考察、というよりはつなぎ回的なお話。
「まあ凪原先輩の
「すーぐまた俺を変人扱いしやがって、銃ってだけで無条件に危ないって思うのは問題だぞ?アメリカとかじゃ銃の安全な扱い方とかを子供の頃から教える家庭もあるってのに」
「いつからここはアメリカになったのさ」
美紀の言葉に抗議しようとした凪原だったが圭の当然なツッコミを受けると黙り込んだ。その様子に胡桃がフォローを入れようとしたものの、結果的に被害を拡大させることとなってしまう。
「まあまあ、今の時代的にはあたしもそういう教育はアリだと思うぜ?」
「だそうよ?凪原さんに将来子供ができたら教えてあげたらいいんじゃないかしら。―――幸い奥さんも理解ある人になりそうだし」
「なぁっ!?」
付け加えられた一言は、胡桃の顔を一瞬で茹で上げ、次いで凪原の動きを一瞬止めた後で耳を赤くさせ、最後に周りのメンバーの頬をわずかに紅潮させるという大戦果を挙げた。
「お、お、おくっ…」
「ったく、りーさんはときどき爆弾投げ込んでくるから油断できないんだよな」
「あら、私は皆が思ってることを言っただけよ?」
壊れたラジオのようになってしまった胡桃に代わって苦言を呈す凪原に悠里は素知らぬ顔で返した。
「さて、仕切りなおそう」
数分が経ち、各自水分補給などをして落ち着いたところで凪原が切り出した。まだ若干いつもより早口な気もするが、あえてそこを指摘する人はいない。
「さっき圭が開けたケースの中身についてだけど、銃に関してはひとまず置いておくことにして。問題なのは残りの2つだ。っつても片方は皆見覚えがあると思うけどな」
「あと入っていたのは地図と、それに注射器、ですか…」
「でもこれって…」
言葉が途中で途切れてしまう慈と由紀、残りのメンバーも口には出さないものの表情を硬くしている。それと対照的に凪原は朗らかな調子で答える。
「ご明察。こいつは俺と胡桃に投与したワクチン、それと同じものだ。それがケースから出てきたってことは当然あのパイロットが所属していた組織は―――っとそんな顔しないでくれよ」
皆の顔色が優れないのを見かねた凪原の言葉もあまり効果はない。
「そうは言ってもね、やっぱりあの時のことを思い出しちゃうわよ…」
「結局このワクチンがどんなものなのか、安全なのかどうかも分かっていませんし…」
それぞれ悠里と慈の言葉である。
最悪の場合はあのタイミングで学園生活部の仲間を2人(しかも1人は噛まれてもないのに未知の薬を自身に投与して)失うかもしれなかったのだ、トラウマになったとしても何らおかしくない。
しかしながら結果だけを見れば誰も死ななかったわけだし、トラウマというものは得てして後々の問題の種となる。早い段階で潰しておいて損はない。
「でも実際あのワクチンのおかげで胡桃は回復したわけだし、俺だって元気なままだ。なんも悪いことは起きちゃいないからそこまで暗くなる必要はないさ。なあ胡桃?」
彼女達を安心させるようにそう言うと、凪原は胡桃にしか見えない角度で軽く片目をつむってみせた。
「ふぇ…ああっ、うんそうそう!あたしもナギも問題があるどころか絶好調だもん。全然気にしなくていいよ」
凪原の問いかけに元気よく返事をする胡桃。一瞬反応が遅れたものの不自然というほどではなく、慈達は特に気にならなかったようだ。
胡桃の反応が遅れた理由、それは現在凪原と胡桃の間のみに留めている事柄にあった。すなわちワクチンの投与後、2人の身体能力が向上していることである。
投与直後は少々体の動きが滑らかになる程度だったのが、最近では筋力もわずかにだが上がってきているきらいがある。トレーニングなどは続けているためその効果が強く出てきたという可能性もあるにはあるものの、それで説明しきれるかは微妙なラインであった。
今後更なる変化が出てくるようであれば皆に話すべきだとは考えている2人だが、現状では話すべきではないと判断している。とはいえ、良くも悪くも正直な性格の胡桃が早々にボロを出すような気がしないでもない。
