この日、穏健派の桐子と晶は武闘派からの呼び出しを受けていた。
自堕落同好会の名に恥じず、あるいは
健やかに二度寝をした後に起き出し、さて朝食を兼ねた昼食でもと考えていたところに押しかけてきた武闘派の1人にそのまま連れ去られた形である。「お互いのテリトリーには入らない」という暗黙の了解などお構いなしだった。
そして共有スペースにある会議室に入ってみれば、部屋は糾弾の場となっていた。武闘派の主要メンバーの多くが2人を来るのを待ち受けていたのである。
「そっちに男が1人と女が何人か行っただろ。そいつらの身柄と物資をすべて引き渡してもらう」
開口一番にそう言ってきたのは
革ジャンに革製のグローブ、髪を金色に染め下に着ているTシャツの柄も派手。どう見てもチャラい大学生でしかないが、良く鍛えられた体と傍らに置かれた釘バットが彼が武闘派であることを雄弁に物語っている。革製の衣服も防御性能という点では悪くないのかもしれない。
「ちょっとちょっと、いきなり呼びつけたと思ったら何言いだすの」
「そうだよ、ボク達は起きたばかりなんだからいきなりそんなこと言われても何がなんだか分からないよ。それにそもそも、あの人達の身柄なんて抑えてないし、彼等の物資は彼等のものだよ」
彼女達の主張(というより当たり前の反応)はしかし、武闘派には何の意味も無いようだった。
「お前等が寝起きかどうかはどうでもいい。そもそもこんな状況で日々のんきに過ごしていること自体気に食わないんだ。物資だって限りがあるのにそれを無駄にする神経が分からない」
頬杖を突き人差し指で机を叩いている様子からは機嫌があまり良くないことがうかがえる。
彼と対照的な表情をしているのが
「身柄を抑えているかは確かに分からないけれど全員がそちらにいるのは事実よ、独占するのはずるいんじゃないかしら」
「だから独占も何もアタシ達の仲間ってわけじゃ――」
「それに、これは正当な請求でもあるのよ」
何を言い出すのか、という晶の言葉は彼女の声で遮られた。
「請求?」
「ええ、そうよ」
首を傾げた桐子に自信気に頷き、朱夏は口を開いた。
「あの連中は私達に対して攻撃してきたのよ、それも2回もね」
「「はい?」」
攻撃?凪原達が?、と頭の中に疑問符が飛び交っている状態の桐子と晶に構わず言葉を続ける朱夏。
「1回目は一昨日、門のところに来た彼等は対応していた私達に対して持っていた銃で発砲。幸いそれは外れたけれど、その後に防犯ブザーを投げ込んできて近くにいた奴等を擦り付けてきたわ」
「そして2回目は昨夜ね、校内を巡回していた私たちのうちの3人がいきなり襲われたのよ。全員が負傷して、そのうちの1人に至っては意識を失うレベルだったわ」
一息、
「だからこそ、私達は彼等の行いと受けた損害に対して、賠償を請求する権利があるのよ。幸運にも大きな怪我をした人はいなかったけどそうなってもおかしくなかった、だから理由としては十分でしょう?私、何か変なことを言っているかしら?」
文節ごとに区切ってゆっくりと話す彼女の様子は自信に満ちており、言葉に説得力を与えていた。彼女の弁を前に晶がぐっ、と詰まるがしかし、すぐに桐子が異を唱えた。
「いやいや、門のことはそっちのメンバーが門を叩いて奴等をおびき寄せたのが最初じゃん。そのままだったら門の外にいたあの人達が襲われるところだったんだから、門の中に注意を向けさせたのは問題ないと思うよ。現にそっちに怪我人は出ていなかったじゃないか」
巡ヶ丘高校31期生として凪原を見てきた桐子は彼の人柄をよく知っていた。ゆえにこそただの言葉だけで誤魔化されることはない。
というか、門の一件は彼女自身も双眼鏡で見ていたのだ。落ち着いて考えればすぐに彼女の言が都合のいい部分だけを抜き出したものだと分かる。
「昨夜のことは見てないから断言はできないけど、あの人達はそういうことはしないと思ってるよ。それにやる意味がないからね」
意味があったらやるだろうけど、という言葉は飲み込む。あいつは本当に必要と判断したらやる男だとは思っている。とはいえ、この前話した時にはそのような雰囲気は感じられなかった。思うところは合っても力業で排除しようとまでは考えていないはずである。
