学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

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章末恒例の閑話回、今回はハレの日(4-10)の幕間的なお話です。

ただし、今回は本編とつながりがあるような無いような、微妙な位置づけとなっています。


閑話:祭噺~マツリバナシ~

 太陽が完全に沈み窓の外が暗くなっても、食堂に灯された提灯の火は消えることは無い。それどころか流れる祭囃子の音と合わさってますます幻想的な雰囲気を醸し出し始めている。

 

 そんな、普段の蛍光灯とは違う温かい光の下で―――

 

ジュジュ~

 

―――凪原は鉄板と向かい合っていた。

 

 先ほど着替えた紺色の浴衣の上からたすき掛けを施した彼の両手には焼ヘラが握られ、その視線は鉄板上の具材へと向けられている。既に野菜と麺が鉄板全体に広げられ、その周りではソースがフツフツと沸き立ち特徴的な香りを辺りに漂わせていた。

 そこから一気にソースと具材を混ぜ合わせると台の下から取り出したプラ製のクリアパックに取り分け、青のりを振り掛けて隅っこに紅しょうがを詰めたら、最後に輪ゴムで蓋を止めてその間に割り箸を挟み込む。

 

 どこに出しても恥ずかしくない、まごうことなき焼きそばであった。

 

 同じものをさらに2つ作りたすきを解いた凪原は、両手にパックを持つと近くのテーブルへと移動する。

 

「はいよ~焼きそばお待ち」

「ありがとうございますなぎ君」

「お疲れ様」

 

 そう言いながらパックを差し出せば、座って待っていた慈と悠里がそれぞれお礼を言いながら受け取った。凪原自身も席につき、自分の分のパックを開いて食べ始める。

 

「うーん、70点ってとこか。やっぱ料理じゃ2人には敵わないな」

 

 一口目を飲み込んでから自己採点、ソースの味や香ばしさを麺と具材に絡ませるところまでは成功していたがそこまでである。全体としてみればその味は普段料理担当の慈や悠里には及ばない。

 以前ネットで見かけたコツを試してみたが、小手先の技術では地力の差は埋まらないということなのだろう。

 

「そんなことないわよ?ソースの香りもしっかりしてておいしいわ」

「そうですよ、前にお祭りで食べたのと同じ味です」

 

 2人はそんなことないと言ってくれるが、それは恐らく雰囲気によるものも多く含まれているのだろう。祭屋台で売られている粉モノや海の家で食べるカレーなど、状況にマッチした食べ物というのは実際の味よりも何倍もおいしく感じられるのだ。

 とはいえ、おいしいと言われて悪い気がしないのもまた事実。わざわざ謙遜する必要もないので凪原は賛辞をそのまま受け取ることにした。

 

「―――それにしても、自分で好きに調理して食べる屋台っていうのも新しいわね」

「人数が足りないからな、こればっかりは仕方ないさ」

「ああ、別に悪い意味で言ったわけじゃないわよ」

 

 悠里のふとした呟きにやや言い訳がましく答える凪原。実際屋台などの物は準備できたとしてもここには8人しかいないのだ、流石に店番などを用意することはできない。そんな気持ちを込めた言葉は、慌てたような悠里にすぐに否定される。

 

「お客さん役だけじゃなくてお店役までできるんだもの、きっと普通のお祭りよりも面白いと思うってことよ」

 

 「ほら、例えばあれとか」と言って悠里が指さした先では、カルメ焼きの屋台のところにいる胡桃と瑠優(るーちゃん)の姿があった。

 カルメ焼きは材料はだけ見れば水と砂糖に重曹、と簡単である。しかし、重曹を入れてかき混ぜるとすぐに膨らんで固まっていく様子は見ていてなかなか楽しいものがあった。

 現に自分達の手に持ったお玉の中で液体が膨らんでいくのを見つめる2人は歓声を上げており、ただ出来上がったものを買うよりも楽しんでいるように見えた。

 

