残酷な描写及びやや過激な思想、若干の胸糞表現が含まれます。以上ご了承の上お読みいただけますようよろしくお願いします。
ラジオ放送から始まりDJの涙で幕を閉じた1日からしばらく、葵は凪原達によく馴染んでいた。
明るく活発な性格はメンバーとの相性も良く、すぐに昔からいた仲間化のような雰囲気となっている。その性格故に、年長者というよりは少しだけ年の離れた友人というような立ち位置だが、気にするほどではない。
度が過ぎたら慈か悠里から年齢に関係なくお説教が課せられるだろう。
学園生活部の面々にしても、新しい
学園ほどではないが十分なスペースがあるので、個人のスペースを確保できたというのも良かった。皆が集まる場所とは別にこれがあることで、皆思い思いにのびのびと過ごすことができている。
結論から言えば、今回の邂逅は学園生活部(とそれに合流した葵)にとってプラスの効果だけを残した。
これは放送局の立地が恵まれていたことではなく、葵自身が善良であり協調を是としていたことによるところが大きい。
たとえどれだけ良い環境があったとしても、そこで暮らすのは人間である。人同士が協力し、仲良くできなければどんな楽園でもたやすく地獄へと変わってしまうだろう。
では仮に、
――
その時には一体何が起こるのだろうか。
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「あたしは今トラック運転手の人達を心から尊敬してるよ、こんな大変なことやってくれてたなんて」
「そういうことはせめてハンドル握ってる時に言ってくれないか」
助手席のシートの上で思い切り伸びをしながらそんなことを言う胡桃に、運転席でハンドルを握る凪原はそちらを見やりながら返した。
どちらの口調にも疲れというよりは飽きが多分に含まれている。
「だってさ~、何もしてないってのもそれはそれで退屈なんだぜ?ナビするにしたってルートは昨日決めたのからほとんど外れてないし」
「俺にも全く同じことが言えるけどな。ひたすら決められた通りに運転するのも結構辛いんだぞ」
「なら代わる?」
「胡桃の運転は悪い意味で退屈しなそうだから遠慮しとく」
「なにを~」と言いながら小突いてくる胡桃を押し返しつつハンドルを切れば、EVのバンはいつもよりやや緩慢な動きで向きを変えた。
別にバッテリーが切れかかっているわけでも道路条件が悪いわけでもない。単にフロントシートより後ろ側、後部座席を折りたたんでできた空間に大小さまざまな物品が積まれているからである。
大部分は規格の整った白いコンテナだが一部には茶色の段ボールも見られる。そして隙間にはサイズの関係で箱に収まらなかった物達が詰め込まれている。その過密度合いたるや、運転席から振り返っても後方を確認できない(というかまずリアガラスが見えない)ほどである。
確実に積載重量その他もろもろの交通ルールに抵触しているが今更気にする必要はない。既に
ゆえに現在車に求められるのはゾンビ達に対し一定の防御力を有していることと、人では持てない量の荷物をより早く運ぶことができることである。
前者は通り道をうまく選べばそれほど必要ではないため、後者の方がより重要と言えるかもしれない。
「ならトラックを使えって話だよな。引っ越しだってのに一体俺は何でバンを運転してんだ?」
「まだボケるには早いぞ、トラックはデカいから通れる道が少ないって言ったのはナギだろうに。まぁ手間がかかるってのは同意見だけどさ」
凪原の愚痴を切って捨てつつも一部分には同意の意を示す胡桃。
「放送局で暮らす以上は物資も移した方がいい。正論というか提案したの俺だけどちょっと大変さを舐めてたな」
「それは確かに」
