例によって本編とは関係がないのですが、
時系列的にはバリケードが完成した夜にめぐねえからマニュアルのことを相談されなかった世界線でのお話になります。
とある平日の昼、週に数回の勉強の時間の最中、何を思ったのか急に由紀が立ち上がった。
「体育祭、やろうよ!」
「「
そして発せられた唐突な提案に対して凪原と圭の声が重なる。相手のボケ(今の場合由紀がボケたつもりなのかは分からないが)に素早く反応できるかどうかは慣れによるところが大きい。口を開けばかなりの確率で
そのあたりのことは置いておくとして、2人の言葉は別に否定的な意味合いで言ったのではなく、シンプルに話している内容が分からなかった故の反応である。周りにいる人も由紀の突然の発言に頭が追い付いていないようで一様に不思議そうな顔をしている。
「なにって、運動会のことだよ。ほら、みんなでかけっこしたり玉入れしたりするあれ」
「「「そっちじゃないっ」」」
首をかしげながら体育祭とは何たるかを説明する由紀にツッコミを入れる一同。今度は凪原と圭だけではなく胡桃と美紀も反応が間に合った。
「あのな由紀、体育祭自体は知ってる。俺らが聞きたいのは何でいきなりそれをやろうって話になったのかってことで――あっ」
質問の途中、凪原はとある人物が由紀の後ろから教室入ってきたことに気付いて言葉を切る。しかし、彼の方を向いている由紀はそれに気付かない。よくぞ聞いてくれた、といように話を続けようとして、
「うん、それはね――」
続けようとして―――
「それは、なんですか?ゆきちゃん?」
「うひゃっ!めぐねえ⁉」
―――続けられなかった。
笑みを浮かべながら由紀の肩の手に置いた慈に由紀が素っ頓狂な声を上げる。つい先ほどまでの勢いが見る影もなく、今はワタワタとしている。
「私が戻ってくるまで古典の問題を解いててくださいってお願いしたと思うんですけど……。もしかしてもう終わっちゃいましたか?」
「えっえーっと、それはね!」
声は無駄に元気がいいが歯切れが悪い。どう見ても課題が終わっているようには見えない。
「まさか終わってないのにしゃべってた~、なんてことはないですよね?」
「あ、アハハハ~」
変わらぬ笑顔の慈から顔をそむけるようにしつつ、周りに視線で助けを求める由紀だったがそれに対する皆の答えは非常なものだった。
「いいか2人とも、確率ってのはまず最初に全部で何通りあるかってのを考えるんだ。聞かれてる事象がいつ起きるかを考えるのはその後だ」
「へーそうなんだー、どうも個別のこと考えちゃうんだよなー」
「私もそうなんですよね、問題で聞かれるとそっちに意識がいっちゃって」
凪原、圭、美紀、の3人は数学の教科書に向き直り、
「胡桃、そこの分子式間違ってるわよ」
「え?あっ、ホントだ」
「この辺りは紛らわしいから注意してね」
悠里と胡桃は化学の演習へと戻る。
最後に由紀が視線を向けた
「ゆーねぇ、ちゃんと勉強しないと
「るーちゃん⁉」
小学生からのお叱りの言葉に裏切られたような声を上げる由紀と、さらに笑みを深くする慈。もう一方の肩にも手を置き、ストンっと由紀を椅子へと座らせる。
「るーちゃんの言う通りですよ。まずはお説教をして、それから一緒にお勉強しましょうね?」
基本的に穏やかな慈であるが、逆らってはいけない時というものがある。それを感じ取った由紀はおとなしくペンを手に取り、それからの勉強時間中に集中を切らすことは無かった。
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「おーい由紀、さっきから動いてないけど大丈夫か?」
「……返事がない、ただの屍のようだ」
「平気そうですね」
「由紀もたいがいタフだからな」
勉強の時間が無事に終わって時刻は昼前、悠里と慈が食事の準備をしている間に一同は学園生活部の部室で雑談をしていた。
先ほど慈にたっぷりと絞られた由紀は机に突っ伏していたが、皆の声に応じて体制はそのままに顔を上げると頬を膨らませながら不満の声を上げる。
「もぉ~、めぐねえ厳しすぎるよ。ちょっと話してただけなのに」
「タイミングも悪かったしね。めぐっちが来る直前に立ち上がっちゃったし、しょうがないって」
「うぅ~」
「まぁその辺は良いだろ。それで体育祭だったか、なんでまたそんなことを言ったんだ?」
「あっそうだった!」
なだめながら先ほどの言について水を向けた凪原に由紀は思い出したように声をあげると、立ち上がり両手を広げながら理由の説明を始めた。