「ね?」

「確かに、あれだけ喜んでくれたら準備したかいがあるってもんだ」

「そうでしょ。こんな状況だもの、楽しいことは多い方がいいわ」

 

 そう言って微笑む悠里に凪原も笑顔で返す。

 日々の生活にそれほど不自由はないとはいえそれはこの学校内に限っての話。一度外に目を向ければ、世界はまさに滅びようとしている。

 そんな絶望が支配している世界で生きていくためには楽しむということは本当に重要であり、日々の暮らしにおける娯楽やイベントの重要性は以前よりも増しているのだ。

 

 しかし、何事にも例外はある。

 

「ああそうだな。……まあ、そのイベント関係なく楽しめる人もいるみたいだけど」

「……ええほんと、めぐねえがここまでお酒が好きだなんて前は全然想像できなかったわ」

 

 呆れを多分に含んだ視線の先では満面の笑みで幸せそうにビールを飲んでいた。

 彼女に限って言えばビールさえあればどうにかなるのではないか、と2人には思えてならない。

 

「? どうしたんですか、なぎ君も悠里さんも。私の顔に何かついてます?」

「いいや別に?」

「何もついてないですよ」

 

 実際には鼻の頭に青のりが付いているが、素直に教えるのも何となく癪なので凪原達は黙っていることにした。後で瑠優(るーちゃん)あたりに指摘されてあたふたすればいい。

 

 

 

====================

 

 

 

「あ~~~~っ!!!」

((ビクッ))「「あっヤベ」」

 

 突然響いた由紀の大声に思わず肩を跳ねさせた凪原と胡桃の声が揃う。

 並んで型抜き勝負をしていた2人の手元では、完成一歩手前だった型に無残に割れた姿を晒していた。

 

「おい由紀っ、せっかくもうすぐ型抜きができるとこだったのに!」

「うっごみん―――ってそれどころじゃないよっ、見てよこれ!」

 

 胡桃の文句にいったんは謝ったが、それでも興奮は冷めなかった由紀が指さすのは射的の屋台、の景品台、の『大当たり』と書かれたライター、その裏側である。

 由紀は先ほどからそのライターを落とさんと幾度もコルク弾を撃ち込んでいたのが、ライターは台から落ちるどころか倒れもせずに堂々と屹立していた。

 

 彼女の言葉に釣られ、散らばっていたメンバーが射的の屋台へと集まっていく。ただし凪原だけは彼女が何を発見したのか分かっているため、一人のんびりと型抜きの隣の屋台で焼いていたとうもろこしにハケを使って醤油を縫る作業を始める。

 火元へと垂れた醤油が小気味よい音と共に香ばしい香りを振りまく。凪原はこの醤油が焦げるにおいが大好きだった。そしてこのにおいを最も楽しめるが焼きとうもろこしだと個人的には思っており、わざわざとうもろこし畑を探してまで今回用意していたのだった。

 

 そんなわけで上機嫌な凪原は置いておいて、射的の屋台に集まった一同が由紀が指す先へと視線を向けると、大当りと書かれたライターの後ろに何かが積み上げられていた。

 茶色に暉く小さい金属製の円板、これ1枚あれば公衆電話での短い通話やそれなりの時間楽しめるガムが買えるなど、以前はそこそこ使い道があったが今となってはおはじきか放り投げた音でゾンビの気を引くぐらいにしか役に立たないそれは、名を10円硬貨という。

 

 1枚1枚であればそれほど重くないものの、10枚20枚と積み上げられれば支えとして十分な重量を持つ。しかもご丁寧に筒状にテープでまとめられ、ライターの真後ろに配置されていたのだ。

 これまで由紀が何度チャレンジしても落とせなかったのも納得である。

 

「何回当てても落ちるどころか倒れもしないからおかしいと思って見てみたらこんなのが置いてあったんだよ!ひどいと思わない!?」

 

 プンプンという音が聞こえそうな様子の由紀。

 