今更だが一応説明しておくと、現在凪原と胡桃の2人は巡ヶ丘学院から放送局への物資の輸送作業に勤しんでいた。
葵の提案を受け入れ、彼女と共に放送局に居を構えた一行はここを恒久的な拠点とするべく行動を始めていた。とはいえ、雑木林に囲まれているという建物の立地の関係上周辺の安全確保は既になされているので、すべきことといえば建物内の掃除と物資の集積ぐらいである。
前者は慈や悠里、美紀といったしっかり者組がいればいいとして、問題は後者である。近場の街から集めてきてもいいが今後のためにもできれば残しておきたい。
であるならば、これまでせっせと集めた物資が山と置かれている巡ヶ丘学院から持ってくるのが最も効率的だということになる。そして誰が取ってくるのかといえば、拠点外での行動に最も慣れている2人にお鉢が回ってくるのは当然のことだった。
たとえ、放送局と学院の位置関係上最短ルートを選んでも行き帰りに
凪原も胡桃もその人員割り振りに思うところがないわけではなかったが―――
((まあ胡桃(ナギ)と2人ならそれはそれで…))
―――とも考えているのははたから見れば一目瞭然だったため特に気にする者はいなかった。
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「こんな時でも動いてるんだね」
「太陽パネルがついてるから電気は足りてるし買いに来る奴もいないもいないから商品も残ってる、よく考えれば不思議じゃないけど違和感がすごいな」
「いやむしろ違和感がないのが違和感なのか?」などと話している2人がいるのは道端にあった自動販売機の前。どうやら災害時にも使用できることを想定していたようで、こんな状況でも粛々と営業を続けていたのだ。
「ま、金払わないといけないのがちょっとめんどくさいけど」
「字面だけだと大悪党だな」
冗談を言い合いながらホットドリンクを味わう凪原と胡桃。少し肌寒くなってきた最近ではこういった物がよりおいしく感じられる。
「もう1本買うか」(チャリンッ)
「あっ次の時に取っとけよ、売り切れちゃうだろ」
文句を言う胡桃に構わずボタンを押し、落ちてきたボトルを取ろうと凪原がしゃがみ込む。意識が取り出し口へと向けられたこの時、一瞬ではあるが2人は周囲への警戒が切れる。
「へーき平気―――
どうせだれも買わないんだし、という言葉が口から出ることは無かった。
「動くんじゃねぇっ」
「ッ!」
ほぼ脊髄反射で体が動き、胡桃を声がした方向から隠すように庇いつつ振り返る。掛けられた声の内容からすれば危険な行動だったが、それが結果としては功を奏した。
視線を向けた先では手に武器を持った男達が凪原達の前を塞ぐように姿を現していた。大部分の手に握られているのはナイフやバット、手製の槍などの原始的なものだが、残りが厄介だった。
(9、10……全部で11、うち銃持ちが3人。猟銃が1人にリボルバーが2人か)
相手の武装を確認し、自分のとっさの行動に安堵する凪原。猟銃を持った男とリボルバーを持った男達がこちらへと銃口を向けていたのだが、反射的に胡桃を庇ったおかげで彼女を射線から隠すことに成功していた
「動くなっつってんだろうが!」
集団の中央で猟銃を構えながら怒鳴る男の手元を見れば引き金に指が掛かりっぱなしになっていて、何かのはずみで暴発しかねない。胡桃を背中に隠したのは正解だったと言えるだろう。
「あー失礼、いきなりだったからつい驚いてしまったんだ。それで?お前らとは初対面のはずだけどなんで銃を向けられているんだ?」
下手に刺激しないように、それでいて舐められない程度には強めの口調で問いかける。言われそうなことなど分かっているが一応聞いておく必要がある。
もっとも、平和的な理由だとは微塵も思えないが。
