年末年始ということで前回の年末年始に続いて時節ネタpart2です。本編そっちのけでごめんなさい!でも書きたかったからね、しょうがないね(開き直り)。
正月イベントと聞いてイメージするものには何があるだろうか。
あまり深く考えずとも親戚の集まりに初詣、福袋のバーゲンセールなど、にぎやかで華々しいものがすぐに思い浮かぶ。
しかしこの正月、そのようなイベントを行っている場所は日本中どこを探しても見つからないだろう。
パンデミックの発生から既に半年以上、ゾンビが現われてから初めて迎える新年は1年前からは想像もできない程静かだった。
ただし、昨年と比較してむしろ賑やかさを増している場所も存在する。
郊外の雑木林の中、ひっそりとたたずむ真四角の建造物。コンクリート打ちっぱなしの外観は寒々しいが、屋上の菜園や掃除されて綺麗になったキャンピングカーからは確かに人の気配を感じることができる。
そして、建物の中ではそこで暮らす人達が思い思いに穏やかな時を過ごしていた。
「「……。」」
リビングの一角で凪原と胡桃が向かい合ってこたつに入り、それぞれが天板の中央に積まれたみかんの山との戦いを繰り広げていた。
既に板の端には数個分の皮が見える。きれいなヒトデ型に剥かれているものとボロボロになっているもの、2人のどちら側にどのような皮があるかを述べるのは野暮というものだ。
「あれ、ナギってその白いフサフサのやつ取らないの?」
「んー、取る時もあるんだけどな。今はめんどいからそのまま」
ふと手を止めた胡桃が凪原の手元を見て問いかければ凪原が答える。
「じゃあ1個あげる――ほら口開けて」
「ん――、サンキュ」
「うん」
胡桃が差し出した一房を口で受け取る凪原。丁寧に筋が取られたソレは甘さをより強く感じることができた。
色違いの揃いの半纏を着てのんびりとくつろぐ2人の様は、さながら一人暮らしのどちらかの家に遊びに来た恋人同士のようである。
まあ彼氏彼女という点では間違っていないのだが、その後の一人暮らしの家という点は大いに間違っている。
なんせ一緒に暮らす仲間は全部で11人。2人だけで、というにはいささか無理があった。
さらに言ってしまえばリビングの中ですら2人だけというわけではない。
カウンターの向こう側では悠里と慈がエプロンを付けて料理中だし、さらすぐ傍らでは由紀、美紀、葵、るーちゃんの4人が大型のディスプレイの前でコントローラーを握り込んでいる。対戦系のゲームらしく意識の大半はそちらに向いているようだが、流石に凪原達が何をしているのかくらいは分かるだろう。
それなのに普段恥ずかしがり屋の胡桃がこんなことをできているのは、彼女の恥ずかしく感じるラインによるものだと思われる。至近距離での直接的な接触、ようするにベタベタくっつくのでなければあまり問題ないらしい。
なら夜ベットに潜り込んでいるのは何だという声が聞こえてきそうだが、あくまで人前ではという話である。
まぁ、凪原としても四六時中くっついているというのも性に合わない。(周りからどう見えるかは置いておくとして)適度な距離感というものが大切なのである。
そんなふうにゆったりとした時間が流れていたリビングだったが、その雰囲気は唐突に打ち破られることになる。
上階で音がしたと思えばそのまま足音と声が大きくなり、すぐに廊下に続く扉が大きく開かれた。
「ただいまぁっ!ホンッと寒すぎるんだけど」
先頭で声を張りながら入ってきたのは早川。それだけ元気なら寒さなど平気だろうと思わないでもない。
「あ~部屋あったかい。やっぱ外とは全然違うね」
「同感だ、もうちょい環境に気を使って温度を低くしても罰は当たらんと思うけどな」
「おうおかえり。そう言うなっての、俺と胡桃は感染してるから体温低いんだぞ?凍っちまったりしたらどうすんだよ」
続けて入ってきたのは圭と照山。
他2人に比べて照山が平気そうなのは筋肉量の違い故だろうか。
「凍るわけあるか――っと、とりあえず報告だな。近所一体異常なし、ただ所々地面が凍ってたから出るなら足元注意って感じだったぞ」
照山達3人は年始のパトロールとして放送局の周囲一帯を巡回してきていた。
照山と早川の2人でも十分だが、圭も連れて行ったのは訓練の一環である。
「奴等は?」
「いたことはいたけどなんか鈍かったな」
「鈍い、ね。あいつ等が鈍く無い時なんてあったか?」
ゾンビの状況についての質問の答えは何とも微妙なものだった。
