学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

44 / 108
なんか諸々書いてたら1話分に長さになったので……


3-10:職員用緊急避難マニュアル

「どういうことだよっ!これはっ」

「こんなのっ……ひどいよっ」

「どうもこうも、どうやらうちの学校には秘密があったらしいぜ。それも比喩でなく世間がひっくり返るレベルの特大のヤツがな」

 

 口調を荒げる胡桃と、信じられないと言うように声を震わせる圭に対して淡々と答える凪原。言い方事茶化しているが、彼自身も表情がいつもよりも硬く、普段のような余裕は見ることができない。周りにいる面々も目の前にあるモノが受け止めきれないのか、言葉を発することができないでいた。

 

 学園生活部の部室がいつもとは全く違う雰囲気となっているのは、机の上に置かれた1部の小冊子だった。

 

 

職員用緊急避難マニュアル

 

 

 名称だけを見れば自然災害やその他の緊急事態が発生した際の職員の対処法のまとめのようにに思える。

 しかし、その実態は感染症によるパンデミック発生時において一部職員のみの生存を目的とした対応策を記したものであり、文字通り「職員用(・・・)」の避難マニュアルであった。

 示されている対応法の基本方針は確保と隔離、それだけならば感染症の対策としては間違っていない。ただし、確保すべきは少数の人材と資材、隔離すべきは非感染者とし、感染者に関しては触れられてすらいない。さらに非感染者の隔離に際しては兵器の使用や武力衝突も看過すべきとされている。この時点で、少なくとも全うな避難マニュアルなどではないことが分かる。

 そしてこの冊子を最も異質なものとしているが、想定されている感染症を開発中の生物兵器によるものとし、その内容について断片的ではあるが情報が記載されていることであった。仮にこの冊子の内容をもとに推測するのならば、文明社会の崩壊を招いた今回のゾンビパンデミックは人為的なものだということになる。

 

 社会秩序が崩壊するまでの数日間とはいえ世界中が総力を挙げて探したパンデミックの原因、その真相の一部がよりにも寄って自分たちの通う学校から見つかったのである。あくまで学生に過ぎない彼女たちの心境は察するに余りある。まるで足元が崩壊したような感覚を覚えても不思議ではない。

 

 よって、悠里の口から次のような言葉が漏れたのも仕方がないことだろう。

 

「めぐねえは……、知ってたんですか?」

「っ、」

 

 彼女からだけではない。難しい内容なためよく分かっていない瑠優(るーちゃん)と彼女の相手をしている由紀を除いた全員から同様の視線が慈へと向けられる。

 都合4対の瞳を前に身をこわばらせる慈に代わって凪原が割り込むように口を開く。

 

「いんや、知ってたのは冊子の存在だけらしい。中を見たのは昨日の夜が初めてだったってさ」

「は、はいっ。マニュアルがあるってことまでは知ってましたけど、こんな……こんなものだったなんて知りませんでしたっ」

 

 「でしょ?」、と振り返って問う凪原にコクコクと頷きながら話す慈。その表情からは偽りのない必死さがにじみ出ており、少なくない時間を彼女と一緒に過ごしてきた悠里たちの目に慈が嘘をついているようには見えなかった。

 

「これを見りゃ分かるだろ?これでもし知ってて隠してたのならアカデミー主演女優賞を出してもいいと思うね、俺は。それに昨日開封した時の困惑顔もすごかったし」

「……(フゥ)、凪原さんの言う通りみたいね、今のめぐねぇを見たら疑う気も無くなったわ」

「たしかに、めぐねえあんまり隠し事得意じゃなさそうだしな~。こんなこと隠してたら絶対ボロが出てるか」

 

 ウンウンとそれぞれ納得した様子を見せる悠里と胡桃。

 

「良かったじゃんめぐねえ、信じてもらえたみたいだよ」

「うぅ、良かったですけどこの納得のされ方は不本意です……」

 

 何とも微妙そうに答える慈に場の空気が一時緩む。しかし続く美紀の言葉でそれも霧散してしまった。

 

「ちょっと待ってください。内容は知らなかったとしてもマニュアルがあることは知ってたんですよね?ならどうしてすぐに開封しなかったんですか?」

「それは、「開封には俺がストップをかけてた」」

 

 またしても慈の発言を遮るようにして凪原が口を挟む。

 