「どうしたもの何もあるか、この辺は俺達の縄張りなんだよ」
「そこにずかずか入り込んできやがって、人様の場所に入っちゃいけないって学校で習いませんでしたか~」
「学校で何を学んでんだ、せっかく俺達の税金で勉強できてたってのに」
問いかけに対して小馬鹿にしたような答えが返ってくる。
学校で何を学んだのか、全く同じ言葉を
こぼれそうになるため息を堪える凪原。
「何言ってんだっ。縄張りなんてお前らが勝手に言ってるだけだろうがっ」
しかし、胡桃はこれに我慢できなかったようだ。凪原の背から顔を出して男達に向けて反論を放つ。
「るせぇっ!」パァンッ
「ゃっ」
その返答は銃声だった。リボルバーを持った男の一人が怒声と共に引き金を引き、凪原達の足元のアスファルトが弾けて破片を飛ばす。
それに思わず声を上げた胡桃の姿を見て男達から笑い声が上がった。
「勘違いしてるみたいだけどな、こっちは別にわざわざ声を掛けなくたってよかったんだぜ」
「そっちの兄ちゃんもなかなかカッコイイ格好してるな。ただそんなおもちゃじゃどうしようもないぜ、なんせこいつはお巡りから奪った本物だからな」
見せびらかすようにリボルバーを掲げる男、どうやら凪原の装備をコスプレか何かと思っているようだ。まあどこにでもいそうな若い男である凪原が、本物の防弾ベストとカービン銃を持っているとは普通想像できないだろう。
「俺の装備については置いておくとして、どうして銃を奪った。警察がいるのならそのまま保護してもらえばよかったじゃないか」
「はん、こんな状況なんだ警察にできることなんか何もねーよ。なのにあれこれ命令してきやがって、あんまりにも腹が立ったからぶち殺してやったよ」
「武器さえ奪っちまえばこっちのもんさ、あとは何やったって誰にも咎められることはねぇ」
「欲しいものがあれば奪えばいいし、気に入らない奴がいりゃぶっ殺せばいい。慣れれば何とも気楽なもんさ」
(全員クズか。こういう奴等もいるだろうとは予測してたけど、実際に対面してみたら―――反吐が出る)
語られた内容に凪原の目がスッと細められて怒気が漏れ始めるが、男達はそれに気づいた様子はない。
「要するにお前等をどうするかは俺達次第ってわけだ、今生きてられることを感謝してくれてもいいんだぜ?」
普段のゾンビ達から感じるものとは別種の、同じ人間に殺されるかもしれないという恐怖。
これまで感じたことの無い感覚に晒された胡桃が身を震わせているのを感じ、凪原は男たちの方に視線を向けたまま小さく彼女を抱き寄せた。
それを見た男達から口笛を吹く。
「なぁ兄ちゃん、俺達だって別に鬼じゃない。出すもん出してくれりゃそのまま行かせてやるよ」
手を上げて周りを制し、猟銃を手にした男が声をかけてくる。男は『慈悲深い自分』に酔っているようだったがやっていることは脅迫と強盗、完全に野盗のソレである。
「そいつはありがたいね、物資をいくらか渡すからそれで許してくれるのかな」
要求を突っぱねてやりたいのはやまやまだが、人数的に不利である上に隣には胡桃がいる。穏便に済むのなら多少の物資は惜しくはない。
内心の激情を必死に抑え、これで満足だろ?というような口調で返す凪原だったが、男たちの要求はその遥か下、汚泥の方がまだ清潔に思えるほど汚れ切ったものだった
「おいおい何勘違いしてんだ?帰っていいのは兄ちゃん1人だけだ、残りはみーんな置いてってもらうぜ。その車と積んである荷物全部、それに後ろに隠してるお嬢ちゃんもな」
「あ?」
意識しないうちにこぼれた声には、怒気を通り越して明確な殺気が含まれていた。
この時点になってようやく男達は凪原の様子の変化に気付いたようだが、どうせ何もできないと高を括っているようでヘラヘラとした態度を崩さなかった。