しかしとりあえず今回はごまかせたようで、場の雰囲気が元に戻る。それを確認したところで凪原は2点目の品についての説明を始めることにした。
「この注射器だけでも証拠としちゃ十分なんだが、こっちもなかなかのもんだぜ」
言いながらテーブルの上を片付けた凪原が広げたのは一枚の地図だった。それなりの区域を網羅するもので、県の全域に加えて隣接する県も半分近くまでが描かれている。
とはいえ地図そのものには不審な点はない、ごくごく一般的な国土地理院発行のものだ。問題なのは地図に3ヶ所マジックでぐるぐると印づけられている場所があり、それが学校あった職員用緊急避難マニュアルに記載されていた拠点と一致していることであった。
地図を見てすぐにそれと気づいた一同の表情が厳しいものになる。
「皆も分かったと思うけど、印がついてるのはマニュアルで拠点として挙げられてるとこだな。避難場所になりそうな場所なら他にもいろいろあるし、ピンポイントでここが選ばれてる以上偶然ってことは無いだろ」
「まあそうでしょうね。それで凪原先輩はこの3箇所のうち残り2つのどちらかからヘリコプターが来たと考えてるんですか?」
美紀の問いかけに対する凪原の返答は意外なことに否定の言葉だった。
「いや、恐らくだけどそうじゃないはずだ」
「どうしてかしら?地図にこの3ヶ所しか印がない以上そのどこかから来たというのが妥当な気がするのだけど」
「理由としては3つで1つ目は印の付け方だな。こりゃどう見ても焦って付けてる、普通急いでる時は行先にだけマークして現在地なんか印付けないだろ?それこそ落ち着いてから付けりゃいいんだし」
皆に見えるように立てた3本の指のうち一方を畳みながら答える凪原。しかしそれに納得の表情を浮かべる者もいればそうでない者もいた。確かに印を付ける付けないは個人の性格によるところが大きいので根拠としては弱い。
とはいえこれは3つの理由のうち一番弱いものだ。なので凪原は反応を待たずに話を続ける。
「2つ目はここにあのヘリ以降に誰も来ていないことだな。ここから残りの2つまではそこそこ距離はあるが別にヘリでなきゃ移動不可能なほどじゃない。俺だったら普段の装備と車があれば1週間かそこらで付ける自信があるし、車がなくても自転車を手に入れれば掛かる時間はそう変わらないだろうな。いくら拠点が陥落したつっても脱出できたのがヘリ一機ってのはちと考えにくい。それなのに誰も来てないってことは陥落した拠点がもっと離れた地域にあったってことだと思う」
この理由には皆が理解と同時に納得、そして感心の反応を示した。こちらも推測を含んではいるものの、実際に誰もここを訪れていないという根拠を伴っている分受け入れやすいのだろう。
「たしかに陸路での移動ならなおのこと近くの拠点に向かおうとするはずですもんね」
「なのにここに来てないってことはすぐには来れない距離ってことか~、言われてみればそうっぽいね」
美紀と圭の言葉に凪原が頷いていると、今度は由紀が続きを促してきた。
「ねえねえ凪さん、それで3つ目の理由は?」
「んなもん単純だ。ヘリが飛んできた方向が残りの2つの拠点があるほうじゃなかったからだよ」
その単純明快な理由に、今度はどんな推理を凪原が披露するかと期待していた全員が思わず体勢を崩した。
「そんな分かりやすい理由があるなら最初から言ってよ!」
「何言ってんだ、あのヘリを最初に見つけたのは由紀なんだからむしろ真っ先に気付いてしかるべきだろ」
「うっ、それはそうかもだけど」
真っ先に声を上げた由紀は一言で持って言い込められる。
「それにしたってですよなぎ君、わざとその理由を最後に言ったんでしょう?」
「あ、バレた?」
そう言って肩目を閉じる凪原に、「全くもうっ」と返す慈。
気持ちにしろ身体にしろ、こちらがグッと乗り出したタイミングで肩すかしを喰らわせてくる、凪原の学生時代から好んだ話し方だった。当時学院に在籍していた者はほぼ全員が一度は体験しているが、最もそれに振り回されたのは慈だろう。
次こそはと身構えても、ふっと油断した瞬間に仕掛けてくるのでそのたびに引っかかってしまうのだ。
