡桃は自身も気持ちを切り替え、笑みを浮かべると腰を上げた。
「了解。今回はあたしも自分用のお菓子を確保したいし」
「あんまり取りすぎるなよ?りーさんに渡してみんなで分けるのが基本なんだからな」
「しれっと自分のを分けてたナギに言われても説得力がないな」
「こいうのは塩梅が大事なんだよ」
最後にもう1度ラジカセの方に目を向けて、2人は軽口をたたきあいながらコンビニの屋上を後にした。
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「………、おいナギ」
「ん?」
「お前さっき水持ってくるって言ってたよな?」
「ああ言ったな」
「じゃあさ、カゴに入ってるそれは何だよ?」
「(命の)水です」
「酒だなよな」
全力のジト目を向けてくる胡桃に対し、凪原はそっと顔をそむけながら答えた。
さして広くもない店内を見て回って
最初は胡桃が店内に入り缶詰やカロリーバーなど、保存がきく食品を回収してきた。それに続き凪原は水などの飲み物を取ってくると言っていたのだが、実際に持ち帰ってきたものは胡桃に指摘された通りである。
彼が手に持つカゴの中には、ビールにチューハイ、リキュールになどの手軽に飲めるものに加えてワインに日本酒、焼酎、ウォッカ、ウィスキー、とまさに「あるやつ全部持ってきた」と言わんばかりに酒類がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。というかよく見ると足元にも同じようなカゴが2,3個置かれている。
「どれだけ呑む気なんだよ…、ナギってもしかして酒豪かなんか?」
「他人と比べたら強い方ではあるが、俺が呑むのはチューハイとウォッカぐらいだよ。残りは、まぁお金代わりの取引用ってとこだな」
「取引?」
いったいどれほど呑む気なのかと問う胡桃に手を振って否定しつつ、大量のアルコールの使い道について説明する凪原。
「今後、もし生存者と会った時のためのもんだな。酒とかの嗜好品は好きな奴は本当に好きだからな、そういう人にこれを渡せば交渉とかもスムーズにいくかもしれないし」
「なるほど、確かにビールとかって毎日呑みたいタイプの人もいるらしいもんな」
「ああ…(ビールに関しては取引じゃなくて全部めぐねえ用なわけだが)」
「ん、なんか言ったか?」
「いいや?」
思わず漏れた言葉は幸いにして胡桃には聞こえなかったようだ。とある事情(「年越し」参照)から慈が酒豪であることを知っている凪原はともかく、本人が秘密にしていることを勝手に言うのはやはりだめだろう。
(割とすぐにバレそうだけどな、ちょいちょい「ビール飲みたいです」とか言っちゃってるし、というかあのほわほわした性格で酒豪は詐欺だろ。大学時代何人か泣かされてたんじゃないか?)
表情も雰囲気も全く変えることなく次々とジョッキを空けていく慈の様子を思い出して遠い目になる凪原。実は彼自身もかなりの酒豪であり、大学の同期から呆れられていたりする。知らぬは本人ばかりなり、である。
「どれが取引用でどれをナギが呑むつもりなのかは聞かないけど、さっさと積んじゃいなよ。他にもいろいろあるんだから急がないと、そろそろホームセンターの中の奴等も出きったんじゃない?」
「そうだな、急がないと胡桃が好きなお菓子を選ぶ時間が無くなっちゃうしな」
「そ、そんなこと言ってないだろっ」
「そうか?なら力仕事を任せるのも悪いし後は俺がやるよ、胡桃はそのまま見張りをしててくれ」
「ま、待った!」
クルリと回れ右して再び店内に戻ろうとすると、慌ててトラックの屋根から飛び降りてくる胡桃。勢いを殺すためにいったんしゃがみ込んでから立ち上がり、凪原と視線を合わせないようにしながら口を開く。
「い、いや~、ナギにだけやらせるのは悪いし?やっぱりあたしも手伝った方がいいかな~って思うから今度は私が行くよ。ほら、順番にやった方が効率がいいだろうし」
「そういうもんか?」
「そういうもんなのっ」