「おおっと怒るなよ?別にてめぇを殺してから奪ったっていいんだからな。お前を返してやるのは俺等の優しさだよ」
「そうそう、俺たちゃ優しいからな。そっちのお嬢ちゃんにも優しくしてやるよ」
「かわいい顔してるじゃねえか。そんな兄ちゃんといないでこっちに来ようぜ、楽しませてやるよ」
舐めまわすような視線と下卑た笑い声に胡桃が「ひっ」と小さく悲鳴を上げて体を縮こませる。それを感じ取り、凪原の中で何かが切れた。
いや、切れたというよりも
先ほどまで荒れ狂っていた心が今は凪いだ海面のように鎮まっている。しかしそれは決して怒りが収まったわけではない。
冷たく、静かに、殺意でもって固められていた。
(その時が来たらためらうな、だったな、田宮さん)
自分に銃と心構えを与えてくれた自衛官の顔を思い出し、努めて冷静に思考を回す。
「(胡桃、聞こえてたら俺の手を握り返してくれ)」
顔の向きは変えず唇を動かさないようにして胡桃に声をかけると、すぐに差し出した手がきゅっと小さく握り返された。微かに震えているがその手にはしっかりと力が込められていた。
彼女の意思が折れていないことにひとまず安堵するが、すぐに気を引き締めて続きを伝える。
「(あいつ等を始末する。タップで3カウント取るから3と同時に車の陰に入ってくれ)」
数瞬の後に再び手が握られたところで意識を眼前の
下手に刺激しないよう、さも現状を理解しておじけづいたかのような態度をとる。
「いつまで黙ってるつもりだ、あんまり俺達を怒らせない方がいいぞ」
「あ、ああすまない、ちょっとパニックになっていたんだ。急なこと過ぎて」
1……
「そ、それで、自分だけだったら無事に帰してくれるのか?」
「ああそうだ。俺達は物資を手に入れてお前は無事に帰れる、お嬢ちゃんは俺達と一緒になって楽しめる。みんなハッピーだ」
2の……
「そうか、そいつは――――――くそくらえだ」
3っ
大声を上げるわけでも早口で言い切るわけでもなく、ただ当たり前のことを言うように発せられた言葉に男達の反応が遅れる。
それは時間にしてみれば数秒程度だったが、その間に胡桃はバンの裏へと身を隠すことができ、凪原は―――
―――ホルスターからグロックを引き抜いていた。
間髪をおかず、辺りにくぐもった銃声が連続して響く。
悠長に構えている暇はないので狙うのは胴体。正規の構え方ではないため感覚での射撃となったものの、放たれた弾丸はほぼすべてが狙い通りの位置へと着弾した。
季節柄少し厚着した程度の衣服など、毎秒350mの速さで空間を駆け抜ける9ミリパラベラム弾の前では何の防弾効果もない。当然のごとく貫通し、弾丸は男達の肉体内部へと到達する。
「――は?」
「え……?」
急激に体から力が抜けていく感覚に撃たれた男達がその場に崩れ落ちるが、彼等の表情は撃たれていない者と同じ呆然としたものだった。脳の理解が追い付いていないのだろう。
「胡桃、お前の銃は車の中だろ。こいつ渡しとく、残弾12だから注意しろよ」
「う、うん」
自身も車の裏に入った凪原が手にしていたグロックを差し出すと、胡桃はやや気遅れたように受け取った。
「別にあいつ等を撃てってわけじゃない。音を聞きつけて奴等が集まってくる、後ろから来る奴の対処を頼む」
「あ、ああ分かった。任せて」
動揺している様子の彼女を安心させるようにそう続ければ、多少落ち着いたようで目にも力が戻った。
それを確認し、凪原はスリングで吊っていたグロックカービンを手に取るとコッキングレバーを引いて初弾を装填する。
ちょうどそのタイミングで、弾丸を撃ち込まれた男達の感覚が現実に追いついた。
「ぎゃぁぁぁあああああああああああっ」
狂ったような叫び声が辺りに木霊する。
「痛ぇっ痛ぇよぉぉおおおお」
「血ぃ、俺の足、血ぃいい!」