「は~、さっきやってどーも落ちないと思ったらこんな細工がしてあったなんてね」

「置く位置もうまいですね。正面からだと絶妙に見えない場所だから横から見ないと気づけないし、誰がこんなものを?」

「誰がも何も、容疑者なんて1人しかいないだろ」

 

 そして「やられた」といった感じの圭に、わざと難しそうな顔で状況を分析する美紀とそれに返事をする胡桃。

 もちろん他のメンバーもこれが誰の仕業なのかなどはしっかり分かっており、彼女たちの視線がメンバー唯一の男子へと向けられるのに時間は掛からなかった。

 

「おー、なんだもうバレちゃったか」

 

 そして当然ながら、視線を向けられた凪原も自分がやったとバレることなど百も承知である。

 ごまかそうとすらせずにあっさり自供した。

 

「バレちゃったか、じゃないよナギさん!こんなのインチキだよ、ズルだよ、チートだよっ」

「ばっか、祭の大当たりは落とせないからこそ面白いんじゃねぇか」

 

 由紀の批判にのうのうと返す凪原。

 

「いや~、いくら何でもこれはほぼ詐欺な気がするんだけど」

「とは言ってもな、これ俺も実際にやられたことだし。結構よくあることだと思うぞ?」

「そうなの?」

「ああ、皆だって祭の射的で大当たりとかが落ちたとこって見たことないだろ? そもそも祭屋台なんて雰囲気に金を払ってるってとこもあるから多少ズルしてよりお金を落とさせようとしてもあまり咎められないんだろうし」

 

 首をかしげる圭(達)に予想を交えつつ答える凪原。

 実際のところ、屋台側としてもそうパカパカ大当たりを落とされたら大損害である。ならばあの手この手で落とさせないようにするのが人の性というものだ。仮に凪原が店主でもそうする。

 彼が直接体験したのは今回のようにストッパーを置くだけだが、以前聞いた話では的そのものを重くしたり、景品台にテープで張り付けて倒れはしても絶対に落ちないようされていることもあるらしい。

 さすがに最後のは悪質であるが、前者2つでもそうそう落とせないことに変わりはない。平等に料金は搾り取られる。

 

「ってことは凪先輩も無駄遣いしちゃったの?」

「おう、生徒会の仲間と勝負してたから引くに引けなくなってな。3千円スッた」

「おおぅ……、そりゃ災難だったね」

「いや、そんなにつぎ込む前におとなしくやめとけよ」

 

 凪原の経験に対する反応は同情的なものと呆れたようなものに分かれた。

 後者の筆頭は悠里はである。しっかり者の彼女に言わせれば、雰囲気を楽しむものにそれだけお金を使うのはバカらしいということなのだろう。

 

 そして前者の筆頭は慈だった。しかし彼女が同情しているのは凪原に対してではなく、その時の射的屋台の店主だった。

 もちろんズルをするのは良くないことだが、店主が凪原達から派手にやり返されたのを知っていたからである。

 

「ちなみにその時なぎ君たちはどうしたんでしたっけ?」

同期(31期)の仲間に頼んで見た目はそっくりで威力が20倍の強化型コルク銃を作ってもらって、これ見よがしに並んでた高額景品を根こそぎ手に入れてやったね。あの時の店主の顔はなかなか見ものだった」

 

 何とも彼等(31期)らしい回答に「あ~…」、となる一同。当時を知らない美紀や圭、瑠優(るーちゃん)までも同じような顔をしているあたり、いかに凪原が普段から規格外の片鱗を見せているかが分かるというものだ。

 そして「んでその時作ってもらったのがコレ」と言いながら看板代わりに飾っていたコルク銃を手に取る凪原。本当に見た目は台の上に置かれたものと違った箇所は見受けられない。作った人間の技術の高さを感じさせられる。

 もっとも感心はする気はさっぱり湧いてこないのだが。

 

 その後凪原に改造コルク銃を手渡された由紀は見事大当りのライターを硬貨の束ごと撃ち落とし、目を付けていた巨大ぬいぐるみを手にすることができた。

 