「凪原先輩はマニュアルのこと知ってたんですか?」

「…パンデミック後にここに来た時からな、そんでめぐねえに待ってもらってた」

「………理由を聞いても?」

「ああ、ここを見てくれ」

 

 疑念のこもった視線で問いかける美紀に答えつつ、凪原は開かれたままになっていたマニュアルを閉じると、裏表紙が見えるようにひっくり返す。

 そこには禁転載という判と共に《機密保持条項》なる文言が記載されていた。

 

「『たとえ公的機関の調査に対しても本書の存在に触れないものとする』、こう書いてある時点で確実に地雷だろ。どんなビックリドッキリ情報が飛び出してくるか分かったもんじゃない」

 

 一息、

 

学校(拠点)が整ってない状態でそんなもん知ったら混乱するだろ?ってか俺はするね、間違いない。だから自分たちで環境を安定させられるまでは置いておくことにしておいた。今はバリケードもできたしある程度落ち着いて考えられるようになったからな、頃合いと判断して開けてみたら予想通りヤバいモンが出てきたって訳だ」

 

 

 凪原の説明にはそれなりに筋が通っており、不審な点があれば追求しようと思っていた美紀もとりあえず納得することができた。今でこそ学園生活部は安定しているが、最初からそうだったわけではない。凪原が合流した当初はかなりギリギリだったし、その後も割と綱渡り状態が続いていた。

 何とか安定してきたのは全員の訓練が終わったころだがそれはつい最近のこと、精々1,2週間といったところである。

 

「そうでしたか…」

「ま~それなら仕方ないかな~とは思うけど、やっぱり存在ぐらいは言って欲しかったかな」

「その辺はすまんかった。ただ伝えていいもんか分からなくてな」

 

 圭は凪原の説明に理解を示しつつもやはり言って欲しかったという意見だった。美紀を含む皆も同意見のようで彼女の言葉に頷いている。

 

「そうね。多分凪原さんは卒業、というか成人してるからめぐねえも相談したのだと思うけれど、私達にも相談して欲しかったわ。私達だってもうちゃんと考えられる年齢なんだし」

「そう……ですね。ごめんなさい勝手に判断してしまって」

「……悪かった」

 

 苦言に対して素直に頭を下げる慈と凪原。

 

「でもめぐねえもナギさんも私たちのこと考えてくれてたんでしょ?それならあんまり怒っちゃかわいそうだよ」

「だな、2人があたしらのことを思って、ってのは分かったらからこれくらいでいいんじゃない?今度からはちゃんと言ってもらうってことでさ」

 

 由紀と胡桃がとりなしたことで残りの皆にも矛を収めてもらうことができた。

 場の空気が柔らかくなったのを見計らい、凪原が「それでなんだが、」と切り出す。

 

「この校舎の見取り図を見てくれ。地上階は別にいいとして、地下区画があるみたいなんだ。貯水槽や浄水関連の設備があるのは知ってたけどこんなもんの存在は聞いたことがない、めぐねえも知らなかったみたいだから十中八九このマニュアルを作った連中の仕業だろう」

「へー、この学校にナギさんも知らない場所なんてあったんだ~」

「確かに、学内のことなら何でも知ってそうだもんな」

「よし、君らが俺のことをどう思ってたのかよく理解できたぞ。ちょっとこっち来い」

「「ひゃー」」

 

 由紀と胡桃の茶々に凪原が苦笑交じりに応じているあいだに、悠里と美紀がマニュアルを手に取って覗き込む。確かに学内見取り図の中には普段自分たちが使っていた教室などのほかに見慣れない設備が記載されていた。

 

「ふーん…地下1階に備蓄倉庫と機械室、これは浄水設備用のものかしら」

「多分そうでしょうね。それにしても備蓄倉庫ですか、食糧とかがあるんでしょうか?」

「それについてなんですけど、ちょっとびっくりするようなことが書いてあったんですよね」

 

 「ちょっと失礼しますね」と断りを入れてマニュアルを受け取った慈がパラパラをめくって開いたのは『本校の防護施設について』というページである。

 

「ここに備蓄されている物資の概略が書いてあるんですけどその中に―――」

「………えっ?」

「これって!」

 

 悠里と美紀が驚きの声を上げるのも無理は無い。なぜなら彼女が指さした箇所には『感染症用救急キット』という文字が印刷されていたのだ。

 