第一、朱夏が言ったような闇討ちみたいな真似をしなくても、凪原であれば武闘派を正面から無力化できるだろう。一緒に来た少女達も、凪原がみっちり鍛えていると自慢げに話していた以上、武器を持っただけの武闘派に後れを取ることはなさそうだ。
以上のことから、凪原達に非がないことをほぼ確信して話す桐子だったがその言葉は届かなかった。貴人は淡々と返答を口にした。
「思うというだけでは何の証拠にもならない。それに門の件は偶然槍が当たってしまっただけで奴等をおびき寄せる意図はなかったと聞いている」
「たまたまっ!?あんな何回も叩いてたのに偶然だっていうの?」
「そうだ。不用意に武器を振り回したことについては注意した。もうしないようにさせる、そうだな?」
食って掛かった晶に表情を変えることなく頷き、貴人が視線を向けた先には茶髪の男がいた。
「ああ、誤解を与えちゃまずいから今後は気を付ける。最もこんな状態だから次に槍を持てるのは先になりそうだけどな」
そう話す茶髪の男の腕と頭には包帯が巻かれていた。頭の方は軽くだが腕は三角巾で吊られており、いかにも「私は怪我人です」と主張しているような恰好だ。
あからさますぎて不審に感じた桐子が視線を向け続けていると、それに気づいた男は貴人がこちらを見ていないのを確認してヘラヘラとした笑みを浮かべた。
「っ!」
見た瞬間に彼等が嵌めるつもりであることを悟った彼女だったが、それを証明する手立てがない。こちらが悟ったのを気付いたのか朱夏の笑みがわずかに深まった。
「あなた達がどう思おうが関係ないわ、現にこちらのメンバーは怪我を負っているの。医療が崩壊している今これがどれだけのことか、当然分かるわよね?」
朱夏がそのまま畳みかけてくる。そして言っていること自体は正論であるために桐子達は反論することができない。
「それにこれは決定事項であってお前等に対する通達でしかない。別に身柄を抑えているわけではないというのなら好都合だ。これk――「はいちょっとお邪魔しますよーっと」」
話は終わりだとでも言うかのような貴人の発言を遮るようにして1人の男が室内に入ってくる。
「当人達をほっぽっといて身柄の引き渡しだの物資の無心だの、良い御身分だなおい」
多くの者にとっては聞き慣れず桐子は聞き慣れた、そして茶髪の男にとっては忌まわしさとともに恐怖も感じさせる声で、その男はぐるりと部屋の中を見廻すと皮肉気に口を開いた。
「だ、誰なんだお前は?」
「あれ、ご存じない?キャンピングカーでおなじみ、最近この大学にやって来た者の1人です。どーぞヨロシク」
貴人の誰何に対し大仰な仕草で頭を下げて見せる凪原。字面こそは丁寧だがその口調と雰囲気はふざけているようにしか見えない。仮に桐子等がこのような態度を取ろうものなら、武闘派の面々はいらだちをあらわにして文句を言い始めるだろう。
しかし、武闘派に行動を思いとどまらせるだけのものが凪原にはあった。大柄という程ではないものの良く鍛えられ引き締まった体躯と、笑顔に見えて全く笑っていない目が周囲へプレッシャーを与える。
そして分かりやすい脅威として腰のベルトにはナイフと
武力による規律を主軸とする武闘派にとって、凪原が放つ威圧感は無視できなかった。
とはいえ貴人も半年以上にわたって武闘派を率いてきた維持がある。無意識のうちにのどを鳴らしつつも意を決して口を開き、凪原へと要求を突きつける。
「それなら話が早い。そちらが持っている車と物資、それに情報を全て引き渡せ。お前等がやったことを考えれば当然の対価だ」
「断る。物資だろうが情報だろうが、お前等に渡すものは何もない」
一刀両断、考えるそぶりすら見せない凪原に貴人の表情が引きつる。そして彼が何かを言うより先に今度は朱夏が凪原と相対して声をかける。
「あら、あなた達は自分達がしでかしたことに対する償いもできないのかしら?もう少し理性的な話ができるかと思っていたのだけど」
小馬鹿にしたような口調で言う朱夏だったが、あいにくその程度では凪原の表情を崩すことすらできない。
「償い以前に心当たりがないからな。そっちこそ、いきなり賠償をよこせと騒ぎ立てる前に詳しい理由を述べるくらいの考えは浮かばなかったのか?まぁ見当違いな奴に要求を突きつけるようだし、そこまで期待するのは酷というものか?」