もともとが腐りかけの身体のゾンビだ。動きは鈍いのが当たり前で、逆に機敏だったと言われた方が驚きである。
「そりゃそうなんだけどよ…なんかこう、あるだろ。感覚的なもんがよ」
「あー分かった分かった。そんじゃ手洗ってこい、なんだかんだで冷えただろ」
「あいよ、ほら2人も行くぞ―――っていねぇ!?」
ふと傍らを見て声を上げる照山。報告を始めた時点で早川と圭は手洗い場へと消えていたのだが気づいていなかったようだ。
「2人とも割と最初からいなかったよ、照先輩」
「あーもうお前等っ、なんで報告中にどっか行ってんだ!」
胡桃の言葉に怒りの声を上げつつ照山もリビングを出ていった。
「照先輩いつもあんな感じなの?」
「ん?ああそう、だいたいいつもああだよ」
廊下に続くのとは別の、手洗い場や地下倉庫に続くドアから出ていった照山の背を見送った胡桃の言葉には若干の同情が含まれていた。
対して凪原は一瞥することもなく既に興味の向く先は次のみかんへと移っている。ヘタとは反対側から親指を突っ込み、そこを起点にして皮を剥きながらてきとうな調子で続ける。
「テルは
「なんて?」
「いや、なんでもない」
実は何となく聞こえていた胡桃だったが、詳しく聞かない方が精神衛生上良いと判断した。具体的にどれが照山提案のイベントかを知ったところで疲れる未来しか見えないのだ。
正月早々そんな思いをしたいという人はなかなかいないだろう。おとなしくみかんの皮をむく作業に戻る方が賢明である。
====================
「……それで?」
「ちょっとナギそこどいてくれない?」
「断る」
両手を合わせウィンクをしながらの早川の
「じゃー、くーちゃんお願い」
「あたしも嫌ですって。あとくーちゃんってのやめてって言ってるのに」
「なんでさ、くーちゃんってかわいいじゃん。そ、れ、よ、り―――」
今度は胡桃の方へ顔を向けるもすげなく断られる早川。そして胡桃の苦言を華麗に無視した彼女は腰に片手を当てて仁王立ちし、もう一方の手を頭上で指さす形にするとズビシッ、っと音がしそうな勢いで振り下ろした。
「―――いいからナギかくーちゃんはどっちかうちにこたつを譲ること!」
わざわざ大仰な仕草をしてまでやったのはこたつの要求である。完全にポーズや真剣な表情の無駄遣いだが基本的に
「だから嫌だって言ってんだろ。見ての通り
現在、こたつの各辺は凪原、胡桃、照山、圭の4人で占められている。あまり大きなものではないため、1辺に2人が詰めて座るということもできそうにない。凪原の言葉通り完全なる満員だった。
それは早川から見てもそうだったのだろう。しばらく「むむむ…」とうなっていた彼女だったが、やがて愉悦成分を多分に含んだ笑みが浮かんだ。
「よしっ、うちにいい考えがある!」
「ハヤがそう言ってほんとにいい考えだったためしがないんだが」
「なんかあたしも嫌な予感がする」
「おっ、ナギは当然としてもくーちゃんもなかなかいい勘してるわね」
「「やっぱりか…」」
愉悦一色になった早川に、凪原と胡桃は大きくため息をついた。
一分後
「これでよし」
「「待った(て)」」
満足げ顔をしてこたつに入り込む早川に対してストップをかける凪原と胡桃。
「あれ、もしかして言いたいことでもある?」
「逆に聞くが無いとでも思ってるのか?」
「そうだってハヤ先輩っ、これはさすがにっ」
そしてこの2つの声が全く同じ場所から上がったことが問題だった。
胡坐をかいてこたつに入っている凪原。その足の上に胡桃が小さくなって座っている。
先ほどまで着ていた半纏を脱いで凪原の身体に背を預けるような体勢になっているため、凪原が着る半纏の中にスッポリと収まってしまっていた。
「なによ。だってナギとくーちゃんは付き合ってるんだからそれくらいいいじゃない。これなら皆こたつに入れるんだから文句ないでしょー」
私は正しいことをしたと信じて疑わない早川はさっきまで胡桃がいたところでこたつにあたっている。天板にあごまで乗せて完全にくつろぎモードだ。凪原達の苦情などどこ吹く風である。
「まあまあ、ハヤが考えたにしてはなかなか悪くない方じゃん」
「そりゃテルには関係ないからなんでもそうだろうよ。まあ今回はハヤの提案にしちゃ珍しく平和的だけど、俺も胡桃も羞恥心ってもんがあるんだぞ」