「救急キットっ、それがあればもし奴等に噛まれても大丈夫ってこと⁉」

「もしかしたらって程度だけどな」

 

 思わず大声にを挙げる圭にあくまで冷静にくぎを刺す凪原。

 

「救急キットが本当にあるのかまだ分からないし、仮にあったとしても本当に効くのかもよく分からん。だからあんまり期待しない方がいいと思うぞ」

「それもそっかぁー…残念」

「そんなわけであっても確保するだけがいいってこった」

「それしかないですね、研究機関とかがあったら渡して調べてもらうという手もあるんですけど」

「現状では望み薄ね」

 

 凪原の言葉に残念そうにしながらも納得する一同。通信関係は軒並みダウンしているし、その前の時点でも社会昨日はほとんど麻痺していたのだ、その辺の病院や研究所などが今なお稼働しているとは考えにくい。ワクチン(と思われるモノ)を手に入れても確保しておく意外にできることはないのだ。

 

「まっ、救急キットはともかく他にもいろいろあるかもしれないんだろ?ならちゃっちゃっと確認してこようぜ」

「それが良いな。じゃあちょっと行ってくるからあと頼む」

「はい、でも十分に注意してくださいね」

 

 これ以上は話だけしていてもらちが明かないということで、いつも通り戦闘組の凪原と胡桃が確認に赴くことになった。気を付けるように言う慈たちにそれぞれ声や手で返事をして、2人は部室を後にした。

 

 

 

====================

 

 

 

「―――んでナギ、ホントは知らなかったろ?」

「………何のことだ?」

 

 階段を下りている途中、胡桃からかけられた言葉に一瞬固まるもなんでもなさそうに答えた凪原だったがどうやらごまかしきれなかったらしい。両肩にシャベルを担ぎながら「とぼけんなって」と笑う胡桃の中では凪原が嘘をついているのは確定事項らしい。

 

「マニュアルのこと前から知ってたっての、嘘だろ?」

「どうしてそう思う?」

「気になったのはりーさんが「話してほしかった」って言った時のナギとめぐねえの反応かな、謝るまでにちょっと間があったろ?2人だったらすぐに返事すると思ったのにそうじゃなかったから、ん?ってなったんだ」

 

 「それが一つ」と指を立てながら説明する胡桃に、口を挟むことなく頷いて続きを促す凪原。

 

「あとこれは根拠はないんだけど、めぐねえは不安なことがあっても相談しないで抱え込むタイプのはずなんだ。あんなやばそうなもの、見つけても絶対誰にも言わないと思う。

りーさんはナギが成人してるから相談したって思ったみたいだけど、めぐねえにとってはナギも生徒だろ?なら相談するとは思えないんだよ」

 

 今後は腕組みをしながら慈の性格を分析していく胡桃。凪原は彼女が意外と担任のことをよく分かっていることに驚きながら耳を傾ける。

 

「その辺を考えるとナギがあのマニュアルのことを知ったのは結構最近なんじゃないかって結論になったんだけど、実際のとこどうなんだ?」

「―――ハァ、……降参」

 

 ため息をつきながら苦笑いで両手を上げる凪原。胡桃の推測がかなりいいところを突いていたのこれ以上隠すのは無理と判断したのだ。

 

「胡桃が言った通り、あのマニュアルについて教えてもらったのはごく最近、ぶっちゃけ昨日の夜だよ」

「やっぱり」

「ただ言い訳をさせてもらうと、開封したのはホントに昨日の夜だし、めぐねえが隠し事をしてるって気づいたのはマジでここ(巡ヶ丘)に来た当日だぞ?なんか怪しかったからカマ掛けたら引っかかった」

「そうだったんだ、それにしてもよく分かったな」

「そこは長い付き合いゆえ、だな。散々迷惑かけたりかけられたりしてたからだいたいのことは分かるさ」

「ホントに在学中何やってたんだよ……。それで?なんで前から知ってたみたいに嘘ついたりしたんだ?」

「印象的な問題だ」

 

 そこが分からない、と首をかしげる胡桃に凪原は頭を掻きながら答える。

 

「マニュアルについて打ち明けた時に俺も知らなかったすると、めぐねえはずっと1人だけ隠してたってことになるだろ?開封が昨晩ってことも俺と2人で話すよりも信憑性が落ちる。さらに俺も知らなかったってなると俺も文句を言わないと不自然になる。教師って立場で1人だけ秘密を持ってたっていうよりは、俺が止めてたって方が皆に与える悪印象も幾分かマシって思ったんだ」

