学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

78 / 108
生存報告がてら投稿
前回から空いてしまいましたが楽しんでいただけると幸いです。


6-5:酒を片手に

「そんで?わざわざお酒まで持ってきて何が聞きたいの?」

「おっいいね。そういうストレートなのは嫌いじゃないぜ」

 

 凪原が持参した方の酒をコップに注ぎ、かるく乾杯したところで晶が口を開いた。その言葉に、凪原も口に含んだ分を飲み込み面白そうな笑みを浮かべる。回りくどい言い方をすることなく単刀直入な態度は好感が持てた。

 

「ほへ?会長、ただお酒飲みに来ただけじゃないの?」

「それはトーコだけ」

 

 頭の上に疑問符を浮かべる桐子にボソッとツッコミを入れる比嘉子。両手でコップを持ちコクコクと飲んでいるものの、その中身はかなり強めの酒。どうやら彼女も酒豪にカテゴライズされるようである。

 

「いやほら、会長と一緒に来た子達うちの後輩たちじゃん?高校生の前でお酒飲むのを遠慮してたとかかと思ってさ」

「あーないない、拠点じゃあいつ等の前でも普通に飲んでるから。なんならめぐねえは毎日ビール飲んでるし」

「うっそめぐねえお酒飲むの!?」

 

 学園生活部側の事情は当たり障りのない範囲で既に話してある。ゆえにこちらに慈がいることは分かっていた桐子は、彼女が大酒呑みであることに驚愕していた。外見とのギャップを考えれば無理のないことだろう。

 

「はいはい、身内ネタはこっちが分かんないからおしまい。本題に移ってよ、えーと…呼び捨てで平気?」

「問題なし」

「オッケー、んじゃアタシはアキでいいや」

「私も…ヒカでいい」

「アキにヒカね、了解」

 

 合流時の時間が遅かったためてきとうながした自己紹介を済ませる。

 

「それじゃやっと本題ね。わざわざほかの皆が寝てから来たってことは…あんまり聞かれたくないことなの?」

「いんや、別にそういうわけじゃないさ。今日は元々徹夜するつもりだったからそのついでに情報収集を、って感じ。他の皆は疲れてるだろうから休ませた方がいいしな」

 

 何となく声を潜めて聞いてくる晶に、なんでもなさそうに手を振って答える凪原。

 とはいえ独断で動いているため、他のメンバーにバレたら文句の一つでも言われるかもしれない。特に胡桃は怒りそうである。「1人で無理するんじゃねえ」と頬を膨らませるのが容易に予想できる。

 もっとも、胡桃を含めて凪原以外の遠征メンバーは現在別室でスヤスヤと夢の中だ。先ほど部屋を覗いた時は、並べた布団の中でお行儀よく寝ている者、寝返りを打っている者、派手に布団をはだけている者、寝相に性格が出ている様はなかなか面白かった。

 

「ふーん…、まあ会長が徹夜するのはいつものことだし気にしないけど。とりあえず何が知りたいか言ってみてよ」

 

 高校時代の凪原を知る桐子が先を促したところで、ようやっと話が本題へと移った。

 

 

 

====================

 

 

「聞きたいのはあれだ、俺達が門のとこに来た時に出てきた連中。あいつ等は何なんだ?」

 

 そう凪原が問いかければ、3人の表情は何とも言えないようなものに変わった。

 

「やっぱりそれよね」

「武闘派のことかぁ~」

「武闘派だと?」

 

 桐子が言った単語に反応して聞き返す凪原。

 

「そ、武闘派」

「あれがか?ただのチンピラだろ」

 

 訝しげだった表情を、はっきりと不快感を表したものに変えて吐き捨てる凪原。

 彼にとって武とは戦い、勇ましさを示す漢字だ。武士、武術などの単語にも用いられているように、その善悪はさておくとしても誇りを伴うべきものだと考えている。

 それがどうだろう、この日凪原が対峙した武闘派の人間は誇りなど欠片も感じることができなかった。自分達が有利であると信じて胡坐をかき、深く考えようともしない。そしてあまつさえその立場を笠にして相手に理不尽な要求を突きつける。

 武とは程遠い、それこそ外道と断じても良いレベルだ。

 

 というかそもそも、

 

「だって弱いじゃねえか、あの連中」

 