面白そうな顔をして言う照山へと矛先を向ける凪原。なんでもなさそうにしているが、付き合いの長い者が見れば彼がわずかに照れているのが分かる。
「胡桃先輩もそんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃん。せっかく大義名分を持って凪先輩とくっつけるんんだし」
「おい圭、お前絶対楽しんでるだろぉ…。すごい恥ずかしいんだぞこれ」
ニヤニヤとした圭の視線から逃げるように胡桃が身体を縮こまらせる。無意識に半纏の奥に逃げようとするものの、そのせいでさらに凪原に密着することになっているということに気付いていないようだ。
なお、胡桃がモゾモゾと動くせいで絶妙な振動が凪原へと伝わっているのだが、彼は全力でもってそれを周囲に悟られないようにしていた。漢凪原勇人二十歳、我慢の時である。
その後もブツブツと文句を言う凪原達だったが、とある早川の言葉でそれがピタリと止まることになる。
「テルもけーちゃんも構っちゃだめよ。一応のポーズで文句言ってるだけなんだから、こっちが反応しなけりゃ勝手にいい感じになるわよ。ほんとに恥ずかしいだけならさっさと離れればいいし、そもそも最初からうちの提案を蹴っていればよかったんだし」
「言われてみりゃそうか」
「とりあえず文句言ってれば、格好はつくもんね」
「「う…」」
笑みを深めた3人を前にスッと目をそらす凪原と胡桃。完全に図星を指された者の動きである。
そのまましばらく顔を不自然な方向に向けていたが、やがて凪原が肩を落とした。
「あー…、こっからごまかせる未来が見えねぇか」
言い訳がましくそう話しながら顔の向きを戻し、脱力した。
ところで、凪原と胡桃の間にはそれなりに体格に差があるとはいえそれは頭一つ分あるかないかという程度である。足の上に胡桃が座っている状態では頭の高さはほぼ同じくらいだ。そして今凪原は体に入れていた力を抜いた。
つまり何が言いたいのかというと―――
ピタ、「うひゃぁ!?」
―――凪原の頭が落ちてあごが胡桃の肩に乗り、頬がくっついた状態になった。
さらにこたつに深く入るように体を前に動かしたため、必然的に胡桃との接触面積が増えた。
「待ってナギ。近い、近いってっ」
「別にいいだろ、さっき揃って黙っちまったせいでもうごまかせないし。開き直った早いぞ?俺はもう開き直った」
「切り替えが早い!前にも思ったけどナギこういう時諦めるのが早すぎるぞ!」
「31期として過ごした弊害だな。追い詰められた場合はジタバタしてもしょうがない、基本的に既に逃げ道は塞がれてるからな。諦めて流れに身を任せた方がいい」
「達観しすぎだろ!?どんな経験したらそこまで悟れるんだよ」
「そりゃあもう、色々とな」
凪原の言葉に当時のことを想像したのか胡桃が黙り込む。数秒の間そうしていたが、やがていろいろなことを吐き出すように息を吐くと彼女もまた脱力した。
体からもこわばりが抜けてリラックスモードに入ったようである。
「はぁ、分かった。追い詰められちゃったから仕方ないもんな」
「そうそう、それになんだかんだ言って胡桃だって悪い気はしないだろ」
「…ノーコメント。 そりゃ悪い気はしないっていうか嬉しいけど、やっぱり恥ずかしいって気持ちはあるわけで、でも皆の前でっていうのもそれはそれで――」
凪原の言葉に少し顔を赤らめてゴニョゴニョと口ごもる胡桃。しかしその口元はわずかにではあるが確かにほころんでいた。
(((かわいい)))
早川達こたつに入っていたメンバーだけではなく、ゲームをしていたはずの由紀達もこちらのこと状況は気付いていた。全員の内心がきれいに揃ったものの、わざわざそれを指摘する者はいなかった。
集団生活を送っている都合上、凪原と胡桃が完全に2人だけの時間を過ごせることはほとんどない。2人の性格上そこまでベタベタしたいという願望があるわけではないだろうが、思うところはあるだろう。それを分かっているが故の、からかいという形を取った皆なりの計らいというものだった。
もっとも、見ていて反応が面白いからという理由があることも事実ではあったが。
====================
「にっしても、まさかこの状況で新米と餅が食えるとは思ってなかったな」
「そーそー、そもそも移動中はインスタントの麺類ばっかだったからお米自体久しぶりだったしね」
「なんか聞いてるだけで体調崩しそうな食事っすねー、ニキビとか大変だったんじゃないんですか?」
