「いいですか、別に2人でいるのが悪いって言っているわけではないんです。最近2人だけの時間がなかったのは私たちも分かってるんですから」
「でもだからといってあんな場所で一晩中なんて、風邪でもひいたらどうするの。今はお医者さんだっていないのよ?」
「はい、ごめんなさい」
「俺達が悪かった」
コンビニにて夜を明かした翌朝、凪原と胡桃は仁王立ちしている慈と悠里の前で正座させられていた。
昨晩コンビニの屋上で周辺の警戒をしながら自分達だけの時間を楽しんでいた彼等は、階下に降りることなくそのまま眠りに落ちてしまう。起きた時に姿が見えなかったため探していた悠里達が見つけた時は2人に仲良く夢の中だった。
1つの布団の中で背中合わせだった体勢は、並んで室外機に寄りかかるように向きを変えていた。胡桃の頭は凪原の肩に、そして彼女の頭に凪原の頭がゆるくもたれかかっていて、それぞれの顔に浮かぶ表情は『幸せそうな寝顔』という言葉を聞いたときに万人が思い浮かべるものであった。
それだけなら特に問題もなかったのだが、この日の朝は肌寒く秋の訪れを感じさせる天気だったのが良くなかった。
いくら室外機である程度防げるとはいえ、吹きさらしの状態で目を覚ますでもなく眠りこけていたせいでしっかり者2人からお説教を受けることになったのである。
これには申し開きの仕様がないので凪原も胡桃も甘んじて受け入れた。
「―――これぐらいですかね。それじゃ朝ごはんの準備をするのでみんなと待っていてください」
「体も冷えてるだろうからお茶でも飲んでてちょうだい」
「「は~い」」
数分後、お許しが出たところで2人は足の痺れを堪えつつ立ち上がり、残りのメンバーがいる場所へと移動する。
「お疲れ~、朝から災難だったね。でも昨晩は楽しめたみたいだしトントンかな?」
「2人とも仲良しさんなの」
移動した先でさっそく圭と
「おーい、奥の2人は何してんだ?」
「ああこれですか?いうなれば日々の記録ってやつです」
「日々の記録?」
凪原の言葉に美紀が意味ありげに答え、それに胡桃が首を傾げたところで由紀が何かを掲げながら立ち上がる。
「じゃじゃーんっ、凪さんと胡桃ちゃんの添い寝写真&怒られ写真だよ!卒業アルバムにまた1ページが加わったね!」
彼女の手で開かれたページにはその言葉通りの写真が張り付けられていた。
卒業式の際に作ったアルバム、それには学院で見つけたポラロイドカメラで撮られた学園での日々の写真が多々張り付けられているのだが、まだまだページには余裕があるのでこれからも写真の数は増えていくのであろう。
であれば日々の記録という美紀の言葉も的を射たものと言えるかもしれない。
「ちょっ、恥ずかしいじゃんっ。やめろよ!」///
「へへ~ん、もう張りつけちゃったもんね~」
「何恥ずかしがってんだよ胡桃、いい写真じゃないか」
思わず声をあげる胡桃とは対照的に凪原の表情はにこやかだ。
「なんでナギは平気な顔してんの?」
「行事中は学校指定のカメラマンが撮ってきたし、それ以外の時はイベントの気配を探ろうとする
「改めて聞くけどどういう学校生活してたらそうなるのさ……」
圭が呆れているが、凪原はその問いに答えられない。なんか好き勝手してたらいつの間にかそうなってた、としか言いようがないのだ。
「だからですよ」
残念ながら美紀の指摘は自動ミュート機能を備えた凪原の耳には届かなかった。
====================
「なんというか、いい意味でまともな朝ごはんだね」
「まあパンデミック前でもこれより不健康な朝食を食べてた人はたくさんいたでしょうね」
「そのうちの1人が俺だな」
段ボールの上に清潔なレジャーシートを広げた食卓に並ぶのはレトルトのご飯に野菜スープ、サンマの蒲焼缶と総菜系の缶詰がいくつか。カロリー的にも栄耀バランス的にも問題ないだろう。
