学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

60 / 108
書けたので投稿します。
記念すべき50話目、そして第5章スタートですよ~






第5章:転換期編
5-1:新しい日常


 とある日、とあるマンションにて、既に住む人などいなくなったその建物の屋上には少女と青年の2つの人影があった。

 2人の頭上には外壁と同じ色のタープが低めに張られており、同じくらいの高さやより高所からでも一見しただけでは分からないようになっている。その布の下で少女は望遠鏡を覗き込み、青年は小型のビデオカメラの確認していた。

 

 2人の口元をよく見ると順番に動いてはいるものの一方が口を閉じてからもう一方口を開くまでに間があり、そして口を開いている時間は短い。どうやら1単語ずつしか話していないようだった。

 

「……プラスチック」

「クリップ」

「………プライド」

「ドリップ」

「えー…ぷ、ぷ…… そうだっプール!」

「ループ」

 

「だぁーっもうっ、またぷかよ!」

 

 度重なる()にとうとう少女、胡桃が爆発した。覗き込んでいた望遠鏡から顔を離し傍らにいる青年、凪原へと怒りの声を向ける。

 しかし当の凪原は態度を崩すことはなく、カメラに付属したモニターから顔を上げると自信ありげな表情を浮かべた。

 

「どうだ胡桃。俺が前にやられて惨敗を喫したしりとりにおける悪魔の方法、ぷ責めは?」

「どうだ、じゃない! きつすぎて下手すりゃ喧嘩になるぞあんなの、ってかなんで生徒会でそんなことやってたんだよ!?」

「仕事が終わった後の夕飯を賭けてちょくちょくやってたんだ。あいつら『会長なんだから奢れ』とか言いやがって、奢って欲しいなら普段もうちょっと殊勝にしろってんだ」

 

 思い出したように文句を吐く凪原だったがその口調に悪い感情はのっておらず、むしろ懐かしむような響きがあった。

 

「へー」

 

 しかし、返事をする胡桃の声にはなんの感情も感じられなかった。

 

「へーって…、もうちょっと同情するとかなんかないのかよ?」

「別に、そもそもナギ達がそんな遅くまで働かなければイベントが減って平和な1年になったんだろうし」

 

 入学式でいきなりバズーカクラッカーの集中砲火を喰らい紙テープ塗れになった衝撃は今でも忘れられないようだ。

 

 

「なんだかんだで楽しんでただろうに」

「それはそれ。――んで、なんか写ってた?」

 

 微妙に図星な指摘を切って捨て、閑話休題とばかりに凪原に問いかける胡桃。

 

「いや何にも、車両はもちろん明かりの一つも何もなし」

「やっぱりそうなんだ、今見てても昨日と全く変わってないしね」

 

 2人が見下ろす先にあるのは私立巡ヶ丘学院、パンデミック以降数カ月にわたり凪原達学園生活部の家となって()()場所である。

 ヘリコプターが墜落してきたことで現在は第2拠点として準備をしていたレゾナンス巡ヶ丘に居を構えている学園生活部だが、戦闘組の2人は墜落の翌日から日中はこの場所から学院の監視を行っていた。

 機体や破損した車両から立ち上っていた炎は墜落から2日目には鎮火して細々と上がっていた煙も1週間が経つ頃には見られなくなった。機体のそのものは校舎の裏側にありこの場所からは見えないので、現在はすすで少し黒っぽくなった校舎が見えるだけである。

 

 ではなぜ鎮火したにもかかわらず2人は監視を続けているのか。

 端的に言えば、新たな来訪者が来ないかを監視するためである。

 

「全然来ないね、あのヘリコプターの仲間」

「う~ん、来るならもう来てもいい頃だと思うんだけどなぁ」

 

 まさかあのヘリコプターが実は自家用のもので、搭乗者の一存だけで気の向くままに飛び回っていた。ということなどはあるはずないので、どこかしらの組織に所属した機体であったことは間違いない。となれば墜落の直前に本部へ緊急連絡を入れているはずで、仮に本部が通信が届かない程遠距離だとしても帰投しなければトラブルがあったことは一目瞭然のはずだ。

 となれば捜索隊なりなんなりが派遣されてくるのではないかと踏んだのだが、現在のところそのような存在は影も形もない。

 

「なんで誰も来ないんだと思う?」

「俺に聞くなよ。でもまあ、考えられるとすれば――」

 

 胡桃から聞かれるも、凪原とて軍事の専門家ではないので相手の状況を正確に把握することはできない。せいぜいいくつかの予測を立ててみるくらいだ。

 