意味の分かる単語を放っているのはまだいい方で、言葉にならない獣の咆哮のような声を上げている者もいる。さらに、胸のど真ん中に鉛玉を喰らった1人はどうやら即死したようで地面に倒れ込んだままピクリとも動かない。
もっとも医療が崩壊しまともな治療が受けられない現在において、重傷を負った者と即死した者のどちらが運が良かったのかは判断が難しいかもしれない。
そして、叫び声をあげているのは何も負傷を負った者だけではない。残った物達も目の前の惨状を前に平静を失っていた。
「なんで俺達が撃たれてるんだ、おもちゃなんじゃなかったのかよぉっ!」
「ガキ1人殺せば女と物資が手に入るって話だったじゃねぇか、どうなってんだっ」
「うるせぇとにかくやり返せっ!やらなきゃ殺されるだけだぞ!」
内容から察するに、仮に凪原が男達の提案を受け入れていても結局は殺されていたようである。胡桃を渡せと言われていた時点でこれ以上評価の下がりようはなかったが、それでも気分のいいものではない。
「何が殺されるだ、先に殺そうとしてきたのはそっちだろうが」
カービンを構え、車の陰からわずかに身を乗り出した凪原は表情を変えることなくまだ無事な男達へ射撃を加えていく。
バットを振り回しながら走り込んでくる男、フェイントも何もしないのでは外す方が難しい。
正中線上に数発、勢いそのままに倒れ込んだ。
狙いをつけることもなくがむしゃらにリボルバーを乱射する男、どんなふうに撃たれた弾だろうが当たればただでは済まないので身を隠す。
すぐに弾切れになるが、それでもカチカチと引き金を引き続けていたので返礼とばかりに撃ち返す。
命中、倒れ方からして即死だろう。
恐怖からかその場から動こうともせずにしゃがみ込んで地面で丸くなった男、ただの的だ。
数発撃てばそのまま動かなくなった。
3人無力化したところでマガジン内部の残弾が少なくなったため、一旦身を隠しポーチに入れていたフル装填済みのマガジンと交換する。
再び射撃を再開しようとしたところで、リーダー格の男の叫び声が聞こえてきた。
「おいっどうしてここまでやるんだよっ!?それだけ装備があるなら物資なんていくらでも集められるだろっ、たかが女1人なんでそこまでムキになってんっ―――
言葉は最後まで続かなかった。
吸い込まれるように弾丸が頭部に命中して脳みそをかき混ぜながら後頭部から飛び出す。続いて同じ軌道をなぞるように2発目が飛来し、1発目によりひびが入っていた後頭部側の頭蓋骨をまとめて吹き飛ばした。
散弾銃を構えていた腕がダラリと下がり一瞬棒立ちのような姿勢になった後、男がゆっくりと後ろに倒れ込む。
「たかがだと?俺にとっちゃ胡桃は命より大切なんだよ。それを置いて帰れと言われて、はいそうですかってなるわけねえだろうが。守るためならてめえらみたいな奴、何人だって殺してやる」
漏れた言葉は当然ながら男達には届かなかったが、彼の傍らにいた胡桃には一言一句余さずに聞こえていた。
「先につっかっかて来たのはそっちなんだ。お前ら全員、生きて帰れると思うなよっ」
「ひっ、ひぃぃぃぃいいいいいいいっ」
「こっ殺されるぅぅ」
リーダーの死と凪原の怒声に、まだ無事だった男達が逃げ出し始めた。敵対の意思は完全に挫けているようだが、凪原は構うことなくその背中へと弾丸を叩き込んでいく。
この行為に残酷という言葉は当てはまらないだろう。
今は戦意喪失しているといっても今後はどうだ?明日は?、明後日は?、1か月後は?
彼等の感じている恐怖が怒りに転じないとどうして信じられる?
何のしがらみもないのに襲ってきた彼等が、筋の通らない復讐心に駆られて再び襲ってこないと断言できるのか?
そしてもしそれが起こったら今と同じように撃退できると考える根拠は何だ?
