学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

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3週間ぶり7話目

新学期が始まっていろいろ忙しいですが何とか生きてます


7,小さい子には勝てない

──8月15日 22:37 ???──

 

 

そこに座って.そう,そこに(Sit there. Yes, right there.)

 

 穏やかな声だった,声色だけなら上機嫌なのではないかと勘違いしてしまうほど.

 表情は笑顔だった,目の奥が笑っておらず額に青筋が浮いていたものの.

 丁寧な仕草だった,示された場所は土足で歩くフローリングだが.

 

 総合して言えば,レベッカはご立腹だった.額の青筋があまり明るくない照明の下でもよく見える.

 

「「はい…」」

「よーし,大人しく座ったってことは多少は自覚があるみたいねこの悪ガキ共」

「いやガキってチェ──レベッカ,俺いちおう年上…」

「あたしも,レベッカと同い年なんだけど…」

「なにか?」

「「なんでもないです」」

 

 わずかに抵抗を試みるも眼力で黙らされる人外コンビ.

 実はこの2人,ある種の威圧感に晒されると反射的にごめんなさいモードに入ってしまう.刷り込みを行ったのはもちろん,某生徒会担当教諭にして学園生活部顧問だ.

 この威圧は抑止力になるはなるのだが,これを放てる人物には()()()()()()()()()()()()される.

 

 哀れレベッカ,今後もコンビの面倒をみることが知らぬ間に確定してしまったらしい.

 

 まあそれはそれとして(彼女の未来はさておき),現在の状況についてである.

 日付は15日で時刻は夜半手前といったところ,遠足に行くという置手紙を残してから2日目の夜だ.当初の予定通りならそろそろレベッカの自宅に戻り,シャワーを浴びていた頃だろう.

 

 それが()()()()()()()()()()()()に見舞われた結果,自宅ではないとある家庭で正座させられる事態となっていた.

 

『さて,俺等は今なんで正座させられてるか分かる?』

『そりゃやっぱアレだろ,倒してそのままにしてたことでしょ』

『まあそれしかないか,(現役)の頃と違って他に理由がないし』

『理由たくさんがデフォとか,ナギってヤバい奴だよね』

『いや普通だって普通』

 

 ヒソヒソ話をする2人.正座させられているにもかかわらず割とのほほんとしている.

 ごく一般的で真面目な女子高生だった胡桃だが,凪原の影響で良くも悪くも肝が据わってしまった.恋は人を変えるとはよく言ったものだ.

 少なくとも,この言葉を言った人間はこのような変化は想定していなかったはずである.

 

「勘違いしているっぽいだから言っておくけど,ゾンビを倒してそのままにしたのは怒ってないからね」

「「え,そうなの(か)?」」

 

 てっきりゾンビを始末するだけして,そのまま通報もせず放置したことに怒っているのかと思っていたら違ったらしい.案の定勘違いしていた凪原達にレベッカは呆れながら口を開く.

 

「あのね,この街を守るのは本来警察の仕事なの.それができないでいる私達の代わりをしてくれているのに怒るわけないでしょ」

「ああなるほど…いやでも,立場的にも権限的にも大きくは動けないんだからしょうがないだろ」

「“できるかどうか”じゃなくて,“しなければいけない”のよ.それが私達の仕事なんだから」

「「おおぉ…」」

 

 まさに警察官の鏡と言える心がけだ.どこぞのクソ(アイアンズ)署長に聞かせてやりたいところである.

 聞いていた2人の口からも感嘆の声が漏れた.

 

「だから,」

「あ,俺分かるぞ.これ流れ変わる奴だ」

 

 凪原の言葉通り,レベッカの雰囲気が明確に切り替わる.

 

「私が怒っているのはきわめて個人的な理由よ.──あんた達,ゾンビどうやって倒したか覚えてる?」

「どうやってって…」

「そりゃあ……銃だよ.俺等の得物(ハルバード&シャベル)じゃ普通の人が見た時グロいじゃ済まないし」

 

 凪原の振るうハルバードや胡桃の特製シャベルの方が処理自体は早いが,一般人に見られた場合面倒が過ぎる.そのため基本は始末後すぐに(匿名で)通報したり,通報だけして駆け付けた警官に処理させたりしていた.

 

 とはいえ,遠足前夜のペースで狩るためには一々通報を挟むのでは時間が掛かりすぎてしまう.

 よって凪原達はこの夜はヘッドショットでゾンビを始末し,最低限の感染対策としてインスタント火葬をして放置していた.

 このくらいであればギャングとドンパチ大国であるアメリカならギリギリ問題ないだろう.という完全な偏見に基づいた行動なのだが,実際多少騒ぎになる程度で済んでしまった.

 

 さすがは多少の衝撃で大爆発するドラム缶が道端に置いてあるラクーンシティである.

 

「まあそうよね.それで多分知らないと思うから教えてあげるけど,今ゾンビの亡骸って他殺死体の扱いなのよ.だから一応検死があるわけ」

「うん…うん?」

「まぁ,そういうもんか?」

 

 話が見えず生返事になる凪原と胡桃,どうにも話に付いていけないようで.頭の上にはてなマークが浮かんでいる.2人が揃ってこの顔になるのはなかなか珍しい.