「またやられちゃいました。ほんとになぎ君はこれがうまいですよね、ペテン師としてもやっていけるレベルだと思います」
「あ~…めぐねえ、多分褒めてるんだと思うけどその言われ方はなんかやだ」
微笑みながらそんなことを言う慈に凪原が微妙な表情を浮かべながら答える。からかい文句でなら何ともないが、純粋な笑顔でペテン師と言われてしまうとさすがの凪原も多少ダメージを受ける。
「?、そうですか?」
「いや、いいや。何でもない」
よく分からないという顔で首をかしげる慈に凪原はため息をつくと首を振った。慈は無意識のうちに凪原へ反撃を加えることに成功した。
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「んで、どうする?」
昼食を挟んで再開された会議にて、そのまま司会をしていた凪原が問いを投げ掛けた。
「どうってなにが?」
「主に今後の活動方針についてだけど、具体的にはこの拠点をどうするか、だな」
「なんせこんな感じだし」と言って彼が指さした先を見上げてみれば、一同の目に明かりの灯っていない蛍光灯が写る。
明かりはわざと点けていないのわけではなく点かない、なぜなら電気が通っていないから。
「さっきざっくり見てきたけど配電盤がショートしてやがった。地下区画とか水道とかの最低限必要な方は多分システムごと独立してるからか無事だけど、他はすぐに直せるって感じじゃないな」
「まああれだけ煙入ってきてたし、見たところ火も少し入ったようだしね。むしろよくそれぐらいで済んだと思うわ」
悠里の言葉に皆が頷く。何しろヘリが墜落からの炎上、爆発したのにその対応は初期消火のみで、その後は消防車を呼ぶでもなく放置していただけなのだ。最悪校舎が全焼したとしても不思議ではない。
そう考えれば蓄えていた物資なども無事だったため十分幸運と言えるかもしれない。
とはいえ、だから喜べるかと聞かれるとそうとも言い切れない。少なからず拠点にダメージが入ったというのも事実である。
「このままここに居るのは難しいかもしれませんね。避難所として見ればまだまだ使えますが、毎日暮らすとなるとだいぶ不便になってしまいます」
「シャワーもみんなで使えなくなっちゃったしね~」
それぞれ慈と由紀の言葉だ。言葉の調子にこそ違いはあるが話している内容は同じことだ。
現在の巡ヶ丘学院は避難所として見ればその機能を十分に残しているものの、日々の生活を送る家として見ると力不足の感は否めない。
この非日常に何を贅沢な、という意見もあるかもしれないが今は非日常こそが日常であり、しかもこれからはずっとこの状況が続くのがほぼ確定だ。そして、人間の精神は『今は非常時だから』という気持ち一つで不便な生活を延々と送れるほど優秀ではない。
むしろ非日常であるからこそ、より安らげる生活の場が必要だろう。健全な肉体に健全な精神は宿る、とまで言っては大袈裟かもしれないが、生活の質というのは非常に重要な要素である。そのことは皆パンデミック初期の最も辛い避難生活を通じて理解していた。
ゆえに、このままこの巡ヶ丘学院に居続けるのは難しいというのが一同の意見だった。そうなれば当然ある疑問が出てくる。
「ん~じゃあここから移るとしてどこ行く?レゾナンスじゃちょっと狭いし色々大変な気がするけど」
ではどこに行くのか?、という疑問である。
圭の言葉にあるようにレゾナンス巡ヶ丘では少々心もとない。あくまで巡ヶ丘学院で非常事態が起きた時の一時的な避難場所として設営したものなので本拠点として活用するには足りない点が多いのだ。
大小さまざまな物資を十分量備蓄するには狭く、防衛能力も学院と比べれば劣る。加えて、敷地内に高台がないため周囲の状況把握が困難という弱点もあった。
更なる壁を築き櫓を立てるということもできなくはないが、膨大な物資と時間が掛かる上に、それだけやっても狭さについては克服できない。
どこまでいっても第2拠点なのだ。
ではどこに、となるが今回に限って言えば当てがあった。
