学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

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また期間が開いてしまいまして申し訳ありません。何とか規定量が書き上がったので投稿します。


6-6:盗人

「―――今何時だ?」

「お、起きたかナギ。もう3時過ぎだぞ」

 

 ベット替わりにしていたクッションから凪原が体を起こすと、それに気づいた胡桃が顔を上げて答えた。リラックスタイムだったらしく、制服の上にパーカーを羽織ったいつもの格好で寝転がる彼女の手元では漫画が開かれている。

 言われた言葉に視線を巡らせてみれば、やや西向きの窓から太陽の姿を見ることができた。

 

「あー…、思ったより寝てたな。桐子とかはどした?その辺で寝てたよな?」

「トーコさん、じゃなくてトーコ達なら1,2時間前に起きたよ。軽くご飯を食べて今は隣の部屋でゲーム大会中」

「マジかよ。あいつより長く寝てたとか、結構疲れてんのかね」

 

 高校時代、授業中にひたすら惰眠を貪っていた印象のある桐子よりも眠りこけていた事実に軽くへこむ凪原。

 

「そりゃ夜通しお酒呑んだりしたら疲れるんじゃないの?…あたしに内緒で

「だーら悪かったっての。というか言ったとしても胡桃は年齢的にまだ酒呑んじゃだめだろうが」

「そーだけど、そういうことじゃないっ」

 

 チクチクと投げ掛けられる嫌味に生返事を返しつつ、凪原はストレッチを始めた。まずは首や腕などの上半身、その次は腰回りで続いて下半身、といった具合に体の各部をほぐしていく。

 時間にして数分程度の簡単なものだったが、終わるころにはまだ眠そうだった凪原の顔がシャキッとしたものになっていた。

 

「さて、目が覚めたところで腹減ったな。車からなんか持ってきてたっけか」

「あっそれだけどさ、トーコがその辺に積んであるやつてきとうに食べていいって言ってたよ」

「ほーん、ならありがたくもらうとするか、時間も時間だしなんか軽めのものはっと――」

 

 レトルト食品やらカップ麺やらが入ったダンボールを物色する凪原を視界の端にとらえつつ、胡桃は食卓の準備を始めた。開いていた漫画を棚に戻してクッションを脇に放り投げる。

 隅に片付けられてた折りたたみ式のテーブルを部屋の真ん中に持ち出し、ポットの電源を入れたところで選び終えた凪原が戻ってきた。

 

「おいナギ、軽くって言ってたよな?なんで大盛りのやつを持ってくんだよ」

「記憶に無いな。ダンボールにこいつが入ってたのが悪い」

 

 麺量1.5倍のロゴがでかでかと描かれている大盛りのカップ麺をテーブルに置いた凪原に呆れ気味の声をかけるが、その程度で彼が動じるとは胡桃も思っていない。

 よって軽くため息をつくだけに留め、入れ替わるように自身もダンボールの前へと移動する。少し悩んで食べるアッサリしたワンタンスープを食べることにした。

 

「なんだ、結局胡桃も食うのかよ」

「うっさい。そんなデカいの目の前で食べられたら絶対お腹減るし、これくらいなら食べても平気だって。……ちょっと体重計が怖いけど」

「それぐらいじゃ全然平気だろ?スタイルよく知ってる俺が言うんだから間違いない」

「変態」

「一応フォローしたつもりだったんだけどな……」

 

 胡桃のジト目から逃れるように凪原はカップ麺のふたを剥がした。

 

 

 

====================

 

 

 

「そういや由紀と美紀は何してんだ?隣で桐子達とゲーム大会?」

「………2人とも図書館に遊びに行ってる」

 

 容器にお湯を注ぎそろそろ食べられる頃合いになっても視線の圧力が止まなかったため、苦し紛れに話題を振ってみればようやく胡桃の雰囲気が元に戻った。

 未だ顔が微妙に赤いのは『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』理由を思い出しているためだろうが、それを突くほど凪原もデリカシーがないわけではない。

 話題に乗ってくれた彼女に感謝し、おとなしく会話を続けることにする。

 

「図書館?なんでまたそんなとこに……、美紀に付いていったとかか?大学の図書館なら原語版の本もあるだろうし」

 

 美紀は高校にいた頃から時折日本語訳でなく原語のままの本を読んでいた。

 和訳されたのと比べると微妙にニュアンスが違うところがあって面白いんです、笑いながら彼女がそう言っていたのを思い出した凪原が尋ねるも、胡桃は首を横に振って答えた。

 

「いや、由紀が引っ張っていったよ。一緒に勉強するって言って」

「は、漫画読むの間違いじゃなくて?」

 

