いよいよ大学編が動き出します。が、例により派手な原作乖離がありますのでご注意を。
総合評価1000pt突破しました!ありがとうございます!
「しばらく直進でいいとして、その次はどっち行けばいいんだ?」
ハンドルを握った胡桃が助手席へと声をかける。それだけならば特におかしな点はない。これまでに何度も遠征に出ており、その中には凪原ではなく彼女が運転をしていた時もあるからだ。
そして道順を尋ねるのもいつものことである。なんせ現在の道路は乗り捨てられたり事故を起こしたりした車両に倒れた電柱や散乱する瓦礫、挙句の果てにはフラフラと動き回るゾンビであふれているため、運転手にとってはそれらを躱すのが第一で隣にいるパートナーにナビを任せるのだ。
凪原が運転しているのであれば胡桃に、胡桃が運転しているのであれば凪原に、といった具合である。
では何が普段が異なるのかと言えば、胡桃のナビをしているのが凪原ではなく由紀であるということだった。
「んーっとね、次の信号は真っすぐでその次は右。その後はすぐに左……は事故ってるからダメだね、2個目を左」
「りょーかい」
そして胡桃に対する由紀の返答もどこかおかしかった。どうして車内にいながらにして先の道路の情報が分かるのか、その理由は彼女の手の中にあった。
背丈と同じく小さな彼女の手にはやや不釣り合いな武骨な道具。テレビゲーム用コントローラーの上部にタブレットを増設したような外見のソレの画面には、高くから街を見下ろした映像が映し出されていた。
その画面と膝の上に置いた地図を見比べつつナビをしていく由紀へ後ろから声が掛けられる。
「由紀、何回も言うようだけどバッテリーの残量には気を付けろよ。充電切れで墜落でもさせたらテルが怒るからな」
「分かってるよ~」
「それにしてもドローン、でしたっけ?確かに便利ですけど照山先輩は何でこんなの持ってるんですか?前にニュースで見ましたけど、あれってテレビ撮影とか離島への配達とかに使う機種ですよね。大きいですし」
「なじみの研究室から勝手に借りてきたらしい」
「えぇ…」
由紀に声を掛けた凪原と、それに合わせて疑問の声を上げるも返された答えに困惑の色を浮かべる美紀。
この2人を加えた4人が現在車に乗っている全員であり、今回の遠征の参加メンバーだった。普段は凪原と胡桃だけであることを考えれば実に2倍の陣容だ。
それはともかくとしてドローンである。
マルチコプター、あるいは無人航空機とも呼ばれるそれはこの5年程で一気に広まった飛行機械だ。複数のローターを持つために飛行時の安定性は類似するヘリコプターを上回る。
種類も豊富であり、それこそ子供のおもちゃ程度のものから美紀が言ったように撮影や産業や本格的なものまで様々だ。当然ながらその値段も機体のグレードに合わせて天と地ほどの差がある。
由紀が手にしているのはそのドローンのコントローラーであり、画面に映るのは機体に搭載されたカメラがリアルタイムで撮影している映像だった。
車の上空にドローンを飛ばすことで前方の道路の状況を確認する、仕組みは単純だが有効な策だ。現に放送局を出発してから早数時間、行き止まりで来た道を戻るということをせずに済んでいる。
8つのローターでもって空を飛ぶその機体からは、玩具用のものでは決して出せない産業用機体ならではの頼もしさを放っていた。
とはいえいくら頼もしくても所詮は機械。バッテリーが切れたら墜落は免れず、そうなってしまえば壊れてしまい修理は不可能だろう。照山は数機持ち込んできていたものの、再補給が効く類のものでもないため扱いには注意すべきという考えから出たのが先ほどの凪原の言であった。
もっとも、いざとなったら以前手に入れた打ち上げ花火を括りつけて特攻させる気でいるためいつも通りと言えばいつも通りである。
「でもさー、ナギだって運転もナビもしないでいいってのは楽でいいだろ?]
「まぁそりゃあ、な。だいぶ楽させてもらってるよ」
運転席の胡桃からの声に、凪原は苦笑交じりに返すとそのままごろりと横になった。
どこに?