「「もふぎゅ~~」」

 

 身の丈の程もあるひよこのようななぬいぐるみに思いっきり抱き着く由紀と瑠優(るーちゃん)の姿は、見ていた凪原達をとてもほっこりさせた。

 

 

 

====================

 

 

 

「胡桃、ぼちぼちいい頃合いじゃないか?」

「あーそろそろ良さそうだな」

 

 凪原がそう声を掛ければ胡桃が思い出したように顔を上げて頷く。

 それだけで2人の間では通じたものの、当然周りには何だか分からない。凪原のことだから何か企んでいると予想はできるが内容についてはさっぱりである。

 

「なになに、凪先輩なんかやんの?」

「ビンゴ大会とか?」

「とりあえず由紀の想像したことではないとだけ言っておく。ってかビンゴ大会ってやらない場所の方が多いらしいぞ?」

「そうなの!?」

 

 驚愕の表情を浮かべる由紀を放置して凪原は皆に屋上に上がるように伝えると、自分は準備があると言って1人自室にしている教室へと向かっていった。

 

 

「じゃあみんな、あっちの空に注目!」

「違うだろ」

 

 校舎の屋上で自信満々に一方の空を示した胡桃の頭に凪原が軽いチョップを落とす。

 

「いてっ ってあれ間違ってた?」

「真逆だバカ、というか相変わらず方向感覚無いな。あれだけ遠征出てるんだからそろそろ実についてもいいと思うんだが」

「うっ… だって外に出る時はいつもナギが一緒だし、それで安心しちゃうからさ」

 

 呆れたように苦言を呈す凪原だったが、そっぽを向きながらもそんなことを言う胡桃に動きが止まる。

 

「あ~えっと、そりゃありがt「は~い、イチャつくのは2人だけの時にしてね」 お、おう」

 

 甘い空気になりかけたところで圭が割り込んで軌道修正、―――したのはいいのだが数秒後に後悔することになった。

 

「っと悪い悪い。 それじゃあ皆さん、こちらをご覧ください」

 

 そう言いながら凪原が浴衣の袖の中から取り出したのは手のひらサイズの何の変哲もない小箱だった

………いかにもなアンテナと、どくろが描かれた真っ赤なボタンが付いていなければ。

 

 そんな一昔のアニメの中ぐらいでしかお目にかかれない自爆スイッチ的なソレを全員が正しく認識し、かつ誰も反応を示すには至らない絶妙のタイミングで、凪原は非常にイイ笑顔でスイッチを押し込む。

 

 そのまま数秒が経過して誰かが口を開きかけたところで、凪原が彼女達の背後を指し示す。振り返ったその先で―――

 

 

―――夜空にパッと大輪の花が咲いた。

 

 

 古き良き日本の夏の風物詩、花火である。

 

「「「わぁー…」」」

 

 由紀達が見上げる先で金に赤、黄色や緑の花火が順に打ち上げられ、遅れて爆発音も届き始める。目算でそれなりに距離があるにもかかわらず音が聞こえるのは他の音源が一切無いからなのだらう。

 

 そしてに日本には元々刹那的な、限られた時間にしか見ることのできない美を尊く思う習慣がある。例を挙げるとすれば桜吹雪などが典型的なものだろう。

 地球全体で見ても珍しい明確な四季を持つ気候で、日々移り行く季節を隣で感じながら暮らしてきた年月がそういった文化・情緒を育んだのかもしれない。

 

 もちろん、常に変わることなく美しくあるものを愛でるという考えや文化も理解できる。しかし、どちらの分化が優れているかというところは置いておいて、学園生活部の面々は全員が刹那的な美を尊ぶ文化の中で生まれ育ってきた。

 だからこそ、次々に咲き誇り次の瞬間にはあえなく消えていく花火は彼等の心に強く訴えかてくるものがあった。皆、最初に声を上げた後は食い入るように夜空を見上げていた。

 

 