 凪原の言葉は彼の感想を端的に表していた。

 別に向こうの武器が槍やボウガンだったのに対しこちらが銃をもっていたから、と単純に言っているわけではない。武器の優劣ではなく、それを扱う人間の差の話である。

 凪原が見たところ、門にいた5人は全員が素人。ただ武器を持っただけの大学生という印象だった。体力こそそれなりにはあるだろうが、技量・練度は三下もいいところだ。

 胡桃どころか圭でも勝てそうだし、あしらって逃げるくらいなら由紀でもできるかもしれない。

 

「あはは、そりゃ会長からすればそうかもしれないけどねー。ボクらからすればやっぱり強い相手だよ、人外の会長と比べられても困るって」

「あー…、そういうもん、なのか?」

 

 苦笑しながら話す桐子に首をかしげながらも頷く凪原。

 たしかに、いくら31期の仲間(変人達の1人)だとしても桐子は小柄な女性、さらに言えばインドア派の人間である。

 視線を巡らせてみても、比嘉子は運動能力以前に性格が戦闘に向いていなそうだし、晶はそこまで弱くはないにしても平均的な女子大生の範疇を出ることはないだろう。恐らくは体育会系であろう武器を持った男に正面から立ち向かうのは少々難しい気がする。

 

 しかし自分を当然のように人外認定するのはどうなのだろう、と凪原は思った。たしかに身体能力には少しばかり自信があるし、パンデミック以降は欠かさず訓練を続けてきたので誰であろうとそうそう後れを取るつもりはない。

 だからと言ってバケモノ認定はいかがなものなのだろうか、桐子は高校生当時の自分しか知らないわけだし。

 そのような思いを抱きつつも、口に出したところで取り合ってもらえない気がしたため、凪原は黙って酒を呷った。

 

閑話休題

 

「とりあえず名前はいいや、結局あいつ等って何なんだ?今の時点で俺の中では武器持ったバカなんだけど」

「うん、間違ってないね!」

「いやそれは極端すぎ、代表もあっさり肯定しないで」

「ん~そう?じゃあアキ、説明よろしく」

「あっ、それが狙いか」

 

 頭に手をやってやられたため息をつく晶だったが、笑ったままの桐子の様子に諦め、首を振って咳ばらいをすると凪原に向き直った。

 

「そんじゃアタシからざっと説明するね。そもそもこんな状態になったばっかの頃はさ、あいつ等も今みたいじゃなかったんだ」

「人数ももっとたくさんいたしね」

「そうそう。ただあの時は今のように水と電気があったわけじゃなくてね、ぶっちゃけどんどん人が奴等にかわってった」

 

 パンデミック当初のことを思い出しながら語る晶の声は沈んでいた、桐子と比嘉子の2人の表情も暗いものだ。その、変わってしまった人の中には当然彼女達の友人もいたことは想像に難くない。

 

「それでも最初の頃はまだ何とかなってたんだ、購買部とか食堂の在庫もかなりあったからね。校舎の安全が確保できた後はみんなで救助を待とうって感じだった…でも」

「助けは来なかった、と」

「そう」

 

 凪原が最後を引き取れば、晶は頷いてから再び口を開いた。

 

「救助が来ないまま食料がほとんどなくなってさ、それで近くのスーパーまで調達に行くことになったんだけど、」

 

 その後の内容は凪原をして思考を一瞬停止させた。

 

「車4台、20人で出掛けて戻ってきたのは4人だけ。車も全部なくなって収穫はリュック2つ分だったんだ」

「……マジか」

 

 人的損失8割、それに車両の喪失も加われば、この遠征の失敗がコミュニティに与えた影響は大きかったことだろう。ただでさえ追い詰められかけていたところに起死回生の一手として計画されたことも考えれば、その絶望感は想像して余りある。

 

「そこからね。あいつ等、武闘派が表だってきたのは」

 

 詳しく聞くと、遠征に出るまでは第一波を乗り切った教授がリーダー的役割をしていたらしい。温和な性格で、皆に分け隔てなく接する人柄から他の生存者達のよりどころとなっていたようだ。

 しかし彼自身が提案し、先頭に立って出発した遠征における最初の犠牲者が彼だった。

 それにより遠征グループは浮足立ち、壊滅。帰ることが出来た人数は片手の指で足りるほど、そしてコミュニティ自体も混乱状態に陥った。

 そんな状況で立ち上がったのが武闘派ということだったらしい。

 

「遠征の生き残りを核にしたあいつ等は、規律第一で仕切り始めたんだ。ただその規律っていうのが『戦える奴は優遇してそうでないのは差別する』って感じでさ……」

「あー、名前からしてそんなこったろうとは思ってた。にしても働かざる者食うべからずとかじゃやなくて完全武力優先かよ、前時代的ってレベルじゃないぞ」

 