「何かの理由で捜索隊の編成、もしくは到着が遅れている。例えば色んなとこにヘリを飛ばしていてうちは優先順位が低いとか、正確な墜落地点が分かってないとかが有力っちゃ有力だろうな。あるいは、ヘリは堕ちるものと割り切って捜索すらしていないか」

「前2つは良いとしても最後のはさすがに無いだろ、ゲームじゃないんだぞ」

「つっても、今は現実がほぼゲームじゃねえか」

 

 ヘリコプター=墜落すると想定されていた、などと設計者が聞けば激怒すること間違いなしな予測を立てる凪原。それに呆れたようにツッコむ胡桃だがわずかに理解できてしまうのが腹立たしい。

 確かに現在の状況はその手のゲームではテンプレといってもいいくらいにゲーム的だ。半年前の自分に言ったら「リアル系のゾンビゲームでも発売されるの?」という反応になったであろうことは想像に難くない。

 

「ま、いくらゲームっぽかろうが現実は現実だからな。学院には俺達で集めた物資がまだまだ残っていて、そこに正体・目的共に不明のよく分からん連中が来る可能性がある以上、監視は続ける必要があるってわけだ」

「別に監視をするのに反対ってわけじゃないよ、単純になんで来ないのか気になっただけ」

「そか」

 

 凪原の言葉に「そうそう」頷く胡桃。

 彼女だって物資を集めるために少なからず苦労をしたのだ、それをいきなりやって来た見ず知らずの相手に勝手に持っていかれるとなれば警戒して当然である。同じように物資を渡すとしても、協力や助けが必要な相手にこちらが判断して物資を渡すのとは全く意味合いが異なる。

 

 つまり、物資に関する話だけでも監視をするには十分な理由なのだ。そこに相手が正体不明で何を目的としてどのような行動をするかが分からない、場合によってはこちらに明確な敵意を向けてくるかもしれないとなれば、逆に監視しない理由を考える方が難しい。

 そしてもし、その正体不明の相手が自分達を害すもしくは害そうとした場合、胡桃は何としても――場合によっては強硬手段に訴えてでも――止めようとするつもりであった。

 

 パンデミック前の自分ならばこのように考えはしなかっただろう。自分達が集めた物資といってももともと所有権が合ったものではないし、それほど必要とするには何か理由があるのではないか、とまずは考えていたと思う。

 しかし今は、たとえどのような事情が相手にあろうとも、自分や仲間達、そして自分が愛し自分を愛してくれる人を守るためならば()()()()()()()(まだ何でもと言えるほどではない)をできるという確信があった。

 

 たとえそれで相手が傷つく、もしくはそれ以上のことになったとしても。

 

 

 だからこそ思うこともある。

 

「でもさ、ならやっぱりM1500(狙撃銃)を持ってくるべきだと思うんだけど」

「またそう言う、意味ないっつーかマイナスだって言ってるだろうに」

 

 そんな胡桃の思いから出た言葉に凪原は諭すように答えた。

 学院に来るのが友好的な人間ではないと信じている胡桃(なお状況的に考えて凪原も同意見である)にとって、こちらから相手に攻撃できる手段がないのは少し心もとないらしい。凪原もその気持ちは分からないではないのだが、頷けない理由があった。

 

「持ってきたとしてもこの距離で動いてる目標に命中させるなんざ、俺と胡桃はもちろん美紀でも無理だ。むしろ発砲炎(マズルフラッシュ)でこっちの場所がバレるだけだって」

「そりゃそうだけど…」

「心配しなくてもこれだけ離れてりゃそうそう見つからんさ」

 

 今彼らがいるマンションと学園との距離はおよそ1キロ、2人ではM1500を使っても全く中てることができない。望遠鏡を使えば監視自体はしっかりできる距離なのだが、それは本職の狙撃手(スナイパー)であれば十分に狙えるということでもある。

 とはいえ凪原はそこまで気にしてはいなかった。

 逆の立場で考えれば分かることだが、そもそも相手には自分達がいるのかどうかすら不明なのだ。そして1キロという距離は本腰を入れて探さなければ見つけられない。それに加えてタープで遮蔽している上に望遠鏡も反射光が相手から見えないよう特殊加工されたレンズが使われている。

 警戒はするに越したことはないが、そこまで神経質になる必要はないだろう。

 

「つーわけで、こっちがいきなり見つかることは考えにくいし、ここまで待っても来ないってなると来るかどうかも疑わしいからな。そんな肩ひじ張らなくても大丈夫だ」

 