翻って凪原の以前の朝食はというと、トーストを牛乳でねじ込めればいい方で、通学途中にコンビニで買ったおにぎり1つがデフォルト。昼食まで何も食べないということもそこまで珍しくはなかった。
「あっ、やっぱりそんな食生活をしてたんですね。生徒会の時も朝しっかり食べてなかったからそうなんじゃないかと思ってたんです」
「しょうがないじゃん。今も昔も忙しかったんだから」
慈の言葉にも仕方がないと返す凪原だったが、それでは納得しない相手もいる。
「でもご飯はしっかり食べないとめっなの!」
「了解るー、最近は3食ちゃんと食べてるから心配すんな」
きちんとした家庭で育った小学生の
ビシッと凪原を指さしてくる彼女にそう返事をして笑いかければ、安心した表情で食事へと戻った。
「でもこうやって出かけた先で朝ごはん食べてるとショッピングモールに行った時のことを思い出すね~」
「あの時は胡桃の家で朝ごはんを食べていたのよね」
「もうだいぶ前のことのように感じますねえ」
食事も終わりに近づいたタイミングで由紀が言った言葉に悠里や慈など、その時いた面々が頷く。
分かってないのは美紀と圭の2年生コンビだ。
「えっなにそれ、あたし知らない」
「私たちが合流する前の話でしょうか」
「そうだな、あん時は―――」
話しのネタに、凪原は首をかしげる2人に当時のことを話してやることにした。
「ふ~ん、じゃあその時に由紀先輩がラジオを付けなかったら美紀はともかくあたしは助からなかったんだね」
「もう圭、お行儀悪いよ。でも由紀先輩本当にありがとうございます」
「いいってことだよ~なにしろ私は先輩だからね!」
「ありがと先輩~」といって由紀に抱き着く圭を嗜める美紀もその顔には感謝の表情が浮かんでいる。
2人の気持ちをしっかり受け取った由紀は、口調はふざけつつも見てわかるほどに上機嫌だった。自分から誇るようなことはしないものの、やはり感謝されるのは嬉しいのだろう。
「じゃあ今もラジオ付けてみたら他の生存者が何か言ってるかもな」
「でもここにラジオはないわよ?」
「いんや、あるぞ」
思いついたように言う胡桃に対し悠里が指摘をするが、その言葉は凪原によって否定された。
周りの視線が集中する中、凪原は傍らに置いていた無線機を手に取ると軽く振ってみせる。
「普段は周波数を固定してるから忘れがちだけど、これだって電波の受信はできるからなんか放送やってたらキャッチできるはずだ」
言われてみれば、という表情を皆が浮かべる中で、真っ先に声を上げたのはやはりと言うべきか由紀だった。
「貸して貸して、また色々探してみるから」
「はいよ、由紀なら実績持ちだからな。案外マジで見つかるかもしれんし」
頷きながら放り投げられた無線機を数回お手玉した後にキャッチし、由紀は嬉々とした表情で周波数設定ボタンをいじり始めた。
「実際のところいると思いますか、生存者」
「それなりにはいると思うぞ?ただある程度の社会機能を維持した規模でってなると厳しいだろうな」
無線機から流れるノイズをバックに、美紀の疑問に難しそうな顔で答える凪原。
正直な話、現在の状況においてただ生存するということだけならばそこまで難しくはないと彼は考えてた。
パンデミック初期の混乱期をどうにか生き延びることさえできれば、あとに残るのは動きののろいゾンビと多くの物資が残された街や、あるがままの状態になった自然である。そうなれば一定以上のサバイバル知識を持っている者ならば生存は可能だろう。
無論ぎりぎりの生活にはなるだろうし、拠点の快適性や娯楽などは著しく制限されるだろうが少なくとも生きていくことはできる。
「まあその生活を成り立たせられるのは少人数、最大でも150人くらいまでだろうな。それ以上じゃ色んな要因で身動きが取れない間に物資が底をつくか集まってきた奴等に囲まれてお終いだろうよ」
「その手の小説とかゲームのお約束みたいなもんか」
「そういうこった」
胡桃の相槌に頷いて答える凪原。