「ふーん、よくめぐねえがOKしたな」

 

 話を聞いてまず胡桃が思ったのがそれだった。教師として生徒を守ることを信条としている―――実際凪原が合流した時には自分を犠牲にして胡桃たちを逃がそうとしていた―――慈だ、自身に向けられるはずの不審が教え子に向くのをよしとするはずがない。

 

「ああ、実際めちゃくちゃ反対された」

「だろうな、どう説得したんの?」

「「生徒の心身を守れるならたとえ嘘でも突き通せ。前の生徒()よりも今の生徒(胡桃たち)が優先だ」っつたらすげぇ悲しそうに納得してくれた」

「うっわぁ……きついこと言うなぁ。あたし等よりも先にめぐねえの方がまいっちゃうんじゃない?」

「なんかそんな気もするな………自分だけならいくらでも罪を背負いそうなのに人に背負わせるのは無理か」

「そうだと思う、それにみんなにも正直に言った方がいいと思うよ。心配してくれるのはありがたいけどあたし等はナギが思ってるほど弱くないって」

「そうかもしれないな、あとで戻ったらきちんと謝ることにするわ」

「それがいいよ、あたしからも口添えはするからさ」

 

 心配して手を回したのに逆に諭される形となってしまい、何ともばつが悪そうな凪原だったが、仕方がないと割り切って潔く頭を下げることにした。

 

「というか胡桃はよく分かったな、俺は当然としてめぐねえも態度は崩してなかったと思うんだけど?」

 

 ついでということで疑問点について尋ねてみる凪原。彼自身はそれなりにポーカーフェイスが得意だと自負しているし、気が進まないとはいえ一応納得していた慈の言動についても特に不自然な点はないように思えたのでどうして胡桃が気付いたのかが不思議だった。

 

「めぐねえよりもナギだな。なんか違和感があれば気づく、伊達に普段から見てないよ」

「………、そりゃよく見てるこって。――さ、無駄話してないで確認に行くぞ」

「あ、待てってナギっ」

 

 返された答えの内容に微妙に居心地が悪くなったのか、それだけ言うと再び階段を降り始める凪原。

 

「なんだよ、照れてんのか?」

「照れてない」

「照れてんじゃん」

 

 振り返らずにスタスタと先に行ってしまった凪原に胡桃が追い付いたのは、地下への入口があるとされるシャッターの前だった。

 

「なぁ悪かったって、ナ…ギ……?」

「胡桃……」

 

 半端に開かれたシャッタ―の先は薄暗い闇に支配されており、―――

 

 

「しっかり構えとけ」

 

 

―――途切れ途切れの血痕が奥へと続いていた。」

 

 




ここから物語が動き始めると言っても過言ではないマニュアルさんのご登場です
これが学園生活部にどんな影響を与えるのか……実は筆者もまだよく分かっていない


マニュアルの開封時期
1-8で張った伏線の回収回だったりする。
本作では前回(2階部分のバリケードが完成した日の夜)に初めてめぐねえ(と凪原)はマニュアルを開封しました。原作では1巻開始時点でめぐねえがいないのでそれよりも早く開封したはずで、本作ではだいぶ異なっているように感じますが、一応考察サイトなどを見て自分なりに整合性がとれるよう考えてみました。以下、裏設定

前提:
校長からの指示及びA-1警報は発令されていない。めぐねえはマニュアルの存在は知っていたが表紙の指示に従い10日間は開封を待とうとする
雨の日:
凪原合流、個人的にはこの日がギリギリ10日目。めぐねえがそわそわしているところを凪原に看破され以下1-8話の流れ。
前回~今回:
物資の充実と、さしあたっての安全圏の確保ができたと慈が判断して凪原に相談した。1人で開封しないで相談したのは信頼の表れ。凪原も何となく「絶対やばいもんが出てくる」と察して1-8の発言をしているので悠里たちへの説明も全くの嘘というわけではない、が胡桃にはバレた模様

……こんな感じですかね。読者の皆様それぞれ思うところはあるとはでしょうがif時空ということでご容赦願います。


さて、3章も次回で終了です。
地下へと続く血行の正体とは……?お楽しみに!(書いてたら今作最長になりそう)

それではまた次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。