 どう考えても由紀は自分から進んで勉強をするタイプではない。慈や悠里が定期的に開催する勉強会も、何とか躱せないかと放送局内で身を隠したことは記憶に新しい。

 結局その時は悪ノリした早川や照山、それに圭や葵なども巻き込んでかくれんぼ大会となってしまった。普段は観客サイドの慈達2人がなし崩し的に鬼役となりかなり本気で参加していたため、なかなかに白熱したのは記憶に新しい。

 なお皆を煽って事態をイベントに発展させた張本人たる凪原だが、鬼役にみっちり説教されたものの例により反省していない。

 楽しかったからヨシ!、である。

 

「なんか、大学生は図書館でレポートをやってこそだよ、だとさ」

「あー……なるほど」

 

 どうやら大学図書館というワードが由紀の中の大学生のイメージに突き刺さったらしい。目をキラキラとさせて呆れ顔の美樹の手を引っ張っていく由紀の姿を、凪原は簡単に想像することができた。

 

「まぁ大学生のイメージとしては間違ってはいない、な」

「そういやナギも大学生だったんだよな。やっぱ図書館でレポートとかやってたの?」

 

 今更ながらに凪原が現役の大学生だったことを思い出し、胡桃は彼の学生生活に興味を持ったようだ。パンデミック当時、高校3年生の春という大学進学を意識し始めた時期だったこともあり、大学生というものに興味を抱いていた。

 それどころでは無い状況が続いたために有耶無耶になっていたが、偶然大学という場に来たこともあってその疑問が復活した形だ。

 

「そういやって、忘れないでくれよ。んでレポートか、やったかやってないかで言えばやったけどさ」

「なんだよ、はっきりしないな」

 

 麺をすすりながら曖昧な言葉を吐く凪原に首をかしげる胡桃。普段はっきりとものを言う彼らしくないその様子はなかなか新鮮に映ったようで目を瞬かせている。

 

「いや…、たしかに図書館でレポートとか課題を進めるぞ、ただ―――大抵の場合30分以内に寝落ちする」

「それ勉強してないじゃん」

「そんな目で見るなよ、俺だけじゃなくて大抵の奴はそうだから」

「余計にダメでしょ」

「うん、まぁそうなんだけどよ。一応弁明させて?」

 

 半眼になる胡桃を手で制しつつ、凪原は言い訳を口にする。

 

「ほら、図書館って本の保存のためにちょうどいい温度に保たれてるだろ?それに椅子の座り心地も教室よりいいし、静かだし―――そりゃ寝るだろ、むしろほかに何しろってんだ!?」

「逆切れすんな!課題やれよ!?」

 

 弁解に見せかけた凪原の逆ギレに反射的に正論で返すあたり、勉強が苦手とはいえ胡桃はやはり真面目なのだろう。

 

「そりゃ、ごもっとも。ただ真面目に弁解させてもらうとさ、図書館で課題やろうとする段階じゃそこまで追い詰められてねえんだよ。空きコマの間の時間つぶしを兼ねて少し課題を進められればいいかなって程度。本腰いれて課題を進めるのが図書館じゃないってだけだ」

 

 もちろん、図書館で真面目に課題をこなす大学生もたくさんいるだろう。あくまで凪原の主観ではそうだというだけだ。

 とはいえ凪原とて学生としての自覚くらいある。提示された課題はきちんとこなしていた。

 

「あーそういう感じなんだ。それじゃほんとに追い詰められてるときはどうすんの?」

「提出期限が迫ってきたところで徹夜。もしくは誰かに昼飯奢って見せてもらう」

「おい」

 

 きちんとこなしてはいたが、バカ真面目にこなしていたわけではない。一瞬納得した自分を返せという様子の胡桃に凪原は肩をすくめてみせた。

 ただ真面目なだけでは大学生として不十分である。適度な手の抜き方に過去レポや過去問を集められる人脈の作り方、場合によっては教授への取り入り方などを学ぶのも立派な大学生の務めである。

 

 ちなみにこれらも全て凪原の主観である。

 

「はぁ、なんか大学生のイメージが一気にナギみたいな自由人の集まりになったんだけど」

「胡桃も性に合うと思うぞ」

「おいそりゃどういう意味だよ」

「深い意味はないから気にすんな」

 

 納得しないで言いつのる胡桃をスルーし、カップ麺を持って立ち上がる凪原。容器に残ったスープを捨てに行くのだ。飲んでしまうこともあるが今日は健康志向な気分のため腹に入れるのは麺だけにしておく。