 晶の言葉にため息交じりに返す凪原。働かざる者食うべからずであればそうそう問題もなかったはずだ。非常時であることに間違いはないのだから、皆がなんらかの役割を持つべきという論であれば凪原も同意見である。

 その中で戦うことの優先度が高いというのも、全面的にではないが理解はできる。ゾンビという明確な脅威が身近に存在しているためそこは仕方がない。

 とはいえ、それで戦えない者は差別するとなれば話は別だ。

 コミュニティの維持は戦うことだけでは決して成し得ない。料理や洗濯、物資の管理や状況分析などの実務的な仕事だけでなく、場の空気を明るくできるなど精神的な役割も立派な役割である。多様性があってこそ集団は有機的に機能するのだ。

 それを無視した武闘派の考え方は、凪原にとって到底受け入れられるものではなかった。

 

「それに、戦える奴でも少しでも怪我したら危ないからって、分かるだろ」

「よくまあそれで士気が保てるな」

「なーんか、怪我する奴は弱い奴って風潮みたいだからね~。でもボクたちはそういうの苦手だからさ、文句言ったら勝手にしろって言われて、それで勝手にしてるんだ」

「みたいだな、割と好きにしてるみたいだけど、よく容認されてるな」

 

 言いながら視線を巡らす凪原。室内には多くのゲーム機に漫画、DVDなどの娯楽用品に今自分達が座っているクッション、隅の方にはカップ麺入りの段ボールが積み上がっている。以前彼女が設立したゲーム部室とほぼ同じ様相は、彼女が文字通り好き勝手やっていることの証明だった。

 いくら勝手にしろと言われたとはいえここまでくると文句の一つでも言われそうなものだ。

 

「そこはちょいちょいっとね~」

「端折りすぎない、全部ヒカのおかげでしょうが」

 

 得意げに言った桐子に晶がピシャリとツッコミを入れる。

 

「別に………」

「そうだった。勝手にしろって言われた後は本当にほっとかれてさ、水もゴハンもなくなってそろそろまずいかなって思ってたらヒカがさ」

 

 そこまで言ったところで比嘉子の手を取ってヒラヒラと振る桐子。

 

「非常用の電源を見つけてくれたんだよ、あとは地下倉庫もだね」

「やっぱあったか――電源っていうと、太陽光発電か?」

「うん、屋上にあったから……どこかにつながってると思って調べた。キャンパス全体につながってるみたいだったけど、校舎にだけ給電されるように配線をいじった」

「それで電気と、あと同時に水道も使えるようになってさ。武闘派もその恩恵にあずかってるから、何も言ってこないってわけ」

「なるほどな、そういう訳か」

 

 よくは思われてないだろうけどね、と締めくくった桐子に頷きながら凪原は納得した。無価値と判断して放り出したらライフラインを復旧させたとなれば、なるほどそれ以上文句は言えないのだろう。とはいえ桐子の言葉通り、内心では忌々しく思われていることだろう。

 とはいえ、今はそれを考えても仕方ないため頭を切り替える。凪原としては先ほどの話の中に気なる点があったためそこについて聞きたかった。

 

「ところでヒカ、さっき配線をいじったって言ってたけどもしかして電装関係得意?」

「うん、工学部で……その関係のことも勉強してたから、ある程度のことはできる」

 

 そう、比嘉子の工作技術である。なんせ凪原達が巡ヶ丘学院を放棄せざるを得なかったのは、配電盤がショートして電装関連が故障したことによるところが大きい。

 もし修理できるのであれば、実際に戻るかどうかはさておくとしても選択肢がグッと増加するのだ。

 

「ものは相談なんだけど、ショートした配電盤って直せたりしないか?恐らくここにあったのと同じタイプだと思う」

「うーん………見てみないと分からない、かな。部品とかはあるから多分直せると思うけど、あまりにも損傷が激しかったら難しい、かも」

「いや、今はそれだけ聞ければ十分。サンキューな」

「うん」

 

 凪原のお礼に、比嘉子は小さく顔をほころばせる。どうしてもゾンビと戦うことができず、役立たずとして真っ先に放逐された彼女にとって、自分の技術を認めてもらえるのはとても嬉しいことだった。

 

「ちょっとちょっと、いきなりそんなこと聞いてどうしたのさ会長。1人で納得してないでボクたちにも分かるように説明してよ」

「たしかに、それに凪原達拠点から来たって言ってたけど、なんでわざわざここまで来たのか聞いてなかったよね。教えてくんない?」

 