 ところで、なぜ凪原達が花火大会を開けたのかというと、実は全くの偶然だった。

 焼きとうもろこしを食べたいがためにとうもろこし畑を求め、郊外を車ディーラーから新しく調達したバンで走り回っていた時に見つけた開けた場所にポツンと建っているコンクリート製の建物に入ってみたら花火師の工房だったのである。

 

 周囲にゾンビの姿はなかったものの一応警戒しつつ踏み込んだ2人の前には大量の完成した花火玉が並んでいた。

 パンデミック当時は花火の時期には早かったが、既に夏に向けた準備期間には入っていたし海外への輸出もあるため工房では1年を通して花火を作っているので倉庫は一杯だった。「そういや日本の花火って中東とか東南アジアで人気なんだったな」とは硬直から解けた後の凪原の言である。

 

 小さめの物が2,3個あればゾンビの誘引に使えると軽い気持ちで覗いた2人だが、山積みになっている花火を見て凪原のイベント魂に火が付いた。

 

 すなわち花火大会計画である。

 

 生徒会時代ならば書類を準備して学長の許可を得てから教師会議を通過させ、業者への連絡に予算の管理と場所と資材の確保、とイベント1つやるにも大量の準備が必要なので精々月に2回が限度だった(←十分におかしい)。

 しかし今は自分たちの安全さえ確保できればその他のことはすべてスルーできる。やらない理由は思いつかなかった。

 

 なお、胡桃からは危ないという意見も出たが、いつものように説明して納得してもらった(丸め込んだ)

 

 そもそも、花火の打ち上げというのは多くの人が想像するほど難しいものではない。

 昔と違って着火は機械により制御可能だし、花火会場まで出向いて打ち上げを行うため持ち運びも比較的容易なのだ。機械の操作も少し確認すれば素人でも十分に扱うことができる。

 ではなぜ花火師が専門職と言われていたのかというと、ひとえに安全性の確保が難しいことに加え事故が起きた場合の被害が非常に大きいからである。

 

 時折子供が車を運転してしまったというニュースがあるが、これもそれと近いものがある。動かすだけならゲームで運転しただけの小さな子供でも意外とできてしまうのだ。しかし幼い子供では周囲の安全に間では気を配れないし、何より何かあった時の対応ができない。だからこそ免許という制度で制限が掛けられているのだ。花火師についても同じであり、火薬取締法という制限が掛けられているのである。

 

 とはいえゾンビのせいで人類が大幅に数を減らした現在、この安全性の確保はかなり簡単になっている。周囲数百メートルどころか数キロ(下手すれば数十キロ)以内に自分たち以外の人間がいないとなれば花火を勝手に打ち上げたところで誰に迷惑が掛かるということもない。

 

 懸念を上げるとすれば打ち上げの音に釣られてゾンビが引き寄せられることだが、打ち上げ場所は巡ヶ丘学院から数キロ離れた地点であるうえに間に川を挟んでいる。自分たちがいる場所を悟られる可能性は低いだろう。

 

 よって凪原と胡桃が準備したのは倉庫に置かれていた花火のうち、既に打ち上げ用の筒に入れられていたものと発射用の機器を持ち出してあたりが開けた場所に設置することと、機器を遠隔で操作するための装置を作ることくらいだった。

 装置作りとはいっても普段使っている無線を少し弄っただけなので、ラジコンを自分で組むのと大差はない。この程度の作業ならば、物理的な機構が専門で電子工作はどちらかといえば不得手な凪原でも行うことができた。

 

 もちろん準備にはそれなりに苦労する点もあったものの、真っ暗な空に次々と浮かび上がる花火を見上げる仲間達の顔はそれに十分以上に見合うもので、企画者2人は互いに笑みを浮かべると小さく拳を突き合わせた。

 

 

 そして、恐らくは今夏で唯一の花火大会は幕を閉じる。

 振り返ってみれば10分に満たない程の短い間だったが、その時間は見ていたものの記憶に強く焼き付けられた。

 

「さ、これで花火大会はおしまいだ。戻って祭の続きといこうじゃないか」

 