 なお、カップ麺を食べる時点で健康的ではないという意見はこれを棄却する。

 

「あっナギさんだ。やっほ~」

「もう起きていたんですね」

 

 スープをトイレに捨てて(その辺のシンクに流すとU字管部に麺の切れ端などが溜まってにおいの原因になる)部屋に戻ると、図書館に行っていたはずの由紀と美紀が戻ってきていた。

 カーペットの上に座る2人の手の中にはそれぞれ漫画と英文小説。少し離れた場所に放られた使った形跡の無いレポート用紙と筆記用具が哀愁を漂わせている。

 

「おい、レポートはどうした」

「うっ」

 

 凪原の言葉に由紀が分かりやすく目を逸らした。

 

「………や、やろうとは思ったんだよ?」

「嘘つけ、どうせ入った瞬間に漫画コーナーに突撃したんだろ?」

「ちがうよ!ちゃんt「さすが凪原先輩、その通りです」突撃はしてないもん!」

 

 美紀の横やりにもめげず否定を続けようとした由紀だったが、形勢不利と判断したようで話題を変えることにしたらしい。

 

「あのねっ、図書館にヌシがいたんだよ!」

「「ヌシ?」」

 

 聞き慣れないワードを耳にして由紀の目論見通りに釣られる凪原と胡桃。

 

「ヌシってアレ?川とか海とかにいる奴のこと?ほら、ぬし釣りみたいな」

「おい胡桃、お前ほんとに女子高生だよな?なんでそんな昔のゲーム知ってんだよ」

「あれ、そういえばなんでだろ?」

 

 キョトンとした表情で首をかしげる胡桃。どうやら無意識に出た言葉らしく、素で分からないようだ。

 

「もー、胡桃ちゃんの実年齢はどうでもいいよっ」

「よくねーよ!あたしは正真正銘18だぞ!?」

「俺は胡桃が何歳でも気にしないぞ、たとえ年上でも胡桃は胡桃だ」

「凪原先輩、いいこと言ってる風ですけど顔がにやけてますよ」

「そっちの2人も黙れ、だいたい美紀も笑ってるじゃねえか!」

 

 袋叩き(からかい的な意味で)に合い顔を真っ赤にして叫ぶ胡桃。

 元々胡桃はいじられキャラだ。最近はあまりなかったが、隙を見せたら付け込まれるのは当然である。

 

「はいはい、胡桃からかうのはこの辺にしとこう。これ以上やったら暴発しそうだし」

「そうだね、まったく胡桃ちゃんはしょうがないなー」

「なんであたしが悪いみたいになってんだよ……」

 

 やれやれと言わんばかりに首を振る由紀にどうにも納得がいかない胡桃だったが、これ以上引っ張っても良いことはなさそうなので小さく唸るだけにに留めることにした。

 

 

 

====================

 

 

 

「―――なるほど。図書館の本全部読みつくすまで動かない、か。そりゃ確かにヌシだな」

「あたしは無理だなー。そんなことしてたら体が鈍っちゃうよ」

 

 それぞれ由紀と美紀が遭遇した人物の話を聞いた凪原と胡桃の感想である。

 

「こっちの校舎にはほとんど来ないで寝泊まりも図書館でしているみたいです。一応桐子さん達とも面識はあるみたいでしたけど、穏健派ってわけではないみたいですね」

「本人はそのつもりだろうけど、武闘派はそうは思ってないだろうな。聞いた感じじゃあの連中は効率最優先みたいだし、仲間かそうでないかでしか考えられないだろ」

 

 そんであの手合いは自分達こそが正義でそれ以外は悪と信じて疑わないだろうし、と内心で続ける凪原。彼は昨日の門での出来事と桐子達との会話から武闘派の性質をほぼ完全に見切っていた。

 世の中、善か悪か、敵か味方かなどの二元論でしか考えない人が意外なほど多い。現在が非常時であることも加味すれば、特に効率重視の姿勢がはびこるのは仕方のないことなのかもしれない。

 

 とはいえ―――

 

「まったく、効率重視が何だってんだ「無駄とか余計なことがあるからこそ面白いんだろうが、か?」―――その通り、よく分かったな胡桃」

「ナギならこんな感じのこと考えそうだな―って思っただけだって」

 

 言おうとしたことをそっくりそのまま言われてやや面食らった凪原に、胡桃は照れくさそうに笑いながら答えた。

 

「これぞ以心伝心ってやつだね!あっそう言えば武闘派で思い出したんだけど、戻ってくる途中に武闘派の人達を何人か見かけたんだ。なんかキャンピングカーを見てたみたいだったよ」