「………言ってくれるじゃないの」
返された言葉にこめかみをひくつかせる朱夏。煽りへの耐性はあまり高くないようである。
「いいわ、あなた達の罪について細かく説明してあげるからよく聞きなさい」
「いや別にいい、さっき扉の向こうから聞いてたからな。意気揚々と話してくれてたから部屋の外でもよく聞こえたよ」
「ふざけているのかしら?」
「むしろそれ以外のなんだと思ってんだよ?おっ緑茶じゃん、いただきます」
声を震わせる朱夏を鼻で笑うように続けた凪原は、近くにいた女子が持つお盆の上に用意されたお茶を勝手に飲み始める。まさに傍若無人というにふさわしいふるまいである。
「いいかげんに真面目にしろ、こちらと話す気があるのか?」
「ふー、ごちそうさん、と。話す気があるのかってそれは俺が言いたいことだ。こっちの話すら聞かずに物資と車の没収が決定事項とか―――ふざけてんのかテメェらは?」
怒気を交えた貴人の言葉にそれまでの軽い態度を引っ込め、凪原もまた全身から怒気を放出する。一変させた雰囲気と一段階低くした声で室内の主導権を完全に握ったところでようやく凪原は貴人へと向き直った。
「さて、グダグダ言ってもしょうがないから手っ取り早くいこう。まずはコイツを見てもらう」
そう言って凪原が腰のポーチから取り出したのはスマートフォンである。インターネットや電話が麻痺しているためその主たる機能は使えないが、この小さな端末には様々な機能が搭載されている。
たとえば、動画データの再生などだ。
「これは?」
「お前がお仲間から報告を受けたであろう問題の2件の撮影データだよ。最初は勝手に撮影するのもどうかと思ってたけど、結果的に見りゃ大正解だ」
凪原の言葉に茶髪の男と朱夏の顔色がサッと変わった。特に茶髪男の反応は顕著であり、青ざめた表情になるとともに足も力が込められたように小さく震える。
しかし、「ちなみにデータはバックアップがあるから必要ならまた用意する」という発言を受けそれらの動きはピタリと止まる。
朱夏も奥歯を噛み締めるがそれ以上の反応は示さなかった。
「それじゃVTR、スタート」
横やりの心配がなくなったところで動画が再生され始めた。
====================
「どういうことだ?聞いていた話と全く違うぞ」
「どうもなにも、見ての通りだよ。門を槍で叩いたのは偶然じゃなくて故意に奴等をおびき寄せようとしたためで、夜の一件は巡回中じゃなくて車を奪いに来て返り討ちに合った結果だな」
再生が終わり、震える声で疑問を呈す貴人に凪原は端的に答える。
ビデオは映像こそ鮮明ではないが個人の特定は十分に可能で音声も鮮明に記録されており、事態の一部始終が誰が見ても分かるようになっていた。
「い、インチキだ!こんなのは捏造した映像に決まってるっ」
「そんじゃもう一つの証拠といくか」
「なっ!?おいっ離せ」
茶髪男が何やらわめき始めるが背後に回った凪原に一瞬で取り押さえられる。片腕を極められた男は、なぜか包帯で吊っていたはずの腕を振り回してもがいていた。
「はい、今本人が動かして見せたようにこいつは別に腕を怪我してなんていない。頭の方も……なんだこりゃただの擦り傷じゃねえか。薄皮の1枚2枚でバカみたいに大げさにしやがって」
「あ」
しまったという顔で固まる男から頭の包帯を取ってみれば、その下には全長わずか1センチほどの擦り傷があるだけだった。おおかた胡桃に蹴られて倒れ込んだ時に擦ったのだろうが、既に治りかけてる。
どう考えても包帯を巻くようなレベルの怪我ではなかった。
「お前っ、頭は数センチ裂けてるし腕もほとんど動かないと言ってただろ!どういうことだっ」
「いや、その――」
怒声を上げる貴人に対して言葉を詰まらせる茶髪、その視線が一瞬朱夏へと向けられたのを凪原は見逃さなかった。しかしあえてそれを指摘することはせず、手を叩いて注意を集めると口を開いた。
「当時の状況は分かっただろうし、仲間内での話し合いは後でやってくれ。その上でこちらから伝えたいことは一つ、最低限の礼儀は弁えろ。誰彼構わず高圧的に接してるようじゃ近いうちにしっぺ返しが来るぞ。というより―――」
凪原はそこでいったん言葉を区切ると、一瞬だけ全力の殺気を解放した。