「あのね、最近雨が多いからあまり屋上に出れなくてみんな運動できてないじゃん?それとこの間バリケードが全部できたから2階が安全になったでしょ。2階は廊下が長いし食堂も結構広いから頑張れば運動会ができるんじゃないかなって思ったんだ~」
由紀の言うようにバリケードの完成と前後して本格的な梅雨が到来しており、屋上で過ごせる時間はほとんどなくなっていた。凪原と胡桃の戦闘組2人はそれでも雨の合間を縫って訓練を継続をしていたが、それ以外のメンバーはストレッチのような室内できる運動しかできていない。
つまるところ、『体が鈍ってしまうこともそうだが、たまには思いっきり体を動かしたい』というのが由紀の提案だった。
「そういうことですか、確かに最近あまり運動ができてないですもんね」
「なるほど、よさそうなんじゃない?」
美紀と圭が得心がいったと言うように頷く。
「なるほど、なかなかいい案だな。廊下や食堂で運動をするって発想がなかったから思いつかなかった」
「どの口が言うんですかなぎ君、あれだけ校内を走り回っておいて」
「お、おかえりめぐねえ。いやあれは運動ってわけじゃないから」
感心したように言う凪原の背後から調理を終えて戻ってきた慈が呆れたように突っ込む。当時校舎内を逃げ回る凪原たちを幾度となく追いかけさせられた彼女は凪原の返答に、「まったくもうっ」、とトレーを手にしたままため息をついた。
「それでめぐねえ、いいでしょいいでしょ?」
「そうですねぇ……」
本日の昼食であるうどんをすすりながら由紀が慈に許可をねだる。
普段好きかってやっている部員たちであるが、なんだかんだ慈のことは慕っているし尊敬もしている。よって、大事なことを話したり決めたりするときにはちゃんと彼女の意見を聞いているのだ。
「めぐっち先生、あたしからもお願い。最近雨ばっかりで外に出れなくて運動もできないから退屈してるんだ~」
由紀に続くようにして圭が口にした内容は部員たちの総意だったりする。たまに屋上に出ている2人にしても、訓練は最低限しかできていないので行動派の凪原と元陸上部の胡桃としては物足りなかったりする。。
「…確かに、たまにはイベントとかがあった方が楽しいですよね。許可します、でもくれぐれも怪我したりしないように安全の注意してくださいね」
「「「やったぁっ(よっしゃっ)」」」
少し考えた後、笑顔で頷いた慈に皆の声が揃う。普段は物静かな悠里や美紀も小さくガッツポーズをしているあたり、外に出れない生活に飽きていたのだろう。
こうして、恐らく巡ヶ丘学院設立以来初となる校舎内での体育祭の開催が決定された。
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そして数日が経過して体育祭当日、机と椅子を片付けて広くなった食堂には学園生活部のメンバーが勢ぞろいしていた。
「それじゃ第1回学園生活部体育祭を始めるよ!」
「異議あり」
体操着の由紀が開会を宣言したところで、唐突に凪原から待ったがかかった。相も変わらずTシャツにカーゴパンツという格好に仏頂面を浮かべている。
「どうしたんだよナギ?」
「何か変なところでもあったかしら?」
「いや、どうもこうもないだろ」
言いながら、壁に張られている『プログラム』と書かれた模造紙を指さす。紙面には今日のスケジュールなどが並んでいたが、その中の『チーム分け』という項目が凪原の不満の種だった。
紅組白組に分かれているのは対抗戦にした方が盛り上がるので異論はない。問題なのはその組み分けの内容である。
紅組:由紀、悠里、胡桃、美紀、圭、
白組:凪原
(※慈は審判役のため不参加)
「明らかにおかしいだろ」
人数比実に1対6という圧倒的な差に文句を言う凪原だったが、言われた由紀達はあまりピンときていないようで中には首をかしげている者もいる。
「いやだってナギさんだし…」
「運動能力はヘンタイ級だし…」
「俺そんな認識なのっ⁉」
確かに体を動かすことにかけては得意な方だと自負しているが、まさかヘンタイと称されるレベルだとは思ってもみなかった。大げさにショックを受けて見せる凪原に悠里が肩をすくめながら口を開く。
「ヘンタイとまでは言わないけど凪原さんホントに運動能力が高いんだもの、これぐらいのハンデはもらわないと勝負にならないわ」
「言いたいことは分かるが、とはいえだなぁ…」
「なんか納得いかない」という表情の凪原に次に声を掛けたのは胡桃だ。挑発するかのようにニヤッと笑って言う。