ベットに。
普通車にはベットなどついていないが、凪原が体を横たえたのは紛れもなくベットである。シートをリクライニングさせたベット(仮)ではなくきちんとしたものだ。
そうなれば彼等が今乗っている車が何なのかを想像するのは比較的容易いだろう。まず思い浮かぶのは救急車かもしれないが、わざわざゾンビが蔓延っているであろう病院まで出向いてわざわざ持ってくる理由などない。
となれば答えは1つくらいしかない。
「それにしても、あおさんが
キャンピングカーだ。
彼等が今乗っているのは普段のEVバンではなくキャブコンと呼ばれる車種、万人がキャンピングカーと聞いて思い浮かべる形の車両である。今回の遠征にあたって、凪原達は葵からこの車を借り受けていた。
「ああ、今回は普段の遠征と比べて距離も人数もあるからな。実際かなりありがたい」
「結構デカいから運転が大変だけど、なっ」
「「おっと」」
言いながら胡桃が道に倒れていた死体を避けるためにハンドルを切り、車体がわずかに揺れる。
キャンピングカーは普通の車よりも重心が高いのでバランスが悪くなっているのでそれなりに運転技術が求められるのだ。
「んも~気を付けてよ胡桃ちゃん」
「わるいわるい、ちょっと先の方見てたからさ」
「ちゃんと疲れる前に言ってくださいよ?」
「あ~、そろそろ1回休憩するか?もうさっき運転代わってから2時間以上経つし」
後部キャビンで立ち上がっていたために姿勢を崩した美紀と、膝にのせていた地図を落とした由紀に謝る胡桃。
美紀の言葉を受けた凪原の提案に皆が賛成し、その数秒後に車は道の真ん中でゆっくりと停車した。自分達以外の車など走っていないので路肩に寄せる必要もないのである。
「ん~、やっぱちょっと疲れたな」
「ドローンも屋根の上まで戻したよ」
「おう、2人ともお疲れ」
「お疲れ様です」
運転席からキャビンへと戻ってきた由紀と胡桃にねぎらいの言葉を掛ける凪原達。2人とも伸びをしたり腕を回したりして体をほぐしている。やはり座席にずっと座っていると疲れが溜まるのだろう。
「さあさあ、もうお昼過ぎてるしご飯にしようよっ」
「レトルトかインスタントぐらいしかないけどな。麺類とカレー、どっちがいい?」
「カレー!」
「はいよ、2人もそれでいいか?」
備え付けのテーブルに着くなり手を上げて希望を言う由紀。それに凪原が確認を取ると胡桃と美紀も苦笑しながら頷いてくれた。
これまた備え付けのコンロに蛇口から注いだ水で満たした鍋を載せて火にかける。あとは沸騰したところでレトルトパックを放り込めば終了だ。
水については出発前に屋根上の貯水タンクを満タンにしているのでしばらくは問題ない。
「今どのあたり?」
「うーんと…今ココだね」
「げぇ、まだ結構あるなぁ」
「まぁまだ1日目ですからね」
てきとうに準備をしている最中の凪原の背後で、3人はテーブルの上に地図を広げていた。
ナビ役の由紀が指し示した現在位置に胡桃が落胆の声を上げる。
「美紀の言う通り、それにこれでも距離は半分になってんだぞ。もともとは
「そりゃたしかにそうだけどさー」
放送局に行くのに少し逸れたから完全に半分ってわけじゃないけどな、と言いながら温まったカレーを盛り付ける凪原に胡桃は口をとがらせながら上体をテーブルへと投げ出した。
彼女的には車体の大きさから普段より運転に気を使うのに、それと対照的に移動距離は稼げないというのが何となく気分が上がらないのだろう。
「この辺りは私達の学校周りと比べて都会ですからね。その分瓦礫や奴等の数も多いから仕方ないですよ」
「みーくんが狙撃してくれてるからあんまり気にしないで済んでるけどね、ほんとに大助かりだよ」
「そんな、私なんて大したことないですよ」
「いや充分大したことだろ。最近また腕が上がってきてるし、どうしたらそこまでうまく狙えるのか教えてほしいくらいだ」
由紀の称賛に謙遜する美紀だったが、凪原はそれをかぶせるように否定する。
話している間も手は動いており、カレーの皿が3人の前と自身の席に置かれる。人数分のコップとピッチャーもいつの間にか用意されていた。
「とにかく、美紀はもっと自分に自信を持っていいってことだ。そんなこと言ってるとまた圭が怒るぞ」
「あー美紀が遠慮してると怒るもんな、圭は」
「みーくんとけーくんはラブラブだもんね~」
「いっ、今圭のことはいいじゃないですかっ。それに圭とは親友ですけど別にそういうのじゃないですし!」
由紀の言葉に顔を赤くしながら反論する美紀。テーブルを叩こうとしていたが料理が並んでいるのを思い出して寸でのところで思いとどまった。
代わりに自身のコップへ水をやや乱暴に注ぐ。それを一気に飲み干すと落ち着いたようで、今度はわずかに笑みとともに口を開いた。