「分かった分かった、ゆっくり選んで来いよ(ニヤニヤ)」
「~~っ!」
微妙に早口な胡桃に、分かってるぜ的な顔で返事をすると、口をパクパクさせながら顔を赤くしてしまった。そのまま「早く行け」というように背中をバシバシ叩き始めたので、凪原は笑いながらはしごへと手を掛けた。
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「ナギ、絶対ぶつけたりするなよ!絶対だぞっ⁉」
「分かったから落ち着けって、気が散るだろ」
「落ち着けるかっ!そこに、奴等が、いるんだぞ!」
凪原の肩を掴みながら小声で大騒ぎをするという器用な芸当を見せる胡桃。とはいえ彼女の気持ちも理解できないではない。
なぜなら、現在2人が乗るトラックはゾンビの集団から50メートルほどの位置をゆっくりと移動しているからだ。ホームセンター敷地への入口が少なく、あったとしても放置車両などでふさがっているため現在向かっている入口しかトラックが通れそうな場所がなかったのである。
いくらラジカセから流れる音楽に釣られており、こちらに意識を向けている個体はいないとはいえ、一体一体が視認できる距離に集団がいるというのはなかなか心臓に悪い。ハンドルを握っていない、即ち自分ではどうしようもない胡桃が焦るのも無理はないことだろう。
「急げ!静かにゆっくり早く行けって!」
「無茶言うな―――っていうかマジでやめろ!ハンドル揺れちゃうだろうが!」
「今目が合った!絶対目が合ったって!」
「気のせいだから落ち着け!」
半分涙目で腕にしがみついてくる胡桃をなだめながらも、何とか無事にゾンビたちの横を通り抜けることができた。そのまま駐車場内を移動し、正面入り口ではなく業務用の資材搬入口へトラックを後ろ向きに止めたところで凪原はようやくエンジンを止めた。
「はい、着いたぞ」
「だ、大丈夫だよな⁉あいつ等こっちに来てたりしないよな⁉」
「なんでこっちに確認するんだよ、自分で見てみろって……ほら降りるぞ」
「ん、了解」
近寄ってきているゾンビがいないのを確認してようやく胡桃も安心できたらしい。表情を和らげるといそいそと車から降りてきた。
「落ち着いたか?」
「うん、もう大丈夫。――それで、やっぱまずは安全確認か?」
「おう」
呆れ気味の凪原に応じる胡桃。照れくさいのか、少し強引に話題を変えてきたが、特にからかうことなく話を続けることにする。
「かなり広いけど、隅々まで確認するぞ。ちょっと手間だが作業中にいきなり出てこられるよりは断然マシだ」
「同感、突然飛び出してきて驚かされるのは映画とかゲームだけで十分だよ」
そのままお互いの死角をカバーするように、クリアリングを済ませていく凪原と胡桃。ゾンビは見つけ次第どちらかの9ミリ拳銃で速やかに始末し、出入り口などには腰の高さに金属製の鎖を渡して鳴子に似た警報装置とする。
郊外のホームセンターということでかなり大型の店舗であったのだが、屋外でラジカセを鳴らしたのが良かったようで、それぞれが拳銃のマガジンを1回ずつ交換する程度で店内の安全を確保することができた。
「思ったより少なかったか。……やっぱあいつ等バカだな」
「もうちょいオブラートに包めよナギ」
「だって事実じゃん」
「そりゃそうだけど」
グルリと店内を一周して搬入口の近くまで戻ってきたところで凪原が発した言葉にツッコミを入れる胡桃。数秒の沈黙ののち、胡桃が「ところで、」と口を開く。
「いなかったな、生存者とか」
そう話す声はやや沈んでいたのだが、それに対する凪原の返答は彼女の心境とは異なるものだった。
「だな、正直ホッとしたよ。もし会ったらどうしようかと思ってたし」
「ホッとしたってどういう事だよ?残念に思ったりしないの?」
生存者がいなかったことを喜んでいるような言い方に質問する胡桃。他人のことを極度に嫌ってるような物言いだが、凪原が理由も無くそのようなことを言うとは思えないため疑問に感じたのだ。