 特に凪原の前世(?)の同期(巡ヶ丘31期生)であれば,彼にこの顔をさせた時点で留飲を下げる者も少なくなかった.

 しかしそこはまだ初対面から日が浅いレベッカ,SSRレア表情を前にしても矛を収めない.

 

「そういうもんよ,それで検死では死因調査をするの.で,改めて聞くけどあんた達ゾンビを誰の何で()った?」

げっそういうこと………いや待った!アレ(ゾンビ)はTウイルスが原因だろう,つーかもう死んでんだからヘッドショットはノーカンだッ」

 

 レベッカの言わんとしていることを察した胡桃と凪原の声が引きつる.

 改めて言うまでもないが,ゾンビを活動停止させるためには脳を破壊しなければならない.ゆえにその亡骸は頭部が損壊した遺体に見えてしまうのだ.

 検死にて死因の特定をするとなれば,担当者がどれほどのバカであっても損傷の激しい頭を調べないはずがない.

 そして,今回2人がゾンビへのトドメに使ったのは銃であり,これは書類上レベッカが所有していることになっているものである.

 

 発射された弾丸には旋条痕というそれぞれの銃に固有の痕が付く.それを解析することで発射した銃ひいては発砲者を特定し逮捕へとつなげる.多少なり刑事ドラマを視聴したことがあれば誰でも想像できる流れだ.

 いくら上層部が腐敗しているとしてもR.P.D.にもそれくらいのことはできるだろう.

 

 つまりレベッカは,本人の知らぬうちに大量殺人者の嫌疑が掛かりかねない状況になっていたのだ.

 

 とはいえ直後に凪原が口走った言い分にも一理あった.

 まず事実として,ゾンビはすでに死んでいる.ゾンビに転化した時点で人間としての生命活動は停止しており,その死因はTウイルスである.よってそれを制圧することは殺人には当たらない.

 そして重要な事項として,ゾンビはその見た目が生きている人間から大幅に乖離している.感染してからの時間にもよるがその見た目は腐敗した死体だ.一般的な感性を持つ者が見れば死んでいることは一目瞭然だろう.

 

 そう言った客観的事実から反論した凪原に対するレベッカの答えは辛らつだった.

 

「あいにくうち(R.P.D.)じゃゾンビがウイルスによるものという共通見解すらないの,私達(S.T.A.R.S.)の報告をクソ署長が否定してるのよ.こっちの話を信じてくれる人もいるけど,まだ書類上は殺人事件として扱うしかないわけ」

「それに最近あのクソはS.T.A.R.S.を解体したがってるみたいだし,そこに司法解剖で私の銃の弾丸が出てみなさいよ.どうなるかなんて考えたくもないわ」

「「うわぁ…」」

 

 レベッカの説明に揃ってげんなりした顔になる凪原達.無能な上司ほど邪魔なものはないという,これ以上ないお手本だ.

 

「そりゃなんと言うか,災難だったな」

「えっと,それでレベッカの立場は大丈夫だったの?」

「なんとかね.あいつ等に生物学的に一番詳しいのは私だって現場レベルで説得して協力してくれる人を集めて,司法解剖をあたしがやったの.運ばれてくる亡骸全部よ,全部.おかげで2日間ほぼ徹夜になったあたしに何か言うことない?」

「ごめんなさい」

「悪かった」

「えー,そんな素直に謝られるとこっちが悪者みたいじゃ──「お兄ちゃんたちいじめちゃダメー!」エマちゃん!?」

 

 深々と頭を下げた2人にレベッカが何ともいえない表情になっていると,部屋の中に小さな影が乱入して来た.

 そのまま凪原達の前に立った影,エマと呼ばれた少女は『ビシッ』と音がしそうな勢いでレベッカを指さした.

 

「レベッカちゃんっ,お兄ちゃんとお姉ちゃんをいじめちゃだめ.2人は私の“いのちのおんじん”なんだから」

「いやエマちゃん,あたしは別にいじめてなんて」

「そうそう,ちょっと俺達がやらかしちゃっただけだから」

「どっちかというとあたし等の方がいじめちゃってた気もするし」

「む~っ,とにかくダメなの!」

「「「え~」」」

 

 レベッカが戸惑っていると,エマが開けっぱなしにしていて扉からさらに2つの人影が姿を現す.この建物,ケンド銃砲店の店主たるロバート・ケンドとその妻であるサラ・ケンドだ.

 

「まぁその辺にしとけエマ.レベッカも悪いな,どうもエマの奴この2人に懐いちまったみたいだ,言いたいこともあるだろけどいったん落ち着いてくれ」

「ケンドさんまで…………はぁ,分かったわよ.もともと八つ当たりみたいなところもあったし」

 

 ケンドの言葉を受け,上を見て下を見て,「あー」とか「うー」とか言い,最後に首を大きく左右に振ったあとにレベッカは息を吐いた.どうやら収めることにしたらしい.

 あわや稀代の殺人鬼にされるところだったものを飲み込めるあたり,彼女の人柄の良さが窺える.