「ほーん………、なるほどね………」

 

 珍しく四字熟語を正しく使えたじゃないか、という飲み込んだ言葉の代わりに凪原の口から出てきた声は低く、若干の嗤いが含まれていた。

 

 

 

====================

 

 

 

 深夜、大学敷地内の片隅に停められたキャンピングカーに近づく3つの影があった。

 普段であれば1,2体は必ず視界に映るはぐれゾンビの姿もなく辺りは静まり返っている。

 

「なあ、あいつ等の車を奪うっつてもどうやるんだ?鍵なんか持ってねえぞ」

「んなもんコード直結してやればエンジンがかかるっつの、前に映画で見たから手順は分かってる」

「お前等デカい声出すんじゃねえっ、何のためにこの時間に来てると思ってんだ」

 

 普通の声量で話す2人をもう1人の茶髪の男が叱責するが、その声も大きいためまるで意味がない。コソコソと周囲を窺いながらゆっくり進んでいるが、遮るもののない歩道でそんなことをしても何の迷彩効果もない。ただのコントである。

 せめて道の脇にある植え込みの中に隠れながら進めばいいものを、汚れたくないのか単に思い至らないだけなのかソレをする様子もない。

 

「とにかく、遠征が失敗したのはまともな車がなかったからだ。キャンピングカーさえありゃ奴等なんか怖くないしもっと遠くにも行けるようになる」

「だな、車さえまともなら俺達だって―――」

 

 自分達に都合のいいことを言い合いながらキャンピングカーへと向かっていく3人。街灯の下を通り灯に照らされた3人の手にはそれぞれ槍にバット、バールのようなものが握られていた。

 

「にしても正門に来やがったあの2人、ふざけた真似しやがって」

「まったくだ。せっかくこっちが仲間に入れてやるって言ってんだから大人しくいうこと聞いとけばいいのに。それに穏健派も穏健派だ、あいつ等が余計なことしたせいでこんな手間がかかる」

 

 吐かれた言葉の内容が示しているように、この3人は凪原と胡桃が正門で相対した5人のうち高圧的な態度を取っていた面々である。

 敷地に入るのと引き換えに装備などを根こそぎ奪おうと考えていたのだが、穏健派の手引きで凪原達が裏門から入ってしまったためその目論見はご破算となった。

 よってその埋め合わせとして、闇夜に乗じてキャンピングカーを奪ってしまうことを計画していた。

 

「っと、流石にドアには鍵掛かってるか」

「ならドアのガラスさっさと割っちまえ、後で塞ぐかなんかすれば問題ないだろ」

「はいはい了解っと」

 

 キャンピングカーのもとに到着し、施錠を確認したところで男はなんの躊躇もなくバールを構えた。一瞬の溜めを挟んでその手が振り下ろされようとした瞬間―――

 

 

「いや、そんな簡単に人の車の窓割られたら困るんだけど」

「はだr、ガァッ!!?」

 

 

―――突如として掛けられた声に3人のうちで最も後方にいた茶髪の男が振り返るよりも早く、彼の股間が背後から蹴り上げられた。

 全身から力が抜けて倒れ込む男、握っていた槍が手から音を立てて零れ落ちる。

 何とか首を動かして視線を背後に向ければ、シャベルを肩に担いだ少女が冷たい目をしてこちらを見下ろしていた。

 

「人のもん盗っちゃダメって小学校で習わなかったのかよお前ら」






書いている間に凪原と胡桃のやり取りが伸びてつなぎ回的な感じになってしまいました。どうしてこうなった?………はい、忙しい現実から目背けるように書いているせいですね。
そんな筆者の戯言は置いておいて「今日の雑談コーナー」に行ってみましょう。


麺量1.5倍のカップ麺
超メジャーって程ではないけど知ってる人は知っている。それなりにボリュームもあるのでお世話になることも多い。

大学図書館
基本的によく眠れる場所というのが筆者の認識(偏見)。温度がちょうどよくて程よく静かで場合によってはソファーまであるみたいだしもう実質仮眠場所じゃない?違う?

図書館のヌシ
原作にも出てきたこの人のお話は今回カットです。本作は基本的に凪原の周囲のことを3人称視点で書いていく形なので許してください何でもしますから(何でもするとは言っていない)。もちろん今後のストーリーで登場予定ですのでヌシファンの方もご安心ください。


今回で6章も折り返し、次回からは章の終わりに向けて話が進んでいく予定です。例によりいつ投稿できるかは分かりませんが気長にお待ちいただけると幸いです。

それではまた次回!
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