ゲームなど以外に例を挙げようとすれば、大昔の狩猟民族あたりが近いかもしれない。
究極のサバイバル生活を送っていた彼等は集団でまとまって暮らし、協力して狩りをすることで暮らしを成り立たせていたが、その数は100人を超えることは少なかったという。それ以上の人数では集団としての統率を失いかねないからだ。
現代の社会システム(といっても既に滅びてしまったが)は非常に複雑であり、維持及び運用にはそれに見合うだけの人数が必要となる。さらにそれらは広い範囲にまたがっており、それが相互に作用しあうことで成り立っているのだ。
自宅の半径3キロ以内に職場、食料供給地、水源とそれに関係する施設、発電所とその燃料供給地が全てあったという人間など、よほど原始的な生活をしていた者を除けばほとんどいないだろう。
この様に考えただけでも現在の状況にあって以前の社会機能を維持ということがどれほど大変かが分かるというものだ。
「まあ例外はあるだろうけどな。それこそ、この事態の黒幕っぽいランダルの拠点とかはある程度維持できてんじゃないか?」
「あえて行きたいとは思わないけど」と続ける凪原には皆も同意見だ。準備を万全に整えたうえでの偵察としてならともかく、生活の場を求めて黒幕の下に向かうなど冗談ではない。
会話の間に一瞬の沈黙ができたその時だった。
『………ねえねえ、誰か聞いてる?こちらはワンワンワン放送局』
この場にいる誰のものでもない声が辺りに響いた。
「「「っ!!!」」」
ガバッ、と音が出そうな勢いで振り返った一同の先では、目をまん丸に見開いた由紀が自身の手の中にある無線機を凝視している。どうやらいじっていた当人が一番驚いたようだ。
「え、えーっとこれ、皆も聞こえた、よね?」
「大丈夫よ、全員聞こえてるわ」
いつもの元気の良さはどこへやら、「私耳可笑しくなっちゃたのかな!?」と慌てる由紀を悠里が落ち着かせている横で凪原が無線機のボリュームを上げて圭がスマホのボイスレコーダーを起動し、残りの面々は聞き逃すまいとその周りに集まる。
『この世の終わりを生きるみんな元気かーい! 聞こえてない人は返事してねー、って聞こえてないんだからそりゃ無理か』
こちら側の状況などお構いなしに無線機からはテンションの高い声が続く。
『まあそんなことは置いておいて、今日も1人と1匹で送るワンワンワン放送局はっじまるよー! まずはごきげんなナンバーからいってみよー!』
その声に続き何かのスイッチを押すような音がし、数秒後にはアップテンポの曲が流れ始めた。
「ダスベスの【戦いは終わらない】か、いいセンスだ」
「そこじゃないでしょ凪先輩!確かにダスベスの曲はいいのが多いし私の好きなゲームの主題歌もあの人が作ってるけど!」
「おい圭も引きずられてるぞ、今は無線のことはほっといて好きなゲームについてだ!」
「胡桃ちゃんそれ逆だよ!」
的外れな感想を抱く凪原とそれにツッコんでいるようでツッコんでいない圭、そして2人を咎めようとして逆のことを言う胡桃とそれに更なるツッコミを入れる由紀。と、混乱気味の4人を放置し残りの4人は真面目な話を開始する。
「これって、やっぱりラジオですよね?」
「そうね、無線機じゃ音楽を流すことはできないから間違いなく放送されてるものよ」
「それにさっきの声も録音されたような音質には聞こえませんでしたね」
「元気な声だったの!」
務めて冷静に、今聞こえているラジオについての情報を声に出して並べていく。早とちりのぬか喜びにならないよう慎重に。
「ってことはさ!」
「ああ、ということはっ」
しかし、混乱状態から我に返った面々が合流してしまえば我慢することは不可能だった。
「「「誰か、生きてる!」」」
皆の声が揃い、近くにいる者とハイタッチを交わしたり肩を叩き合ったり、それぞれが思い思いに喜びを表す。自分達以外にも生きている人間がいるという確かな証が得られたのだ、喜ぶなという方が無理な話だろう。