 リラックスリラックスと言ってくる凪原が何となく自分を子ども扱いしているような気がして、胡桃は少しイラっとした。しかしそれを指摘しても笑って流されるだけなのは目に見えている。

 何とか意趣返しができないかと考えた胡桃は、何かを思いたようにニヤリと笑った。

 

「さてさて、ビデオの確認も終わったし俺も望遠鏡の方見てみますかね―――って胡桃?」

 

 望遠鏡の前に移動して覗き込んだ凪原の背にポスッという音と共に重みが加わった。体勢的に振り返れないので見ることはできないが、凪原の後ろに座った胡桃が背中を預けてきたのだろう。

 

「リラックスしろって言われたからナギの背中で休ませてもらおうかなって」

「いやあの、そこでくつろがれたら俺動けないんだけど」

「どうせどっちかは監視してなきゃいけないんだからいいじゃん。それじゃ、なんかあったら起こしてね。おやすみ」

「ちょっ」

 

 一方的に言い切るとそれきり胡桃は凪原の声に答えなくなり、1分もしないうちに本当に寝息が聞こえ始めてきた。

 思わずため息をつきそうになった凪原だが、体の揺れで起こしてしまうかもしれないと考えてそれを飲み込む。休めと言ったのは凪原である、ここで起こしてしまうのは何となく負けな気がする。

 

「まったく……」

 

 この貸しはいつか、ではなく午後に返してもらおう。具体的には膝枕を要求することとしよう。

 そう結論を出すと、凪原はおとなしく監視を始めることにした。

 

 

 

====================

 

 

 

 いくら監視の必要性があるとはいっても、1日中監視場所に張り付いているわけではない。というより監視していない時間の方が長く、せいぜい6,7時間程度である。

 墜落からしばらくの間は凪原が泊まり込みで監視していたものの、周囲からの説得もあり現在では自分達がいない間はカメラを設置してその映像を翌日確認するという手法に切り替えられている。

 

 この手法は即応性には欠けるものの、来訪者が来る可能性が墜落当初と比べて低くなったこと。そして学院と今の拠点との間にはそれなりの距離があり、たとえ敵対的な集団が学院に来たとしても直ちに直接的な被害を受けることは無いということから、凪原自身の体調を考えて提案されたものである。

 

 

 というわけで、最近の凪原と胡桃のタイムスケジュールは朝起きたら朝食を摂ってから移動、間に昼食を挟んで10時から5時頃まで監視場所で過ごして拠点に帰ってくるという、ある意味役所勤めの公務員のようなものとなっていた。

 

 そして現在の拠点、レゾナンス巡ヶ丘に戻ってきた凪原達2人を出迎える小さな影が1つ。

 

「ゆーにい、おかえりなさいなの!」

「おう、ただいまるー ――よっと」

 

 飛びついてきた瑠優(るーちゃん)を受け止めてそのまま抱き上げる凪原。外出時は常に携行しているグロックカービンはスリングで吊っているし、その他の装備品もベルト周りのポーチに収納してあるので常に両手はフリーになるようにしていた。

 ちなみに装備品以外の物品はダッフルバックに放り込んであり、じゃんけんで負けた胡桃が担いでいる。

 

「おいおい、あたしには何にもなし?」

「あっ、くーねえもお帰りなさいなの!」

「はいただいま、いい子にしてたか?」

「うんっ、りーねえとめぐねえのお手伝いたくさんしたの」

「おっえらいじゃん」

 

 そんなことを話しながらおしゃれな石畳の上を歩き、3人は敷地内の駐車区画から家屋が建っている区画へと移動する。

 

 レゾナンス巡ヶ丘は敷地内に数軒の家があるが、学園生活部はそのうちの1棟だけを利用している。元高級住宅とはいえ一般的な一軒家なので少々手狭ではあるが、安全性を考えてと何よりみんな一緒の方がいいということで8人全員で暮らしていた。

 なお、その他の家については現在のところ発電機としてのみ活用している。各家にソーラー発電システムがあるので、延長コードを伸ばしてきて家電などの電源はここからとることにしていた。最近は暑い日が続いているので実際に住んでいる家で発電している分はエアコンだけで消費しきってしまうのだ。

 当初は電力喰いのエアコンに悠里が微妙な顔をしていたが、慈の「皆さんの健康の方が大事です、今はお医者さんもいないから具合が悪くなってからじゃ遅いんですよ」という一言にハッとさせられたようで、炎天下の日でも室内は過ごしやすい温度に保たれている。

 

「あ、凪先輩に胡桃先輩じゃん。おかえり~」

 

 ベランダで洗濯物を取り込んでいた圭が手を振りながら声をかけてきたので挨拶を返す。

 