「それに、ラブラブと言うなら凪原先輩と胡桃先輩の2人の方でしょう。最近一緒にいる時間が一段と増えてますよね、今もさりげなく隣に座ってますし」
その言葉に、カレーを掬い今まさに口を入れようとしていた胡桃の動きが止まる。
数秒後、聞こえなかったことにして改めてスプーンを口に運んだ彼女を今度は由紀の口撃が襲う。
「照さんが遠征でいない日の夜はこっそり凪さんの部屋に行ってそのまま帰ってこないもんね」
「っ!?!?!?」
秘密にしていたことをズバリ指摘されて思わずむせる胡桃と、その背をトントンと叩く凪原。
そんな何気ない動作からも2人の関係が垣間見え、向かいに座る由紀と美紀の笑みがますます深くなる。
「な、にゃ、にゃんで知って――?」
どうやら胡桃は驚きのあまり猫になったらしい。
「そりゃ分かるよ。胡桃ちゃんこっそりしてるつもりみたいだけどベットから降りる時で分かるし、部屋から出たらスキップしてるから結構音するんだよ」
「え……」
「それに電気を消す前からソワソワしてますし、分かりやすすぎです」
「ほ、ほんとに?」
「「うん(はい)」」
「おい胡桃、想像以上にバレてるじゃないか」
「う~、バレてないと思ってたのに」
呆れたような凪原の声に力なくうなだれる胡桃。絶対の自信、という程ではないがここまで確信を持って言われるとは思っていなかったようで動揺が大きかったようだ。
「あっ、めぐねえは気づいていないみたいだから安心してね」
「葵さんは分かってるみたいですけどね」
「や、まあそれは、うん。めぐねえにバレてたらとっくに怒られてるだろうし」
「葵さんその辺の勘鋭そうだしな」
社会人組2人の話を聞いて落ち着く胡桃と凪原。
慈は一度寝てしまえば滅多なことでは起きないし、些細な違和感などは流してしまうため隠し事をするのは容易いのだ(だからこそ凪原達31期生徒会が部屋を勝手に改造してもバレなかったのだが)。
それとは反対に葵は基本的に察しがいい。就活したてだったということもあるのだろうが周囲の様子を見ながらの気配りが得意だ。誰かが家事をしているといつの間にかその隣で手伝っている、という姿をよく見かける。
「あとりーさんから伝言で、その、『るーちゃんもいるんだから放送局でラインを越えるのは勘弁してちょうだい』とのことです」//
「「超えない(っての)!というかりーさん何言ってんの!?」」
悠里からの想定の斜め上をいく要望に声が裏返る凪原と胡桃。伝言を伝えただけの美樹の顔も赤くなっているいるあたりまだまだ初だと言えるかもしれない。
「にゅふふ、3人とも赤くなっているよ~。それに、『この伝言を聞いて赤くなるようなら心配ないと思うけれどね』とも言ってたし大丈夫みたいだね」
「りーさんなんでそこまで予測できんだよ…」
「完全に理解があるタイプのお母さんじゃないか…」
揃って何ともばつの悪そうな表情になる恋人2人、とはいえいたずらが見つかった子供のように見えなくもない。
このようにどこか幼いところがある彼等だからこそ、付き合っていても互いに夢中になりすぎることは無いし他をおろそかにすることもなく、それゆえに由紀達も微笑ましく見守ることができるのだった。
「なんかご飯食べる前にすごく疲れた気がする」
「俺も」
「なんか私もです…」
「まあまあ、とりあえず食べようよ」
この場にいないはずの悠里に振り回されたところで、ようやく4人は食事を開始した。
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「そう言えば今更ですけど、なんで今回の遠征はこのメンバーなんですか?」
食後、すぐに移動を再開するのもなんだということでしばらく休憩をしていたところで美紀が口を開いた。
「あ、それ私も気になる。言われてから割とすぐに出発だったから聞く暇なかったんだよね」
由紀も気になっていたようで、ベットに横になったままではあるが顔を凪原の方へと向ける。
「あ~、そういや言ってなかったか。ハヤとテルと話してたから言った気になってた」
問われて初めて凪原は今回のメンバー編成について話していなかったことに気付いた。極まりが悪いのをごまかすように頭を掻き、1つ咳払いをしてから説明を始める。
「まずは人数、放送局から大学は結構距離があるからいつもみたいに2人だけだとちょっと辛い。今まで言ったことが無い場所だから途中に安全に休めるところがあるか分からないし、もしなかった場合じゃ交代で仮眠をとるにしてもそれを拠点外で続けるのはリスクが大きい」
普段よりも消耗するからな、と続ける凪原に頷く面々。
「その辺は割と早い段階で葵さんがこのキャンピングカーを提供してくれたから解決。定員が4人だから自動的にメンバーの上限も4人になる」