「早速会いに行こうよ!」
「でも、どこから放送しているか分からないわよ」
床に丘に置いていたリュックを背負い今にの出発しようとする由紀を止める悠里。とはいえ彼女にしても会いに行くこと自体は止めていないし、テキパキと朝ごはんをいつもより素早く片付けている。
「ねえ凪先輩、無線の逆探知とかってできないの?」
「やろうと思えばできるけど、手間だし正確じゃないからあまりやりたくないな。というか待ってりゃ向こうから連絡先を言ってくれるんじゃないか」
「なんでできるのかはもうツッコまないぞ、どうせろくな理由じゃないし」
凪原の提案にしばらくは音楽を楽しむことにした一同。
なお、胡桃が呆れ顔と共に放った言葉に当人は傷ついたような表情をしていたが、誰からも慰めの言葉を掛けられることは無かった。
『は~いご清聴ありがとうございました。それじゃあここでお便り紹介、といきたいんだけどお便りがな~んにも届いてない、まったくみんな静かすぎ。ワンワンワン放送局はどんなお便りでも受け付けてるからね、メール 郵便 伝書鳩 大声だって大丈夫。もちろん私みたいにラジオででも問題なし。この放送とは別に〇〇.〇の枠はいつでも空けておくからコラボしたいって人が居たらいつでも遊びに来てね』
しばらくいくつかの曲を聞いていると、期待通りの言葉が聞こえてくる。
「さ~て、お呼ばれしたからには行くしかないよな?」
予備の無線機を指定された周波数に合わせた凪原がニヤリと愉しそうに笑い、それに対して由紀胡桃圭の3人、そして美紀に
悠里と慈にしても楽しそうであり、止めるつもりはないらしい。
『おぉっとそろそろ時間みたいだね、ワンワンワン放送局は毎日この時間に放送してるからよければまた聞きに来てね~』
「やべっ そんじゃいくぞ」
ぼやぼやしている間に放送が終わりそうになってしまったので慌てて合図を送る。
しかし終了間際と言うなら逆にちょうどよい。これがラジオ放送なら声をかけるの絶好な呼びかけを向こうからしてくれることだろう。
『それじゃあみんな、今日もワンワンワン放送局からの放送を楽しんでくれたかな~?』
待っていた声を聞きながら指を3本立ててスリーカウント。1本ずつ折り曲げていき最後に残った人差し指が曲げられた瞬間、全員が同時に口を開く。
「「「は~い!!!」」」
「………………へ?…え、ちょ、ホントに?――ってうわぁああ!?」
学園生活部からの呼びかけに対し、無線機からは意味のある言葉よりも先に誰かが椅子ごとひっくり返ったような音が聞こえてきた。
はい、新キャラが
………おかしいな、前回の話でここまで書くつもりだったんですけど。書き残したところを書いていたら1話分になってました。この調子だと5章終盤に入る前に後2話くらいかかる気がします。
==今日の雑談==
・2人の寝顔
筆者に絵心があったら挿絵を描いていた。写真を撮った由紀とみーくんはファインプレイ、だから私にも見せてほしい。
・生存者の集団とその規模
こんな状況が実際に起きたらどうなるかな~って考えた時の筆者なりの見解。ロビン・ダンバーによって提唱されたダンバー数という概念を元にしています。
なんでも脳の大きさから考えると、人間が円滑に安定して維持できる集団の数は100~250の間らしいです。厳格な規則やノルマを課せばこれ以上でも可能でしょうが、たいていの場合はどこかで無理が生じて崩壊してしまうんじゃないかなぁ。
・ワンワンワン放送局&ラジオ
ここ好き
先週今週と続いて来週、そして恐らく再来週もバカほど忙しいです。よって来週更新できるかは分かりません。来週無理だったら再来週には必ずアップします。
この辺の話は元々書きたかったところなのでネタはあります、ないのは時間だけ。
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それではまた次回!