 桐子に晶が興味津々(比嘉子も口にせずとも気になっているよう)であるため、凪原は少し悩んだがある程度詳しく事情を話すことにした。

 持ってきていたポーチから取り出したのは、件の緊急避難マニュアルとちょくちょく付けていた日々の記録である。ただし放送局の具体的な位置などが分かる情報や地下倉庫に銃があったという情報は抜いてある。

 自分達以外の生存者と会った時に見せることを前提として用意したものなので情報対策は万全である。

 

「―――うわっ大変だったんだねアンタら」

「ここも拠点の1つだったんだ……どうりで設備が良すぎると思った」

「それでウチの大学に来たらボクらとか武闘派とかと会ったってわけかー」

 

 パラパラと冊子をめくる3人、一部が伏せられているとはいえかなりの衝撃情報のオンパレードに驚きを隠せないようだ。

 

「まぁ何とかやって来たって感じだよ」

「ダウト。会長が自分の本拠地にいて、その上でこの大学みたいな設備的なバックアップがあるんなら、()()()()なんてのは絶対嘘。どうせバーベキューとか夏祭りとかしたに決まってんじゃん」

「いや、それはさすがに――」

「なぜバレたし」

「いややってんの!?ほんとにっ!?」

「すごい」

 

 桐子の言葉を否定しようとした晶だったが、凪原の言に素っ頓狂な声を上げた。比嘉子も目を大きくしている。

 

「やっぱりね。アキ、ヒカ、会長はこういう奴だよ。人間の中の突然変異、バグかチート個体みたいなもんだから」

「そりゃ言い過ぎだ、俺ぐらいならその辺探せば結構いるだろ。それに俺でバグならテルとかハヤはどうなるんだよ」

「あの2人は会長と合わせて直接間接問わずボクの知ってる人の中の変超人ランキングトップ3だよ!」

「新たな言葉を生み出すな、なんだ変超人って」

 

 ボケてるのか本気なのか分からない桐子の言葉を、空いている彼女のコップに酒を注ぐことで中断させる。8文目あたりまで入れれば彼女は礼を言ってからグイっと呷った。

 袖で口元をぬぐったところで仕切りなおすように「ま、」と口を開く。

 

「会長の方も大変は大変だったみたいだし、ボクたちも結構苦労した。でもこれからはきっとよくなるよ。これはその前祝ってことで―――乾杯」

「「「乾杯」」」

 

 彼女の音頭にはしゃぐでも沈むでもなく、凪原達は自然にコップをぶつけあった。

 話題は情報共有から愚痴や高校時代の思い出語りなど、何の法則もなく様々な事へ移ってゆき、気づけば窓の外が明るくなり始めていた。

 

 

====================

 

 

 

 そんなわけで翌朝、桐子達3人と一緒になって寝落ちしていたところを胡桃に見つかった凪原は、むすくれてしまった彼女をなだめるのに非常に苦労することとなった。





以上、穏健派と凪原との語らいでした。
それと同時に武闘派の方も少し掘り下げています。原作にあったトーコの「あいつらも悪いやつじゃないんだけど」という発言から色々考えてみました。まあ凪原が納得するには至りませんでしたけど。
お酒要素は文中にほぼなかったですが、チビチビ呑みながら話しているという感じで脳内補完お願いします。


現在公開可能な情報

今回おやすみ中の由紀達
原作と同じく個室をもらいましたが結局皆同じ部屋で寝ています。凪原も胡桃に呼ばれましたが由紀や美紀もいるので辞退。ちなみに大学到着を原作よりも遅い時間に設定しているので、詳しい話は明日ということにして寝てもらいました。
凪原が徹夜する気だった理由は次回あたりに書く予定。

武闘派の成り立ち
名もなきモブ教授は犠牲となったのだ。いくら何でも初期段階で教員の生き残りがナシってのは不自然。それに武闘派の差別的行動がいきなり受け入れられるとは考えにくいため、その辺を自分で納得できる感じに仕上げてみました。

ヒカの電装スキル
原作の扉絵にあったウォーターポンププライヤーを持つ彼女を見れば分かる。彼女はプロだ、俺は詳しいんだ。


学園生活部のキャラが出ない話はかなり久しぶり(というかプロローグ以外では初?)でしたがいかがでしょうか。隔週で投稿できればいいなとか言っときながらいきなりできなくてすいませんでした。次は頑張ります。


それではまた次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。