「それに関しちゃコレでいいんじゃない?」
胡桃がテーブルの上に広げられた地図を指さす。
「コレにも印がついてるしマニュアルにも書いてあったんだからここと同じくらいの設備はあると思うんだけど」
「恐らくあるでしょうね」
「絶対あるな」
慈、凪原に続いて皆もこの意見には賛成だった。
「そうなると、聖イシドロス大学かランダルコーポレーションか、ということになるわね。どちらが良いのかしら」
「進学か就職か、ですね」
「なら進学じゃないかな~ せっかく皆で勉強したんだしすぐ就職しちゃうのはもったいないよ」
悠里の言葉に美紀が応じていると、由紀が大学行きを提案してきた。
「その理由はひとまず置いておくとして、大学ってのは俺も同意見だな」
「あたしも賛成、まあランダルは嫌だからって理由だけど」
「やっぱそうだよな」と頷き合う2人。どちらも思うところがあるようだし、周りもその内容は薄々察している。
「一応理由を聞いても?」
「いやだって怪しすぎるじゃんランダルコーポレーション、もしこれがゲームだったら確実に黒幕だぜ?」
「そういうこった。生物災害と製薬会社ってだけでも怪しさが爆発してんのに、あのワクチン作ったのも多分あいつ等だろ?もう私が犯人ですって自白してるようなもんじゃねえか。俺は藪をつついて蛇を出す気はないぞ」
美紀の質問に対する答えに「まあそうだよね~」といった雰囲気である。
もしこれが胡桃の話のようにゲームであれば、黒幕の拠点へ乗り込んでいくという流れになるのだろうがあくまでこれは現実である。どこぞの特殊部隊などに所属しているわけでもない自分達が行ったところで何ができるというものでもない。現実とゲームは違うのだ。
まして装備も何も整っていない状態でわざわざ飛び込んでいくなど、無謀を通り越してただのバカである。自ら飛んで火にいる夏の虫となる気は凪原にはさらさらなかったし、それは他の皆にしても同様である。
こうして、さしたる議論もなく学園生活部は大学へと向かうことになった。
「大学に行くってことは卒業だね、卒業式やろうよ!」
由紀がイベントを提案するのはいつものことだが、今回は理由があるちゃんとしているし、区切りになって酔いということで皆も乗り気になった。
日程や準備、使う教室や小道具などについてワイワイと話し始める。
「本音を言えばマニュアルに載ってなくてなおかつ条件が揃った場所が一番いいんだけどな」
「それがあったら苦労しないって凪先輩」
「だろうな、言ってみただけだから忘れてくれ」
そんな中で凪原が発した呟きは、唯一聞こえていた圭に笑い飛ばされてそれっきりとなった。
はい、というわけで学園生活部の一行が学園を去る意思を固めました。原作とは異なりどうしようもなくなっての移動ではなく、いざとなれば生活はできるしレゾナンスに行くこともできるのでそれほど悲観的ではないです。
原作ではこれくらいから病み始めるりーさんについてもるーちゃんがいるので特に問題ありません。キャラが病んでいくのは見てて辛いんじゃ。
注射器と地図
じわじわとワクチンの影響と思える作用が出てきましたね~。はてさてどうなることやら(すっとぼけ)。
地図に関する考察は完全に想像です。とはいえそれほど不自然でもないはず、我々と異なり原作知識など持ちようはずがないと考えれば、これほど推測を立てられるだけでも称賛されてしかるべき。
目的地は聖イシドロス大学
あまり原作ブレイクは良くない、というのもあるし本文中にもあるようにあくまで一回の教師や学生でしかない彼等が黒幕と思われる組織に乗り込んだところでできることなどそうそうありません。まして生活基盤が整っていない状態でなんてもっての外。
まあでも凪原は「落ち着いたらちょっと見に行こうかな」くらいには考えています。敵を知る、ってやつですね。
これで5章の序盤は終わりです。
次からは中盤、いよいよ学園生活部が物理的にも物語的にも動き始めますよ~
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それではまた次回!