早川と照山の会話に口を挟む圭。
リバーシティ・トロンにいた頃は男性陣が色々と食料を確保してきており、高校に来てからは慈と悠里の奮闘により栄養まで考えられた食事を摂っていた圭からすれば、この2人の食事事情は何とも想像しがたいものだった。
「うーん…意外とそうでもなかったのよこれが。ほら、最初に会った時普通に肌綺麗だったし髪も艶々だったでしょ?」
「うっわぁ、確かにそうだったけどなんか同じ女としてむかつくな~。もしかして美容とか気にしてなかったタイプ?」
「ふっふっふ~、その通り。生徒会時代は数日帰れないとかもザラだったからね。そっち方面に気を使う余裕なんてなかったわけ」
「いやそれならなおのこと気を使うべきでしょっ」
圭の意見は一般的な女子としてはごく真っ当なものだが、残念ながら早川には当てはまらない。
「うちは新陳代謝高いからカロリーさえとっときゃどうにかなるのよ。それに美容なんて、必要な物だけ吸収していらないものはさっさと出しちゃえば気にする必要なんてないでしょ?」
「はい今早先輩ライン超えましたー、今世界中の女子に喧嘩売ったからね。一体どれだけの女子が美容に命かけてると思ってるのさ!」
「言わせとけ祠堂さん、新陳代謝が高いってことは細胞分裂も早いってことだ。要するにハヤは早く老ける。そのうち嫌でも美容に気を使うよう――痛ってぇ!足つねんじゃねぇよっしかも腿の内側ってお前鬼か!って痛ぁ!ちょっ、なんで祠堂さんまで!?」
「男性が女性に対して老けるなんて言っちゃいけないんですよ!」
フォローをしたつもりの照山だったが言葉選びを間違えたせいで圭からも蹴られたようだ。
「こいつデリカシー無いのよねぇ、そんなんだから昔からモテないのよ」
「うっせぇ大きなお世話だっ。お前だって顔は良い癖にがさつだってことでモテるどころか逃げられてただろうが!」
「ほー、そういうこと言っちゃうわけね―――
だいたいアンタは―――
それならお前こそ―――
そのまま圭をそっちのけでギャイギャイと喧嘩し始める照山と早川。その様子は何ともこなれているというか、お互いのことが分かったうえでじゃれ合っているというか、何とも言えない距離の近さが感じられた。
そしてそれを見つめるジトっとした視線が2、いや3組。
「…なぁナギ」
「なんだ?」
「早先輩と照先輩ってさ…」
「さて、ね。少なくとも高校時代はそうではなかったぞ」
「でもあの様子だよ、怪しくない?それにあの時からずっと2人で旅してたんでしょ?」
面白そう、と判断したのか圭の目が輝いている。
「まああの感じじゃお互い何も考えてないと思うぞ。そして仮にそうなったとしても、今の関係壊したくないとかでどっちも絶対告白しないだろうし」
高校の頃も大体あんな感じだったし、と続ける凪原。それに「え~」と不満げな顔をしていた圭だったが、急に何かを思いついたように口を開いた。
「もしかして31期の生徒会って全員ヘタレ?」
「あ、なんかストンと納得できた。ナギって肝心なとこで弱気になるし」
「うし、2人とも表出ろ。寒中稽古だ」
以上、お正月回でした~。
………おかしいな。こたつのことしか書いてないぞ?
本当は餅つきしたり、雑煮を食べたり、双六やったりさせるつもりだったんのですがこたつの部分だけで4500文字をオーバーする異常事態が発生したためこのようなお話となりました。自分でも自覚していなかった趣味趣向が図らずも露見してしまった…。
これならタイトル『冬の1日』とかでもよかったかなぁ。
全体通じてほぼこたつなんで、
新米・お餅
実は近くの田んぼの世話をちょくちょくしていたりした。缶詰やその他の保存食と比べてレトルトご飯って少し賞味期限が短いんですよね。袋詰めされた調理前のものはそれこそ大量にありますが、「日本人なら新米が食べたい」という凪原(とあと主に由紀)の希望の結果稲作に着手していました。
とはいえ水抜きくらいしかしていないので収穫率は高くないです。まあ辺り一帯の田んぼ全部から収穫できるのでそれなりの量にはなっています。
………という話を本編で書きたかった。
ということで、通算2回目の時節ネタでした。
次は本編のお話です。来週の投稿を目指していますが出来なかったらごめんなさい。
それでは、皆さんにとって今年がより良い一年となりますように!
2021年も本作『学園生活部にOBが参加しました!』をよろしくお願いします。