「なんだよナギ、もしかして自信ないのか~?」
「なわけないだろ、自信なんぞありまくりだ」
「じゃ~平気でしょ?あっもしかして無理してるならそう言ってくれればあたしがそっちに移ってもいいけど?」
「そうそう、自信ないんだったら最初に言った方がいいって」
胡桃に便乗するように圭も口を挟んできた。どちらの顔にもからかうかのような表情が浮かんでいる。売られた喧嘩、というわけではないが『挑戦されたら受けて当然』というのが行動原理の凪原だ、このような言い方をされれば答えなんて決まっていた。
「ほぉー、そこまで言われたら引き下がれないな。上等だよ、完勝してやるわ」
なにやら乗せられた感が強いがこうなってしまえばもうやるしかない。凪原は心の中でギアを一段上げることにした。
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「「「いただきます!」」」
室内ではあるが「こうゆうのは雰囲気が大事」ということで一同は床に敷いたレジャーシートの上でお弁当(重箱タイプ)を広げていた。1段目には海苔を巻いたおにぎりが、2段目には色とりどりのおかずが並んでいた。さすがに肉類は在庫がないのでから揚げは無かったが、運動会の定番ともいえるタコさんウィンナーは奇跡的に確保できたものを使ってきちんと入れられており、
そんな彼女たちの横で―――
「ゆーにぃ、大丈夫なの?」
「おーいナギ、生きてるか~?」
「……問題ない、ばっちり死んでるぞ」
「死んでんじゃん」
―――凪原は疲労困憊であおむけにぶっ倒れていた。
「はい、水分です」
「…助かった、サンキュー美紀」
スポーツ飲料のボトルを差し出す美紀に礼を言って受け取ると、ボトルをほとんど逆さにするようにしてのどに流し込む。半分近くを一気に空けたところでようやく一心地付けた凪原はようやくお弁当を囲む座へと加わった。おにぎりに手を伸ばしながらぼやく。
「やってやるとは言ったけど、やっぱ辛いな」
「こっちがのせといてなんだけど全種目どころか全レース出てるもんな」
胡桃が言う通り、ただ一人白組となった凪原は午前中に行われたすべての種目のすべてのレースに参加していた。さらに言うと、種目によってはハンデを背負った状態での参加であった。
例えば徒競走(50m)では実に15mも後方からのスタートであり、しかもこのハンデの中にはカーブを2つ挟むという鬼畜仕様である。
他にも玉入れではカゴがなんか小さい(0.7倍)し、竹取物語では竹を模した棒が妙に重い(2倍)といったものもあった。
「それでもいい勝負になるってホントに凪原先輩は運動できるんですね」
「なぎ君は同期の子たちの中でも特に運動神経が良かったですからね」
紅と白で結構いい勝負になっている得点ボードを見ながら言う美紀に、お茶の入った紙コップを両手で持った慈がしみじみと応じる。ため息をつきながら「もし運動部に入ってたら絶対大きな大会とかにいけてたはずなのに」と言っている彼女に凪原がおかずを飲み込んでから口を開く。
「俺ぐらいだったら全国探せば結構いるって、それより日々の生活を楽しみたかったんだよ俺は」
「凪原さんレベルがゴロゴロいたら日本のスポーツはもっと強くなってると思うわよ?」
「そうだよ、さっきは三面記事の大活躍だったじゃん」
「八面六臂よ由紀」
「それだと俺が大事件を起こしてることになるな」
いつも通り絶妙にずれた日本語を話す由紀に訂正を入れる悠里と凪原。その隣では圭と胡桃が首をかしげていた。
「ナギ先輩が大事件を起こす………いつも通りっぽい気がするのは気のせいかな」
「奇遇だな、あたしもそう思う」
「そっちの2人はちょっとそこに正座」
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「おーいナギさん。もう次の競技始めるよ~」
「ちょっと、ヒュー…マジで……、ヒュー、タンマ………」
いまだ元気が有り余っている様子で呼びかける由紀に対し、今度はうつぶせでぶっ倒れている凪原は唯一動く右手をわずかに持ち上げてタイムを要求した。
その疲労困憊具合たるや今まで見たことが無いレベルであり、初日の雨天ラッシュの比ではなかった。
しかし凪原のこの疲れようも、彼が先ほど参加した競技を考えれば無理のないことである。
まず綱引き、なぜか慈も紅組サイドで参戦して1対7の状態で3本勝負(1回勝ってしまったため3試合やる羽目になった)。