 

「ただしちゃんと説明してよね,結局なんで私が呼ばれたのかよく分からないし」

「そりゃもちろん.──あれは確か2時間前…」

「そんな細かくなくていいから,要点絞って簡潔に」

「む,」

 

 

 

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──凪原回想劇場──

 

 

 女の子助けたら父親に撃たれそうになったからチェンを呼んだ.

 

 

 

====================

 

 

 

──8月15日 22:48 ガンショップケンド──

 

 

「──以上だ」

「分かるかッ,その説明で!」

「ちょっ,やめ,頭シェイクすんじゃねえ!」

 

 反射的に凪原の角を掴んで揺さぶってしまったレベッカは恐らく悪くない.

 頭の両脇から生えた実に持ちやすい角が,正座しているため実に持ちやすい高さにあるのだ.仮に前世(?)の同期達(巡ヶ丘31期生)なら確実に掴む,なんなら凪原だって同じ状況に置かれたら掴む.

 だがそれと掴まれて怒らないかどうかは話が別だ.

 

「んだよ,せっかくご要望通り端折って説明したのに」

「端折り過ぎよ!こっちが求めてること分かるでしょこの頭B.O.W.ッ」

「お?なんだやるか?てめえB.O.W.なめんなよ」

「そっちこそS.T.A.R.S.を甘く見てると痛い目見るわよ」

 

 そのまま取っ組み合いに移行する2人.

 凪原はもちろんレベッカも,本気を出せば人体など簡単に破壊できてしまうため全力ではないのだろうがなかなか見ごたえのある対戦カードである.

 じゃれ合いであることが分かっているのか,近くで観戦するエマも先ほどとは異なり大喜びだ.

 

「あーあー,ナギもはしゃいじゃって」

 

 そんな凪原の様子を,胡桃は優しい目で眺めていた.

 

 この世界で目覚めてからというもの,胡桃の目から見て凪原は変わった.

 といっても大きな変化ではなくどこがと聞かれても答えるのが難しいレベルで,無理矢理言葉にするのなら『年相応の雰囲気になることが増えた』とでも評すればいいのだろうか.『肩の力が抜けた』では表現が強すぎる.

 性格,価値観,考え方その他,彼を構成する要素は全て変わっていない.

 ただ気の張り方だけが本当に少し──前を100として95以下ということはない──緩んだ.そんな風に思えるのだ.

 

 そして実は,胡桃はそんな凪原の変化の理由に心当たりがあった.

 変化を感じたのは今の自分達の創造者であるアンブレラ研究員の手記を読み,自身がオリジナルではないと分かった後からである.

 記憶にある世界を()()と評したことで,凪原の中に本当に僅かにあった気負いが消えたのだろう.

 

 『オリジナル(自分)がいるなら問題ない,こっち(自分)こっち(バイオハザード)で好きにやる』,そんな思いが無意識の中のさらに深層部分に生まれたのかもしれない.

 

 とはいえそれで胡桃の考えに何か変化が生まれることはなかった.

 オリジナルがいるならそっちはそっちでどうにかするだろう,こっちの凪原が楽しそうにしているならそれでよい,それが彼女の嘘偽りのない本音だった.

 その気持ちが表情に出ていたのだろう,横合いから声が掛けられた.

 

「お,もしかしてあのトカゲの兄ちゃんもいろいろ背負ってたクチかい?」

「え?んーまああんまり言えないけど結構大変だったから,ということはレベッカも?」

「ええ,あの子もそんな感じだったからね」

 

 ロバートの問いかけに答えつつ,こちらからも質問を投げかけた胡桃.それに答えたのはロバートの妻であるサラ・ケンドだった.正史(原作)では存在そのものが記述されていない人物であり,人柄はまだ分からないものの穏やかな性格の様である.

 胡桃の疑問に頷きながらレベッカに視線を向ける彼女の目には優し気な色が浮かんでいた.

 

「あの娘は本当に優秀だから.たった1人でこの街の大学に飛び級して来て,そのままS.T.A.R.S.に入隊でしょ?周りの人はみんな年上ばかりで,年が近い友達がいなかったのよ」

「誰かに相談しようにも周り全員年くってるし,何より本人が気にしちゃいなかったんだ.俺達としても放置するしかなかったわけなんだが………」

 

 自然と3人の目が凪原とレベッカの方へと向けられる.

 視線の先で2人の戦いはグラウンドの攻防へと移行していた.レベッカの女性特有の素早さとしなやかさを差し引いても,手足に加えて尻尾がある凪原の方がやや有利と言ったところである.

 問題なのは両者の体勢が胡桃視点でアウトの領域に突入していることだろうか.

 

「なかなか愉しいことになってるな,嬢ちゃんも混ざってくるかい?」

「ああ,ちょっと失礼」

 

 数秒後,シッパーンッという快音が室内に響いた.

 

 





ケンド一家,好きです(唐突).妻のサラ・ケンドは原作には登場していない(ハズ)なので名前,性格含めて完全にオリジナル.どうにか救いたいから何とか方策を模索中.


それではまた次回!

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