本当にキャンピングカーを使えることの利点は大きい。車体が大きい故に制約も多いが車体そのものが簡易的なシェルターとして機能するため、通る道さえ間違えなければ移動時の安全性と快適性が格段に向上する。
「んで、とりあえず言い出しっぺの法則で俺は参加。特に大学の様子を確認したいってのが大きいな。無人なのか生存者がいるのか、いるならどんな奴なのかとか、自分の目で見ときたいことが多い。あとは対応力有りそうなメンツを選んだ、以上」
「おいナギ、最後いきなりてきとうになったぞ」
それまでの流暢な説明から一転しての投げやりになった凪原の説明に胡桃がすかさずツッコミを入れる。学園生活部では割と見慣れた光景だ。
「対応力って、ようは戦闘力のことですよね?それなら私よりも圭とか、それこそ早川先輩とか照山先輩の方がよかったんじゃないですか?」
「私もあんまり戦うのは自信ないよ?」
当たり前だが、遠征とはすなわち安全が確保された拠点から外に出ることだ。その場合における対応力とはすなわち戦闘力である、という美紀の指摘はある意味では正しい。
とはいえ、その観点に立ったうえでも様々な考え方があるのだ。
「まあ正面戦闘の能力で言えば、2人ともテルはともかくハヤには敵わないだろうけどな。ただそれじゃ能力が俺と同系列になる。全員がそれじゃいざって時に対応力が下がっちまうんだ」
その点、と言いながら美紀と由紀の方を指さす凪原。
「美紀はさっきも言ったけど狙撃スキル持ちだろ、遠距離から相手を倒せるのはデカい。由紀の方はそのよく分かんないけど高レベルな直感だ。知覚範囲外の索敵なんざ誰でもできるもんじゃない。どっちも今回の遠征に合ってるんだよ、頼りにしてるぜ?」
戦闘力にもいろいろある。相手と正面切って戦う力だけが戦闘力ではないし、そもそも相手と直接戦わずに済ませるというのも立派な戦闘なのだ。
そのことが伝わったようで、質問してきた2人も納得したようだ。任せてほしいと言うかのように頷いた。
そんな2人の様子とは対照的に、凪原がチラリと視線を向けた先では胡桃が微妙に面白くなさそうな顔をしていた。頼りにしているという言葉を掛けられなかったのが何となく気に入らないらしい。
わずかに頬膨らませつつ、それでもそれをこちらに悟らせないように努力している彼女の姿に―――
―――凪原の中にいたずら心が芽生えた。
「最後に胡桃だけど………説明いるか?」
「うひゃあっ!ちょっ、ナギ!?」
「「いらないよ(です)」」
胡桃を抱き寄せつつ、頭同士をコツンとくっつけて笑う凪原に由紀と美紀の返事が揃う。凪原からは見えないが触れ合っている胡桃の耳が熱くなっているので、その顔は真っ赤になっていることだろう。
「だが言う。昔はともかく今の俺は近くに胡桃がいてくれないと調子が出ないからな。胡桃には一緒に来てもらわないと俺が困る」
堂々と凪原が惚気れば由紀と美紀のはやし立てるような声が上がり、それに伴って胡桃がさらに顔を赤くしやがてプルプルと震え始める。
そんな時間は、耐えきれなくなった胡桃が腕を振りほどいて凪原に照れ隠しの肘鉄を入れるまで続いた。
というわけで6章第2話でした。
この章からはプロットの関係上これまで以上に原作乖離が多く起こっていきますが、話の筋は練っているつもりですのでお楽しみいただけると幸いです。
それでは今週の
ドローン
原作では最終巻にて登場しましたが、今回出てきたのはそれとは別の機体です。それも原作のような小型のものではなく、連続飛行時間も1時間を超えたガチの奴。最近では大学でも研究しているところが割とあったりするので照山がパク、借りてきた設定です。
キャンピングカー
こちら原作通り、皆さんおなじみのあのキャンピングカーです。踏破力は最低ですがある程度でも通路が確保できてるなら、このポストアポカリプスの時代にこれほど快適な乗り物もそうありません。ちなみにガソリン式なので近々使えなくなるでしょうが、便利は正義の精神で使ってます。
遠征メンバー
今回一番の原作改変、りーさんが抜けて凪原が入りました。理由としては凪原が本文中で肩った通り。今の学園生活部は人材が豊富なうえ、本作では本当にるーちゃんがいます。さらに安全な拠点(放送局)に既にいるので無理についてくる必要がない、という理由付けです。
ちなみに、仲間の安全を考えるタイプの凪原が残した皆のことを心配していないのは早川と照山を残してきてるから。元生徒会仲間のこの2人がいるなら大抵のトラブルには対処できると信用している。
さて、これにて今年の投稿は終了です。本作も2度目の年越しを迎えることができました、これも読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
来年も投稿頑張っていきますのでどうか応援よろしくお願いします。
それでは皆さん、よいお年を~