 凪原の言葉を合図にして、一同は口々に花火の感想を言い合いながら校舎の中へと戻っていった。

 

 

 

====================

 

 

 

 凪原達が花火の余韻に浸っているのと同じ時刻、とある建物の屋上には彼等と同じように空を見上げている女性の姿があった。

 

「は~、こんな風に花火を見上げるなんていつ以来だろうな~」

 

 こぼれたその言葉に、そうなの?、と言うように同居人が首を傾げる。

 

「そうそう、大学の頃は一緒に遊びに行くような子はいなかったし、高校の時は部活でそれどころじゃなかったからね。それより前は、うーん……覚えてないや」

 

 あっけらかんとした調子でなかなか反応に困ることを言う女性に同居人は何も答えない。その様子に笑いながら「気にしない気にしない」と声を掛けた彼女は、再び静かになった空へと視線を向ける。

 既にそこには何の変哲もない夜空しかなかったが、彼女の目には先ほど確かに上がった誰かの命のきらめきが確かに焼き付いていた。

 

「にしてもやっぱり私以外にも生きてる人達がいたんだ! それが分かったらこれからの()()()()()にもますます身が入るってもんだね!」

「ワオンッ」

 

 無意識のうちに曇りのない笑顔を浮かべていた彼女がそう叫べば、それに同居人も()()()()()()()()()元気よく答える。

 

「さーって、それと決まったら今日はもう寝よっか。 やっぱり良い放送のためには良い睡眠が必要だよね」

 

 一つ伸びをしてそう呟いた女性は同居人を抱え上げると潜水艦の水密扉を思わせるハッチへと歩み寄り、梯子を伝って室内へと姿を消した。

 

 

 

 

 






本編で書きたかったけど文字数の関係上書けなかった祭ネタを詰め込んだお話でした。今年は夏祭りとかは軒並み中止になってますから、今回の話で多少なりとも祭り気分を味わってもらえたら幸いです。


焼きそば
実は筆者はそこまで好きじゃなかったりする。少なくとも日常の中で自分で選んで食べることは無い。それでも祭の中でだとすごくおいしく感じるから不思議。

カルメ焼き・型抜き
どちらも屋台を実際に見たことは無いけど地域によってはまだまだ現役らしい。カルメ焼きは筆者が小学校の時クラブ活動で作って食べた、すごくおいしかったです(小学生並感)。型抜きはつい最近やる機会があったけど簡単な奴なら意外とできる。

射的
大当たりを落とせないことに定評のある例のアレ、本文中に使われた10円玉の支えは筆者が実際に見たことがある。ほんとに正面からは見えないよう絶妙な位置に置いてあった。

花火
「夏と言えば?」という質問をしたら3つ目以内くらいには入ってくる(と思われる)夏の定番。手持ち花火でも良かったといえばよかったんですがせっかくの二次創作なんだからということで景気よく打ち上げ花火にしました。
打ち上げの難易度については本文中に書いた通り、作業自体はぶっちゃけそこまで難しくない(らしい)です。安全確保が非常に難しいからこそ現代では規制が厳しいんですよね。あと火薬を扱うので犯罪云々の話もありますが作中の状況では些細な問題です。
梅雨の間放置されてたら湿気てるんじゃね?という疑問は聞きません、大丈夫だったんです。

女性と同居人
ラジオ放送、ハッチ、しっぽ、とくれば親愛なる読者様方ならば誰のことかはお分かりいただけると思います。今考えている本編のプロット的にこの話はなくても一応成り立つため、閑話に入れることにしました。(裏設定的に入れておいた方が筋が通りやすくなるので)


というわけで4章はこれにて完全に終了、次章からはまた物語が大きく動き始める予定です。
今のところ次週はお休みの予定ですが、筆が進めば更新するかもしれません。

それでは、これからも本作品をどうぞよろしくお願いいたします。高評価、お気に入り登録いただけますととても嬉しいです。

それではまた次回!
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