「―――次に同じような真似をしてきたら、俺が直接叩き潰す」
言いたいことを伝え、返事も聞かずに部屋を後にする凪原。
「あっ、えーっと…それじゃあ、アタシらも戻ろうか?」
「そうだね。今回のことはちょっとびっくりしたけど、彼等との間のことみたいだしボクらは関係ないみたいだからこの辺で御暇するよ」
おずおずと晶が声を上げたのに合わせて桐子も席を立った。
まるで何事もなかったかのように武闘派に挨拶をしてスタスタと扉へと向かう桐子。扉まであと数歩となったとところで振り返えった。
「何かあったら連絡するよ、それじゃあお疲れ様。いこ、アキ」
「う、うん」
それだけ言うと微妙に戸惑った様子の晶に声をかけ、穏健派の2人も部屋を出ていった。
====================
部屋から出ても桐子と晶はそのまま言葉を交わすことなく廊下を歩く。角を曲がり、穏健派のエリアに入ったところで凪原が2人のことを待っていた。
「おう、お疲れ」
「ほんとだよ、会長の威圧モードはマジで怖いんだからね。おまけに最後こっちに投げてきて、いきなり対応させられる身になってほしいもんだよ」
「その感じだとこっちのフリは伝わったみたいだな」
「まあね~」
「え、ちょっと2人ともなんでそんな普通なの?というかフリってなに?」
のんびりと、ごくごく自然に話し始めた2人に驚いたのは晶である。さきほど凪原が発した雰囲気は尋常ではなく、とてもではないが普通の人間に放てるものではなかった。
直接向けられたわけでない晶でさえ、背中からは冷汗が噴き出し足が震えてすぐには立ち上がれなかったほどである。武闘派が感じたであろう重圧など想像もしたくない。
ところが同じ空気に晒されたはずの桐子は全く動じた様子がなかった。挨拶をして部屋を後にする際も、以前呼び出しを受けた時と変わるところはなく落ち着き払っていた。
なぜ平気だったのか、自分達のエリアに戻ったら聞いてみようと思っていたところに凪原とのこのやり取りである。混乱するのは当然といえた。
「んー?ああ、アキはさっきの状態の会長を見るの初めてだっけ。どう、怖かったでしょ?」
「全力で威圧する時用のもんだからなぁ、あれ。久しぶりにやったけど鈍ってないみたいでよかったよ。桐子にはあんま効かなかったみたいだけどな」
「ボクは直接喰らったことがあるからね、余波ぐらいなら軽いもんさ」
「直に喰らうことになった原因はお前にあることを忘れんじゃなねえぞ」
「ナハハハ~ 反省してます」
「ったく…」と半目になる凪原と誤魔化すように笑う桐子に、晶の頭の中では疑問符が飛び交う。
凪原はそれを察し、今度は軽く手を叩くと穏やかに口を開いた。
「ま、色々気になってるだろうけどとりあえず飯にしようぜ。起きてすぐに来たから腹減ってるんだ」
あんまり砲艦してない気がする。気になったら後日書き直すかもしれません。
原作に合った武闘派と穏健派の話し合い(?)に凪原を放り込んでみました。理不尽な暴力にはそれを上回る暴力と正論で対抗すべし、ってそれ一番言われてるから。
とはいえ凪原もわざわざ武闘派にお説教をしたりはしません。自分がそこまで高尚な人間だと思ってる訳ではないし、そもそも仲間でない(というよりどちらかと言えば敵な)武闘派に時間をかけるのもめんどくさいし、って感じです。
そいじゃ本日のオマケ
武闘派のメンバー
本性前半でも書きましたが原作よりも3~4人程増えてますが重要な役どころではありません。凪原と強化された学園生活部を相手にした場合、原作のままでは軽く捻られる未来しか見えなかったので微強化しました。ただしその中身は原作以上に一枚岩ではない模様。
ボディカメラ
最近ようつべのディスカバリーチャンネルの、ボディカムシリーズが筆者のお気に入り。作品内の理由は、後で拠点に残っているメンバーとの情報共有などに使うためです。これまでの遠征時なども重要地点(ホームセンターやスーパーなど)の様子を記録するために使っていました。
凪原の殺気に耐えられる桐子
精神攻撃に対する耐性がかなり高かったりする。理由は文中に書いたように直で喰らったことがあるから。
以上、来週も更新できるように頑張ります。
それではまた次回!