これだけでも割と頭がおかしいが、次のリレーもなかなかのものであった。当然のように1対6であるのだが、冷静に考えて第1走者から第6走者までを同一人物が務めるというのはまともではない。ついでに言えば、1走者の走る距離は廊下を端から端まで往復なのだが徒競走の時と同様のハンデが付いていた。
「既に体力が限界に近い状態でのこのハンデは辛く、危うく
「勝手にモノローグを言って記憶を捏造するな。実際抜かれていただろうが(ペシッ)」
「あたっ」
しれっと脳内で結果を書き換えようする凪原の頭に手刀を振り下ろす胡桃。それに返事をしてようやく凪原は再起動をした。彼が立ち上がったのを見て由紀がいよいよ本日最後となる種目を発表した。
「最後の競技は~……二人三脚だよ!」
「脚生やせと⁉」
疲れのためかツッコミが雑になっている凪原である。
「流石におかしいだろ、なんで1人チームに二人三脚やらせようとする⁉」
「なんだ、やる前にどうこう言うなんて男らしくないぞナギ」
「男以前の問題だわこれわ!」
てきとうにからかっている胡桃だったが、次の悠里の言葉に今度は自身が驚くことになる。
「他人事じゃないわよ胡桃、あなたこの競技は白組で凪原さんとペアよ?」
「え、そうなの?あたし聞いてないけど」
「そうよ、私達じゃ凪原さんに合わせられないもの。それに―――」
「それに、なに?」
キョトンと首をかしげる胡桃に、悠里は顔を寄せると小さな声で続きを口にする。
「(私たちが凪原さんに近づいたらあなたが嫉妬しちゃうでしょ?
「なっ、ななな何言ってるんだよりーさんっ⁉あ、あたしとナギはそんなんじゃないし、それにあの時話したのは、」
「あら、やっぱり話してたのね。一向に口を割らなかったから鎌をかけてみたんだけど」
「~~~っ///」
うまいことやりこめられ、胡桃が顔を赤くしてプルプルしているところに背後から声がかけられる。
「2人ともさっきから何話してんだ?」
「うにゃぁっ⁉な、ナギ?」
「ついさっきだけど。うにゃぁってお前、猫かよ」
「そんなにはいいからっ、どっから聞いてた?」
「よく分からないけど二人三脚は胡桃とペアなんだろ?早くやろうぜ」
どうやら大事なところは聞こえていなかったようで胸をなでおろすが、悠里に色々言われたせいでで変に意識してしまう。さらに、二人三脚ということで足同士を縛ると否が応でも体が密着することになる。
胡桃は自分の心音が凪原に聞こえてしまわないかが心配で、ルール説明をする慈の言葉が右から左の状態だった。
「んじゃ
「う、うん…。分かった」
「大丈夫か胡桃?なんかあったか?」
「だ、大丈夫だからこっち見んなっ!」
「理不尽」
凪原の呼びかけも耳に届かないまま、スタートの時間になった。相手は由紀、
「ナギさん胡桃ちゃん、勝負だよっ」
「絶対勝つの~」
「おう、こっちも負けないからぞ。な、くるみ?」
「あ、ああ」(やばい、ほとんど聞いてなかった、どっち足からだっけ?右…確か右足からって言ってた気がする。うん、きっと
かくして、凪原と胡桃はスタートの合図とともに盛大に転倒することとなった。
「――っ!」
思わず目を閉じる胡桃だったが、いくら待っても衝撃が来ない。恐る恐る薄目を開けてみれば、予想外の光景が視界に広がっていた。
「いったぁー…あぁ胡桃、怪我無いか?」
倒れ込むはずだった胡桃の体と床の間に、先んじて凪原が割り込んでクッションとなっていた。無理に体をひねったせいで仰向けになり、胡桃と超至近距離で顔を合わせるというおまけ付きで。
「………(パクパク)」
「やっぱ先からなんか変だぞ。疲れてるとかなんだったら無理しないで休んだ方がいいと思うけど?」
凪原が声を掛けたところで、ようやく胡桃の口が彼女の意思通りに動くようになった。
「ナギの痴漢!」
「その理屈はおかしいっ!」
凪原もさすがにいわれのない罪をかぶる気は無いようで抗議の声を上げる。
「人聞き悪いこと言うな、倒れて怪我しないように助けただけだろうがっ」
「それは嬉しいけど他にやり方あったろ⁉近づきすぎだっ」
「いやどっちかっつうと近づいてきたの胡桃の方だからな⁉」
倒れ込んだ体勢そのままに言い合いになる2人だったが、その頭上から呆れた声が掛けられる。
「はいそこまでよ2人とも、ほんと仲がいいんだから」
「それだけ言い合ってるのに体はくっつけたままだもんね~」
圭に笑いながら指摘されて2人は慌てて体を起こすと距離を取った。ただしその距離はせいぜい1歩分といったころで、一般的にはまだ十分に近いと言える。