「今日はどうだった?」

「なんもなし、煙も完全に出なくなったし平和なもんだ」

「りょうか~い。 そうだ、今日の夕飯はカレーだよ、さっきりーさんが言ってた」

「マジかっやった久しぶり!」

 

 圭の言葉にガッツポーズをする胡桃。

 好物が出ると聞いて夕飯が待ち切れなそうな彼女に声をかける。

 

「んじゃ胡桃、先にシャワー浴びちゃえよ。俺はここで待ってるから」

「そう?じゃお先に。すぐ出てくるからちょっと待ってて」

「そんな急がなくていいぞ~」

 

 胡桃が入っていった玄関を何となく見つめていると、上からからかい交じりの声が降ってきた。

 

「凪先輩、一緒に浴びなくていいんですか?」

「アホ抜かせ、流石に狭いっつの」

「狭くなきゃいいんだ…。なんかもう全然動じなくなったね、前はヘタレだったのに」

「あん?」

 

 威嚇して圭をベランダから下がらせて約10分ほど、瑠優(るーちゃん)と話しながら待っていると玄関から胡桃が顔を出した。

 

「お待たせナギ、りーさんがもうすぐご飯できるから早く浴びちゃってだってさ」

「あいよ」

 

 バスタオルで頭を拭いている胡桃に返事をし、凪原も瑠優(るーちゃん)を伴って屋内に入る。

 

「あっなぎ君、さっき水筒持ってみたら全然減ってなかったじゃないですかっ。胡桃さんにも言いましたけど最近は暑いんですからちゃんと水分摂らないとダメですよ!」

「ほ~い、明日はちゃんと飲むようにしま~す」

「も~絶対ですからねっ」

 

 途中かけられた声に適当に返事をし、内心で「お母さんか」とツッコミを入れつつ脱衣所へと向かい、衣類を脱いで洗濯機の中へと放り込む。上水道は死んでいるが、井戸から水を汲めるので洗濯機が使える。電力に余裕がないときは手洗いをする時もあるがこの方が楽だ。

 

 

「あ、着替え持ってくんの忘れた」

 

 シャワーの最中に大事なことを思い出して固まる凪原。既に頭から湯をかぶった後なのでさっきまで着ていた服を着なおして取りに行くという手は使えない。

 どうしようか数秒考え、凪原はおもむろに浴室の扉を開けると脱衣所の向こう側に聞こえるように声を張る。

 

「すまん誰か着替え、パンツだけでもいいから持ってきてくれ!」

 

 扉を閉めてしばらく待っているとやがてドタバタと足音が聞こえ、ついで脱衣所の扉が勢いよく開かれた音がして―――

 

「男だからってパンツとか大声で言うなバカ!」

 

―――という声と共に浴室の扉に着替えが投げつけられた。

 

 

 




はい、第5章が始まりました~
現段階では学園生活部の一行は場所を移して第2拠点に居を構えています。避難先があるって大事ですよね。拠点が一か所しかないときと安心感が違うと思います。つーわけで早速今回の解説ターイム


学校の監視
そりゃ正体不明の奴等が来たら後詰めが来るかもしれないって警戒すべき。相手側からすれば貴重(十分数保有していたとしても再生産は恐らく無理)なヘリが堕とされたわけだし、falloutとかだったら討伐隊組まれてもおかしくないレベル。
少なくともしばらくの間はその拠点を放棄して監視してこちらの戦力が十分なら捜索隊が来た時点で叩く、というのが軍事的には正しいのかもしれないですけど、戦力もないし凪原もそこまで非常にはなり切れてないので監視に留めています。

しりとり
ぷ責めしてきた高校の同期絶対に許さない。

レゾナンス巡ヶ丘
第2拠点。一軒だけ使ってるのは万一敷地を囲う壁を越えられた時の防衛がやりやすいためと消費電力を抑えるため(←こっちの方がメイン)。ちなみに凪原達がいない間の防衛は遠くの奴は美紀M1500で、近くの奴は由紀のクロスボウか圭の改造さすまたで担当しています。


第5章は今までにも増してドタバタ騒ぎが続くと思います。
新キャラ4名(原作キャラ2名、オリキャラ2名)が登場予定ですし場所も色々変わります。とはいっても肝心のストーリーがそれに振り回されないよう頑張っていきますのでどうかこれからも応援の方よろしくお願いします。(でも今回は休まないで書いたからどっかでプロット練るためにどこかで1週休むかも……)

高評価・お気に入りしてもらえると嬉しいです。

それではまた次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。