1つでも答えられないのなら、殺せるときに殺すべきだ。
平和な時代であったならば全く受け入れられる考え方ではないだろう。しかし現在においてはこの考え方こそが生き残るために最善なのである。
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「―――くそっ、1人逃がした!」
忌々し気に悪態をつく凪原。
倒けつ転びつ逃げたられたせいで逆に狙いを定めることができず、襲ってきた11人のうち1人が角を曲がって凪原の視界から姿を消した。残りの10人はほとんどが息絶えており、まだ息がある者も長くはないはずだ。
追撃するという選択肢が一瞬思い浮かぶも、今から追いかけても見つけられないだろう。
そう凪原が考えたのとほぼ同時、男が曲がった角から発砲音が響いた。
「ちくしょう、今度はなんなんだ」
再び弾倉を交換する凪原に、何かに気付いた様子の胡桃が声をかける。
「な、ナギ、今の銃声ってさ」
「ああ、ありゃフルオートだ。気引き締めろよ胡桃、何が出てくるか分かんねえぞ」
ただの発砲音であればそこまで問題ではない。恐らくは逃げた男が持っていた銃でゾンビか何かを撃ったんだと推測できる。
しかし今聞こえた銃声は間隙なく連なっていた、間違いなくフルオート機能を持つ銃から発射されたものだ。
フルオート可能な銃器などそうそう手に入るものではない。すなわち、今銃を撃ったのは相当な実力を持った人間である可能性が非常に高かった。
こちらは消耗しているが、相手がそれを考慮してくれる保証などない。
切れかけていた集中力を無理やり引き上げて未知の相手との接触に備える凪原達、しかしその警戒はすぐに無駄なものになった。
「おーい、今からそっち行くけど間違っても撃つなよ?」
「びっくりしてついうっかり、ってのもナシね。そんなんじゃ何のためにここまで来たか分からなくなっちゃうし」
角の向こうから聞こえてきた声は、何とも気が抜けているというか緊張感がないというか、少なくとも面識のない相手に対する雰囲気ではなかった。
「いきなりどういうつもりなんだ?」
「!、その声っ」
その声に怪訝そうな表情を浮かべる胡桃とは異なり、凪原の顔は驚愕の色が浮かんだ。
「もしかして、
問いかけから時間が空くこと数秒―――
「せいか~い。耳が良いのは相変わらずみたいね、
「こうして合流できたんだ。再会祝いはそっちのおごりで頼むぜ、
―――そんな言葉と共に1組の男女が姿を現した。
というわけでゾンビ系の小説ではおなじみのクズ野郎共の登場~退場RTAでした。ちょっと急展開かもしれませんが、こういうのは得てして前触れなく突然やってくるものなので仕方ありません。
欲張らないで物資だけで満足していれば多少は長生きできたかもしれないのに…。まあ高校と放送局の間を縄張りにしていればそのうちまたかち合って遅かれ早かれ凪原に始末されていたことでしょう。
それでは今回の補講タイムです
お引越し
放送局に拠点を移すことになったらいろいろ入用だよねってこと。キャラバンでの移動時はバン2台に凪原達8人+荷物だったのでそこまでたくさんのものは積めていませんでした。よって後から運ぶ必要があったわけですね。行き帰りにかかる時間が短くなってるのは車が通ることができる道が分かっているから。それでも途中に1泊は必要な模様。
災害用自販機
ここ数年で見かけるようになってきた「この自販機は災害時でもご利用いただけます」って説明書きが付いた筐体。上部にソーラーパネルが付いているので、電気が止まっても物理的に破壊されない限りは販売を続けられるはず。
本作第3話(1-3)で張った伏線の回収です。パンデミック初期に善良な人間を自分の手で殺していればそりゃ覚悟も決まるというものです。並の人ならその時点で精神を病みかねませんが、良くも悪くも適応力の高い凪原だからできたことですね。
胡桃はまだ生きた人間を撃つことに抵抗があるみたいだけど、この先はどうなるんでしょうかね?まあ凪原が何が何でも守り通すでしょうけど。
最後に登場した2人
勘のいい読者の皆様ならどういう人物かお分かりいただけると思います。こちら詳細については次回ということで…
さてさて、5章も終盤にきていきなりドンパチがありましたが今回はここまでです。ついでに言うと5章は次回で終了(の予定)です。
アンケートの回答ありがとうございます。とりあえず現時点では両方書いてみようと考えているのですができなかったら許してください。
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それではまた次回!