それでもお互いに顔を背けている様子がおかしくて再び笑い声をあげてている圭に代わって、今度が美紀がお得意のジト目になりながら口を開く。
「お2人ともすっかり忘れてるみたいだから言いますけど、由紀先輩達はもうゴールしましたよ?」
「「あっ」」
慌てて振り返ってみれば、廊下の向こうでゴールした由紀と
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「それでは負けちゃったナギさんと胡桃ちゃんの2人には罰ゲームで―す」
「待った由紀!あたしは白組じゃないだろ⁉」
「ふっふっふ、最後が白組だったならそれはもう白組なんだよ」
「どういう理屈だよっ」
謎理論を披露する由紀に食って掛かる胡桃だったが、いつの世においても敗者に拒否権というものはない。それを分かっている凪原は悟ったような表情で胡桃の肩に手を置く。
「あきらめろ胡桃、敗者は勝者に従うしかないんだ」
「その敗者じゃないと思うって言ってるんだけど⁉」
とはいえ胡桃がどうこう言ったところで
「それじゃ罰ゲームの内容なんだけど、」
「も~なんだってこい」
「お手柔らかに頼むぞ」
「えーっとね、私ジュースが飲みたいかな」
「「へ?」」
完全に想定外に言葉に何が出てくるかと身構えていた凪原と胡桃の声がきれいに揃う。
「それとねー、ポテチでしょ、チョコでしょ、あとは~」
「るーは絵本読みたいの~」
「あたしはマンガかな」
「すいません、私も読みたい本が」
「ティッシュとトイレットペーパーが少し心もとないのよね」
「待て待て待て、待ってくれ」
由紀の言葉を皮切りに次々と口から出てくる想定外の要求に堪らず凪原が口を挟む。胡桃は内容がまだ理解できないのか目を白黒させている。
皆から言われたものをまとめると、買い物メモのようなものが出来上がってきた。
「ちょっと待ってくれよ、それって要するに?」
「うんっ、
「やっぱそうか~」
このゾンビが支配する世界でおつかい、通常ならば罰ゲームの域を通り越していそうなものだが、凪原たち2人にとっては特になんということもないものだ。
言われたものは全てこれまで行ったことのある近場で揃うものであるし、もともと訓練として定期的に遠征には出ているのだ。
要するに、罰ゲームとはいっても普段と何も変わらないのだ。
「なんだ~、心配して損した」
「俺も。ってか最後俺と胡桃がペアになって負けて終わりってうまくまとまりすぎだろこれ。りーさん筋書き立ててたな?」
安心してため息をつく胡桃の横で、凪原は悠里の思惑に気付いた。
「あら、終わった後にとやかく言うのはあなたらしくないわよ?」
「そりゃごもっとも」
「勝てば官軍よ」そう言ってほほ笑む悠里に凪原は苦笑しながら「降参」と両手を上げてみせた。
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「あ、あの~、私はビールが欲しいかな~、なんて」
「今回めぐねえ関係ないだろ!
…………………………………………どの銘柄?」
「さすがなぎ君です!」
以上、体育祭編でした~
元のプロット上では、本編内の9話と10話の間にいれる予定だったんですが1章10話程度のつもりでやるとちょっと多くなってしまううえ本編の進行に無くても問題ない話だったので閑話という形にしました。
いくら体力オバケの凪原でも、1対6で休憩なしの全レース出場ならそりゃグロッキーにもなるよ。(それでも最後二人三脚で勝っていれば総合ポイントでギリギリ勝利できた模様)明日は筋肉痛になることは確定的に明らか、
いつゾンビが来るか分からない状態で疲れ切ってしまうのは危険でもありますが、それだけ製作したバリケードに自信があるということだったりします。
罰ゲームはお使い
本文中には書いていませんが、ホームセンター遠征後に凪原と胡桃は訓練がてら晴れ間を見計らって物資調達に出かけています。なので罰というほどのものではないし、むしろ2人になれる時間ができるので微妙にご褒美だったり……
さて、次からは第4章ですがちょっと休憩したりプロットの練り直しをしたいので来週の更新はお休みさせていただきます。
ちょっとしたお知らせ~新連載始めました~
『2人デュノア』(原作:インフィニット・ストラトス)
↓↓↓URL
https://syosetu.org/novel/224620/
こちらは不定期更新となる予定ですが良かったら読んでやってください