「だって世の中がこんなふうになってるだろ?いきなり会った見ず知らずの他人がお行儀がいいことは期待できないな。良くて思いっきり警戒されて、悪けりゃその場で争い発生だ」
凪原があっさりと告げた理由に胡桃は一瞬思考が停止した。争い、と凪原は言っていたが、言いながら腰につけたホルスターを軽く叩いていた。そこに収納されているものを考えればその、争い、がどのようなものかなど容易に想像がつく。
「さすがにそれは考えすぎなんじゃない?少なくともまずは話し合おうとすると思うけど」
「俺と初めて会った時のこと思い出してみろよ。あん時はショベルしか持ってなかったけど、もし銃を持ってたら構えてただろ?」
「それは………ごめん」
その言葉に当時を思い出して小さく謝る胡桃だったが、凪原は「平気平気」と手を振って答える。
「それが悪いと言ってるわけじゃないから。というか俺だったら警告射撃の1発くらいはやってるだろうし」
「それはそれでどうなんだよ」
「とまぁ、俺の時はめぐねぇがいたのもあるし救援に入った直後だったから比較的穏便に済んだけど、お互いが万全の状態で鉢合わせしたら確実に面倒なことになる。こっちに害意が無くても相手もそうだとは限らないしな。それを考えたら生存者とは合わない方がいいってわけだ」
「理解はできたけど……やっぱりつらいな、相手を疑わなきゃいけないなんて」
凪原の危惧を理解しつつも悲しそうな顔をする胡桃。心優しい彼女にとって今のような時代の考え方は酷なものがあるのだろう。
「とりあえずは俺がついてるし、おいおいできるようになればいいって。さ、早いとこもらえるもんもらって帰ろうぜ。急がないと暗くなるまでに学校に戻れなくなる」
「………分かった。まずはバリケードの材料だったよな?」
「ああ、その後は工具類と生活雑貨、特にトイレットペーパーだ。いくら文明が崩壊したといっても、その辺の葉っぱで尻を拭くは断固拒否させてもらいたいからな」
「クスッ)女子に面と向かって尻とか言うなよ、世が世ならセクハラで訴えてるぜ?」
「ハッハッハ、そいつは勘弁」
凪原の冗談交じりの言葉に、胡桃も笑顔を浮かべて返す。このまま話していてもどうしようもないとお互いに察したゆえの掛け合いだ。
そのまま最低限周囲に気を払いつつも持ち帰る物資の選定、積み込みを始める2人。バリケード材料の鉄パイプだけは協力して担ぎ、その他のものに関してはカートを押して歩きながらめぼしいものを確保していく。当然ホームセンターの在庫をすべて持っていくわけにはいかなかったが、当初の予定以上の物資を回収することに成功した。
そして帰路についても、ゾンビの集団のそばを通る際に再び胡桃が涙目になったことを除けば特に問題も起きず、日が沈む直前に無事巡ヶ丘学院へと戻ることができた。
~第1次ホームセンター遠征報告~
成果:
鉄パイプなどのバリケード用資材に大量の生活物資
損害:
なし
結果:
大成功!
ホームセンター
基本的には本文中の通り、かなりの危険度を誇るダンジョンとなるでしょう。探索には十分な装備と光源を持っていくことをお勧めします。
コンビニ
略奪にあっていない店舗を見つけられたらかなりの物資を集めることができそう。ただし、おにぎりやお弁当が並ぶ奥側の棚には近づくべからず。絶対にGやらなにやらの蟲どもが蠢いている、そうでなければ夥しい数のヤツらの死骸が転がっているはず。………さすがにえぐいので本編には書きませんでしたが、もし作中の事が現実になってコンビニに行くときはご注意を
ゾンビのスペック
本作品では、ノロい、力が強い、バカ、の3拍子が揃った古典的なタイプのゾンビを想定しています。人が歩く速度の半分程度の速さで移動し、(あくまで人と比べれば)力があり、目の前の刺激(音、人らしきもの)に夢中になると他のことに意識が向かない、といった感じで比較的脅威度は低いです。
Q.そんなんで滅ぶのか、人類?
A.滅びます(断言)
さて次はバリケード製作となります、
それではまた次回!